浦田結衣が付近一帯を攻撃している中、地下では田中が手を叩いて喜んでいた
「ははは! ザマー見ろ」
まんまと奴らはハマった。実は浦田副社長も結衣も平和党や米国の思惑なんぞどうでも良かったのである。全ては最高戦力を復活させるため。それさえあれば、何とでもなる。メアリー・イザベラは結衣自身が操っていた時間稼ぎのような存在である。警察が突入する前には完全に復活していた。警察を呆気なく撃退すると地上に上がった。何をしているかわからないが、モンタナ級戦艦とはいえ、現代兵器もないのは問題だ。リリが関わったお陰で当たらな戦艦の建造に成功した。浦田結衣を蘇生どころか肉体を再生することは可能だ。だが、結衣は時雨の肉体にこだわっていた。リリはアミノ酸など人体に必要な物質があれば再生できると言っていたが、時雨の肉体を欲しがっていた
だが、失敗した。勿論、結衣も諦めた訳ではない
しばらくの間、砲声やロケットの発射音は聞こえなくなった。相手を一掃出来た証拠だ。地上に出たが、辺りは瓦礫の山ばかりだ。そこら中、ミサイルという平気でぶっ飛ばしたらしい。いるのは浦田結衣だけ
「では、時雨の肉体を取りに行く。お前は合流しろ」
「なぜ拘る? 作戦と違うぜ?」
「構わんさ。これはデモンストレーションだろ?」
そう。これはデモンストレーションである。浦田残党部隊はテロリストとは違うというのをアピールするためである。そのためには戦力差をみせる必要がある。これなら警察の力はおろか、軍隊だって跳ねのけられる
武力さえ見せれば、警察に捕まる心配はない
「さて、行くか」
結衣は艤装を消すと歩き始めた。H44改とは違う艤装。中々のものだ
鎮守府では大混乱した。無線室では艦娘からの通信ばかりだが、どれも支離滅裂だった
深海棲艦との戦いで奇襲や空襲で混乱することはあるが、ある程度すれば対応できる。だが、この通信は異常だ。時雨の通信も同じである
『敵の攻撃は苛烈! ……僕は倒したんだ! 作戦は成功した! でも、結衣が現れて! 僕は……』
「時雨! どうしたの!?」
大淀は何とかして通信を試みたが、相手からの連絡は無い
「提督、どうした? 応答しろ!」
長門も一緒に無線で呼びかけていた。提督からも連絡があったが、先ほどの提督の無線は慌てているようにも感じられたていた。時雨も提督も他の艦娘もまるで、何かから逃げているような……
更に赤城加賀からの連絡で長門は混乱した。艦載機によると、建物から巨大な艤装を確認。その直後、赤い光のようなもので撃ち落とされたとの事だ
そして、赤城から連絡があった
『長門さん、航空隊は全滅しました』
「どういう意味だ?」
『そのままの意味です。全機撃墜されました。これ以上は戦闘出来ないため帰投します』
赤城の報告に長門は固まった。空母は艦載機がなければ、戦えない。それは仕方がなかったが、提督はおろか、陸奥も扶桑山城も連絡がない。いや、テロリストが拠点だった場所から応答がない
「長門さん、よろしいですか?」
「今はそれどころではない!」
ふいに後ろから声をかけられた。長門が振り向くと二人組の刑事がいた。杉田警部と鶴川巡査長である
「こちらも警察の特殊部隊からの連絡が途絶えました。中継していたテレビ番組もです」
杉田警部は淡々と語って長門は青ざめた。テレビでは、テロリストが潜伏していた場所をテレビが生中継していたはずだ
長門は慌てて待機室に走った。あそこはテレビがあったはず
だが、待合室では数人の駆逐艦娘が呆然としていた。ニュースキャスターは、困惑した状態で現場に問い合わせている
「長門! 何時でも出撃出来る! 命令を!」
不意に隣から力強い声が聞こえた。声の主は武蔵だ。長門は振り向くと大半が艤装をつけて出撃体制に入っていた
大和、武蔵、伊勢、日向、鈴谷、熊野、三隈、鳥海、摩耶etc
全員が出撃出来る状態だ。アイオワやサラトガ、ビスマルクなどの海外艦もいる
皆は無線やニュースなどを見て詳細は兎も角、最悪な出来事が起こっているのは予測したのだろう
「分かった。私が指揮を執る! 出撃するぞ!」
長門は命令を下した。何があったのかは不明だが、敵が現れたのだ! ならば、叩き潰すまでだ!
「巨大な艦影を見たと妖精さんがあったけど、赤い光で落とされたとの報告が」
「翔鶴姉もなんだ。実は私のところも」
翔鶴瑞鶴から報告が来たが、どれも報告が今一つだ。いや、空母組による艦載機は全て撃ち落とされている。だが、落される前の無線報告では『赤い光でやられた』ばかりである。基地航空隊でも一式陸攻や銀河も撃墜された
信じられないが、殺人光線のようなもので撃墜されたらしい。らしいというのは分からないからである。アイオワはレーザー兵器か何かと言っていたが、少なくとも実用化されていないとの事だ
「分かった。空からの攻撃は不可能だ。砲雷撃戦で挑む」
「「「「「了解」」」」」
長門の命令で全員は頷いた。今回行くのは戦艦と重巡だ。軽巡と駆逐艦は鎮守府待機となった。敵が戦艦なので、軽巡駆逐艦では威力不足だ。鎮守府を指揮しているのは大淀だ
長門を旗艦とした戦艦重巡の艦隊は現場に向かった。空母も赤城加賀と翔鶴瑞鶴は連れていくが、現状ではあまり期待はしていなかった。敵が正体不明の対空戦闘能力を持っているようでは、多少の犠牲(ボーキ消費)は仕方なかった
時雨は何とか起き上がった。提督や他の艦娘は気を失っている。装甲車のお陰で死なずに済んだが、それでも被害が多い。建物も崩壊しているし、車も大破していた。装甲車は中破しており、動けそうにもない
時雨は身を潜めた。敵が来るかも知れない。時折、犬が噛まれた場所とむち打ちで体がズキズキしたが、今はそれどころではない
(天龍さんと龍田さんが見当たらないけど、他は無事だ。暁たちも)
捕まった暁達は無事だ。響であるヴェールヌイは頭部に包帯をグルグル巻きにされているが、息はある。だが、命に危険がないだけで、危機的状況であることには間違いない
助けを呼ぼうにも誰もいない。遠くでサイレンが聞こえるが、期待できそうにもない。向こうも大混乱だろう。他の艦娘や鎮守府に応援を呼ぼうと無線につないだが、スイッチを入れる瞬間、固まった
凄まじい殺気を感じる。日が暮れているため、一層不気味だった
人影があるが、断じて人間ではない。元人間だろうが、明らかに違う! あの殺気だ! 五年前よりも増している
時雨が建物の影に隠れると同時に、アイツの声が聞こえた
「さて、メアリー・イザベラは役に立った。モンタナ戦艦だろうが、私を倒せるという自信や希望を艦娘や軍に与えた。そこを突き落とすのが目的だ。どれも、あの機械人形のお陰だ」
(冗談じゃない!)
時雨は身体を震わせながら心の中で罵った。あんなのを蘇らせることが最善の策? 人類共通の敵を生み出すことが? 人類の復讐か何かとしか思えないが、リリの頭部はさっきのミサイル攻撃で完全に破壊されていた。結衣にとっては用済みという事だ
「ミサイルを受けても死んでいないとはタフだ。だが、肝心の時雨がいない。逃げたか……仕方ない。提督や艦娘の命を奪うか」
恐ろしい事を平気でいう結衣に時雨は身震いした。このままだと殺されてしまう。艤装が無いことから何らかの形で格納しているのだろう。だが、今の結衣の能力が全く分からない。かつての戦艦ル級改flagshipになった時よりも不気味過ぎた
しかし、相手は待ってくれない。結衣は耳に手を当てるとわざとらしく大声で無線連絡した
「副社長、狂人親子と艦娘と502部隊が気を失っているのを発見したから殺していいよね?」
『ま、待て! 今は──』
「兄から私の性格を理解していないようだな。じゃあ、ここにいるメンバーを斬首刑にしてやる!」
結衣の右手が日本刀のように変形したのを見た時雨は、物陰から飛び出して主砲を撃った。12.7cm連装砲C型改二の威力で仕留められるとは思っていない
だが、牽制にはなる。砲弾を受けてもケロリとしている。艤装なんて纏っていないのに
「安易な攻撃だな。状況が変わった。お前の体から心臓を貰うぞ!」
心臓を貰う。結衣が何に使うか知らないが、明らかに常軌を逸脱している。心臓を奪ったら僕は100%死ぬ!
槍は既にないため、酸素魚雷を引き抜いた。手榴弾のように爆弾に使うためだ。使い方としては推奨されないが、「艦だった頃の世界」では酸素魚雷を対戦車地雷*1に使われた事がある。硫黄島では、魚雷を地面に埋めただけだったが
結衣が時雨に向かって走り出したその時だった。結衣がいた場所から後方の物陰から二体の艦娘が飛び出した。薙刀と刀を持っていることから天龍龍田だ!
龍田と天龍の息はぴったりだった。素早く結衣に接近すると、天龍は頭部に刺し、龍田は胸を刺した。どれも人体にとって急所だ
「死ね、結衣! 今度こそ殺してやったぜ!」
「私達は軽巡だから太刀打ちできない。だから、暗殺することにしたの~」
天龍は声を荒げ龍田はおっとりとはしていたものの冷たい言葉は放っていた。2人とも烈火ごとく怒っていたらしい
どうやら、隙を見て伺っていたのだろう。確かに軽巡では威力不足だ。なら、暗殺しかない。艤装を纏っていない相手なら一矢報いることが出来るかもしれない
どす黒い血が結衣の体が飛び出し、結衣の足は止まった
だが……
「手製の武器を持った艦娘は厄介だ」
「何で!」
龍田は慌てて逃げようとしたが、遅かった。結衣は刀が刺さったまま体の向きを変え、龍田を殴り飛ばした。比喩でもなく、数メートル飛び倒壊しかけている電柱に激突した
天龍は刀を抜き結衣の首をはねようとした。だが、結衣にとっては痛みすら感じていないだろう
「同じ手が通用すると思うな!」
結衣は天龍の頭を掴むとそのまま道路に叩きつけた。鈍い音がし、天龍は地面にめり込んだが、そのまま動かなくなった
邪魔を片付けた結衣は時雨に目をやった。時雨は身動きが取れなかった。明らかにパワーアップしている。そんな相手とどう戦え、っというのだ?
「リリとか言う相手はイージス艦や空母、果てには原子力潜水艦を選ぶようにしたが、私は拒否したな。今みたいに奇襲されてダメージを食らったら、戦闘不能になるし、コソコソ隠れて航空機やミサイルだけで艦娘を始末するのも面白味が全くない」
「悪趣味過ぎる……」
「何とでもいえ。リリも渋っていたがな。しかし。新たなエネルギー源を組み込んだお陰で解決できたし、問題なんてない。私の力は絶対なのさ」
(だけど、提督が危惧されているような艦種ではないから良かったというべきかな)
提督は、もし浦田結衣が戦艦に拘らず空母や潜水艦などになったら、手に負えないと考えたからだ。特にアイオワが言っていた戦略原潜のような核ミサイルを撃つものだったら余計に始末が悪い
だが、相手は何か拘りがあるのか戦艦を選んだ。つまり、射程距離は限られるという事だ。しかし、結衣が自慢げに話すという事は相当な自信を持っている事になる
さっき、新たなエネルギー源とか言っていなかったか? 原子力?
時雨が戦闘態勢をとっていたが、結衣は別の方角を向いていた。明らかに舐めている
「そこのフードを被った奴。そんなところに隠れてないで出て来いよ。この私に暗殺なんて出来ない。逃げるか立ち向かうかどちらかにしろ」
何を言っているか啞然としたが、相手が誰なのか分かった。物陰から神州丸が出てきたのだ。陸戦隊である戦闘妖精や妖精仕様の八九式中戦車、そしてオ号観測機改二 を引き連れて
「八九式中戦車やジャイロ機……揚陸艦か。挑む相手を間違えているんじゃないか?」
「本艦は陸軍特種船、神州丸。敵を殲滅する! 一斉射撃!」
神州丸は高々と叫ぶと陸戦隊の戦闘妖精は一斉攻撃を始めた。機関銃や戦車砲などありとあらゆる火器で売っていた。当然、効くわけがない
しかし、神州丸は提督や他の艦娘を守らないといけない。例え敵う相手ではないとしても挑まなければならない!
「ハッ! そんなものが通用すると思っているのか!」
神州丸の攻撃に結衣は嘲笑った。防御力が異常に高いのか、雨でも打たれたかのように何ともない
しかし、時雨も指をくわえているだけではない。時雨は魚雷を抱えながら突撃した。タイマー式なので大丈夫だ。後は取り付けるだけ
「甘いんだよ。駆逐艦は何処まで言っても駆逐艦だ!」
結衣は砲を展開させこちらに砲塔を向けていた
発射するまで時間はかかるはずだ!)
時雨はひるむことなく主砲を撃ちながら突進した。ここで引き下がるわけにもいかない
「じゃあな、お二人さ……!?」
結衣はにやりとした。恐らく引き金を引く手前だったのだろう。建物の残骸から何かが起き上がった。それは時雨よりも素早く突進し、結衣を殴り飛ばしたのだ
「テメー、ヨクモヤッテクレタナ! 生カシテハ帰サン!」
「集積地棲姫!」
殴った相手は何と集積地棲姫だった。籠手で殴られたのだから流石に結衣も飛ばされたらしい。深海棲艦特有の艤装は燃えていたし、眼鏡は割れていたが、力はまだあったらしい。どうやら、追ってきたようだ。集積地棲姫は追撃しそのまま再び殴ろうとするが、両手とも結衣に受け止められてしまった
「邪魔はするなよ。お前のボスによろしくな」
籠手は結衣の手で豆腐のように簡単に破壊された。51cm主砲の一斉射撃で集積地棲姫は大破された。更にレーザー兵器を出したのだろう。望遠鏡のような砲塔を出すと光を放った
光の熱量は膨大であったらしく、時雨が持っていた魚雷はレーザーに照射されると同時に誘爆してしまった。神州丸も同様だ。主砲とレーザー砲でコテンパンにやられたらしい
「ダメだ……勝てない」
時雨は倒れた。もう立つ力がない
「さて、お前を始末してやりたいところだが、敵が来た。主力艦隊がな。私は堂々と太平洋に出る。そして、兄の野望を実現させる。心臓はお預けだ。邪魔が入ったら安心して心臓を抜き出せないからな」
結衣はそう言うと、一瞥して海に向かった。時雨は後を追おうか迷ったが、提督たちに駆け寄った。何とかして負傷者を安全なところへ運ばなくては! そのためには、救助隊を呼ばないと。ボロボロの体を無理矢理、起き上がらせた
「負傷者がいます。誰か応援を」
時雨は藁でも縋る思いで無線を飛ばした。誰かが電波をキャッチしてくれればいいのだが
次回は……
節分任務はもうすぐ終わりますね
能代が改二になるらしいですが