時雨の緊急任務 ~リベンジ~   作:雷電Ⅱ

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親潮改二も実装されるとは
秋刀魚イベントの事前準備任務があったが、これは一体……


第54話 囮と誘導

 臨時総司令部

 

 命からがら生き延びた元帥は大忙しだった。軽傷ということもあるが、やることが多すぎる。深海棲艦が国防大臣を人質に取って休戦協定にサインしろ、と迫ったからだ

 

 将校達は意見が対立していたが、元帥は結ぶことに決めた。というより総理からの上からの判断によって決められたのだ

 

 国防大臣という人を助けたかったらしい。お陰でテントの中には生き残った閣僚や軍人達の間で口論が繰り広げられ、国防大臣はマスコミの前で深海棲艦の悪口を言っていた

 

「敵は卑怯な手で休戦協定するよう脅された。仕方ないことだ。人命は地球よりも重いからだ」

 

(歴史は繰り返させる……か)

 

 遠くで元帥は呆れていた。人命は地球よりも重いかどうかは元帥自身も疑問を持っている。人の命が尊いと大袈裟に語る人ほど怪しいものだ

 

 確かに命は大事だ。しかし、この場で語るのは場違いだろう。また、人類普遍の価値観を語る時点で大抵正義に凝り固まった人である可能性が高い。そもそも人類全体が納得する価値観なんてない。何しろ、世の中には命より大切なものがあるなんて人も意外といるものだ

 

 元帥は指摘しようとしたが、やめておいた。どうせ、こんな事は相手には分からないし、凝り固まっている相手に説得するだけ無駄である

 

 そんな中、部下から連絡があった。呉鎮守府は不明戦艦『デビル』である浦田結衣と交戦しているという。テレパシー能力は奪ったものの、敵は単艦だけで物量でも押し退けるほどであると報告があったため、もう驚くことはないと思っていた

 

 しかし、元帥は驚くことになる

 

「現地に向かっている地上部隊から連絡がありました。光線兵器の威力は数十秒で鋼鉄やコンクリートでもを溶かすようです。しかも数十キロ離れていても」

 

 射程距離に誤差はあるものの、と部下は伝えたが、元帥にとってはどうでもいい情報だ。科学部門の専門家どころか亡命してきたアインシュタインなどから敵のレーザー兵器については何度も聞き調べていた

 

 大気による減衰、気象現象で左右などと言って勝機はあるだろうと思っていたが、どうやら敵のレーザー兵器はそれらには当てはまらないらしい

 

「そんな化け物を提督や艦娘はなぜ倒せると思うんだ?」

 

 元帥は頭を抱えた。こちらのマイクロ砲よりも高性能だ。どんなに頭を捻っても勝てる手段が見えてこない

 

「やぶ蛇をつついただけでは?」

 

 元帥は呟いたが、今更中止を命じても無駄だろう。東京は火の海に包まれたが、幸い旧史の東京大空襲と違って避難命令は出したから被害は抑えられたはずだ。また攻めてこられたらどうしようもないが

 

 

 

「よし、まだ行ける!」

 

 時雨は結衣に殴り飛ばされたが、SH-60ヘリに乗っていたターズによって奇跡的にキャッチされた。コロラドのように大破していなかったため資源消費は抑えられた。高速修復材を被って全回復すると再び出撃した。出撃した時には既に二十人ほどの艦娘は戦闘不能で簡易ベットで横たわっていた。目をやられたもの、腕や足が変な方向に向いているもの、全身に包帯が巻かれている者……

 

 大半は駆逐艦娘だが、時間経過次第では主力艦である戦艦空母もやられるだろう。明石や秋津洲が治療していたが、多すぎて間に合わない。ニ航戦では艦載機の補充に難航して再出撃が難しいらしい

 

 それに加えて地上戦闘も始まっていた

 

「弾寄越せ! 早く!」

 

「は、はい!」

 

 502部隊は攻めてくる浦田残党の軍団と戦っていた。双方ともバックアップは無いため、空からの援軍は無いものの、銃撃戦が発生している

 

 尚、弾運びは何と海防艦が担当していた。流石に戦艦相手に海防艦が挑むのは無謀だった。そのため、地上部隊の援護という名目で弾薬補充を任されていた

 

「だ、大丈夫?」

 

「ここは佐渡様に任してくれ。時雨はアイツを頼む」

 

 弾運びの最中に転んだ佐渡に駆け寄り起こしたが、佐渡は気にしていないようだ

 

 時雨は佐渡に向かって頷くと海に出た。着水と同時にエンジン全開で現場海域へ向かった。ガスタービンエンジンというものらしく、これは起動すると直ぐに30ノットまで高速に達した。普段なら驚くことだが、今はそんな事は気にしていない

 

 現場海域では既に乱戦だった。艦娘は主砲で撃つだけでなく、接近戦までする者もいた

 

 中には高速で接近して至近距離で砲撃するものもいたが、敵はどれも耐えた

 

 あれだけ倒そうと必死になって攻撃していた長門も陸奥も53cm主砲弾の直撃には耐えられなかったらしく中破してしまった。大和は自慢の装甲で耐えたが、それでも被害はあったらしい*1。51cm主砲は限定的とはいえ、艦娘側にもあるため、53cm主砲弾の威力は容易に想像も出来る

 

 1対多数なのに、敵は有利だ。しかもこちらは防戦一方なのだ。辛うじて空母娘の艦載機の援護があって同等に戦えている。こんなことはあり得るのか? 

 

「アイツはどうなの?」

 

「全然効かないっぽい! 主砲も魚雷もミサイルという兵器も効果ないっぽい!」

 

 時雨は夕立に近寄り状況を聞いたが、夕立は時雨の短時間の戦線復帰を驚くよりも戦況の不利を話し始めた

 

 どれも効かないらしい。たまに大和型戦艦の主砲で敵の艤装が破壊されたが、それらは時間経過で自己修復しているらしい。敵は応急修理女神よりも高性能なダメコンを装備しているのか? 

 

 だが、今はそんな事は気にする余裕はない。結衣が時雨の戦線復帰に感知したのか、 53cm主砲弾が飛んできた

 

「回避して!」

 

 時雨の叫びと同時に2人は瞬時に動いた。戦艦の主砲弾はミサイルと違って誘導しないはずだ。が、敵は以前のように精密な射撃システムを持っているらしく、時雨の上空には七発の主砲弾がレーダーで捕らえられた

 

「生き残って見せる!」

 

 時雨は叫ぶと同時にESSMを数発撃ち込んだ。敵は空母ではないし、空母ヲ級が現れたとしても対処はできる

 

 そう判断したからだ。空中で53cm主砲弾とESSMが空中で爆発し迎撃は成功したが、流石に全弾は落とせなかった。4発来たが、CIWSで迎撃と回避運動で全弾かわすことに成功した。空中爆発と巨大な水柱でびしょ濡れになったが、今はそんな事は些細なことだ

 

『時雨、無事なの!?』

 

「僕は無事! それよりも敵の進路は?」

 

 大和が無線で呼び掛けたが、時雨は即座に返事をした

 

『良かった。聞いて、敵は予想通りキルゾーンに向かっている! 呉鎮守府を砲撃するため! 遠距離攻撃は効かないと判断したらしい。アイオワとサウスダコタが交戦してるけど中破で長くは持たない。駆逐艦と軽巡の大半は大破している』

 

 大和の無線連絡に時雨は青ざめた。砲雷撃戦をしていて損害は全て艦娘なのだ

 

 だが、敵はキルゾーンに向かっている。わざとらしい気もするが、油断しているならこちらのものだ! 

 

「分かった、僕が囮になるよ!」

 

『ま、待て。時雨!』

 

 武蔵は驚いたかのように無線で制止したが、時雨は無視した。駆逐艦が戦艦に勝てるとは思えないが、誘導はできるはずだ

 

 時雨はアイオワと結衣が砲撃しあっている最中にドサクサに紛れて乱入し、魚雷を発射して叩き込み、そして全速力で逃げた。ヒット&ウェイで攻撃したのだ

 

 結衣も予想はしていなかったのか、怯んだ

 

「あの小娘!」

 

 結衣は叫ぶとこちらに向けて攻撃しようとしたが、イントレピッドの4機のF-14と大和が発艦させたF-35Bの攻撃で阻まれた。他の艦載機も時雨を狙わせまいと妨害していく

 

「ステルス戦闘機か……レーザー兵器の前に無力だ!」

 

 結衣はレーザーを空に放ち、空には多数の爆発が起こった。レーザー警戒装置があるとはいえ、レシプロ機ではかわすのは至難の業だった。そして 4機の内1機のF-14は高出力レーザーに貫かれ撃墜されてしまった

 

 皆が中破や大破を食らって戦闘不能になっている最中、時雨は無線連絡をした

 

「提督、敵の進路は予想通り!」

 

『分かった。ガリバルディはシステムに問題がないと言っている。ガリバルディの存在に気づかせるな!』

 

 提督に無線連絡したが、そちらも問題ないらしい。敵がわざとらしい事は提督も知ってはいたが、それも承知の上でやっている

 

「夕立、もう一度やるよ!」

 

「分かっているっぽい!」

 

 夕立はシャークマウスが描かれた黒い魚雷を取り出すと結衣に向けて発射した

 

 現段階では効果は期待できないかも知れない

 

「聞こえているんだろ、結衣! 僕はお前を必ず倒す!」

 

『この私を倒すだと!? 調子に乗るな、この標的艦が!』

 

 敵の53cm主砲が発射された。前回は全力回避か当たらないよう祈るしか無かったが、今はそんなことをしなくていい

 

 ESSMや短SAMの使い方は違うだろうが、今は砲弾を迎撃できる

 

 なので、臆せずに接近出来る。問題はレーザー兵器だ

 

 こればかりは回避するしかない

 

 しかし、そこは軍艦と艦娘の違いが発揮される。大改装による未来のコンピュータやレーザー警戒装置のお陰とはいえ、完璧な身のこなしと切り返しでレーザー光線を見事に躱してみせたのだ。レーザーは彼女を捕えず空を切るばかりだ。凄まじい機動力のお陰で接近し再び魚雷攻撃を行った

 

 

 

「あの小娘が。いい気になるなよ!」

 

 結衣は怒りを露にした。他の艦娘が必死になって攻撃しているが、痛くも痒くもない。なので、本来ならワンサイドゲームなのだが、時雨の挑発で血が登りそちらだけ意識を向けてしまった

 

 また、自分自身の艤装もリリの力を受け継いだとはいえ、限度はある。そのため、体力温存をしていたのだ。

 

 短期決戦で艦娘全員撃沈や呉鎮守府破壊というのも考えたが、それだと世間は、艦娘は英雄と唄われるだけだ。あの提督の演説はオープンチャンネルにしたのだから他の者も聞いているだろう。艦娘が変に祀り上げれば面倒になる。反乱も起こるだろう。武田副社長もその辺りは懸念していた

 

 しかし、実はそれは建前であり、本音は誰であろうと喜んで死ぬのは結衣の美学に反するからである。絶望させて殺すのが結衣のやり方である

 

 そんな歪んだ精神の持ち主だが、好き勝手な考えもあり、未来予測通りに行う事には苦手だった

 

 ニューヨーク防衛戦は面白いくらいに役に立った正二十面体のパズルだが、今では足枷となっている

 

(時雨……いや、皆が一致団結して攻撃してくる未来なんて無かった)

 

 時折、パズルで確認はしたが、その度に未来予測が塗り変わっている

 

「フン……我慢強い人が使える代物か。納得した。なら、私が未来を作ってやる。時雨がやったようにな!」

 

 結衣は艦載機を失い中破しているにも係わらず、斬りかかろうとする改装航空戦艦である伊勢を高出力レーザーに照射した

 

 高出力レーザーは艤装どこらか身体を貫通し、伊勢はそのまま倒れてしまった

 

 接近戦で挑もうとする者が後を絶たず、あの天龍や龍田までも砲弾と魚雷を撃ち尽くしても対空機銃を撃ちながら突進してきた

 

「天龍様の攻撃を食らいやがれ!」

 

「地獄へ送ってあげる。死になさい」

 

 天龍と龍田が刀と薙刀を振り回しながら斬りかかったが、結衣は軽くかわすと高出力レーザーを照射した。2人とも仲良く大破したが、弾薬を使い果たしたのかそこまでダメージを追っていないように見えた

 

「雑魚の顔や名前など一々覚えていない」

 

 結衣は黒焦げになった龍田天龍を見向きもせず、遠くにいる時雨と隙をみたら攻撃しようと臨戦態勢している大和武蔵を睨んだ

 

「どうやら、呉鎮守府を砲弾の雨で降らした方が早いな。あの戦艦水鬼改もレ級も美味しいところを狙おうと隠れたか。ま、どうでもいいがな」

 

 ミサイルは製造はできるが、ハイテクが使われているためそう簡単に量産できない

 

 それに大半は切り札のために資源を使ったのだ

 

「良いだろう。お前達の作戦に乗ってやるよ。未来予測なんてクソ食らえだ」

 

 結衣は呉鎮守府に向けて前進した。その度に周りから砲弾と爆弾の雨が降り始めた

 

 

 

「提督、敵はこちらの作戦に乗ってくるみたいだよ!」

 

『そうか。何であれ、考えている事は録でもない事だろう』

 

「でも、大半は僕達の仲間は大破中破が多くなっている!」

 

 時雨は敵の攻撃を回避しながら悲痛な叫びを挙げた

 

 実際に中破大破を収容し回復させるにも資源はいる。少人数なら問題ないが、この作戦は大多数の艦娘が参戦している。当然のように消費も激しい

 

『分かっている。聞け。やっと援軍が来てくれた。海軍の駆逐艦『あいづ』と『あこう』、それに地上部隊も援護するそうだ』

 

「502部隊の援護じゃないの?」

 

 時雨は疑問に思った。駆逐艦なら兎も角、地上部隊は502部隊の援護をしてもいいはず

 

 しかし、提督の返信はこうだ

 

『いや、今のままでいくと日が暮れる。502部隊も持ちこたえるから大丈夫だ。それに援軍は対深海棲艦の兵器を持っている。敵をキルゾーンまで近づけさせるためにはそれしかない』

 

「分かった!」

 

 時雨は再び敵に突っ込んだ。兎に角、やるしかない

 

 

 

 鎮守府内の通信室には一人の男性がいた。柳田教授はテントに作られた作戦室に居らず、ノートパソコンと機材で浦田結衣の映像を凝視していた

 

「なんだ?」

 

 柳田教授は娘が乗っているSH-60からの映像データに首をかしげた。今は敵の解析をしている最中だ。敵はまるで映画漫画みたいに一騎当千のような戦いだが、時雨が挑発している時だけ映像が乱れた。いや、正確には映像が乱れたかのようなものが一瞬映ったといった方が正しいだろう

 

「ターズ、優子。そちらで何か異変を捕えたか?」

 

『いいえ。レーダーや赤外線にもこれといった反応はありません』

 

『どうしたの、パパ?』

 

 無線からは2人の反応はあった。本来ならこんな会話はあり得ないのだが、周波数は違うため当面は大丈夫だろう

 

「いや、何でもない。機材の誤作動だ」

 

 柳田教授はそう答えたが、本人は納得していない。幾ら頑丈でも飽和攻撃を食らっても無傷はあり得ない。例外という事象はあるが、それは何らかの理由で成り立つはずだ

 

(何なんだ……リリはそんなに頑丈ではなかったはず)

 

 ヒト型ロボットであるリリを生み出した人物は、確かに高性能な機能を搭載したが、攻撃を無力化する機能はないはずだ

 

 そもそも、リリは戦闘用ロボットではない

 

「新兵器か? 僕がやった大改装をしたのか? しかし、SF映画のような兵器なんて生み出せるのか? 僕でも無理だ」

 

 柳田教授は呟いたその時、近くにあった電話がけたたましく鳴り響いた

 

「そうか。携帯電話やスマホが無い時代だったな。──もしもし?」

 

『杉田警部です。柳田教授ですか? できれば提督に変わって欲しいのですが』

 

 柳田教授は受話器を取ると、相手は何と先日に会った杉田警部だ

 

「今は戦闘中で出られそうにない。伝言なら出来る」

 

 柳田教授は短絡的に答えた。事実であるし、今は彼を邪魔すべきではない

 

『では、単刀直入に言います。浦田残党を追撃しないよう伝えてくれませんか?』

 

「理由は?」

 

 柳田教授は紙と鉛筆を取り出すと聞き返した。突拍子の無い事には既に慣れていた

 

『ある情報筋によると武田元副社長は、生物兵器を持っている可能性があります』

 

「何の病原体だ? エボラウイルスか?」

 

 柳田教授は驚きもしなかった。生物兵器のラボがあったのだから別におかしくない

 

 柳田教授が動揺していないのを不審に思ったのか、杉田警部は強い口調で電話越しに言ってきた

 

『敵は天然痘ウイルスを持っている可能性が高いです。実際に天然痘を保管していたケースが大久野島の研究施設跡地に見つかりました。天然痘ウイルスを記載していた資料も見つかっています』

 

 杉田警部はそう言ったが、柳田教授は疑問だった。別におかしくはない。自分が住んでいた世界でも天然痘ウイルスをひそかに保管している国はある。だが、大久野島は軍が調べたはずで、自分も回収された器材や資料も目を通した

 

 軍と警察は仲が良いのか、それとも……

 

 前者なら下らない争いだが、後者は武田副社長は何かしらの行動はしたのだろう

 

 そのため、柳田教授は杉田警部に落ち着くよう言った

 

「それなら、 艦娘も502部隊も大丈夫だ。全員にワクチン接種はさせた。勿論、僕の自作ワクチンだ。政府がワクチンを寄越さなかったから、代わりにウイルス株を持ってくるよう頼んだ。必要ならそちらにも送るよう手配するから待ってろ」

 

『……っ!? 今からワクチン接種をしても間に合いません。それに相手が散布されれば被害は大きくなります』

 

 杉田警部は予想外だったらしく一瞬驚きの声を上げていたが、冷静を取り戻したようだ

 

「天然痘の場合、ワクチンは感染前以外にも感染後4日以内なら効果はあるが……まあ、いい*2。確かに本当に持っていたら不味いだろう。しかし、嘘の可能性もある」

 

『なぜでしょう? 天然痘ウイルスの恐ろしさは貴方でも分かっているはずです』

 

「だからこそだ。天然痘は確かに過去に幾度も猛威を奮った*3。国を滅ぼすくらい力はあるし、後遺症も知っている*4。しかし、持っているという線は薄い。天然痘を研究していたなら大久野島で僕達は、その痕跡を見つけている」

 

 柳田教授の説明に杉田警部は何も言わなかったが、やがて杉田警部の声が聞こえてきた

 

『……本当に見たのですか?』

 

「そうだ。軍医と一緒に隅から隅まで調べたから99%間違いない。どれもほとんどエボラウイルスに関する研究だ。現地の人と見られる遺骨も見つけたぞ。恐らく研究用として連れてこられたのだろう」

 

『分かりました。貴重な情報源有り難うございます』

 

 杉田警部はそう言っただけで電話を切ってしまった

 

「もしもし? ──切られたか。しかし、何で天然痘が出てくるんだ?」

 

 柳田教授は首をかしげた。確かに天然痘は脅威だ。いや、人類は古来からペストや天然痘など数多くの疫病に苦しんできた。しかし、一回感染して生き残った人は同じ疫病には二度かからないという「二度なし現象」は知られていた。ワクチンはこれをヒントに発明された

 

 スペイン人の置き土産でアメリカ先住民が感染しインカ帝国やアラスカ帝国を滅ぼすきっかけとなったが、ワクチンがある時代に天然痘をばらまいたところで戦況は覆せない

 

 また、生物兵器もそれなりの知識や技術は必要である。無計画な気もするし、天然痘ウイルスは恐ろしい病気ではあるものの、ワクチン接種を使った封じ込め作戦を使えば天然痘を根絶するのも容易である

 

 実際に1980年には天然痘を根絶し自然界には存在しないとされている

 

 何処かのバカが生物兵器として使う事もあり得るかも知れないが……

 

(まあ、警察の捜査なんて僕には関係ないな)

 

 柳田教授は電話のやり取りを提督に伝えるため一旦、部屋から出たのだった

 

*1
大和の砲蓋は18インチ砲にも耐えられるような装甲を備えていたが、戦艦同士の砲撃戦の実戦歴がないため実際のところは不明である

*2
天然痘は発症してしまったら治療法は化学療法ぐらいしかない

*3
天然痘の歴史は古くエジプトのミイラには天然痘の痕跡が発見された

*4
治ってもあばたと呼ばれる跡が残ることもあり、一生消えない事もある




柳田教授「何処かの世界線で自衛隊が生物兵器によるテロに備えてワクチン開発のために天然痘ウイルスを持っていたらしいけど、日本も自衛隊も有能だな」
杉田警部「え?そうなのですか?」

※天然痘ウイルスの生きた標本を保管しているのは、世界でもロシアの研究所とアメリカ疾病予防管理センター(CDC)の2カ所だけである(公式には)

「相棒 絶海の孤島」の世界の日本はある意味優秀かもしれない(天然痘ウイルスの入手経路が気になる)

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