後方師匠面したい系転生者   作:TATAL

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里帰りにしては人数が多い

「もうすぐ師匠の故郷」

 

「師匠の師匠、楽しみ」

 

 そう言って俺を真ん中に挟み、無表情のまま鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気を醸し出している黒白コンビ、アルシェとノルン。パーソナルスペースという概念を忘れた二人が俺に密着しているため、逃げるどころか身動きすら出来ない状態です。ここから入れる保険ってまだありますか? 

 

「歩きにくくない……?」

 

 俺の方を振り返って苦笑いするのはフィリさん。そう思うなら助けてくれません? 俺が歩きにくいから離れろって言ったら二人の視線が絶対零度もびっくりな冷えっぷりだったからもう二度と迂闊なこと言えないんです。次同じことを言おうものなら俺の首が可動域を越えた動きを見せてしまうかもしれない。視線だけでフィリに助けを求めてみたが、フィリは肩を竦めたかと思うと前を向き直り、懐から取り出した本に何やら書き込んでいる。やだ、また俺の醜態が記録されてるぅ! 

 俺はせめてもの抵抗と二人の頭に手を置いてやんわり距離を離そうとするが、二人はかえって俺の方に更に身を寄せてくる。

 

「むふー」

 

「これが勝者の特権」

 

 むふー、じゃないよアルシェ。俺は別に頭を撫でてるつもりはなくてちょっと離れて欲しいのぉ! 美女二人に引っ付かれて何が不満なんだって? その美女が自分よりも遥かに強いことが分かっていて、機嫌を損ねた瞬間に首と身体がグッバイしてしまう状況で興奮出来る図太い神経は生憎と持ち合わせていないんでね。

 本来はフィリだけを連れているはずだったのに何がどうなってアルシェとノルンも同行することになったのか。そこには語る……までもない事情が存在している。

 

 俺の怪我もすっかり完治し、一人でこっそり旅に出ようとしていたフィリの引き留めも成功した後のこと。俺は良い感じに師匠面ムーブも出来たことだし、弟子達からさっさと離れて平穏な旅暮らしに戻ろうと思っていた。

 

「あなたの師匠に会ってみたいわ」

 

 そんなときにフィリからそう言われ、確かにそろそろ一度里帰りでもしてみるかと思い立つ。もう結構な歳だろうが、あのジジイがボケているのは想像出来ないので多分まだまだ元気に猟師やってると思う。ジジイから教わった剣を雑に伝授した孫弟子が増えてますよって言いに行こう。そう思い立ったところまでは良かった。だが何故か毎日のように部屋に押しかけて来る弟子達が、俺のなんでもない呟きを耳にしたのか、急に静かになったかと思うと俺の方をガン見していたので変な声が出そうになった。

 

「師匠の師匠……」

 

「それは確かに」

「気になる」

 

 俺に突き刺さるソーンとアルシェ、ノルンのジトっとした視線。

 

「クローネ翁と同期の冒険者だったとか」

 

「あの御仁と同期、確かに一度お会いしたいものですね」

 

 田舎のジジイに何を期待しているのかワクワクしていそうなノックスとローエン。

 

「師匠の育ての親とも言うべきお方、つまりはご挨拶ですね!」

 

「盛るな、シャーレイ」

 

「どうして私には厳しいんですかアルシェ!?」

 

「オヤジの師匠ってんなら、ちゃんと筋を通さねえとな」

 

 相変わらずキャットファイトしているシャーレイとアルシェを綺麗にスルーしてヤクザみたいなこと言ってるロクシス。

 

「私も是非お会いしたいですね。私の剣を見て頂きたい」

 

「なんなら城に招待しても良いな。立会人としてでも」

 

 何故かキラキラし始めるライネルと物騒なことを言い始めるユーリ。立会人ってなによ、決闘か何か? もうソーンに負けたんだから許してください。ライネルと決闘でもさせられようものなら、あの勇者っぽい光で俺が蒸発する未来が見える。

 

「ふが……ついてく……」

 

 そして何故か俺のベッドに潜り込んで半分寝惚けながら呟いているコルン。どうしてオッサンのベッドに潜り込むのよ。そこは君の寝床じゃないでしょ? 

 というか皆して当たり前のようについて行きますよみたいな空気出してるけど連れて行きませんよ? 

 そう言った瞬間、全員の視線の温度が下がった。なんなら寝惚けまなこだったコルンまでびっくりするぐらい鋭い目で俺を睨んでる。さっきまでふがふが言ってたじゃない君。

 

「連れて行かない?」

 

 そう言いながらずいっと俺ににじり寄ってくるノルン。近い……鼻先がくっ付きそうなんですけど。…………どうしたものか、フィリとのんびり二人旅のつもりだったのだが、それだと里帰りする前に今度こそ俺の命が危ないかもしれない。どうにか言い訳を、とジジイの家に急に大人数押し掛けても良くないと理由をこじつける。

 

「なるほどなぁ……」

 

「つまりは人数が少なければ良い、と」

 

「そういうことであれば、やることは決まりましたね……」

 

 俺の言葉を聞いたソーンとノックス、ローエンがゆらり、と立ち上がる。それに少し遅れて他の弟子達も立ち上がり、背後に怪しげなオーラが幻視する。おや、まーた風向きが怪しくなってきたぞ? 

 そして背中にじっとりと嫌な汗をかいている俺を放置して弟子達がゾロゾロと部屋を出て行く。残されたのは俺とフィリの二人だけ。

 

「……あんなこと言ったら荒れるわよ?」

 

 そして何故かフィリの呆れるような視線が俺を貫く。あんなことってどんなことですか!? 思い当たる節が無いんですけどぉ!? 

 弟子達が急に物騒なオーラを放ち始めたきっかけという謂れのない罪を着せられた俺だったが、そのままフィリと雑談交じりに旅支度についての話をしていれば、部屋の外からは工事現場か何かと錯覚してしまいそうな轟音が時折響いてくる。……部屋の外でどんなサバトが行われているのか怖くて扉を開ける勇気は無い。

 しばらく断続的に響いていたその轟音が止むと、俺の部屋に近づいてくる弱々しい足音。どうやらバーバリアン達の闘技大会は無事に終了したらしい。部屋が崩壊しなくて良かった。

 

「しょう、り……」

「私達、は、二人で一つ……」

 

 扉を開けて部屋に入ってきたのは、見るも無残にボロボロになったアルシェとノルンだった。二人ともズタボロになっているものの、やり遂げたと言わんばかりに晴れ晴れとした表情でソファーに座っている俺の両隣に腰掛けると、そのまま身体を倒して俺の膝を占領する。

 

「今回は私達がついて行く」

「二人なら大丈夫」

 

 ボロボロのドヤ顔で俺にそう言い放つ二人。そこまでしてジジイに会いたいのか、弟子達は。いったいいつからあの田舎のジジイにそこまでのプレミア価値が付加されたのだろうか。渋いジジイがモテる時代でも来たのだろうか。とはいえ、こんな状態になった二人をやっぱり連れて行かないと言う選択肢はもはや俺には無い。だって今は二人の頭が俺の膝に乗っている体勢。機嫌を損ねでもしたら、下手すると俺の腹に再び穴が開きかねない。流石に三度目は俺の腹も持たないと思う。頼むから早まるなよ、と思いながら二人の頭に手を乗せれば、二人は気持ちよさそうに目を細めた。

 

「けど次はロクシスの番になった」

「ロクシスの次はノックスとローエン」

 

 おや、何故か俺の旅の予定が勝手に決められていません? というかなんで弟子達がついて来ること前提で俺の旅程が組まれてるんですか? 

 

 そうして俺はフィリとアルシェ、ノルンを連れて里帰りと相成ったわけである。ノックス印の魔剣はやむを得ない事情によりソーンに上げることになってしまったため、王都でシャーレイとノックスのコネを利用して新しい剣を用意してもらう情けなさを披露したものの、道中は何の波乱も無かった。強いて言えば、アルシェとノルンを置いて出た町に寄った折、まだ現役だったギルド長のおじさんのところに顔を出しに行ったとき、何故かどんちゃん騒ぎで朝まで飲み明かすことになったことくらい。

 

「この跳ねっ返りどもめ! 元気に帰って来やがって!」

 

 最後に会った時からやや白髪が増え、腹が出たおじさんが、酒を飲んで真っ赤な顔で双子の頭をぐしゃぐしゃと撫でていた。おいバカ止めろ、何かしらのハラスメントに抵触して物理的に手を斬り飛ばされるぞ! と言いそうになったが、双子は怒る様子も無く大人しい。

 

「ただいま、ギルド長」

「太ったみたい。平和ボケしてる?」

 

「相変わらず生意気言いやがって! ……ようやく捕まえたんだな、もう離すなよ」

 

 酔いが回っているのか、涙声になっているギルド長のおじさん。捕まえたって俺のこと? どうして逃がすな、なんて念押しするんですか。そんなに俺が昔冒険者にならずにせこせこと雑魚狩りしてたのを根に持ってたんです? 

 

「もちろん」

「言われるまでも無い」

 

 そしておじさんの言うことに力強く頷く双子。そうですよね、他の弟子達を薙ぎ払ってまで俺の里帰りに同行するほどだもんね……。どうしよう、俺ののんびり旅暮らし計画が音を立てて崩壊していく……。

 そんな一幕もありながら、俺はようやく生まれ故郷の村にまで辿り着いていた。最後はちょうど良く村に向かっていた行商人のおっさんに同乗させてもらえたので楽ちんだった。俺の顔を見て目が飛び出るんじゃないかと思うくらいに驚いていた様子だが、はて、どこかで会ったっけ……? 

 

「ここが師匠の生まれた村……」

「私達の村と似てる」

 

「本当に山奥ね。島にいた頃はこんな山に登ることも無かったから新鮮だわ」

 

 ともあれ、生まれ故郷である。双子もフィリも、興味深そうにキョロキョロと村を見回しているが、それ以上に俺達の方が村の人間の注目を集めている。いや、正しくは双子とフィリなんだけど。確かにど田舎の村に急にレベルが桁違いの美人が三人も現れたのだ、注目されない訳が無い。ぼんやりと俺も村人達を見つめ返していると、その中に俺の兄貴達や親父がいるのが目に入った。とはいえ、向こうは俺のことに気付いていない様子。まあガキの頃に家出同然に出て行った放蕩息子なので然もあらん。俺はさっさとジジイの山小屋に向かうと三人に伝えて山道へと入って行く。

 

「師匠の家族に会わなくても良いの?」

「せっかく帰って来たのに」

 

 双子が俺を見上げてそう問いかけるが、俺としては家族に会うつもりは無かった。だって田舎の農村だよ? 絶対に「良い歳してまだ結婚してないのか」とか言われるじゃん。チラっと見えたけど双子とフィリに見惚れてた兄貴達の耳を引っ張る女の人がいたし、兄貴達は結婚しているかはともかく、そういった相手がいるのは確かな模様。そんなところに独身の弟が帰ってみろ、集中砲火を受けること確定である。家族には後で一言挨拶でもすることにして、さっさとジジイの山小屋に避難するのが吉だ。だってあのジジイも独身だし……。

 そう言って山道を登っていくことしばらく、何やら見覚えのある仕掛けが道にチラホラと見え始める。村人が滅多に来ない道だからジジイ謹製の罠だらけである。それを三人に解説しながら歩いて行くと、懐かしい山小屋が目に入る。煙突から煙が出ているのでどうやらジジイは小屋に居るらしい。そう思って近づいて行くと、ちょうど良いタイミングで扉が開く。

 

「珍しい来客だ、な……!?」

 

 俺の姿が目に入った途端、目をカッと見開いて絶句するジジイ。久しぶりだなジジイ、流石に老けたな。

 

「おいおい、俺は夢でも見てんのか……」

 

 ジジイは額に手を当てながらヨロヨロと俺の方へと近づくと、両手で俺の肩をガシッと掴む。力強え!? 老けたくせに相変わらず元気そうだなクソジジイ! よくも夢でボコってくれたなオイ! 

 

「はっ……、ははっ! まさかお前の顔を夢以外で見るたぁ、思っちゃいなかった……。よく……、よく帰って来やがったな、クソガキ」

 

 ジジイはそう言うとジジイらしからぬ力強さで俺を抱きしめる。ジジイとオッサンの抱擁シーンなんて誰得だよぉ! 

 

 急に四人で押し掛けたところ、ジジイは快く俺達を山小屋に招き入れてくれた。ウーム、俺もまだガキの頃だったからかもしれないが、記憶よりも随分と狭く感じる。

 

「図体ばっかりデカくなりやがって……。昔はボロボロ泣いてやがったガキが」

 

 俺の文句を聞いたジジイがそう言ってニヤニヤと笑う。このジジイ……! ガキの頃の痴態を晒すなんて非道な真似を! 

 

「彼の子どもの頃の話、ぜひ聞かせてもらいたいわ!」

 

 フィリは何故か目をキラキラと輝かせて本を取り出している。俺の恥ずかしい過去を記録しようとするのは止めろぉ! 俺が止めようとするのも聞かず、双子とフィリはジジイに次の話をとせがむ。やだ、もう聞いてられないわ! 俺は今日の晩飯に鹿か猪でも狩ってくるもんね! 

 

 晩飯を狩って戻ってきたら、何故かフィリ達に生暖かい目で見られた上にジジイが俺をニヤニヤ笑いながら見てきた。俺がいない間にどんな話をしてたんだよお前らぁ! というか何ニヤニヤしながら土産の催促してんだよジジイ! いや確かに土産のお酒くらいは持ってきてるけどさ!

 

 


 

 

 山小屋の外で足音が聞こえた。道中の鳴子が何も反応しなかったから村人じゃねえ。罠のことを知っている行商人か。確かにそろそろ来る時期だったはずだが、わざわざ俺のいる小屋にまで来るのは珍しい。あのガキ、弟子の噂でもまた仕入れてきたんだろうか。前は何だったか、王都の有名な騎士に剣を教えている冒険者がいるとかいう噂だ。騎士が冒険者に剣を教えるならまだしも、逆なんてまずあり得ない話。そんな滅茶苦茶なことをするとしたら、あのガキなんだろうと思った。

 行商人からガキのものだろう噂を聞くたびに、俺の脳裏にはアイツに剣を教えた日々が蘇る。山を歩き、炭を焼く。同じことを繰り返すだけのこの村での毎日で、いっとう輝いている俺の記憶。

 

 そういえば、少し前に夢を見た。朧げにしか覚えちゃいないが、成長したあのガキと打ち合いをする夢。まだ小さかったガキに負けた俺が、成長したアイツに勝てるはずが無いってのに、夢の中の俺は妙に身体が軽くて、昔に戻ったみたいにアイツとの打ち合いを楽しんだ覚えがある。

 

「珍しい来客だ、な……!?」

 

 そんな記憶を振り返りながら、扉を開けた先にいたのは目が覚めるような美人を三人も従えた黒髪黒目の男。ガキを送り出したのだってもう随分と昔の話だ。アイツがどんな男に成長したかなんて想像すら付かねえ。普通なら、そんなに長い間見ていなかった奴をそいつだと確信することなんて無理だろう。だが、俺には分かった。見間違えるものか、アイツの目を。忘れるものか、肌が粟立つようなあの剣気を。

 

「久しぶりだな、流石に老けたか……」

 

「おいおい、俺は夢でも見てんのか……」

 

 まだ頭はおしゃかになってないつもりだが、もう夢と現実の区別も付かないくらいにボケちまったのかと思いながら目の前の男に近づき、その肩を掴む。確かに触れることが出来る。どこを触っても、夢とは思えないしっかりとした感覚が、これは現実だと俺に教えてくれた。

 

「……まだ杖は要らなさそうだな、クソジジイ」

 

「はっ……、ははっ! まさかお前の顔を夢以外で見るたぁ、思っちゃいなかった……。よく……、よく帰って来やがったな、クソガキ」

 

 俺をジジイと呼ぶその声。記憶にあるものよりも低いが、間違えるはずが無い。すっかり俺よりも背が高くなっちまったガキを、俺は力の限り抱き締めていた。

 

「随分と狭くなったな」

 

 ガキが連れて来た三人の美人を含め、俺の山小屋が急に大所帯になった。ガキは懐かしそうに小屋の中を見回すとそう言って微かに笑みを浮かべてやがる。何が狭くなっただ、お前がデカくなったんだ。しばらく見ない間にすっかり男になりやがって。

 

「図体ばっかりデカくなりやがって……。昔はボロボロ泣いてやがったガキが」

 

 だから俺はそう言ってやった。ガキが泣いていたのは魔物に追われて帰って来たあの日の一回こっきり。それにその時は俺も泣いていた。だが、俺が流した涙をガキは知らないだろう。案の定、ガキは焦ったような表情で俺を睨みつけてきやがる。はっ、流石に女の前でそんな話はされたくなかったか? 

 

「彼の子どもの頃の話、ぜひ聞かせてもらいたいわ!」

 

 そう思っていると、ガキについて来た白髪赤目の美人が予想以上に食いついてきた。その手には俺の話を書き留めようとしているのか、本が抱えられている。

 

「……飯を獲ってくる。せめて俺のいない所でしてくれ」

 

 ガキはと言うと、晩飯の食材を獲ってくるという口実で逃げるように小屋を出て行く。

 

「師匠の師匠、続きを」

「気になる、今日は一晩中だって聞かせてもらう」

 

 残された俺に、目を爛々と輝かせた三人の美人が詰め寄ってきた。

 

 アルシェ、ノルン、フィリオリーネと名乗った三人は、あのガキが旅の道中で拾い上げた弟子らしい。

 

「私とノルンは師匠に命を救われた」

「そして生きる道を授けてもらった」

 

 アルシェとノルンから聞いた話は、俺が行商人から聞いた噂話のままだった。魔物に襲われた村の生き残り。それを拾い、育てている妙な剣士がいる。冒険者でもないのに野獣や魔物を討伐し、傍目には拷問と見紛うような鍛錬を課す剣の鬼。なるほど、アイツはかつて俺に言ってのけたあの大言を確かに成していた。皆を導ける男。聞けば、双子以外にも全部で九人の弟子がいるとか。

 

「爺ちゃんも私達の恩人」

 

「俺が? 俺は何もしちゃいねえが……」

 

「ううん。爺ちゃんが師匠を育ててくれたから、私達は今ここにいる。だから、恩人」

 

 アルシェとノルンにそう言われ、それもそうなのか? と首を捻る。俺があのガキに伝えられたもんなんざ、砂粒ほどでしかないだろうに。

 俺の持つ全てを与えたつもりだが、アイツが成し遂げたことを考えればそれがどれほどのものか。それでも、アイツの剣の底流にはクローネと俺が確かに息づいているのかと思うと、口元が僅かに緩んだ。

 

「師匠には私たち二人がかりでも勝てたことが無い。師匠の師匠なら勝てる?」

 

「まさか。まだ旅に出る前のガキだったアイツに負けたんだ。俺なんざもう死ぬだけの老いぼれだ」

 

 首を傾げて聞いてくる双子に、俺は自嘲するように笑って返す。俺は剣狂いだったクローネよりも弱い。そのクローネが強いと認めた男に、俺のような冒険者崩れの猟師が勝てる道理など無い。

 それから、あのガキが帰ってくるまではまだアイツがこの村にいた頃の話をせがまれ、促されるままに話すことになった。我ながら随分と恥ずかしいことを語った気もするが、三人とも興味津々に話を聞いてくれるものだからつい口が軽くなる。

 

「なるほど、二人は親子みたいなもの」

 

「やっぱり爺ちゃんは私達のお爺ちゃんとも言える」

 

 一通り俺の話を聞いたアルシェとノルンは訳知り顔でうんうんと頷いていた。確かに自分のガキのように思っちゃいるが、それを改めて他人から指摘されるとどうにも気恥ずかしい。それにこれは俺が勝手にそう思っているだけのことだ。

 

「それは違うと思うわ。彼もあなたのことを親のように思っているもの」

 

 俺の言葉に、フィリオリーネという長耳の娘が柔らかな笑みを浮かべながら首を横に振る。それを聞いて俺の方もまさかと笑って首を横に振った。

 

「本当よ。だってここに来る途中でアルシェ達が彼に家族に会わないで良いのかって聞いたときに言っていたもの。だから今こうして向かっているんだって」

 

「あのガキが、そんなことをねぇ……」

 

 だから、ときたか。口元に手をやって髭の生えた頬をさする。ガキの頃は表情に乏しく、何を考えているのかいまいち分からないガキだった。村を出るときも、俺が渡した装備を身に付けてたった一言「行ってくる」だけで出て行く可愛げの無さだ。それが何を殊勝なことを……。

 

「お爺ちゃん、嬉しそうね」

 

「ったく、こんなジジイを喜ばせたところで何の得も無いだろうが」

 

 フィリオリーネの言葉にそう返すと頭をガシガシと掻く。その様子が師匠とそっくりだと、双子が言うものだから返す言葉に困って俺は口を閉じるしかなかった。その時、小屋の扉が開いて冷たい空気が部屋に吹き込んでくる。

 

「まだ話してるのか」

 

 呆れたような声に振り向けば、見事に今日の獲物を仕留めたガキが帰ってきていた。フィリオリーネと双子がガキを見て微笑み、俺は自分でもどんな顔をしているのか分からないままにガキを出迎える。

 

「何をニヤニヤしてるんだクソジジイ。俺がいない間に何を話してた」

 

 どうやら俺は笑っちまってるらしい。だが仕方ないだろう。冥土の土産には贅沢が過ぎる弟子ができた。あまつさえその弟子は俺の予想をはるかに超えた偉業を成し遂げ、再び俺の前に現れたのだ。もはやいつ死んじまってもおかしくないようなジジイに、まだ死ぬのは勿体ないと思わせるようなことが起きてしまった。

 

「気にすんな。つまらん話だよ、バカ弟子。そういや、王都から来たんだってな。土産に上等な酒でも持ってきてるんだろうな?」

 

「しばらく見ない間にワガママになったみたいだな、クソ師匠」

 

 ずいぶん昔にすっかり耳に馴染んでしまった憎まれ口を叩きながら、それでもガキは荷物の中から一本の瓶を取り出す。どうやら今日は人生で一番旨い酒が飲める日になるらしい。

 

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