皆さん、無事でしたか?
第18話 分析と対策
「第二艦隊、戻ったよ。遠征任務は完了。資源は何とか取ってきた」
「よく戻った。危険を冒して資源を取るのは余りやりたくないな」
「うん」
港では時雨は後ろを見ながら頷いた。時雨の後ろには鬼怒や満潮、荒潮は中破しており、綾波は大破して床に座りながら息切れをしていた。時雨も小破していて無事ではなかった
遠征でも危険なものがあり、深海棲艦と交戦するかもしれない危険な海域があるのだ。当然、無事には済まない。その代わり、資源は通常の遠征よりも多く取れる。今では
資源は枯渇しているため、あの手この手でかき集めている
「取りあえず入渠するように」
提督は頷くと奥へ引っ込んだ。資源の受け取りは妖精達がやってくれるのだから提督はいる必要はない。だが、遠征の二グループはまだ帰っていないので提督も気が気でないのだろう
あの最悪な事件から四日経った
事件関係者は逮捕されたが、異常なほど少なかった。ほとんどの者は殺されたからだ。平和党の党首も元CIAの人も死亡した。死因はミサイルによる爆死である。誰が撃ったのか、語るまでもないだろう。他にもいたが、ほとんど平和党が雇った者ばかりだ。テロリストは一貫して否定していた。知らされていないと。また、警察は警察官全員の身元を徹底的に調べた。前回のようにシンパが紛れて暴れまくったため、強制捜査を行ったのだ。また、浦田重工業のシンパがいないか調べる必要があった。一応、居たと言えば居た。但し、浦田重工業の残党ではなく、平和党である。要は相手に完全に利用されていたのだ
業を煮やした警察は逮捕した人達を徹底的に取り調べたが、杉田刑事の推測だとテロリスト達は利用されただけだと思っているらしい。武田はこちらに味方しない者は、悉く切り捨てたのだと
実際にそのようだ。その証拠に、結衣が外海に出た翌日、北海道にある網走監獄が何者かに襲撃を受け壊滅した。生き残った看守によると「たった一人の女性によって刑務所が破壊された。大砲やらロケットで破壊され、囚人看守関係なく無差別に殺害された」と言ってきた。警察がこの人か、と聞かれると看守は激しく怯えながら頷いた。その写真には浦田結衣が写っていた
当時、人だった時の写真だが、看守にとっては悪夢だという
「網走監獄は極悪犯が強制労働させる場所です。脱獄が困難であるため、日本の刑務所の中でも厳しい場所。浦田結衣が襲う理由は1つです」
「当時、浦田重工業で働いていたトップの人が収監された場所だな」
杉田刑事の報告に提督は苦々しく言った。別世界から連れてきた人達はいない。しかし、現地の人は別だ。ここで罰を受けなくては行けない。死刑が確定していた者もいたが、刑事裁判に時間がかかったお陰で、まだ死刑執行がなされていなかった。死刑囚が収監された刑務所は、結衣と艦娘が交戦している最中に浦田副社長を率いる残党がどさくさに紛れて救出させられてしまった。現場にいた刑務官も抵抗したが、対人兵器どころか対物兵器を携え軍事訓練を受けた集団に敵わない
当然、浦田副社長の脅迫に答えるしかなかった。脱走も堂々と逃げられた。軍も憲兵隊を出したが、捜査は難航した。というより、出来なかった。山本五十六という海軍大将を失ったどころか国防大臣まで殺害されたのだ。副国防大臣が就いたが、当本人も困惑するばかりである。犯人は分かっているが、どこにいるか分からない
そのため、あれほど躍起になって捜査をしていた警察も軍も日が経つにつれて意気消沈していた
この事件において当然、世論から叩かれた。軍と警察が浦田重工業の残党に破れたのだから無理もない。艦娘もとばっちりを受けた。浦田結衣の死者蘇生という現象よりも凶悪犯を逃がした事を批判していた。マスコミも面白おかしく非難する始末であり、新聞一面は艦娘や提督を戦犯者扱いである
『艦だった頃の世界』において戦前の日本だったら国を批判なんて出来ないだろう。しかし、浦田重工業が日本を介入したお陰で変貌した。日本が発展し民主化を促したのはいいが、今ではそれが弊害となってしまった
「国会ではいつも通りだな。平和党という野党の政党なんてどうでもいい」
提督は新聞を読むとゴミ箱に捨てた。平和党は袋叩きにあっていた。何しろ、浦田副社長を始めテロリスト達を雇っていたのだから
しかし、提督も艦娘も興味はなかった。政治なんて正解はないのだから、誤った政策さえしなければ、どうでも良かった。未来情報をあげたので何とかするだろう
提督も艦娘も戦艦『クラーケン』である浦田結衣を撃沈しないと行けない。軍からは生け捕りするよう命令が出たが、提督も艦娘も了承はしたものの、今は出せないと返答した。あれを捕まえるならとっくにとらえている
浦田元副社長を率いる1グループは行方が分からない。日本国内にはいるのか、それとも海外にいるのか分からない。あるいは、小笠原諸島の島や南西諸島の内の一つを拠点にしているのか
深海棲艦がいる海域で空からの偵察は困難であるし、例え出来たとしても簡単には部隊を送れない。深海棲艦の艦隊と遭遇してしまうからである
つまり、八方塞がりである。とはいえ、最大戦力である浦田結衣を倒せば残党勢力は容易く倒せる。浦田結衣は『超人計画』で成功した唯一無二の存在だ
しかし、早く倒さなければならない。時間が経てば経つほど結衣にとっては優位になる。深海棲艦を操ることになるだろう
しかし、早く倒さなければならない。時間が経てば経つほど結衣にとっては優位になる。最悪の場合、深海棲艦を操ることになるだろう。深海棲艦を指揮しているのは戦艦棲姫だ。今は戦艦水鬼改となっており、姉妹艦らしきものも確認されている
前回の戦いで浦田結衣は深海棲艦を操ることができるので、警告を送らなければならない。しかし、相手は人類との交渉を悉くはねのける相手だ。そんな相手に連絡手段なんてない。通常なら連絡員や外交官など窓口は存在するが、それは相手が『国』だった場合だ。深海棲艦も従来の連絡では取れない
(まあ、戦艦水鬼改も感じるはずだ)
戦艦水鬼改はバカではない。異変を感じ取れば、こちらに接触するかもしれない。戦艦水鬼改は人類との交渉はしないが、滅ぼそうとは考えていない
提督室
「資源はある程度、回復した。これで消費が激しい艦娘が存分に戦えるくらいの量はある。最大の問題は──」
「アイツを倒せる武器が無いことだよね」
提督室には時雨とアイオワがいた。アイオワは時雨と同様、『失われた未来』で戦闘した経験がある。そのため、何か有効な打開策を立てなければならない
「浦田重工業という強力なバックアップはないから、唯一無二だ。だが、あんな大火力を倒せる手段が全く思いつかない事だ」
「Yes。そうね」
アイオワがため息をつきながら答えた。相手が支援なしでコンバート改装をする事に関しては驚いていない。サラトガを初め、複数の艦娘はやっている。鈴谷と熊野は航空巡洋艦と軽空母とのコンバート改装を入れ替えているほどだ
アイオワが驚いているのは、奴が保有している兵装、高出力レーザー砲とアーセナルシップ型の存在である
熱線で航空機も装甲も一瞬で貫き燃料や弾薬を誘爆させる恐るべき兵器。SF創作でしか見たことがない代物が、結衣が前触れもなく持っているのだ。射程は不明だが、結衣の視野に入ったものは攻撃出来るのだろう
次にアーセナルシップ型だ。ミサイル母艦というべき存在は、この世界の艦隊戦においては脅威になるかも知れない。タイプによるかも知れないが、対艦ミサイルがハープーンミサイルであるなら射程は約140Km。若しくはそれ以上か。しかし、厄介なのが巡航ミサイルを保有しているかどうかである。トマホークミサイルの射程は最大射程が約3000Km。ミサイル防衛システムなんて、この世界には無いから何処でも攻撃できる。仮にあったとしても、防げるかどうか……
更に原子炉のようなものがあるらしい。これは結衣が時雨に向かって言い放ったものらしいが、よく分からない。ただ、複数の艦娘の報告だと煙突は無かった事から信憑性は高いだろう
「深海棲艦というより生きた戦略兵器。どうやってwinする?」
アイオワも呆れていた。結衣にコテンパンにやられたこともあるが、勝てる手段が分からない
「空母のような航空機運用していないのが救いだろうな」
「というより、観測機や偵察機以外は不要な気がする」
「まあ、アイツはなぶり殺しが好きなタイプの人間だからな」
提督の呟きに時雨が指摘した。F8Fなど陸上機は持っていたものの、艦載機は確認されていない。要はレーザー砲があるから艦載機は不要と判断したのだろう
それに結衣の性格も絡んでいる。軍人ではないため、明らかに性格や主張が大きく出た兵装とも言える
「艦載機で攻撃するより自身の手で攻撃するタイプなんだろう」
「嫌な相手ね」
「だが、こちら側からすれば好都合だ。『戦艦クラーケン』である浦田結衣さえ潰してしまえば、武田が率いる軍団は武器を持った武装集団。工業力や多額の金がない浦田重工業が存在しないのだから、そっちは陸軍に任す」
アイオワは目を見張った。戦う気だ。だが、確かに結衣さえ倒してしまえばこっちのものだ
「提督……お言葉だけど、どうやって倒すのさ? アイオワさんの武装では無理だよ」
時雨は指摘した。確かにミサイルでどうにかなるレベルの問題ではない。飛翔する砲弾やミサイルを撃ち落とす能力を持っているのだから
「レーザーだっけ……あれを防ぐ事は出来ないの?」
「あるわ。But、戦艦の装甲を貫くほどの高威力なら防ぐのは難しいかも」
時雨は聞いたが、アイオワは否定した。煙幕や水を霧状にしてウォーターカーテンを展開させて阻害することがあるが、あれはレーザー照準を狂わすためのものだ。高威力だと威力が減衰なんてしないだろう。それにレーザーを防ぐ手段が思いつかない。というのもアイオワがいた『艦だった頃の世界』では、まだ実用化されていない。陸奥が言っていたリリが居た2030年の世界ならレーザー砲が実現出来ているかも知れない
(ミーの記憶が確かならレーザー兵器は視力を奪うという事から非人道的な兵器として国際法では禁止されていたはず*1。陸奥が居た世界では、国際法が変わったのか、それとも結衣のようにレーザー兵器が実用化出来たのか*2)
アイオワは苦悩した。レーザー兵器については、『艦だった頃の世界』の記憶では聞いたことがないからだ。一応、米空軍が弾道ミサイル防衛として改造した旅客機に巨大なレーザー砲を搭載して飛翔する弾道ミサイルをレーザーで撃墜するというトンデモ兵器*3があるのを聞いたことあるが、確か実験段階だったはずだ
「だったら、鏡でレーザーを反射させるという手は? レーザーは光なら出来るはず」
時雨は提案したが、提督は首を振った
「あー、俺もそう思って親父に聞いたが、否定された。鏡は全ての光を反射出来ないので貫通するそうだ」
提督は既に手を打っていたらしく、効果はないらしい
「そう肩を落とすな。後は拾った右腕の解析だな」
提督の言う右腕とは、武蔵が結衣の右腕を吹き飛ばしたものである。結衣は右腕を生やして元通りにしたが、吹き飛ばされた右腕はそのままだ。武蔵の戦闘報告で提督は回収を命じた。潜水艦娘たちが血眼で東京湾の海底で探して見つけ出したのだから、大変だっただろう
「あの腕で何か分かればいいのだが」
提督は呟いた。例え分かったとしても対処出来ないのであれば、ぬか喜びなのだから
工廠では、沢山の艦娘が集まっていた。それは当然で、回収された右腕が明石や博士を初め調べているのだから。夕張も秋津洲も手伝っている
だが、皆は嫌悪感1つも無かった。見慣れた事もあるが、どう見ても人間の腕のように見えない。まるで上手く作り上げた人形のように見える。腐敗もしないし、今にも動き出しそうである
「これ、本当に人間の右腕? 深海棲艦と人間の両方から良い所だけを取り出して混ぜて作ったように見えないんだけど! 本当に生命体なの!? 映画の撮影用か何かじゃないの!? 魔法が現実に存在したら私、驚かないんですけど!」
明石がイラつくのも無理もなかった。博士がかつて研究していた深海棲艦の力を人体に宿すという『超人計画』に似ているが、出来すぎている。確かに人間の腕だが、どうやってこんなものを作れるのか分からない
「恐らくじゃが、リリという機械人形が拘わったのじゃろう。リリの身体は、原子や分子を組み替えて物体を構成するもの。それを取り込んだのじゃろう。人類のためと結衣と田中にそそのかされたとしか思えん」
博士は困惑しながら言った。恐らく、結衣と田中が巧みに自分たちの都合良い話をして信じてしまったのだろう。だが、確認しようにもリリと呼ばれるロボットは、もう動かない。別のテーブルに置かれているが、神通と結衣の無差別攻撃のお陰で破壊された。コンピュータと呼ばれる部品も電力すら受け付けないため再起動も出来ず、保管施設に移送して保管するしかない。とても高度な技術が使われているらしく、仕組みだけは何とか理解できたが、とても手に負えない
「確かいろんな要素を詰め込み過ぎて計画が白紙になった自立型ロボットだと」
「だとしても、厄介な代物じゃ。こんな奴が戦争を見て嘆き深海棲艦を作ったとか……まあ、同情だけはするがな」
陸奥と博士はひそひそ声で言った。リリについては、一部の人しか分からない。だが、公開したとしても大半は分からないだろう。残りの半分は、受け入れるかどうか……
「じゃが、何とか弱点はある。骨は多数の金属分子が含まれておる。恐らく、神経を経由して艤装や肉体を自由自在に変形させた」
博士は言った。博士の話だと、変形させるための司令塔……つまり、コアがあるという
「コンピュータのような存在が結衣の体内にあるじゃろう。変形させるシステムがあるはず。そこを破壊するしかない」
「場所は何処だ!」
博士の話に武蔵は食いついた。弱点が分かれば、倒せるかもしれない
「不明じゃ。リリという機械人形を見て上で推測になるが、人体の脳と艤装の動力源あたりじゃろう。しかも、同時に破壊しないといけない」
「無茶ですよ! 接近戦でも強かったんですから!」
大和は啞然とした。ピンポイント攻撃をしなければならないのだが、現在の兵装だと難しい
だが、武蔵は全く思っていなかった
「簡単な事だ! 接近して素早く頑丈な鎖で何重にも縛り付けて身動きを封じる。その隙に手当たり次第、至近距離から砲撃を撃って破壊すればいいだけだ!」
「武蔵……流石に無理じゃない……」
武蔵の提案に呆れた大和だが、今は作戦会議ではないので問題ないだろう。だが、その中で鳥海が質問をした
「博士……増産される可能性は? 結衣の身体能力をコピーさせることは?」
「ああ、多分ないわ」
明石はきっぱりと言ったので、一気に視点が注目した。明石は慌てて付け加えた
「機械人形の能力は高度な文明を持った科学技術の結晶体なの。何らかの形でこの世界に迷い込んだけど、整備や支援が必要。だけど、支援するものがないから、複製は無理。結衣の場合は、リリが能力を分け与えたといった方がいいかも」
明石は考えながら言った。どんな科学技術や機械であれ、整備や点検がなければいつかはガタつき、最後には動かなくなってしまう
「あんな高度な科学技術を浦田重工業という工業技術がない残党勢力が、複製なんて出来ないわ。やっていたら、リリの機械人形のような兵器を使って政府建物に突撃したり出来るはずよ」
「確かにそうね」
近くに聞いていた夕張は同意した。リリのお陰で浦田重工業の残党勢力が高度な技術を自分のものにしたのなら、あんなまどろっこしいテロなんてしないだろう。寧ろ、あれはデモンストレーション。結衣の力の誇示に過ぎない
我々、浦田重工業はまだ健在だという
「倒す手段は他にありませんか?」
鳥海は質問したが、博士はうなった
「リリの場合は応急処置で動いていただけに活動したに過ぎない。もう長くないとみて結衣に能力を託したが、言いかえれば結衣にも同じ状況とも言えよう。補給はリリの能力で金属や燃料をミサイルに変換は出来るが、司令塔とも言えるコンピュータは流石に複製出来ん。数十年経てば、コンピュータの更新が出来ず、艤装も維持できまい。深海棲艦の姫級並みの力に落ちるが」
「それは却下だ! 今はそうかも知れないが、コンピュータとやらまで更新する能力を奴が持ったら、それこそ意味が無い! 奴は狂っているが、バカではない! それに武田は元副社長だ! 呑気にして結衣だけ応援するわけがない!」
長門はきっぱりと言った。確かにどんなに優れた兵器があろうと戦い続ければ、燃料が切れ、弾が切れる。それを扱う兵士どころか艦娘も同じだ。食事をさせ、病や怪我を癒し、適切な休息を与えなければならない。補給等を怠ると軍隊というものは消耗し続けて、いずれは何もせずとも消滅してしまう
だが、結衣はそれには当てはまらないだろう。バックアップである浦田重工業は存在しないが、厄介な能力がある
下手すれば、他の深海棲艦にまで強力な能力を植え付けるかもしれない
長門に指摘されて、博士は口をつぐんだ。確かに楽観的過ぎたかもしれない
「兎に角、対策手段を取らないと」
妙高は慌てて言ったが、その時だった。結衣の右腕が動き出した。動いたというより、突然、右手が営利の刃物のように変形して飛んだのだ!
向かう相手は、近くにいた摩耶。摩耶は慌てて頭をそらしたが、刃物は顔の数メートル付近を飛んでいき、そのまま壁に突き刺さって止まった。一瞬の出来事だったので、工廠は一瞬にて静まり返った
「アイツ……腕切断されても動けるのかよ! ヤモリか!?」
「何あれ!? 早く抜いて床に縛って!」
「遠隔操作出来るなんて聞いたことが無いっぽい!」
摩耶は一瞬固まったが、下手したら大怪我されていた事に怒り、強引に腕を引き抜くと縄で縛り付けた。満潮も夕立も手伝い、最後には鎖まで持ってくる始末だ
「後はレーザー兵器という厄介な手段を考えねば」
「出来るんですか?」
右腕を縛る艦娘たちを見ながら博士は考えるように言ったが、夕張は呆れていた
雷相手に弓矢で挑むようなものだ。鏡はダメなので、別の方法で考えるしかない
ある海域では深海棲艦との戦闘が行われていた。戦艦ル級2、軽空母1、重巡リ級と駆逐ハ級相手と交戦が行われていた。相手は艦娘ではなかった。人類の兵器だった。正確には陸海空の混成部隊である航空戦隊である
銀河である陸攻と護衛機である紫電改。そして、ジェット機の火龍である。史実では、計画止まりだったジェット機である火龍はこの世界では成功しており、制空権を容易に捉えることが出来た。また、陸攻である銀河ではイ号一型乙無線誘導弾が搭載されている。これは初期の空対艦ミサイルというべき代物で、人型である深海棲艦相手に命中させるのに打って付けの兵器である。距離は接近しないといけないが、ダメージを与えるのには十分だ。
五機の銀河はイ号一型乙無線誘導弾を次々と発射させ、深海棲艦の艦隊を攻撃していく。深海棲艦は対空砲火を必死に打ち上げていたが、号一型乙無線誘導弾は吸い込まれるように艦隊に命中。火龍も爆弾を搭載できるので、対艦攻撃は可能である。戦艦ル級は兎も角、他の5隻は撃沈。戦艦ル級は大破し逃げていく
「敵に撤退していきます」
『よくやった。帰投してくれ』
銀河の機長は報告をすると帰投の連絡が入った
航空基地では賑わっていた。陸海空軍が合同運用されているのだから、人数も多い。しかも、対深海棲艦の兵器が有効である事に喜ぶのは当然だ
「対深海棲艦の弾薬に誘導弾は相性が良いですね」
「ああ」
進歩しているのは艦娘だけではない。陸海空軍も進歩していっていた。対深海棲艦の手段は着々と進んでおり、兵器も充実していった。近い将来、ジェット機を載せた空母も実現できるかも知れない
だが、軍人は一つだけ不満があった。それは世論の動きである
「対深海棲艦の兵器が出来たからって無暗に総攻撃しろってどうかしている。政治家だけでなく、民間人も言う始末だ。昨日、酒場で飲みに行ったら、こんな事を言われたよ。『何時になったら『切り札』で深海棲艦を駆逐するのですか』って」
「しかも艦娘の抑止力になるとか言っているんだろ。現場を見ないで無茶な注文をするのは上層部だけじゃなかったな」
実は対深海棲艦の兵器は『切り札』として扱われている。世論から軍を理解するために演習や兵器公開で大々的に宣伝したのだが、今ではそれが裏目に出てしまっている。『総攻撃派』という思想は伝染病のように蔓延し、日本だけでなく世界まで広まりつつある。今では艦娘まで攻撃すべきだ、という声まである。軍内部でもそう捉える者が少なからずいる。今の元帥は真面なので、無茶な命令なんてやらないだろう
人は超兵器を手にすると暴走させるものらしい。本来は国を守るものなのに、敵どころか味方である艦娘まで使わそうと促す始末だ
「まあ、言わせておけ。昔と違って今では──」
搭乗員が呑気に話している所、ブザーが鳴り響いた。アナウンスでは近海に新手の深海棲艦が現れたらしい
「行くぞ!」
搭乗員たちは航空機に乗り込み、エンジンを起動させる。銀河、紫電改、火龍は次々と離陸し、指定された海域に向かった
火龍はジェット機なので現場到着が早かった。だが、報告を聞いて、全員が固まった
『敵発見! 相手は『クラーケン』です! 間違いない!』
『は? 浦田結衣?』
搭乗員は全員、固まった。そんな事は聞いていない。数十人もの艦娘をたった一人で壊滅させた力を持つ人が何でいるんだ?
「本部へ! 報告が違う!」
『構わん! 敵に変わりない! 艦娘に代わって奴を仕留めるんだ!』
(マジかよ)
銀河の機長は問い合わせたが、基地司令の返事は攻撃続行だった
銀河、紫電改、火龍に乗っていた搭乗員達は冷や汗を流した
本気で言っているのか? あれは従来の深海棲艦とわけが違うんだぞ? しかも、自分たちが相手してきたのは、雑魚ばかりだ。戦艦レ級どころか姫級鬼級を倒せる力はまだないのに、熱線で撃ち落とす化け物を倒す力は無いんだぞ!? 深海棲艦のボスである戦艦水鬼改なんかは全く歯が立たなかったのに!
しかし、これは命令だ。対深海棲艦の兵器を搭載しているのだから、試したくなるのも分かる
「攻撃準備だ! 誘導弾発射を急げ!」
「は、はい!」
兵器員が準備してる中、銀河は進んでいく。何もない海の上にデカい艤装を持った人が立っているのを確認した。双眼鏡を覗くと相手が誰なのか分かった。写真で見たとおりだ!
「アイツが浦田結衣か……」
「機長、全機攻撃可能です!」
「攻撃開始!」
機長の合図とともに5機の銀河から一斉に誘導弾は発射された。誘導弾なので、命中するのは容易い
……が、相手は対空砲火を上げないどころか、避けようともしない
誘導弾は次々と命中。結衣がいた場所からは爆発が上がった。搭乗員は歓喜を上げたが、爆炎が収まると目を見張った
効果がない! いや、艤装に煙が上がっているため傷を負わせたが、みるみるうちに修復させていく
機長は現状を報告したが、基地司令の命令は非情なものだった
『再攻撃しろ! 火龍に爆弾を抱えているだろ! 急降下爆撃すれば威力が増す!』
『角度や兵器の問題ではないですよ!』
火龍の搭乗員は叫んだ。基地司令に歯向かうのはご法度だが、今はそれどころではない
そうしているうちに相手が動き出した。相手から赤い光を照射されたのだ。銀河の機長は何が起こったか分からなかった
レーザー光線が銀河を貫通。燃料が誘爆し双発の陸攻である銀河は木端微塵に爆発してしまった。他の航空機も同様だ。レーザー光線は火龍や紫電改を捕らえて撃墜されていった。数分の戦闘だったが、結衣がこちらに攻撃してきた航空部隊を全て撃墜してしまった
全滅の知らせを受けて航空基地の司令部は呆然としていたが、直ぐに立ち直り距離を置いて監視するよう命じた
何もしないわけにはいかない! 浦田重工業を根絶やしにしないといけない! 民間企業ごときが軍に跪くという過去の屈辱を許すわけにはいかない!
司令「やっぱり角度の問題じゃなかったか……」
深海棲艦相手に攻撃できる航空機部隊、結衣に挑むも全滅……