時雨の緊急任務 ~リベンジ~   作:雷電Ⅱ

2 / 76
第2話 山城暗殺未遂事件

 鎮守府には来客用として応接間がある。尤も、最近は忙しいため頻繁には使っていない。応接間には、ソファと机がある。刑事二人と提督が向かい合って座っていた。艦娘達も提督の左右に座った。時雨は提督の横にいる

 

二人は再度、自分たちの身分を名乗った

 

「ゼロ課は、刑事事件に当てはまらない、もしくは公にはできない事件を捜査するために作られた部署のことです。犯罪のみならず、幅広く捜査する特別捜査をします。勿論、浦田重工業の件についても」

 

「え? 特別捜査? あの時、警察も動いていたの?」

 

時雨は思わず声を出してしまった

 

「そうです。尤も、陸軍特殊部隊である502部隊のような過激なことは出来ませんでした」

 

 杉田警部は皮肉っぽく言った。確かに502部隊は、浦田重工業を倒すために仕方ないとはいえ、少々荒っぽく行動していた。まあ、彼らの行動はそこまで過激でなく、無暗に無関係の人を殺したりしていない

 

「そうです。あなた方の件についても資料で読みました。興味深かったです」

 

「そうですか。警察のお偉いさんからも感謝されました。あの時の感謝状なら──」

 

「未来から来た艦娘によって最悪の事態は避けた」

 

 提督が答えたが、杉田警部の言葉で空気が固まった

 

 提督は固まり、金剛と加賀は表情を変え、陸奥と大淀は刑事を睨んだ。時雨は心臓が早鐘のように鳴ったが、平常心を保った

 

 ……この刑事さんも見破ったのか? 

 

「ああ。ご心配なさらず。勿論、誰にも言っていません。ただ、浦田重工業の資料に貴方のことが書かれていました」

 

「ぼ、僕が?」

 

「ええ。機密資料の中に興味深い事が書いてありました。当時の関係者は、全く相手にしませんでしたが、私はそうは思いません」

 

 どうやら、当時の資料を見て時雨がタイムスリップしている事を信じているらしい。確かに突拍子の無いことが書かれている資料を見せられてもすぐには信じまい

 

 一応、時雨のタイムスリップ関連は機密扱いだが、警察や軍の関係者などの許可を得た者は見ることが出来る。しかし、SFのような事が書かれている資料を見せられて信じるものはいないだろう

 

 何しろ、提督の父親である博士が書いた論文は、難しく書いたお陰で理解するものは一握りだったのだ

 

「父の論文を読んでも噓と決めつけないとは」

 

「H.G.ウェルズの作品の中に『タイムマシン』という古いSF小説があります。私も手に取って読んだことがあります。なので、不思議な現象とは思っていません。そして、何よりもSFのような論文が国家機密になるのか? 答えは一つしかない。カバーストーリーにしては出来すぎた噓だと思ったわけです。あんな量子物理学などが書かれた数式計算式が、機密のはずがない。そう思ったわけです」

 

 杉田警部は提督の質問に答えた。どうやら杉田警部は柔軟な頭の持ち主ではなく、論文を理解する人らしい。つまり、エリートということだ。但し、相方の鶴川巡査部長の方は、理解できていなかったらしく、漠然と聞いていたが

 

 そんな話をしていると、ノックする音がして複数の湯吞みを載せた盆を手に持った山城が入ってきた

 

 山城は、会釈すると丁寧に置いた

 

「時雨、何もされていない?」

 

「僕は大丈夫」

 

 山城がなぜ、お茶を持ってきたのかわかったような気がした。時雨が心配なのだろう。そのため、お茶くみとして入ってきたらしい。おそらく、間宮さんに無理を言ったのだろう

 

 お茶を出されるのを両者は黙っていたが、杉田警部は興味津々で山城を見ていた。そして、思い出したかのように声をかけた

 

「君は……あの時の艦娘?」

 

「え?」

 

 相方の鶴川巡査部長は山城を知っているらしい。どこで知ったのだろう? 

 

「山城、知っているの?」

 

「いいえ。私は覚えていませんが」

 

 山城も面を食らったかのようにつぶやいていたが、鶴川巡査部長が助言をしていた

 

「覚えていないの? ほら、殺し屋に殺されかけたと通報してきた時、駆け付けた俺の事を」

 

 鶴川巡査部長の言葉で山城は、啞然としていた。どうやら山城は、以前に鶴川巡査部長と出会っているらしい。そういえば、確かにこの人はいた

 

「確か山城を迎えに行った時に立ち会わせた警察官だったの?」

 

「え? 本当に……覚えていないのか」

 

 時雨の一言で鶴川巡査部長はショックを受けたらしい

 

「そういえば、あの時に鶴川さんは居ましたね。まあ、本人は姉である扶桑に泣きついていましたが。……ところで、確か貴方はあの時、捜査1課にいたのでは?」

 

「……それは思い出さないでくれません?」

 

 提督も覚えていた。確か一か月前、山城はとんでもない事件に巻き込まれたのである。そして、命からがら逃げて付近の警察署に駆け込み事情を話したという

 

但し、あの時の鶴川は確か警部補だったような? 

 

 鶴川本人もバツが悪そうな表情をしていたため、無理に聞こうとしなかった

 

「あの事件で立ち会った君も凄いですね。私は別の事件に関わっていたため知りませんが、あの時は大騒ぎになりました。我々は凄腕の殺し屋を含め5人とクーデターを目論んでいる過激派組織の幹部である一人を逮捕できたのですから」

 

 杉田警部は、語った。警察庁からの発表によると、過激派組織の幹部は凄腕の殺し屋を雇って艦娘の殺害を命じた。ターゲットにされた山城は、攻撃を受け致命傷を受けるも命からがら逃げたらしい

 

 その際、依頼人に渡すために撮られた拘束された山城と殺し屋が映っている写真を手に入れたことで、警察は一網打尽に逮捕できたという

 

 そのためテレビでは『艦娘は艤装が無くても凄腕の殺し屋もやり合える力を持つ』と報道され、世間では山城は超人的な艦娘と知れ渡っている。内容も『山城は殺し屋から暗殺されそうになったが、山城は応戦。ヒーロー漫画のように素晴らしい身体能力で無力化して倒した。その際、彼女は負傷したものの命に別状はなかった』というものである

 

 だが、時雨をはじめ提督もその場にいた他の六人の艦娘達も頭を抱えていた。実は真実は報道されている内容と違うからだ

 

「あ、あれは……」

 

「そうね。これは何とも言えないわね」

 

 大淀も陸奥もため息をつきながら言う始末だ。時雨もこの事件のオチは知っている

 

「……? どうされましたか?」

 

 杉田警部も鶴川巡査部長も何のことかサッパリらしい。部署が違うため、情報が行き渡っていないのだろう

 

「あー、刑事さん。実はこの事件は、とんでもないオチがついていまして」

 

「オチですか? 是非とも聞かせていただきたい」

 

 杉田警部は興味津々だ。どうやら、気になるものは納得いくまで調べる人らしい。逆に興味ないものは、知ろうとしないのだろう

 

「知らないんですか? 違う部署みたいなんで知らないみたいですが。別に隠している訳ではないです」

 

 提督は、ちょっと笑みを浮かべながら山城が巻き込まれた事件を語った

 

 

 

 一か月半前

 

 ある真夜中、誰もいない公園のベンチに二人の男性が座っていた。一人は殺し屋、もう片方は過激派組織の一員である

 

「貴方のような凄腕の殺し屋にお会いできて光栄です。数年前のとある政治家の暗殺に関与していたとか」

 

「御宅はいい……仕事の話をしてくれ」

 

 殺し屋は、依頼人の話を興味なさそうである。殺し屋は、こういう依頼人がやってくる。彼の腕はいいため、闇の世界では有名である。警察も危険人物と血眼で探っているらしい

 

「実は我々の組織は、クーデターの準備をしております。ですが、我々の戦力は乏しい。警察や軍隊相手と戦う覚悟はありますが、軍艦並みの力を持った少女相手に戦うとなる事だけは避けなければなりません。ですが、艦娘を暗殺出来る能力を持っているという警告を送れば、艦娘を大事に扱っている、あの提督も慎重な判断をして戦力を出し渋るでしょう」

 

「敵対しても我々は艦娘をいつでも暗殺出来る、と警告をするつもりか?」

 

「はい。政府関連施設を急襲し人質を取れば、如何に軍も強硬手段が出来ない。しかし、艦娘は違う。軍の命令を無視して独断で乗り込むでしょう。我々には軍艦並みの力を持つ者を倒す技術も能力もない。戦力もそこまで割けない。そこで主力艦娘、戦艦の艦娘である1人を暗殺して下さい。こちら側も動きやすくなります」

 

 依頼人は自分の組織のクーデター計画の一部を述べた。過激派組織は、国のやり方に不満を持っていたからである。同志を集めていたが、やはり人が足りない。そのためには、派手なことをしなければ! 

 

「分かった。だが、報酬は前払いだ」

 

「勿論です。このカバンに3000万円*1入っています」

 

 殺し屋は依頼人から金を受け取った

 

 

 

 数日後

 

 凄腕の殺し屋は早速、艦娘について調べた。運送業者などに紛れて調べ上げるのも苦労しなかった。憲兵は502部隊の特殊部隊であることは分かっていたため、侵入して暗殺するような手荒なことは出来ない

 

 ターゲットも戦艦娘にすることにした。凄腕の殺し屋は、山城を暗殺対象にした。理由は単純で性格や行動を見たうえでの判断だった。山城にとっては不運だろう

 

 だが、この時……凄腕の殺し屋はミスをした。いや、人間にミスはつきものだ。問題はミスの内容である

 

 それは、相手を侮っていたのである

 

「艦娘についてだが……わざわざ俺が始末するほどの標的ではないな。別の殺し屋にやらせるか」

 

 なんと、他の殺し屋に依頼することにしたのである。というのも、艦娘は如何に超人的な能力を持っているとはいえ、それは艤装を付けたらの話。外した時は、普通の女の子と変わりない。いや、確かに艤装外しても身体能力が優れている者はいるが、あくまでスポーツ選手並み程度である。転べば怪我はするし、風邪をひく者もいる

 

 つまり、致命傷を負わせることもできるのである。実際に、ある料理対決で練習していた響という艦娘は、指を包丁で切って出血しているのを確認している

 

 艦娘も外出時には、艤装を外すため暗殺は容易である。つまり、外出時で暗殺する事になると難易度は下がる。スナイパーライフルと使えば容易だ。だが、か弱い(?)女1人のために殺すために凄腕の殺し屋がする仕事ではない、余りにも簡単な仕事だ。恐らく、過激派組織は艦娘を過大評価していたのだ。かと言って、返金する訳にもいかない。凄腕の殺し屋のプライドが許さない

 

 そこで、この程度の温い仕事は他の殺し屋に任せる事にした

 

 凄腕の殺し屋は早速、別の殺し屋に連絡を取った

 

「もしもし。実は1人始末して欲しい奴がいるんだ」

 

『おや、あんたから依頼なんて珍しいな?』

 

「ああ……千五百万円で出来るか?」

 

 凄腕の殺し屋は、知り合いの殺し屋に依頼をした。2人は話し合った結果、戦艦娘である山城を絞った。いつも、不運に見舞われていて嘆いているのを見たからである

 

 別の殺し屋は、金を受け取ると立ち去った

 

(俺ほどじゃあないが、あいつも腕の良い殺し屋だ。こんな仕事でしくじる事はないだろう)

 

凄腕の殺し屋は、知り合いの殺し屋を信じて殺しの下請けをさせた。だが、なんと……知り合いの殺し屋も同じ事を考えていた

 

「山城とかいう女1人にわざわざ俺が出るまでもねえなぁ……他の仕事もあるし、別の奴にやらせるか」

 

 凄腕の殺し屋に依頼された殺しの依頼は、下請けの下請けに回されたのだ。しかも、今度は半額どころか三分の一の値段で外注されてしまい……

 

「山城とかいう艦娘一人殺せば四百万円……楽な仕事だ。お前の腕を見込んでだ。頼んだぜ」

 

 この時点で報酬は、元々の八分の一近くまで減っていった

 

 だが、引き受けた殺し屋は、腕はそこまで良くはない。また、艦娘の情報を詳細に把握していないため、艦娘は超人という思い込みもあった

 

 そのため……

 

「こんな金額で殺せるわけがないだろ! ロケットランチャーも爆薬も無いのにどうやって……! 四百万円でこんな危険な仕事ができるかよ!」

 

騙されたと思っていたのだろう。殺し屋は、直ぐに別の殺し屋に依頼させた

 

 こうやって殺し屋の間で殺しの依頼がどんどんたらい回しに! その別の殺し屋も、標的が艦娘だとわかると、直ぐにやる気をなくした。

 

 そして……

 

「頼んだぜ」

 

「へい! あっしにお任せください! 百万円も貰えるなんて!」

 

(大丈夫かな?)

 

ついにどこの馬の骨とも知らない殺し屋まで仕事が回ってしまった

 

 凄腕の殺し屋が受け取った依頼金は三千万円。しかし、下請けに回され続けた結果、三十分の一。百万円まで中抜きされてしまったのだ! 

 

 人(艦娘)の命を奪おうというのに……

 

 しかし! 最後に受けた殺し屋は、ガッツだけはあった。用事で外出していた山城の後を追い、人気がいない通りに差し掛かっている時に暗殺しようと企んでいた

 

山城の外出時の行動は、全てお見通しだった

 

「あの女が標的か。……俺様が上手いことやってやるぜ!」

 

人気も居ない。今がチャンス! 遂に仕事が決行されようとした! しかし……最後に受けた殺し屋が、とんでもないことをしでかす

 

「おい、山城とかいう女!」

 

「な、何よ?」

 

 山城は不機嫌そうに振り向いたが、最後に受けた殺し屋はとんでもないことを話す

 

「実は俺……あんたを殺しに来た殺し屋なんだ」

 

「え? 何を言っているの?」

 

 山城も初めは冷たい態度で相手にしなかったが、相手が消音付きの拳銃を持っている事を見て、みるみるうちに青ざめた。艦娘は武器には詳しかったために、拳銃は本物だと分かったからだ

 

 艤装は手元に無い。しかも、正体不明の依頼で雇われた殺し屋がいる。どうあがいても、殺される。至近距離であるためかわしようがない。そのため、山城は体を震わせながら命乞いした

 

「ちょっと待って! 殺さないで……姉様、助けて!」

 

「安心しろ。俺だって、たった百万円であんたを殺したかねえんだ」

 

「噓……ひゃ……百万円? 私の命がそんなに安かったなんて……不幸だわ」

 

 山城は、殺されるという恐怖よりも、百万円で殺される理不尽さに衝撃を受けた。実は、この殺し屋、安すぎる報酬に不満を持っていたためである。検死官の目を誤魔化せたり、警察からの目をくらませたりする程の腕がないのだ。逮捕されては意味がない。そのため丸腰とはいえ、山城に直接接触したのだ

 

「死にたくなかったら俺に協力してくれ。お金をくれたら生かしてやる」

 

 山城は、直ぐに従った。艤装が無いため仕方のないことだ。渋々、財布を渡すと殺し屋は満足そうに受け取った

 

 そして……

 

「んー! んー!」

 

 ある廃墟の部屋にて、山城が椅子に縛られていた。抵抗しているが、頑丈な鎖で身動き取れず、口には猿ぐつわされており、山城は必死になって助けを呼ぼうとする。そんな状況の中、殺し屋は写真を数枚撮っている

 

 シャッター音が幾つかしたが、その直後……

 

「これでいいのかしら?」

 

「いいですぜ、お嬢ちゃん! 凄い演技力! 映画俳優にもなれますぜ!」

 

 山城は、猿ぐつわを自力で外し、殺し屋は満足そうにうなずいた。要は、殺し屋は山城と協力して『拷問して殺したふり』をしただけである

 

 山城を縛り上げた写真を撮って殺人を偽装。その写真は、無事に依頼主に届いた

 

「ふはは、やってくれたみたいだな。流石は凄腕の殺し屋! 高い金を払っただけの事はある! ……野郎ども、いよいよクーデターを起こすぞ!」

 

「「おおー!」」

 

 過激派組織は、クーデターの準備を始めた

 

そんな事を他所に、死んだはずの山城は、行方をくらますことになった

 

「じゃあな、お嬢ちゃん! 後は見つからないように、海外にでも高飛びしてくれ!」

 

「ありがとう……本当に助かりました」

 

 その日、山城は鎮守府には帰らなかった。山城は殺し屋が用意した船のチケットに乗せられたからである。山城は、殺し屋に見送られながら客船に乗り込んだという

 

これにて、殺人の偽装が成功。みんな金をもらって誰も殺されなくてハッピー! 

 

とは、行かなかった

 

 勿論、山城はこんな事をただ黙っている訳にもいかない。岸が見えなくなるのを確認した後、カッターを無断で降ろした。使い方は艦娘であるため知っていて当然だ。乗組員の制止の声を振り切り、真っ直ぐ鎮守府に向けてオールを漕いだのだ

 

(艦娘を暗殺するよう依頼した相手も殺し屋も、浦田結依と同じく恐ろしい存在に違いない! あの男は小物。小物を倒しても親玉を逃がしては意味がない。裏の裏をかかないと)

 

 山城は、いつも不幸を嘆いていても彼女は艦娘。慎重を重ねて、の行動だった

 

だから、殺し屋の要求に従ったのだ

 

 と、ここまでは良かったのだが、鎮守府に戻るためには安全海域とはいえ、コンパスも海図も無しで突っ切らないといけない。殺し屋が用意した客船は、鎮守府よりも遠いところだったためである。途中で岸につけても良かったが、それだと殺し屋にバレる。それに遠征中や出撃中の艦娘の艦隊や海保に拾われるかもしれない。……深海棲艦が現れたら終わりだが

 

 近海とはいえ勘だけで鎮守府に向けてカッターを漕ぐ。無茶もいいところである。奇跡的に深海棲艦には出会わなかったものの、艦娘にも出会わず。力も尽きて山城のカッターは海流に流されて漂流。しかも時化に合い、大波に飲み込まれながらも何とか海岸に到着。通りかかった通行人が通報したため、警察に保護された

 

 一方、鎮守府は大騒ぎだった。突然、山城が行方不明になったからだ。皆が必死に探している所、警察から連絡を受けた

 

 警察の連絡によると、意識は朦朧としていたが、殺し屋に殺されかけたと言うこと。そして、命からがら逃れたと言っただけである

 

 勿論、こんな事で艦娘も502部隊も黙っている訳がない。警察と合同捜査で山城と接触した殺し屋を逮捕。その後、芋づる式で一連の事件の関係者を逮捕したのだ

 

 警察庁は大いに喜んだ。何しろ、指名手配犯の中には重要人物もいたからである。凄腕殺し屋と過激派組織の幹部を逮捕出来たのだから、仕方の無いことだ

 

よって……

 

『艦娘山城、過激派組織に雇われた殺し屋6人を相手に素手で戦い重症を負ったものの、海を泳いで逃げ切り無事生還した』

 

 と先走って発表したのである。勿論、取り調べで真実が違うことに拍子抜けしたのは言うまでもない

 

 裁判が行われたが、裁判所ではカオスと化していた

 

「間抜け過ぎる……」

 

「テメー、ちゃんと殺れと言っただろうが!」

 

「うるせー! 報酬が少なすぎるんだよ!」

 

 被告人の席では、互いに言い合っており、その横では依頼人である過激派組織の幹部は殺し屋達を睨んでいた

 

 検察官も裁判官も事件担当していた刑事もこの事件には呆れており、弁護士ですらため息をついていた

 

 記者達もこの間抜けっぷりに書く気にもなれず、報道もされなかった。一応、週刊誌はこの事件の全貌を載せていたが、あまりの突拍子の無い内容にほとんどの国民も信じられなかった。真実であるにも拘わらずである。提督も艦娘達も、真実を聞いてあきれていた

 

 

 

「……え? じゃあ……岸で瀕死になって倒れていたのは、殺し屋から逃げたのではなくて、ただの海難?」

 

「そう……」

 

 山城は、気まずそうに答えた。まさか、ここで過去のことが思い出されるとは思わなかったのだ

 

「道理で鶴川君の同僚が機嫌悪かったはずです。確か、君が担当するはずだった事件を奪われたと。殺し屋の襲来が来るので護衛しろと、言われた」

 

 どうやら、鶴川巡査部長は、そういう経緯で山城と出会ったらしい。以前は、刑事だったようだ

 

「あの日、最悪だった。姉様にお土産を買おう外出していたら、殺し屋に出会うなんて。しかも、あの後風邪をひいて寝込んだのよ。不幸だわ……」

 

 山城は暗い顔で呟いた。本人にとっては迷惑極まりなかった。殺し屋と出会った時は死を覚悟していたが、実はその必要性すらなかったのだ

 

「でも、生きていてよかったじゃない。僕は本気で心配したんだよ」

 

「べ、別にあんな殺し屋なんて私一人で対処できたわ」

 

 時雨が慰めた所、山城は僅かに頬を赤くしながら言った

 

素直ではないな、山城は

 

 

*1
史実では1円未満のお金である「銭」と「厘」が無くなったのは戦後(1953年)である。ややこしくなるのを防ぐため本作品では「円」である




裁判所
検察官「今回の事件で何か反省すべき所は?」
殺し屋「受けた仕事は自分でしっかりとやらなければならないと感じました」
検察官「反省するところはそこじゃないだろ!」

傍聴席
提督「更正する気ゼロか」
時雨「殺し屋にも下請けがあるんだ」
山城「相手がゴルゴ13並みの殺し屋でなくて良かった」

山城、不運によって殺し屋の魔の手から命からがら(?)逃げ切る。殺し屋全員逮捕出来たのは幸運かな? 

実は山城が不幸にも巻き込まれてしまった暗殺未遂事件の話、海外で最近起こった実話を参考にしています
興味ある人は調べてみてはいかがでしょうか
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。