「山城暗殺未遂は兎も角、私達に何かあるのですか?」
「失礼しました。我々、ゼロ課はある殺人犯をおっています。……ここにいる鶴川君の左遷に関わることです」
山城が部屋から出ていった直後、加賀はすぐさま聞いた。鶴川は罰が悪そうな顔をしていたが
「私達に関係あることですカー?」
「直接ではありませんが、間接的な所です」
金剛は質問したが、杉田警部はスーツのポケットから、ある男性の写真を差し出した
二枚あり1つは白黒、もう一枚はカラーである。写り具合や見た目から白黒の方は古いものだろう
「この男は誰です?」
「彼の名前は
「浦田関連の人物と聞いたのだが、こんな人は知りません。浦田関係者は、私も調べていましたから」
提督と杉田警部のやり取りに和やかだった応接間は、一気に重苦しい空気になった。大淀は無表情になり、陸奥と加賀は眉を微かに動かした。金剛は危うくティーカップを落としそうになった。一番、反応をしたのは時雨だった
「う、浦田?」
「落ち着け。残存ではないのですね?」
時雨は勢いよく立ち上がったが、提督が無理やり座らせた。時雨が反応するのも無理はない。まだ、あの悪夢を覚えているのだから
「ええ。ですが、話は長くなります。──数十年前、まだ日本が浦田重工業によって発展する前の頃です。〇×県のある村で起こった事件が起こりました。100人ほどいた村にある少年がいました。少年は学生時代に病にかかりました。肺結核です。当時は、まだ有効な治療法や予防接種がありませんでしたから、不治の病でした」
杉田警部の話に、時雨をはじめ誰も口を挟まなかった。時雨は気が付かなかったが、机の下には盗聴器が仕掛けられていた。それは山城が紅茶を持ってきた時に、こっそりと仕掛けていた。その盗聴器は言うまでもなく、明石と夕張の手製盗聴器である
工廠では皆が集まって聞いていた。502部隊の隊長である曹長までいる。今回はおとがめなしなのだろう。山城の暗殺未遂事件ではネタにされていたが、浦田関連の話になると静まり返った
「……!」
目を覚ました長門は、拳を握りしめていた。あの日を忘れてはいない。遠くで聞いていたアイオワも無表情になっていた
「徴兵検査でも肺結核を理由に不合格となった。彼は悔しくて泣いたと伝えられています。おまけに彼の両親は薬屋でした。それほど、ショックを受けたのでしょう」
「でも、結核は治ったんですよね? 生きているってことは」
大淀は質問した。丁度、全員に予防接種をしていたため、幸いにも予備知識は入っていた
「ええ。免疫力を得て自然治癒したのでしょう。──話を戻します。少年はある少女に恋をしていました。ですが、結核であることは村の人に伝わっています。村人達は彼をのけ者にしました。そのため、少年は怒りを爆発しました」
「復讐……」
陸奥は、咄嗟に口をした。恋人に裏切られ、村人達から侮辱されれば、誰だって怒りを爆発させるだろう
「そうです。しかも、少年は大胆な事をしました」
鶴川巡査部長は、カバンから新聞を取り出し、机の上に置いた。昔の新聞であったが、一面にはデカデカと書かれていた
『〇×県××村で連続殺人事件!』
皆の目が新聞に集まり、提督は記事を読んでいた
「少年は、計画を練り上げ5月中旬の17時頃に犯行を起こしました。外部との連絡と明かりを断つため、送電線と電話線を切断。両親が所持していた日本刀と猟銃、そして強力な毒矢を使って村人を次々と殺害。──毒矢と分かったのは後日、矢を回収されたのと遺体の検死で分かりましたが。生き残っていた人の証言によると、まるで笑いながら弓矢で人を殺していたと言っています」
杉田警部は淡々と語る。家が薬屋だったのか、矢にはトリカブトが使われていたらしく強力な毒が塗られていたらしい
「少年は、2時間足らずで30人もの村人を殺害。両親までも殺害しています。……勿論、命からがら逃げた人も数名います」
「そして、復讐を終えた少年は、自らガソリンをかけ火をつけ自害した。しかし、自殺は偽装。実は、同じ年頃の村人の遺体を使って自殺を偽装した。身分を偽りながら各地を転々と逃げた連続殺人犯でした。そして、ある高等学校の連続殺人犯でお縄になったと」
提督の説明に周りは驚いた。時雨も同様だ
「提督、知っているの?」
「知っている。田中湊は親父からよく聞かされたよ。あの事件については大々的に報道されたといっていた。しかも、田中が富裕層の一家皆殺しした事件現場であった別荘を親父が買ったのだから、嫌でも覚えてしまう」
(え……別荘?)
最後の言葉が非常に気になるが、提督の説明に時雨は納得した。父親は、年配の人だ。当時を知る者が、子に伝えることは不思議ではない。別荘が少し気になるが
「だけど、確か田中は逮捕されましたよね? ある高等学校の学生を大量に殺害したために捕まったと」
「そうです。大きくなった田中容疑者は、『殺してみたかった』と言っていたそうです。裁判は死刑判決。彼は控訴もしなかった」
杉田警部は淡々と述べた。余りにも常軌を逸脱している
「当然の報いです。理由もなしに殺害は許してはなりません」
加賀はきっぱりと言った。いくら理由があろうと、殺人して良い理由なんてないからだ
「ええ。ですが、彼は脱走しました。現在は彼の行方を追っています」
杉田警部の告白に全員が衝撃を受けた。逃亡?
「現在、警察が行方を追っていますです。また死を偽装したことにより、捜査も遅延しているのが現状です。鶴川君は、彼を逃すどころか、誤認逮捕してしまい左遷されたのです」
「ちょっと待って。さっきから殺人犯と警察のミスを話しに来たのではないんでしょう! 浦田関連とどう関係があるのよ?」
陸奥は苛立ちを隠せずにいた。確かに、ここまでの話だと浦田重工業は関係がない。現状だと鶴川巡査長の捜査ミスの話だ
「分かっています。ここからです。その……私もあまり思い出したくないんですが」
「田中湊は捜査一課が追っているとして、我々は彼の事件をもう一度洗ってみました。そのうち、高等学校の無差別殺人事件で面白い事実がありました」
鶴川巡査部長は謝り、杉田警部は高等学校の連続殺人事件の新聞を置いた
「我々……いえ、私と鶴川君は高等学校の連続殺人を行ったのは田中容疑者ではないと思っています」
「何故ですカ? 証拠でもあるのデス?」
「証拠はありません。ですが、この当時の新聞を見れば分かるかと」
提督は手を取り、新聞を見た。写真は笑いながら警察に連行されている田中湊と白骨化した二人の遺体だった。一面だけでなく、三面には死亡した複数の学生の写真が載っていた。追悼式典も載っており、家族が悲しんでいる
何気に新聞を読んでいた提督だったが、突然目を見開いた。顔は青ざめ、明らかに動揺していた。手に持っていた新聞は力が入り、新聞に皺が入る
「どうしたの、提督?」
時雨は提督に聞いたが、提督は新聞を凝視するばかりだ。時雨は提督が凝視している新聞の記事を見たが、時雨も亡くなった遺族の名簿の一覧のある名前を見てギョッとした
「っ! ……これって!」
時雨は亡くなった学生達の名簿を見て固まった。未だに忘れもしない名前が書いてあった
『浦田結衣』
彼女の名前を見て時雨は、過去にあった出来事が蘇った
『失われた未来』では、第二次世界大戦を止めるという名の元に、戦艦ル級flagshipに化けて、世界を滅ぼした事
参戦国の兵器と蔑み、仲間や姉妹達を手当たり次第、攻撃した事
そして、艦娘を直ぐには殺さず、痛め付けた事
時雨も、結衣の暴力の前に絶望し廃人になりかけた
「大丈夫か?」
時雨が動揺したため、提督が声をかけた。時雨は何も言わず、黙って再び座り直した
他の艦娘も見たのだろう。大淀も金剛も時雨ほどではないが、明らかに動揺していた。加賀は表情には出していないが、はらわたが煮えくり返っているだろう
「そうです。今から五年前の浦田騒動の際、当の容疑者は死亡したため不起訴となりました。捜査は大まかには終わりました。しかし、我々は田中秦を追うために、過去を洗いました。そして、見つけました。浦田結衣という名を」
当時の事件は日本中をひっくり返すような大事件である。世間では、日本に経済発展を促した大企業が、狂気に走り深海棲艦を使って日本や世界を攻撃した事になっている
詳細は違うが、理解できない事もあったため国家機密となっている。並行世界から未来の技術を我が物とし、時を待っていたなんて誰が信じようか?
一応、期間はあり約50年後あたりには一般公開されるらしいが
「刑事の勘というものでしょうか。私と鶴川君は、田中容疑者が学生達を殺したとは思えません。何故なら──」
「殺したのは田中ではないな」
提督は杉田警部の説明を遮った。根拠はない。だが、浦田結衣の性格は大人しい訳がない。提督が話している間、時雨は荒い息をしていた。もう四年前の話なのに、あの時が鮮明に蘇る
「……休むか?」
「平気。僕は」
提督は時雨の様子を気にしていたため、退出して休むよう薦めたが、時雨は拒否した
ここで聞き逃してはならない。また、あの惨劇を繰り返してはならない
「話を続けます。我々は田中容疑者を追ったところ、ある地点の周囲を潜伏しているとの事です」
杉田警部の説明に提督は、ハッとした
「まさか、この周辺か?」
「ええ。目撃者によると、ここを中心になにかを活動しています。先日は漁師のフリをして密漁しておりました。警察が彼が潜んでいるであろう家を捜索しましたが、既にもぬけの殻でした」
この説明に艦娘達は互いに顔を見合わせた。大抵の逃亡犯であれば、必死に逃げるはずである。同じ所に留まる訳がない。しかし、田中容疑者は逃げるどころか、このあたりを彷徨いているのだ
「分かりました。警備は強化します。こちらを報復する気なら然るべき対処をします」
提督はテキパキと答えた。事務的な返答だが、内心では冷静ではないだろう
「そうした方がよろしいかと。ですが、私から質問があります」
杉田警部は身を乗り出した
「死者を蘇らせる事は可能ですか?」
「どういう意味です?」
「私は貴方の父の論文である『開発資材』や艦娘など読みました。艦娘の存在は、科学的に証明出来る。深海棲艦の能力も。ですが、その記述の中には死者蘇生の可能性あり、とあります」
杉田警部は説明していたが、ほとんどの者は唖然としていた
確かに艦娘が撃沈すると死亡する。建造すれば撃沈した艦娘は現れるが、あくまで別人だ
また、同一の艦娘は確認されていない
但し、これはあくまで『失われた未来』の出来事だ。世界滅亡危機の世界を経験したアイオワや時雨の話である
今は、そこまで酷くはないため、安心ではあるが
「死者蘇生は創作の産物です。それはあり得ない。艦娘でも無理だ。深海棲艦は出来るらしいが、人体の構造と違う」
提督はキッパリと答えたが、陸奥は微かに反応した。提督の方に振り向いただけで、何も言わなかったが
「……分かりました。では、何かありましたら、こちらに連絡を」
杉田警部は名刺を提督に渡すと立ち上がった
彼らは納得したらしい。大淀は、彼らを見送りするために案内した
杉田警部達が応接間から出て数分後、緊張の緒が切れた。しかし、提督もその場にいた艦娘も未だに衝撃を受けていた
「提督……アイツは戻ってこないよね?」
「あり得ないな。たが、田中秦という奴は厄介だ。ただのイカれた殺人犯であって欲しいが。……しかし、これはキツいな」
時雨は恐る恐る聞いたが、提督は否定した。だが、時雨は未だに荒い息をしていた。四年前に起きたあの戦いが、昨日のように感じられたからだ
「時雨、休んでおけ。金剛、加賀……時雨を頼む」
時雨を安静させないといけない。金剛も加賀も無言で頷くと時雨を休むように促した。実は提督は刑事から浦田重工業に関することで聞きに来たと言ってきたため、尤も拘わった時雨を連れてきたのだ。しかし、まさか浦田結衣の名前が出てくるとは思わなかった。時雨も他の艦娘も予想外だった
時雨が動く前に提督は、机の下を見た。何かを見つけたらしく、ベリッと音がした。提督が再び立ち上がると、手には小さな金属の塊があった
時雨はそれが何なのか、分かった。盗聴器だ。誰がやったのかは、大体察した。あの時に取り付けたんだ
「というわけで、基地警備の警戒レベルをあげるぞ。明石と山城は、提督室に来い!」
提督は盗聴器に向かって叫ぶと、陸奥に投げ渡した
陸奥は盗聴器を受けとると片手で簡単に粉々にした。盗聴されているのが、分かっていたらしい。工廠では明石と艦娘達だけでなく、いつの間にか聞きに来た502部隊の連中までも盗聴器の機械に集まっていたが、スピーカーから提督の怒鳴り声と破壊する音で全員飛び上がったという
また外では、息を呑む音が聞こえたような気がした
時雨が応接間から出て、廊下に出ると白露を始め、姉妹達が心配そうにしていた
「時雨……大丈夫っぽい?」
「僕は大丈夫。大丈夫だよ! ちょっと驚いたけど。アハハ……」
それは自分に言い聞かせているのか、姉妹達に心配しないために言っているのは分からない。だが、そうでもしないと自分が自分で無くなるような気がしたからだ
応接間では、陸奥と提督はまだ残っていた。他の者か帰ったが、陸奥だけは残り心配していた
「提督……田中という殺人犯は、死者蘇生の方法を」
「あり得ないな」
提督はキッパリと言った。死者蘇生は、艦娘でも不可能だ。深海棲艦は分からないが、生き返るという訳でないようだ
しかし、陸奥は死者蘇生を研究していた者を知っている。この世にはいないが
「田中は殺人犯だ。科学者ではない」
「そうね」
陸奥は安心した。本当に安心しているのかは分からない
「あの海軍中佐、何か知っていますね」
大淀に見送りされ鎮守府から離れた時、鶴川巡査部長は杉田警部に言った。彼は左遷されたとは言え、元は捜査一課の人である
「そうでしょうね。その他にも時雨という艦娘は何か知っているでしょう。明らかに動揺していた。何かに怯えていたようにも見えます。……ですが証拠がない以上、任意同行出来ません。田中容疑者を追っている時に何か分かるでしょう」
杉田警部は、車に乗り込むと警察庁へ向かった。状況を整理するためである
浦田結衣は死亡しているのを確認しているため、浦田重工業に関する警察の捜査は既に終了している。死者を調査する事はない
よって、特別捜査機関であるゼロ課が担当しているのだ。ゼロ課は法律では対処しづらい事件性を捜査する機関である。本来は、浦田重工業を検挙するために立ち上がった極秘の組織である。証拠を確認次第、警察が動くはずだったが、浦田重工業が警察よりも力を持っていた事や軍と艦娘の活躍中によって浦田重工業は崩壊。手柄は全て軍に持っていかれた。警察は事件の後始末に追われてる始末である
浦田重工業は崩壊し、容疑者である浦田兄妹は死亡してしまったため、規模は縮小。現在は、左遷するための部署に成り下がっていた
しかし、杉田警部も鶴川巡査部長も辞める気はない
「また、ゼロ課が必要とされる日が来るでしょうね」
「できれば、平和のままの方がいいのですがね」
車は静かに動き出した。田中秦の目的がなんであれ逮捕するために
???
「チッ! しつこいな。これでは、入れないだろうが」
家の物陰から悪態をつく者がいた。警察の車が見えなくなるのを確認すると姿を現した。こっちの情報を伝えたのだろう。1人は兎も角、一緒にいたあの刑事は勘と頭脳が良い。何度隠れてもすぐ追ってくる。その度に逃げているが
「分かった。与えられた仕事をやればいいんだろ?全く、あの機械人形は融通が利かない。大切にしてた『左腕』は勝手に持っていかれる、変な奴と協力する……噓だったらダイナマイトで破壊してやる」
独り言をブツブツ言うとその場から立ち去った。どうせ、鎮守府には自分の事は話しているのだろう。なら、過去の事を話したはずだ。だが、どうでもいい
あいつさえいれば、警察なんて烏合の衆だ
(『切り札』は俺達が貰う)
田中秦は心の中でそう呟いた
来週イベントですね
欧州艦はあるから大丈夫かな?
話は変わりますが先日、劇場版『鬼滅の刃』を見ました。原作漫画やアニメも見たこともあって、人気の理由が分かったような気がします
艦娘だと神通あたりが全集中の呼吸を使えそうな気がします()
おまけ
提督「よし。全集中の呼吸が無理でも血鬼術を取得すればいい。風雲、沖波、岸波、マエストラーレとリベッチオは血鬼術を習得するまで訓練な。勿論、鬼にならずに」
沖波「司令官、無理ですよ!?」
風雲「過剰な力は、私必要ありません」
岸波「流石に映画の見過ぎでは?」
マエストラーレ「頑張っても無理だから」
リベッチオ「提督さん、頭でも打ったのかな?」
呼び出された艦娘五人は不満ばかり。当然の反応とも言えよう
時雨「提督、流石に無理じゃない?この作品がクロスオーバーになっちゃうよ。接点なんて全く無いのに」
提督「何言っているんだ、時雨。接点はあるぞ。風雲を含むここの五人は竈門禰豆子と同じ声の持ち主だからな。出来ないわけがないだろ」
風雲、沖波、岸波、マエストラーレ、リベッチオ「「「「「そっちの接点!?」」」」」
時雨「中の人ネタなんだ……」