そして、中旬辺りにイベントが開始
何が来るかな?
作戦室では人が集められていた。『デビル』である浦田結衣を迎撃するためである。『デビル』というのは浦田結衣のコードネームである。深海棲艦の姫クラスなのだが、従来の深海棲艦とは違うため、コードネームで呼ぶことになった
一応、浦田結衣は戦艦にあたるらしい。外見はモンタナ級戦艦らしきものを模している。らしき、というのは外見である
砲塔は53cm砲ある。恐らくドイツの試作砲を実用化させたらしい。しかし、それは特に問題視していなかった。以前はH級戦艦であるH44を模していたのだ。浦田結衣の能力なら主砲を改造できたのだろう
しかし、今回は違った。なんと高出力レーザー砲を積んでいるらしい。レーザー兵器……SF作品に登場する兵器が存在しているなんて困惑するはずである。目標に対して射撃……いや、照射も正確無比であり、飛翔する砲弾も迎撃出来るほどだ
最低でも四つはあるらしい。戦艦コロラドがそう証言していたが、隠し球としてまだあるかもしれない
そして、大問題は防御力が前回と比べ物にならないとくらい高いということだ。確認されただけでも『艦だった頃の世界』において広島長崎に落とされた原爆とそれ以上の威力を持つ水爆数発を耐えたと言われている
提督もアイオワだけでなく『艦だった頃の世界』においてクロスロード作戦で核実験の標的艦にされた事がある長門達も驚いた
「核攻撃に耐えた?」
「正確には原子爆弾だけでなく、水素爆弾も耐えた」
長門は茫然自失し、サラトガもプリンツオイゲンも酒匂も固まっていた
「
「それだけじゃない。浦田結衣は現在何処にいるか不明だが、ヨーロッパ侵攻の際も健全で欧州連合軍を蹴散らしていった。つまり、放射能障害を起こしていない」
提督の報告にアイオワは更に青くなった。アメリカが核攻撃したのは耳にしていた。初めは浦田結衣が囮を使ったりして核爆発からのがれた、と思っていた。対深海棲艦で開発された核爆弾なのだから効果有るはずだ。一周目の時はW23核砲弾を製造したが、あれは実物大であり対深海棲艦ではない。対深海棲艦でない兵器は効かないのは納得は出来る
しかし、今回は違った。対深海棲艦用とはいえ、核爆発に耐えたのだ!
「わ、私でも核爆弾を2回も耐えたぞ」
「それは違う。長門の時の核実験は、クロスロード作戦と呼ばれる原爆実験。戦艦長門の場合はTNT火薬21キロトン級の原爆。今回は水爆まで使われた。水爆の方が威力が高い」
長門は強がっていたが、優子は否定した
「威力はどれくらいだ?」
「この世界は旧史よりも軍事技術が進歩してあるから分からないけど、水爆の暗号名は『ブラボー』と書いてある。米軍による水爆実験のキャッスル作戦*1に使われた水素爆弾と同じだとしたら威力は15メガトン。言い換えると、TNT火薬15メガトン分に相当する。威力は貴方が受けた原爆の約千倍近くもの威力はあると思うわ」
柳田優子があっさりと言ったので、長門は二の句が継げなくなってしまった。破壊力がイメージが出来なかったのである。
「分かりやすく言い換えると、関東平野が焼け野原になる。そこにある建物も人も跡形もなくなり、あるのは巨大なクレーター……陥没孔と死に絶えた大地だけ。広島長崎以降は使われたことは無いが、長門達が受けた原爆の数千倍もの威力があるから被害がどれくらいなのかは分かるだろう」
「なっ……それほどの威力があるのか?」
柳田の補足説明に長門はようやく呻いた。ここまで威力がある核爆弾があるとは思わなかったからだ。柳田怜人は残存放射性物質や半減期の問題を言わなかった。この話はややこしいのでやめておいたからだ。実際に放射能について詳細な事は柳田教授くらいしか分からないからだ。前半は理解出来なかったのは兎も角、数千倍もの威力のある核爆弾と聞けば、青くなるだろう
他の艦娘も502部隊の曹長や大佐もいたが、数字が膨大すぎて理解出来ない。工作艦である明石も困惑したくらいだ。一部の人……博士やアイオワは原子力という概念は知っていたらしく特に驚かなかったが、どちらかというと浦田結衣の能力に驚いている
余談ではあるが、旧史において日本に投下した米軍の将校ですら理解できなかった。当時の米軍の名誉のために言っておくと、原爆投下を決定したのは政治家であって、軍人ではない
「柳田教授、あんたは核兵器を研究していたのか?」
「まさか。過去に原発事故と核兵器の対処法をどうするか教えてほしいと言われたことがあったな。核物理学は専門外だが、要望を答えるために二週間で理解して資料を集めて教えたぞ」
提督は質問したが、柳田教授の何気ない答えに眉を潜めた
「でも、他にもいるんじゃないか? そういう学者とか」
「いいえ。自衛隊には核の専門家は居ないの。学者も自衛隊嫌いが多いし」
提督は柳田の行為に怪しんでいたが、優子の説明に驚いていた
「どうしてだ?」
「日本には軍事アレルギーと核アレルギーがあるからよ」
「普通はやられたら、二度と攻撃を受けないよう対策をするはずでは?」
「普通ではないのよ。やることも核ミサイルが飛来している所を撃ち落とす手段*2と核ミサイルが飛翔してきたことを国民に警告するシステム*3くらい」
優子は淡々と答えていたが、これはギャップが有るからだろう。自衛隊はNBC部隊はあるものの、核の専門家は持たない。そのため、外部から説明を求めているのが現状だ
「入隊してから知ったけど、顧問だったパパが凄すぎて何もかも頼っていたのが実情かも知れないけど」
「自衛隊に言いように使われていて何も文句言わなかったのか?」
優子の説明に提督は呆れていた
「いや、初めは仕事を押し付けて嫌だったが、調べる内に興味が湧いたんだ。ちょっと熱が入ったというか」
「未来の日本が核に忌避過ぎているって事か」
提督はそれだけ言っただけで何も言わなかった
広島長崎の原爆投下は、太平洋戦争で起こった出来事の一つだ。しかし、この世界は第二次世界大戦なんて起きていない。そのため、認識にズレが生じているのだろう
「つまり、核の専門家としても自衛隊に貢献したのか」
「あー、実はそうでもないんだ。核……原子力関連は内容が難しすぎて講演に参加していた自衛官の内、大半は寝てるか上の空で聞いていてね。資料だけ渡した感じだな。本当に貢献したかは別だけど」
柳田の気まずそうな言い方に提督は首をかしげた
「そうなのか?」
「まあ、提督の場合は博士の影響もあってか、何とかついてこれているだろう。長門達は『艦だった頃の世界』において経験したからピンと来る。後は……」
柳田はその後は言わず会議室を見渡した。提督は辺りを見たが、柳田の言い分に納得した
ほとんどの人は理解していない。武蔵大和を初め他の艦娘はちんぷんかんぷんだったのか、全く分かっていなかった。米艦娘の中には核爆弾のことは知っていた者もいたが、どちらかというと『放射能を撒き散らす凄い爆弾』という認識だけで詳しい事は分かっていない。まるで高校か大学で難しい授業を受けたのと同じ光景だ
時雨は結衣が核兵器を耐えたという話を聞いたが、そもそも時雨は核兵器については全く分からなかった。それもそのはず。『艦だった頃の世界』において原爆投下された日よりも先に沈んだからである。終戦まで生き残った艦娘もいたが、どれも同じである。近くにいた雪風に聞いたが、雪風もポカンとしている
なぜ、こうなったかと言うと実感が湧かない。内容が難しいこともあるが、膨大な破壊力である数字を見てもピンと来ないからだ。いや、核実験に参加していた艦娘だけでなく『艦だった頃の世界』で終戦まで沈まなかった艦娘の中には原爆投下のことは知っている者もいたが、ショックよりも難しい話で無反応状態である
「1トン爆弾の十五万発分の威力のある特殊爆弾を十数発を受けても奴は耐えた」
柳田教授は簡潔に説明したが、時雨はその破壊力がイメージ出来なかったのである
ただ核攻撃の際に観測機か船舶が撮った写真を見れば如何に凄まじい破壊力かは何となく分かった。水平線から火山の噴煙を思わせる異様な形が伸び上がっている。まるでキノコのようだ
「ねぇ、教授……提督……浦田結衣は強大な爆発力と熱線に耐えたって事?」
「そうなるじゃろう」
時雨は質問したが、代わりに博士が答えた。博士も核兵器については理解していたらしいが、寧ろこれほどの核爆弾を受けても何ともない結衣に驚いている
連合軍が『クラーケン』から『デビル』に格上げした理由もわかる
「恐らく、円盤型の戦闘機……ハウニブと呼ばれておるが……から攻撃を受けたため、奴は反撃したのじゃろう」
「米軍が余計なことをした結果、自己改修して強くなったのね」
アトランタは思い出しながら言った。ハウニブの試験運用で戦艦水鬼改を軽く攻撃したが、どうやら奴の逆鱗に触れたらしい
「それよりもレーザー兵器を何とかしないと! それがある限り接近出来ない!」
時雨は指摘した。今は熱線……レーザー兵器を何とかしないといけない
光は弾丸よりも早く、しかも重力や天候に左右せず直進することから正確無比に照射できるらしい。しかも、飛翔する砲弾や航空機を迎撃する能力もある
「レーザーか……正直言ってこれほどまでに強力なレーザーは見たことないが」
柳田は首を唸った
「どういう事? 教授や二尉の世界では実用化しているんじゃないの?」
時雨は優子に質問した。柳田優子の階級は、この世界では中尉にあたる。しかし、それだとややこしくなるため、二尉と呼ぶことで見分けることにした
「いいえ。レーザー兵器はあるけど、あれはどちらかというと防衛用の兵器。だけど、高高度で飛行するB-29を撃墜なんて……」
「防衛用?」
時雨はおうむ返しで聞き返し、他の艦娘もやっと分かる範囲で議論の方向性に持ってきたため興味をひいた
「ターズ、あの写真と僕が描いた絵の投影を」
『分かりました。ファイル番号、29の画像を投影します』
ターズは投影器を搭載してるのだろう。頭部にあるレンズから光を壁に向けて投影した。四枚の画像を投影していたが、その内の2枚はニューヨーク防衛戦の時の写真で、浦田結衣が高度に飛ぶB-29や巨大な戦車ラーテが光線で破壊される写真が写し出されていた。残り2つは教授が描いたのだろう。鉛筆で簡単に描いてあるが、何なのか分かる。ロケットのようなものを熱線で照射している
「レーザー兵器……光線兵器は本来、SFの映画や漫画しか出てこない架空の産物だ。レーザーそのものは1950年代に発明されたが、それを兵器化する事は僕たちの世界でも実用化が難しい。いや、一部の国は実用化できたが、小型航空機やミサイルを迎撃するためのものだ」
「ちょっと待って! 私は大破させられたのよ!」
陸奥は反応したが、教授は変わらない
「だからだよ。ここまで高出力のレーザー兵器は正直言って見たことがない。砲弾や航空機を迎撃するのは兎も角、装甲がある戦艦やビルをバターみたいに斬るなんて始めてみた」
「防ぐにはどうするの?」
陸奥は質問し、他の艦娘も息を飲んだ。皆は求めているのだ。レーザー兵器を防ぐ手段を
柳田は周りからの視線を感じながらも淡々と答えた
「映像だけだから何とも云えないが、敵のレーザーは確かに強い。大気減衰や気象条件もあるかも知れないが、ここまで凄いのは始めてみた。しかし、連続して撃っていないな。エネルギーをチャージして撃ってるから機関銃のように連続して使っていない。それに微かだが、レーザーの線が見える」
柳田は合図するとターズは結衣がハウニブ 円盤型戦闘機を撃破する前の画像を見せた。微かに赤い紐のようなものが伸びている
「恐らくレーザー照準してから高出力で照射しているだろう。それにレーザー光の幅が違うのも確認していることから、対空用とそうでないのと使い分けている。対空用はレーザー照射後、再照射に要する時間は12秒。そうでないものは36秒かかっている」
「12秒で近づくなんて無理よ!」
瑞鶴はたまらず言った。レシプロ機でも絶対に不可能だ
「36秒でも厳しい」
長門も苦々しく言った。接近するのも容易ではない
「だからレーザーを分散させるための何らかの処置をするか、艤装の装甲を耐熱させるしかないな。それか攻撃方法は分かったから、レーザー照準されている事を知らせるレーザー警報装置を使うしかないな」
「レーザー警報装置?」
時雨は質問した
「簡単に言えばレーザーを照射されている事は敵に狙われているって事。レーザー光線を探知して狙われている事を知らせる装置。私達の世界ではレーザー兵器は数少ないけどレーザーを使った誘導兵器は既に登場してるから、対抗手段としてあるわ*4」
代わりに優子が説明した。尤も、レーザー照準やレーザー誘導兵器については省いた。ややこしくなるからである
「じゃあ、狙われた時にかわせば!」
「上手くいくはずよ」
取り敢えず対抗策はあるようだ。上手くかわして接近すれば倒せるはずだ!
「問題はアイツの防御力だが……」
「心配いらん! 対深海棲艦兵器がショボかっただけだ! 51cm主砲を数発食らえば沈むさ!」
武蔵は強く言ったが、意外にも反発はなかった。というより、案が中々思いつかない
「恐らく効くだろう。破壊された組織が再生しているということはダメージを与えられている証拠だ。なら、再生よりも破壊する力が大きければ破壊はできる」
意外なことに柳田は武蔵の案に同意した。あっさりと同意した事に武蔵はパチクリしていた
「そう……なのか……」
「僕がそんなことで反発する訳無いだろう」
「でも、核爆弾に耐えたと貴方が……」
大和が指摘したが、柳田は違った。というより、思いきったことを言ってきたのだ
「そうだ。耐えたのならジャーヴィスの体当たり攻撃に負傷させる事はない」
「エヘヘ、あの時は運が良かったから」
ジャーヴィスは照れていた。ニューヨーク防衛戦にて衝角……敵艦に衝突して舷側などに穴を開けさせることで大破もしくは沈没を狙うための古い戦法で浦田結衣にダメージを与えたのだ
レーザーを食らったが、当たりどころが悪かったのかダメージが軽微だったから出来た事である
「お言葉だが、あれと何の関係が?」
「おかしいと思わないか? あれほど総攻撃を受けてもほとんど効果無かったのに、終盤での悪あがきには傷を負わせた。油断した、なら説明がつくが油断だけではないだろう」
ワシントンは質問したが、柳田は落ち着くよう言った
「奴は驚異的な再生能力と防御力の他に何か自己防衛能力を身につけているな」
「「「え!?」」」
予想外の事に時雨だけでなく、大和も博士も驚いた
「対深海棲艦に施していない兵器なら兎も角、施した核攻撃を受けて平気となれば話は別だ。奴は何かをして核攻撃を耐えた」
「何なのですか!?」
大和は焦った。これでは勝てないではないか!
「不明だ」
「不明って!」
「現在の戦闘記録だけでは分からない。もう一度観測する必要があるが」
柳田は抗議する大和を遮りながらも言うと提督の方を見た。決めるのは提督だが、勿論彼は反対した
「観測のためだけに大規模攻撃なんて無理だ! 対策がわかっても次の攻撃が出きるか分からない!」
提督は反対した。人的損耗を前提とした作戦が失敗したら後がない
連合軍は壊滅し、ヨーロッパと中国大陸はロシアと、アメリカは南米と戦争が始まったのだからほぼ当てには出来ない
残されたのは日本軍と艦娘だけだ。しかも、ロシアの侵攻が起こっているため、人員は割かれている
「何か、って……それは機械か何かで実現させたんだよね。以前やったみたいに電磁パルスで破壊出来ないの?」
「相手も対策はしているはずだ。核爆弾は電磁パルスも発生させているから電磁パルスも防いでいるだろう。正直、高出力の電磁パルスを耐える機械を生み出したとしてもリリの能力なのか……」
柳田の説明に時雨は考えた。柳田の推理が本当なら短時間で1点集中攻撃するしかない
「気持ちは分かるが、僕はSF作家でもコミックライターでもない。確証出来るまでは安易な推測は出来ない」
「もうこれは魔法だよ」
「否定は出来ないな……『充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない』とは正にこの事だ」
時雨の愚痴に柳田は頷いた。これ以上は柳田教授を責めても仕方ないだろう。最早、浦田結衣の能力はSFの領域だ
本来ならこんな馬鹿げた能力を持つ敵は深海棲艦に居るわけがない。居てはいけない。そんな敵は……
会議は一応、閉める形となった。浦田結衣が今何処にいるか、不明であるため捜索しないといけない。空軍はロシア軍迎撃と首都防衛のため、基地航空隊の哨戒機がひっきりなしに飛んでいる
浦田残存部隊も何処にいるのか分からない。少なくとも日本に潜入しているはずだが、何処にいるか分からない。終末宗教団体は崩壊したため、何処かの組織が支援しているらしいが、誰なのかは不明である
一応、中核派らしき組織とそれを指示している政党が支援してるらしいが、警察が何とか対処しているらしい
時雨はそんな事を考えながら会議室を出たが、柳田が声をかけた
「時雨、ちょっといいか? 後は提督も」
時雨は反応した。柳田は真剣な表情をしていた。周りは、特に優子は心配していたが、教授は気がついたのか慌てて言った
「心配するな。ちょっと君の狂犬病についてだ」
「分かった」
柳田教授の思惑に気がついた時雨は、話を合わせた。何かあるらしい
時雨は優子に目を向けたが、優子もやれやれといった感じで頷いていた
他の人には言えない何かなのか?
大本営
元帥は忙しかった。浦田残存部隊や浦田結衣の深海棲艦に加えてロシア軍との対応もしないといけない
空爆は千歳の航空隊の奮闘のお陰で撃退出来たが、根室に上陸を許してしまった。上陸部隊の兵力もそれなり多く、手強いと聞く
しかし、北海道に駐屯している部隊が奮闘しているので今は持ちこたえている
また、元帥は元関東軍の部隊を送り込んだ。元関東軍は浦田重工業が崩壊したことで南満州鉄道を奪還という主張が日々強まっている。また、日露戦争の影響かロシアを仮想敵国としているため再び大陸進出といった話が上がっていた
なので、元帥はロシア軍が北海道侵攻を聞くや否や元関東軍やそれに同調する者達を送った
「ちょ、ちょっと待ってください! 我々は大陸進出と南満州鉄道の奪還に──」
「安心しろ。南満州鉄道は既にロシアに占拠され、中国軍と激突している。その案は非現実的だ」
陸軍中将は反発したが、現状を知らせるや否や蒼くなった
これでは南満州鉄道奪還の悲願が達成されなくなったのではないか! 浦田社長と浦田重工業のせいで関東軍の幹部のほとんどはやられ南満州鉄道は中国に返還された。事件も明るみに出たお陰で世論から袋叩き叩にされた。あの厄介な浦田重工業が崩壊と思ったら今度はロシア軍が北海道侵攻? しかも、核兵器とかいうぶっ飛んだ爆弾の接収のため?
「なあ、君。日本は過去に日露戦争で勝ったんだ。先人たちが必死の思いで戦ったのを無駄にするつもりか? ロシア軍は来ている。君のような部隊は、北海道に侵攻してきたロシア軍を追い返してくれるのだろう?」
「い、いえ。我々は──」
「ではどっちがいい? 9カ国の連合軍を倒した不明戦艦『デビル』である浦田結衣と戦うのとロシア軍の侵攻を阻止するのと何処に潜伏してるか分からず生物化学兵器を所有している浦田残存部隊を捜索するのとでは?」
陸軍中将は真っ青になった。折角、浦田重工業の魔の手から命からがら逃げた石原莞爾と亡くなった板垣征四郎の想いを受け継ぐ事が出来ないのではないか!
しかし、元帥は中将が何を考えていたのか分かっていたらしく皮肉を込めていった
「元陸軍中将である石原莞爾のお膳立てはいい。負傷して除隊し隠居しているだろうが、関係ない。後日、私がキツく言っておく。それはそうとして、私が言いたいことは1つ。──さっさと北海道侵攻してきたロシア軍を追い出せ! どんな手段を使っても構わん! 実力を発揮する良い機会だ! 部隊を編成して歴史に刻むような英雄になって来い! いいな、これは命令だ!」
その後、中将と中将の部隊は元帥が用意した輸送機に押し込むとさっさと北海道へ送り込んだ。中将は兎も角、部隊は士気旺盛だったので別に良いだろう
皮肉なことに浦田重工業のお陰で武器兵器は進歩し満州事変は起こっていないのだから旧史のようなノモンハン事件や満州のソ連侵攻のような一方的にやられることは無いだろう
尚、戦場では銃声砲声や爆発音などが響き渡る中、「ウラー!」や「天皇陛下万歳!」といった叫び声が響き渡ったとか
「……今のところ、ヨーロッパで大爆発した、という話は聞かない。取りあえず、最悪な事にはなっていないだろう」
『済まない。同志たちが迷惑をかけた。在日ロシア大使館に聞いても知らない、本国と問い合わせている、とばかりしか言わなくて』
元帥は電話の対応をしていた。ここのところ、電話がひっきりなしにかかってくる。めんどくさいものでも、慣れれば問題ない。だが、今回の電話はいつもの仕事の電話ではなかった。呉鎮守府にいるロシアの艦娘ガングートだった
ロシアがまさかこんな事をするとは思わなかったのだろう。博士と例の教授、柳田の話によるとロシアは最大級の水爆を作ったのではないか、と指摘されたのだ
データをみたが、内容は兎も角、威力の数値が信じられないものだったため一瞬、思考停止状態に陥った
ただ流石に核爆発は派手なものだから、隠蔽することは難しい。核攻撃が成功したら直ぐに耳に入るはずだ。未確認だが、ロシアの爆撃機はヨーロッパ連合軍が全て撃ち落としたとみて良いだろう。ロシアが諦めるかどうかは別だが
『私が極東ロシア軍を説得します。北海道へ行かせてください』
「いや、君たちは浦田結衣と深海棲艦を相手にしろ。どのみち、現場のロシア指揮官も君達の言葉なんか耳を貸さないだろう。もうマトモに戦える者は少ない。今は耐えてくれ」
元帥は電話を切った。外交はあの外務省に期待するしかないが、今は侵攻するのを阻止するまでだ
「元帥、お電話が入っていますが、その──」
「繋げ」
部下が慌てて入ったが、元帥はなにも聞かず受話器を取った
何か重要人物らしいが、誰だろうと知ったこと事ではない。政治家や他の部署からだろうが、相手は兎も角、話の内容は知れている。流石に総理大臣に対しては失礼ないようにしたが
しかし、電話の相手は意外な人だった
『元帥か! 私だ、助けてくれ!』
「大臣? 今何処です?」
『分からないが、周りに頭に角が生えた白い女の人に多数囲まれて……何とか電話するのを許されたんだが……その……」
聞いたことがある声であったため相手が誰か分かったが、震え声のため何を言っているかサッパリだ。しかし、電話越しに聞こえてくる声を聞こえてきたため状況は容易に把握できた
『コイツ、ドウスル? ヤッパリ殺スカ?』
『戦艦水鬼改ノ命令ヨ。交渉二使エル』
『コイツ、面白クナイ。帰ッテホシイ』
『ポッポ、我慢シテ』
『湾港棲姫、甘イ対応スルト奴等ハ付ケ上ガル』
受話器から聞こえてくるのは深海棲艦の姫級らしい。どうやら、国防大臣はパラシュート降下で命拾いしたものの、降りた所が深海棲艦の隠れ家だったらしい
そして、海底ケーブルを通して電話してきたのだ。どうやって接続したかは不明だが、深海棲艦のボスである戦艦水鬼改がやったことだろう
元帥は推測し、今度はわざとらしく言い始めた
「良かったではないですか。今から深海棲艦と交渉するために呉鎮守府と話して来ます。待ってて下さい」
『呑気な事を言わないで早く救助隊を送ってくれ。ここは酷いところだ。周りは海と野蛮な深海棲艦と殺気を出している女共ばかり』
国防大臣は頼むように言ったが、元帥は呆れて電話を切った。既に逆探知した、と部下が仕草で教えてくれたからだ。どのみち今すぐ救助隊なんて送れない
「国防大臣が大変ご立腹のようだ。海外の艦娘3人と輸送機に乗っていた搭乗員が行方不明だというのに、よくまあ電話してこられたものだ。太平洋にある島……トラック島から」
トラック島はかつては日本海軍の拠点だったが、深海棲艦が現れ占拠されてしまった。軍にとっては屈辱的であった
(しかし……浦田結衣は深海棲艦を全て支配下にしたわけではないようだな)
本当に深海棲艦が浦田結衣の支配下に置かれていたら、国防大臣の身柄が武田の手に渡っているだろう。交渉材料として使うはずだ。それがないと言うことは深海棲艦は一枚岩ではないということだ
「海軍大将を連れて来てくれ。艦隊を有効に使う」
元帥は部下に命令を出した。こちらも何もしないわけには行かない
硫黄島
ガンビアベイとイントレピッド、そしてゴトランドは敵基地の中に侵入した。警備兵をゴトランドの催眠術で眠らせて無力化し、監視カメラの目をすり抜けて中に入る
厳重かと思いきや、意外と兵警備兵が少ない。島であるため、兵士をそんなに配置していないのか、それとも今は留守なのか……
ただ滑走路と格納庫にはF-14が5機並んでおり、整備員が作業をしている
ガンビアベイ達は敵の施設に何とか入った。電気は通っているらしく、廊下には明かりがついているだけでなく、空調機も回っている。古い施設を改装したのだろう
「警備兵が異常を察知する前に早く情報収集とトムキャットの奪還を」
「イントレピッド、それは無理です」
イントレピッドは慎重に進むが、人が思っていたよりも少ない
居たとしても1人か2人だ
「手薄ね。もう直ぐ通信室まで着くというのに」
司令部らしき所は分かるが、流石に人はいるだろう。その前に通信室で何か分かるはずだ
だが、人はいた。マイク越しでやり取りも聞こえる。ガンビアベイ達は耳を澄ませていた
『計画変更だ。東京の国会議事堂の占拠は後回し。呉鎮守府を再び襲撃する』
「F-14の弾薬と燃料は貴重です。国家中枢を叩くべきでは?」
『結衣の話だと、リリとかいう機械人形が来た世界からある天才科学者がいて、死者蘇生する方法を知ってるらしい。これで、五年前に亡くなられた浦田社長を初め他の者も蘇られる』
「となると、ピンポイント爆撃するのがベストですね。生物化学兵器で何とかなりませんか?」
『無茶言うな。風向きに左右される不確定な毒ガス兵器は限定的でしか使えない。それにあの天才科学者はエボラウイルスを治療出来る腕を持っている。……古い戦法でやる。結衣の脅迫も内部分裂はほとんど起こらなかったようだ。ロシア軍が侵攻しているのも良い機会だ。よって、攻撃して奪い取るまでだ』
「分かりました。直ちに爆撃準備にかかります。それに結衣の手土産もうちの科学技術部門の人は喜んでいました。こちらにも奇跡が起こるかもしれません。武田さん、ご武運を」
通信士は無線を切ると通信室から出ていった。ガンビアベイ達は隠れていたため、見つからずに済んだ
しかし、今の通信内容はヤバい。再び呉鎮守府が攻撃される!
「F-14を破壊しましょう」
「ダメよ! あれはステイツのもの!」
ゴトランドの提案でイントレピッドは大反対した。本当はあのF-14は並行世界のイランのものだが、そんなことをイントレピッドは知らない
「どうしよう」
ガンビアベイは悩んだが、浮き輪さんがかけよりガンビアベイの服を摘まむと引っ張り出した。しかも、別の廊下に指を指しながら
「What? どうしたの?」
ガンビアベイはゴトランドとイントレピッドの言い合いを無視して浮き輪さんに付いていった
廊下を歩いていたが、直ぐに地下室へ繋がる階段がある。立入禁止区域とあるが、浮き輪さんは無視して入る
階段を降りるが、降りる度に薄暗くなっていく
電気はついているが、裸電球であるため視界が悪い
「浮き輪さん、ここは何?」
浮き輪さんは何も言わず階段を降りると1つの頑丈な扉にたどり着いた
鍵がかかっているらしいが、浮き輪さんが解除したのだろう
どや顔で「俺が解除したぞ」と言う風に小道具を見せていた
ガンビアベイはお礼を言いながらドアを開けると、思わず鼻を手で覆った
腐敗臭と微かだが血の臭いがする。地下牢らしいが、薄暗いため何があるのか分からない
「メーデー……メー……こ──はUSSの──バト──ップ……サウ──コタ……誰か……」
不意に呻き声が微かに聞こえた。独り言のようでボソボソと聞こえたが、USSと聞いてハッとした
慌てて駆け寄った。床に何かいたが、それが誰なのか分かった
「サウスダコタさん! サウスダコタさんですか!」
「その声……ガンビーか?」
「今助けます! よく無事で──」
ガンビアベイはサウスダコタが生きていた事で喜んでいたが、近くまで来て驚愕した
居たのは見慣れたサウスダコタの姿ではなかった
左腕は無く、右足は折れている。そして、打撲傷が至るところにあり、顔も晴れ上がり、髪もボサボサだ。着ている服は血まみれで艤装は変形し屑鉄と化していた
「ミットもない姿だよな……ワシントンの奴に笑われてしまうよな」
余りの酷さにガンビアベイは悲鳴を上げたが、悲鳴を上げる前に誰かが手をガンビアベイの口を塞いだ
「大丈夫。私よ。居なくなったと思って心配していたら貴方の浮き輪さんが呼んできて来たわ」
どうやら、イントレピッドが応援に駆けつけたらしい
ガンビアベイは安心したが、サウスダコタは違った
「ガンビー? おい、何処だ? 頼む。私を置いて行かないでくれ。もう嫌だ。あれはいやだ!」
サウスダコタは怯えていた。怯える姿を見たのは初めてだろう。そして、あることに気がついた
「サウスダコタ……貴方……目が見えてない?」
「イントレピッド? お前もいたのか。……奴が私に強烈な赤い光か何かを目に当てられて見えなくなってしまった。それ以来ずっと闇の中で怯えていた」
サウスダコタは安心したかのように話したが、イントレピッドはそれどころではなかった
(レーザーを使って失明させた!? そんな!)
イントレピッドは唖然とした。敵はレーザー砲を持っているのだから出力を抑えて失明させるくらいのレーザー光を照射することも出来る。ニューヨーク防衛戦で兵器を破壊にしか使っていないため失明用に使わないだろうと思っていたが、まさか本当に使うとは!
おまけ
元帥「もしもし、提督かね。実は国防大臣が深海棲艦に捕まっているから艦娘を出して欲しい。あー、急ぎではないぞ。少しでもダメージを受けたり、疲れたりしたら帰投させても良いから。ホワイトで行こう。ホワイトで」
提督『分かりました』
国防大臣「お前ら、助ける気ないだろ!?」
おまけ2
ガンビアベイ「敵基地に乗り込むなんて無謀です。不可能です」
イントレピッド「そんなことはないわ」
イーサン・ハント「そうだ。任務において
ガンビアベイ「いや、誰?」
スネーク「潜入任務は大事だぞ。ところで麻酔銃とダンボールは?」
ゴトランド「麻酔銃は無いですが、催眠術なら使えます」
スネーク、イーサン・ハント「「よし、ミッション開始だ!」」
ガンビアベイ「あれ?これはミッションだったっけ?」
核兵器は難しいです
政治面を除いても仕組みや内容がね……