時雨の緊急任務 ~リベンジ~   作:雷電Ⅱ

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第5話 護衛任務

 夕立と共に提督室に入ると既に人はいた。長門と陸奥、502部隊大佐と曹長である。あきつ丸もいたそして、見馴れない顔の艦娘がいた。後ろ髪を二房の三つ編みをしており、あきつ丸の近くにいるため陸軍所属の艦娘なのだろうか

 

「来て貰って済まない。山本海軍大将の死は知っているな。明日、国葬が行われるが、大本営から出席するよう言われた。それで──」

 

「ダメだよ!」

 

 提督が何をしようとしているのか分かると時雨は即座に否定した。昨日の警察の事と言い、不安な一面がある。いや、それだけではない。殺し屋がマヌケだったとはいえ、山城が暗殺未遂事件があったほどだ。外出制限はまだされていないものの、外は危険であるという認識が広まり、自主的に外出を控えていたのだ。それなのに、国葬に参列するのか? 狙われる可能性が高くなる。だから、咄嗟に否定したのだ。だが、提督は既に予期しているらしく特に驚いてはいない

 

「どうしてだ?」

 

「今の状態で提督がいないと不味いよ。嫌な予感がする。欠席して祝電を送るだけとか出来ないの?」

 

 時雨は何とか案を述べたが、提督は微かに首を振った

 

「君の不安は分かる。しかし、これは国葬だ。残念だけど、高熱でも出ない限り欠席は無理だ。何事も起きなければ、周りから白い目で見られる」

 

 提督の言葉に時雨は黙った。軍は組織だ。葬儀となれば、余程でもない限りは出席せざるを得ない。それも海軍大将となれば出ざるを得ない

 

「仕方ない。私でも断りきれないんだよ。こんな状況でも『警備の方は心配するな』としか言わない」

 

 502部隊の大佐は補足説明した。陸海軍双方とも同じ状況だ

 

「それで問題は警備の方だが、鎮守府の方は問題ない。艦娘もいるし、長門が代理として指揮して貰う。ただ交戦規定と刑法はちゃんと守ってくれ」

 

「分かった。艦隊の指揮は任せる」

 

 長門は任せとけと言わんばかりの意気込みだ。本人もやる気だし問題ないだろう

 

「問題なのは俺と親父……海軍中将の護衛だ。時雨も知っての通り、『総攻撃派』の連中だ」

 

 提督の言葉に時雨は頷いた。これは半年前辺りから増えてきた思想である

 

 初めは反艦娘という単純な差別的な思想だった。人種差別の1つと言っていいが、人間同士でも差別や偏見はあったため、行動は兎も角あまり危険視していなかった

 

 その思想が大きく変わるようになったのは、アメリカの究極兵器の開発成功という知らせだ。深海棲艦を艦娘の手を借りずに倒す兵器を幾つか開発したらしい

 

 この開発にはアメリカだけでなくロシア、イギリス、ドイツ、フランスも含まれており日本も非公式に手を貸しているらしい

 

 新型兵器の存在は、大半はプロパガンダの代物で実用に疑問がつくものだが、アイオワの予想だとアメリカは史実通り原子爆弾を開発したのではないか? と言った。駐留しているアイオワやサラトガなどのアメリカ艦娘は知らなかったようだが

 

 だが、それは『艦だった頃の世界』の情報だ。第二次世界大戦で実現出来なかった兵器類が、この世界では実現出来たのでは? と提督は推測しているらしい

 

 しかし提督も艦娘も軍の駒に過ぎず、政治的発言が出来る立場ではない。『反艦娘派』は、今では『総攻撃派』と変貌し過激なものに変わっていた

 

 総攻撃派の主張は、「地球環境を度外視して深海棲艦の拠点を圧倒的な物量と火力で総攻撃する」といった内容だ。しかも、根拠なんて存在しない。やり方も過激で、ロシアではソ連時代に秘匿していた化学兵器を躊躇わず使った。ただ深海棲艦に効果があったかどうかは不明である。不明である理由は、散布した地帯一帯が汚染され動植物が死滅したからだ。近くにいた軍も被害にあうどころか、近隣にいた住民までも巻き込んでしまった。ただ、深海棲艦である複数の死体は確認されたらしく、ロシアの新聞では深海棲艦の死体の前にロシア兵が喜ぶ写真が公開されただ。ただ、その深海棲艦はどう見ても駆逐ハ級であるため、鬼や姫級に効果あるのか不明だが。また、化学兵器を打ち込んだ場所が海外の領海であったため、ロシアは正当な行為と主張し謝罪すらしなかった

 

 一方、アメリカは深海棲艦の拠点であるビキニ環礁にて秘密裏に攻撃したらしい。アメリカは「高高度を飛行する新型の爆撃機を使って新型の超巨大爆弾による攻撃をした」と主張したが、現地民やたまたま付近の海域を通った商船や艦娘からは眩い光と巨大なキノコのような雲を見たという。たまたま付近を通っていた遠征していた艦娘がいたが、遠く離れた距離でも奇妙な閃光とキノコのような雲を目撃したという。こちらも同様、核爆弾投下を認めたものの現地への謝罪は全くしていない。ただ後日にアメリカが公開した映像を見た長門やプリンツオイゲン、そして酒匂は真っ蒼になった。サラトガは平然としていたが、内心では動揺していただろう

 

 ……アイオワの助言通り核攻撃を目撃した艦娘達を除染はした。と言っても、未来の世界において米海軍や海上自衛隊などの艦船に装備されている放射能塵除去装置を使用した。装置と謳っているが、シャワーで艦に付着した塵を洗い落とす代物である*1。提督の父親である博士に診てもらったが、異常はなく大丈夫だと言っていた。離れていたため、被曝しなかったのは幸運だった。尚、深海棲艦はビキニ環礁の拠点を別のところへ移したらしく、ボスである戦艦水姫改は健全である

 

 戦艦水姫改は、あの核攻撃を耐えたのか? それとも別個体か。現在のところは不明である

 

 しかし攻撃の成否問わず、アメリカではこの攻撃は成功だと勝手に決めつけ大々的に報じた。米軍も深海棲艦の拠点による原爆投下を収めた映像を全世界に流し、アメリカ国民だけでなく他国の国民も熱狂するばかりだ。大統領選で大統領が変わったことも大きいだろう。日本も同様である。この世界では、浦田重工業の大攻撃のお陰で太平洋戦争が起こっていない。そのため広島長崎の原爆投下という歴史は起こっていない。つまり、『艦だった頃の世界』の日本と違って核廃絶という概念は存在していないのである。世界大戦を止めた皮肉の現象でもあった

 

 こんな事が起こって以来『総攻撃派』という思想は米露を初め、病原菌のようにゆっくりと浸透していった。日本も例外ではなく、そうしたタカ派に似た思想が蔓延していった。マスコミや軍だけでなく政治家達の間も広がり、『平和党』という史実でも存在しない政党が誕生した。平和という文字があるため、平和主義であるが、実際は『人類の敵は全て倒して平和を得る』といった排他的思想の政党だった。禁じられていた『超人計画』を再稼働するよう要請されたこともある。博士も本来の研究を再起動するよう電話や手紙が沢山来て、中には脅迫状まで届いたという。勿論、提督も博士も全て断った

 

「アメリカは史実よりも早くB29と原爆を開発した事もあるのだろう。トップが変わると国も変わる。シンパも増えている始末だ。山城に暗殺を依頼したのも奴等だろう。ただ、今回は殺し屋が間抜けだったから助かったが、こういう幸運は二度も続かない」

 

「山城は不幸と嘆いていたけど。それはともかく、やっぱり提督を狙うんだね」

 

 軍の指揮官を暗殺するのは珍しくもない。第二次世界大戦でも事例は幾つもある

 

 史実では有名なのは海軍甲事件であるが、イギリス軍はドイツの指揮官であるロンメルを殺すためにコマンド部隊を送り込んだが、失敗した。ドイツもチャーチル暗殺するために部隊を送り込んで失敗したのだからおあいこだろう。尤もアメリカは戦後、リビアのカダフィやキューバのカストロなどを暗殺しようとした事もある

 

「まあ、今の俺は艦娘の司令官だからな。テロリストは後先の事は考えていないだろう」

 

「それもあるが、奴等の行動が不穏だ。公安も警戒しているが、頼りになるかどうか。噂では、警察や軍内部もシンパがいて誰が敵なのか全く分からない」

 

 曹長は不機嫌そうに言った。実は最近、『総攻撃派』の考えに同調した市民団体が増えている。学生運動も起きており、警察と衝突する事態まで発展している

 

 取り締まりたい所だが、影が誰なのか分からない。大本営や警察庁は警備を強化すると言ってはいるが……これは当てにしていいのだろうか

 

「だから、一緒に行動して貰う。とはいっても全てを出すわけに行かない。目立って逆に危ない。大佐、部隊を引き連れて親父の警護は頼みます」

 

「了解、海軍中佐どの」

 

 502部隊の大佐は敬礼していたが、時雨は唖然としていた。提督の護りがない? 

 

 提督が口を開く前に提督が、手で制した

 

「言いたいことは分かっている。俺の警護はどうするかって。あんな親父でも階級は中将だ。おまけに軍は上級士官である要人以外の警護は引き受けない。仕方ないさ」

 

 提督は言ったが、時雨も分かっていた。階級が違うのだから仕方ないかもしれない

 

 提督は本来、艦隊司令官の立場なのだが、艦娘は人であるため見方によっては『女性部隊を率いる小隊長』となってしまう

 

 将軍ではない事もあるのだろう。事実、そういう目で見られる声もある。提督は肩書きに過ぎない

 

「だから、お前達も連れていく。時雨と夕立、そして陸奥も行く。後は、そこの神州丸もな」

 

「神州丸って、あの人?」

 

 時雨は後ろ髪を二房の三つ編みをしている艦娘に目をやった。見たことない艦娘なので陸軍艦娘だと分かった

 

 神州丸は時雨と夕立に向き合うと自己紹介をした

 

「陸軍特種船『神州丸』です。統合的な上陸戦力を投射できる、本格的な強襲揚陸艦です」

 

「白露型駆逐艦『夕立』よ。よろしくね!」

 

 夕立は挨拶に応えたが、時雨は驚いた。神州丸はあきつ丸と同じ陸軍の艦娘だった。後で聞いた話だが、502部隊は博士に無理をいって新たな艦娘建造に成功したという。勿論、莫大な時間と資源が費やされたらしいが

 

「神州丸はあきつ丸と同じく陸軍所属の艦娘だ。あきつ丸は親父の警護だから一緒には行けないが、新しく来た神州丸が引き受けてくれた。陸戦も得意だから、任せられる。あきつ丸は502部隊と共に動くが、神州丸はこちらも同行出来る」

 

 どうやら、陸戦が得意とする神州丸も付いていくらしい。まるゆは居ないのをみると外されたのだろうか? 

 

「どうして、陸軍の艦娘が必要なの? 僕らが艤装を纏ったらテロリストを一掃出来るよ」

 

 時雨は疑問に思った。いくらテロリストだろうが、小火器と爆弾くらいだ。こちらは軍艦並みの攻撃力と防御力があるため、やられるとは思わない

 

「確かにそうだろう。だが、国葬が行われるのは東京都内だ。民間人が沢山いる場所で武器を乱射したらどうなる?」

 

 提督の指摘に時雨も夕立もハッとした。駆逐艦の主砲とは言え、あんなものを無闇に撃つと周りに被害が発生する

 

 最悪の場合、艦娘はテロリストよりも凶暴な存在と言われるのがヲチだ。牛刀をもって鶏にを割くようなものだ。これは艦娘だけでなく、軍隊や警察にも該当する。

 

 いくら犯人逮捕のためとは言え、無闇に銃を乱射していいとは限らない

 

「今、明石がコンパクトな艤装を作っている。だが、市内に潜むテロリスト相手をするのは難しい。神州丸は小火器を使うのも得意だからな」

 

「でも、提督さんを護るのは4人だけで大丈夫?」

 

 時雨は不安そうに聞いたが、提督の変わりに陸奥が答えてくれた

 

「大丈夫よ。お姉さんは頑丈だから、弾除けにはなるわ。……流石に沢山の艦娘を連れていく訳にも行かない。観光ではないから。他の戦艦娘も宥めるのに苦労したわ。鎮守府を攻撃するのはテロリストだけではないから」

 

 陸奥の説明に納得した。確かに国葬の時、艦娘を沢山連れてくる訳にもいかない。連れていったとしても、別の場所で待機だろう。また、深海棲艦が隙をみて鎮守府を狙う可能性も否定できない

 

 それなら、主力艦は鎮守府に居て貰った方がいいかも知れない

 

「艦娘のほとんどは町の中で戦う事に不馴れだ。しかも、テロ相手だとな。不正規戦の対応は難しい。軽巡クラスも考えたが、神州丸で十分だ」

 

 時雨は不安がありつつも何とか納得した。相手は敵の軍隊ではなく、テロリストだ。民間人に紛れているのだから、余計に始末が悪い。鶏を割くに牛刀を用いるのと同じで艦娘の武装を容易に使うわけにもいかない

 

「質問が無ければ、解散だ。準備する物は別に追って示す」

 

 会議は終わり、時雨達は提督室から出た

 

「時雨、待って下さい」

 

 廊下を歩いていると、後から神州丸が呼び止められた。神州丸が後から追いかけたのだろう

 

「あなたの事は提督殿から聞いています。何か浮かない顔をしていましたが、何か気になる事でもありますか?」

 

 神州丸は丁寧で、かつ、心配そうに聞いてきた。恐らく、502部隊から時雨の経歴を知っていることだろう

 

「僕は大丈夫。心配があるなら、雨が降らない事を祈るだけかな?」

 

「流石に雨は嫌っぽい」

 

 時雨は何事もなかったかのように話すが、夕立は明日が雨であることに不満だった

 

 因みに明日は曇りらしい

 

「そうですか。……ところで、七戦隊の最上は元気ですか」

 

「ええ……と」

 

 神州丸は時雨の表情を見て安心したのか、笑顔で聞いてきたが、目が笑っていないようにも見える。夕立は神州丸と時雨を交互に見ながらも何を言おうか迷っていた

 

 それもそのはずで『艦だった頃の世界』において神州丸は最上の魚雷で一度は沈んでいるのだ*2

 

 そして、最上は時雨と仲が良い

 

「最上は元気だよ。間違えないでね。敵は最上ではないから」

 

「ハハハ、冗談だ。それでは失礼する」

 

 神州丸は笑い飛ばしながらお辞儀をすると、一瞥して来た方向へ行ってしまった

 

 502部隊やあきつ丸と合流するためだろう

 

「いい艦娘っぽいね」

 

「そうだね……夕立、僕は提督に急用を思い出したから先に部屋に戻っていて」

 

 時雨と夕立は不毛な言い争いがなかったことに安堵すると、夕立に部屋に戻るよう言った

 

 夕立は首を傾げたが、何時もの事だろうと思ったのか不満もなく帰っていった

 

『艦だった頃の世界』では戦っていたが、この世界ではそんな過去は関係ない。艦娘だからなのか、過去を持ち出して批判する輩は1人もいないのだ

 

時雨は明日に備えて部屋に戻る。出撃はないが、準備で忙しくなるだろう。何しろ、仕事なのだから

 

 

*1
実際に米海軍や海上自衛隊などは核を想定してシャワーで艦に付着した塵を洗い落とす放射能塵除去装置が設置されている。最近では放射性物質を濾過するフィルターを装備した換気装置を備えたりしている

*2
その後、サルベージにより戦線復帰




ここで章を一旦切ります
イベントは順調ですね
でも、小説の執筆もしないといけないので両立は難しいです

現在はE2クリアまではいきましたが、シェフィールドを攻略中にドロップしたのには驚きました
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