時雨の緊急任務 ~リベンジ~   作:雷電Ⅱ

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どうも雷電Ⅱです
イベントはE5の第二ゲージを攻略していますけど、とてもキツイ
友軍まで待つか、それとも難易度下げて宗谷堀りを専念すべきか……

それはそうと今話は呉鎮守府に撃ち込まれたウイルスの正体についてです

今話に出てくるウイルスは新型コロナウイルスよりも強力なものです。名前も聞いた事あるという人もいるかも知れません


第34話 コンタクトとウイルスの正体

 大和は驚いた。会ったことはない。ただ聞いたことはある。それは、ある戦艦から

 

「君達も漂流者か? モールス信号でSOSと聞いたから探していたんだが、君達が発したのか?」

 

「え、ええ……」

 

 矢矧は戸惑いながらも答えた。まさか人がいるとは思わなかったからだ

 

 大和は彼を観察した。薄暗いためよく見えないが、白衣姿を着ている。歳は30代あたりか? もう一方は人のようなものだ。いやらそれは人ではなく機械のようにも見えた。ロボットというものか? しかしリリとは違い、見た目で機械とわかる。頭部はカメラらしきものとライトがあるだけ。人の顔はしていない。表情もなく武器らしきものはないため、脅威には感じられなかった

 

 相手は気づいたのか、自己紹介はした

 

「僕は柳田怜人。元教授だ。こっちは人型ロボットのターズ。ここに飛ばされた時、ガラクタから作った。名前はある映画に登場するロボットから取った」

 

『よろしく。教授以外に会うのは初めてだ』

 

 ターズと呼ばれたロボットは挨拶をしたが、人の顔と呼ばれる表情がないため、大和たちは困った。浜風はぎこちないお辞儀をしたが。しかし、リリとは違い好戦的ではないのは確かだ

 

「それはそうと、なぜ君達はここにいるんだ?」

 

「えっと……」

 

 霞は困惑した。自分たちの事を話していいのだろうか? 見知らぬ人に

 

 だが、大和は始めに聞いた

 

「君達も、といいましたが、誰か訪れた事があるのですか?」

 

「ああ、居たさ。残骸を見つけたからさ。ここじゃ何だが、移動しないか。人と会うのは久しぶりだ。ここは、時間の流れなんて無きに等しいが、何時だったかは分からない」

 

 相手は朗らかに答えたが、矢矧はポカンとした。何を言っているのか、分からない

 

 そのため、警戒はした。艤装に搭載されている弾薬はほとんどないが、格闘戦でねじ伏せられるはずだ

 

「君達も、って言っていたけど、先客はいたの?」

 

 霞は訝しげに聞いた。提督以外で見知らぬ人にその態度は問題ではあるが、相手は気にはしていない

 

「着いてこい。見せたいものがある」

 

 柳田は歩き出したが、艦娘たちは迷った。しかし、他に方法がなかったため付いていく事にした。涼月は朝霜と霞が支える形で歩くことにした。距離をとりながら

 

「ねぇ、あの人にウイルスを調べて貰いましょう」

 

「しかし、相手は何者か分からない病原体ですよ? 博士でもお手上げだったのに」

 

「そうね。相手がどんな人かも分からない。大和はどう思う?」

 

 磯風と浜風はヒソヒソ声で話していた。矢矧もどうしようか迷っていた。博士ですらお手上げのウイルスだ。しかし、浦田重工業はウイルスの正体を知っているらしい

 

 どうしようか大和に指示を仰いだが、大和の表情は険しかった

 

「大和さん、どうしたんですか?」

 

「……いえ、何でもないです」

 

 考え事をしていたのか、雪風の問いかけに少し驚いていた。大和があんな表情するのは滅多にない

 

 

 

 一向は何もない空間を歩いていたが、突然いや、急に何かが現れた。視界が悪いのか、それともこの空間のせいなのか

 

 飛行機の形をした5つの物体が現れた。損傷しているものもあり、翼が折れている機体もある

 

「ターズ、明かりをつけろ」

 

『了解。皆、面白いものが見れるぞ』

 

 柳田の指示があると同時に眩しい光が差し込んできた。設置をしたのは彼だろう。事実、近くには電算機や見たこと無い機械があった。しかし、大和たちは視界に映った飛行機を見て驚いた

 

 TBMアヴェンジャー雷撃機5機がある。妖精や空母の艦娘が操るものではなく、実物だ! 但し、1機だけ損傷を受けていたが

 

「何でTBMの……アメリカの艦攻がここに!」

 

 矢矧は驚いた。ここはよく分からないところだが、航空機があるのは場違いだ

 

「あれはアメリカ海軍軍用機のものだ。どの世界か分からないが、バミューダトライアングルで行方不明になった軍用機だ。僕が流れ着いて発見した時は乗組員は居なかったが、彼が記した手帳はある」

 

 柳田は手帳を見せびらかせた。古い手帳では字は掠れてはいるが、辛うじて『アメリカ海軍 第19飛行編隊テイラー中尉』と読める

 

「行方不明? どういう?」

 

 朝霜はカメラで撮っている最中、矢矧は嫌な予感がした

 

「よく言うだろ? 神隠しとか。それと同じ。この飛行機はフロリダ沖合いを飛行中に何らかの超常現象に巻き込まれてここに流れ着いた」

 

「ここは何処なんですか?」

 

「宇宙の外側にある施設だよ。誰が作ったか僕も見当がつかない。異星人なのか、それとも高度な文明を持った未来人なのか」

 

 柳田と呼ばれる人はあっさりと言った。余りにもぶっ飛んだ話なのでどう反応すればいいか分からない。ピンと来ないのだ

 

「宇宙……の外側?」

 

「ああ。お前たちはどの次元の宇宙から来た?」

 

 柳田は上を指差した。上は暗い。天井が無い。比喩ではなくそう感じた。暗黒の中に光輝くものがある。小さな球体のものがたくさんある。だが、良く良くみると球体の中に星がある! 

 

「え……っと」

 

「あれは星ではない。複数の宇宙(マルチバース)だ。とても遠くに離れているから分からないが、君達は、この米軍機と同じように高次元の世界に流れ着いたのさ」

 

 矢矧は困惑した

 

 宇宙の外!? どれが自分たちが住んでいる世界なのか分からない

 

 私たちが住んでいる世界からどれだけ離れているんだ? 

 

「宇宙の大きさは約470億光年。光年とは光が1年かけて進んだ距離だ。光の速さは秒速30万キロメートル。それが──」

 

「止めてください、柳田教授」

 

 大和はきっぱり言った。大和と矢矧は兎も角、他の駆逐艦娘が不安になる。実際に霞は怯えた表情で上を見つめている

 

 自分たちはどれくらい離れているのか、いやほどわかる。ここに流れ着いたパイロット達はどういう思いだったのだろう? いや、パイロットはその後どうなったのだろうか? 遺体がないため不明だ

 

「ああ、失礼。つい癖でね。僕はここに流れてからどれくらいか分からない。ただ時間という概念は無いから歳すら取らない。なのに、意識はある。まるで5億年ボタンの世界の中にいるみたいで。実に面白い。暫くの間、僕がいた世界に帰ろうとあれこれ考えていた所だ。どうだ。一緒に来るか?」

 

「待って! 私たちはある世界に行きたいの! だから──」

 

 矢矧が言おうとしたが、大和が手で制した

 

「やはり貴方だったんですね、教授。娘さん……柳田優子は元気?」

 

 大和がきっぱりと言った。表情も険しい。他の人は大和がこんな表情をするのは見たことがなかった

 

「どう言うことかな?」

 

「惚けないで下さい。こちらを気を遣っているかも知れませんけど、私は貴方を知っています。陸奥さんから聞きました」

 

 大和の言葉に柳田は固まった。どう反応すれば分からないという事に

 

「大和、あの人を知っているの?」

 

「ええ。重要機密で口の固い艦娘しか知らされていないけど、教えてあげる」

 

 大和は説明をした。と言っても陸奥や提督から聞いた話だ

 

 ある世界で宇宙から未知の物質を発見。その価値は計り知れず国や民間企業がこぞって研究を開始した。しかし、柳田は独断で禁断の研究を踏み出した……

 

 

 

 大和は話し終え矢矧たちを見た。彼女たちはポカンとしていた。荒唐無稽な話でついていけない。ただ艦娘や深海棲艦の始まりと言うべき人物であるのは間違いないだろう

 

「……あんたが……私たちを作った?」

 

「僕は陸奥を生み出しただけだ。きっかけを作っただけの事」

 

 柳田は首を振ったが、完全に否定していない事から本当だろう

 

「陸奥は元気か?」

 

「陸奥は死にかけている」

 

 柳田は陸奥の安否を確認しようとしたが、大和ははっきりと言った

 

 柳田も予想外だったらしく、微かに表情を変えた

 

「私たちは深海棲艦と戦っていると同時に深海棲艦を悪用し新世界建設を理由に破壊しようとしている者と戦っている。私たちの仲間は生物兵器によって死にかけている」

 

「なっ!?」

 

「私たちはある世界に向けて行こうとしたが、行けなかった。でも、貴方に会えた。陸奥の話では博士以上の天才と聞いています。治療薬を作って下さい」

 

「ちょっと待て」

 

 柳田は予想外だったのだろう。明らかに狼狽している

 

「未来予測はどうなりました? 最善の策? 本当に私たちは幸せだと?」

 

「未来予測は出来ない。もうそのアイテムは機能しないから」

 

 柳田はポケットからキューブ状の物体を見せた。パズルのようだが、ヒビや欠損だらけで壊れている。後から聞いた話だと、それはリンフォンというものらしいが

 

「私たち仲間は攻撃を受けています! こうしている間も世界は再び崩壊するかもしれない! 提督も時雨も他の仲間も病死なんてしたら耐えられない! どうか私たちを救ってください! 仲間が酷い目に合わされるのは見たくないのです!」

 

 大和は一周目の世界での時雨やアイオワの話を聞いた。浦田重工業の暴走により、世界は崩壊。浦田結衣は艦娘を標的艦と蔑称して攻撃した。性格の悪いことにわざと捕え、痛め付ける事で絶望を与えるやり方だ。しかも、艦娘の特徴を利用して拷問もえげつないものだ

 

 時雨が捕まった時の結衣の拷問は、凄まじかったと聞く。映像はあったらしいが、今はない。また、時雨は暫くの間はPTSDに悩まされていたのだ

 

「なぜ……僕がやらないといけないんだ?」

 

「陸奥が死ぬんですよ! 貴方はそれが平気だとでも!」

 

「そうじゃない。しかし、こちらも事情がある。特異点のデータを送り届ける事もあるが、娘に合う手段が遠退いていく。夢で見たんだ。優子が海上自衛隊に入隊していく姿を」

 

 柳田の悲しげな言葉に大和はハッとした。そうだ。彼は娘がいた

 

 大和は悩んだ。陸奥の言う通りならこの人の性格には問題はあるものの、腕は確かだ。だが、強制は出来ない。そんな権限はないからだ

 

「……明石さんや博士、中将ならワームホールを作れます。もしかすると貴方も元の世界に帰れるかも知れない!」

 

 不意に矢矧が言った

 

「私たちには夕張が作った機械があります。貴方なら分かるはずです」

 

 矢矧は腕につけている奇妙な機械を見せびらかした

 

「お願いします! 初めて会ってこんな要求をされるのは不本意でしょう! でも、私たちではどうしようもないのです! どうか!」

 

 大和は頭を下げ、雪風たちは驚いた。まさか、大和が他人に頭を下げるとは思わなかったからだ。しかも、軍人でも何でもない人に。銃を突きつけて強制的にさせる事もあるかも知れないが、それは望ましくない事だ。

 尤も『艦だった頃の世界』では第二次世界大戦にてソ連とアメリカはドイツの科学者を多数拉致してロケットやジェットの研究をさせられた例もある。勿論、ナチスドイツ時代に係わっていた事を免罪させた上での話だ。もし裁判にかけていれば、宇宙開発は無かっただろうし、月面着陸に成功したアポロ計画も無かっただろう。また、731部隊も生物兵器を研究し多くの捕虜を生体実験にしたのだが、敗戦になると連合軍に捕まる。しかし、アメリカご密かに取引を持ち出した。生物兵器を使った実験データを全て渡せば無罪放免にしてやると言われたのだ。結局、731部隊の幹部は取引に応じ極東裁判にかけられる事は無かった*1。科学者はどうやら国や時代に振り回される存在らしい

 

「そうだな。何もせずに帰ったら優子が怒りそうだ。それに生物兵器だと? 大流行は兎も角、ウイルスや細菌を兵器にするのは見過ごせない。良いだろう。手を貸してやる。但し、見返りはしっかり払ってもらうよ」

 

 柳田は観念したように言い、大和は顔を上げた

 

「見返りって……まさか艦娘に手を出そうって言うんじゃ!」

 

「おい、小娘。それは無い。特に君は論外だ」

 

「こ、小娘って!」

 

 霞は見返りという言葉に反応し挑発したが、柳田は呆れたように言った

 

「霞、止めなさい。これが生物兵器のデータ」

 

「矢矧さん、こんな人を信用するんですか!?」

 

 矢矧は現場で採取した未知のウイルスのデータなどが入った鞄を差し出したため、霞は非難していたが、柳田は鞄を受けとると作業を開始した

 

「ターズ、負傷者の治療をしてくれ。その間に僕は生物兵器の病原体を調べてやる」

 

『分かりました。負傷者をここに』

 

 ターズは近寄りぐったりしている涼月の治療にかかった

 

 一方、柳田は鞄を開け書類を観ていた

 

「平行世界にいくほどの強力な生物兵器を使ったのか? 正体も分からないなんて。当時の日本軍は生物兵器を研究していただろ? まあ、あの731部隊を壊滅させた浦田重工業も凄いが」

 

 柳田は半分呆れてきたが、夕張が顕微鏡で観測した病原体の写真を見た途端、彼の表情が変わった

 

「……相手さんはこれを使ったのか!」

 

「そうよ。天才さんなら分かるんでしょ」

 

 霞はツンツンしていたが、大和は柳田の表情を見て嫌な予感がした

 

 恐らく、柳田は結衣が使ったウイルスの事を知っている!

 

「ターズ、涼月の治療を中断して調べてくれ!」

 

『負傷者を手当てし、包帯を取り付けている。それは緊急を要するものか?』

 

「緊急を要する! 直ぐにだ!」

 

『では誰か傷口に包帯を。薬を打ったからもう大丈夫。重症化することはない』

 

 ターズの報告に雪風は喜び、浜風と磯風は包帯を巻く作業に取りかかった

 

『ところで、この傷跡は動物にでも噛まれたのですか?』

 

「恐竜に噛まれた」

 

 朝霜はニヤリとした。朝霜はどうやら物事がよい方向に進んでいると思っているらしく元気が戻っていた

 

『本当? よく無事でしたね』

 

「ああ。写真も撮ったし、卵もあるぜ」

 

「ターズ! おしゃべりはいいから来てくれ!」

 

 柳田は朝霜と会話しているロボットであるターズを急かしている。今までのような雰囲気はなく、恐竜には無関心だ。何なんだ? 

 

『そんなに急かしてどうしたのです?』

 

「鞄の中にあった血液サンプル。ウイルスが入っているから調べてくれ。僕が過去にアフリカ行った事がある。それと記録と照合しろ」

 

『どんなウイルスなのです?』

 

 柳田は無言でウイルスの写真を見せた。ターズは数秒間、何も発しなかったが、ターズが人だったら驚いていただろう

 

『血液にあるウイルスを調査する』

 

 ターズは血液が入っている試験管を電算機に持っていくと作業をしていた。が、直ぐに終わったらしく印刷した紙を持って来た。柳田は印刷した紙と生物兵器によってやられている艦娘が写った写真を見比べていた

 

 暫くして柳田は言った

 

「もう一度聞くが、仲間はこのウイルスに感染したのか?」

 

「そうです!」

 

 大和は苛立たし気に答えた。彼はウイルスの正体を知っている。ということは治療法も知っている! 

 

 そう思ったが、現実は甘くなかった

 

「結論から言う。このウイルスは最悪だ。コイツはエボラウイルス。しかも、僕の記憶が正しいのならコイツは新種だ」

 

「エボラウイルス?」

 

 柳田は興奮したように言ったが、大和を初め他の艦娘はピンと来ない

 

「君たちが知らないのは無理もない。コイツは1976年にアフリカのスーダンで発見され有名になったものだ。敵はどんな奴だ? 詳細までは知らないから詳しく教えてくれ」

 

 柳田の言葉に大和は戸惑いながらも知っている事は伝えた

 

 浦田重工業の悪行や浦田結衣の事。更に生物化学兵器を撃ち込まれた経緯を話した

 

 柳田は口を挟まずただただ聞いていた

 

「わかった。順を追って説明する。誰でも分かりやすいようにな。このウイルスはさっきも言った通りエボラウイルス。病名はエボラ出血熱だ。しかし、従来なら出血はそんなにしないはずだが*2……失礼、人類が発見したウイルスのなかで最も危険なものの一つだ。致死率は変動はあるが50〜90%。仮に救命できても重篤な後遺症を残すことがある危険なウイルスだ」

 

「え? ……え?」

 

 大和は柳田の説明を聞いて困惑した。名前は兎も角、致死率を聞いただけで目眩がしそうだ

 

「治療法はあります?」

 

「治療法? このウイルスに有効な治療法は無い。回復した者は?」

 

「な……無い」

 

 大和は愕然とした。目の前が真っ暗になったような気がした

 

「本当に無いんですか! 医学に精通していると貴方が」

 

「だからこそだ。このウイルスは危険な代物だ。僕の世界でもウイルスを扱うのには相当の厳重過ぎる程の設備群を備えた最高峰のウイルス研究所でなければ扱えない。それくらいヤバいと言うことだ。被害はどれくらいだ?」

 

 矢矧は言葉を失った。ここまで危険なウイルスとは思いもしなかった。軍医が隔離を徹底的に指示をしていたのかが分かる。未知のウイルスであったための処置だが、この行為は正しかったという訳だ

 

「鎮守府のほとんどの艦娘は感染。提督も。だけど、今の所は死んでいない」

 

「誰一人死んでいない? ……ああ、艤装のお陰か」

 

 大和は伝えたが、柳田は信じられない風に言っていた。致死率が高いため、病死する者が居てもおかしくない

 

「提督は普通の人ですが、吐血と高熱を出しているもののまだ生きています」

 

「それも時間の問題だ。……正直に言って田村1尉とか言う世界に行っても解決は出来ないどころか悪化するだけだ」

 

「どうしてですか!? 田村1尉は私たちの恩人なのです! それを──」

 

「そうじゃない。さっきも言った通り、エボラウイルスは危険なウイルスだ。大抵の国は『世界で最も危険な感染症の一つ』として扱われている。そのため、感染の疑いがある者を含め感染が疑われる者は強制的に隔離病棟に入院させられる*3。いや、日本はまだマシだ。海外ではエボラ出血熱が見つかったら軍隊が派遣され発見された範囲は封鎖される。しかも救援活動などではなく、感染疑惑者をその地域へ押し込めておき外に出ないようにする、という隔離政策だ。逃げた者が居たら射殺される事もある」

 

 柳田の言葉に大和は唖然とした。浦田残党が扱った病原体は、遥かに恐ろしいものだった。『艦だった頃の世界』において日本軍が取り扱った生物兵器が可愛く見える

 

「そ、そんなにヤバいものだったのか……あのウイルスは」

 

 矢矧は震えた。502部隊の連絡で田中秦を追い詰めたが、その時に治療法は無い、と言っていた。ハッタリと思っていたが、本当に無いなんて! 

 

「天然痘と同じくらい危険なウイルスがあるなんて」

 

「天然痘? あれの致死率は約30〜50%だ。しかも症状が特徴的だから撲滅も容易だ。それでも感染力や致死率は凄まじいが。しかし、エボラウイルスは違う。初期の症状はインフルエンザによく似ているため手遅れになる場合もあるんだよ」

 

 浜松は何気なく言っていたが、柳田の説明を受けて更に顔が青くなった

 

「どうやって浦田重工業は手に入れたのか分からない。まさか浦田社長はワームホールを使ってウイルスを手に入れた?」

 

 大和は戸惑っていたが、柳田は否定した

 

「それはあり得ない。君たちの世界を聞くと浦田重工業は平行世界の、しかも21世紀の日本に繋がるワームホールを持っていたようだ。知識はその世界から知ったかも知らないが、向こうの世界でエボラウイルスは日本に持ち込めない。空港や港の検疫や荷物検査で見つかる可能性は高い。浦田社長が警察の目を掻い潜ったり買収したりしているが、ウイルスは別だ。リスクが高すぎる。感染症法も存在するため持ち込むのはあり得ない。無理の無い線で行くとお前達の世界で数名アフリカに行きウイルスを回収したのだろう。恐らく、エボラウイルスによって村が壊滅した所から採取した可能性がある」

 

「なぜそうだと言いきれるの?」

 

 霞は不審に思っていたが、柳田はにやりとした

 

「僕も取り扱った事がある。ワクチン製造や特効薬の研究にね。手続きが面倒だったのは覚えている。お前達の世界では、まだエボラウイルスが知られていないからこそ動き易かったのだろう」

 

「あ、あんたはウイルスの研究をしていたの?」

 

「ああ、そうだ。三浦製薬会社で働いていた。僕が居た世界では日本大手の製薬会社だったから、危険なウイルスを取り扱っていた。施設も住民反対を無視して強引に推し進めて造って稼働させたのは覚えている。まあ、そのお陰で10年前くらいに世界的に大流行した新型コロナウイルスにいち早くワクチンを製造して成果をあげて住民も政治家もマスコミも黙らせたくらいの大企業だからね。ワクチン造ったのは僕だけど」

 

 大和は半分ほど柳田の説明を理解できたが、頷いた

 

「で、でも未来の世界にはウイルス研究所があるのですから、そこで──」

 

「それは無理だ。未来だと病原体は危険度のランク付けがされている。四段階に。エボラウイルスはバイオセーフティーレベルが最高のレベル4として扱われている*4。政府か大企業か国立大学などが運営する施設を個人の事情で稼働させる訳がない。そもそも──」

 

 柳田はそこまで言うと、黙った。突然、黙った事に大和は不審がった

 

「どうしたのです?」

 

「いや、ちょっと考えすぎかなと思って。浦田副社長や他の浦田関係者は、平行世界に助けを求めるのを見越して生物兵器であるエボラウイルスを撃ち込んだ、だったりして。助けを求めても平行世界の住民がエボラウイルスの事を知るや否やお前達を問答無用で隔離するだろうな。感染の疑いで。しかも治療法も無いのだから空振りだ。救助どころの話では無くなる」

 

「……っ!」

 

「いや、考えすぎたな。まあ、僕の世界の話だから気にするな。お前らが行こうとしている世界の感染症対策は違うかも知れないし」

 

 柳田は笑っていたが、大和はそうは思えなかった

 

 武田……浦田副社長や浦田結衣がこちらを苦しめるためだけに生物兵器を撃ち込んだと思っていたが……まさか……

 

 特に浦田結衣はフグの毒で艦娘を攻撃したことがある。生物兵器……特に凶悪なウイルスに興味を持ち、かつ平行世界が行われる感染症対策を見越して撃ち込んだのなら……

 

 普通の人ならこんな馬鹿げた事はやらない。しかし、可能性はある。臓器移植のために臓器を取った時雨をわざと呉鎮守府に届けたのは……希望なんて無いことを見せるため? 平行世界に助けを求めるという手段も潰すために? 

 

 何しろ危険なウイルスだ。仮にタイムスリップしても意味がない。柳田の話によるとエボラウイルスは1970年代に見つかったという。しかもアフリカだ

 

 過去の提督や提督の父親である博士に話しても分からないだろう。仮に伝わったとしても対策は難しい。呉鎮守府に生物兵器を撃ち込まれても軍医や博士はお手上げだったのだから。四六時中、防護服を纏う事は不可能だ

 

「私たちを封じる作戦……? 足掻いても無駄であるのを知っていて、あのウイルスを撃ち込んだ?」

 

 大和は固まりながら恐ろしい事を思っていた。横目で矢矧を見たが、矢矧も同じように考えていたのか、顔面蒼白になっている。他の艦娘も同じだ。浜風も磯風も固まっており、朝霜ですら銅像のように突っ立っている

 

「だから、ある意味ラッキーかもな。寧ろ、渡り歩いた世界が気になるが。このウイルスの資料。誰も見せていないよな?」

 

「だ、大丈夫だぜ! 無人の駅と意味不明な店と恐竜時代など足を踏み入れただけだから! 後は変な軍団が襲ってきたのを撃退したくらい! こちらを問答無用で弓矢と剣で攻撃したから遠距離でやっつけたんだ。接触していない!」

 

 朝霜は慌てて言ったが、内心ではホッとしているだろう

 

 もし、高度に発達した世界の住民、特に医療関係者に見せたらと思うと……

 

 いや、実は感染して症状が出ていないだけで他の世界に意図的にばら蒔いていたのなら……

 

「心配するな。エボラウイルスは未発症の人が赤の他人に感染させる事はない。エボラウイルスで流行した現地の健康な人がウイルスを持ち込むこともないから安心しろ。発症したら要注意だが、君たちは発症してない。だから安全だ」

 

 柳田は朝霜が考えている事を察したのか、淡々と言った

 

 取り敢えずはウイルスの正体は分かったが……治療法が無いのは問題だ

 

本当に何もしなければ全て空振りになってしまう!

 

*1
その後、関係者は医療機関や製薬会社などに行ったらしいが、正確な事は不明である

*2
『エボラ出血熱』とあるが、実際は体外へ出血する事例は多くない。そのため、エボラ出血熱からエボラウイルス病へと病名は変わりつつある。が、それだと物語上だと軍医や夕張などがウイルスを特定出来ないどころか推測と違う病名を言う可能性もあるため新種のエボラウイルスという設定である

*3
日本では感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律、『感染症法』がある。1類感染症では患者は疑いのある者を含め強制的に入院・検疫・交通規制・病原体の所持の禁止といった措置をとられる。エボラウイルスは1類感染症に指定されている

*4
これは世界保健機関(WHO)が定めた病原体の危険度である。研究者や治療従事者はレベルに応じて取り扱いや実験設備に基準が設けられている。エボラウイルスはレベル4 。余談だが、現在流行っているCOVID19はレベル2~3との事らしい




柳田「エボラウイルスは強力なウイルスだ。有効な治療法は無い」
大和「本当にないんですか!?」
柳田「無い。未来の世界でも治療法は確立されていない」
朝霜「嘘つくなよ!未来ではお医者さんカバンとか発明されているんじゃ無いのかよ!」
柳田「……それはドラえもんの見すぎじゃないかな?」


結核や風邪などの病気を瞬時に完治させているという猫型ロボットが持っているお医者さんゴッコの道具ってどうなっているんでしょうかね(笑)?あれが発明家されれば新型コロナウイルスを一掃出来るかも?
まあ、この作品ではそれは出ませんが
外伝の『ジェネシス ~陸奥の冒険~』で亜空間に飛ばされた柳田が登場です。まあ、エボラウイルスは治療法無いと言ってますが、何とかなるでしょう
余談ですが、彼の推測通り浦田重工業は過去にアフリカに渡ってエボラウイルスを入手しています。この作品のエピローグとも言うべき第1話で浦田結衣たちがアフリカに行った話はエボラウイルスを入手するため、の話です

裏話
エボラウイルスは非常に危険なウイルスなのは知っての通りです。そのため、現実世界(現代の世界)だとエボラウイルスに感染した患者や感染の疑いを持つ者が発見されれば感染症法に基づき強制的に隔離病棟に入院させられるでしょう
もし、大和たちが平行世界の未来(現代世界)に行ったとしても解決策はほぼ無い状況に近いです
仮に検査で陰性で解放されたとしても、治療法はほとんど無いため空振りになってしまいます。浦田副社長などはそれを使って知っていたかは……まあ、この話は後に続きます
なので助けを求めに平行世界に行ったのはいいが、実は行かない方が正解という事に。取り敢えずは、亜空間のある場所で大和たちが出会った相手は何とかしてくれるでしょう
余談ですが、時雨はエボラウイルスには感染はしていません
その代わりに……
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