ガンビーがMk.Ⅱ改装特務空母に進化した
ガンビアベイ「ポケモンじゃないって!」
ある日から深海棲艦によるヨーロッパ侵攻は止まった。深海棲艦は姿を消したのだ
ヨーロッパ連合軍は喜んだが、なぜか倒したはずの欧州棲姫とバタビア沖棲姫が現れたため、余談を許さなかった
コイツらは上陸はしないものの、海上から執拗に攻撃している。恐らく浦田結衣のせいだろうが、対深海棲艦の兵器のほとんどはスクラップにされたので打つ手がない
そんな中、ロシアは強硬な手段を行おうとしたため、連合軍総司令部は再び大混乱に陥った
その時の記録は次のようなものであった。あまりの過激なロシア司令官の発言に各国は震え上がったという
『今からでも遅くはない。米露が開発した全ての核爆弾を持って深海棲艦、特に『クラーケン』を核攻撃するのだ! 奴の艤装や体組織が如何に強固であり、驚異的な再生能力を持ったとしても必ず限界がある。我が国では高威力の水素爆弾による核攻撃の準備をしている! ……何時から研究開発しているかって? 数年前に既に手を付けている! 五月蝿いぞ。貴国こそビキニ岩礁にいた『クラーケン』に挑発されたとはいえ、無許可で原爆と水爆を落としたのではないか! 深海棲艦に負けたアメリカは引っ込んでいろ! ……何? 地球環境への影響? 西ヨーロッパが放射能汚染される? 馬鹿馬鹿しい。そんなものはクラーケンや深海棲艦を倒してから幾らでも考えればいい。我が国は既にGOサインは出している! ……確かに貴国の言う通りだ。ヨーロッパは跡形もなく焼け野原になり、人々は犠牲になっていたのは確かだろう。だが、それがどうした? 結果的に同じではないか? 復興していたヨーロッパは再び破壊され死に絶えている。深海棲艦は浦田重工業という人類の裏切り者と手を組み世界を支配するために攻撃している! それをただ無駄に兵士達を差し出す気か!? 臆病者め! この戦争は人類の存続にかかっている! この戦いは深海棲艦か艦娘か人類かどちらかが滅ぶまで終わらない! 刺し違えても攻撃すべきだ! いいか、既に大統領に話した! どんなに反対しようが、既に決まったことだ! ……何を言う? 知っているぞ。貴様らの事を! 人類の絆と僭称する帝国主義者は深海棲艦用の核兵器を持っていることに! おい、そこのヤポンスキー!
……この衝撃的な演説が行われた直後、東ヨーロッパでは空戦と地上戦が勃発した
核爆弾を積んだロシアの戦略爆撃機Tu-4の発展型である戦略爆撃機Tu-95*1を巡ってロシアの戦闘機とヨーロッパの戦闘機が争っていた。欧州連合軍は爆撃機を落とそうと盛んに対空砲を打ち上げていたが、ロシアの空軍機や地上部隊は妨害を排除すべく爆撃する始末である。上層部は何とかして食い止めようとしたが、パイロットや兵士達は良い迷惑である。人類共通の敵と戦うはずなのに、なぜ人間同士と戦う必要性があるのか? 結局はただのプロパガンダだったのか?
いや、誰も口にはしていないが、皆は分かっていた事だ。人類は窮地に陥っても尚、互いに手を取り合う事は出来ないのだと。艦娘不要論を主張し厄介払いしていた人類が同じ人類同士仲良く出来る訳がない、と。既に幾つもの勢力が、避難民が互いの正統性を主張して水や食糧などの物資を巡って争っているのだから
尚、これは東欧だけの問題ではなかった。日本も例外ではない
呉鎮守府・会議室
「わざわざ足を運んで貰って申し訳無いが、手伝う事は出来ません」
「事情は分かりましたが、手を引く訳にはいきません」
例の2人組の刑事……杉田刑事と提督は穏やかに話し合っていた。いや、穏やかなのは2人だけだ。警察庁本部からわざわざ来た警官達と502部隊の兵士との間でにらみ合いが発生しているからだ。特に板倉刑事と隊長である曹長は喧嘩腰である
強制捜査と軍の敷地への無許可の侵入で対立しているからだ。流石に銃撃戦は行われていないが、何時発生しても可笑しくない
一部の艦娘を除いて大多数の艦娘は完全に蚊帳の外で右往左往していた
ただ海外艦は国連軍……正確には多国籍軍だが……なので警察は手を出す事は出来ないが、蚊帳の外であることには変わり無い
「柳田教授が敵の手に渡る事は避けなければなりませんが、安全な場所に移動する事がベストです」
「断る。お前達は浦田結衣の力を知らない。拳銃一丁で九か国の連合軍を蹴散らした結衣に勝てると思っているのか?」
「ハッタリと言う意見が──」
「ハッタリではないよ! アイツらは目的地のためなら手段を選ばない!」
時雨は話に割って入った。このままイザコザが続いても無意味だ。杉田刑事は僅かに表情を変えたが、それでも折れていない
「放送局が傷害罪で告訴しようとしています。我々も黙っている訳にはいきません」
「それは後にしてくれませんか? 今は必要な人材だ。何なら軍が雇っている弁護士で対応させるしかない」
提督も引き下がらない。尤も、必要な人材かは微妙ではあるが
「だったら、艦娘の誰かが柳田教授と同行するのはどうでしょう? 護衛のためとか」
鶴川はすがるように頼んだが、意外にも武蔵は断った
「断る。数人の艦娘だけで結衣の攻撃を防ぐ事は出来ない」
「そ、それは流石に──」
「アイツと戦った事はあるから言える。それに警察署は軍事施設ではない。論外だ」
武蔵の威圧に鶴川は何も言い返さなかった
「どうせ警察庁のお偉いさんの命令だろ? 親の力を借りたくは無かったが、既に手を回している」
「そういうわけにも行きません」
杉田が主張したとき、会議室のドアが開いた。柳田が入ってきたのだ
「僕の事で揉めているのか? 僕はここにいる。それでいいか?」
「そういう訳にはいかないんだ!」
板倉刑事は曹長と口論した後なのか、鬼の形相で近づいたが、柳田の前にターズが立ち塞がった
『任意同行を拒否する権利はあります。お引き取りを』
「何だ、お前は? ……それはそうと、拒否する正当な理由はあるんですかね?」
「浦田結衣に勝てない組織には行きたくないからだ」
柳田のキッパリと言った事に板倉刑事は面食らった。武田副社長を率いるテロ組織は兎も角、化け物になった浦田結衣相手には歯が立たないのは事実だ
ただ、板倉刑事はどちらかというとターズのロボットの存在に釘付けだ。まるでエイリアンと出会ったのように距離を取りながら観察している。先日の田中の件で会ったはずだが、どうも艦娘の技術に作られた、と思っているらしい
「それで提督。さっきの質問だが、死んだ人を生き返らせる事は可能かという問いの続きだが」
「人を生き返らせる?」
板倉刑事は困惑したが、提督は慌てた
「おい、ここで言うことか!?」
実は数十分前に提督は柳田に浦田社長などを蘇らせるのは可能か、と質問したのだ。本人は困惑したが、返答する前に警察が来てしまった。政府宛の脅迫状なのだから、警察は嫌でも動かざるを得ない
だが、柳田がどんな人か警察のほとんどの者は分からない。なので、板倉が面食らうのは必然だ。しかし、相手は気にしていない。しかも爆弾発言までした
「時間を掛ければ可能だ。機材があれば、の話だが」
一瞬、会議室の空気は固まった。時雨は思考停止状態に陥った
死んだ人を蘇らせる……最早、禁忌に等しい代物だ
「ちょ……ちょっと待ってください! どういう事ですか?」
「はぁ……取りあえず話を聞いてくれませんか? 極秘だが、知っておく必要がある。外部に漏らさないという条件付きだ」
提督は再び説明を始めた。柳田教授の存在は極秘だが、開示する権限は提督にあった
ただ、これには事情が少し複雑だ。並行世界の話も含まれるため、警察一同は唖然とした。板倉は益々、ターズを凝視していたが
「……すると、死者蘇生の研究を? しかも実用化しようと」
杉田刑事は困惑したが、彼は彼なりに状況を整理していた
「死者蘇生の研究は成功したのですか?」
「研究の結果、艦娘が誕生した。但し、プロトタイプだから成果は提督の父親だな」
杉田の質問に柳田は素っ気なく言った。歴史を話すとややこしくなるので短絡的に言っておいた
「次いでに深海棲艦はリリというAIロボットが産んだ生命体だ。あのロボットはターズよりも高度な技術が組み込まれている。数週間前に田中秦と一緒に行動していた女性がそれだ。奴は原子分子を分解結合して物を造る能力がある。浦田結衣が光学兵器を生み出したのも納得だ。恐らく、リリの能力を吸収したんだ」
「だから五年前よりも強くなっているんだ」
時雨は不満そうだったが、心の何処かで納得はしていた。確かにあんなデタラメな兵器を無から生み出せる訳がない。何かしらのトリックがあるとは思っていたが
「そこまで知っていて止めようと思わないのですか!?」
杉田は声を荒げた。深海棲艦は人類共通の敵であり、原因は不明とされていた
そのはずだ
だが、まさか深海棲艦は間接的とはいえ、人類の手で造られた事になる!
だが、意外にも柳田は眉を潜めた
「止める? 深海棲艦の活動を止める手段なんてない。やるなら殲滅するしかない。僕は魔法使いではない」
「深海棲艦は人類の手で造られたとなれば、話は別です!」
「リリ曰く、『人類同士の戦争を止め団結させるには人類共通の敵を作る』という目的で作ったらしい」
柳田は呆れるかのように答え、周りは絶句した。当の本人も予想外だろう
「如何なる理由であれ、許せないのは分かるさ。だが、深海棲艦も自我に芽生えて生みの親であるリリに反乱を起こした。もう止める事は不可能だ。何処かの超大国が超兵器を生み出して深海棲艦を僕ごと高次元に飛ばしたが、まさかこの世界の太平洋上に巨大なワームホールが出現するとはな。僕は違ったが」
柳田は答えたが、杉田はどう答えたらいいか分からなかった。取りあえずは彼は悪事を働いていない……はずだ。ただ、無関係ではないのは確かだ
「人類の危機です。そのためには何をすべきか分かるでしょ!」
杉田刑事は怒りを抑えながら抗議したが、柳田は鼻で笑った
「人類のため? 何を言っている? G元素……開発資材と呼ばれる未知の物質を調べるよう依頼したのは日本政府だ。日本国民も望んでいた。勿論、向こうの世界だが」
「深海棲艦や艦娘が生まれた理由が人類のため? 死んだ人を蘇らせる研究も!? それでも科学者か?」
板倉刑事は喚いていたが、柳田は呆れた顔をしていた
「小惑星に未知の物質……この世界では開発資材と呼ばれているが……その物質が発見された時、皆は喜んだ。そして、それは国益にもたらすと分かると増産するよう指示を受けた。痩せた土地や干ばつなどでも立派に育つ農作物。栄養価の高い家畜。放射性物質や汚水を完全浄化出来る化学物質。人の能力を高め宇宙活動や海底調査などが出来る薬品。核融合と呼ばれる半永久エネルギーの実現可能。どんな難病でも治療が出来る万能薬。それはデメリットがほとんど無く、魔法のようなものだったため、少子高齢化を抱え資源が少ない日本に取っては喉から手が出るほどの物質だ。夢のまた夢であった火星有人探査も出来るのではないか、と言われたほどだ。誰だって賛同した。この世界でも文明や科学力が発達すれば出来るかもな」
「……じゃあ、その未知の物質は……人工生命体も作れるのは必然の結果? 艦娘や深海棲艦が生まれるのは偶然ではない?」
板倉刑事は何とか話を聞いたが、取りあえずは凄い物質だとは分かったらしい
「必然さ。何だ? 神か悪魔のせいだって言いたいのか? 何処かの秘密結社か国の陰謀論? そういうのを現実逃避というのだよ。僕の友人でも流石にそれは信じなかった。刑事の癖に陰謀信じるとか凄いな。それに僕は仕事をこなすだけ。どう扱うかは知ったことではない。死者蘇生は完全に僕のワガママだが、他は知らない。国や会社や更には社会が決めることだ」
「命を狙われた事はなかったの?」
時雨はたまらず聞いた。例え、上からの指示でも不快に思う者もいるはずだ
「陸奥に庇って貰った以外は無かった」
皆は何の事か分からなかったが、陸奥は何か心当たりがあるのか、ハッとしていた
「だが、批判はあったな。例えば臓器を作る再生治療に大反対したグループと国が居たぞ」
「何で? 僕は何ともないのに再生医療を批判するなんて」
時雨は信じられなかったが、柳田は首を振った
「それは倫理や人権などを盾に批判する、何も考えていない集団だからさ。時雨も陸奥も知ってるかも知れないが艦娘不要論などと唱えている人が何か素晴らしい考えでもあると思うか? あれは一種の暴走だ。いや、悪く言えば私利私欲のために行動していてあるだけの集団さ。世の中のためではない。非合理的だ」
「それを防ぐための法律や倫理観です。人の自由は縛られるものではありません」
杉田刑事は何とか言ったが、柳田は違った。寧ろ、ため息すらついている
「それは違う。人類を過大評価するのは危険だ。倫理も法律も人それぞれ違うから当てにはならない」
「G元素の研究は人類のため、という名目で研究したのではないの?」
時雨はあることに気がついた。開発資材……G元素はどうやら特別な物質らしい。艦娘が世の中に発表された時は歓迎されていたが、一部の人は反対していた。しかも、対深海棲艦用兵器が登場と艦娘不要論という概念までも生まれた
便利な物質なら批判は無いはずだ
「そうだ。だが、その人類は万能ではない。後に宗教や似非科学などで批判する輩が出現した。マスコミはありもしない証言や証拠で国や会社を批判してきた。まあ、明らかに金だな。騒ぎたてれば視聴率や新聞の購読が増えると思っているのだろう。だが真に受ける輩もいるのも事実さ」
「危険ないものを危険とわざと批判した?」
時雨は困惑した。金のために批判?
「ちょっと待て。親父が『超人計画』を封印したのはどうなる? 浦田結衣という輩が出現したぞ」
提督は慌てて聞いた。超人計画……深海棲艦の力を人に取り入れる計画だ。深海棲艦と提督の祖先が初めて出会った事から始まり代々受け継がれていた
「深海棲艦はG元素の負の部分を最大限に活用していきる高次元生命体だ。普通の人は倫理や道徳などがあって殺人を戸惑う。仮に乗り越えたとしても後悔が付きまとう。悪夢にうなされるだろう。それらを全て取り除けば悪は無限に成長する。尤も深海棲艦は海水が無いと力を発揮できない。海水を取り込む事で力を得ているからだ。こんなものを人に取り込む事自体、無理な話だ。成功したら能力の制約は無くなる。悪い方向には限りなく悪い方向に向かうのだよ。これはどの分野にも言える」
「だから浦田結衣は生物化学兵器を何の躊躇いもなく使えるのね」
陸奥は呟いた。恐らく心にストッパーが無いのだろう。能力を試しているようにも見える
「しかし、その理論なら艦娘は人ではないんだろ?」
板倉刑事は怪訝そうに言ったが、柳田は違った
「あー、子宮から生まれない人は人間じゃない、と思っているのか? 安心しろ。僕の世界では人は作れる段階にあるんだよ。概念も道徳もそのように教えられるだろう。そんな概念は時が経てば変わるものだ」
「そんなバカな。そんな事が許される事はない! その子はどうなるんだ? 親も知らない子供が成長するとでも?」
「僕もショックは受けたさ。何しろ僕の母親は、結婚が面倒くさいという下らない理由で冷凍保存していた優秀な子種を大金で買い、人工的に妊娠させ、知能向上のためにだけに勝手に改造されて産んだという事実を知らされたらな」
他の艦娘や提督は柳田の事は知っていたため反応は無かったが、警察の人たちは驚いた
「そんな事って……可能なのですか?」
「ああ。可能だ。少子高齢化を解決する目的で生まれたものだ。更に教育をスムーズに進めるために能力を生み出すデザイナーベイビー法案やロボット……機械に人格を埋め込むデジタルクローンの計画もあった。結婚しなくても母親や父親がいなくても人は生まれる時代が来るように作られた。それが分かったから諦めたのさ。僕は生まれるのが早すぎただけ。三浦会社も躍起になって推進していた。強い抗体と基礎代謝のせいで病死する事も酒の飲み過ぎでアルコール中毒になって死ぬこともない」
柳田の説明に刑事達は愕然とした。恐らく、エボラウイルスを治療出来たのも彼のお陰というのは現実味を増してきた。生命を創造するという禁忌は既に無くなっていた?
「寧ろ何故、生命を生み出す事は反対なのか? 社会が機能していれば問題ない」
「倫理の問題では有りません! そんな事をすれば遺伝子を操作され人工的に生まれた人……強化人間と人類が争いに発展します。強化人間が社会を乗っ取る事もあります」
杉田刑事は必死になって反論したが、柳田は冷静だった。いや、既に答えは持っていたのだろう
「おっと、勘違いしないでくれ。これはSF映画に出てくるような代物ではない。あくまで人類の選択なのだよ」
「はい?」
「考えでも見てくれ。ピンと来ないのなら艦娘を例えればいい。人間と何が違う?」
杉田は困惑したが、意外にも鶴川は答えた
「手足を吹き飛ばされるなどの大怪我をしても風呂に入れば完治するし、燃料や弾薬を食べれる事も出来る。普通の食事をしなくても生きていける事は人には出来ない」
「少し違うが、まあいいだろ。再生医療で手足どころか内臓は再生出来るし、さっき言ったデジタルクローン、機械に人格を付与すれば食事なんて取らなくて済む。金や発展した科学があれば可能な領域だ」
「機械に創造力はありません。オリジナルの芸術……絵を描いたり物語を紡いだりすることは人間にしか出来ません」
杉田刑事は間髪いれたが、意外にもターズは残念そうに言った
『それは傷つきますね』
「オリジナルね……本当にそんなものは存在するとでも? 例えば多くの芸術作品はそれを創り出した人物の『体験』や『過去の作品』からインスピレーションしている。それに嗜好や判断を加えれば創造力は可能だ。実際にあのAIロボットであるリリは僕の世界では、漫画を描いてマンガ雑誌に連載していたらしい。試験的にという名目で実験していたらしい*2」
周りは驚いた。機械が創作するなんてピンと来ないからだ。ここまで言われると何も言い返せなくなる。艦娘である大淀達も愕然としていた。時雨は大淀と目があったが、彼女は軽く頭を横に振った。疑問点を呈しても答えは出てくるのが分かっている
「もう無いのか? では教えてあげよう。ロボットや強化人間と普通の人との違い。それは地球環境や社会に及ぼす悪影響だ。人の身体能力や活動には限界があり、また人間活動のために森は切り開かれ空気や水は汚染され、人以外の動植物は住みづらくなる。更には言論の自由や表現の自由を言い訳に中身のない、デマや嘘や批判しか流さず社会どころか外交問題にまで発展される。合理的な考えによる生活環境や政策、そして宇宙進出などを視野に入れればこれらは解決する」
「艦娘は燃料を必要としている」
「それなら艦娘は人よりもずっとエコという事になる。贅沢な食生活が毎日出るのは裕福な人達だけだ。食費を舐めてはいけない。お金は有限だ。僕の世界では少子高齢化や新型ウイルスの蔓延、更には中身がない主義主張を唱える人達によるデマや俗説をマスコミが垂れ流す社会に政府だけでなく国民も疲れたのだよ」
柳田の説明に誰も反論できない。いや、出来ないのだ。何しろ、自分達の世界でもいやほど知っているのだから
艦娘不要論もデマのようなものだ。だが、少し前まではこれを支持していた輩は多かったし、何と国会議員も発言していたのだ
艦娘も柳田の説明なら喜ぶだろう。こちらを擁護はしている
だが、時雨はとても賛同出来なかった。人類を守るという大義は意味を成さない事になる。そうなると……僕たちは何のために戦っているのか?
だが、聞かなければならない。時雨は手を上げた。授業ではないため必要はないが
「それを人類が選択したの?」
「そうだ。これには人類にもメリットはある。介護必要なしに老いて苦しまずに死ぬ事もロボットとして半永久的に生きられることも選択出来る。君達だって戦争が終わり社会で理不尽な事件や厄介事に巻き込まれたくは無いだろう。人は過ちを犯す。警官も冤罪や誤認逮捕するくらいだからな」
板倉刑事は反応したが、杉田刑事は手で制した
「貴方の世界では深海棲艦が出現し世界を攻撃したと仰いました。そちらの世界の日本政府は計画を断念するのでは?」
「いや、この計画は誰かが跡を引き継ぐし、日本政府は社会問題を解決したいがために推進するだろう。国民も反対なんてしない。それにデータは渡したしな」
柳田の言い分に杉田刑事は困惑したが、陸奥は分かっていたのかピクリとした。小声で何か呟いていたが、何とか聞き取れた
「長谷川にデータを渡したのね」
誰か分からないが、恐らく思い当たる節があるようだ。時雨はまだ聞こうと思っていたが、止めておいた
恐らく、軍が艦娘を奴隷のように働かせたらどうするの? という質問に有能な指揮官である提督を合理的で有能な能力を持つよう遺伝子改造すればいい、と答えるに違いない
何しろ、柳田教授本人が良い例だ。明石も夕張も軍医も博士もお手上げだったエボラウイルスを難なく治療したのだ
そんな中、杉田刑事は沈黙を破った
「確かに人は過ちを犯します。しかし、貴方こそ人を過小評価しています。過小評価する余り大事な事を見落としています」
「何です?」
「過ちを学びどうするのかを考えるのが人です。確かに貴方の言う通りです。しかし、それはいささか早急です。仮に争いのない犯罪のない世界を生み出しても、それは人の世界ではない。いえ、人間が人間を止めた世界を実現するものではありません」
杉田刑事は静かに言った。だが、柳田は意外にも笑っていた
「悪いが、綺麗事で物事は解決しない。寧ろ、悪化した方を望むとはおもしろい」
皆は困惑したが、突然部屋のドアが開いた。提督の父親である博士と502部隊の小隊長である大佐が息切れしていた。走ってきたのだろう
「緊急事態のため、ソイツの身柄は軍の管轄下になった! 警察は全員、治安維持のために動くよう指示されるだろう! 早くここから出るんだ!」
「何かあったのですか?」
大佐の慌てように皆は動揺した。嫌な予感しかしない
「極東のロシア軍が千島列島沿いに南下し始めた! 輸送船団と航空部隊が深海棲艦の海域をすり抜けて北海道に目指している! 警告無線も応答はしないどころか巡視船は撃沈される始末だ!」
「し、侵攻!? この状況で戦争?」
「深海棲艦を率いる浦田結衣に加えて、他国軍と戦わないといけないのか?」
提督や他の艦娘は衝撃を受けた。あれだけ掲げていた人類の絆は何だったのか?
「なぜ侵攻?」
「分からんワイ。ただ、連合軍総司令部では核兵器を全て集めて浦田結衣と深海棲艦に攻撃しようとしたロシアの司令官がいた。それを欧州連合が反発し現地では核搭載した爆撃機を巡って戦闘が発生したらしい」
「日本と何の関係が?」
「核兵器を接収するため、だそうじゃ。しかも、同時に中国に侵攻を開始している。中露国境線付近にロシアの戦車や戦闘機が集結してるとの事だ」
「核兵器なんて持ってるワケないだろ!」
「残念ながら相手はそうは思っておらん」
提督は言っていたが、実際に日本は核兵器なんて実用化していない。いや、基礎研究はしている事しか知られていない
余談だが、史実でも日本は原爆の研究はしていた。但し、当時の日本にそんな能力は無い*3。欧米でも原子爆弾というものが開発されている様子だが、今次大戦にはとても間に合わないだろうから、ともかく基礎だけは押さえておこう程度である。これは、この世界でも変わらない。浦田重工業ですら持っていなかったが、どうも浦田社長命令らしい
「そんな……どうして」
時雨は力無く言ったが、柳田は違った
どうやら、分かっていた
「人は自らを犠牲をしてまで人類の種を救おうとしない。家族を守る。人は家族や友人には献身的になれるが、それは自分が見える範囲でしか出来ない。進化はこの壁を乗り越える事は出来ない。それ以上の事をしようとすれば重い決断や大きな勇気が迫られる。後に大きな代償を払う事になる。簡単に決断出来るのはどんな人かどんな組織か分かるだろう」
「違う! そんなことはない!」
時雨は柳田教授は誰の事を指しているか検討がつくが、とても言えなかった
浦田社長や浦田重工業が第二世界大戦を防ぐために参戦国全てを悪と見なして攻撃したのを認めるわけには行かない
「仮にタイムスリップしても同じだ。あれは運が良かっただけだ。浦田重工業は、学習して自分のために使うだろう」
「何か方法があるはずだよ。勝手に決めつけないでよ。科学的に無理だから簡単に諦めるの?」
時雨は悲痛な叫びをしていた。このままだと時雨が行ったタイムスリップ作戦は無駄ということになる。数年先延ばしただけだ。未来は変えた。しかし運命は変わらないのか?
「それならそれでいい。否定はしない。それに僕がいるのはワームホールで元の世界に戻れるまでだ」
柳田教授はそういうと部屋から出ていった
警察は動かなかった。何しろ、彼は犯罪行為はしていないのだから。報道の件も書類送検で不起訴になるのが目に見える。ターズも後に続いた
「僕はどうしたらいい?」
「時雨、落ち込む必要はない」
時雨は提督に助けを求めた。何か策はあるらしい
(怒っていない? あの主張で?)
あれだけ柳田が言っても提督は口を挟まなかった。警察でも反応したのに提督は違っていた
「ムカつくが、気になる所がある。陸奥、質問だがヤツは何で結婚して娘を育てた?」
「え?」
陸奥は予想もしていなかったらしく、変な声を出したが、周りは気にはしていなかった
硫黄島
「イントレピッドさん……考え直した方が」
「ダメよ! F-14は取り返す!」
イントレピッドとガンビアベイは遠くから敵の基地を監視していた。硫黄島に長い滑走路があり、周りには建物があった。以前から建てられたのか、それとも最近できたばかりなのかは分からない
しかし、3機とはいえジェット機を保有するのにはそれなりの資金と物資はいるはずだ。つまり、浦田残党はただのテロリストではない
「あれは私のもの。あれは私のもの」
F-14に浦田重工業のマークが描かれていることに気に入らないのだろう
しかし、例えF-14を奪って日本に向けて飛んだとしても着陸出来る滑走路なんてない。日本が超音速のジェット機の開発をしている基地が存在するなら着陸は出来るかも知れないが、無かったら強硬着陸するしかない。その時は機体は諦めるしかないだろう
ガンビアベイは指摘しようとしたが、F-14に夢中になっているイントレピッドは聞く耳を持たないだろう
そんな中、何か美味しい匂いが辺りを漂ってきた。基地からだろう。今は正午だ
ガンビアベイはお腹が鳴った。携行食は尽きたため、最近は食べていない
敵は良いのを食っているだろうな、と考えているガンビアベイに浮き輪さんがやって来てしきりに指を指していた
話は出来ないが、何をしたかは分かる
「イントレピッドさん。浮き輪さんが食事の用意ができたと言ってます。七面鳥です!」
「え?」
イントレピッドは怪訝そうに聞いた。七面鳥? ここは日本だ。そんなのあり得るはずは……
「美味しい!」
ガンビアベイは肉を頬張りながら感激していた。浮き輪さんが煙を立てずに焼いたらしく、料理を振る舞っていた
恐らく、敵基地の食事時間をあわせたらしいが、イントレピッドは納得していなかった
「なんで硫黄島に野生の七面鳥がいるのよ?」
何と硫黄島に野生の七面鳥がいたのである*4。浦田重工業が持ち込んだものなのか、それとも別の理由からなのか?
奇妙な出来事にイントレピッドは頭を悩ませていた。そんな2人に誰かが近づいて来た。ゆっくりと……
ロシア司令官「核は持ってりゃ嬉しいただのコレクションじゃない。強力な兵器なんですよ。兵器は使わなきゃ。高い金かけて作ったのは使うためでしょ?」
ガングート「誰かの魂があの司令官に憑依したのか?」
タシュケント「それはダメだよ。ソ連再建が先だ。ソ連が不死鳥如く蘇り世界を塗り替えるのが先決だ」
ガングート「同志。それも大事だが、今は後にしような(あれ?タシュケントってこんな性格だったっけ?)」
時雨の悩みに提督は何か気づいたらしいが……
え?最後のネタに憑依した魂が誰かって?あの人ですよ()