時雨の緊急任務 ~リベンジ~   作:雷電Ⅱ

20 / 76
※警告……グロテスクな描写が僅かながら含んでいます


第20話 地図に載っていない島

 呉に移動してから数日後、移動場所が変わったものの特に変化は無かった。変化ないというのは発見が出来ないからである

 

「平和……だね」

 

「ああ」

 

 それもそのはず、深海棲艦が海域から消えたからである。深海棲艦は本来、安全海域を除いて、海域には必ず存在していた。深海棲艦のパトロールみたいなものであるが、海域には敵が見当たらない

 

 だが、誰も喜ばなかった。何かしらの兆候かも知れない。時雨も他の艦娘も薄々と感じていた

 

「やっぱり、移動しなかった方がいいんじゃあ……」

 

「どうかな。広範囲である太平洋から一隻の艦を見つける事なんて砂浜から米粒を見つけるようなものだ」

 

 時雨は聞いたが、提督は否定した。提督の言っている事は確かに一理あり、捜索は難しい。深海棲艦と違って縄張りという概念がないのだから当然である

 

 浦田残党のアジトも不明であるため、何も出来ない。入ってくる情報は全て浦田結依と遭遇して部隊がやられた、というだけである。

 

「警戒を続けてくれ」

 

 提督はそう言ったが、それしか出来ないだろう。浦田残党が陸から攻撃する事も考えたが、鎮守府を守っているのは特殊部隊である502部隊がいるため、そんな事はないだろう

 

 海から攻撃を受ける可能性が高い

 

 鎮守府内では、いつもより緊張が増していた。ロシアとアメリカの件で聞かされれば誰だって落ち着かない。ただ、政府や上層部からは「まだ仕留められないのか?」という催促が来ている。世論も同じだ。米露も危機感はないどころか、報復する気満々である。それどころか対日感情が悪化しているのだ

 

 浦田残党は日本が生んだテロリストと認知されているのだから仕方ないのだろう。国際問題にまで発展しないことを祈るしかないが

 

 お陰で敵よりも国内外の事で提督も艦娘も頭を悩ませている。こうした事から、長門は「ゲリラ戦法で不安にさせて世論を使った攻撃をしているのではないか?」と思うようになった。敵がどんなに強かろうが所詮は1人であるし、深海棲艦を操る能力も前回と比べて劣っているのだろう。レーザー兵器以外は対処できるため、結衣にとっては戦いづらいのではないか? と思っているらしい。時雨も浦田残党や浦田結衣がこちらを攻撃してこないため、行き詰ったのではないか、と思ったことがあった

 

 確かに東京湾で酷い目にあったが、撃沈された者はいない。浦田重工業もワームホールもないため未来兵器も製造出来ないはずだから、勝てるだろう。艦娘の数は多いから物量で押せば勝てるだろうと思っていた。アイオワもイントレピッドの手紙を参考にあれこれ考えている

 

 だから、次の襲撃も対処出来るはずだ。

 

 だけど、実際はそうでもなかった。油断した訳ではなかった。敵が余りにも狡猾だった

 

 

 

 その日の夜、事件が起きた

 

「呉についたのに観光に行っていないっぽい」

 

「折角、いっち番に上陸しても素直に喜べないね」

 

 駆逐艦寮の部屋では、夕立と白露が話していた。他の艦娘も同じだ。捜索のために出撃しているが、会敵の情報は無い

 

「明石さんがタイムマシンというのを作って過去に遅れたら解決出来るのにね。今度は村雨が行ってみたい」

 

「それが出来るのなら素直に喜べるのに……。今度ばかりは出来なさそう」

 

 時雨の指摘に村雨は何も言えなくなった。一周目において明石や提督は亡くなった提督の父親である博士のデータを基にタイムマシンを作り上げたお陰で勝利した。タイムマシン作戦は辛くも勝利したが、博士は悪用を恐れて研究データも論文も全て破棄した。浦田重工業の方は、平行世界の未来から来た人がワームホールを管理していたが、全員送り返したので製造は不可能だろう

 

 ワームホールもタイムマシンも深海棲艦や艦娘に深くかかわっているため、他の人が真似することは出来ない。仮に居たとしても一から研究することになるため、膨大な時間と資金と資材が必要になるだろう

 

 逆を言えば、こういう危機的状況が訪れると自分たちで何とかするしかない。だが、まさかあの浦田結衣が蘇るとは予想もしていなかった

その時だ。左腕がチクリとした

 

「イタ!」

 

「どうしたの、時雨。 ……ってその傷はなに? 何か噛まれたの?」

 

「これは東京湾の結衣に付けられた傷だよ」

 

「でも、噛まれたような傷痕にも見えるけど」

 

 時雨は左腕を見たが、どこで付けられたのか分からなかった。というより、覚えていない。東京湾の時はズタボロだったのだから

 

 周りが心配そうに見ていたため、時雨は慌てて話題を変えた

 

「そう言えば、今日の夜間哨戒は誰?」

 

「確か如月と睦月たちっぽい」

 

「無事だといいんだけど」

 

 時雨が何気に呟いたが突然、館内放送から凄まじい警報音が鳴り響いた。それまでのんびりとしていた雰囲気から一気に空気が張り詰め、時雨達は直ぐに部屋から駆け出した。緊急事態であるのは間違いない。鎮守府から爆発音や発砲音も聞こえないため、夜間哨戒が敵を見つけたんだ! 

 

 時雨達は港まで走り艤装を装着すると出撃準備に入った。港には提督が既に居た。時雨達が到着するや否や提督は状況を説明した

 

「川内が貨物船4隻と複数の駆逐ナ級後期型Ⅱが瀬戸内海を航行しているのを発見した。現在は追跡している。そして、どういうわけか赤目をした戦艦ル級改flagshipを発見した」

 

「それって……」

 

「ああ。明らかにあのクラーケン、浦田結衣だ! 偽装している可能性が高い! 仮に違ったとしても船舶を攻撃しない深海棲艦なんてあり得ない! 浦田残党だ!」

 

 時雨は驚愕し、周りも騒めいた。戦艦ル級改flagshipは結衣が深海棲艦と見せかけた偽装工作であり、よく使っていた姿でもあった。既に力を手に入れたにも拘わらず、姿を戦艦ル級改flagshipにする必要性があるのか? ……まさか、コンバート改装で戦艦ル級改flagshipになれる能力まで手を入れたのか? 

 

「戦艦ル級改flagshipですか……なぜ敵はそんな姿を」

 

「不明だ。だが、わざわざ通常と異なる行動をしている。挑発をしているか何か目的があって瀬戸内海を航行しているのか」

 

 鳥海は驚いていたが、提督を初め誰も分からないだろう。恐らく、挑戦状だろうが、この誘いを乗るべきか? 

 

 しかし、提督も艦娘もやることは決まっている

 

「罠であるのは確かだ。だが、見過ごす訳にはいかない。舐めた事を後悔させてやれ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

 

 艦隊は三つに分かれて航行した。戦艦や空母を編成した金剛比叡赤城加賀長門武蔵長門であるAグループと軽巡神通を旗艦とした時雨、雪風、夕立、初霜であるBグループで行動していた

 

 重武装で遠距離攻撃した隙に足が速く機動力がある軽巡駆逐で切り込みをかけるという方針だ。ただ、危険が伴うため幸運と火力に恵まれている駆逐艦が選ばれた。夜間戦闘機や艦攻も積んでいるのだから先制攻撃はしておきたい

 

 Aグループは浦田結衣、Bグループは護衛している駆逐ナ級相手にさせる

 

 そして、もう一つのグループは潜水艦娘だけで編成したCグループがいる。戦闘が発生した隙に船団に攻撃する手段である

 

 今回、第一攻撃目標は船団を狙う事にした。何をするか分からないからである。結衣を倒せなくても武蔵長門が牽制してくれる。そして結衣が戦艦である以上、本人が対潜攻撃する手段は知れている。前回でも深海棲艦の駆逐ニ級や軽巡ツ級などにやらせていたのだから。唯一の問題は、大和が出現しなかったことを嘆いていた。鎮守府の防衛と待機要員のため仕方ないのだが

 

 レーダー波は検知されていない事から、電波管制しているのだろう。時雨がいるBグループは夜間哨戒と合流するため座標に示された地域に向かったが、そこで信じられない事を聞かされた

 

「姉さん、敵は何処?」

 

「あの島。あれ」

 

 神通は物陰に隠れていたグループを発見。如月と睦月はホッとした顔をしていたが、川内は違っていた。島を指さしていた。夜とはいえ、空には星が輝いているためぼんやりと見えるが、確かに島影はあった。その近くに貨物船らしき船と駆逐ナ級後期型Ⅱ数隻がいた。駆逐ナ級後期型Ⅱは貨物船から離れようともせず、周囲を警戒している

 

「あの島がどうかしたの?」

 

「島の名前が分からない」

 

「え?」

 

「だから、島の名前が分からない。海図を見ても載っていない」

 

 川内の予想外の報告に皆が啞然とした。海図を見て場所を確認したが、どういうわけか島が描かれていない。川内が持っている海図だけでなく、神通が持っている海図も同じように島が描かれていない。まるで、島の存在を消しているかのようだ

 

「印刷ミスじゃないよね?」

 

「二つの海図とも載っていないのはあり得ないです」

 

 時雨は何気なく言ったが、雪風は否定した。深海棲艦がいる海域はともかく、瀬戸内海は近海だ。印刷ミスにしてはおかしい

 

 突然、島が現れたという事でも無い限りはあり得ない

 

「武蔵さんに知らせた方がいいっぽい」

 

「その必要はないです。向こうも気づいていますから。提督も困惑していましたし」

 

 神通は攻撃準備を整えながら言った。探照灯の準備は出来ている。例え海図に載っていない島があったとしても作戦に変更はない

 

 

 

「地図に載っていない島がある?」

 

「はい。ここ辺りですが」

 

 提督室では、提督と大淀が海図を睨んでいた。ABCグループの報告を受けて海図に書き込んでいた。三グループからの報告は同じ。呉からあまり遠くない所に地図に載っていない島。提督は民間が発行している地図を見たが、そこにも載っていない。瀬戸内海には小さな島はたくさんある。だが、艦娘からの報告にある島だけはどの地図にも載っていない

 

「どうします?」

 

「作戦に変更はない。Aグループは先制攻撃をしろ」

 

 提督は不審がっていたが、今更変更する気はない。なので、攻撃するよう命じた。だが、提督も大淀も他の艦娘も知らなかった

 

 

 

 時雨達が見た島は実は大きな闇を持っていた事に

 

 

 

『島のことは後回しだ。予定変更はない』

 

 提督は無線で知らせた。もう電波管制する必要はない

 

「分かった。相棒、戦いの合図を出していいか?」

 

 武蔵は51cm主砲の仰角を上げた。相手の動きの分析等は提督の仕事だ。なら、こっちは敵を倒すまでだ

 

『構わん。初弾で当てたらアイスをおごるぞ』

 

「了解、では遠慮なく……てっー!」

 

 51cm主砲六門が一斉に火を噴いた。熟練見張り員で距離も方位も分かっている。なので、砲弾を装填し発射態勢は既に出来ていた

 

 こちらに気づいているかどうかは知らないが、アイツを再び地獄へ送ってやる! 

 

 51cm主砲弾は目標を目掛けて飛翔し、戦艦ル級改flagshipに全弾命中した。精密誘導弾でもなく当てるのは至難の業だ。だが、武蔵はやってのけたのだ

 

 長門を初め金剛比叡も後に続く。金剛と比叡は改二丙になっており、夜間突撃を得意としている。赤城加賀も攻撃機を全て上げた。結衣の注意をそらす必要がある

 

 

 

「チッ、あの主砲は本当に厄介だ!」

 

 結衣は砲弾を浴びながら悪態をついた。51cmだけでなく、41cmや35.6cmの主砲弾が雨のように降ってくる。更に爆音も聞こえて来る事から敵は夜間戦闘機や夜間攻撃機が発艦できる空母がいるという事だ

 

 迎撃しようと奴らに攻撃しようとするが、別方角から複数の影がやってくる

 

 砲声からして軽巡駆逐の艦隊だろう。実際にレーダーを作動させレーダーの反射率からして間違いない

 

 駆逐ナ級は必死に応戦していたが、艦娘は怯む事無く撃ち返している。しかも、あの艦娘の中に時雨がいる。捕らえてやりたい所だが、物事には順番がある。自分だけが強くては意味がない。そのためには時間稼ぎしなくては

 

「奴らを迎撃しろ」

 

 駆逐ナ級は突進して迎撃を行った。結衣が従えている駆逐ナ級は通常のナ級ではない。複数のナ級を操り自身の能力で進化させた。平行世界のイージス艦を参考に攻撃力防御力だけでなく、対空対潜能力を上げたのだ。正確無比な射撃管制でかつ、強力な特殊な砲弾を積ませたからである。ミサイルは積んでいないため、イージス艦よりかは遥かに劣るが問題ないだろう。世間ではナ級後期型Ⅱと呼んでいるが

 

 実際にニ三人は大破させ、航空機を迎撃させている。こちらも砲撃しようとした時、貨物船の二隻が爆発炎上した

 

「何?」

 

 ナ級後期型Ⅱは爆雷やホットヘッジを投下しているのを見ると、潜水艦娘までいる。だが、魚雷音は聞こえなかった

 

(何をした?)

 

 結衣は焦った。こいつ等、船団を狙っている! 

 

 

 

「敵の新型駆逐ナ級、撃破した! こいつら強い!」

 

 時雨は主砲を撃ちながら言った。新型ナ級はとても手ごわく中々沈まない。探照灯を照射した川内は集中砲火を浴び、如月と睦月は大破した。だが、夕立はナ級の猛攻をものともせず、突撃して至近距離からナ級に向けて魚雷攻撃をした。雪風も時雨も負けじと攻撃している。幸運艦であるため、気が引けていたが、今では助かっている。撃沈報告はない

 

 交戦が行われている時、貨物船の二隻が爆沈した。火柱が立ち、船が真っ二つに破壊している

 

「潜水艦が爆弾をセット出来たんだ!」

 

 時雨は喜んだ。実は潜水艦娘は魚雷攻撃を行っていない。それは新型の駆逐ナ級がいるためである。いくら魚雷が優れているからと言って当たらなければ意味がない。そのため、確実に撃沈する手段を選んだ。潜水艦娘はABグループが交戦しているさなか、コッソリと接近し貨物船に時限式の高性能爆弾を船底にセット。磁石でくっつけるようにしているため離れても問題ないし、安全な距離まで逃げられる。伊13と伊14が「伏龍のような刺突爆雷でやると思っていた」と苦笑していた。大半の艦娘は、伏龍*1は何なのか分からなかったが

 

 しかし、これは奇襲攻撃なのでもう使えないだろう。爆雷にやられ大破した潜水艦娘が浮上した事から、もうこの手は使えない。ならば、魚雷攻撃で撃沈させるまでだ。時雨と雪風は伊14を援護するため駆けつけた

 

 

 

「貨物船の2隻が撃沈したぞ!」

 

「おかしい」

 

 長門は嬉々していたが、武蔵は違った。結衣は攻勢して来ない。戦艦ル級改flagshipからクラーケンに変形したが、主砲弾をレーザーで迎撃しているだけで全く攻撃して来ない

 

「結衣は非道な行為はするものの、貨物船の防御など不得意なはずだ」

 

 提督がブリーフィングで言っていたが、どうもそんな気にはならない。確かにレーザー兵器は海中には役に立たない。だから、潜水艦娘が敵貨物船の撃沈任務に出された事には不満はない。しかし、どうも奴の戦い方ではないような気がした。奴は51cm主砲を持っているにも拘わらず、反撃するどころか発砲すらしない

 

(こちらに発砲して来ないなんて舐めているのか? だが、だからといって攻撃を緩めない! 沈めればそれでいい!)

 

 内心では不安はあったものの、武蔵は攻撃を命じた。既に距離は近くなっている。レーザー砲は相変わらずこちらの砲弾を迎撃しているが、全て防ぐには無理だろう。ナ級の軍団も時雨達が片付けている

 

「終わりだ、結衣!」

 

 武蔵は一斉射撃をするために吠えたが突然、海図に載っていない島から無いかが投げ出された。袋のようだが、結衣がキャッチすると何かが入った袋を艤装に取り込んだ。余りの突然の出来事で武蔵は一瞬呆気に取られたが、結衣はその隙に戦艦クラーケンから戦艦ル級改flagshipに変形した。そして、すぐさま主砲を武蔵に目掛けて撃って来たのだ

 

「41cm主砲弾で私の装甲は──」

 

 武蔵は身構えたが、なぜか41cm主砲弾は武蔵に命中するよりも手前で炸裂した。他の砲弾も同様だ。長門も金剛も比叡もこの奇妙な光景に戸惑ったが、次の瞬間、金剛は苦しみ出しながら倒れた比叡に至っては、血反吐を吐いてのたうち回り始めた

 

「しっかりしろ、何が──」

 

 長門は金剛に駆け寄ったが、長門も突然、呼吸困難に陥り目が見えなくなった。武蔵は結衣が何をしたのか瞬時に理解して慌てて離れたが、武蔵も金剛と同様に倒れこんだ

 

「目が……目が見えない!」

 

 加賀は絶叫してのたうち回ったが、何が起こったのか本人も分からない。艦載機も突然の事態に右往左往していた。赤城は既に倒れていて意識を失っている

 

「アイツ……まさか毒ガス弾を……」

 

 どんなに力自慢の武蔵でも毒ガスには勝てなかった。人と近い生命体である以上、避けては通れないものだ

 

 戦艦ル級改flagshipはニヤリとすると、時雨達に目掛けて砲弾を放った。このままだと全滅してしまう!! 

 

 

 

 異変はBグループにも察知していた

 

「何があったんだ?」

 

 川内はAグループとの戦闘を一部始終見ていた。結衣が砲を発射したと思ったら、弾が武蔵たちの頭上で炸裂したのだ。不良品かと思っていたが、武蔵や長門が突然、倒れたのを見て何があったのか直感で理解した

 

「まさか……まさか、そんな事! 逃げて! 敵は毒ガスを撃ってくる!」

 

「えー!」

 

 時雨は叫んだが、敵は既にこちらに撃ってきた! 川内と神通は時雨や雪風などを強引に突き飛ばす。毒ガスは気象に左右されやすい。夕立と初霜は風上にいるため、影響は少ないだろうが、風下にいる雪風と時雨は不味い。二人は安全である方角へ投げ飛ばすと飛翔する砲弾に目掛けて突進した

 

「待って!」

 

 時雨が着水して立ち上がったが、視界には神通と川内は倒れていた。炸裂した毒ガスを浴びたのだろう

 

「時雨ちゃん、落ち着いてください!」

 

「ダメっぽい! ガスで夕立たちまでやられる!」

 

 時雨が駆けつけようとしたが、雪風と夕立と初霜は全力で阻止した。もし、駆け付けたら時雨も毒ガスやられるのは目に見えていた。潜水艦娘たちも潜水して逃げていたため問題はなかった。逆を言えば、浮上が出来なくなっている

 

 戦場が突然、なにがなんだか分からないうちに、恐るべき修羅場になっていた。だが、幸いにも風は急に強くなり、ガスが拡散希釈されたこともあって問題はなかった。だが、毒ガスを浴びた艦娘は無事ではなかった。あの武蔵さんも倒れていた

 

 ……いや、無事な人はいた。こちらに近づいてくる

 

「何であの人とナ級は無事なの?」

 

「私は深海棲艦の力を持っている。こんな毒ガスなぞには効果ない。口径が合わないから昔ながらの姿にする必要があったがな」

 

 初霜が小声で呟いたが、結衣は何事もなかったかのように歩いている。離れているとはいえ毒ガスの影響を受けるはずだ。だが、何もなかったかのように立っている! 

 

「大量のBC兵器と資材などは手に入れた。あの島はまだ放置されていて良かったよ。本来ならお前たちの監獄にするつもりだったが」

 

「君の仕業なの? あの島を地図に載せないように工作したのは!?」

 

「ん? なんだ、お前は知らないのか?」

 

 時雨は吠えたが、結衣は軽くあしらった。まるでバカにしているかのようだ

 

「滑稽だな、時雨。悪は不滅なのだよ。だから私は生き返ったし、兵器も手に入れた。お前は何も変わらない。提督……いや、『狂人の息子』と仲良しごっこしたくらいかな」

 

 結衣の嘲笑いに時雨は激昂して砲を向けたが、結衣の方が早かった。砲弾は毒ガスが入っていたらしく、霧のようなものが時雨達を覆った。慌てて逃げようとしたが、既に遅く時雨は焼けるような痛みが全身に走った。目も開けられず、涙と鼻水が出る始末だ。雪風も夕立も初霜も時雨と同じく戸惑っている

 

「田中の野郎、間違って催涙剤を砲弾に詰めたな。いや、これもお前の幸運だとでもいうのか? 幸運艦は伊達じゃないな」

 

 結衣は戦艦ル級改fiagshipからクラーケンに変形した。レーザー砲が時雨達に向けられる。催涙剤は強力らしく、回避行動すらとれない*2

 

「首を貰うぞ、時雨!」

 

 時雨は咄嗟に身構えた。もうダメだ! 涙で何も見えないし、戦える雰囲気ではない

 

 だが、突然の爆発音が結衣の方角から聞こえてきた。何者かが結衣に攻撃をしたのだ

 

 爆風で時雨は海面に倒れた。催涙弾のお陰で目は開けられなかったが、爆発音に交じって深海棲艦独特の咆哮と罵声が聞こえる。確かこの咆哮は……

 

 時雨は微かに目を開けて何が起こっているのかを見た。涙で視界は歪んでいるが、姿は間違いなかった

 

 

 

 深海棲艦のボスである戦艦水鬼改が結衣と戦っていた

 

 

*1
史実において旧日本海軍が開発した特攻兵器(?)。簡単に説明すると重い潜水服を着て海底に潜み船が近づいてくるのを確認すると竹竿の先端に約15kgの炸薬を括り付けた長い棒を突き刺して爆破させるというトンデモ兵器。本作品ではそんな事はしない

*2
催涙ガスはデモ・暴動鎮圧、犯罪者の抵抗力をそぐ、などの用途に広く使われているが、子供や老人などに使用すると最悪死ぬ場合がある。催涙ガスも分類上は化学兵器にである。非致死性の化学兵器ではあるが




活動報告通り化学兵器が登場
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。