時雨の緊急任務 ~リベンジ~   作:雷電Ⅱ

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中々面白いので人気になった理由が分かります
それはそうと、護衛艦『もがみ』が進水したため最上が改二に!
残るは三隈


第22話 闇の歴史

 その次の日は最悪の出来事が起きた。都市部で化学兵器を使ったテロ行為が起こった。いや、テロではない。化学兵器を使った軍事攻撃だろう。浦田残党は何処から集めたのか人が増えており既に大規模組織となっていった

 

 未だ浦田重工業に思い入れる人がいたらしい。こういった事は珍しくなく、簡単に思想が消えることはない。浦田重工業は日本を発展させた実績もあるため、夢見る人は多い。提督も時雨も頭を抱えた

 

 これでは今までの苦労が水の泡になる

 

 世論では化学兵器による攻撃の非難よりも正当化する声の方が日に日に増している。まだ無視できるレベルだが、警戒する必要がある

 

「なんで皆は浦田重工業に肩を持つの?」

 

「夢と希望のためじゃないかな? 浦田重工業は日本を発展させただけでなく、政府中枢までやり方を変えた。しかも、豊かにしてやったのだから未だに信じる人はいるだろう。浦田社長が死んだら変わるかと思ったが、現実は違った」

 

 時雨は信じられなかったが、提督は残念そうに答えた。提督室では時雨や数人の艦娘たちもいたが、提督の知らせを受けて皆は衝撃的だった

 

「夕立たちは追い出されるっぽい?」

 

「流石にそれは無いが警戒する必要はあるな」

 

 夕立は項垂れていたが、実は思想と言うのは中々根絶できない。政治思想も然り、宗教も然りである

 

 提督によると人は何かに縋らないと生きていけないらしい。勿論、全ての人はそうとは限らないと言っていたが

 

「それはいい。武蔵たちの容態は?」

 

「明石さんが高速修復剤を改良したやり方を模索しているけど」

 

 陸奥は首を振った。毒ガスを想定していないため、入渠程度では回復出来ない。そのため、明石があの手この手で手を尽くしているが、まだかかりそうである

 

 ただ、命に別状はない事なので問題はないだろう

 

 ……軍医は後遺症を気にしているが

 

「なるほど。ところで元帥から連絡があった。俺は大本営へ向かう。名前を呼ばれた者はついてきてくれ。大和、瑞鶴、矢矧、時雨、夕立だ。艤装も持っていく」

 

 提督の突然の出来事にその場にいた皆は驚いた。急な出来事だ

 

「あ、あの……艤装って何ですか? まるで軍のお偉いさんに喧嘩を売るような……」

 

「逆だ。下手な態度で向かったら抹殺されるかもな」

 

 大和は恐る恐る聞いたが、提督は相変わらずだ

 

「提督さん、冗談はあまり──」

 

「俺が冗談で言っているように見えるか、瑞鶴? 弾薬も爆撃機も持って行け。全くこんな気分になったのは軍に入る前だな」

 

 怒りに交じった提督に皆は感じだ。これは本気だ。ただ、なぜ提督は怒っているのだろうか? 相手は軍のお偉いさんだ

 

 では、何だろう? もしかして……

 

「やっぱりあの島に何か秘密が」

 

「秘密? 秘密なんてものじゃない。俺がこんなに怒ったのは久しぶりだな」

 

 この瞬間、時雨は提督の目が鈍く光ったように感じた。夕立は「提督さん、怖いっぽい」と怯えていたが、時雨は悪寒が走った

 

 恐らく、提督は何らかの形で島の情報を入手したんだ。だから怒っていた。『失われた未来』でもこんなことがあったような気がする。記録だけど

 

 しかし、『失われた未来』の記録に無いという事は何なのだろう? 

 

 だが、提督は何も言わなかった。提督代理を陸奥に任せると六人の艦娘たちと一緒に大本営へ向かった。後は待機していたが

 

 ただ、提督は大淀に陸奥にある資料を渡すよう言われた。それを皆に伝えるようにと

 

 資料は50ページにも及び陸奥はため息をついたが、紙を取って読み進めていくうちに青ざめていった。いつの間にか、食い入るように読んでいた。デスクワークはあまり好きではないが、ここまで夢中になるのは初めてだ

 

「これ……本当なの……」

 

 陸奥は静かに呟いた

 

 

 

 

 

 提督と時雨達が大本営に着いた日は雲が低く垂れ込めていた。

 

 大本営の会議室では緊急招集されており、その場にいる誰もが曇った表情をしていた。だが、数名だけは違っていた。統合参謀長である元帥は烈火ごとく怒っており、提督の父親である博士も502部隊の小隊長もため息をついていた

 

 また、この会議には軍関係者だけでなく警察関係者や退役した元軍人までもいた。まだ会議が始まっていないのに、ある刑事は口を開いた

 

「毒ガスによるテロ攻撃でなぜ公表をしないのですか? 私はあれが浦田重工業によって生み出した兵器ではなく、軍の兵器だと見ています。証拠もあります。ですから──」

 

「心配しなくていい、杉田警部。こんな優秀な刑事が警察庁にいたとは驚きだ」

 

 元帥はいなしたが、杉田警部は全く気にはしていない。鶴川巡査長だけでなく上司である刑事部長は気が気でなかった。何しろ、ここは軍関係者だ。下手をすれば何をされるか分からない。いや、法関係ではない。国家機密に関することで首を突っ込んだ事だからだ

 

「現場に残っていた不発弾の砲弾はわざとだ。アイツら、こんな隠し玉を持っていたとは」

 

「それは何ですか?」

 

 杉田警部が聞こうとした時、会議室のドアが開いた

 

「毒ガス攻撃を受けて迷惑しているのはあんた達だけではない!」

 

 杉田警部が後ろを振り返ると、艦娘たちを指揮する提督がいた。軍服を着ていて身なりはしっかりしていたが、とてもお怒りらしい。その後ろには大和と瑞鶴、矢矧に時雨や夕立がいた。皆は慣れていたが、夕立は初めてだったらしく半ば上がっていたが

 

「また会いましたね」

 

「何であの刑事さんがいるの?」

 

 皆がどよめいている中杉田警部が朗らかにあいさつしていたことに時雨は驚いていた。軍の会議室に警察が入り込んでいるのは異例だ、少なくとも

 

「あー、関係者は集まった事だし初めては……」

 

「分かっている。全く、次から次へと厄介ごとを起こしやがって!」

 

 提督の父親である博士が恐る恐る言ったが、元帥は変わらない。寧ろ、ここまで顔を歪ませて怒っているのは時雨を初め他の艦娘も初めてだろう

 

 元帥は提督の父親である博士の先輩にあたる。だから、たまにではあるが会っているし、交流もよくやっていた。だが、ここまで怒らせたことは何なのだろう

 

 

 

 同時刻

 

 鎮守府では皆が講堂に集まっていた。海外艦もである。大淀が説明することになっていたが、大淀も陸奥も暗い表情をしていた

 

 皆が集まり静かになったところで大淀が口を開いた

 

「提督の指示の元、あの島について話します。実は皆さんに残念なお知らせがあります」

 

 大淀の説明に皆は驚いた。残念なお知らせとは何だろう? 

 

「これからの説明は国家機密まで含まれています。最悪の場合、軍……いえ、国と対立するかもしれません」

 

「ど、どういう事?」

 

 伊勢は驚いたが、大淀は宥めた

 

「浦田残党や浦田結衣が立ち寄った海図に載っていない島。あの島は、地図から消された島だったのです」

 

 大淀がスクリーンに映し出された航空写真の島を見せながら言った

 

「地図から消された島? あの島が?」

 

「ええ。しかも地図を消したのは政府と軍です。島の名前は『大久野島』。浦田重工業は巧みに隠していたようですが」

 

「噓だろ?」

 

 摩耶は驚きを隠せなかった。あの島は浦田重工業ではなく、国が関わっていた?

 

 

 

 会議室

 

「……この大久野島は元々は1900年頃から海外の艦船の侵攻に備えるために要塞が置かれていました。当時は陸軍の手によって大久野島は軍事施設の一つとして整備していました」

 

 会議室では一人の中年の男性が地図と写真を見せながら説明していた。中年の男性は元軍人らしく、元帥がわざわざ隠居生活している人を引っ張りって来たらしい

 

 その説明の中、元帥を初め全員の目線はその男に集まっていた

 

「機密事項と要塞秘匿のため当時の陸海軍は検閲によって大久野島を地図上から消すようにしました。そのため、普通の一般人は大久野島の存在すら知ることは無く、島民は10名程度であったため、口止めも容易でした。当初は陸軍管轄でしたが、海軍呉鎮守府に移管されました」

 

「そんな話は聞かなかったが?」

 

 提督が突然、質問した。男性は面食らったが、元帥は抑えるよう言った

 

「質問は後だ。今は話を聞け」

 

 提督は不満そうだったが、従った。時雨も大和も同じだった。こんな話は聞いたことが無い

 

 僕たちが軍艦だからなのか? だけど、こんな機密情報は知らない

 

 どういう事だろうか? 

 

 中年の男性はどきまきしながらも説明を続けた

 

「大久野島を秘匿した理由は二つあります。一つは要塞秘匿のため。もう一つは……」

 

 中年男性は説明を中断した。落ち着きがなく脂汗が額ににじり出ている

 

 話したがらないようだ

 

「いいから話せ! さっさとしろ!」

 

 元帥の一喝で中年男性は飛び上がり、慌てて説明を言ったが、内容が信じられないものだった

 

「……この島では軍が毒ガスを製造していました!」

 

「「「「はぁ!?」」」」」

 

 会議室の大半は驚きの声を上げた

 

 軍が毒ガス製造? 軍ではこんなことをしていたのか?? 

 

 

 

 鎮守府

 

「「「「軍の毒ガス製造施設!?」」」」

 

 鎮守府の会議室では艦娘たちが全員が驚きの声を上げた。あの島はそんな秘密が隠されていたらしい

 

「並行世界でも日本軍は毒ガス製造していたけど、この世界でも作っていたなんて」

 

 鳥海も驚きを隠していなかった。『艦だった頃の世界』において日本軍は毒ガスを製造し使用していた事は覚えている。だが、この世界でも行っていたなんて

 

「静かにして」

 

 陸奥は騒めく艦娘たちに叱咤した。長門が不在の今、陸奥が引き継がないといけない

 

「知らない子もいるし、海外艦の子は情勢を知らないでしょうから簡単に話すわ。日本軍で毒ガスが使用されるようになったのは1914年に勃発した第一次世界大戦での他国の使用を見て、実際に使用できないかと陸軍で研究が始まったのがきっかけとされるわ」

 

 陸奥は説明を開始した

 

「だけど1925年に化学兵器や生物兵器など、いわゆる毒ガスの使用を禁止する『ジュネーブ議定書*1』で決められたものの日本はこれに署名したのみで約束はしていない中途半端な状況だったの」

 

「それって条約が機能していないんじゃ……」

 

 伊勢は啞然としながら言った。まさか、こんな歴史を聞かされるとは思いもしなかったのだろう

 

「だから公に出来ず、軍……日本軍は大久野島を地図から消して毒ガス工場を作った。『艦だった頃の世界』の歴史だとシナ事変から太平洋戦争の終戦まで製造して使われた事もあった」

 

「ミーも聞いたことがある……確か毒ガス製造施設の島を弾薬庫として活用したって」

 

 アイオワは顎に手を当てて言った。尤も、これはあやふやなため正しいか分からない

 

「あの島を毒ガス製造施設した理由は二つあるの。一つは関東大震災を受けて自己の被害を最小限に抑えられる地方で中国大陸に近い場所。所謂、中国大陸進出するための足掛かり。2つ目は戦後恐慌と要塞の廃止で不景気にあった忠海町が陸軍施設を積極的に誘致したからと言われているわ。軍の思惑もあるけど、経済事情からあえて街に軍を呼ぶケースもあるということね。まあ、毒ガス施設を作ると知っていたかは分からないけど」

 

「これって騙された可能性もあるんじゃ……」

 

 叢雲は信じられない風に言った。詳細な情報よりも内容にやっとついていけている感じだ

 

「当初は数十人程度の工員が作業を行いその中には全然知識のない人間まで混ざっていて、酷い時には天候によって原料の塩酸や硫酸から毒ガスが発生して大久野作業員が中毒患者になっていったの。当時は毒ガス製造施設で作業をした人間は一度は肺炎を患うと言われるぐらいの過酷な環境で最終的には約6800人が障害を抱える事になったと言われているわ*2

 

「ブラックを通り越して漆黒の闇だぞ」

 

 天龍はたまらず声を上げた。ここまで酷いとは思いもしなかったからだ

 

「それでどうなったのですか、その施設は?」

 

 翔鶴は不安そうに聞いたが、陸奥は次の写真をスクリーンに映し出した

 

「終戦を迎えた日本だったけど、残った毒ガスをどうにかしないと外国にバレてしまう。そう恐れた日本軍は毒ガスの容器を埋めたり海中に捨てたりと隠蔽を図ったそうよ。まあ、進駐軍に接収されてバレたんだけど」

 

 陸奥は簡単に説明した。ここで長々と話しても無駄だろう。取り敢えず重要な事は話した。講堂にいた艦娘たちはショックを受けていた。あの島には、そんな秘密があったとは思わなかったからだ

 

 しかし、それで気づいた者がいた。アイオワだ

 

「待って! この世界では第二次世界大戦は勃発しなかったわ! どうなったの!?」

 

 アイオワの指摘に皆はハッとした。陸奥が説明したのは深海棲艦や艦娘が存在しない正史の世界だ。浦田重工業が関わっているのだから関与していた可能性が高い

 

 皆の視点が陸奥に集まったが、陸奥は既に答えは用意していた

 

「ええ、今の話は正史よ。これから話すのは浦田重工業が関与する話。浦田重工業によって日本が発展する時期よ。それは──」

 

 

 

 大本営・緊急会議

 

「大久野島には陸軍の毒ガス施設です。だが、浦田重工業が力をつけ我々のクーデターを鎮圧すると軍の毒ガス施設は全て爆撃されました。しかし、あの島の施設は極秘研究施設に改装しました」

 

 中年の男性は大久野島の経緯を簡潔に話すと、浦田重工業の話をし始めた。勿論、この場に満州事変以降の歴史を知る者はいない。浦田重工業の暗躍によって起こらなかったからだ。代わりにとんでもないことを実行したが

 

「施設は浦田重工業の反乱が終わったと同時に調査しました。しかし、施設は爆破されて大量のガス弾が発見されました。浦田重工業の秘密施設跡地が何をやっているか分かりませんが、数十年後に機密解除まで島の存在を隠していました。だけど、まさか地下にあんな貯蔵庫や施設があったとは思いもしなかった」

 

「思いもしなかった!? 加賀さんや仲間があなた達によって作った毒ガスでやられたのよ! よくも平気で言ってくれるわね!」

 

「抑えて、瑞鶴さん!」

 

「放して! 爆撃しないと気が済まないわ!」

 

 瑞鶴は激昂して弓矢を構えて、時雨と矢矧は必死に抑えていた。会議室は騒然としたが、それは一時であり瑞鶴は無理やり座らされた

 

「話を続けろ。どんな毒ガスを作っていた?」

 

「は、はい。我々が製造していた毒ガスは催涙剤、びらん剤、嘔吐剤、血液剤の四種類です」

 

 元帥の質問に中年の男性はどきまきして答えたが、時雨は思わず口に出した

 

「たったそれだけ? サリンは作っていないの?」

 

この男の主張が本当ならどうやらサリンは作っていないらしい。となると、浦田重工業のものか

 

「え、ええ……サリンは作っていない。それは確かです」

 

 中年の男性は激しく頷いた。彼は冷や汗で着ている服がびっしょりだ

 

「つまり、浦田重工業は軍よりも効率的に他の兵器を開発した訳だ。道理で強気でいられる訳だ。島の存在どころか軍の弱みまで情報を握っていたのは少数らしい。しかも、その中には簡単に殺せない大軍相手に立ち向かう浦田結衣がいる! 何をやっているんだ!」

 

 元帥は怒鳴ったが、他の人が反論した

 

「お言葉だが、毒ガス製造施設は浦田重工業相手を攻撃する切り札だった!」

 

「でも、負けただろうが!? しかも、浦田重工業に屈するなどと」

 

「仕方ないだろ! 浦田社長は裏切ったら公表する、と脅されたのだ!」

 

「あいつは死んだだろ!」

 

「今、公表したら国際社会から批判を浴びてしまう!」

 

「だからといって隠蔽とは! 私ですら知らなかった事だぞ!」

 

 元帥と退役した将校との間で口論となり、今ではほぼ全員が口論に参加していた。警視正まで参加しているのだから、提督にとっては中々の見ものだった

 

 だが、いつまでも見ている訳にもいかない。元帥が一括して口論が少し収まった頃に提督は大声で質問した

 

「あなた達の隠し事はどうでもいいです! 私が聞きたいのは、結衣は知っているのは兎も角、なぜ私に警告を送らなかった! わざわざ呉で迎撃態勢をとっているというのに!」

 

「それは中佐の給料に似合わない情報だったからです」

 

「俺の給料?」

 

 相手のまさかの返答に提督はため口で返した。提督も予想外だったのだろう。時雨どころか大和も啞然としていた

 

「いいですか。貴方は後で海軍に編入してきた部隊だ。しかも海外艦娘までいる。貴方の給料は秘密保持に関わる水準まで達していない。情報漏洩の危険性もある。だから──」

 

「結構だ。もう聞きたくない!全員、帰るぞ」

 

 提督は会議室を出る準備をし始めた。時雨はどうすべきか迷っていると、ドアが開いた

 

 入ってきたのは国防大臣。いや、正確には国防副大臣だった人だが、前任者はテロ攻撃によって爆死したため、臨時で成り上がった者だ

 

「申し訳ない、遅れたよ。あー、話は扉の外から聞いていたよ」

 

「ここは防音なので聞こえないはずですが?」

 

杉田警部がすかさず質問したが、国防大臣はムッとした

 

「警察が国防会議に出ているとは情けない。追い出したまえ、さあ早く」

 

「ちょっと待ってください!」

 

 杉田警部が抗議したが、憲兵隊がぞろぞろと入ると警察関係者を追い出した。鶴川巡査長は掴みかかったが、逆に捕まり部屋の外へ追い出されてしまった

 

「スッキリしたな。では、元帥とそこの艦娘の艦娘の創造主。先ほど、総理と話し終えた所だ。一連の事件で事態を懸念されている。よって、これは浦田重工業の隠し玉として処理する。今の話を聞いて分からない者がいるからはっきりと言おう。軍は毒ガスなぞ製造していなかった。いいな」

 

 新たになった国防大臣の発言で騒めき、元帥は苦虫を嚙み潰したような表情をしていた。史実の旧日本軍ならともかく、今の軍は文民統制になっている。なので、国防大臣の命令や発言は従わなければならない

 

「大臣気取りか?」

 

「まあ、器が小さいものじゃろう」

 

「世も末だ。──わかりました。でも、それだけではないでしょう。大臣が何の用ですか?」

 

 博士と元帥は小声で話していたが、時雨には聞き取れていた。あまり彼の事を快く思っていないらしい

 

「艦娘たちを軍に編入して仲間が増えたのはいい。だが、敵である深海棲艦は減るどころか浦田残党を始末しなかった。艦娘との扱いを見直すべきだ。中将、艦娘の情報提供は別によい。内容がさっぱりだ。だが、武器提供は合意していない。『超人計画』なしでも普通の人が艦娘の艤装を扱えるように改装も開発もしていない。技術がないのなら、改良や開発をすべきだ。なのに、中将も工作艦である明石もしない」

 

 博士はムッとしていた。この人は艦娘の艤装を一般人にも扱うようにしたいらしい。確かに一般人には取り扱うことは出来ない。だが、もし何らかの形で一般人が使えるようになったとしたら……

 

 しかし、大和が立ちあがるとはっきりとした口調で反論した

 

「『艦だった頃の世界』では第二次世界大戦が起きたのを知っています。別世界とはいえ、艦娘たちは大戦で戦争を目にしてきました。武器は利益よりも更なる被害を生み出します」

 

「大和さん……」

 

 大和の反論に時雨は舌を巻いた。普段は待機続きが長かった大和だが、こういう場でははっきりと言えるらしい

 

「何が最善かを決めるのは君ではない」

 

 国防大臣は眉を吊り上げた。内心では驚いているだろう

 

「大臣。お言葉ですが、私と艦娘たちはこの5年間で一緒に戦ってきました」

 

 提督は反論したが、提督もやりづらそうである。相手違い過ぎる

 

「そうだよ……じゃなかった。そうです。僕たちは深海棲艦相手に戦って皆を守ってきた」

 

 時雨は提督の助言で何とか言いきったが、大臣は冷たかった

 

「艦娘君、戦場で弾を撃ってるだけでいい。しゃべらんでいい」

 

「あの男を撃っていい?」

 

「落ち着いて」

 

 時雨は悔しそうに言ったが矢矧が宥めた。ここで事を荒立てない方がいい

 

「しかも、艦娘を建造し仲間を増やしたそうだが、それも許可したのか?」

 

「大臣。許可は私がした。中佐もそこにいる艦娘も艦娘計画の発案者も何らとがめられるものではない」

 

 元帥は何とか言ったが、時雨は警戒していた

 

「提督……あの新しい大臣って……」

 

「分かっている。あの男、不都合な真実をもみ消す気だ」

 

 もみ消す……それは決して良い方向にはならないだろう。まだ前任者の方が良かったと時雨は感じていた。あの時、爆死していなければ

 

 これでは浦田重工業の思う壺だ

 

 

*1
ただこの議定書において制限されたのは使用のみで、開発、生産、保有が制限されない

*2
史実では1938年には本格的な製造を図るため国家総動員法によって十代の学生が作業員として働かせることもあった




大久野島は現在ではウサギ島と呼ばれており、観光地としている
しかし、当時の施設跡地は残っている……
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