時雨の緊急任務 ~リベンジ~   作:雷電Ⅱ

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今年も大変そうになりそうですね


第28話 未発見のウイルス

 時雨は再び倒れた。結衣に捕まってから自分の身体がおかしい。何か病気にかかったかも知れない

 

 しかし、普通の風邪ではないのは確かだ。再びベッドに横になったが、そこからだ。立つことすら難しい

 

「時雨ちゃん、アイツに何か打たれたの!?」

 

「分からない……」

 

 夕張は問い詰めたが、時雨はベッドで弱々しく言った。何しろ、気絶させられたり、麻酔で眠らされたりしたのであまり覚えていないのが現状だ

 

「やっぱり……結衣は僕にウイルス兵器を打ったのかな?」

 

「風邪じゃないのは確かだけど……ごめんなさい。私は工作艦明石や軍医ではないから」

 

 夕張は自信が無くなってきた。本来ならこれは専門医に見せるべきだが、今はそういう状況ではない。時雨が発見された場所も汚染区域だったため病院に搬送なんて出来ない

 

 なので、無線で502 部隊の軍医に症状だけ連絡した。と言っても、軍医は首を捻るばかりだ。何しろ症状だけを聞いても分からない。正確な事は診ないといけないが、それが出来ない

 

「時雨、水を飲まないと」

 

「ごめん……僕は水を飲みたくない……」

 

 時雨の症状は悪化していく一方だ。また、PTSDが再発しているのか、ビクビクしている。痙攣もおきているため、夕張は混乱する始末だ

 

「何なの、これ?」

 

 夕張は防護服越しで看病していたが、症状が分からない。時雨に何があったのか? 

 

 水も飲まず、意識も混濁している

 

「どうにかしないと」

 

 夕張は無線室へ行き、連絡を取った。だが、鎮守府の廊下には至るところに仲間が横になっている。うめき声や咳をする音がイヤほど聞こえる

 

「クソ、アイツ許さないぞ」

 

 武蔵も見かけたが、謎の病原体に侵されてもしっかりしていた

 

 だが、長くは持たないだろう。まだ死亡者が居ないだけでも奇跡だが、軍医曰く時間の問題だと言ってきた

 

「こちら夕張……時雨が倒れた。原因不明……」

 

 軍医に何か治療法があればいいのだが、今では期待しない方がいいのでは? と思うようになった

 

 

 

 502陣地

 

「時雨が倒れた?」

 

「はい。突然、泡を吹いて倒れたと」

 

 神州丸からの報告を聞いた曹長は信じられないような声を上げた。結衣は時雨に臓器を抜き取っただけでなく、病原体を植え付けたのか? 

 

 しかし、軍医は否定的だった

 

「どうでしょう。シェルショック(PTSD)を患った期間はありましたから」

 

 軍医は時雨の症状と他の艦娘との症状が違う事に気づいた。と言っても夕張から聞いただけなのだが

 

「直接、私が見ればいいのですが。しかし、行く手段が無い」

 

「今あるのは研究用で使われているものだからどうしようもない」

 

 曹長は苦悩した。博士から送られたのはあくまで研究用の防護服である。生物化学兵器対応部隊が着るような防護服ではない。申請はしたものの、国防大臣がストップさせたお陰で入ってこない

 

 現在、502部隊の小隊長である大佐が、新設された生物化学兵器即応部隊に防護服を借りれるかどうか交渉しているが、こうも交渉が難航しているようでは間に合わないだろう

 

 後は警察に貸していたものだが、警察はあろう事か防護服に安全ピンで穴をあけてしまった。現在はあきつ丸や神州丸の艦載機や無線でやり取りをしている。夕張からは、どう対処すればいいか無線を通じて悲鳴を上げていた。何しろ、工作艦明石が倒れている以上、どうしようもないのだから

 

「嫌がらせにも程がある」

 

 曹長は呟いた時、何やら外が騒がしかった。何やら人だかりが出来ている。あきつ丸までもいる

 

 新兵の苛めか? 今年に入隊している人は居なかったようだが

 

「おい、何をやっている?」

 

「隊長殿、怪しい輩を捕まえました! これを隠し持っていたのを見たのであります!」

 

 あきつ丸はうずくまっている人に指をさした。それは警察官だ。……いや、何かおかしい。警察官なのに、何で手榴弾を持っているんだ? 

 

 あきつ丸から渡された手榴弾には、奇妙な印があった。曹長もあきつ丸も知らないが、そのマークはバイオハザードのマークである。マーク自体は1960年代後半になって普及するのだが、そんな事情はこの場の人達には知らない

 

「おい、どうするつもりだ?」

 

「……」

 

「何とか言え!」

 

 どうやら、この502部隊の陣地に例の生物兵器を投げ入れようとしていたらしい

 

 上司である大佐も博士もいない。かと言って、例の刑事に身柄を引き渡すわけにもいかない。こいつ等の目的を聞きださなければならない

 

(そうだ)

 

 曹長はある作戦を思いついた。賭けかも知れないが、何もしないわけにはいかない。以前に使った手だ。まだ使えるかもしれない

 

 

 

「本当にやるんですね。バレたら敵は攪乱して情報は入りませんよ」

 

「心配するな。どうせ、下っ端だ」

 

 神州丸もあきつ丸も目を丸くした。曹長の考えている事は賭けに等しい

 

「これでよし。神州丸は例の砲弾を持ってろ。……おい、お前。聞きたいことがある」

 

 縄で縛られたニセ警官を部下に連れて来させると曹長は言った

 

「俺は何もしゃべらない。死ねるのなら本望だ」

 

「だろうな。お前の勝ちだ。だから、プレゼントをやろう」

 

「プレゼント?」

 

 ニセ警官は訝しげに聞いた。何がしたいのか、分からないらしい

 

 曹長は不発である砲弾と砲弾の中に入っていた子爆弾のような小さな丸い容器を見せた

 

「これは何だ?」

 

「さあ?」

 

「そうか。神州丸、やれ」

 

 神州丸は手に注射器を手に取ると小さな容器を刺した。ニセ警官や周りが驚く中、神州丸は容器に入っている液体を注射器に抽出していた。注射器の中には無色透明の液体が入っている

 

「これは何?」

 

 神州丸はニセ警官に注射器を見せびらかしたが、ニセ警官は何も言わない

 

「そう」

 

 次の瞬間、神州丸はニセ警官の右足に注射器を刺した。そして、液体を全て注入したのだ

 

 ニセ警官は悲鳴を上げた

 

「なんてことを……なんてことをしやがるんだ!?」

 

 ニセ警官は神州丸に食い掛った。ニセ警官から見れば、例のウイルス兵器を注射器に介して打たれたのだからたまったものではない

 

「先に言わないからだ。人間の身体にも悪いらしいな。短い命を大切に。解放させてやれ、もう長生きしないのだから」

 

 曹長の命令でニセ警官は解放されたが、ニセ警官は解放されるや否や全速力で逃げだした

 

「あきつ丸、神州丸。分かっているな」

 

 曹長はニヤリとした。以前やった手にまさか引っかかる人がまた出るとは

 

 

 

 ニセ警官は全力で走った。途中で二人組の刑事に呼び止められたが、一人を突き飛ばした。どうせ、ニセ警官だという事はバレている! 今は自分の身の安全が大切だ! 502部隊の事は知っているが、まさかあんな事をするなんて! 

 

 全速力で走り、とある一軒家に駆け込んだ。実は呉鎮守府を監視するために浦田残党は一軒家を密かに買い部下に監視を行っている

 

 本来なら追跡されているかどうか確認してから入るのだが、ニセ警官はそんな余裕なんてない。あんなウイルスを打ち込まれたのだから、そんな余裕は無いのだ

 

 家に転がるように入るとリビングに向かった。リビングを作戦室として使っているはずだ! 扉を思いっきり開けると、田中と仲間4人がいた

 

「田中さん! 田中さん! 助けてくれ!」

 

「おい、てめえ! ちゃんと手榴弾を投げたのか!」

 

 家に入りリビングに慌てて入ってきた部下の姿に田中は驚いた。汗びっしょりで血相を変えた部下の姿は中々の見ものだが、様子がおかしい

 

「上手くやったのか聞いているんだ!」

 

「作戦失敗した。俺は感染してしまった! 解毒剤やワクチンをくれ! 艦娘にウイルスを打たれた!」

 

 部下が右足のズボンを破りながら喚き散らしている。錯乱しているかと思ったが、破った間から注射痕を見て田中も周りも驚愕した

 

「ヘマするどころか打たれているんじゃねー!」

 

「解毒剤をくれ! 俺死んでしまう!」

 

 部下はパニックになり田中湊に向けて拳銃を向けているが、田中は拳銃を足でけり上げて弾き飛ばした

 

「落ち着けって。聞いた話だと発症まで一週間から二週間ほどだ。だから俺には感染はしねーが、お前はもう助からないよ!」

 

「頼むよ。まだ死にたくない」

 

「俺は言ったよな! 治療薬なんて無い! 感染したら終わりだ! そのために鎮守府に打ち込んだのに、お前はヘマしやがって!」

 

「解毒剤が無い!?」

 

「当たり前だ! アフリカで採取したウイルスは強力だ! まだ、この時代には発見されていないウイルスだぞ! アフリカに行ってサンプルを採取していた研究員ですら命がけだった!」

 

 田中は部下に拳銃を突き付けたが、その直後ドアが突然、壊れた

 

 いや、壊れたんじゃない! 502部隊が来たんだ! 

 

 

 

 ニセ警官が逃げている時、あきつ丸と神州丸はオ号観測機であるジャイロ機で距離を保ちながら監視追跡していた

 

 そして敵の隠れ家が分かると曹長は一部隊を率いて突入した。あきつ丸神州丸も同行していた

 

「敵一味を発見。包囲したのであります」

 

「艦娘も同行か。報復のためにウイルスを打つとか狂ってやがる」

 

 田中は吐き捨てるように言ったが、後から入ってきた曹長は意地悪な笑いをしながら言った

 

「そいつは感染してない。心配するな」

 

「嘘だ! 俺に注射しただろ!」

 

 ニセ警官は喚いていたが、神州丸はさらりと言った

 

「貴方に水を打っただけ。砲弾も容器も消毒したものに水を入れた」

 

「水?」

 

 予想外の答えにニセ警官は呆気に取られていた

 

「俺は感染してない?」

 

「そう。だけど、償ってもらう」

 

「ふざけるな!」

 

 神州丸の冷たい言葉にニセ警官は逆上しとびかかったが、神州丸は殴り飛ばした。隠れ家が分かった以上、もう必要ない。ニセ警官はそのまま伸びてしまった

 

「田中湊だな。全員、武器を捨てろ。後で地獄に送ってやる」

 

 兵士に囲まれ田中たちは手を上げた。だが、田中は違っていた

 

「ああ。ヒーロー気取りか。残念ながら治療薬なんて持っていない」

 

「射殺命令を! 本艦でも我慢の限界です!」

 

 神州丸はアサルトライフルを取り出して引き金に指をあてていた。だが、田中は追い詰められているにもかかわらず、全く動揺もしていない

 

「まだ殺すな。聞きたいことがあるからな。だが、それ以外ならしてもいい」

 

 神州丸は曹長の命令を聞くや否や銃をしまうと投げナイフを投げた。ナイフは田中の左足に命中し、田中は床に倒れた

 

「俺の足が!」

 

「さあ、話せ。でないと、どうなるか分かっているな」

 

 曹長は淡々と話しているが、内心では怒り狂っているだろう。コイツのせいで鎮守府は大変な事になっている

 

「何を知りたい!」

 

「何のウイルスだ? この時代には発見されてないとはどういう事だ! 治療法がないなどと噓をよくも」

 

「ハハハ……全部本当さ。あのウイルスは治療法なんて確立されていない。ワームホール先の未来世界でもな! あのウイルス兵器は保険のようなものだったんだよ! 大久野島が手づかずで良かったよ!」

 

 田中は立ち上がりながら説明していたが、曹長は信じられなかった

 

 治療法が無い? 

 

「じゃあ、一緒に来てもらう! ……おっと、そいつは脱獄した学者だな? 資料を寄越せ! 持っているはずだ!」

 

 曹長は田中の横にいるもう一人の人間を知っていた。確か浦田重工業で働いていた生物学者だ。生物学者は仕方なしにテーブルにあったケースを持ち上げ渡そうとしたが、田中は取り上げた

 

「ああ、スーパーヒーロー気取りか。時雨といい、お前らといい気に食わない奴等だ。だが、時間稼ぎは出来た。ロケットと砲弾の雨を食らうがいい」

 

「「伏せて!」」

 

 神州丸とあきつ丸が叫ぶと同時に部屋が爆発した。正確には曹長がいた場所が爆発したのだ。爆弾が仕掛けられたのではない! 攻撃だ! 

 

 曹長は神州丸のカバーで耐えたが、兵士の数人は助からなかった。気が付いた時には、家は崩壊し海の方角では人影とボートが遠ざかる姿だった

 

 田中は密かに小型無線機を持っていたのだろう。聞きつけてミサイルか何かで撃ち込んだに違いない! 

 

 曹長は怒り狂っていたが、追跡する手段が無いためどうしようもない。仮に船があったとしても結衣に攻撃を受ける。あのレーザー砲とかを食らったら一巻の終わりだ

 

「隊長殿……ケースを拾いましたが……」

 

 あきつ丸は大破姿になっていたが、ケースを手にしていた。どうやら、結衣の攻撃で奪う事に成功したらしい。だが、爆発で書類の半分は灰になっていた

 

「クソ!」

 

 今では追跡が出来ない。502部隊は殺人犯やテロ組織相手なら取り押さえるが、深海棲艦や結衣にはどうすることもできない。神州丸とあきつ丸は艦娘だが、揚陸艦だ

 

 

 

「何か分かった事は?」

 

 502陣地に帰った一向は、回収された資料を軍医に見せたが、軍医は表情が険しかった

 

「曹長、分かった事だけを伝えます。まず、例のウイルス。艦娘に感染している病原体ですが、治療法が分からないのが事実です。顕微鏡で撮影したであろう写真を見つけました」

 

 軍医は電子顕微鏡で撮影したであろう写真を見せた。そこには細長い奇妙なひも状な姿をしたものが写っていた

 

「私は医科大に通っていた事はありましたが、こんなウイルスを見たのは初めてです。治療法が存在しないのは恐らく本当でしょう」

 

「アフリカから見つけたと言っていたが、そんな恐ろしい病気があるのか?」

 

「出血熱は昔から知られています。開拓者や宣教師たちがアフリカに足を踏み入れた時代に、です。事実、アフリカには何種類もの出血熱が存在していますが、厄介なのは病名も宿主もはっきりとしません」

 

 軍医の説明に曹長や神州丸やあきつ丸は聞いていたが、理解出来たのは半分くらいだ

 

 だが、曹長は軍医の言葉に気になった

 

「出血熱が昔から知られていたのに病名も分からない? アフリカの現地民は兎も角、欧州は何をやっていたんだ?」

 

「昔の医学はしれていますよ? それに、まだ発見されてないウイルスがあるのも事実です。そうなればお手上げです」

 

「だろうな。実際にあの野郎は『この時代には発見されていないウイルス』とか言っていたからなぁ」

 

 曹長はため息をつきながら言った

 

「治療法が無いのなら、仲間はどうなるの!?」

 

 神州丸は悲痛な叫びをあげていたが、軍医は手で制した

 

「どんなにパンデミックや大流行しても生き残る者はいる。免疫力を付けて生き残る輩が。だから希望を持て」

 

 軍医は神州丸を落ち着かせようとしたが、本当の事は言っていない

 

(……恐らく出血熱でも危険性が高いウイルスだろう。浦田はワームホールで培ってきた技術と情報でウイルスを入手し兵器化した、のが本当だろう。幾ら艦娘と言えど助かる術は……ないかも知れない!)

 

 出血熱の症状はウイルスによって違うが、結衣が撃ち込んだウイルスは、強力なものだろう。実際に心身錯乱して昏睡状態に陥った艦娘がいるらしい

 

 だが、パニックを防ぐため真相は伝えてない。あきつ丸や神州丸もである。情緒不安定になるのだけは避けなくてはならない。これは真実を伝えたところで解決する事象ではない。鎮守府にはまるゆという潜水艦娘がいるのだから

 

 推測だけで伝えても意味が無いだろう。しかし、確かな事だけは伝えなくてはならない

 

「恐らく、黄熱病よりも危険なウイルスでしょう。覚悟はして下さい」

 

「……ぬか喜びしていただけか」

 

 曹長は落胆した。これでは解決する手段が無いのではないか? 

 

 

 

??? 

 

「全く、作戦失敗するどころか隠れ家が見つかるなんて」

 

「すまん。ウイルスを打たれたと聞かされた時は驚いたよ」

 

 田中は部下がウイルスを打たれたと聞いた時は流石に慌てた。発症したらこちらに命が無い。時々、人間を辞めた浦田結衣が羨ましくなる

 

「まあ、いい。502部隊の陣地は無視していいだろう。あのウイルスに治療法なんて無い。艦娘の前線基地が無力化した今、やる事がある」

 

「戦艦水鬼改を初めとするレジスタンスの掃討か?」

 

 田中は楽しそうに聞いたが、結衣は違った。折角、リリから技術や知識を得て復活出来たのだ。あの機械人形は「人類共通の敵を生み出す」という考えを持ったまま機能停止したのだ。グズグズしていたら、アメリカや欧州は動き出すだろう。中国大陸やロシアも気になる

 

 それに総攻撃派と呼ばれるタカ派の『新兵器』が気になっていた

 

 数年前に史実を参考に第二次世界大戦で活躍した人物……軍人、政治家、科学者などはほとんど始末した。だが、密かに生き延びていた人もいたのも事実だ

 

 連合艦隊司令長官であった山本五十六が名前を変えてひっそりと生きていた事には結衣も浦田副社長も驚いていた

 

 すると、コッソリと生きている人もいるかも知れないし、第二次世界大戦では実現できなかった兵器が登場、若しくは早めに登場することもあるかも知れない

 

 実際に艦娘であるアイオワが何らかの形で携帯地対空ミサイルであるスティンガーや巨大爆弾を作ったのは事実だ

 

(まあ、こちらも変わらないとな。しぶとく生き残るどころか浦田重工業を崩壊させて私を殺した時雨の幸運を手に入れたからには上手く行くだろう)

 

 結衣が時雨の身体を欲していたのはそれが理由だった。幸運艦は現実にも存在している。本当は雪風が欲していたが、こちらを運と行動力で倒した時雨こそ相応しいと考えたのだ

 

 だが、どうやって運を奪うのか? 科学的根拠が無い存在を奪う手段が無い。そこで考えたのが、臓器を奪って己の身体に取り込むという手段に出た

 

 呉鎮守府を無力化すると同時に時雨を拉致すると臓器を奪った。麻酔で眠らせておいたが、手術中にワザと麻酔を弱らせて時雨に見せつけたのだ

 

 発狂していた時雨の表情は面白かった

 

 結衣は心臓を奪い、残りは適合している人に使わせた。田中は腎臓を、終末論を掲げこちらを支援している宗教団体『深海教』の教祖に膵臓を送った

 

しかし、結衣は気になる事があった

 

(アイツ、病気持ちか? しかし、あのウイルスの症状ではないはず?)

 

 時雨が牢で目覚めた時から具合が悪いように思えた。思えたのは麻酔を使ったからである。それだけなら、特に問題ない。しかし、拘束した時雨を鞭で拷問していたが、時雨はやたらと悲鳴を上げていた。しかし、全力で鞭を打っていないのにも関わらずである。まるで過剰に反応しているような……

 

 以前、捕らえた時と様子が違っていたように思えたが、大したことではないと思った

 

(情報を聞き出そうとしたかったが、大した事は知っていなさそうだな。仮にあったとしても呉鎮守府の艦娘たち助からない。タイムマシンとやらを作っても無駄なあがきだ)

 

 内臓は検査しているため、感染症は無かったのは確認済みだ。結衣自身は兎も角、田中湊が感染症にかかったらシャレにならない

 

 

 

 呉鎮守府

 

 夕張は軍医からの連絡を参考に何か行動を起こしていた。工廠へ行き薬品を片っ端から使っていった

 

 と言ってもやる事は限られている。しかも、応援が来ないため工廠に保管されている薬品に頼るしかない。だが、どれも効果なし

 

「ワクチンは作れないの?」

 

 夕張は泣きながら無線で軍医に聞いたが、軍医は困っていた。夕張はあくまで明石の助手であるためそこまで知識はない

 

『落ち着け。何を使った?』

 

「全部よ! 最後に使ったのは狂犬病ワクチン! 効果ない!」

 

『それは全く関係ない代物だ! パニックになるのは分かるが、落ち着いてくれ!』

 

 軍医は落ち着かせようとしてるが、夕張はそれどころではない。ドア越しから艦娘のうめき声やせきが嫌ほど聞こえる。本来なら、全く関係ないものだと分かるのだが、ほとんど感染しているとなると正気を保てるのも難しい

 

 提督も感染しているため、提督から命令を聞くわけにもいかない

 

 そんな中、工廠に誰かが入ってくる音が聞こえた。夕張は反応したが、入ってきた相手は時雨だった

 

「ダメ、貴方は寝ていて! さっきは泡を吹いて倒れたのよ!」

 

「僕は……大丈夫だよ。体が思うように動けないだけ……」

 

 今の時雨はとても酷い状態だった。怪我はしてないのに、松葉杖をついている。艤装で持ち堪えているらしいが、解除すれば再び倒れるだろう

 

「僕の事はいい。聞いて」

 

「……分かったわ。何?」

 

 夕張は話を聞くことにした。何か策でもあるのだろうか? 

 

「僕が後どれくらい……意識を保てるかどうか……分からない。だから……聞いて欲しいんだ。結衣が復活した時に……明石さんにワームホール作れるかって……聞いたことがあるの……」

 

 時雨は何とか声に出して言った。謎の症状で正常に判断が出来ないのか? それとも、助からないと思って伝えているのか分からない

 

 だが、時雨の闘志は消えていない。どんなに酷い目に合おうが、立ち上がろうとしている

 

「ワームホール? でも提督は破壊したって……まさか!?」

 

「明石さんは研究するよう……指示していたみたい……なの。でも……1から作る事になるから……上手くいかないかも……知れないって」

 

 夕張は驚くと同時に納得していた。ワームホールは艦娘と深海棲艦にとっては切っては切れない関係。軍艦の魂によって擬人化した。魂を行き来するのも具現化するのもワームホールのお陰だ

 

「まだ完成はしていないって聞いたよ……流石に……タイムスリップは無理と言っていたけど……平行世界で治療薬を手に入れれば……」

 

「分かった! 何処!?」

 

 夕張は時雨をおんぶすると時雨の指示に従って進んでいった。廊下には倒れている艦娘がいるが、今は構っている暇はない

 

 廊下を通り過ぎ地下に降り、頑丈なドアを14cm連装砲の砲撃で吹き飛ばして中に入った

 

 地下はとても広い。地下牢を改装したのだろう

 

 そこには何やら奇妙な大型機械があった。周りには見慣れない機械や操作盤まである

 

「これなら助かるかも! 時雨、よく結衣の拷問に……時雨! 眠ったらダメ!」

 

 時雨は伝えたと同時に意識を失ったのだろう。昏睡状態になっているかも知れない

 

「誰も死なせるものか!」

 

 夕張はテーブルにあった説明書や設計図を読み漁った。幸い、夕張は工作機械に関しては自信があった。それにほぼ完成に近い。明石が健全だったら、とっくに完成させていただろう

 

 しかし、この事を502部隊に伝える訳にもいかない。恐らく反対されるだろう。未知のウイルスを別世界に感染拡大させることもあり得るのだ

 

「何もしないよりかなマシ!」

 

 夕張は工具を手に取ると早速作業にかかった

 

 ワームホール発生装置は完成間近であったため、完成にはそんなに時間はかからないはずだ! 

 

 

 

 502陣地

 

 軍医は頭をひねっていた。感染を免れた大和たちから聞いたが、時雨は何かに感染したらしい。大和は結衣が新たにウイルスを打ち込まれたらしい! と無線で訴えてきたが、軍医はどうも違うように思えた

 

「呉鎮守府に蔓延している例のウイルスと時雨の症状は違う。何だ?」

 

 勿論、浦田残党にはたくさんの人がいる事は確認しているため別の人が打ち込んだのか? 武田である浦田副社長の仕業かも知れないが、アイツらの従来のやり方とは違う

 

(細菌による感染? だが、強力な未知のウイルスを使っている連中が細菌なんて使うものなのか?)

 

 軍医が納得していないのも無理もなかった

 

 ウイルスは確かに厄介なものだ。感染力はとても強いが、ウイルスは生き残るために変異をするため、コントロールが難しいものだ*1。一方、細菌は恐ろしいものではあるものの、ウイルスと比べて比較的取り扱い安かった

 

 浦田重工業が攻撃して全滅させた731部隊については軍医自身、聞いたことがある。あの部隊が取り扱っていた病原体は、ペスト、コレラ、炭疽、腸チフス、赤痢などである。中には出血熱もあった

 

 浦田重工業が繫栄し政治に口出しする時期の頃、軍の一部は反旗を翻し武力で攻撃した。実際に交戦したことがある

 

 攻撃した部隊には731部隊まで参戦したというのを耳にした。噂だが、ペストに感染させたノミを詰めた陶器製の容器を飛行機に載せてばら撒こうとしていたらしい

 

 その飛行機はAH-64Dであるヘリに呆気なく撃墜されて空振りになったどころか、警備隊長が率いる浦田部隊に全員銃殺されたという。施設は残らず爆破され、生物化学対応部隊は潰されてしまった

 

 しかし、軍医はこの場合、浦田重工業が正しいのではないかと思うようになった。浦田重工業が持っていた未来の資料、731部隊の行動はあまり褒められたものではなかった*2

 

 そんな忌み嫌うやり方を彼らがするだろうか? 

 

 未知のウイルスも恐らく対艦娘用だろうが……

 

(いや、推測するだけ無駄だ。そんな事より臓器を抜き取られ倒れても立ち上がるとは時雨の生命力の方が驚きだ)

 

 取り敢えず時雨は無事だ。未知のウイルスに感染しているかも知れない。だが、諦めない精神力に軍医は驚きを隠さずにはいられなかった

 

 

*1
特にインフルエンザウイルスは世代交代の早さ・感染力の高さでよく知られている。インフルエンザウイルスをまともに制御できると考えている科学者はまずいないと言っていい

*2
史実だと細菌兵器開発のために多数の犯罪者や捕虜を使用して人体実験を行ったとされている。ペストに感染させたノミを飛行機に載せてばら撒く、といったやり方は実際に行ったとされている




軍医「因みに唯一根絶に成功した感染症ウイルスは、天然痘だけです(注:本当)」
夕張「終わった……無理ゲーだ」
時雨「落ち込まないで!何とかなるから(多分)!」

コロナウイルスは根絶は出来ないかも……?
この作品のウイルス?多分、解決出来る……はず……
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