第1話 予兆
とある世界で……
浦田重工業が世界を攻撃する前(現実世界において第二次世界大戦が勃発する年の前の出来事)
ベルギー領コンゴの奥深く、スーダンとの国境に近い村に向かって、ジャングルをかきわける一団が居た
と言っても、ほとんどは現地民である黒人ばかりだ。残りの数人はアジア人である。そのうち、1人は女性である。総勢20名であり、数人は重いアルミのコンテナを抱えている。コンテナ全てには、ある表記がされている。興味を持った現地民が質問したが、アジア人は「企業秘密だ」としか言わなかった
そのアジア人は4人。それも日本人である。なぜ、アフリカ大陸に日本人がいるのか? しかも、この時代のアフリカは欧州から植民地支配されているのである
現地民は、そんな疑問よりもこれから案内する土地に行きたくは無かった。何故なら行く先には、ある呪いが待っているからである。その呪いを浴びると、無残な死に方をしてしまう。案内役を引き受けたのは独立するための資金と物資の引き換えで雇われただけである。
だが日本人4人は、全員恐怖を感じない。どうやら、呪いの正体を知っているらしい。日本人女性も構わず目的地に突き進む
(こいつら……こんな暑さなのに平気なのか?)
現地民の1人は心の中で呟いた。何故なら、ジャングルの中は湿度が高く、蒸し暑い。しかも、3人は全身奇妙なスーツを着ているのに動きが良い。もう一人の日本人女性はスーツを身につけずに探検家が着るような服装をしている。無謀もいい所だ
しかも、奇妙な4人組はある村の惨劇を何処からか聞きつけたのか、そこに案内してくれと言われた。初めは渋ったが、報酬が素晴らしかったので引き受けたのだが、今となっては後悔はしている
「あの村は、この道を歩けばたどり着く」
コンゴ人のリーダーは、フランス語で話した。ベルギー領ゴンゴの公用語はフランス語だからである
「俺たちはここで引き返す。残りの金は払ってくれ」
現地民が恐怖で蒼くなっているのを見た四人組は、頷き金を支払った。現地民達は金を受け取ると荷物を放り出し、飛ぶように逃げてしまった
「気遣いは無しか」
「仕方ないわ。確かに普通の人間なら、死んでしまう病よ」
「あんたが時々、羨ましく思えるよ」
4人組は、未だに走り去っていく現地民を目にやりながら呟いた。彼等は浦田重工業の派遣団である。3人は学者で、1人は浦田社長のお気に入りの秘書である。4人はある目的のためにこの地に足を踏み入れたのだ
それは、あるウイルスを持ち帰ること
それだけである
「しかし、良い防護服です。冷却装置が付いているお蔭で助かります」
「バッテリーが上がる前に回収しましょう」
4人はコンテナを運びながら道を突き進む。直ぐに森は抜け、かなり開けた土地に出た。どうやら、目的地に着いたらしい。村らしき姿が見えたからだ。人の手によって造られた道具や畑、そして家がある
しかし、その村は今では火事になっている。混乱して誰かが火を放ったのか? 今は分からない。広場には、あちこちに死体が倒れているからである
みんな苦悶の表情で鼻や口からおびただしく血を流しながら倒れている
「全滅か。逃げた者は居たかも知れないが、他の所は異常がないのは確認済みだ」
「残念だ。サンプルが欲しかったが。予定通り、付近の猿とコウモリを捕まえますか?」
3人はこんな惨劇な場面を見ても、平気らしい。しかし、女性は何かを見たのか、建物の中に入る。数秒後、女性はある物を抱えながらやってきた
女性が抱えた物を見た三人は驚愕した。なぜなら、抱えていたのは赤ん坊だからである。生後、半年の赤ん坊らしい
「なんて事だ! 赤ん坊が生きているなんて!」
「なぜ、この子は生きているんだ?」
「親が触ろうとしなかったのか。それとも、抗体を持っているのか」
三人は口々に言ったが、女性は呆れながら指示を出した
「いい。目的を忘れないで。さっさとウイルスを手に入れて」
女性は興味ないという風に作業するよう指示した。何故なら、死体からウイルスを手に入れる事は難しいからである。大抵のウイルスは宿主が死ぬと自分も死ぬからである。そのため、死体からのウイルス入手は難しい。しかし、現地民の赤ん坊が生きているということは、ウイルスを持っている可能性が高い
「分かりました。よし、手順通り新鮮な死体から血液を採取するんだ。それから──」
3人はテキパキと作業にかかる中、女性は赤ん坊を見ながらニヤリとした
女性は赤ん坊を近くにあったテーブルに乗せると、左腕を伸ばした。腕は変形し艤装が展開された。平らな艦載機──まだ試作段階であるXF5Uフライングパンケーキを数機を飛ばした
赤ん坊は不思議な光景を見てショックを受けたのか、泣き止んだ
「結衣さん、今度の作戦でこのウイルスは使えますかね?」
不意に1人の科学者が女性に声を変えた。その科学者は、一団のリーダーであり秘書の正体を知る者の数少ない一人であった
「これは保険よ。今すぐデハ無イ」
その女性──浦田結衣は口角を吊り上げた
だが、その保険は使われる事は無かった。時雨や大和達によって浦田重工業は崩壊し、浦田結衣は死んだ
そして、月日が過ぎた
レイテ沖海戦で勝利した後も、深海棲艦との戦いは続いた。艦娘の仲間も増え横須賀鎮守府では賑わっていた。だが、深海棲艦も仲間を増やしている。提督は何とか講和の道を探っていたが、戦艦水鬼とは平行線である
あの海戦から1年後……浦田騒動から5年後において鎮守府では奇妙な事が起こっていた
「はぁ……はぁ……」
暁は教壇の物陰に隠れていた。雷も電も同じだ
「大丈夫!」
「大丈夫わよ(なのです)」
二人の妹は頷いた。嫌だ。あんな事は。響は捕まっている。今はヴェールヌイだが、私達では響と呼んでいる
提督と夕張は血眼で逃げた艦娘達を探している。大半は捕まってしまった
「怖いっぽい」
そして、一緒に逃げていた夕立も隠れていた。机の下で身体を震わせている。今は夏でとても蒸し暑い。しかし、クーラーをつけるとばれてしまう
「大丈夫。皆を守ってあげるんだから」
暁はその場に居た雷、電、夕立は頷いたその時、教壇の扉が開いた
提督が来た!
「おい、そこにいるのは分かっているぞ」
提督は、汗を大量に流していた。追いかけ回していたのだろう。暁達は身を潜めていた。死角だから見つかることはない!
そう思った時だった
「夕立、見つけたよ」
「ぽい!?」
突然、後ろから声がしたため、夕立は声をあげ暁達は飛び上がった。気配は感じなかった。いつの間に時雨は、暁達の後ろに居たんだ!?
「裏切り者は許さないっぽい!」
「いや、裏切り者以前の問題だから! 提督に迷惑かかっているのが分からないの?」
机の下から引きずりだそうと足を引っ張る夕張と床に爪を立てて動くまいと踏ん張る夕立でイザコザが起きた
一方、暁達は隙を見て逃げ出そうとしたが、その前に雷と電は提督に捕まってしまった
「よーし、捕まえたぞ。では、行くぞ! あそこに!」
「嫌なのです! あそこには行きたくないのです!」
電は提督の腕に抱えられたが、腕のなかでジタバタと踠いていた
「いいから、行くぞ! これは義務だからな!」
提督は右腕に雷、左腕に電。そして、提督を止めようと足にしがみつく暁
暁は必死になって懇願した。絶対に嫌だ! あそこには行きたくない! そして、力一杯叫んだ
「注射は嫌だー!」
「予防接種くらいで逃げる事か! 全く俺の苦労も考えてくれ」
提督はため息をつき、時雨は何とか引き剥がした夕立を引っぱりっていた。鎮守府では、ある事が義務付けられた。それは、結核予防ワクチンである
結核は以前までは不治の病だったが、浦田重工業のお陰で治療可能になった。しかし、それでも恐ろしい病であることには変わりない
海外艦娘もいることもあり、予防接種を行うことにした。しかし、艦娘は女の子であることには変わりない
戦艦や巡洋艦、空母組は余り問題無かったが、駆逐艦娘や海防艦娘の大半は逃げてしまった。理由は簡単。注射は痛いからである
そのため、逃げた艦娘を追いかける羽目になったのだ。手伝う者もいたが、受けたくないために探す者が居たため、先に受けるよう指示した
「一人前のレディになるためには、注射を克服しないとな」
「痛いんだから仕方ないでしょ」
「ハンコ注射だから大丈夫だ」
提督はピシャリと言うと工廠に向かった。既に8割は何とか予防接種を終わらせた
「時雨、夕立死ぬっぽい」
「縁起でもないこと言わないで」
夕立は観念したのか、抵抗するのを止め言われるまま時雨のいうことを聞いた
何とか工廠まで引っ張ったが、工廠も既に沢山の人が居た
通常、注射に打たれた後も残る事もあるが、艦娘は数日すれば残らないという。しかし、それでも逃げる艦娘もいたのだ
「さあ、打ってみなさいよ」
「あらあら、声震えているわよ」
満潮は自信たっぷりに腕を出したが、荒潮は満潮は微かに震えているのを見破っていたのか、茶化すように言った
満潮は抗議しようとしたが、口を開く前に注射を打たれた
「夕立、早く受けるんだよ。雪風も既に予防接種したんだから」
時雨は予防接種を薦めるが、夕立は固まって動こうとしない。幸運艦である雪風と仲良くやっていっている。明石の話では大改装の話もある。雪風は大いに喜んでいた
「さ、先に白露姉さんから受けた方がいいっぽい」
「姉さんなら「いっちばん先に受けるよ」と言って予防接種したよ」
夕立は何とか言い逃れようとしたが、時雨はサラリと答えた。因みに、白露型の中で受けていないのは夕立のみだ
「夕立も改二になるくらい強いじゃない。それなのに、注射で逃げるなんて」
「注射は嫌っぽい。……ちょっと艤装を取りに行くっぽい」
夕立は思い付いたように、工廠から出ようとするが、時雨は逃がさないよう、何とか足止めをした。夕立は何とか抵抗しようとしたが、やり取りを聞いたのか、明石は得意そうに言った
「無駄ですよ。この注射は艤装付けても、皮膚を貫通しますから」
「「「え──!」」」
夕立だけでなく、暁達も唖然とした
「そんな事はお見通しです。艤装を身につけて堂々としていた長門さんも、接種できましたから」
明石はニコニコしながら答えている。工廠の隅では、気絶している長門とその姿に呆れている陸奥がいた
(長門さんでも注射は苦手なんだ)
時雨は心の中で呆れていた。どうやら夕立と同様、艤装をつければ大丈夫と思ったらしい。確かにそれは一理あった。艤装を身につけた艦娘は、身体能力は劇的に上がる
しかし、特殊に作られた注射針は無関係に貫通するらしい。噂では浦田結衣が使っていた注射針を回収し、治療の応用として使っているとのことだ
そのため、長門は注射針が皮膚に刺さるのを認識するや否や気絶したのだ。勿論、
陸奥も頭を抱えていたが
「さあ、夕立。行こう」
「嫌だっぽい!」
時雨は夕立を連れて行こうとし、夕立は近くの柱にしがみつき離れない。いや、他にもいた
それは……
「足柄……お前もか」
「だって、毒が入っているかも知れないじゃない!」
足柄も柱にしがみつき、妙高は頭を抱えているのか、ため息をついて提督に話終えていた所だ
「飢えた狼と狂犬が、何で注射を嫌うんだ? 俺の苦労も考えてくれ」
二人の注射嫌いに提督も呆れながら言った。提督が言っているのは二人の愛称である。飢えた狼は足柄で、狂犬は夕立の事である。二人ともよく働いており、改二になっている事から、注射嫌いには頭を抱えることになった。いや、他にもいる。海防艦は全員逃げる始末だ
「よーし。二人は追加で狂犬病ワクチンも打たないとな。明石、あるか?」
「ちょっと待ってよ! 犬なんて飼っていないわ!」
足柄は吠えるように抗議したが、明石は何と注射針2本も持ってきたのだ
「提督、ちゃんとあります。憲兵が、警備犬を導入する話がありましたので、前もって注文しておきました」
「悪魔っぽい。時雨は悪魔に懐かれたっぽい」
明石の嬉しそうな表情を見た夕立は、声を震わせていた。そんな夕立を時雨は、ため息ついていたが
「では、二人とも腕をまくれ。なに、痛みは一瞬だから」
「「いやぁー!」」
提督明石と足柄夕立のやり取りを見ていた時雨は笑って良いのか、それとも妹を助けた方がいいのか、迷っていた。笑うものや泣くものも居たため、工廠は騒々しかった。いや、こんな事で悩むのはおかしい。結核の予防はしないといけない
時雨が動き始めるや否や後ろから警笛が、工廠に鳴り響いた。警笛のお陰で騒がしかった工廠は、静まり返った。手足を動いている者はその場で固まり、明石は注射を持ちながら扉の方に顔を向けていた
「おい、海軍中佐の提督さんよ。内線電話に出てくれ」
扉の前には、半ば呆れ半ば怒りで憲兵隊長がいた
「軍曹……いえ、元502部隊の曹長。今、忙しいんです。後にして下さい」
柱に捕まっている足柄を引き離そうと引っ張りながら提督は言った。まだ、奮闘中らしい
502部隊とは、陸軍の特殊部隊の事である。嘗て、浦田重工業の騒動で共に戦った特殊部隊である。今は、憲兵という身分になっており、鎮守府を守る組織となっているが、それでも訓練は行っている。部隊長である軍曹は昇格して曹長になった。指揮官の中佐は、今は大佐である。提督も今では中佐だ。提督も承認試験を真面目に受けている
「そうも言ってられない。お客さんが来ているというのに」
曹長の言葉に提督は、今度こそ動きを止めた。曹長の言うとおり、後ろに二人の人影があった。二人とも、黒いスーツを来ていたが、杉田警部は中年の男性で眼鏡をしており、もう一人は若く、身体もがっしりとしている
二人は、曹長の横に並ぶと会釈した
「お初にお目にかかります。警察庁刑事部捜査ゼロ課の杉田警部と鶴川巡査部長です。少々、お時間を貰えないでしょうか?」
二人の刑事と部下らしき人が、現れた事で艦娘達の間でざわめいていた。警察手帳を持っている事から冗談では無いそうだ。憲兵は軍の警察のようなものであるが、あくまで軍内部の取り締まりであり、警察のように逮捕等はやっていない。軍も『艦だった頃の世界』とは違い、組織も変化した。そのため、特高も解体して別の組織(公安)がある
二人がやってきたことは、民間人絡みの事件の事だ
「クソ提督、まさか犯罪行為を──」
「曙、していないぞ。そんなことより、ゼロ課って何だ? 俺は、そんな組織は聞いたこと無いぞ」
曙の素っ頓狂な言葉を否定した後、提督は指摘していた。警察庁における犯罪捜査は一課二課三課……という風に分かれている。しかし、ゼロ課は初めて聞いた言葉だ。提督が、警察官の二人に近づき警察手帳をマジマジと眺めていた
「ええ。そうでしょう。極秘に作られた部署ですから。それはそうと、嫌がる人に無理やり注射をするのは止めた方が宜しいかと」
「結核の予防接種だ。蔓延すると組織が成り立たなくなる。分かってくれ」
「確かに一理あります。結核は昔、不治の病でしたからね。受けておいても、損は無いと思います」
やり取りを聞いていた足柄と夕立はたった今、死刑宣告されたように硬直していた。こちらを擁護すると思ったが、違ったようだ
「それで、何のようですか?」
「ああ、これは失礼しました。実は捜査に協力してほしいのです。別の場所でお話したいのですが」
杉田警部の言葉に提督は、首を捻った。令状も無いことから、艦娘関連の直接的な事件性では無いだろう。となると、間接的な事か?
「話は長くなります。ちょっとだけお願い出来ますかね?」
「鶴川君、そういう頼み方は宜しくありませんよ」
鶴川は、両手を合わせ、まるでお願いしますかのような仕草をした。そのため、杉田警部から咎められた
一方、提督は困惑した。捜査に協力? 何だろう? そんな事は大本営どころか親父からも連絡は無かったが
提督は頷いた。後は明石と夕張が何とかしてくれるだろう。足柄と夕立は、こっそりと注射されている事に気づかず、こちらを見ていたが
提督は部屋案内しようとした時、杉田警部は思い出したかのように言った
「実はあなた以外にも聞きたいことがあります。出来れば、当時の関係者からも耳に入れたいのですが」
「何だ?」
提督が不満そうに答えたが、杉田警部は提督に近づき、耳打ちをした
時雨は提督の手伝いをしていた。先日の戦いであるレイテ沖海戦に見事勝利して、全員帰ってきた。艦娘も増えた。『失われた未来』の時に現れなかった艦娘も増えた。海外の艦娘と仲良くやっている
アメリカ艦娘も居るが、その人達とも仲良くやっている。『艦だった頃の世界』で起きた太平洋戦争は何だったのか、という程、親しく交流している
今日は特に任務は無かった。逆に予防接種を受けることになったが、まさか注射から逃げて隠れている艦娘の探しの手伝いをさせられるとは思っていなかった
ただ、ほとんどは駆逐艦娘と海防艦娘だったため、連れてくるのには問題なかった
提督も苦労しており、ブーブー文句を言う佐渡や島風を抱えながら工廠に連れていく姿は中々の見物だった
そんな時、警察関係者がいきなり来た。令状などを持ってきていないことから、逮捕されることはないだろう。その前に、逮捕されるような事はしていないと思うが
提督は不満そうだったが、一人の刑事が周りに聞こえないように耳打ちをされると、提督の表情は変わった
「明石、夕張。後は頼む。今から言う人はついてきてくれ。今いる艦娘で聞ける者は……時雨、金剛、加賀、大淀……長門は気絶しているから陸奥!」
提督から名指しされた艦娘は何事かと唖然していたが、普段からの出撃で名指しされた事には慣れているので呼ばれた艦娘は前に出た
「提督、どうしたの?」
「ここでは話せない。別の場所に行くぞ」
時雨は作業を止め、提督に駆け寄り聞いたが、明確な返事は来なかった。どうやら、深刻なものかも知れない。金剛も加賀も早足で駆け寄る。彼女達も察したのだろう
何があるのか?
ただ、時雨は何かを感じていた。何か嫌な予感がした
雪風、改二と丹陽実装されましたね
折角ですから、本作品でも取り入れようかと考えています