次話ももしかすると……
鎮守府において激しい戦闘が行われている中、時雨は提督室に向かった
廊下を駆け抜ける際にも負傷して横たわっている仲間達がチラホラ見かける。入渠の回復が追い付かないのだ
鎮守府の街の方では機銃音や迫撃砲が聞こえることから502 部隊やあきつ丸さんたちが頑張っているのだろう
今日は艦娘達にとっては長い日になりそうだ
廊下を走り階段を急いで降りると地下に向かった
そこは地下の司令塔だった。提督である指揮官が万が一負傷してしまうと行動出来なくなる
だから地下室にいるのだが、今はそんなことを言ってるまでもない。地下室の扉を開くと大淀と艦娘数人、そして提督がいた。
「何から何まで新型兵器と操られた深海棲艦か。どうなっているだ、この海は?」
提督は歯噛みしながら海図を睨んでいた。まさかここまでやるとは思いもよらなかったのだろう
「提督!」
「時雨か? どうした?」
「どうした、じゃないよ! もうヤバイ状態だよ!!」
提督の陽気な返事に時雨は焦った。完全に一周目と同様に追い詰められている
だが、提督は諦めたような表情をしている!
時雨は非難しようと口を開こうとしたが、提督か制した
「待て、そんなに怒らなくても問題ない。悪い知らせがあってな。国防省は援軍を寄越さないだとさ。深海棲艦は通常兵器に通用しないだとか」
時雨は啞然とした。先日には対深海棲艦用の兵器はあるって国防大臣が言っていたじゃないか!?
「まあ、言いたいことは分かる。数が少ない事もあるが、こちらを嫌がらせしているのだろうな」
「そんな呑気な事を言っている場合じゃないよ!」
「分かっている。だが、お前が経験した未来では違うだろう。少なくとも未来兵器なんてとても少ない。時雨とアイオワのお陰でF14は撃墜出来たし、今は互角だ。撃沈者もいない」
「それはそうだけど……」
時雨は反論しそうになったが、思いとどまった。何か策でもあるのか?
「まあ、落ち着け。丁度お前が来たから手間が省けた。──結衣は近くにいる」
「え?」
時雨は固まった。近くにいる??
「どういう事?」
「簡単な事だ。俺も軍の職に馴染んだお陰で肝心な事を忘れていたよ。アイツは学生時代、いじめられていた。田中湊や兄の浦田社長のお陰もあるが、怪物になってこちらに攻撃している」
提督は説明を始めた
「アイツがなぜイージス艦や空母にならないのか。それは、自分の手で実行するタイプだ。要はなぶり殺しが好きな歪んだ性格の持ち主だ」
「戦艦になった理由は、接近戦をあえて選んでいる?」
時雨は慎重に言葉を選んだ。確かにずっと戦艦だ。アイオワが言うように空母やミサイル駆逐艦などになれば簡単に倒せるだろう。だが、それを選ばなかった。軍の関係者だったら間違いなく大きな誤りだろうが、彼女は軍人ですらない
「それに先日にお前が助けられた戦艦水鬼改を聞いていて疑問に思っていたんだ。戦艦水鬼改は深海棲艦のボスだ。なのに、結衣は簡単に接近出来たらしい。……アイツ、擬態能力も進んでいるんじゃないか? 6隻の戦艦ル級がいるだろう。ノーマルタイプの奴が」
「じゃあ、アイツは防空棲姫達がいる艦隊の後方にいるんじゃないて……」
時雨はそれ以上言わなかった。推測かも知れない。提督の妄想だろう。だが、戦艦ル級と変わらない擬態能力があるとすれば、戦艦水鬼改が結衣の存在に気付かなかったのか……
「じゃあ、全部やっつけないと!」
「落ち着け。洗脳された姫級の火力のせいで近づけない。近づけたとしても撃破は難しいだろう。F14とかいうジェット機のせいで防衛陣地の大半は破壊された。だから、予備作戦を使う」
「どうするの?」
時雨は質問したが、提督の代わりに大淀が答えた
「焼き払います」
「焼くって?」
「大久野島の件や浦田の脅迫文を見て今度は生物兵器を撃ちこむ可能性があります。しかし、博士の説明によると生物兵器……ウイルス兵器はガス兵器と違って運用が難しいです」
大淀は早口で話し始めた。ウイルスは生物。そのため、保管管理は気をつけなればいけない。使える状態で保管し、感染させられる状態で使用するにも知識や技術が必要なのだという*1。結衣が同胞であった者たちを刑務所から解放させたのにはそれが理由らしい。浦田副社長である武田も東京のテロ活動は実は大掛かりな作戦するための隠れ蓑だったのではないか、と博士は推測していた
余談だが、提督の父親である博士と502部隊の隊長である大佐は別の場所にいる。彼等の身の安全を考慮しないといけない
結衣が居ようがいまいが、やっていただろう。現に大久野島から鎮守府攻略するための手段が書かれた計画書が数枚見つかった。
「本来なら、戦艦ル級が複数出た場合は陸攻からの焼夷弾で爆撃する予定でした。深海棲艦を撃破出来なくてもウイルスが入った容器、若しくは弾頭を使えなくする手筈でした」
「焼夷弾? そうだ! ウイルスは熱に弱い!」
時雨はハッとした。確かにそうだ。弾頭を無力化するのが最優先だ!
「復旧作業させているが呑気に待つ気はない。通常の実物大の巨大爆弾を使うしかない。曳航させて近づいたと同時に爆発させる」
「巨大な爆弾? 何それ?」
提督の説明に時雨は困惑した。何だろう?
そんな時、無線のスピーカーからアイオワの声が聞こえた
『アドミラル、準備OKよ!』
「よし、アイツに食らわせてやれ! 時雨、援護しろ。俺よりアイオワの方が詳しい。地上に上がって合流するんだ」
時雨は直ぐに階段を上がると待機場所にて一団が待っていた
アイオワと大和、鳥海摩耶と最上と夕立がいた。空母の加賀と瑞鶴もいる。だが、驚いたのは一段の近くにあったものだ。巨大な金属製の円形が1つあった
「アイオワさん、大和さん……それは何?」
「ウイルスを焼き払うもの。ミーと明石で開発させた」
アイオワはさらりと答えた。どうやら、第二次世界大戦後の兵器を開発したらしい。あれは巨大な爆弾だろう
「本来ならハーキュリーズという航空機を載せて投下するんだけど、今は無いわ。曳航させて近づける」
「曳航!?」
巨大な爆弾を曳航させるらしい。確かに艦娘なら出来なくもないが、水中に沈んだ状態で曳航するため速度は遅れるだろう
「その後はどうするの?」
「目的地に着いたらミーと大和で引き上げて投げる!
「そんなの出来るの?」
時雨は啞然とした。流石に持ち上げることは……
「battle shipを舐めないで?」
「持ち運ぶのが大変だったけど、不可能ではないです」
どう見ても数千キロのある爆弾を投げる事に疑問だったが、アイオワと大和はどうってことないだろう
「こちらビッグスティック、合流した。何時でも行けるわ!」
『よし、いいか! 全て相手にする必要はない! ヤツが生物兵器を撃ってこないのではない! 撃てないんだ! どういうやり方かは知らないが、遠距離で撃ち込む手段がないのだろう! こちらの接近を許すな! 第二艦隊編成して敵の気をそらす! 合図したら突撃して爆破させろ!』
「分かりました!」
大和は元気よく返事した。資源消費の関係で普段からあまり出撃していないのだから、喜ぶ気持ちは抑えられないらしい
「上空から援護します。なので接近してください」
加賀は弓矢を構えながら言った。艦載機を一機でも多く上げる必要がある
既に艦戦や艦爆は待機している
「爆弾運びなんかやらせるなよ」
「計算通りに行けばいいんだけど」
摩耶も鳥海も気が気でなかった。こちらの意図に気づいて被弾すれば最悪だ。誘爆すれば目も当てられない
そうしている相田も戦闘音は鳴り響いているが、不意に東側から大量の砲撃音と飛翔音が鳴り響いた
陽動のための第二艦隊だろう
『よし、行け!』
無線から提督の命令で一団は一斉に動いた
「重いっぽい!」
「クソが! 軽くしろって!」
「仕方ないでしょ。軽くしたらダメージ与えられないわ」
夕立と摩耶が不平不満に言っていたが、時雨も同意見だった。とても重い。車輪に乗せているとはいえ、力を持っている艦娘でも動かすのに苦労した
敵は見当たらない。いや、西の方に集結している事からそっちに集まっているのだろう。
遠くの方に防空棲姫が確認出来る。時雨は引っ張りながら西の方角を向けたが、あちらには多数の艦娘が集まっている
武蔵や長門もいることから囮として引き付けているのだろう
しかし、もっと驚いた事は46cm主砲を砲台に仕立てて地上から撃っていることだ
妖精だけでなく島風や天津風などが砲弾を運んでいるのだ
艦載機もまだまだ健全で爆弾と魚雷を浴びせているらしい。制空権は何とか取り戻しつつある
「海に投げても大丈夫!?」
「防水だからヘーキね!」
アイオワの返答に時雨達は爆弾に鎖を繋げると即座に蹴った。どうやら見つからずに済んだ
爆弾は海に沈んだが、大和とアイオワは海上に出たことでこれ以上は沈むことはない
鳥海、摩耶、大和、アイオワは鎖を手に取るとそのまま突進。海に沈んでいる爆弾を牽引しているため速度は落ちるものの、速度は速かった
深海棲艦の艦載機は気づいたものの、加賀や瑞鶴から発艦した艦載機、零式艦戦53型や烈風改二が駆けつけ落としていった。一周目の世界と違って新型兵器はないため、容易に落とせる。搭乗妖精も熟練者揃いで空戦にも負けない
特に加賀の烈風改二は機体をわざと失速状態にして突撃してくる敵機の銃撃をかわす。いわゆる『木の葉落とし』戦法で降下するとすぐさま立て直して機関砲を叩き込んだ。本来なら零戦の空中戦闘機動なのだが、加賀の搭乗妖精は烈風でもやってのけた
『早くいって! 敵が生物兵器を撃ち込むまえに!』
「分かった! 加賀さん、ありがとう!」
時雨は無線で叫ぶと力一杯爆弾を曳航していった。途中で接近してくる敵機や駆逐ハ級は砲撃しながら撃退していった
特に摩耶の対空射撃は助かっていた。対空電探と高射砲は敵機に寄せ付けていない
敵の艦隊まで後少し!
一方、囮である艦隊や防衛陣地では交戦して防衛一戦だが、踏ん張っていた
特に潜水艦娘や雷巡の魚雷は凄まじく沢山いるお陰で一掃は出来た
しかし、やはり新型である駆逐ナ級は手強かった。何しろ、戦艦ですら大破に追い込むほどの火力だった
「ビスマルクがやられた!」
「戦艦ル級が接近してきます! このままだと例の爆破範囲の圏外に出てしまいます!」
例の爆弾は強力だが、爆破範囲も広いため鎮守府付近では使えない。沖合いにいる深海棲艦の艦隊は兎も角、接近したら意味がない
「優先的に攻撃しろ!」
『いいぞ! 主砲を一発当ててやる!』
武蔵は威勢のいい声で返事した。何処にいるかは関係ない! 仕留めていやる!
(何だ? 戦艦ル級を集中攻撃している?)
戦艦ル級が武蔵の遠距離攻撃で狙われた事を受けて結衣は疑問に思った。やり方を変えた? 普通はあそこまで執拗に攻撃する必要もない
……いや、こちらの思惑を見破られたことは無い!そう思っていたが、実際はそうではないようだ
(別方角から艦影?)
レーダーにはこちらに向かっている。まさか……こちらの考えがバレた?
『結衣、何をしている!? そちらを狙っているぞ!』
「そのようだな」
『分かっているなら反撃しろ! これ以上は──』
結衣は無線を切った。話すことは無い
「黙っていろ。こちらの位置がバレるだろ──しかし、例のウイルスを撃ちこむ砲弾の射程には届いていない」
結衣は現状を把握していた。例のウイルスは容器にしっかりと守られているとはいえ、取り扱いが難しい。大久野島にはウイルス保管施設はしっかりしていて良かったが、今は簡易的な容器に入れている
頑丈には作られているが、万が一攻撃を受けて容器が熱を持ったら意味がない。ウイルスが死ぬからだ。だから、圧縮空気を利用した空気砲を使う。火薬ではなく、空気を利用したものだ。勿論、射程距離は短い
「民兵にウイルスを打ち込んで送り込んだ方が良かったかもな」
結衣はふと脳裏をかすめた。だが、これは本人にとっては定義に反する。強力な兵器は自分の手で行いたいものだ。下手にバラまいて効果が無い、では駄目なのだ*2!
そうしているうちに艦隊が近づいてくるため、結衣は気づかれないように方向を見た。艦載機が艦娘援護し、駆逐ハ級軽巡ツ級などを蹴散らしていく。中間棲姫が気づいたらしく迎撃態勢にとったが、アイオワはハープーンを叩きこんでいる
勿論、対艦ミサイル程度で撃沈するものではないが、速度が遅い。大和の速度に合わせる、と考えたが違う
そして、戦闘には駆逐艦娘二人がいた
夕立、そして時雨だ!
「時雨……何か仕掛けてくる!」
もうかくれんぼは無しだ!
戦艦ル級の変装を解き素早く『クラーケン』にコンバート改装させると、時雨に53cm主砲を向けた。だが、発砲する直前に大和が一斉射撃を行ったため回避せざるを得なかった
レーザー砲はチャージが必要であるため、即座に撃てない
「本当に居たぜ!」
機銃をガン積みしている艦娘は歓喜していた。何をしているか知らないが、反撃出来る!
だが、大和とアイオワは海中から何かを急いで引き上げていく。時雨も夕立も魚雷でこちらをけん制している
何をする気だ?
「本当に居た! 早く!」
時雨は提督の読みに驚いていた。確か上手に隠れていた。戦艦水鬼改が困惑するはずである。以前は戦艦ル級改flagship姿でも他の戦艦ル級と比べて何処か違っていた
目の色が違ったり、艤装や装備が異なったりと見分けがついた
しかし、今は違う。コンバート改装が出来るようになってから見分けがつかないほど隠れる事が可能になったらしい
だが、今はそれ以上の脅威を運んでいる! 解毒剤と食らわせるのが先決だ!
大和とアイオワは海中から例の爆弾を引き上げると鎖を利用して爆弾を放り投げた。あの重い爆弾を軽々投げる二人の腕力に驚いたが、今はそんなどころじゃない!
投げた直後、大和とアイオワは爆発した。結衣が53cm主砲で砲撃してきたのだ!
「起爆してください! 早く!」
「「分かった(っぽい)」」
大和の命令に時雨と夕立は起爆ボタンを押した。電波妨害は無いため、問題はない。宙を舞い中間棲姫の頭上に落下していく爆弾は炸裂した
昼間の青い空を紅蓮に染めて焔と衝撃が深海棲艦に襲った。地獄の業火と痛烈な衝撃波が深海棲艦の艦隊に襲い、空にはキノコ雲が立ち上った
近くにいた時雨達も例外なく、焔と衝撃波が襲ったが、大和とアイオワが立ちはだかり時雨達
を守っていた
「大丈夫ですか、皆さん」
「大丈夫……ぽい」
「聞いてはいましたが、あそこまでとは」
大和が安全確認したが、鳥海と夕立は呆然としていた。事前に説明されていたが、まさかここまでとは思わなかったのだ
「アイオワさん、今のは何?」
「デイジーカッター。ベトナム戦争で使われた爆弾をここで使う事になるなんて」
アイオワはニヤリとしていた。デイジーカッター……正式にはBLU-82という巨大航空爆弾である。『艦だった頃の世界』ではベトナム戦争時にはヘリコプター着陸場所の確保のため、密林を一掃する爆弾を開発されたとされている
本来ならこんな爆弾は要らないが、浦田残党がウイルス兵器を持っている事からアイオワはこの爆弾を製作することを提督に上申したのだ
何しろ、ウイルスがどんなものであれ、霧状に散布されれば手遅れだ
だから、広範囲に爆発する爆弾を使用したのだ。苦労して出来たのはいいが、艦娘用妖精用ではなくて、実物大の代物になった。流石にC130のような輸送機はないため(空軍から深山の輸送機は貸してくれなかった)、曳航して爆弾を持っていくことになった
結衣がこちらの意図に気づき猛攻撃されていたら失敗だっただろうが、今は問題ない
爆炎や煙が収まると深海棲艦は耳を抑えたり会場でうずくまったりしていた。対深海棲艦用ではないため、効果は薄い
しかし、ウイルス兵器は別だ。ウイルスは深海棲艦用ではない事は大久野島の資料から見て分かっている
クラーケンのこと結衣も消えた。ウイルスが使用不能になったのか、それとも逃げたのか?
中間棲姫は大爆発から立ち直ると太平洋に向けて逃げていき、他の深海棲艦も随伴していく
『追撃するな。クラーケンはいたか?』
「いない。見失った」
『そうか、防衛ご苦労だった』
時雨はホッとした。かろうじてだが、結衣が生物兵器を使うのを阻止できた
(良かった。結衣が生物兵器を使わなくて)
これで安心だ
鎮守府の広場では中破大破した艦娘が大半はいるものの、撃沈者はいなかった。まだ海上にいる艦娘が数人警戒しているが、今のところ異常はないという。防衛戦には成功したらしい。生物兵器が不発だったのか、それとも戦術的敗北したか?
それは分からない。無線では浦田残党や浦田結衣からの無線電波は拾っていない
「良くやった。502部隊から『海の方角から大爆発が聞こえてきたけど、あれは何だ?』と言ってきたが、それ以外問題はない。よくやってくれた」
安全と確認されたため提督が地下から出て艦娘に伝えた。全員、歓喜を挙げていた
「危なかったぞ」
「そうだな。生物兵器が使用した痕跡はない」
生物兵器は取り扱いが難しい。提督は空気銃のようなもので撃ちこむだろうと推測していたらしい。前回ではふぐ毒が入った注射針に空気銃を使って霧島達を攻撃してきた。虐待を楽しむためと思っていたが、もしかすると……
(予行演習だったのか)
提督はそう思うようになった。しかし、これは本人に聞かないと分からない事だ
「時雨も頑張ったな」
「うん」
今回はギリギリだが、何とか切り抜けた。次回はどうなるか分からないが、生物兵器を使用してきたことを大本営に知らせれば援軍は出してくれるだろう
あの国防大臣も危険性は分かるはずだ
???
『敵は大型爆弾で深海棲艦を一掃しました。敵はこちらがウイルスの対策手段を持っていることは確実です』
武田は現地からの報告を聞いていた。核ではないのは確かだが、敵は大型爆弾を使用してきた。恐らく、結衣の擬態能力向上に気づいたらしい
またウイルス兵器対策として大型爆弾を使用してきたようだ。キノコ雲が上がっているのはこちらからでも見えた
「そうだな」
『だから言ったでしょ! 民兵にウイルスを打ちこんでわざと捕虜にさせる! そうすれば、感染者が増えていきバイオハザードが起こる! そう言ったが、彼女は霧状に散布するようにしろと一点張りで』
「落ち着け。君のウイルス研究は素晴らしい。しかし、結衣の力を舐めてはいけない」
『といいますと?』
相手は困惑していた
「まだ分からないのか? 作戦失敗の連絡は来ていないのだぞ」
『それはどういう……』
「まあ、見ておけ。簡単にくたばるような人ではない」
武田はニヤリとした。クレイジーだが、力は本物だ。まだ生きている
呉鎮守府
「アイツはまだ生きている。深海棲艦の撤退する艦隊に紛れて逃げているだろう」
「次はこちらから攻撃しに行かないと」
時雨は目が燃えていた。このまま引き下がるわけにはいかない。未来兵器がほとんどないお陰で、互角に戦える
浦田結衣の能力は未知数だが、今は倒せるだろう
だが、次回は無かった。甘かった。敵はそんな事を思っていない。相手は正規軍ではないのだ
鎮守府近海で警戒していた如月睦月吹雪、そして村雨は警戒していたが、海中から微かな異音が聞こえた
いや、聞こえたような気がした
「睦月ちゃん、吹雪ちゃん……何かいる?」
「潜水艦かな」
睦月如月は何かを発見した。だが、いつも現れる潜水カ級や潜水ヨ級ではない
「どうします?」
「決まっているわ。爆雷をばら撒いてあぶりだす!」
付近に潜水艦娘が居ない事は分かっている。つまり、敵という事だ。村雨が爆雷を取り出す直前、何かが浮上した。突然の水柱で村雨はこけたが、現れた姿に驚愕した
人型だ!
「て、敵──」
『黙れ』
如月が無線報告しようとしたが、相手は53cm主砲を突き付けると問答無用で引き金を引いた。如月は爆発した。艦娘とはいえ、至近距離からの砲撃は不味い。最悪の場合、撃沈されてしまう!
吹雪と睦月は慌てて応戦しようとしたが、二人にはレーザーを浴びせられ爆発炎上してしまった
「爆発? 戦闘態勢だ! 急げ!」
爆発が沖合で起こった事を確認した提督は直ちに命令を発した。まだ、やれるらしい
しかし、敵がこちらに向けて何かを撃ちこんできた。何かは分からない。大砲とは異なる音が鳴り響いた
次の瞬間、鎮守府上空に何かが炸裂。緑色の煙が辺りを立ちこみ始めた
「撃ちこんできた! 逃げろ!」
矢継ぎばや命令の命令変更に艦娘たちは大混乱に陥った。ガスマスクや防護服はあるが、急には着れない。兎に角、逃げる事しかない
時雨は手で口や鼻を覆いながら離れようとしたが、何かが身体を貫いた。体を見ると、矢じりのようなものが突き刺さっている
「時雨、ダメ!」
白露が異変に気付いて時雨に駆け寄ったが、時雨は後ろから強烈な力で引っ張られたため時雨は尻餅をつき、そのまま海の方へ引きずられていった。時雨は慌てて何かに捕まろうとしたが、何もない
武蔵が駆け寄ったが、武蔵は砲撃を受けて吹き飛ばされた
「ワイヤーを切らないと!」
時雨は何が起こったか理解した。ワイヤーで引っ張られているのだ! 捕鯨砲のように釣られている!
幸い艤装はつけていたため、海上に引っ張られても沈むことは無かったが、状況は最悪だ。これをやる敵は1人しかいない
引っ張られる力が無くなったと同時に頭部に強烈な激痛が襲った。誰かに殴られたのだ
苦痛でうめいている所に時雨は、首を掴まれ持ち上げられるのを感じた。視界に映ったのは、忘れもしない敵の顔、浦田結衣だった
「やってくれたな。あの時はヤバかったよ。巨大爆弾でウイルスを焼き払おうとか。実際に数発はダメになった。誰が作った爆弾だ? アメリカか?」
「そんな……」
「まあ、どうでもいい。これでまた会えたな」
結衣は戦艦だ。簡単に沈まないせいで何をやっても無駄だ
ふと横を見ると海面に二つの浮遊物が浮かんでいた。ピンク色と黒い何かだ。よく見るとピンクの玉に三枚の羽根飾りと黒いベレー帽だ。あれをつけている艦娘は……まさか……
「如月と村雨はどうしたの!?」
「如月? 村雨? ……ああ、潜って隠れていた所を偶然通りかかってソナーで探ろうとした3人か。爆雷攻撃しようとしたから、撃沈してやったよ。哨戒しやがって」
結衣の衝撃的な発言に時雨は真っ蒼になった。撃沈させた? まさか……吹雪は? 村雨は? どうなった???
「何を言っているんだ? 戦争において戦死者が出るのは当然だろ? 私を殺したくせに?」
「ふざけるな!」
時雨は怒りでいっぱいだ。殺したのか? 後方で怒号や悲鳴が聞こえるが、どうなっているか分かる
生物兵器を撃ちこまれたのだから助けなんて来ない!
「まあ、慌てるな。じっくり楽しもう」
「止めて、誰か! 誰か助けて!!」
引きずられながら時雨は助けを呼んだが、誰も来ない。いや、数人の艦娘が向かっているのを見たが、結衣の速度は速い!
「アイツが海から現れて……それで目の前で如月ちゃんと吹雪ちゃんと村雨ちゃんが! 時雨ちゃんもさらわれて!」
「落ち着いて! 敵を逃がさないで!」
矢矧は初霜に錯乱している睦月を介抱するよう命じると雪風と磯風、そして浜風を一緒に敵を追撃した。時雨をさらう理由は不明だが、決して良いことではないだろう!
生物兵器を撃ちこまれたんだ! 罠だろうが、このままでは終われない!
生物兵器、細菌戦は史実ではあまり使われていない
ウイルスを保管管理するのは勿論だが、何よりも使用後の後始末が難しい
ウイルスに汚染された危険なエリアに兵士を配置させる訳にはいかない。下手すると世界規模で大流行して自国領にまで感染者が現れたら一大事。全軍に防護服やガスマスクがあれば別だが、全ての部隊に行き渡るのはほとんどない
実際に過去にスペイン風邪は前線でも大流行したために、連合軍もドイツ軍も新たな攻勢をかけられない状況になった
井戸や水源、城塞都市に汚物や腐乱死体を放り込んだり、ベトコンがブービートラップの竹槍や釘に糞尿を塗布して破傷風を狙ったのも、生物兵器や細菌戦と言えるかも
後は炭疽菌がありますが、常温で長期間保存が可能な点が生物兵器としてすぐれている反面、人から人へ伝染しないという欠点もあります
次話は……