時雨の緊急任務 ~リベンジ~   作:雷電Ⅱ

6 / 76
今話から第二章です


第2章 不正規戦
第6話 国葬


 大本営

 

 会議室では人が大勢集まっていた。国防大臣を初め、統合参謀長である元帥。参謀総長である陸軍大将と海軍大将、そして新たに設営された空軍の大将までいる。海軍のトップが急死した事により臨時に就く事になった。他にも大勢の将官がいる。海軍省や陸軍省といった行政機関も3年前には廃止している。浦田重工業の騒動によって軍が一新されたからだ

 

「では、本題に入ろう。山本大将が急死した。死因は心臓発作となっているが、私はこの報告が信用ならない。私も二日前に会ったが、元気だった!」

 

 元帥は拳を机にたたきつけながらはっきりと言ったため、会議室は騒めいていた。五年前で浦田重工業の騒動で軍を指揮していた者が、取り乱している。いや、人の死で感情的になるのは仕方ない。それが普通の反応だ。だが、どうもそうではない

 

「しかし君、検死官の報告書を読んだだろう。心臓発作はどうすることもできない。それに今日の会議は国葬についてだ。公私混同は良くない」

 

 国防大臣はなだめるように言った。普通ならこれほどの人物が集まることは無い。なのに、これほど集めるのは異常である

 

「だからです! 私の後輩は信用ならないと言っていました!」

 

「……艦娘計画を立てたあの博士が?」

 

 国防大臣は呆れた。艦娘計画を実行した博士の事は国防大臣だけでなく他の軍人も知っている

 

「あの中将は何処へ行った?」

 

「あー、山本さんの血を調べると言って研究室に引きこもりました」

 

 国防大臣の問いに海軍少将が恐る恐る言った。実際に空席が一つある。提督の父親である海軍中将がここにはいない

 

「部下にやらせればいいものを。……それで奴等の動きは?」

 

「え?」

 

「だから総攻撃派の動きだよ! あちこちで学生時代やデモが起きているのを知らないのか!?」

 

国防大臣は苛立ちを隠せていなかった。答えられなかった秘書は縮こまっている

 

「昔なら兎も角、現在は憲兵隊による捜査なんて出来ません。警察機関などに頼むしか」

 

 元帥は苦い顔をしていた。憲兵隊とは軍内部の不祥事などを取り締まる軍隊警察なのだが、『艦だった頃の世界』の憲兵隊は民間に対する司法警察も兼ね備えていた。特に思想犯を取り締まっていた、その捜査や尋問は強烈で拷問もあったという。現在はそんなことは禁止されているため、捜査はそこまで期待出来ないだろう

 

警察に頼むしかない

 

「深海棲艦の動きが気になります。この行事に攻撃される懸念もあります」

 

「火事場泥棒という奴か」

 

 元帥の指摘に国防大臣は頭を抱えた

 

「深海棲艦の戦いは簡単だ。うらやましいよ」

 

「どういう意味です?」

 

 元帥は不機嫌そうに聞いた。地味ではあるが、深海棲艦の存在は頭が痛い。海路航路が制限されているため、他国との貿易がままにならない

 

「深海棲艦の対処は簡単だ。外見で敵と分かる。艦娘が戦って勝てば終わり。だが、総攻撃派は人間だ。しかも誰がテロリストなのか分からない」

 

 国防大臣の指摘に元帥は何も言わなかった。深海棲艦の場合は人外であるため、敵と分かる。だが、人の紛れる事は難しい。一方、テロリストは違う。変装も簡単だ

 

(人類の敵は人類って事か)

 

 深海棲艦との戦いが終わってもこの問題は解決出来ないだろう。艦娘は人類のために戦っていると謳っているが、もし艦娘がこの事を聞いたらどう答えるのだろう? 

 

その後、会議は続いたが、警察機関と連携して警備する方向で決まった。

 

 

 

 

 翌日

 

 時雨の願いが通じたのか、天候は晴れていた。しかし、東京では平日にも拘らず、人が沢山集まっていた。何しろ、海軍の大将が急死し国民は国葬を一目みようと集まっていた。警視庁は警備を強化するために警察官の人員を増した。陸海軍も同様で憲兵隊が出動していた。道路は交通規制が敷かれ、マスコミが国葬や高野大将の事を報道していた。世間には本名は山本五十六である事を伝えたが、国民は特に反応はなかった

 

 それもそのはずで、この世界では第二次世界大戦は起こっていない。この世界の山本五十六は連合艦隊司令長官に就いておらず、真珠湾攻撃は行われていない

 

 海軍再建に奮闘した人物とはいえ、重要人物にあることに変わりない

 

『海軍再建に尽力を尽くした山本五十六海軍大将を一目みようと大勢の人が旭日旗と日の丸の旗をもって集まっています。政府関係者や軍関係者だけでなく、各国の駐日大使までも出席させるとの事です』

 

 マスコミは現在の警備体制と国葬を報道している。そして、士官や政治家などの重要人物までも集まっている事を報道していた

 

 そんな騒ぎの中、一台の車がやって来た。提督が乗っている黒色の官用車である。支給品のものでピカピカであるが、常に洗車や整備をしたお陰である。送迎用という事もある

 

 運転手は陸奥であり、助手席には神州丸が座っており、提督と時雨と夕立は後部座席にいる

 

 式場に来ると案内人がドアを開けてくれた

 

「人が多いっぽい!」

 

「夕立、静かに」

 

 降りるや否や夕立は歓声をあげたが、時雨が制した。国葬ということもあり、全員黒色のスーツを来ている。提督も同じである

 

「人が多いですね」

 

「私達にとっては複雑ね」

 

 神州丸は目を見張ったが、陸奥は複雑な気持ちだ

 

 山本五十六は太平洋戦争では有名な人物の1人である。本来なら昭和18年4月18 日ブーゲンヒル島上空で米軍の待ち伏せにあって戦死している。この世界では、そんな事は起こらなかった。急死である。太平洋戦争が起こらなかったためでもあるが

 

『あの人が戦死ではなく、急死ね。サラも複雑』

 

 山本五十六の急死の知らせは海外艦も複雑な気持ちであった。史実と異なっていた事が多いだろう。尤もサラトガだけでなく他の艦娘はそこまでは気にはしていない。確かに太平洋戦争の史実では重要人物だっただろう。だが、太平洋戦争が起こっていない世界においては普通の軍人である

 

 ……尤も、浦田重工業の暗躍によって太平洋戦争において名を残した人物の多くは暗殺された。日本だけでも、ほとんどは死亡したと思われる。思われる、というのは浦田重工業の目を掻い潜り、ひっそりと生きている人も少なからずいるという。

 

 ……第二次世界大戦で有名人であったヒトラーやスターリンなどは、浦田重工業が殺されたのは確認されている。世界規模は不明であるが、ほとんどは殺されたと思っていいだろう。思ってもいいだろう、というのは正確に把握した者はいないということだ

 

 

 

「来るのが早いな。まだ30分もあるぞ」

 

「親父……失礼しました、中将」

 

「固くなるな。元気で何よりだわい」

 

 人だかりの中、こちらに近づき現れたのは提督の父親である博士である。博士は、深海棲艦を解析して艦娘を産み出した。時雨のお陰で誕生が早まり、浦田重工業の野望を阻止することが出来た

 

 大本営の仕事のため、最近は顔を出すのは減ってきたが、それでもオブザーバーとして鎮守府に来ている。但し、階級は中将なのでやることはしているが、元々は技官であるため明石と仲が良い

 

「博士、久しぶりです」

 

「久しぶり……どうした?」

 

 時雨も挨拶をしたが、博士は時雨の落ち着きがない。博士は見抜いていた

 

「予定より早めに行くよう言ったけど、それでも不安なんだ」

 

 実は早めに行くよう提督に提案しまのは時雨である。昨日、思いきって提督に進言したのだ

 

 提督も秘書艦である大淀も早めに行くのは特に問題ないと言ってくれた

 

「不安か……元帥も警備は万全にするよう言っておった。例の2人組の刑事も」

 

「もしかして杉田警部?」

 

 近くで聞いていた陸奥は口を挟んだ。先日、ゼロ課所属の刑事が来たのだ

 

「そうじゃ……死者蘇生はあり得ない。だが、そこが重要ではないのじゃ……あー、これは後から話そう。まだ事実ではないからの」

 

 博士は何か言いたそうだったが、それ以上は言わなかった。提督も時雨も追及しなかった。後からでも話せる

 

「だといいけど。艦娘計画を悪用しないで欲しいわ」

 

 それでも、博士と陸奥は安心した訳ではない。『艦だった頃の世界』では死者蘇生の研究をしていた者がいた。陸奥は、その世界でその者と出合っている

 

 流石に21世紀と20世紀の科学力は違うため、出来るとは思えないが

 

「今は総攻撃派に警戒すれば良い。ワシは元帥の所へ行く。……頼むぞ」

 

 博士は時雨達に言うと、将校達の集まっている所へ行った。502部隊やあきつ丸もおり、元帥の姿も確認できる。将官や政治家、そして皇族達の護衛が多いのは仕方ないだろう

 

 彼らは元帥と博士の護衛任務なので仕方ないだろう

 

「万が一襲撃されても突破出来るから心配ないっぽい」

 

 不安そうになる時雨や陸奥達に対して夕立は元気づけるように言った

 

 簡易艤装は、ニ門の砲塔と対空機銃(7.7 mmと12.7mm)である。幾ら艦娘は打たれ強くても反撃出来なければ意味がない。と言っても、無闇に大砲をぶっぱなしても被害が広げるだけである

 

 そのため、砲塔を少なくしたのだ。陸奥は防御力は高いため対戦車砲や狙撃銃くらいでは耐えられる

 

 陸奥の艤装は41cm主砲はニ門で後は対空機銃だが、海戦ではないので問題ない

 

 神州丸は艤装はあるが、バルジだけだ。その代わり、人が使う武器である拳銃やアサルトライフル、そして手榴弾数個を持ってきたのだ。それらは艤装も含めてトランクの中にあるが、神州丸は拳銃を携行している

 

「車は防弾なので、襲撃されたら時雨達は提督を車まで連れていきなさい。私は応戦しますので」

 

「う……うん。頼むよ」

 

 時雨達は艤装は使えるものの、小火器類はあまり得意ではない。地上戦は彼女の得意分野ではない。常日頃、訓練しているあきつ丸や神州丸と差が生まれるのは仕方がなかった。時雨も昔は地上戦したことはあるが、あれは航空機だ。尤も戦闘ヘリと無人機相手で大変だったが

 

 

 

 検問所

 

「国防大臣、間もなく着きます」

 

「うむ」

 

 検問所には、続々と政府関係者が来ている。『艦だった頃の世界』の大日本帝国軍は新生され、軍のトップは国防大臣が就いていた

 

 組織の運営は、今のところは順調である。しかし、組織は腐敗しやすいため国防大臣も気を付けていた。浦田重工業の教訓から学び組織を一新した

 

 今は秘書と一緒に送迎車に乗っている

 

「山本君は残念だった。中将からの死因特定はまだかね」

 

「まだ何も言っていないです」

 

「事故死なのか、他殺なのかハッキリさせないとな」

 

 彼等が話している間、車は検問所に止まり警官達が不審物がないか車を調べていた

 

 運転手は招待状を警備員に渡している

 

 皆は気づいていない

 

 警官の1人がこっそりと時限爆弾を仕掛けた事に。警官の異常無しという連絡に送迎車は発進してしまった

 

送迎車は旗を振っている観客に見守られながら進んでいく

 

 そして、駐車場の近くまで進んだ時、送迎車は盛大に爆発した。乗っていた国防大臣と秘書、そして運転手は即死した

 

 観客は悲鳴を上げて逃げ回り、警察官が駆け寄った

 

 悲劇と混乱が始まる合図だった

 

 




史実である旧軍の憲兵隊はあまり良い話は聞きません
しかし、艦これ(というかて萌えミリを題材にした作品)に現れる憲兵さんにはかなりの確率で紳士が存在しているという謎の補正があったりします(「憲兵さんこっちです」はある意味、有名)
憲兵隊の採用基準や教育がどうなっているか、知りたいものです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。