時雨の緊急任務 ~リベンジ~   作:雷電Ⅱ

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東京オリンピック始まりましたね
開会式ではドラクエやモンハンなどゲーム音楽が使われたみたいですね
日本選手、頑張ってほしいです


第42話 光と闇

「杉田さん、悔しくないんですか? あんなことを言われて」

 

 鶴川巡査長は不満そうに言った。一向は戻る羽目になった。警察本部に呼ばれたが、例の人……柳田怜人の件は関わるな、と言われたからだ。ロシア軍の侵攻によってパニックを抑えるのが最優先と言われたが、どうも軍に圧力をかけられたらしい。らしい、というのは本当かどうか分からないからだ。警察庁もそんな人に構ってられないと判断したかも知れない

 

「仕方ありません。並行世界の話は抜きにしても彼に明白な違法行為があったわけではありません。道義的責任は問われても罪を問える事は出来ません」

 

「しかしですね──」

 

「鶴川君、運転中は前を見てください。恐らく、過去に何かあったからあのような事が言えるのでしょう。ですが、例えそれが分かっても我々の声は彼に届きません」

 

「何故です?」

 

 一緒に乗っていた板倉刑事は身を乗り出した

 

「彼は天才なのは確かです。しかし、天才が必ずしも聖人になるとは限りません。歪んだ精神は時が経てば経つほど増大します。恐らく、この世界の法律や社会情勢を掴んでいるでしょう。先日の騒ぎでマスコミが使う公共電波を使った件で逮捕しても不起訴処分で終わるのが目に見えています」

 

「あの宗教団体を利用したのか。宗教団体の化けの皮が剥がれた事で窮地に立たされた」

 

 鶴川巡査長は首をかしげたが、板倉刑事は分かったらしい

 

「ええ。終末宗教団体が全く悪事を働いていない訳ではない。騙された者も多く泣き寝入りする者もいるはずです。実際に警察署に駆け込み相談に来る人も多かったと聞きます。それを教授はテレビ放送局を逆に利用して公開処刑という形にしてしまった。公共機関や艦娘を批判するはずだった猿芝居が逆に批判を受けてしまった。こうなると彼らには被害届も民事訴訟もする余裕はありません。グルになっていたテレビ放送局も集中批判されて放送どころではなく、既に夜逃げした関係者もいるくらいです」

 

 訴えるためには被害届を提出などをしなければならないが、しなければ警察は動かない。だが、化けの皮が剥がれた事で終末宗教団体はそれどころではなかった。それどころか、幹部は夜逃げする始末である

 

 警察が出来ることは知れている。仮に連行しても弁護士を雇って釈放されるだけだ。書類送検で不起訴処分で終わるだろう

 

「まあ、宗教団体にいた医者は狂犬病を隠していましたからね」

 

 世間では狂犬病を見抜けなかった間抜けと思われている。グルになっていた放送局も他のテレビ放送局や新聞社から猛攻撃を受ける始末である。ただマスコミの場合はライバルを叩いているだけだろうが

 

「話を戻します。彼は創作に出てくるような違法な研究行為はしないでしょう。法のグレーゾーンを渡り歩きながらしているかと思われます。そうなると厄介です。明白な違法行為をしているという証拠が無い以上、我々が動く事は出来ません。いえ、法律違反せずに研究しているとなるとお手上げです」

 

「どうするんです? 野放しですか」

 

 鶴川は焦っていたが、杉田刑事は違っていた

 

「大丈夫だと思います。彼女達と提督に任せる事にしましょう」

 

「いや、そう言われても」

 

 鶴川は不満そうだったが、杉田刑事はその場にいた艦娘達と提督に期待していた

 

(時雨に提督……今回も乗り切れるはずですよ)

 

 

 

 呉鎮守府

 

 時雨は落ち着かなかった。何とかして浦田結衣を倒す方法を考えていた。誰もいない教場で提督からニューヨーク防衛戦の記録を読み漁っていたが、敵の能力が分かれば分かるほど勝てる方法が思い付かない

 

 何しろ、光学兵器があるのが厄介だ。遠距離から膨大は熱線で敵を破壊する……以前の敵はこんな馬鹿げた能力なんて持っていない

 

 しかも、浦田結衣の行動が一周目の時と違っていることだ。戦術を変えたのか、堂々としている。更に厄介な事に、ワザと接近や攻撃を許してから反撃している。よっぽど防御力に自信があるらしい

 

「どうしよう……」

 

「まあ、正攻法で挑むだけでは勝てないのは一致してるな」

 

 時雨が落ち込んでいると、後ろから提督が声をかけてきた。あまりの突然な事に時雨は飛び上がった

 

「そのままでいいよ。別に極秘物件ではない」

 

「提督、落ち着いてはいられない! このままだと一周目の世界よりも最悪な事になるよ!」

 

 時雨は自分が思っていたことを口にした。このままだと歴史の繰り返しだ! 人類同士が争っているのをどうにかしないといけないが、このままだと仲間である艦娘が酷い目に合う。既に村雨達は撃沈してしまった

 

「分かっている。俺もなにもしないわけにはいかない。ロシア軍は軍に任せるとしてこちらは深海棲艦と『デビル』である浦田結衣だけに専念しよう」

 

 提督曰く、大本営は既に軍を送り込みロシア軍相手と交戦している。網走に上陸は許したものの、陸軍が応戦している

 

「でも、どうやって?」

 

「時雨は不満だろうが、柳田に協力させて貰うしかない」

 

 それを聞いた時雨は不安そうだった。確かにエボラウイルスからの危機を救ったのは柳田だが、性格からしてこちらに協力して貰えそうにない

 

「言いたいことは分かる。実際に長門や武蔵からは反対された。しかし、浦田残党が生物化学兵器を持っている事や未来兵器を我が物としている浦田結衣に立ち向かうには俺達だけでは無理だ。天才……いや、有識者が必要だ。親父やアイオワや明石だけでは難しい。何しろ、対処法が思い付かないと言っていたからな。田村一尉のパソコンにもレーザー兵器はないことから彼も難しいだろう」

 

 それを聞いて時雨は落ち込んだ。前回は浦田結衣に勝ったが、何も準備せずに戦った訳でもない。それなりの時間と有識者からの助けを借りたからだ。今回はジュネーブ条約違反である生物化学兵器と強力なレーザー兵器だ

 

 しかもアイオワ曰く、『艦だった頃の世界』の未来ではレーザー兵器なんてまだ実用化していないとのことだ。リリのせいだろうが、対処法が無い以上マトモには戦えない

 

「だから、奴を説得する。いや、参加せざるを得ない方法でやる」

 

「そんなこと可能なの?」

 

 時雨は唖然としていた。どう考えても脅迫という手段しか思い付かない

 

 提督は時雨が何を考えているのか分かったのか、笑いながら言った

 

「流石に脅迫や暴力は悪手だ。それにアイツも対策はしてるだろう。柳田はターズは自己防衛くらい出来ると言ったが、どうやらボディーガード役でもあるそうだ」

 

「薄々気づいていたけど、ターズは銃持った銀行強盗のような相手となら戦えると思う」

 

 時雨は頷きながら言った。ターズの存在は鎮守府では人気だ。トーク力は豊富でジョークも言う。しかし、夕張や秋津洲は見逃さなかった。ターズのボディがとても頑丈に出来ていることに

 

 明石も『最低でも拳銃の銃弾を防ぐくらいの防弾性能はあるはず』と語っていた程だ

 

 勿論、実際に試していない

 

「とはいえ、浦田残党に彼の身柄を渡せばあいつは研究を再開させるだろう。研究が出来れば何処の陣営だろうと柳田は関係無さそうだからな。陸奥にも言われたが、死者蘇生の研究は止めさせるべきだ。柳田を味方につけて浦田結衣を倒すための方法を見つけて貰う。ワームホールで元の世界に帰すのは後だ。危機対応には何よりも情報が大事だ。国民の生命を守るためにはそれが最善のやり方だ」

 

「でも、本当に役に立つ? 倒せなかったら……」

 

 時雨は不安になった。生物化学兵器によってほとんどの艦娘が酷い目に合い、自分は死にかけたのだ

 

「何もやらないよりかはマシだ。それに、まだ国家は機能しているし、一周目の世界よりかは対応は出来ている。不本意とはいえ、艦娘不要論を唱え超兵器で浦田結衣に挑んだ戦闘記録はとても貴重だ」

 

「一周目よりも強くなっている事だけは分かったよ」

 

 時雨はため息をついた。熱線をなぎ払っただけで超兵器は爆発四散したニューヨーク防衛戦をある方法でみた時雨は悩みの種だった

 

 味方がやられるのはもう慣れてしまった。サウスダコタの行方が心配だ

 

「ああ。しかし、軍の中に艦娘不要論者がいたとはいえ、組織である以上は連帯責任だ。組織の危機となれば性根が問われる」

 

「どういう事? その人を左遷させれば良いだけじゃないの?」

 

 時雨は疑問に思った。艦娘不要論が自分達である艦娘を批判しているが、ニューヨーク防衛戦では今では批判対象になっている

 

「いいか、時雨。成果が出た時は如何に自分が有能かを滔々と語る。ところが、失敗した時は如何に仲間が無能かという理由を探る。ダメ人間に限ってそれが目に見えてくる。現に結衣に負けた艦娘不要論者や問題ばかり引き起こした終末宗教団体の信者は責任の擦り付けでこれまでの悪事が次々と見つかっている。行方不明になっている国防大臣ももし生きて日本についていたら、真っ先に元帥のせいにするだろうな」

 

「そういう人に限って生き延びていそう」

 

 提督の話を聞いていた時雨はクスリと笑った。超兵器があるから艦娘要らないと豪語していた人は、浦田結衣や深海棲艦相手に戦わないだろう

 

「人の器を図るのは難しいが、性格は兎も角、少なくとも柳田はダメ人間の分類ではないな。まあ、天才が考えている事は常人には理解できないが。取りあえずは柳田を説得しに行こう」

 

「でも、説得なんて出来る?」

 

 時雨は不安だった。とてもこっちの味方をしてくれるとは思えない

 

「心配するな。ああいう相手にはもう慣れている。それに親父と陸奥が帰ってきたからな」

 

 提督はにやりとしたが、時雨は首をかしげた

 

 そんな人と交渉したっけ? 

 

 

 

 提督は時雨と数名の艦娘を引き連れて行った。柳田がいる場所は知っている。工廠へは近づけないようにしてはいたが、時間の問題だろう

 

「提督、陸奥は何処へ行った?」

 

「ちょっとお使いに行かせたのさ」

 

 長門は提督と合流した時に真っ先に言った。刑事達が帰った後、提督は陸奥と話したらしいが、その後は見ていない

 

「気にするな。必要なお使いだ」

 

 提督は安心するように長門を宥めると提督は部屋に入った

 

 

 

 そこには柳田が居た。ターズもいた。鞄に何か書類を仕舞っていたが、提督達が入るのを見ると手の動きを止めこちらを向いた

 

『彼らが来ましたよ』

 

「そうだな。……何のようだ?」

 

 柳田は時雨と提督を交互に見ながら言った

 

「時間がないから簡潔に言う。名誉挽回のチャンスをやる。奴を倒す手段を教えろ。それで世界を救う」

 

「僕達では浦田結衣を倒せない。倒す手段を教えてほしいんだ。過去に何があったのかは陸奥さんから聞いたよ。でも、今は前に進んで欲しい」

 

 提督と時雨は訴えた。ターズは柳田を見たが、彼は静かに首を横に振った

 

「たまたまの暴力との出会い。妻が暴行を受けて殺され遺体をドラム缶に入れコンクリートで固めて埋め立て地に遺棄された時に皆から似たような事を言われたよ。三浦会社から雇われるまではね。社会問題と未来の不安を取り除くプロジェクトがあると誘われた。日常の中で人間本来の資質、良心や哀れみの心は既に失われていた。それを取り戻そうと」

 

「理想はいいが、道を誤った。お前はお前の世界に帰った後は、機械や強化人間の研究を止めるよう向こうの世界に伝えろ」

 

 提督は柳田の言葉を遮るように言った。だが、彼の声は柳田には届かないようだ

 

「いや、もう遅い。僕の世界はそこまで追い込まれている。十年前はそれで良かったかも知れないが、そんなことを言ってる暇もない」

 

「それなら、僕達はどうでもいいの? 陸奥さんを誕生させたのに、放って逃げるの!?」

 

 時雨は堪らず叫んだ。提督の言う通り、この人を何とかしないといけない

 

「何を言ってる? 軍が欲していた科学技術のノウハウを書いた資料を渡したんだ。エボラウイルスの性質や対処法もだ。浦田重工業が無くても技術革新出来るはずだ」

 

「数百枚もの紙の束を渡されて大本営だけでなく政府関係者も困惑していたがな」

 

 長門は呆れていた。実は、軍本部が柳田に科学知識と資料を提供するよう要請があった。医師免許との取引のためだろうが、意外にも彼は了承した。と、そこまではいいのだが、彼はターズのお陰とはいえ、1日で数百枚もの資料を作り上げて軍本部に渡した。山のように積み上げられた資料を渡された軍部も喜ぶどころか困惑した。資料の中には半導体やトランジスタなど軍事として有益と思われる資料もあり喜んだらしいが、実用化するには時間が必要だ。しかも細かく書いており、ご丁寧に機械工学や電気工学などの資料もあることから技術者だけでなく政府の要請により派遣された大学教授ですら頭を悩ませた。浦田重工業に頼らず技術革新すると喜んだ人達も山のように積み上がった資料を見て目眩を覚えたらしい

 

「僕にどうしろと? エボラウイルスを対処するには同意はしたが、浦田結衣を倒す依頼はされていない。それに、僕を守る必要もない。そこの艦娘も不満そうだ」

 

「ああ、不満だ。でも、提督命令だ。浦田残党に渡してはいけないと命令を受けただけだ」

 

 どうやら武蔵らしいが、彼女も提督の命令には従っていた。一応、武蔵も柳田が浦田残党に身柄を引き渡すとどうなるかは分かっていた

 

「奥さんの事は気の毒だけど、僕の妹と仲間は撃沈され沈んでいったんだ。だから──」

 

「死者は還らない。還る手段も陸奥に止められた」

 

「陸奥さんの言ってることは正しいよ!」

 

 時雨は一瞬、村雨と吹雪と如月のことを脳裏をよぎった。死者蘇生が本当に実現出来るのなら撃沈された3人を救えると

 

 しかし、時雨は甘い誘惑を振り払った。長い目で見れば、これは良いことではない。難しい事は分からないが、まだその時ではない

 

「僕が君達にしてやれることはない。やれるのは争いを無くす手段を提供するだけだ。人々は学ぶべきなのだ。僕はそれだけの経験はしてきた。艦娘不要論で隅に追いやられた艦娘もよく人類のために戦えるな」

 

「それは……」

 

 長門は反論しようとしたが、言葉に詰まらせた。艦娘としてはここが痛いものだ。人類のため、と大義を謳っているが、では人類が艦娘を切り捨てられたら? そこに疑問が生じると何のために戦うのか分からなくなる。下手すると艦娘の存在意義すら危うくなる

 

 だから、その場にいた艦娘は言い返せなかった

 

 ……いや、1人だけいた

 

 時雨だった

 

「そうだよ。その通りだよ。タイムスリップする前から人の醜さをたっぷり味わったよ。だけど、教授には分からない人間の強さにも見てきたよ。涙を誘うほどの人の優しさも知っている」

 

 時雨の反論に長門達は驚いていた。時雨がこんなことを言うとは思わなかったからである

 

「僕は崩壊した世界を救うためタイムスリップして浦田重工業を倒した。提督と仲間に会うため過去を遡った。その結果、世界を救うことになった。艦娘不要論が出ても浦田結衣から暴力を振るわれても世界を嫌う理由にはならない」

 

「泣かせるねぇ。前から気にはなっていたが、それを聞いて確信した。道理で皆が君を慕う訳だ。大和が必死になって死にかけた君を助けるよう懇願するはずだ。時雨と言ったな。質問だ。なんでお前は浦田重工業が築こうとしている理想の世界を拒み戦うんだ? アイツらも人の集団だろ?」

 

「第二次世界大戦を止めるために深海棲艦を操って世界を攻撃してる過激な組織を放っておく必要なんてある? それなら戦いの方がマシだよ。それに僕達艦娘を味方してくれてる人達もいる。信頼は出来る。誰が悪い人間で良い人間か見分けられるよ」

 

 時雨は力強く言った。提督も博士も502部隊の人達も一緒だ。彼等がサポートしてくれたお陰かもしれない

 

 柳田もこれには予想外だったのだろう。面食らったようにも見えたが、柳田はまだ諦めていない

 

「人は人が持つ闇に毒されている。善いところもあるが、いずれは限界が来る。人類共通の敵が現れても人は争うばかりだ。綺麗事だけでは解決しない」

 

 柳田の言葉に時雨は反論しようとしたが、意外にも提督が先に切り出した

 

「柳田教授、それは違う。光と闇を併せ持って生きるのが人間というものだ。人の毎日は光を求めての戦いと言って良いくらいだ」

 

「違うな、提督。光を探すのに戦いどころか暴力は要らない。特に犯罪という不要で非論理的な暴力はな」

 

「世界にもう一度チャンスをくれ。あんた自信にも。あんたの助けがいるんだ。あんたの持つ天才の頭脳と科学力で、この世界を救ってくれ」

 

 提督は近寄ったが、柳田は首を振った

 

「ありがたいお誘いだが提督。もうやれることはない。言っただろう。人は自らを犠牲をしてまで人類の種を救おうとしない。家族を守る。人は家族や友人には献身的になれるが、それは自分が見える範囲でしか出来ない、と。警察と軍……僕の世界では自衛隊だけど、警官も兵隊も自国民を守る仕事をこなしている、というだけの話だ」

 

 柳田は淡々と語った。ターズは何も言わないが、ロボットだからだろう。こういう議論には難しいのだろうか

 

「僕は違うよ。タイムスリップ作戦では任務以上の事はした」

 

「たまたまだ。そんな博打打ちの──」

 

「任務に博打打ちは関係ないわ」

 

 柳田教授の反論に誰がが口を挟んだ。その声は廊下から聞こえたが、時雨は初めて聞いた声だ。しかも、柳田は固まっている

 

 時雨が後ろを振り返ると陸奥と博士がいた。いや、隣に誰かが居た。海軍士官だが、制服が海軍士官が着ているものと微妙に違う。階級章も帽子の仕様も提督が付けているものと違う

 

 とても若く20代前半の女性軍人らしいが、誰だろう? 

 

「確実に安全な100%達成できる任務なんて無いわ。時には無謀も大事なの」

 

「……お前……なんでここにいるんだ?」

 

 女性軍人に柳田は狼狽した。狼狽した姿をした柳田を見たのは初めてだ

 

 知り合いなのか? 

 

「なんで? むっちゃんと中将が家に訪れた時は驚いて泣いたけど、一連の出来事を聞いてた時は嬉しさと喜びは吹っ飛んだわ。……パパ、こんなところで何してるの?」

 

「パパってまさか、この人……ウソやろ!?」

 

 龍驤は驚いた。いや、龍驤だけではない。時雨も長門達も驚いた

 

「自己紹介が遅れてごめんなさい。私は海上自衛隊所属の柳田優子。階級は2等海尉……貴方達に馴染みのある階級を言うと中尉よ。貴方が提督ですね。陸奥がお世話になっています」

 

「ああ、宜しく。俺は海軍中佐でここの提督を勤めている」

 

 柳田優子は敬礼したため、提督も敬礼を返した。時雨は何となく察したが、柳田教授は何が起こっているのか分からないらしい

 

「どういう……」

 

「柳田さん、ごめんなさい。私を飛ばした時にはあれだけ綺麗事な事を言ったのに、今では掌を返したかのように人の悪を強調していたから疑問を持っていたの。再びあの時の柳田怜人になったのを」

 

 陸奥は間髪いれず言った。どうやら、陸奥は知っているらしい

 

「未来に託しても結果が変わらないから失望しただけじゃないかって」

 

「状況が悪化した世界に託しても意味はないと感じただけだ」

 

 柳田はぶっきらぼうに言ったが、陸奥も優子も呆れていた。というより、この状態を知っているらしい

 

「なるほどね。あの時とあまり変わってない」

 

「そうなの。私もどう反応したらいいか」

 

「むっちゃんは悪くない。取りあえずパパに平手打ちするか、説経をするか悩むわ」

 

 陸奥と優子はため息をついて居ることから取りあえずはこちらに有利らしい

 

 が、一連の流れを見て時雨は気がついた

 

「陸奥さん……もしかして柳田教授のいた世界に行って娘さんを連れてきたの? 博士があのワームホールを完成させて?」

 

「ああ、息子からの無理な注文で密かに研究をする羽目になった。教授の望みと共に教授の理解者話を連れてきたワイ。柳田二尉、済まなかったのぉ」

 

「良いんです。丁度、護衛艦のドック入りで長期休暇を頂いているんですから」

 

 どうやら、柳田教授が帰りたがっていた世界から娘さんを連れてきたらしい。しかし、誰がこんな事を考えたのだろうか。時雨は疑問に思ったが、もしかしてと思い提督を見たが、彼はニヤリとし人差し指で口に当てていた

 

 わざとらしい仕草に柳田教授も気がついたらしい

 

「どういうつもりか知らないけど、ワームホールが出来たのなら帰るぞ」

 

「いいえ。ここに残ってリリを取り込んだ敵を倒すまでは帰らない」

 

 優子は拒否していた。ハッキリとしていたため、柳田教授は狼狽した

 

「相手は強力な兵器を持っている。どうすることも出来ない。僕は軍人ではない」

 

「私は違う。自衛官としてではなく、友達と仲間を救うために居るの」

 

「自衛隊の任務でも無いことをするな」

 

「自衛隊の任務でもあるの。吉村海将の命令なの。さっき話した長期休暇は表向き。事情を説明したらあっさりと通った。あの件があったから時間なんてかからなかった」

 

 娘の言い分に柳田教授の顔色が青くなった。こんな事になるとは思っても見なかったのだろう

 

「娘さんは戦ってくれるのに、教授はまだ人類は手を取り合わないと言うの?」

 

 柳田教授は何も言い返せなかったが、後もう一押しだ。時雨はだめ押しとも言える疑問をぶつけた

 

『教授、貴方の負けです』

 

 ロボットであるターズすら言われたのだから柳田は時雨と提督に指を指して言った

 

「仕方ない。分かった。手伝う……君達も中々なるじゃないか。てっきり暴力で僕を屈服させるかと思ったが」

 

「それをしても根本的な解決策にはならない。分かってるならターズの武装を解除してくれ。まあ、柳田教授の事だから非殺傷の武器だろうが、それでも武装解除するんだ。話しはそれからだ」

 

「……分かった」

 

 柳田教授は渋々従った。どうやら、観念したらしい。柳田教授が部屋から出た。取りあえずは今回の件も手助けするだろう

 

『初めまして。私はターズです。教授の娘さんと会う事が出来て嬉しいです』

 

「優子よ。やっぱりパパはAIロボットを作れたんだ」

 

 ターズはその場に残ったが、特に敵対心は無く、それどころかフレンドリーな対応である。そのように作られているらしく、特に問題はなかった

 

「柳田二尉、僕は時雨です」

 

「優子でいいわ。堅苦しい事は言わないで。貴方が時雨ね。こちらこそ宜しく」

 

 二人は互いに敬礼した。娘とはいえ立場は中尉なのだから

 

「柳田二尉、早速だけど親子共に敵を倒すのに手伝ってくれ。君は海上自衛隊で何をしていた?」

 

「職種は飛行で航空機操縦士。SH-60Kと言われる回転翼機に乗っている」

 

「ヘリコプターのパイロットか。必要なら操縦してくれたら嬉しい。浦田重工業から鹵獲した航空機の中にヘリコプターが数機ある。もしかすると操縦するよう頼むかも知れない」

 

「あるなら使わなきゃ」

 

 優子はニヤリとした

 

 

 

 硫黄島

 

 ガンビアベイとイントレピッドが昼食を取っていると、茂みから誰かが姿を現した

 

 ガンビアベイとイントレピッドは慌てて身構えた。艤装は壊れているため、原始的なやり方……素手でやり合うしかない

 

 だが、それは使われる事はなかった

 

 現れたのは敵でも野生の動物でもなかった

 

「ゴトランドさん、驚かせないで下さい」

 

「ガンビアベイ、イントレピッド。無事で良かった」

 

 現れたのはゴトランドだった。どうやら、彼女も硫黄島に漂流していたらしい

 

「再会して喜ぶのは早いけど、ここは──」

 

「分かっている。敵の基地ね」

 

 イントレピッドは言うや否やゴトランドは既にここが何処なのか分かっていたらしい

 

「敵兵を数名捕まえて情報を引き出したから」

 

「捕まえた!?」

 

 ガンビアベイは驚いた。既にゴトランドは情報すら引き出したらしい

 

 ゴトランドは敵基地の構造や戦闘機の状況などが書いた紙を持っていた。筆跡を見る限りゴトランドのものではない

 

「どうやって聞き出したのですか?」

 

「こっこり近づいて催眠術を使って聞き出した」

 

 ゴトランドがの当たり前のような回答に二人は固まった

 

 催眠術? 

 

「さ、催眠術使えるんですか?」

 

「興味本位で心理療法を学んだ事があるけど、これが面白くて今では知らない相手でも簡単に眠らせて情報を引き出す事が出きるの*1。あ、勿論相手に接近しないといけないから万能ではないわ」

 

 ゴトランドは当たり前のように話すが、ガンビアベイもイントレピッドも呆気に取られていた

 

 そして、実際に数メートル離れた場所で数人の浦田兵がいたが、全員眠っている

 

 怪我等はしていないため、ゴトランドは本当に催眠術を駆使して捕まえたらしい

 

(催眠術ってこんな事が出きるんですか?)

 

(魔法使いレベルよ……艦娘の能力? 能力の覚醒?)

 

 どうやら、大半は独学で身につけたというゴトランドだが……一体、どうやってこんな能力をつけたのか? 流石に悪用はしていないらしく、身に危険を感じたり、自己防衛する時以外は使っていないと言っていた*2

 

 催眠術……これは艦娘の能力の一部なのか、それとも……? 

 

「と、取りあえず侵入しましょう」

 

 イントレピッドは戸惑いながらも侵入の計画を立てた

 

 どのみち、敵の基地だ。何とかしないといけない

 

*1
催眠術は特定のリズムを持つ光や音により人間の脳をいったん麻痺させ、その間に暗示をかけることを指す。本来は心理学の療法ではあるため超常的な能力ではないのだが……

*2
余談ではあるが、現実の日本の法律では無断で催眠術をかける行為は暴行罪(刑法208条)に問われる




ゴトランドは あたらしく さいみんじゅつを おぼえた

ゴトランド「レベルアップすれば催眠術なんて簡単に習得出来るわ」

イントレピッド・ガンビアベイ((そうか……?))

時雨と提督、説得と交渉材料を駆使して柳田怜人を協力させることに成功。娘の優子は海上自衛隊のパイロットという設定。回転翼機であるSH-60Kのパイロット
この作品の世界は提督の言った通り浦田重工業から鹵獲したヘリがあるらしいが……

やっぱりゴトランドは初期艦だったんだ(催眠状態)
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