問題は後段だ
ホワイトハウス
ホワイトハウスではニューヨークの戦況を随時伝えられていたが、内容は呆然とするものばかりだ
防衛戦による軍事作戦は練ったはずだ。クラーケンである浦田結衣がどのように責めるのか躍起になっていた。ブラフかも知れないしハッタリで終わるかも知れない。仮に現れなかったとしても、連合軍がやる事は一つ、殲滅だ。対深海棲艦用の兵器も量産可能であるし、攻勢には丁度いい機会だ。また、他国の兵器事情も知ることが出来る。事実、ロシアや日本はぶっ飛んだ敵を開発していたのだから驚きだ。但し、自国の事は棚に上げているが。しかし、敵は奇襲や陽動などせずに堂々と現れた。攻撃を食らっても物ともせず、逆にレーザー兵器、正確無比な砲撃やロケット攻撃で壊滅的なダメージを受けた。他国の軍隊は敵わないと見るや否や兵器を捨てて一目散に逃げた。ニューヨーク付近に設営していた各国の将軍や政治家たちが揃っていた総司令部にいた人達は、言葉を失って凍り付いた。深海棲艦を倒せたし、数日前まではハウニブ型戦闘機が浦田結衣にダメージを負わせたのに、今では何ともない。しかも破壊された艤装は、瞬く間に回復している
そして、結衣が放った熱線が自由の女神像を爆砕し、飛んできた女神の首が総司令部の目の前に落ちるのを見ると全員、一目散に逃げてしまった
あれだけヴァルゴグラードの敗北で報復に燃えていたロシアの大統領も艦娘不要論を唱えていた日本の国防大臣も恥も外聞もかなぐり捨てて逃げ出してしまった
「現在、艦娘のサウスダコタは交戦していますが」
「艦娘でどうにかなる相手ではないだろ!」
秘書の報告を聞いた米大統領は叫んだが、彼もようやく現状を理解した
なぜ、日本は必死になって『超人計画』を秘匿しようとしていたのか? 米大統領は大統領になる前から疑問に思っていた。前大統領は艦娘を歓迎していたが、あれは親日派だと切り捨て、浦田重工業となる反乱も実は日本は密かに世界を支配しようと企んでいるのではないか? などと信じていた。数年前の浦田結衣の過激な行為もただの暴走と日本が責任を擦り付けただけだと考えた。実際に平和党という政党は、そう思っていたらしくクーデターを起こそうとしていた
しかし、実際は違った。浦田残党や浦田結衣は人類の敵だ。日本が必死になって封印しようと躍起になっていたのも頷ける。もし、メアリー・イザベラが成長していたら祖国である米国を支配しようとしているだろう
「大統領……たった今、南米のコロンビア帝国が宣戦布告して北上してきました」
「早速、軍を送って押し戻せ! ……武田の奴、南米まで手を伸ばしたのか!」
米大統領は両こぶしを机に叩きつけた。奴の狙いはスエズ運河だろう。過去に深海棲艦が抑え込まれたのは兎も角、南米の連合国であるコロンビア帝国に奪われるのは屈辱である
だが、米大統領は後の報告を聞いて驚愕する
サウスダコタは攻撃をして大破させ無力化させると大破し漂流している駆逐艦エルドリッジから何か作業をしていた
海岸からは遠くないものの、結衣は手をかざして何かをしていた
「司令部! 敵、駆逐艦エルドリッジに張り付いている模様! ……おい、誰か聞こえないか!」
「無線機が故障したのか?」
連合軍が敗走している中、一部の部隊は未だに残って戦おうとしていた。死んでいった親友や部下が思い浮かばれない
「もういい。敵は油断している! 戦車砲で吹き飛ばせ! 陸上戦艦ラーテの威力を思いしらせてやれ!」
戦車長は死んでいった仲間を思いながら怒り任せに言った
彼等が乗っているのは決戦兵器とも言える戦車。陸上戦艦と異名を持つラーテに乗っていた。本来は上陸してきた深海棲艦や艦娘対策として生み出された兵器だ。巨大な砲塔、けた違いの防御力を誇る強化装甲、そして巨大の割に素早く走行出きる大馬力のエンジン。巨大戦車マウスが小さく見えるほどだ。駆逐ナ級と深海棲艦の艦載機による空襲で奮闘した戦車たちだ。駆逐ナ級を撃退した光景は最高だった
ラーテとマウス2台は破壊されたニューヨーク街を進むと海岸に到着。結衣の姿を確認すると付近を遊泳している駆逐ナ級に目を暮れず問答無用で発砲した
従来の戦車砲とは違い巨大な砲撃が辺りを響き渡り、砲弾は敵に直撃。爆発したが、相手は全く効いていない。駆逐ナ級は応戦したが、砲弾は戦車の装甲を跳ね返している。深海棲艦相手には倒せる証拠だ!
「もう一発だ! 今度こそ──」
戦車長が命令を下したが、今度はなかった。結衣は見向きもせずに艤装に搭載していたレーザー砲と53cm主砲で粉砕したのだ
史実では活躍出来なかった巨大戦車は駆逐ナ級数体倒しただけで屑鉄と化した
「連合軍は当てにならない。撤退を!」
「No、見捨てることは出来ない!」
艦娘であるワシントンとコロラドは口論していた。サウスダコタと浦田結衣との戦闘の隙にジャーヴィスは上手いこと逃げれたものの、今度はサウスダコタが結衣の捕虜と化した。サウスダコタは死ぬ気覚悟で突進。ジャーヴィスを救いだし、味方の方向に投げ飛ばした。だが、サウスダコタはレーザー砲と53cm主砲を浴びせ無力化。結衣は駆逐艦エルドリッジの残骸に用があるのか、何か作業をしていた。近くにはサウスダコタは気を失って倒れている。今では縄でグルグル巻きで拘束しているが
「口論している暇ないでしょ! ジャーヴィスのような捨て身の作戦なんて私だってやっている!」
戦艦リシリューは叫んだ。リシリューもクラーケンである浦田結衣の存在は日本にいる提督から数年前に知らされていた
だが、月日が流れるとフランスの人々は艦娘よりも対深海棲艦の兵器に興味を抱いていた。こちらがどんなに戦果を挙げても人々の関心は人類が操る超兵器だ
意外にもリシリュー自身も納得していった。確かに人類脅威の問題は人類自らの手で解決するのが筋だろう。水上機のコマンダンテストも同じだ。もし、厄介払いされても第2の人生も送れるという手もあるだろう。コマンダンテストはバーを開きたいと言っていた。リシリューも同じだ。なので、数ヶ月前までは戦闘よりもバーの経営やお酒の研究をしていた
拘りが強いのか、イタリア艦娘であるイタリアやローマは「本格的よ」と言われた程だ。しかし、リシリューは気にしていない
人類が艦娘の手を借りずに倒せるならそれでいい。姫級鬼級を倒せるのも時間の問題だろう。切り札とやらの超兵器の威力も本物だ。共同開発となれば史実で産廃兵器も立派に起動するだろう。流石の浦田結衣も人類の切り札とやらには敵わないだろう。だって、超兵器が稼働してから深海棲艦相手に人類は連戦連勝。ついさっきまで深海棲艦のボスである戦艦水鬼改にダメージを与えたのだ。浦田結衣もきっと超兵器が怖くて隠れている。7日という猶予も何処が奇襲するだろうと踏んでいた
なので、リシリューは艦娘を捨てて第二の人生を歩もうと計画してしたが……しかし……『艦だった頃の世界』である第二世界大戦よりも強大な連合軍……日米仏英独伊露中豪である9か国相手に挑発し堂々と挑んで一方的に倒した? しかも、深海棲艦さえ手を焼いた超兵器相手に? 本当に対深海棲艦の兵器どころか艦娘程度で倒せるものか? 人類艦娘関係なく私達は結衣の脅威を桁3桁くらい読み間違えたんじゃないか?
数年前に駆逐艦娘である時雨を初め日本の艦娘が倒したのは必然ではなく、奇跡とも言える勝利で勝ったのではないか? 日本の提督が送られた突拍子もない報告書も誇張でも何でもなくく、全て事実なのか? 結衣に砲撃した時からリシリューの背筋には悪寒が走った
「今は日本にいる提督と時雨たちと合流しましょう!」
「分かっているのか! 呉鎮守府は生物兵器に──」
「ここにいても無駄死にするだけ! それに日本の提督によると楽しみのためだけに拷問するから殺したりはしない! 今は反撃のチャンスを!」
「……もうその手しかないか」
ガングートは歯ぎしりした。隣に居るタシュケントも不満そうだが、今は捨てられた連合軍防衛陣地に居ても仕方ない
「飛行場まで走るぞ! 長距離飛行出来る輸送機を奪って立て直す! だから──おい、ネルソン、ウォースパイト何をしている!」
ガングートは命令を下したが、イギリス艦娘だけ居なかった。いや、集まって何かを作っていた。
それは──
「何、作っているんだ?」
「超兵器よ!」
「いや、超兵器って」
ウォースパイトの返事を聞いてもガングートは絶句していた。周りの艦娘も同じだろう
ウォースパイトやネルソンが影で組み立てていたのは直径三メートルの鉄で出来た巨大な車輪だ。車輪の周囲には18本の固定ロケットが配置されている
あの兵器は『艦だった頃の世界』において連合軍が上陸作戦を実施する予定のフランス西海岸にはドイツ軍が敷設した「大西洋の壁」と呼ばれる防壁を破壊するために作られた産廃兵器パンジャンドラムだ
しかし、この兵器は制御が難しく、艦娘や妖精の手で施してもこんな兵器が機能するわけがない。射出後に何処に転がっていくかもわからない迷惑極まりない兵器をイギリス艦娘たちは必死になって作っている? オーストラリアの艦娘であるパースも手伝っている???
「black priceの救助をしろと言ったが……」
「余を信じろ!」
「説得力ないぞ」
流石のワシントンも絶句したが、ネルソンは本気だ。艦娘以前にイギリスの心を持っていると誉めるべきか
ただ結衣の精神支配されている駆逐ナ級や軽巡ツ級などの深海棲艦が沢山いる海域なので、パンジャンドラムが何処へ飛んでいこうが、必ず注意を引くはずだ。その隙にサウスダコタを救助する。最早、ヤケクソな作戦だが、妙案は既に無きに等しい
「点火!」
ジャーヴィスが宣言すると同時にロケットは火を吹いた。猛烈な勢いで荒れ狂うパンジャンドラムは海上で疾走し駆逐ナ級を蹴散らした。そして、運良く結衣まで接近したのだ
妖精の手で稼働したとはいえ戦果が新記録であるため、ネルソンたちは喜んだが、金属同士のぶつかり合う音の後に彼女たちが見た光景は
「ダメだったか!」
「片手で受け止めるなんて!」
「もう無理だ! 飛行場まで逃げるぞ!」
ウォースパイトもネルソンも驚きの声を上げていたが、コロラドは違っていた。あんな産廃兵器で結衣が止まるはずがない。そして、結衣は動き始めた。何をしたか知らないが、作業を終えたという事だ!
「サウスダコタ! 必ず助けるから!」
コロラドは無線で怒鳴ると全速力で逃げた。総司令部からは抗議の声が聞こえたが、コロラドは無視した。もう連合軍なんて機能していないのだから
そんな中、深海棲艦の分析官である少佐から無線連絡が入った
『日本の特別輸送機富嶽が待機している! パイロットと話はついた! 急いで来い!』
少佐の叫び声を通して無線から怒鳴り声や悲鳴や航空機の爆音が聞こえてきた。連合軍の兵士たちは我先に逃げようとしてるのだろう。時々、拳銃の発砲音も聞こえる
「何だ、何なんだ、この戦争は……」
敗走しながらワシントンは頭を抱えた。史実の太平洋戦争がまだ可愛く思えた
「イカれてやがる」
ガングートは苦々しく吐き捨てていた
ホワイトハウス
「大統領、敵が消滅しました。分析した所、結衣は駆逐艦エルドリッジの能力を身に付けた模様です」
「身につけた!? 瞬間移動したとでもいうのか?」
報告してきた中佐から大統領は一瞬の間、思考停止に陥った
駆逐艦エルドリッジはファラデルフィア計画で生み出された超兵器だ。瞬間移動可能で姿を消す能力。究極のステルス艦とでもいおうか。一番、期待をしていた軍艦から結衣は能力を奪った???
「間違いないのか?」
「はい……瞬間移動する時に発生する磁場を確認されたので」
「ふざけるな!」
米大統領は怒り狂っていた。だが、もう手はないことではない。最後の手段とも言える兵器。『人類の叡智の炎』ともいうべき究極の兵器。将来、戦争を左右されると言われる存在
「対深海棲艦用の原子爆弾と水素爆弾の準備しろ! 早く!」
「わ、分かりました!」
米大統領の怒鳴り声に秘書は慌てて大統領執務室から飛び出した
数日後……
「敵はビキニ岩礁にいます。在中米軍基地の南京航空基地から飛び立ったE-13電子偵察機によると敵は日本のイオージマと呼ばれる場所を拠点としているようです」
秘書は報告しながら言ったが、他の将軍は沈黙を保ったままだ
敵の威力の情報はニューヨークを中心に瞬く間に広まった。兵士民間人関係なく恐怖に陥り、既に暴動まで発生している
今では深海教と呼ばれる終末論宗教団体が筆頭になっているくらいだ
「流石に南京からイオージマまでの距離がありすぎて」
「構うものか! さっさと搭載しておとせ!」
米大統領は怒鳴ったが、秘書の額は冷や汗でびっしょりだった。どう考えてもこちらを挑発している。報告によると結衣は逃げもせず、堂々としているらしい。だが、仮に彼が意見を述べても意味はなかっただろう
ロスアラモス研究所で密かに対深海棲艦用ときて製造し用意した原子爆弾は十発。リトルボーイ六発、ファットマン四発。そして隠し球としてブラボーと呼ばれる水素爆弾三発だ。威力はTNT換算でリトルボーイが15キロトン、ファットマンが21キロトン。そして水素爆弾であるブラボーだが、何と威力が15メガトンである*1。秘書は知らないが、『艦だった頃の世界』ではリトルボーイとファットマンと呼ばれる原子爆弾は日本の都市に落とした。本来なら戦争終結のため、と言い訳が出来るだろうが、これは明らかにデモンストレーションだ! しかも味方ではなく敵の! 恐らくビキニ岩礁は消え去るかも知れないが……。深海棲艦には効果あったかどうかは不明だが、結衣の場合は……
秘書は将軍たちが電話で核搭載したB-29を発進するよう伝える姿を見守っていた
B-29数十機と試作機を急遽配備したB-36ピースメーカ3機がビキニ岩礁上空を飛んだのはこれが初めてではない。深海棲艦が拠点としていた時にも飛び、原爆を投下した。
「対深海棲艦用兵器は健全なり!」
原爆投下で拠点攻撃した時は、全米で熱狂の嵐に包まれていたが、B-29の機長を初めパイロットもクルー達も分かっていた。あの時、既に深海棲艦はいなかったのだ
深海棲艦だってバカではない。戦艦水鬼改は暗号文なんて解き明かしているだろう。だから、観測機やレーダーには深海棲艦の姿は見られなかったのだ。空振りなのに、上官は黙っていろ! と言われた。しかし、今度の敵は深海棲艦よりも脅威だ。人類の絆とも言える連合軍相手に挑んでねじ伏せた相手だ。しかも、コイツは呑気にこちらを眺めている。逃げようとも応戦しようともしない
『投下!』
機長の指示で核攻撃用に改造したB-29エノラ・ゲイからリトルボーイが投下された。他の機体も一斉に原爆を投下した。B-36からは原爆よりも威力がある水爆が投下された
迎撃機が上がる心配もないため、試作機であるB-36まで飛べたのは嬉しいが……
ビキニ岩礁から遠く離れた場所では重巡洋艦インディアナポリスとそれに随伴している駆逐艦がいた。実はアメリカから南京まで核を運んだのはこの軍艦である。対深海棲艦を搭載しているため、深海棲艦に遭遇しても返り討ちに出来る
対深海棲艦兵器として究極の兵器。理屈はちんぷんかんぷんだが、兎に角凄い爆弾というのだけは分かっていた。数十メガトンもの核攻撃に耐えられる生物なんて居ないんだ。結衣はアメリカを本気で怒らせたのだ
強力な閃光と爆音、そして不気味な光を帯びたキノコ雲が発生し、その光景を見た乗組員のほとんどは神に祈ったりしていた。一部の乗組員は歓声を上げていたが、あれはどうしようもない奴だ
艦長も含め全員はこれで終わったと思っていた。誰も疑わなかった。数メガトンの衝撃と熱と放射線に耐えるものなど居ない、と
だが……爆弾を全て投下したという報告から数分後、キノコ雲からアイツが現れた。無傷の姿で
「マイゴット!」
「ジーザス!」
皆、それしか言えず呆然としていた。最高機密で運ばれた核兵器でも奴には殺せなかった
乗組員全員が呆然としていたインディアナポリスは、結衣が放った対艦ミサイルを諸に受け撃沈されてしまった。史実では潜水艦に撃沈されたが、ある意味皮肉だった
ホワイトハウス
「大統領……敵は健全です。南京の在中米軍基地から連絡はありません。……敵がテレポートしてきたと最後に途絶えました」
将軍からの報告で米大統領は、固まってしまった。顧問として来たロスアモラス研究所から来ていた研究員もアインシュタインも思考停止状態だった
まだ、核搭載の爆撃機が撃墜されたのなら理解できる。今度は囮を使うなり護衛機をつけるなりすれば問題ない
しかし……数十発もの核爆発を受けても何ともない!? ニューメキシコ州のアラモゴート砂漠で何度も核実験したのだから威力も分かっている。人体に悪影響である放射線も科学者たちの説明で分かっていた。内容は難しかったが
それを……あのクラーケンは耐えたのか??
「大統領、クラーケンはエルドリッジの力を手に入れたと思われます。瞬間移動でホワイトハウスに乗り込む可能性もあります。すぐに避難を──」
秘書は何とか正気を保ち避難するよう促したが、米大統領は突然狂ったかのように笑い出した
「クラーケンだって!? 奴は海の怪物なんかではない! あれは悪魔だ! 奴が放つ光は科学で作られた兵器なんかではない!
米大統領は正気を失っていた。核さえ効かない相手にどう倒せと? 今まで力を注いで作った対深海棲艦の兵器は何だったのか? 秘書も将軍も呆気にとらえていた。そのため、米大統領の次の行動に間に合わなかった
「この世に神なんて居なかった! そうだ! ワームホールから現れた深海棲艦は異世界の生命体なんかではない! 黙示録の獣だ! 私はこんな世界に居たくない!」
それだけ言うと、米大統領は拳銃を隠し持っていたらしく、ポケットから拳銃を取り出すと、何と口に銃口を突っ込んで引き金を引いてしまった
秘書も将軍も顧問科学者も大統領自殺にパニックになっていた
合衆国の、そして世界の未曾有の危機にあって一番強くならないといけない人間が逃げ出してしまった
硫黄島 某所
サウスダコタは苦痛で目が覚めた
辺りが暗いため状況が掴めない。体を動かそうとしたが、動かない。いや、動けない出はない。動けないのだ
動かそうにも鎖の音が聞こえるだけで、体のあちこちが痛みが走る
「捕まった……のか」
サウスダコタは呻いた。確か自分は──
「shit!」
サウスダコタは舌打ちした。今や自分は捕まった身だ。自分の身を犠牲にしてジャーヴィスの救出をしたのだ。しかし、ジャーヴィスのやっていた行為には非はない。ジャーヴィスがやらなくても誰かがやっている
牢屋なのか、カビ臭い匂いがサウスダコタの鼻を刺激した。弱々しい電球が付いているだけ。どう脱出すればいいか考えているところ突然、何もない空間から光が放ったかと思うと人型が現れた
何なのか分からなかったが、誰なのか分かるとサウスダコタは狂ったかのように叫んだ
「結衣! 貴様、よくも!」
「キャンキャンワメくな。核爆発受けたから耳鳴りがしているんだ」
「……はっ?」
サウスダコタは呆然とした。核爆発を受けた? どういうこと?
「ああ、分かりやすく言ってやろう。アメリカ大統領は怒り狂って核攻撃を命じた。だからご要望通りビキニ岩礁でのんびりと待ったよ。高高度に飛んでいる偵察機に電波を飛ばして位置を知らせたらB-29の大群が来て沢山の核爆弾を投下してきたんだ。対深海棲艦の兵器とはいえ凄い威力だな。道理で広島長崎が一瞬で壊滅するはずだ」
結衣の自慢話にサウスダコタは思考停止状態に陥った
(対深海棲艦用の兵器として核爆弾を密かに開発するのはいいとして……核爆発に耐えた?)
サウスダコタはどう反応していいのか、分からなかった。核に耐えた? しかも、ピンピンしている。放射線障害すら克服してるかもしれない
「……まだ終わりじゃない。人類も艦娘もお前を倒──」
「いいや、もう誰も私を殺さないさ。お前の国の大統領は拳銃自殺したぞ」
「え?」
結衣の爆弾発言にサウスダコタは狼狽した
「ハハハハハハ……まだ分からないのか? 人というのは何かに信じないと生きていけない存在さ。連合軍の猛攻や核爆発に耐えてた上で全滅させれば人は簡単に折れるからな」
結衣の説明にサウスダコタは恐怖で足がすくんだ。絶対的な力を手に入れたからこそ成せる技だ。だから、あのような真似ができるのだ。軍事常識としてはあり得ないやり方をしたのも納得する
「他の国もどうだろうな。内戦が勃発した国もいるらしい」
「何が望みなの?」
「浦田重工業を復活して栄えるためだ。日本を支配してより良い世界を築く」
「あんたのやり方は大量虐殺よ!」
サウスダコタは言い返したが、結衣は動揺すらしない
それどころかとんでも無い事を言ったのだ
「じゃあ何だ? 私が暴れなかったら世界は平和なのか?」
「……っ!?」
「お前も薄々感じているだろ。深海棲艦一掃したら、その後はどうなるかなんて? 歴史は繰り返すのだよ。それを止めさせるには絶対的な権力と圧倒的な暴力が必要なのさ」
結衣はゲラゲラと笑っていたが、サウスダコタの小声に結衣は聞き取れなかった
「何を言っている?」
「絶対に殺すと言っているんだ、クソ野郎! 『艦だった頃の世界』のソロモン沖では霧島と戦ったが、今では敵ではない。殴り合った後に認め合った艦娘だ。ワシントンは悪口ばかり言ってくるが、悪い奴ではない。戦争を経験したが、これほど殺したいと思った人は初めてだ」
「そうか。だが、戦って死ぬという選択肢は与えない。決して」
結衣は拘束していたサウスダコタの手を力ずくしで破壊すると近くにあったテーブルにサウスダコタの両手を置いた
手は強制的に開かされ、結衣の腕は刀に変形した。何をしようとしているのかサウスダコタは抵抗したが、相手の力はとても強い!
「人と他の動物の違いは知っているか? 死を恐れるか否かだ。死んだら終わりというのを知っているからな。私が幼い頃に虐めにあったから虐めた全員を恐怖を味わさせてから殺した。絶望の淵に落とせば、人の行動パターンは決まっている。存在しない神に助けを求めたり、生きるために足掻いたり、精神が崩壊し正気を保てなかったりと。大統領は正気を保てなかったが、お前はどうだ? 時雨と違ってタフでも幸運艦でもないだろ」
「よせ! 止めろ! 離せ!」
サウスダコタは叫んだが、結衣は手刀を勢いよくサウスダコタの指に目掛けて振り落とした
「物好きだな」
微かに聞こえる悲鳴に武田は呆れていた。ぶっちゃけ、彼女の性格には問題だが、戦果は素晴らしいので黙認している
「武田さん、ヘリの準備が出来ました」
「よし、田中と合流だ。呉はどうなっている?」
「潜入している部下が妙な報告をしていました。502部隊の話から聞いたものですが、『2度目の重力波を検知した』とか言っていました』」
「重力波?」
武田は訝しげに聞いた。聞きなれない単語であるため、何なのか検討もつかない
「何時のものだ」
「数日前です」
「数日前? なぜ報告が遅れている?」
「超兵器の駆逐艦エルドリッジが発したものかと思ったのです。しかし、エルドリッジは電磁波を利用して瞬間移動することが分かったので」
部下の言い訳に武田は不満そうだった
「つまり、呉の艦娘はワームホールを作ったというのか。だが、そんなものを作って平行世界に行ったとしても治療なんて出来ん。仮に治療法があったとしても、こちらは国会議事堂を占拠している」
武田はピシャリと言った。今は浦田重工業再建するのが先だ! 邪魔する者はもう居ない!
時雨は歯を食い縛っていた。臨死体験というものだろうが、こんなに怒りで満ち溢れたのは初めてだ
艦娘のサウスダコタが結衣に痛め付けられている光景が目に写った。戦艦であることから精神力は強いが、何時まで持つのか分からない。自分も廃人になりかけた
「許さない!」
「無理だな。アイツは死を克服した! お前はあの世へ旅立つのだ!」
突然、誰かの手を掴まれ川へ引っ張ろうとしていく。時雨は抗議しようと引っ張られる方に顔を向けたが、相手の姿に驚愕した
「浦田社長?」
「そうだ。お前が瀕死なのを聞いて喜んだよ。地獄へ案内しよう」
「ふざけないで!」
時雨は逃げようともがいたが、浦田社長の力は強大だ。死んでいるからなのか、それとも──
主砲を発砲したが、弾は浦田社長の身体をすり抜けていくだけだ
「私は間違っていなかった! 『暴力や軍事力による支配』を世界から排除すれば第二次世界大戦も冷戦も将来起こる戦争も起きない! これは事実だ! 国連軍? あんな寄せ集めの軍隊に何が出来る! 思想教育を施し適切な訓練をした兵士を育てた軍隊こそが世界平和への道だ!」
「ふざけないで! 誰も望んでいない!」
時雨は抵抗したが、その時引っ張る力が止まった。掴まれた手が解放され、時雨は勢い余って転けた
急いで立ち上がると、村雨たちが抑えている
「離せ、小娘!」
「嫌よ! 時雨、早くそっちへ向かって走って! あの空間から出れるなら時雨はまだ生きているってこと!」
深海化している村雨は叫んだ
「でも──」
「村雨はもう死んでいる! 向こうへは行けない! 村雨の分まで戦って! アイツの思い通りにすると本当に世界は浦田結衣や浦田重工業を中心に回るわ!」
村雨は既に覚悟を決めていた。村雨は撃沈されたんだ
会っただけでも十分だ
時雨は村雨が指を指した方へ……三途の川とは反対側の方へ走った
今は生き残ることだ。目が覚めたら身体がどうなっているか分からない。時雨は村雨たちに泣きながら駆けていった
時雨は目が覚めた
臨死体験したのか、それとも夢なのか分からない。しかし、今の自分の身体はまるで異質な感じだ。麻痺しているのか、身体が動かない。呼吸器はつけているため呼吸は出来るが、自分で息は出来ないだろう
点滴を打たれているが、時雨は点滴の液体が怖いと思った
なぜそう思ったか分からない
誰か呼ぼうとしたが、呼吸器で塞がれている
どうしようか迷っていると誰かの声が聞こえた
「──うそ──だ。こ──症状──覚醒した? あ──えない。普通──でも──のに」
所々声が聞こえるが、誰なのか分からない。少なくとも初めて聞いた声だ
「い──か? い──治療──する。──完治は──次第。まっ──大和──注文──だ」
何が起こっているのか分からないが、暗室に誰かがいた。電気がついていないため、誰なのか分からない
しかし、何を言っているか分かる
時雨は頷いたが、1つ疑問があった
(この人……なんでマスク着けずに呉鎮守府に入っているの?)
呉鎮守府は浦田結衣が撃ち込んだ生物兵器によって汚染されているはず。夕張の話では接触感染すると言っていた
なのに、何で防護服着けずにいるんだ? 少なくとも、この部屋は隔離施設ですらないのに
時雨に現れた人は一体……
今話で長かった章は区切ります
次話は結衣が暴れている間、呉鎮守府で何があったのかについての物語です