時雨の緊急任務 ~リベンジ~   作:雷電Ⅱ

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後段作戦がとても気になる
難しくなければいいのだが……


第57話 演技と無敵の盾

「おい、武田! ここは包囲した! 武装解除して投降しろ!」

 

 曹長は拡声器を取り出して立てこもっている建物周辺を包囲していた。時雨達が海上で浦田結衣を追い込んでいる最中、地上では戦いが終わろうとしていた。浦田残党は武装勢力とはいえ、前回のような戦闘車両を大量には持っていない。密かに借りた五式戦車を前面にして押し返した

 

 尤も、五式戦車も無事ではなく、五台中三台は対戦車地雷や対戦車ロケット砲で大破された

 

 対戦車地雷を除去しなければならないのだが、対戦車地雷の周りに対人地雷まで敷設していたためて作業で除去は不可能であるため進軍を中断する羽目になった

 

 よって、優子2尉の助言によって即席ではあるが、地雷除去装置であるローラーを付けた。これは戦車や装甲車の前方にローラーを付けて地雷原を処置して通路啓開して行うものである

 

 生物化学兵器を持っていたのだから浦田残党は持っているのだろうと考えたのである。尤も、曹長も本気で思っていた訳ではない。また、地雷処置装置も万能ではなくローラーが破壊され宙に舞い上がり、あきつ丸が危うくローラーの下敷きになりかけたことがあった

 

 今では拠点を包囲している。籠城戦をするつもりらしい。時間稼ぎなのだろう

 

 502部隊の兵士たちはそう思っていたが、敵は予想外の事をした。なんと白旗を掲げてやって来たのだ。数人の人が手ぶらで白旗を掲げて手を挙げてやってきた

 

「502部隊、こちらは浦田軍だ。降伏する」

 

「曹長、どうします?」

 

「なんだと? ──撃つな、撃つな!」

 

 予想外の兵士の一人が指示を仰いでいたが、隊長は射撃中止を命じた

 

「隊長、これは罠であります!」

 

「ダメだ。敵を捕らえるのも任務の1つだ。……不審な行為をしたら撃っていいぞ」

 

 あきつ丸は抗議したが、曹長は否定した。尤も、小言では怪しい動きがあれば射殺するよう言ったが

 

 兵士たちが慎重に近づいたが、敵は全く抵抗する様子もない。実はゲリラは正規の軍隊構成員ではないため、戦時国際法に通用しづらい。ゲリラは基本的に徹底抗戦するため、戦争の残虐性が増大しやすくなる

 

 だが、浦田残党は徹底抗戦なんてする様子もない。十数人の浦田残党は502部隊の兵士たちに銃を突きつけながら囲まれた

 

「武田……どういうつもりだ?」

 

「降伏する。それだけだ」

 

「お前は直ぐに諦める人ではないだろうが!」

 

 曹長は武田の胸蔵を掴んだが、相手はされるがままだ

 

「我々は勝ったのでありますか?」

 

「……」

 

 あきつ丸は神州丸に聞いたが、神州丸は何も答えなかった。2人が乗った五式戦車は破壊されたが、艤装のお陰で負傷はしていない。余りにも拍子抜けしたため勝ったという実感が無い

 

 502部隊もその辺りは分かっていたため、警戒していた。しかし、身体調査をしても何も無い。武田からバックを奪い中身を調べたが、生活用品と数冊の本で武器になるようなものは無かった。自爆を警戒したが、それも無かった。小隊長である大佐にも伝えたが、彼も困惑していた。大佐によると浦田結衣を追い詰めており、過剰に攻撃している所だと

 

(本当に勝ったのか? 世界をまた滅茶苦茶にした組織がこうもあっさりと降伏するのか?)

 

 そんな中、一台のパトカーがやって来た。地雷原敷設や戦闘区域を迂回したらしく、損傷はそんなに目立っていない

 

 降りてきたのは杉田警部と鶴川巡査長だった

 

 兵士たちは止めようとしたが、反応したのは何と武田副社長だった

 

「これはこれは杉田警部と鶴川。何の用だ? ガスマスクを持っていないのを見ると天然痘は持っていないと確証を得たから来たんだな」

 

「ええ。警察内部の数名が逮捕されました。おかしいと思ったのですよ。天然痘による専門家の意見が違っているのを。ワクチン接種が効かない可能性もあると主張する者もいました。しかし、呉鎮守府の1人は天然痘の知識はほぼ間違っていなかった」

 

 杉田警部は淡々と語った。浦田残党が天然痘ウイルスという生物兵器を持っていた事で警察も軍もパニックになった。早速、専門家を呼び対策を練ったが、内容が微妙に違っていたからである

 

 杉田警部も天然痘の知識はあったが、僅かに内容が違っていた。些細とはいえ、感染したらワクチンは効かない。治療は隔離するしかないと主張する者が出る始末である

 

 警察の上層部も迂闊に手出しでなかった。何故なら、奴らは呉鎮守府で未知のウイルス兵器(正確にはエボラウイルスだが)を使用したため警戒するのは当然である

 

 頭を悩ませた杉田警部だったが、ある時を境に解決の糸口を見つけた。それは警告するために呉鎮守府に電話したところ、出た相手が柳田教授だったからである

 

 柳田の説明を紙に書き、調べたところ時間はかかったものの間違いはなかった。そのため、内部からの情報かく乱と判断したからだ

 

「今頃、政府機関の内部に潜む貴方の部下は逮捕されているはずです」

 

「そうか。完全に負けた」

 

 武田はそう言ったが、あきつ丸は違った。そんなに簡単に終わる訳がない

 

「何を企んでいるのでありますか。言っておきますけど、その場で射殺してもいいのであります」

 

「それは不味い。法でちゃんと裁かないと」

 

 鶴川巡査長は宥めようとしたが、あきつ丸は無視した。何しろ、仲間に生物兵器を打ち込み、艦娘達が危うく死にかけたのだから

 

「裁く前に教えていただきたい。なぜ、このような事をしたのでしょうか? 何も考えずに攻撃したとは思いません。浦田社長の後を継ぐにしても、別の人生を歩む道をあったはずです。貴方の妻は離婚したらしいですが、偽装工作ですね。そうまでして戦争を引き起こす理由は?」

 

 杉田警部は鋭く言った。曹長も502部隊も黙っていた。何故なら、彼らも知りたかったからである。浦田重工業は崩壊したのに、彼らは何かに取り憑かれたかのように攻撃しているからだ。しかも、計画的だ

 

「そうだな。取り上げられたバックの中に表紙が白い本があっただろ。付箋がしてあるページを開いてみろ。それが答えだ」

 

 武田はそう言うと同時に神州丸は急いで取り上げたバックから本を手にした。どれも下らないものだったが、一冊だけ表紙が白い本があった。糊付けされている事から切って別の紙を貼り付けたのだろう

 

 神州丸は本を開いたが、本のタイトルを見て驚いた

 

『日本史』

 

 慌てて編集者や本を発行した年月日がかかれたページを探したが、西暦2018年となっている

 

「何処からこれを?」

 

「それは浦田社長から貰ったものだ。大切な本だ。浦田重工業が第二次世界大戦を阻止するために起こしたことに手を貸した理由だ」

 

 普通の人なら武田の説明は理解出来ないだろう。しかし、502部隊もあきつ丸も浦田重工業が何をしたのかは分かっていたため、驚くことも無かった

 

「理由? 戦争を起こすまでやることか!」

 

「私が生まれた故郷は広島市だ」

 

 曹長は怒鳴ったが、武田は冷静に、そしてはっきりと言った。神州丸は付箋が貼られているページを開いた。そこは廃墟と化した焼け野原と無惨にも破壊されたドームのような建物が立っていた。そして、不気味なキノコ雲が写った写真も載っていた

 

「1945年8月15日午前8時15分。米軍は広島に原子爆弾が投下された。もし、何もせずアメリカとの戦争に突入したら何が起こっていた?」

 

 武田は淡々と話した事で周りは騒めいた

 

「答えないのならこっちから言ってやろう。何も手を加えていなければ、私は出兵され戦場に行ったかも知れないが、妻子は原爆で死んでいたかも知れないのだぞ! それを避けるためだ!」

 

「そんな事はありません! それは──」

 

「言い切れると思うのか? 国益と科学技術発展のために使わない、と言い切れるのか!」

 

「あなた方は生物化学兵器を使ったじゃありませんか!」

 

「だからどうしたんです? 強力な兵器を持つ相手には、こちらも別の強力な兵器を持つまで。刑事さん、君は戦争を知らない。何も分からないから『暴走』と片付けて現実逃避する」

 

 武田は怒鳴ったが、曹長は口論を止めさせるために間に入った

 

「負け犬の遠吠えはそれまでだ。情報によると浦田結衣は負けているそうだ。君たちもおしまいだ。後で話しは幾らでも聞いてやる」

 

「おしまい? ククク……」

 

 武田が笑った事で皆は身構えた。何かやる気だ! 

 

「武器を持っているなら捨てろ!」

 

「武器? そんなものは必要ない。それよりもお友達の心配をした方がいい」

 

 武田は曹長ではなく、あきつ丸と神州丸に目を向けていた

 

「どういう事でありますか?」

 

 あきつ丸は呟いたが、それはオープンチャンネルで入ってきた無線で知ることになる

 

 

 

 浦田結衣は対艦弾道ミサイルに改造されたポラリス弾道ミサイルが深々と突き刺さっている。浦田結衣は立ち止まま動かない。立ったまま死んだのか分からないため、更に提督は切り札を通過った。基地航空隊から陸攻隊から試作段階である四発爆撃機である連山*1を出した。連山を出した理由は、ある爆弾を運んでもらうためである。それは1.5トンの徹甲爆弾である。但し、これは水平爆撃するため、命中率は低くなる*2ためには敵が戦闘不能、航行不能させる事が絶対条件である。勿論、確率論からして精密爆撃は不可能である。しかし、これは大量に製造したため最低でも一発は命中するはずである

 

 戦艦の装甲や重要区画を撃ち抜くために開発されたものだから、如何に自己修復する能力を持つとはいえ、それ以上の破壊力を加えれば沈めるはずだ

 

 前回とは違い、こちらは相当の火力をつぎ込むことができる

 

 周りは爆炎で視界が不良でも喜びを爆発させていた

 

「やった! やったっぽい! これで村雨と吹雪ちゃんと如月ちゃんの仇を取れたっぽい!」

 

 夕立は時雨に抱き付いた。勝って喜んでいるのだろう

 

「……違う」

 

 しかし、時雨は違った。爆発しているのに、他の深海棲艦と違って撃沈しないからである。どんなに強固な防御力を持つ姫級や鬼級の深海棲艦でも大破撃沈している

 

 しかし、そんな手ごたえを感じない。寧ろ、なぜあそこまで浮かんでいるのか不思議である

 

「艤装ってボロボロになっても機能するものなの? 核兵器でも食らってもピンピンしていたし、明らかに自己修復能力が機能していないのに沈まないなんておかしいよ!」

 

「確かに何かおかしい。五年前と何かが違う。アイツらしくない。こちらの戦術が上手く行ったと言われたらそれまでだ」

 

 武蔵や他の艦娘達も異変に気付き始めた。艤装もボロボロで大破であるにもかかわらず、撃沈しない

 

「核を防ぐなんて何も思いつかない。ミーも分からない」

 

 アイオワも困惑した。接近して逮捕、という手段を起こすものは居なかった。余りにも不気味過ぎたからだ

 

 無線でも困惑した声が聞こえてきた

 

『私のヘリで吊り上げて陸地に揚げる?』

 

『ダメだ! それよりも教授とターズ! まだ分からないのか? 俺の親父も分からないと言っていたぞ!』

 

『センサーをフル稼働しているが、何も掴めない。教授が私のアップグレードしてくれたらいいのですが』

 

『それは嫌味か? 優子、慎重に接近して映像を送ってくれ。……クソ、手掛かりがない』

 

 優子、提督、ターズ、柳田教授が無線でやり取りしていたが、柳田教授は苦戦しているようだ

 

「こ、ここから死亡確認とか出来ないのか?」

 

「心臓を貫いても死ななかった人ですから何とも……」

 

 摩耶は提案したが、鳥海は否定した。下手に近づけば何が起こるか分からない

 

「もう! いい加減、沈んでよ!」

 

 叢雲は癇癪を起こし、手に持っていた槍を思いっきり投げた。投げたのはいいが、槍は手元が狂ったため浦田結衣を掠っただけでそのまま海に落ちてしまった

 

「外したぞ」

 

「わ、ワザとよ!」

 

 天龍は呆れるように言ったため、叢雲は顔を真っ赤にして叫んだが、時雨は見逃さなかった。掠ったところからテレビのノイズのようなものが見えたから

 

「え? 今の何? 幻覚?」

 

 時雨は目をこすろうとしたが

 

「違う。私にも見えた。相棒、アイオワ、見たか!」

 

「Yes、ミーも見たわ!」

 

 艦娘の数人はノイズのようなものを見たらしく、攻撃せずに待った。武蔵もアイオワも息を飲んだ。敵は立ったまま微塵にも動こうとしない。大破したのにも関わらず、海が赤色であることもあって不気味である

 

 

 

 

 

 鎮守府・通信室

 

 通信室には提督の父親である博士と柳田教授が画面を食い入るように見つめていた。

 

「今のを見たか! 叢雲が槍を投げた時に変な映像が映りおった!」

 

「ああ。見た。前にもあった。ノイズのようなもの……何だ?」

 

 博士は指を差し、柳田教授は頭を抱えた。どうやら、通信不良ではないようだ。ターズも確認している

 

 そんな中、通信が入ってきた。SH-60からだ

 

『パパ……大胆な推測を立てるけど……敵はバリアで防いでいるかも?』

 

「バリア? SFに出てくる見えないバリアのこと?」

 

『それしか考えられないじゃない?』

 

「優子。どこかの国は開発して実装した、という話は聞いたことがあるのか?」

 

『無いわ。でも、極秘に作った可能性も否定出来ない。長谷川さんも『DARPAは作っているに違いない』と言っていた』

 

 無線にも関わらず、親子の会話をしているのだから普通は止めに入るだろう。他の艦娘も聞こえているに違いない

 

 しかし、誰も止めに入ってこない

 

「アイツがそう思っている根拠は何だ?」

 

『陸奥さんと一緒に護衛艦『いずも』に載せられた時に覚えている? 陸自の特殊作戦群が透明マント、光学迷彩を使っていたのを。それを見て確信している。確かメタマテリアルとか言っていた』

 

 娘からの無線連絡で柳田教授は、ある記憶を思い出した

 

 

 

 

 

 深海棲艦と柳田怜人が別次元に飛ばされた数日前(別の世界)

 

「先輩、あれを見ました!? 陸自の特殊作戦群が持っている光学迷彩! 間違いなくマテリアルを使った技術ですよ!」

 

 深海棲艦が発生した時、ある事から空母『いずも』に招待された柳田一行だったが、後輩である長谷川 大輝は興奮していた

 

「光学迷彩で身を隠して陸奥にライフルを向ける陸自のバカには興味ない」

 

 柳田怜人は呆れながらも深海棲艦とAIロボットのリリをどうするかあれこれ考えていたが、後輩はそうでもなかった

 

「それで深海棲艦とAIロボットのリリが倒せる訳ない」

 

「違いますよ。あれは使えます。寧ろ、倒せる武器になれるかも知れない」

 

 柳田は呆れていたが、長谷川は何故か真面目な口調に変わった

 

国防高等研究計画局(DARPA)はあるプロジェクトを始めているのです。その名も『市街戦闘用非対称素材』」

 

「済まないが、日本語か分かりやすい言葉を使ってくれ。流石の僕にも分からない」

 

「ああ、失礼。それではゲーム風に言いましょう。その装置があると敵はどんなに撃っても弾丸や爆弾は通らないが、味方の弾丸は敵にあたるバリアです」

 

 長谷川は説明をしだした。結局はボツとなった。間に合わないからである

 

 

 

 現在

 

 柳田教授は思い出した。確かにある。しかし、まさかそんな事が! 

 

「優子、そして艦娘は逃げるんだ! アイツ、どんなに攻撃しても傷1つつかない!」

 

『無理よ!』

 

 無線で警告を発したが、応えたのは意外にも陸奥だった

 

『教授、私は見た。アイツがリンフォン……正二十面相のパズルを持っていたのを! 間違いないわ。教授と同じ手を使っている! 未来予測している! あれを破壊しない限り絶対に勝てない!』

 

 陸奥の無線連絡で柳田教授は思考停止になった

 

 あれを作った? 

 

 

 

 現場海域

 

「おい、どういう事だ! 説明しろ!」

 

 無線の内容は支離滅裂だが、どうやら敵が何をしたか分かったらしい。そのため、武蔵は無線に割り込んで怒鳴る羽目になった

 

「長門、行かせて! アイツが未来予測の止めないと!」

 

「ダメだ、陸奥! 離れるな!」

 

 長門だけでなく、金剛や比叡も陸奥を抑えていた。陸奥がここまで動揺するのは滅多にない

 

『分かった。信じられないかも知れないが、敵は物理干渉出来ない電磁シールドのようなものを張っている!』

 

「「「「「え?」」」」」

 

 時雨だけでなく、他の艦娘達も思考停止状態に陥った

 

『確か『非対称シールド』とかいう奴だ。僕の後輩が言っていた。優子の言う通り、奴はシールドで防いでいる*3!』

 

「そんな事、出来るの!?」

 

 時雨は叫んだ。とても科学技術で実現できる代物とは思えなかった。魔法なのか? 

 

『実現できるかどうかは抜きにして理論的には可能だろう。それに仕組みは違うが、シールドを張って放射線を防ぐ生物も確かに存在している*4。僕の世界では、あんな高出力レーザー砲を実現出来ないが、奴はレーザー砲を開発した。恐らく、リリのデータを使って開発・発展させたんだ。核爆発も防ぐほどに!』

 

「でも、敵は大破していて自己修復していない!」

 

 それが本当なら、なぜ敵は大破しているんだ? 時雨は恐怖で手が震えていた。嫌な予感がした。もしかして……もしかして……本当は……

 

『恐らく、今見ているのはホログラム。つまり立体映像だ。テレビの発展型だといっていい』

 

 柳田教授から回答が来たが、内容は信じられないものだ

 

『ホログラムでダミー映像を流してシールドの存在を隠しているんだ! ターズでも見破られないとなると、相当高度な技術を使っている! 恐らく、奴は──』

 

「あー、こうも早くバレるとは……中々やるじゃないか」

 

 柳田の無線から突然、連絡が途切れた。通信不良ではない! 妨害電波だ! いや、それだけならいい。浦田結衣は喋った? 

 

「そ……そんな……」

 

 浦田結衣が身体を動かしていた。ボロボロだが、まるで何ともなく平然と立っている

 

「まさか……今まで演技?」

 

「そうだ。演技だよ。感想を聞かせて貰えるか?」

 

 浦田結衣は時雨が顔面蒼白になっている事に笑いながら、あるものを取り出して片手で遊んでいた

 

「陸奥は見覚えあるだろうが、こいつは未来予測出来るものだ。即席で造ったためか精度は不明だがな」

 

「何時から……何時からそんなものを使ったの!?」

 

 陸奥は怒り狂っていた。奴は何時から未来予測した? 

 

「米軍の円盤型戦闘機からレーザー砲を受けた後だ。だから、考えたのだよ。私がどんなに強くても不測の事態でやられたら意味が無い。過去の時雨がやったように奇想天外で倒されたくはなかったのでな。それに連合軍がとても邪魔だった。そのため、リリのデータを漁り使えそうなものは作ったのだよ。シールドも未来予測も」

 

 リリの自慢話にイントレピッドなどニューヨーク防衛戦に参加した艦娘は驚いた。だから、ニューヨーク防衛戦以降は無敗だったのか! 

 

「それなら……それならユーは何で回りくどい事をしている?」

 

 アイオワも叫んだが、虚勢を張っているようにも見えた

 

「ん? それは、お前達に希望を持たせるためだからだよ」

 

「希望?」

 

「絶望というのは希望を失った方がダメージは大きいからだ。だから、未来予測を使ってワザワザ戦いやすい条件を探したのさ。あのアメリカ大統領は私を倒せると思ってニューヨークに世界の軍隊を集めた。核攻撃しやすいように在中米軍基地の近くのビキニ環礁で呑気に待っていた。その結果、どうなったと思う?」

 

 これを聞いた艦娘達は愕然とした。どうやら、この女……兵士たちだけでなく、軍や政治家のトップの心をへし折ったのだ。しかも、直接手を下さずに

 

「ロシアの将軍の演説は最高だったよ。勝手に核を使ってヨーロッパを破壊してくれるのだから。まあ、その後はどうなったかなんて興味ないが」

 

「故郷を踏みにじるどころか、人々を狂わせるなんて……我がソ連をよくも──」

 

 ガングートは怒り狂ったが、結衣は鼻で笑った

 

「フン、別に崩壊が早まっただけだ。お前は簡単に沈みそうだ。だから、簡単に沈むなよ。楽しみが無くなるからな」

 

 結衣は軽くあしらうと艤装が変化した。いや、変形したのではない。ホログラムを解除したというのか

 

 ボロボロで大破した姿や艤装が消えていく

 

 無傷だ! いや、それどころか以前よりも武装が増えている! 教授が言っていた通り、ホログラムを使って芝居をしていただけだ

 

「まあ、予想外の攻撃といえば、どこぞのバカ駆逐艦娘がシールドを解除した時に特攻紛いで衝角攻撃した事くらいだ。あの時は本当に痛かったぞ」

 

「そんなの嬉しくない……」

 

 ジャーヴィスは唸ったが、周りはそれどころではない! 

 

「ど、どうします!」

 

「もう弾薬燃料も少ない……」

 

「そんな……あれだけ攻撃しても……傷1つ傷つけられないなんて」

 

「私達は手のひらで踊らされただけ。こんなのってあんまりよ!」

 

 今や艦娘達は絶望の淵に立たされていた。あれだけ攻撃しても敵はシールドで防ぎ、ホログラムで本来の姿を隠した。敵は自慢するために兵器を見せびらかしたりせず、最後の最後まで隠していた

 

 もし、死亡確認のために接近していたら……

 

 時雨はどうしようか迷っていると、不意にレーダーが回復した。妨害電波を解除したらしい

 

「柳田怜人、聞こえているな。リリのデータからお前の事を読んだよ。エボラウイルスにかかった艦娘を治療させた学者か。浦田重工業の復活の手助けをしてくれないか?」

 

「妨害電波を解除するどころか教授を勧誘しているなんて! 何を考えているんだ!」

 

 結衣は妨害電波を解除するどころか時雨達を無視して呉鎮守府の柳田教授と連絡している。時雨は起こったが、相変わらず無視している

 

『そのつもりはない。悪いけど、悪徳企業に入るつもりは──』

 

「こちら側についたら妻とその妹を生き返らせるぞ」

 

 柳田教授は断ったが、結衣はとんでもない事を言い出した

 

『……っ!』

 

「お前は確かに天才だ。だけど、死者蘇生は出来なかった。デザイナーベイビーだろうが、所詮は人間。人間の限界を突破出来なかったからだ。私は違う。私は兄と警備隊長である永田1尉などを蘇らせる。こちら側につけば妻を蘇らせることも出来る」

 

『なっ! パパ、聞いちゃダメ! 無線を──』

 

 優子が慌てて無線を呼びかけたが、結衣は単装速射砲をある方角に向けると発射した。一発だが、その砲弾は遠くに飛行していたSH-60Jに向けていた

 

 優子は直前に回避行動をしたが、砲弾はテールローターに命中。ヘリは錐揉み状態になって落ちいった

 

『メーデー、メーデー、メーデー! ヘリは墜落、墜落する!』

 

「優子ちゃん! ……がっ!」

 

 ターズは緊急用符号語で無線を発し、陸奥は悲痛な叫びをしたが、陸奥の第三砲塔は突如、爆発した。浦田結衣が陸奥の艤装の第三砲塔にレーザー光線を照射したのだ。また、遠くの沖合で爆発がした。イージス艦『あいづ』が炎上していた。エンジンにレーザー砲を照射したのだろう

 

「五月蠅い熊蜂と鉄屑は何時でも倒せることが出来た。娘を捕らえて脅迫しようと考えたが、一緒に載せている機械人形のせいで近寄れなかっただけだ。戦艦レ級や戦艦水鬼改に気づかれずに気を遣うのも厄介だ。だが、もはや演技する必要性はない」

 

 浦田結衣は自身の艤装に手を撫でた。53cm主砲とレーザー砲が鈍く光っている。そんな中、空からロケットが結衣の方へ向かった。イントレピッドのF-14が対艦ミサイルを発射したのだ

 

 イントレピッドはまだ諦めていなかった

 

 しかし……対艦ミサイルは結衣に命中する手前で爆発した

 

「フン、F-14を奪い返しただけでいい気になっているんじゃないぞ、米帝が。それに、お前達。攻撃の手が止まっているぞ。どうした? もう終わりか? もういいのか? もうお前達を残虐な方法で攻撃してしまっていいのか?」

 

「そんな……どんな攻撃を通さない見えないシールド……あるなんて……」

 

 時雨は固まった。教授の言っている事は当たっている。自己修復能力だけでなく、目に見えないシールドがあるなんて

 

 他の艦娘達も動揺していた。駆逐艦娘と軽巡は身体を震わしたり、抱き合って泣いたりしている。重巡も空母も呆然としていた。戦艦娘はまだ闘志はあるものの、戦う手段が残されていない事は分かっていた。しかし、戦艦娘の中で一人だけ反応が違う者がいた。サウスダコタは顔面蒼白になりながら荒い息をしていた。元々、数々の拷問をされた艦娘の一人である。フラッシュバックで恐怖が蘇ったのだ

 

「仕方ない。大和さん、残りの石を使うしかない」

 

「え? ええ」

 

 時雨が提案したせいで大和は、驚いたような反応をした。赤い石は艤装を未来兵器に進化させるものだ。しかし、何かのトラブルで半分しか使っていない。残りは非常用として残している。赤い石を水溶液にして注射器に収めている。教授曰く本人の身体に刺せばいいだけ

 

「かくなる上は……大和、大改装します!」

 

「ま、待て! 大和!」

 

 武蔵は大和が何をしようとしているのか分かり慌てて止めに入ったが、大和の意志は固く武蔵の制止を振り切って右腕に刺し、赤い溶液を身体に注入した

 

 一瞬、大和の身体と艤装は輝いたが、その直後、風船が破裂したような音が響き渡り液体のようなものが飛び散った。その液体は時雨の顔にかかったが、強烈な鉄のにおいがした

 

 手で拭い自分の手を見た時雨は絶叫した。血だ! 

 

「大和! おい、しっかりしろ!」

 

「YAMATO! そんな……It’s a lie(噓よ)!」

 

 武蔵とアイオワが大和に駆け寄った。いや、大和のようなものだった。大和の右半身が潰れており、右腕は完全に消えていた

 

(大改装が失敗すると局地的な重力と時間の力によって死体も艤装も原子レベルにバラバラになるだろうな)

 

 時雨は直ぐに教授のデメリットを思い出した。大和の大改装は失敗した! 

 

「そ、そんな……僕は……」

 

「気に……しないで……これは……私の意志……あなたに責任は……」

 

 大和は奇跡的に生きてはいたが、今は虫の息だ! 身体から血が出ている! 

 

 時雨が呆然としていると、不意に自分の名を呼ばれた。それも浦田結衣からである

 

「時雨、お前は打たないのか? ちょっと大改装で強くなっても私に勝てない。その魔法の液体で強くなってみろ」

 

 結衣はニヤニヤしながら時雨を見ている。こちらを攻撃するつもりはないらしいが、明らかに自滅を狙って言っている

 

「ぼ……僕は……」

 

「どうした? 仇を討ちたくないのか? お前の妹を殺したのは私だぞ? その友達も。誰だったかな? 名前は分からないが、あんまり抵抗するものだからレーザーでザクザクに切り刻んでやったぞ」

 

「村雨と吹雪ちゃんと如月ちゃんをバカにするな!」

 

 時雨は結衣の挑発によって怒りが沸きあがった。結衣はわざと時雨の逆鱗に触れたのだ

 

 そのため、時雨は勢い任せで注射器を自分の身体に刺したが、夕立が時雨の手に持っている注射器を奪い海に捨てた

 

「夕立! 何で!?」

 

「ダメっぽい! 時雨まで破裂するなんて見たくない!」

 

 時雨は抗議したが、夕立は叫んだ。夕立は怒っていたが、目から涙が出ていた。夕立は敵を倒す可能性よりも自分の姉妹の命を優先したのだ

 

 時雨は分かっていた。夕立の行為は正しい。なので、非難するつもりはない

 

 しかし……倒す手段を失った

 

「フン、やってくれたら面白かったのに。まあ、いいか」

 

 時雨と夕立の間で一悶着している間、結衣は生二十面体を握りながら言った。あるビジョンでは、時雨の身体が炸裂し消え去るものだ。未来予測は外れたが、べつにどうでもいい。挑発したから、予測と違うものが見えたのだろう

 

「これはもう要らないな。逆転なぞ、あり得ない。仮にあったとしても別の手はある」

 

 浦田結衣は正二十面体を捨てた。もう、これは要らないだろう

 

「戦えない者は呉鎮守府に逃げろ! 大和を曳航して逃げてくれ! ……最近、出撃が少なかったから存分にやり合えてうれしいよ」

 

 武蔵は無線で怒鳴るように指示を出すと、結衣に向かって笑いながら睨んだ。ここの所、出撃する回数は少なかった。大和型戦艦は資源の消費量が多いからである

 

 だが、こうして堂々と、しかも大改装した艤装でやり合うのは願ったりだ

 

「武蔵さん、僕も援護する!」

 

「足手まといになるな! 大和の分まで働いてもらうぞ!」

 

 時雨は単装速射砲を構えながら武蔵に言った。武蔵はああいったが、時雨は見逃さなかった

 

 武蔵の声が微かに震えているのを。出撃回数は少ないとはいえ、大和型戦艦は決戦兵器。強敵と幾度と戦った武蔵がこんなに緊張する姿は初めて見た

 

 戦う者は残り、戦えない者と恐怖で逃げる者は一目散に逃げた

 

「その強がり……何時まで持つのかな?」

 

 結衣は笑いながら艤装を動かしていた。その音は機械音ではなく、怪物の咆哮に近かった

 

「怨念が凝縮された怪物みたい」

 

 時雨は呟いた。深海棲艦が怨念の集合体という学説を聞いたことがあるが

 

 

 

 呉鎮守府

 

「提督、一体どうしたら?」

 

 大淀は縋る思いで提督に振り向いたが、提督は固まっていた。手は握りしめ、戦闘海域の方角へ凝視している

 

「提督!」

 

 大淀は叫んだが、提督は無視して内線電話を使って通信室にいる柳田教授に電話をかけた。相手は直ぐに出た

 

「教授、シールドを破る手段は!」

 

『……』

 

「教授!」

 

『……非対称シールドはどういう原理かは不明だけど、他の電気製品と同じようにエネルギーを使って稼働している。弱点を解析されるのを防ぐためホログラムや未来予測出来る正二十面体を使って演技し希望をもたせるようにしたんだ』

 

「そんな事は分かっている! 奴は軍人ではない! 誰も思いつきもしない戦い方をするのは知っている! 俺が聞きたいのは、シールドを破る手段はあるのか、と聞いている!」

 

 提督は激昂した。原理の仕組みが分からなければ倒せないのは分かるが、今はそんな事を言ってられない

 

『……接近して艤装内部に爆弾を設置して装置ごと破壊するしか──』

 

「ふざけるな!」

 

『ふざけていない。僕の世界でも、まだ実用化されたかどうかも分からない技術だ。そんな事より優子とターズは無事か?』

 

「クソ!」

 

 提督は受話器を投げつけると悪態をついた

 

 そんな様子を負傷した艦娘達は不安そうに戦闘海域の方角へ目を向けた

 

「そんな……もう弾薬燃料はほとんどないというのに……」

 

 明石はへなへなと座り込んだ。鎮守府にいるのは負傷者の艦娘だらけ。とても仲間を置いて行って逃げる事は不可能だ。仮に逃げたとしても捕まるのは時間の問題だ

 

 武蔵を初めとする戦艦娘や数名の艦娘がまだ挑んでいると聞くが、本当に倒せるのだろうか

 

*1
現時点では連山は艦これに実装されていない

*2
実は水平爆撃の方が高度取れるので威力が大きい。急降下爆撃は運動エネルギー増してる訳ではなく、あくまで命中高めるためであり、急降下速度に制限あるため威力が弱いである

*3
2007年は米国防高等研究計画局(DARPA)はメタマテリアルという人工物質を利用した弾道兵器や破片、爆風といった実体のある物質を防ぐバリアを開発していると発表した。メタマテリアルは様々なものに応用が期待されている

*4
地球上で最強の耐性を持つクマムシはDNAに電気的なシールドを張って放射能や活性酸素を防いでいる事が判明している




艦娘「「「「ウィッチーズ、助けて!」」」」
ウィッチーズ「「「「無茶言うな!」」」」

対深海棲艦の兵器とはいえ核爆発を耐え、艦娘達の攻撃を防いだのはSF作品で出てくるエネルギーシールド
空想の産物かと思いきや、実際に構造としてはあるみたいで
その内、DARPAはメタルギアREXのような二足歩行ロボットを開発するかも?
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