ダンジョンにすっごい研究者が現れた   作:緑黄色野菜

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異端児

 その日、オラリオ全体に激震が走った。

 本当に唐突に、何の予兆もなく、町中にモンスターが現れたのだ。それもただのモンスターではない。理性を持ち、会話すら可能なモンスターの群れ。しかも、あろうことか、彼らはファミリアに所属し、神の恩恵(ファルナ)まで授かっていたのだ。

 そう、彼らは人間だったのだ。つい前日までは。親しい隣人がいきなりモンスターに姿を変えた。

 オラリオは混沌に包まれた。しかし、何が一番問題かと言えば、それでどうすることもできないという点だった。ギルドすら黙して語らない。

 この未曾有の異常事態がなぜ起きたのか。話は数ヶ月前まで遡る。

 

 

 

 そこをオラリオの頂点というには、語弊があるかもしれない。しかし、オラリオの中心と言って否定する者もいない。ギルド地下に存在する、主神ウラノスの祈祷室とはそんな部屋だった。

 部屋は広い……のだと思う。うまく推測できないのは、明かりが少ないせいだろう、とトッドは思っていた。

 中心と思わしき場所に、巨躯を持つ老人が厳かに座っている。明かりもその近くに一つ、ぽつんとあるだけだった。他に光源はなかった。明かりは小さく、壁面まで届いていない。中央、つまりウラノスの近く以外は、完全に闇だった。その光景が、余計この場を神秘的に感じさせる。

 

(狙ってるのかね)

 

 部屋と言うには、あまりにも使い勝手が悪いそこを見ながら、トッドはつぶやいた。

 狙ってこの部屋をミステリアスにしているのならば、まあ、思惑は成功だろう。他の神々があまりにも俗物的というのもあるが、その中で彼はいかにも神らしい存在だとは感じさせた。もっとも、彼はこの部屋で延々祈祷を続け、モンスターの進行を食い止めているらしい。そのためにこの間取りと光加減が必要なのだと言われてしまえば、まあそれも否定できるものではなかった。

 ウラノスが君臨する部屋。それこそ神々とておいそれとは入れないと聞く。実態は、まあ、わざわざこんな辛気くさい部屋まで来て話す内容などほとんどないからだろうな、とトッドは勝手に思っていた。

 それに。

 何を言ったところで、否定まではしないのだろう。そう思わせる何かが、ウラノスにはあった。

 

「それで」

 

 トッドは言いながら、つま先で地面を確かめた。明かりがそこまで届かないせいか、どうにも足下が不安になる。

 

「わざわざ呼び出して何の用です? 別に呼び出されるような事は……まあ、全く思い当たらないとまでは言いませんけどね」

 

 頭をよぎったのは、つい先日の事だ。

 アルテミスを助けるために、大分無茶をした。それこそ神の力(アルカナム)の領域にまで手を出しているのだ。それが禁忌だという話はない。単純に、今までそこまでできる者がいなかったから。だから、それに文句をつけるのであれば、あえて否定もできない事であった。

 とはいえ、一応この件に関しては決着がついている。宝剣(シザウロス)“夢幻”を、ギルドもといウラノスに提出しているのだ。その上でまた何か言われるのは納得がいかないというのも確かだった。

 

「相談がある」

「相談?」

 

 が、ウラノスが発した言葉は、トッドの予想外のものだった。

 言われて、小首をかしげる。

 研究系ファミリアという奇異な立場だからか、ギルドとははっきり言って接点が少ない。神域金属(アダマント)を作って初めて関わりがあったと言ってもいいくらいだ。ましてやその頂点であるウラノスである。まさか相談などされるとは思っていなかった。

 

「研究者としての腕を見込んでの話だ。先に行っておくが、ここでの話は他言無用」

「はあ……まあ口は堅い方だと思いますが」

 

 口から出てきたのは、なんだかなーとぼんやりした返事だった。今までひとかけらも関わりがなかった相手からいきなり相談などされても困るというのが本音だった。

 

「フェルズ」

 

 ウラノスが言うと、闇の中から、そっと人影が現れた。

 トッドはわずかに警戒して、腰を落とした。

 この暗闇の中、隠れる場所には事欠かない。が、何も考えずただ突っ立っていて、気配も感じないほどではない。

 

(頻繁に出入りしてるなら……来訪者に悟られず隠れることはできるだろうな。つまり、返事によっては出てこなかった訳だ)

 

 信頼していいものか、考える。それはウラノスも、フェルズと呼ばれた人物もだ。

 

「初めまして。自己紹介は必要ないかな?」

「どちらでも」

「では一応しておこう。私はフェルズという」

 

 暗闇の中に三人。うち二人は結託している。警戒しないわけにはいかなかった。

 トッドはフェルズを注視してみた。黒いローブを羽織っており、暗闇の中では顔も見えない。いや、見せないのか。そのため男か女かも分からない。声からすら、おおまかに性別を当てはめるのが難しかった。

 彼は何者だろうか。このタイミングで出てくるのだから、ウラノスの懐刀である事は間違いないだろうが。だたの冒険者と考えるには、楽観的に過ぎる。なんとなしに、トッドは自分と互角以上と彼を設定した。つまりは、Lv.4以上という形で。

 神に謁見するのに、武器を携帯しているわけもない。今の状態じゃ相手は難しいだろうな、と大雑把に計算しながら、背後の出入り口があるだろう方向を意識した。

 

「モンスターについて、どう思う?」

「どう、とは?」

 

 どうやら話はウラノスが進めるらしい。フェルズは彼の隣で、相変わらず顔を見せない角度でたたずんでいる。

 

「言葉の通り、モンスターについてだ。嫌悪、忌避感、関心、なんでもいい」

「個人的には、モンスターとひとくくりになっている状況が興味深いと思ってますね」

 

 ほう……とウラノスがつぶやいた。

 

「生態、形状、種族……何もかも違うのに、魔石と、そして既存の生物に襲いかかるという共通点をもっている。かと思えば、モンスター同士で種族を超えた同族意識があるわけでもない。まあ、気にはなりますよ」

 

 研究するほどではありませんが、と最後に付け加える。

 

「では、モンスターが人のような意思を持ち、人と話したら?」

「可能性がないわけではないでしょうね。個人的には、モンスターそのものの誕生に比べればあり得る事だと思います。いえ、これだと語弊がありますかね。モンスター誕生の謎に比べれば、些細な問題だと考えます」

「なるほど、人のようなモンスターに嫌悪はないと」

「そうですね」

 

 軽く同意して、言葉を追求はしなかった。

 おそらくはそここそが、今回呼ばれた件での要点なのだろう。

 

(しかし、モンスターねえ……)

 

 表に出さずに、内心だけでつぶやく。

 モンスター。今まで特に深く考えはしなかった。それは、オラリオの外の世界であっても、すでに普通にそこにいる生き物になっているからだ。オラリオの外で対峙した事もあるし、当然ダンジョンでは虐殺の限りを尽くした。わざわざ食事中の中に突っ込んでぶっ殺しまくっているのだから、それ以外に言い様がない。

 

(モンスターに意識があるなら、俺たちを恨んでるのかね?)

 

 思う。答えはどちらとも言えないだった。

 冒険者の多くは、金を稼ぐためにモンスターに襲いかかっている。外に出さない為だとか、誰かを守るためだとか、そういったお題目を掲げている者こそ少数派である。同族が殺されまくっているのだから恨んでいないとは言えまい。

 といっても、トッドとてオラリオの外で、人を殺したモンスターがいたところで所詮は他人事だ。わざわざ義憤を感じる事もない。

 結局は人それぞれなのだろう。

 トッドの言葉に満足したかどうかは知らないが、ウラノスはちらりと隣のフェルズを見た。彼が頷くと、ウラノスは視線を戻す。

 

「モンスターには異端児(ゼノス)という存在がいる」

「それが今言った、人の思考を持ち、人の言葉を話すモンスターという訳ですね?」

「話が早くて助かる」

 

 なるほど、と思う。蓋を開けてしまえば簡単な話ではあった。

 モンスター。それがダンジョンからどれだけ生まれているかは分からない。冒険者が毎日せっせと刈り取っているが、それ以上のペースで生まれているのは確かだ。そのサイクルの中で、何か異常を起こした個体が表れたとして、何もおかしくない。それが異端児(ゼノス)とやらな訳だ。

 そして、おそらくその個体は一体や二体ではない。少数であれば、かくまってしまえばいいだけなのだから。それができないだけの数がいるわけだ。

 

「単刀直入に言おう。我々は異端児(ゼノス)との共存を目指している」

「難しいのでは?」

 

 言葉に、端的に答える。そう言うしかなかった。

 モンスターに思うところがないというのは、所詮トッド個人の感想だ。モンスターに恨みがある者は無数にいるし、それに倍する数が受け入れがたいと思っているだろう。なにせオラリオは最前線。世界でもっともモンスターと戦っている土地である。

 それをギルドの長が分かっていないはずもないが。彼は小さく頷くだけだった。

 

「その通り。故に知恵を借りたい」

「言われてもですねえ……」

 

 そういったことは、どちらかと言えば政治家やらの仕事ではないだろうか。少なくとも一介の研究者に相談する事ではない。

 が、まあ。それをできるなら、とっくにしているだろう。

 

「受け入れざるを得ない状況にするとか」

「ほう、例えば」

「すでにファミリアに所属している状況にすれば、拒否もしづらい、とか?」

「新しく異端児(ゼノス)のファミリアを作るか」

「それだとファミリアごと拒否されるだけでしょうねえ。ということは、それと分からず方々のファミリアに入団させて、一定期間友好関係を持たせる……」

 

 言って、トッドは肩をすくめた。

 

「まあ、そもそも神の恩恵(ファルナ)が刻めるかも分からないのですけどね」

「それは刻めると分かっている」

 

 言ったのは、フェルズだった。相変わらず男女の区別もつかない声音で続ける。

 

「刻めるが、それはあくまでモンスターとしてのステイタスだよ。Lv.1からのスタートではない。見た目こそ普通の冒険者と変わらないけどね。ステイタスの更新はできるが、それが人と同じ成長なのか、それとも違うのか、そこまでは分かっていない」

「つまり、そう長期間でもなければ区別はつかないわけだ」

 

 ふむ、とトッドは頷いた。

 

「ならこういうのはどうです? モンスターを人に擬態させて、遠方の地から来たことにする。元のファミリアは解散したとでも言うことにして。そうすれば、ステイタスがある程度成長している事も、団体でオラリオに現れてもそう疑問は持たれません」

「人に擬態か……それが一番難しいのだがな」

「いやまあ、それ自体は簡単ですよ」

「なに?」

 

 ウラノスが、怪訝そうに眉をひそめた。

 この見るからに超然とした、厳かな神の表情が変わるのを初めて見た。得点一、とどうでもいいことを考える。

 

「変身というよりは変形に近い形になりますから、本来の体が人からかけ離れているほど動きはぎこちなくなりますけどね。そこはまあ、異端児(ゼノス)とやらの中から人に近い姿形を持つ者を選べばいいでしょう」

「いや、そもそもそんなものを作れる理由が不明なのだが……」

「俺がアルテミス様を助ける為にいろいろしていたのは、ウラノス様も知っているでしょう? その初期案成果の一つですよ。姿が変わっていられる時間が限られる、混ざり合っている二つを分離できない、そもそも神の力(アルカナム)に干渉できないという三つの問題があって廃案しましたが」

「そうか……いろいろやっていたのだな。未完成品まで含めた研究成果を聞くのが怖いと同時に、聞かなければいけない気もしてきた」

「別に大層なものはないですよ。ほとんど途中で投げ出した研究ですし。効果が目に見えてるものはほとんどありません」

 

 大体が役立たずな研究を頭の中で並べて言う。

 いちいち見せるのが面倒くさいというのもあったが。研究内容はほとんど無意味なものだというのも、嘘ではない。当たり前に、成果を見込めず投げだした方が多いのだ。まあ、結果を出したのが神域金属(アダマント)一つだけだから、これは当然だが。

 

「あー……少しいいか?」

 

 と、フェルズが口を挟んできた。

 ローブの端が震えている。今までも声から感情は察せられたが、表にまで出たのはこれが初めてだ。

 

「本当に、できるのかい? モンスターを人にすることが」

「正確に言えば、なんであろうと人型に()()()()()()んだ。それ以外の効果がないし、なっても三ヶ月ほどで戻ってしまう」

「私の苦労は……」

 

 指先までローブがかかっていて見えないが、手を上げて頭を押さえているらしい。とてつもない痛痒を堪えているようにも見える。

 まあ、モンスターとの融和などという問題を掲げて苦労がないわけもないだろうな。と、他人事のように思うことにした。彼の奮闘と、その結果に対する苦難は、それこそトッドの知ったことではないし、知った風にされてもうっとうしいだけだろう。

 

「良い。その案を採用しよう。その薬だか何だかは、量産はできるのか?」

「やろうと思えばすぐにでも」

「ではそうする。この件をもって、トッド・ノートの神の力(アルカナム)に干渉した話、全て賞罰を相殺とする。フェルズも良いな?」

「ええ……」

 

 ウラノスの決断に、疲れた様子で返すフェルズ。

 そこからの話は早かった。オラリオにいない、かつ誰にも知られていないオイフェという神の名を使い、モンスターはそこに所属していたことにする。場所は北方の辺境に決めた。これに意味はなく、ただ単にオラリオの住人が知らない場所を選んだというだけだ。

 モンスターの中から人間に友好的な者を選別し、人に変えた。そして、主神がファミリアを解散したということにして、ファミリアへの大移住と錯覚させたのだ。

 なお、この件に関して、アルテミスは一切干渉しない。また、アルテミス・ファミリアとしても関わっていないということにした。失敗した場合、罪科があくまでトッドで止まるよう求めたのだ。これは認められ、暗躍したのはあくまでトッドとウラノス、フェルズだけとなった。もっとも、元から何かあっても知らんぷりをするつもり満々だったが。

 これが、オラリオに突然ファミリアに加入しているモンスターが増えた裏舞台だった。

 かくしてオラリオという都市は、都市まるごとモンスターにほだされ始めた事になる。背後に隠れ画策していたウラノスの思惑ままに。

 

 

 

 ロキ・ファミリアのホームが『黄昏の館』。その神室で、大きな、とても大きなため息が吐き出された。

 部屋には二人しかいないと言うべきか、それとも二人もいると言うべきか。ロキとその眷族であり、ファミリアの団長でもあるフィンが、疲れ果ててへたり込んでいる。

 二人ともしゃべらない。しかし、静寂は訪れなかった。ファミリアの中は、ずっと騒乱に満ちている。今でもモンスターの団員に対して是か否かが、盛んに論議されては無益かつ無意味な結果が吐き出されている。

 

「どないしよ……」

「どうしようか……」

 

 どちらともなくつぶやく。

 “オラリオ・モンスターショック”とも言うべき、オラリオのそこら中のファミリアで、突如人間がモンスターとなる事件から数日。どこもかしこも混乱から抜け出す様子はない。それは、ロキ・ファミリアでも同じだった。

 オイフェなるどこぞの神が消えたため、ファミリア全体でオラリオに大集団がやってきた。オイフェ・ファミリアは武闘派ファミリアだったらしく(今思えば、これもただの設定だったのだろう)、その多くが探索系ファミリアに所属した。

 そして三ヶ月ほど。どのファミリアも当たり前に彼らを迎え入れ、そして友として扱った。当たり前だ。()()()()()()()()()

 が、結果は違った。彼らは実は、モンスターだった。

 ただモンスターだったというだけならば、話は簡単だっただろう。おそらくは多くが排斥派となり、彼らを迎え撃ち、そして討ち滅ぼしたはずだ。しかし現実にはそうならなかった。三ヶ月もの間、普通に接した事により一定数の許容派が生まれたのだ。

 同じ種族である事よりも、意思疎通ができ、友好的である事が重要。そう思うのは、日々荒くれ者どもと接し、時にはファミリア内でも争いをする探索系ファミリアでは当たり前の事ではあったのだ。

 ロキ・ファミリア内でも意見は二つに割れた。といっても、排斥派からしても、つい先日まで同じ釜の飯を食い、同じように笑っていた相手だ。問答無用に斬りかかるのは、心情的に難しいものがあった。

 モンスターだと一纏めにして切り捨てるには、彼らは良き隣人でありすぎた。

 ロキはがはっと息が吐き出されるに任せる。そして、天を仰いだ。本当に、どうしてこんなことになったのか。

 

「ねえ、ロキ」

 

 反り返り、答えの出せない問いに悩んでいるところで、不意にフィンから声がかかる。

 ロキは顔を戻すと、フィンへと視線を向けた。彼はソファーの上で、両手を組んで座っている。指が小刻みに動いているのは、親指の感触を確かめているためか。

 

「なんや?」

「この件、ギルドの差し金だと思うかい?」

「ああ……」

 

 もっともなフィンの疑問に、ロキはうめいた。

 この件に関して、ギルドの動きは極めて鈍かった。鈍すぎると言ってもいい。なにせ吐かれた唯一の声明が、『各ファミリアは早まった真似をせず、現状維持に励むよう』である。

 まるで今の状態を少しでも長く続けたいような言い方だ。彼でなくとも怪しむだろう。

 

「ギルドは白、ウラノスのジジイに限って言えば黒やろうな。黒も黒、真っ黒や」

「断言するね」

「ギルドに、えーと、理性のあるモンスターを異端児(ゼノス)と命名しとったか? その異端児(ゼノス)を受け止める器量も、余裕もないからな。組織ぐるみで準備してたって線はないやろ。じゃあ誰が画策したかっちゅーと、これはもうウラノスしかおらへん」

「彼の大神から見れば、理性あれば人もモンスターも同じ、か……。参ったね、どうも」

 

 お手上げだと言うように、両手を振りながら、フィン。

 実際、手も足も出ない状況ではある。現状維持ということは、モンスターを否定はできても、積極的に排除まではできない。

 これを破ってペナルティが発生するという事もないとは思う。が、それを抜きにしても、難しい問題ではあった。

 

「アイズたんたちはどうや? 落ち着けられそうか?」

「今のところは積極的に動きはしないだろうと見ている。そのためにリヴェリアやガレスを置いて、監視の真似事までしてるんだし」

 

 アイズは排斥派の頭だと言えた。もっとも、派閥というほど纏まってはいないが。それでもレベルや立場を考慮すると、代表のような立場になっている。

 彼女がモンスターを憎んでいる事は、秘密でもなんでもない。まあ明け透けでもないのだが。だから、こうなる事は分かっていた。

 しかし、そのアイズからしても、いきなりモンスターに斬りかかるという事はなかった。剣の柄に手をさまよわせはするものの、それだけだ。この事態をどう飲み込めばいいのか、迷っている様に見えた。

 現在、ロキ・ファミリア内では急先鋒と言える勢力はない。モンスターが倒されたという話も聞かないから、おそらくはどのファミリアでも同じような状態なのだろう。

 この状態が続けば、なし崩しにモンスターを家族として扱うしかない。おそらくはウラノスが企んだ通りに。

 それが悪いとまでは思わないが、気分的に良くないのも事実だった。手のひらの上で踊らされるのは、ロキの趣味ではない。といったところで、今更どう動いても予想の範囲内なのだろうが。

 

「ちょうどいいと思って五人も入れたんはミスったなあ……。フレイヤん所なんか七人も入れとったぞ。あいつ絶対分かってやっとったやろ」

「まあ、こうなってしまってはもうファミリア内だけの問題じゃない。オラリオ全体の問題だ。入団させなければ他人事でいられたか、と問われればそうでもないよ」

「かーっ、面倒くさいこっちゃ!」

 

 悩んでいる風に言うが。自分の負けだという事はよく分かっていた。彼らの扱いに思慮する時点で、モンスターを我が子として見ている。その程度の自覚はあった。

 ロキは椅子の上でばたばたと暴れた。しつらえのいい椅子はそれで軋みもしないが。精神的にはごりごりと削られている。

 と、ロキはぴたりと動きを止めた。伸ばした手足を引っ込めて、体を少しだけ倒し、フィンの方へと向ける。

 

「なあ、これトッドが関わってると思うか?」

「僕の私見でよければ。限りなく黒に近いと言っていいと思う。数ヶ月前、なんどかギルドに呼ばれているのは秘密でも何でもないしね。当時は、“アルテミス騒動”の後片付けだと思ったけど。今にして思えば、この悪巧みに組み込まれたんだろうと思うよ。こちらは裏まで取れてはいないが、謎の納品をしていたらしいし」

 

 なにより、と彼は続けた。

 

「今のオラリオで、いや世界で、こんな神がかった真似をできるのはトッド以外にいないだろう?」

「ま、その通りやな」

 

 あくまで推定黒ではあるが。神が認めた技術力は伊達ではない。

 

(ホンマ、難儀な話や)

 

 最後に一つ、伸びをして。

 ロキとフィンは、一時の休憩を終えた。

 

 

 

「カンパーイ!」

 

 四柱の神が、一斉に声を上げる。それと同時に、杯がふれあい、かちんと小さな音を立てた。

 メンバーはミアハ、タケミカヅチ、アルテミス、そしてヘスティアだ。下界での仲良し四神組とも言える。

 場所はアルテミス・ファミリアのホームだ。テーブルの上には、料理が所狭しと並んでおり、食前酒としてトッド製の酒も置かれていた。プチ神の宴といったところだろうか。

 ごっきゅごっきゅと音を立てて、ヘスティアは杯を干した。ぷはぁ、と声を立てて口を開く。きっぱりとはしたない真似だが、この場でそれを指摘する者もいなかった。

 

「いやぁー、世間は大変だねえ」

「ヘスティア・ファミリアとて他人事ではないだろうに」

 

 気楽につぶやいた言葉に、タケミカヅチが苦笑して返した。

 

「そう言われても、ウチにいる異端児(ゼノス)はみんないい子だぜ。アステリオス君なんてめちゃくちゃ強いしね!」

「ヘスティアは気楽だな。まあ、うちも商業系ファミリアだからあまりピンと来ないが。ナァーザも世間での話に首をかしげていたよ」

「私としては、一人くらい来て欲しかったのだがな。まあ、武闘派ファミリアというお題目があった以上、それも難しかったのだろう。今後出てくる子に期待しているよ」

「うちには二人来たな。といってもヘスティアと同じく、いい子としか言い様がないが」

 

 皆が皆、世間で騒ぎになっている異端児(ゼノス)について好き勝手話し合う。

 彼らにとっては、本当に他人事だった。なにしろほとんどのミアハ、アルテミスについては全く関わりないし、残りの二柱にとっても、特に問題のある事柄ではなかったのだから。

 

「そうそう、トッド君も一人くらい入れようとしなかったのかい?」

「私もそうも思ったんだけど、残念ながら条件が合わなかったんだよねえ」

 

 ふぅ、と困ったように、この場にいないトッドに向けて吐息を吐くアルテミス。

 トッドは外出中だった。何をしに行っているかはアルテミスも知らないらしい。ただ、ギルドに向かうとだけは本人から聞いた。彼は宴の準備をした後、そのまま神らと入れ違うように出て行ってしまったのだ。用事があるのに準備だけは怠らないあたり、面倒見がいいというか何というか。それで大いに助かっているのだが。

 

「我々もモンスターに恨みがないとは言わんが、それでも仲間となった者にまでそれをぶつけるのは無為だしな。大規模ファミリアともなれば大変だろうが」

 

 ははは、とタケミカヅチはおおらかに笑った。

 

「しかし、モンスターとはいえ良き者もいるのだな。目からうろこであったよ」

「私としては……正直微妙な気分ではあるな。長年モンスターに封じられていたせいだろうが」

「仕方がないさ。心中とは経験によって変わるものだ」

 

 ミアハが慰めるように言う。

 と、ヘスティアは思いついて、口を開いた。

 

「今回の件、トッド君は関わっているのかい?」

 

 問うと、アルテミスは悲しそうに眉をひそめた。

 

「本人はごまかしているけどね。私を関わらせまいとしているのが見え見えだ」

「はー……彼もウラノスに目をつけられたりといろいろ大変なのだな」

「まあ、今回はうまい具合に話が着地しそうだからいいんだけどね。いざとなったら彼に首輪をつけてでもオラリオから逃げるさ」

「アルテミスがいなくなるのは寂しいけど……子供が第一だよね」

 

 つぶやきは、酒の滴となって溶けていく。

 オラリオの将来を思うが、零細ファミリアの集まりである彼ら程度では、将来をどうすることもできない。

 小さな小さな神々の話題は、そうして酒の席に混ざり、いずれ消えてなくなる。おそらくは、異端児(ゼノス)事件が同じように、今は騒いでいても、いずれは静かに収まるべき形におさまるように。

 宴の夜は静かに更けていった。

 

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