時雨の緊急任務 ~リベンジ~   作:雷電Ⅱ

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こんにちは、お盆でゆっくりとしていた雷電Ⅱです
といってもコロナ禍で、しかも天気は雨ばかりであったためほとんど外出はしていないのが現状です
昔みたいにリフレッシュは出来ないと思うと残念ですが、仕方ありませんね


第45話 生還した者

 厚木基地

 

 厚木基地ではひっきりなしに偵察機や哨戒機が飛んでいた。連合軍を壊滅的にした不明戦艦『デビル』……浦田結衣の捜索である。深海棲艦も見かけない。時折、駆逐イ級や空母ヌ級、たまに潜水カ級を見かけたが、こちらを攻撃しない。爆雷や爆弾を投下しても嫌な顔をするだけで逃げる始末だ。司令官は敵が攻撃をする場合のみ反撃するよう命令を出した。ここで貴重な弾薬や燃料を使うわけにはいかない

 

 内閣は相変わらずだが、大本営の統合参謀長である元帥の指揮のお陰で軍は機能している。但し、国民は都市部から田舎へ競って逃げようとしてるためパニックが起こっている。警察も五年前のパニックが再び起きた事にはウンザリしていたが、やらなければならない

 

 そんな中、1機の輸送機が着陸した。6発の爆撃機富嶽の輸送機がアメリカから高高度で飛行して着陸した

 

 降りてきたのは3人である。アルベルト・アインシュタインとハンス・カムラー、そしてセルゲイ・パーヴロヴィチ・コロリョフである。彼らが日本に来たのは亡命である。というより、安息の地は他に無かったからだ

 

 連合軍がニューヨーク防衛戦に敗れ更に核攻撃が効かなかった時、各国の指導者や軍の司令官から高威力の核兵器製造を要求してきた

 

 軍や国の役人が要求したからといって彼らは不満はない。仕事なのだから。問題は依頼内容である

 

「世界中からウランをかき集めて大量の対深海棲艦用兵器である原子爆弾と水素爆弾を造る。ロケットや特殊航空機(ハウニブ)に乗せて奴を攻撃する」

 

 その内容を知らせた時、アインシュタインは目眩を覚えた

 

 何故、そんな事をしなければならないのか問い詰めたが、返事は信じられない内容だった

 

「大量の核爆弾を『デビル』に40分以上の断続爆撃をすれば、『デビル』である浦田結衣の再生能力や防御力を上回り、奴を完全に抹殺できるかもしれない」

 

 そのような話が何処からか持ち上がっていた。しかし、出所を聞いても誰も分からない。それどころかこの説を誰がどんなデータを基づいて出したのか不明だ

 

 だが、連合軍の将校や欧州数ヵ国の国のトップはそんな話を真面目に受け止めているらしい。ロシアはその1つかもしれない。極秘裏に開発していたのであろう核兵器の実験という目的でつもりもあるのだろう

 

 欧州軍は必死になって抵抗し何とかロシア爆撃機を撃墜したが、今度はアメリカでも核攻撃しようという話が持ち上がっていた。南米のコロンビア帝国との戦争で蹴りをつけたいために使う話も持ち上がっている。聞いた話だと原爆を使用する者とそんなものを使わなくてもケリをつけられると主張する反対派で対立している。ただ、反対派は原爆の非人道的であると主張しているはいるものの、内心でパナマ運河を守るためだ。人は人命よりも国益、つまり金が重要な時もある

 

「仮に核爆弾を大量に使って勝ったとしても放射能汚染で人が住めなくなってしまいます」

 

 アインシュタインは警告したが、米陸軍の大将は真顔で答えた

 

「大統領は既にゴーサインは出している。我々の任務は人類の敵を核の炎で焼却することだ」

 

 アインシュタインと他の2人は青ざめた。とても正気とは思えなかった。大統領が自殺したため、副大統領が大統領になったと聞いていたが……また過ちを繰り返すのか? 

 

 だが、愚かだったのはアインシュタインだったのかも知れない

 

 深海棲艦を利用した軍事技術がある1人の女性に奪われ目的のために深海棲艦を乗っ取り暴れまわっている。戦争、難民、食料危機、人類同士の内戦……追い詰められた人類に正気など残っていたのかと

 

 軟禁状態にされ研究を強要されるのは明らかだ。日本大使館と密かに連絡を取り亡命した。聞いた話だと生物兵器を受けた艦娘は、克服出来たと聞く

 

 まだ正気な人はいるだろう。ロシアと戦争になっているが、ロシアの地上部隊は日本軍に包囲されていると聞く。降伏するのも時間の問題らしい

 

 しかし、迎えに来てくれた日本の元帥からは信じられない事を聞かされた

 

「首都東京を囮にして時間を稼ぐ? 広島で決戦?」

 

「やむを得ない。向こうは何か有効な作戦や兵器を開発したと聞かされた。今ではこちらに力を注いでいる」

 

 元帥の説明を聞いて眩暈がした。ここでも核開発させられるのかと思うと肩を落とした

 

 だが、元帥は見抜いたのか安心するように言った

 

「心配しなくていいです。強要はさせません。こちらも易々とやられるような存在ではないので」

 

 街の道路には至るところに兵器が配備していた。戦車、迫撃砲、榴弾砲、そしてパラボラアンテナがついている変な機械があった。それはトラックで牽引しており、作業員が引っ切り無しに機器類をチェックしていた。レーダーかと思ったが違う

 

「あれは対深海棲艦パルス砲です。登戸研究所が開発したZ兵器……殺人光線です。まあ、名前はまだ正式には決まっていませんがね」

 

 元帥は説明していたが、三人は興味津々だった。光線兵器はガセかと思っていたが、まさか本当にあったとは。但し、浦田結衣には効かなかったらしいが

 

 アインシュタインが日本軍の兵器を眺めていると、部下らしき者が駆け寄り何かを話していた

 

「イージス駆逐艦『あいづ』と『あこう』が出航しました。呉鎮守府が要請していましたヘリも輸送済みです。呉近郊に保管していたため、すぐに届きます」

 

「浦田重工業から鹵獲した貴重な兵器だが、出し惜しみは無しだ」

 

 元帥へ頷いたが、三人は首を傾げていた。日本が発展したのは浦田重工業のお陰だと聞いたが、なぜ浦田重工業は暴走したのだろうか? 

 

 今は無理でも何時かは聞いたいものだ

 

イージス駆逐艦『あいづ』と『あこう』は呉鎮守府へ急行した。弾薬やミサイル、そして重油もたっぷりある。目的は呉鎮守府の援護である。どうやら、浦田結衣を対抗出来る兵器や戦術に目処が経ったらしい

鹵獲した軍艦だが、今はそんなことを言ってられない。幸い操艦やシステムは浦田重工業のエンジニアや関係者から聞き出せたため問題はなかった。兵器も共食い整備はあるものの、何とか稼働している

「本当にあの化け物を倒せると?」

「関係ない。来年があるかどうか分からないから出し惜しみ無しだ」

艦長と副艦長はやり取りしていたが、ソナー室から何かを探知したとの事だ

「深海棲艦かも知れない。攻撃準備」

艦長はそう命じた。無事に呉鎮守府に着けばいいのだが

 

 呉鎮守府・工廠

 

「本当に大丈夫なのか?」

 

「そんなに信じられないのか?」

 

 武蔵は赤く光るを恐れるように言い、柳田教授は呆れていた。このやり取りは既に四回目だが、やはり信用していないらしい

 

 赤く光る釘に当てられた艤装はゆっくりとだが、変形はしている。まるで生き物のようだ。工廠妖精も興味津々で眺めている

 

「優子さん、本当にあれは大丈夫?」

 

「……少なくとも危険物質ではないから安心してもいいと思う」

 

 時雨は優子に質問したが、彼女も困惑している。鹵獲したヘリは数時間後に届くらしい。何でも近場で保管していたらしい。研究用に使っていたらしく、メンテはある程度はしているとの事だ

 

 本人は問題ないと主張している

 

「優子さん、聞いていい。……父親を連れ戻すためだけにこの世界に来たわけではないよね?」

 

「ええ。吉川海将と顧問である長谷川……パパの親友なんだけど、ブラックホールの特異点のデータを持って帰ってきて、と言われたの。アイツの事だから観測しているだろうって言ってたけど」

 

「その特異点とやらは重大なものなの?」

 

 時雨はついついた。特殊な大改装を知ってるのは時雨、大和、武蔵、博士、提督だけでなく明石と柳田の親子である

 

 情報共有として提督が知らせると言ったが、意外にも娘は分かったと言っただけだ

 

「私も詳しいことは分からないけど、重力を操れる鍵をパパは持っていると睨んだの。ブラックホールの特異点は物理法則は通用しない。だけど、もし人類が重力を制御出来れば航空機の発達だけでなく宇宙船も宇宙開発も一気に進むの」

 

「君たちの国のためなんだね」

 

 時雨は納得した。得のしない仕事なんてほとんどの者はやらない。特異点がどんなものかは知らないが、彼女の世界にとっては国益も絡むものなのだろう

 

「だけど、この戦いに参戦したのは私の意志よ。むっちゃんにも言ったけど、私はパパとは違う。違う世界だけど国を守るのが仕事なんだから」

 

「そうなんだ。安心した」

 

 時雨はホッとした。柳田教授がどうであれ、娘までも性格が歪んでいるかと思ったが、そうでもないらしい

 

 恐らく、ある程度は誤魔化しているのだろう。提督がよくいう「ばれなければ全て良し。但し、法を反しない程度に」とよく言っていた。嘘も方便というか、柔軟性があるというか

 

「そう言えば、ヘリを操縦出来るって聞いたけど」

 

「そうよ。送られてくるヘリはSH-60ね。古いタイプだけど、操縦は問題ないと思う。ただ、SH-60は戦闘機ではないから無茶は出来ない。レーザー兵器がある以上、近寄れない」

 

 優子は考えるように言ったその時、鎮守府が突然、激しく揺れた。地震かと思ったが、ドーン! という不気味な音と元に工廠の窓ガラスが割れた

 

「なんだ!?」

 

「攻撃か?」

 

 提督と武蔵は同時に叫んだ。艦娘の悲鳴まで聞こえたのだから、これは地震ではない

 

 時雨は即座に反応した。窓ガラスは割れていたため、時雨は窓から飛び出して外に出た。外に出るにはドアから出て! と明石が抗議する声が耳に入ったが、時雨は無視した

 

 時雨の目に入ったのは、眩い光だった。稲妻に似ているが、今日は快晴で雲1つない

 

 異常現象か? 

 

 

 

 数十分前の硫黄島

 

「早く走って! ガンビアベイ、そっちじゃない!」

 

「ひぇー!」

 

 イントレピッドはガンビアベイとゴトランドを叱咤しながら駐機場へ走っている

 

 今は敵兵に追われており、銃弾の雨が襲いかかっていた。尤も、ガンビアベイ達は艤装を盾にしながら銃弾をかわしている。敵兵士が少ないのも幸いだろう

 

「でも、なんでF-14に!?」

 

「いいから!」

 

 半泣きしているガンビアベイにイントレピッドは怒鳴っていた。ガンビアベイはイントレピッドの思惑が全く分からなかったが、イントレピッドの思惑にようやく理解できた

 

「さっさと退いて! これは私の戦闘機よ!」

 

 イントレピッドが持つ艤装の小銃を空に向けて撃った。本来は航空機を発艦するためのものだが、非常用ではあるが実弾も撃てる。3機のF-14を整備していた作業員やパイロットが慌てて逃げ出した。彼等は戦闘員ではないからだ

 

 ガンビアベイ達がF-14に近づくと銃声が止んだ。敵の隊長らしき人が部下に「撃つな! F-14に何かあったらどうするつもりだ!」と怒鳴りながら銃を取り上げていた

 

「こ、ここからどうするの?」

 

「待つ」

 

 ゴトランドは息を切らしながらぐったりしているサウスダコタを卸した。イントレピッドは駐機場の近くになるよく分からない丸いアンテナのような鉄塔を睨みながら答えた

 

 ガンビアベイは何を待っているのか分からない

 

 確かに駐機している3機のF-14を盾にして立て籠るのは良い。しかし、それも悪足掻きに過ぎない

 

 そんな中、 2機のF-14が地上を滑るように滑走路へ進んでいた。別の場所にあったのだろう。腹には大量の爆弾とミサイルが積んでいる。無線室の会話が本当なら呉鎮守府を空爆するだろう。この世界でF-14を撃墜出来る兵器はほとんどない

 

 そんな中、司令官らしき人が拡声器を使って呼び掛けていた

 

「貴様らは包囲されている! 武器を捨てて出てこい! もう何処にも逃げられんぞ! 投降すれば国際法に乗っ取って丁重に扱う!」

 

「信じちゃダメ! 絶対に!」

 

「分かっている。Trust Me(信じて)

 

 サウスダコタはハッとして慌てて言ったが、ガンビアベイを始めイントレピッドもゴトランドも知っている

 

 国際法は確かに決まりごとはあるものの、真面目に従っている国はそんなにいない。国内の法律とは違い、法的拘束力なんて皆無だからである。ずる賢い国は表向きは綺麗事をアピールしながら影でコソコソとやっている

 

「F-14を操縦できないのは知っている! それに呉鎮守府の空爆を止める事は出来ない!」

 

 敵の投降の呼び掛けにガンビアベイは滑走路を見た

 

 2機のF-14は滑走路の端にいた。明らかに離陸準備をしている。ジェットエンジンの轟音が鳴り響いている

 

「わ、私達助かりますよね?」

 

「心配しないで。……戦闘機と一体化したり、丸焼きになったりしたらsorry(ゴメン)

 

「What?」

 

 ガンビアベイはイントレピッドの不吉な事を言ったため、青ざめた

 

「良いだろう! 旧体制のために無駄死にしろ! 全体構え! 撃……何だ、後にしろ! 今は忙しい! 戦闘機なら修理くらい……何だって!」

 

 攻撃命令の号令が聞こえ、ガンビアベイは錯乱しているサウスダコタを抱き締めていたが、何故か攻撃命令が来ない

 

「がンビー、置いていくな。離さないでくれ!」

 

 ガンビアベイはサウスダコタの忠告を無視してF-14の物陰から顔を覗いた

 

 敵兵は銃を持ってこちら向かって一斉に狙っていた。駐機してるF-14ごと攻撃するつもりだったのだろう。敵軍の隊長らしき者が、誰かと怒鳴りあっている。白衣を着ていることから研究員らしいが、ある方向に指を指しながら仕切りに喚いている。しかも、指を指しているのは何故かガンビアベイ達が隠れているF-14ではなく、数十メートル離れた奇妙な鉄柱である

 

 その鉄柱の先から何か火花が上がっていた

 

「……あの小娘は──を起動──がった。操作──されて──止め──い。早く──離れ──丸焦げ──る!」

 

「クソ! 全員退避! 管制──して離陸を──ろ!」

 

 指揮官の一喝で敵兵は慌てて逃げて行った。それ自体は良かったが、ガンビアベイ達が隠れているF-14の周りに濃い霧のようなものが発生していた。いや、自然に発生しているのではない! 第一、霧は緑色なんてしない! 風も段々強くなっている! 

 

「何をしたんです!?」

 

「都市伝説を信じるしかないのよ!」

 

 ガンビアベイは大声で質問したが、イントレピッドも怒鳴っていた。既にガンビアベイ達の回りは竜巻のような暴風で聞こえずらかったからである

 

 ガンビアベイはイントレピッドが何をしたのかは分からないが、さっき通った研究室で何かをしたのは明らかだ

 

 しかし、イントレピッドはさっきの研究室でどんな研究をしていたのかを知っているかのようだった。都市伝説と出てくる辺り疑問だが

 

「何だ? 何が起こっている!?」

 

「分からない!」

 

「飛ばされそうです!」

 

 サウスダコタもゴトランドもガンビアベイもF-14の前輪にしがみついていたが突然、視界が眩い光に覆われた。慌てて目を覆ったが、手を離してしまったためガンビアベイは暴風に飛ばされた。まるで竜巻の中にいるかのような感じである。宙に浮き、電気が走ったかのような痛みが全身に駆け巡ったと思ったら爆音と共に地面に叩きつけられた

 

 何かに頭を強くぶつけガンビアベイは意識を失った

 

 

 

 現在の呉鎮守府

 

 呉鎮守府にいた艦娘達は突然の出来事に大混乱した。運動場である開けた場所であり、幸い人が居なかった事から人的被害は無かった。しかし、何の前触れもなく突然出現した光る竜巻に艦娘達は大混乱した。爆発音がしたと思ったら何かが現れたのだ

 

 騒ぎを聞き駆けつけた時雨は、現場を見て驚愕した。大きな金属の塊のようなものがあちこち散らばっている。炎も上がっており、工廠妖精と他の艦娘が消火活動をしている。辺りは焦げ臭い煙で充満している

 

 しかし、時雨は金属の塊に何処か見覚えがあった。いや、残骸とはいえ姿は覚えている! 

 

「F-14が……トムキャットがなぜここに!?」

 

 アイオワも駆けつけたが、残骸をみて気づいたのだろう

 

 バラバラになっているが、明らかに数ヵ月前、呉鎮守府を空爆したジェット戦闘機だ

 

 今は無惨な姿になっている。ただ1機は無事だったのか原型は留めていたもののコクピットからは出火している

 

 時雨は近づこうとしたが、何かに躓いた。時雨は地面に目をやったが、目に入ったのは人の足だ。足を目で追っていくと身体と赤と青のボサボサな髪が目に映った

 

 人が倒れている!? しかもこの人、左腕がない! 

 

「誰か! 人が倒れている!」

 

 成人した女性であるため、流石の時雨でも抱えて運べない。運ぶのを手伝って貰うようアイオワに頼もうと振り向いたが、アイオワは銅像のように固まっており、倒れている女性を凝視していた

 

 だが、それは数秒だ

 

 アイオワは絶叫した

 

「サウスダコタ? 嘘でしょ! 敵に捕まったってワシントンが──」

 

 アイオワの絶叫に時雨は理解した。やり方は不明だが、敵の基地から逃げたらしい。数メートルに金髪の人と亜麻色の髪をした人と青髪の人の三人が倒れていたが、艤装がついていることから艦娘らしい。何か赤い小さな浮き輪のようなものが、一人の艦娘を引っ張り出そうとしていたが、体格差が違うためびくともしない。だが、時雨はサウスダコタの成れの果てに怒りが沸いた

 

 明らかに拷問を受けたような跡傷がある。刺し傷、打撲傷、銃傷、不自然な折れ方をしている右足、原型を留めていない破壊された艤装……

 

 こんなことをする人はただ一人だ。自分もこんな目に合わされた! 

 

「誰にやられたの!? 浦田結衣にやられたの!?」

 

「誰だ、お前は! 来るな! 嫌だ! 捕まりたくない! ガンビーは何処だ!? 助けてくれ! アイツが来る!」

 

 時雨は安否よりも敵について聞きたかった。本来なら治療が第一だろうが、こんな痛ましい姿をした張本人が知ってる人なら怒りが沸く

 

 サウスダコタは散らばっていた金属の破片や石を投げていたが、どれも変な方向へ投げている

 

「サウスダコタ……まさか目を……」

 

 アイオワは愕然としていた。怪我や大破した艦娘は入渠で治るが、失明した艦娘は治るのだろうか? もしかすると一生……

 

 

 

 残骸の処理は艦娘と502部隊が対処したが、問題は艦娘の方だ。3人の艦娘であるイントレピッドとゴトランドとガンビアベイは日本行きの輸送機に乗っていたが、輸送機は深海棲艦の攻撃によって撃墜。3人は行方不明扱いとなっていた。だが、どうやら生きていたらしい。しかも、敵である浦田結衣に捕まっていたサウスダコタとF-14を連れてきて

 

 イントレピッドやガンビアベイ、そしてゴトランドは医務室で明石が診てもらったが、怪我はあるものの軽傷で命に別状はない。但し、サウスダコタは重傷であるため、柳田教授とターズが診ることになった。手術まですることになり、夕張も手伝うことになった。アメリカ艦娘と提督達は医務室に集まり何があったのかを聞いたが、3人の証言によると硫黄島に漂流したとのこと。硫黄島は敵の基地として活用されており、また捕まっていたサウスダコタを救助すると 駐機していたF-14と一緒に逃げた、とのことだ

 

 しかし、脱出する時に使ったとされる方法に明石も博士も首を傾げた

 

「フィラデルフィア実験? なんです、それは?」

 

「知らないの?」

 

「ワシは噂程度なら聞いたことがあるが、それにしては……のぉ」

 

 イントレピッドは説明したが、明石も博士も顔を見合わせるだけで困惑していた

 

「フィラデルフィア実験って何?」

 

「都市伝説の1つよ」

 

 時雨も困惑していた。逃げた手段が「敵がワームホールか瞬間移動か何かの実験をしていたため、密かに弄り逃げ仰せた」という事だ

 

 イントレピッドは丁寧に説明していたらしいが、時雨は困惑していた

 

 取り敢えず、アメリカ軍の超兵器らしく駆逐艦エルドリッジは透明化したり瞬間移動してり出来たらしい。しかも艦娘ではなく、実物で深海棲艦の姫級を撃破したとか

 

「優子さんは知っているの?」

 

「知っているというより、昔に聞いたことがあるだけ。第二次世界大戦にアメリカが駆逐艦の透明化をする実験をしていた、って聞いた話はある。駆逐艦エルドリッジはフィラデルフィアの工廠で人工的に作り出された磁場の中に置かれた。実験が開始したと同時に緑色の霧が発生して駆逐艦は消え、数分後に2,500kmも離れたノーフォーク軍港にて現れた。しかし、数秒後には駆逐艦は消えて元の場所に戻った。そういう実験*1

 

「でも、そんな軍艦なんて聞いたことも見たこともないよ」

 

 時雨は半信半疑だった。魔法か何かで瞬間移動する軍艦? でも『艦だった頃の世界』では、こんなスーパー能力を持った軍艦なんて聞いたことがない

 

「そうね。これは都市伝説だもの」

 

 優子も困惑していた。聞くと太平洋戦争にてアメリカでは有名な都市伝説の話らしい

 

「浦田残党は都市伝説を信じて研究していた?」

 

「さあ? ただ、駆逐艦エルドリッジはワシントン達が見たと言ったから信じるしかないわ。駆逐艦エルドリッジが透明化したり、瞬間移動したりしたのが本当なら、この世界では都市伝説の話ではなく事実。反重力のようなもので飛んでいた円盤型飛行機もあるから信じるしかない」

 

 時雨はこんな荒唐無稽な話が信じられなかったが、自分自身も見たし、アメリカも超兵器と謳っている。はじめは誇張か何かだと思っていたが

 

「兎に角、研究所で何をしていたかは大体分かった。磁力を利用したワームホールを開発していたから容易に想像出来たから、移転先をここにセットした。時限爆弾までセットしたから使えないはず」

 

「そんなことをしてたの? よく都市伝説通りに金属と一体化しなかったわね」

 

 近くにいたアトランタは呆れていた。実はアメリカではこんな超常現象は割りと好きらしい。イントレピッドは呉鎮守府の緯度経度は分かっていたため、場所をセット。ジェット機諸ともここに転移するよう操作した

 

「でも、都市伝説か現実かは兎も角、誰かの発案か何かでしょ? 何かの実験が元となったとか」

 

 時雨はたまらず聞いた。自分はタイムスリップした経験はある。超技術は感覚が麻痺していたため慣れていたが、都市伝説と片付けられるのは何故か納得しなかった

 

「ウーン……何て言えば良いかのぉ。ワシもそこまで詳しく知らないのじゃが」

 

「元となったのはニコラ・テスラという科学者だ。だけど、本当にやったかは知らないし、眉唾物だ」

 

 博士は唸るように考えていたが、柳田教授がやってきて口頭で説明していた

 

 手術は終わったのだろう。但し、柳田教授が着ている手術衣もターズも血まみれだ。誰の血か容易に想像出来る

 

「サウスダコタは!? アイツはどうなった!?」

 

 ワシントンは柳田教授を見るや否や詰めよったが、柳田教授はこういうのには慣れているのだろう。淡々と説明していた

 

「……ハッキリ言って死んでもおかしくない状況だ。他の医者がみたら匙を投げているレベルだ。艤装で無理矢理生かされた感じだ。取り敢えずはやることはやった。後は本人の体力次第だな」

 

「アイツの目はどうなる? 視力は回復するんだろ?」

 

 ワシントンは柳田教授の肩を掴み揺すったが、彼はワシントンの手を振り払いながら答えた

 

「レーザーで視力が奪われた患者は初めてだ。正直に言って回復出来るかどうか……」

 

『一命は取り留めましたが、今は安静にした方がいいです』

 

 ターズも補足説明していたが、ワシントンは無視して病室から抜け出した。何処へ向かっているのかは分かる

 

「ワシントン……笑えよ。惨めな私の……姿にさ。殴り合いで……負けたなんて」

 

「サウスダコタ……バカ野郎! 何でこんな……」

 

「泣くなよ……目が見えなくなった事で泣いた姿が見えないなんて……残念だ」

 

 ワシントンはサウスダコタの姿をみて涙声になっていた。他の艦娘も見舞いとして来たが、どう接すればいいのか見当もつかない。霧島は無言でサウスダコタの近くにいたが、拳が震えていることから内心は怒りに満ち溢れているらしい。仲間がこんな姿にされたのは初めてかもしれない。あの深海棲艦でさえしなかった。ジャーヴィスがしきりに謝っていたが、彼女は気にはしていない。あの時は仕方ないと割り切っているらしい。だが、姿は無残な姿であることには変わりない。全身包帯巻きで沢山の点滴を射たれている。但し、左腕は再生医療を使ったらしい

 

「失明させた、なんて初めて聞いたよ」

 

「拘束された時雨を助けたときに高速修復材で回復出来た。今度は回復出来ないほど傷つけたな」

 

 時雨は何気なく言ったが、提督の指摘に何故か納得していた。結衣の事だ。今度は失明させれば絶対に回復出来ないだろうと、思ったらしい。それか、単なる拷問を楽しんでいるのか

 

「目は回復出来ますよね?」

 

「……やってみる。正直に言ってレーザーで目をやられた患者は診た事はあるが、今回は初めてだな*2

 

 ジャーヴィスは縋る思いで聞いたが、柳田教授は頭をかきながら言っていた

 

「処で、イントレピッドの証言だと飛び上がろうとしていたF-14にもワームホールを出現させた、と言っていたが」

 

 提督は話題を変えた。聞くところによると2機のF-14は呉鎮守府を爆撃するために飛び上がろうとしていたらしい。しかし、イントレピッドは風向きを考えていて飛び上がる空域にワームホールを出現させるようセットもしていたらしい

 

 しかし、離陸も速い速度で飛び上がるF-14を偶然出来たワームホールを出現させて別の場所に送る、というのは至難の技だ。イントレピッド達が転移出来たのは動かなかったからだ。仮に転移は出来たとしても遠くない場所に送っても基地に戻ればいいだけである

 

「でも、空襲は来ないよね?」

 

「大本営からは超音速の航空機は見ていないと言っているが」

 

 警戒体制はしているものの、F-14が出現しどこかが空爆された、という話は聞かない

 

「しかし電磁力を使った磁気ワームホールか……確かに理論的には可能*3だが……」

 

「ワシらが持つ技術とは違うから成果は不明じゃのお」

 

 柳田教授も博士も唸っていた。こればかりは分からない。その後、2機のF-14は人気がない離れた場所に転移し燃料切れで墜落した、という結論に至った。日本は大混乱になってはいたが、空爆されたという情報はない

 

(気にしても仕方ないけど、飛び上がったF-14は何処へ行ったんだろう)

 

 アトランタと夕立がじゃれあっているのを見ながら時雨は考えた

 

 イントレピッドの思惑通りに何処かへ飛ばしたのだろう

 

 

*1
これはフィラデルフィア実験で起こった現象の内容である。現実では都市伝説なのだが……

*2
現実は「特定通常兵器使用禁止制限条約」の議定書IV「失明をもたらすレーザー兵器に関する議定書」において、レーザー銃の使用は禁じられている。但し、「人道なんて知らん!」と言って対人向けレーザー銃が生産している国が存在してるのも事実である

*3
2015年スペインの研究者が史上初めて小型の磁気ワームホールを作り出すことに成功した。今後の研究次第ではSFのようなワームホールは実現可能……になるかもしれない




日本海軍のイージス駆逐艦『あいづ』『あこう』
スペック
全長:175メートル
重量:基準排水量5,300トン
速度:35ノット
兵装
ハープーンSSM連装発射機 × 2基
単装速射砲×1
Mk.41 mod6 VLS × 90セル
MK15ファランクス20mmCIWS×2
68式3連装短魚雷発射管 × 2基
設定
浦田重工業から鹵獲した軍艦を日本海軍が使用。艦娘と被るのを避けるため平仮名を使用。艦番号は147(あいづ)と148(あこう)
DDG-147とDDG-148である
対深海棲艦用兵器を使用してるため深海棲艦とやりあえる能力はある。但し高価な兵器であるため鬼姫級や戦艦レ級相手との戦闘は避けるよう指示されている
元帥の命令より呉鎮守府を援護する形で出航したが


元ネタ・モデルとなった架空護衛艦(?)
防衛海軍巡洋艦「DDH-147 あいづ」と調べれば一発で分かります(設定によっては駆逐艦になっているらしい)
まあ、あの映画では(それなりに)活躍したし、別世界ではあれに(勇敢に)立ち向かったイージス艦(もどきのの)護衛艦ですからこの作品でも活躍するでしょう
多分
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