時雨の緊急任務 ~リベンジ~   作:雷電Ⅱ

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???「まだだ、まだ終わっていない!」


第61話 決戦

 時雨は空を見上げていた。オーロラを見たのは初めたため不思議な気持ちだった。大和から聞いたが、本当に宇宙までツァーリ・ボンバを宇宙まで吹き飛ばしたらしい

 

 核爆発の影響でイージスシステムは一時的にダウンしたが、それは自動的に回復するらしい

 

 それでも電磁パルスの影響は大きかったらしく、イントレピッドの艦載機であるF-14とE2Cなどのジェット機が錐揉み状態で堕ちていくのが見えた。冷戦時代の兵器であるため、電磁パルス攻撃には対処するよう出来ていないのだろう

 

 戦後改修では電磁パルス対策はそこまで手が加わっていなかったらしい

 

 無線は何とか生きているものの、艦娘達が保有している無線機はダメになった

 

 しかし、呉鎮守府からそう離れていないため問題ない

 

「終わった……」

 

「そうっぽい」

 

 時雨は安堵し、近くにいた夕立も力無く言った。これで終わった。そんな時、大和は糸が切れた操り人形のように倒れたため時雨は駆け寄った

 

「大和さん……大丈夫ですか?」

 

「ええ。全エネルギーを使ったから。核融合炉とか積んでいたから航行に問題は無いけど、体力を使うわ」

 

 大和は力なく言った。最大級の荷電粒子ビームを放ったのだ。永久機関を積んでいたとしても、エネルギーを使い果たしたのだ

 

「敵影なし。これで終わりましたね」

 

「ええ。艦載機は全機落とされましたが」

 

 翔鶴と加賀は彩雲を飛ばして辺りを見渡していた。電磁パルスの影響にはほとんど影響は無かったため警戒していた。イントレピッドのE2Cは墜落したからだ

 

 偵察や警戒は必要不可欠だからだ。と言っても、空母組は艦載機をほとんど持っていなかった。レーザー砲で撃墜されたからだ

 

 ともあれ、全員ボロボロだ。呉鎮守府に帰投しないといけない

 

 大和は武蔵とアイオワに肩を貸しながら航行していた

 

「よくやったな、時雨」

 

 そんな時、時雨に声をかける人がいた。それは──

 

「長門さん!」

 

「ぶ、無事だったっぽい!?」

 

 時雨や夕立だけでなく、皆は驚いた。浦田結衣に連れていかれ石油精製所で爆死させられたと思われたからだ。勿論、長門の艤装はボロボロだが、身体に問題はないらしい

 

「ああ。あんな爆発でやられる長門ではない! 敵は死んだと思って放置されたからな! 他の者も生きているぞ!」

 

「ふっ……お前らしいな」

 

 長門の高笑いに武蔵は心なしに笑った。ビックセブンが無事でよかった

 

「同士も無事?」

 

「無事だ。ソ連崩壊しても、アイツはまだ生き残っているぞ!」

 

 響は心配そうに聞いたが、長門は安心させるようにした

 

 タシュケントも安堵してガングートに連絡をした。無線は妖精のお陰で復旧したからだ

 

 しかし、ガングートから連絡はない

 

「あれ? 繋がらない」

 

 向こうの無線は壊れたのか? 

 

 

 

 石油精製所

 

「はぁ……はぁ……皆、無事?」

 

「あぁ……余は大丈夫だが、ガングートは意識を失っている」

 

 陸奥は安否確認をしたが、返事をしたのは服が焼け焦げたガングートを抱えるネルソンだけだった。あの時、浦田結衣に拘束され重油タンクに叩きつけると爆発させた。高出力レーザーだったため四人は爆発に巻き込まれた

 

 気が付いたら冷たい地面で横たわっていた。あちこちで崩れかかった建物や未だに燃えている重油タンクがあったが、今は避難が大事だ

 

 陸奥は火の手から逃げるように歩こうとしたが、歩くたびに全身に激痛が走った。また、肋骨や右足首が骨折しているらしく、右足を引きずりながら歩く羽目になった。内臓をやられたのか、吐血した事もある

 

 尤も、怪我もあちこちしているため治療しないといけない。艤装を纏っていたため、焼死せずに済んだが、どうも結衣はわざと艤装を纏ったまま重油タンクに叩きつけたらしい

 

 時間が無かったというより、焼き殺して地獄を見せた、といった方が正しいか

 

「良かった……無線は生きている?」

 

「No」

 

 ネルソンも陸奥同様にボロボロだ。その辺に転がっていたパイプを杖替わりにしている。ガングートに至っては重油の爆発で艤装の保護が失われたのか、服は全部焼けたらしく半裸状態だった

 

「ねえ、長門を見なかった?」

 

 陸奥は尋ねたが、ネルソンは首を振った。見ていないらしい

 

「貴方は呉鎮守府に戻って。私は長門を探す」

 

「ダメだ。そんな身体では」

 

 しかし、この石油精製所は呉鎮守府と戦闘海域から遠く離れているため、沖合にいる艦娘達は気が付かないだろう。戦いは終わったらしく、皆は呉鎮守府に向かっている。航行速度も遅いことからこちらにやってくる余裕はないだろう

 

「ムツ。ナガートがあそこにいる!」

 

 ネルソンは航行している艦娘達の方へ指を差した。遠くにいるため肉眼で判別できるか怪しいが、確かに居た。

 

「長門ったら」

 

 陸奥は呆れた。いつもはタフで脳筋と言われていたが、あの性格は周りに勇気づけられる。特に深海棲艦との戦いでは士気が上がったくらいだ

 

「余も帰ろうか」

 

「そうね」

 

 残念ながら陸路で帰るしかない。と言っても徒歩で帰る訳にもいかず、石油精製所の駐車場にあった社用車を使う事にした

 

『必ず返します』

 

 被害を免れた事務所の机に置手紙を書くと車に乗り込んだ。エンジンを回そうとした時、ネルソンが金切り声を上げた

 

「ムツ! あれ! あれを見て!」

 

 ネルソンが必死になって瓦礫に指を差していた。爆発の影響で施設が破壊され鉄筋が剝き出している。しかし、鉄筋に何かがある。いや、数本の鉄筋が何かを突き刺している

 

「あ……ああ……」

 

 陸奥は何かに取り憑かれたかのように車を飛び出すと足を無理やり引きずりながら鉄筋に貫いている物体に駆け寄った。近づく度に見慣れた姿が目に映った

 

 黒のロングコート、壊れた41cm三連装砲改、頭に乗っかっているヘッドギア……

 

「あ……ああああ……そんな……長門!」

 

 陸奥は絶叫した。間違いなく長門だった。しかし、今の長門は艤装を貫通して身体に何本もの鉄筋が串刺しになっており、貫通した鉄筋から血がにじみ出ていた。意識は無いらしく目は閉じている

 

「助けるから! 死んじゃダメ!」

 

「な、なぜここにナガートが? 艦娘達と合流したのではないのか?」

 

 陸奥は必死の余り長門を救おうとし、ネルソンは困惑した。死んでいるかどうか分からない。ただ、長門の身体はまだ生暖かい事から生きているはずだ。それに幸か不幸かこちらには教授と博士がいるんだ! 

 

「ヒュー……ヒュー……」

 

「良かった! しゃべらないで! 動いちゃだめよ!」

 

 長門は陸奥の絶叫に反応したのか、意識を取り戻したらしい。ただ、声は出せないのか口からは呼吸音だけだ。奇跡的に生きた事に喜ぶ陸奥だが、長門は違った。顔を歪ませながら、弱弱しく陸奥の腕を掴んだ。しかも、ゆすっていて何か必死に伝えたがっている

 

「ナガート……どうしたの? 帰ったら酒でも……」

 

 ネルソンは長門の必死さに狼狽した。長門はどうしたのか? 

 

 長門は意思疎通出来ないのを感じたらしく掴んでいた腕を話して傷口に人差し指を当てた

 

「長門! 傷口に触れちゃ──」

 

 陸奥は ったが、長門は間髪入れず陸奥の腹部に人差し指に押し当てて動かしていた

 

 何本も鉄筋を串刺しされても手を動かせる長門の精神力に陸奥は舌を巻いたが、長門が何をしているのか分かった。血でメッセージを書いている

 

 たった二文字の平仮名だったが、書かれた文に陸奥の髪の毛が逆立った

 

「ゆい」

 

 このメッセージだけで何が起こったから分かった

 

 まさか……まさか……まさか、艦娘達と一緒にいる長門は! 

 

「時雨ちゃん! 優子ちゃん! 逃げて!」

 

 陸奥は叫んだが、遠すぎて声は届かない。探照灯も無線も水上偵察機も全て壊れたため伝える手段が無い。砲塔も今やただの屑鉄だ! 

 

「そ……そんな……戦いの死よりも恐ろしい事をやってのけるなんて」

 

 ネルソンは震えながら呟いた。仲間がやられる。こちらから助ける事すら出来ずに……

 

 

 

 呉鎮守府

 

 遠くで恐ろしい事実に気づいた陸奥たちだが、そんな事実に気づく者は居ない。長門……いや、長門に似た何かは時雨達と一緒に帰投している

 

 その様子は呉鎮守府から見えていた

 

「そう言えば長門は何時から石油精製所から戻って来たんだ?」

 

「爆殺されない艦娘ですから」

 

 提督は疑問に思ったが、大淀は特に気にしなかった。寧ろ無事である事に喜んでいる

 

 電磁パルスでE2Cは飛んでおらず、電子機器もマヒしている。そんな時、小さな駆動音が聞こえてきた

 

『シ……シ……システム再起動』

 

「やっと動いた! 覚えている?」

 

『ええ。後頭部をバットで殴られた気分です』

 

「殴られたことあるの?」

 

 優子は呆れていたが、明石や夕張は目を輝かせていた。電磁パルスでもう動かないと思ったら、生き返ったかのように動いたのだから

 

「電磁パルスを受けても平気なんですね」

 

「当たり前だ。誰が作ったと思っている」

 

 明石は歓喜を上げていたが、柳田教授はやれやれといった感じである

 

『状況は?』

 

「敵を倒した。大和が放った荷電粒子ビームで宇宙に飛ばしたから、もう大丈夫だ」

 

『終わったのですね』

 

 ターズは瞬時に理解できたらしい。人工知能だからということもあるだろうが

 

「ターズ、時雨と連絡とれる? 電磁パルスで無線はダメになって」

 

『EMP対策はしているはずです。コンタクトを取ってみます』

 

 ターズはそう答えると電波を出した

 

 

 

 時雨は夕立に支えられ、周りに護衛されながら呉鎮守府に向かっていた。速度も遅いため、普段よりも時間はかかる

 

「時雨がイージス艦になるなんてミーは驚いたわ」

 

 イントレピッドはニコリとして言った。大和と時雨の大改装を一目見ようと駆け寄ったのだろう。他の艦娘も同じで白露は「一番に大改装したかった」と言っていた

 

「僕も驚いているよ」

 

 時雨は静かに答えた

 

「イージス艦に大改装出来たのも『みんなを守る力が欲しかった』からだと思う」

 

「ねえ、それって僕のセリフを真似したの?」

 

 皐月がわざとらしく言ったため、時雨もクスリと笑った

 

「そうじゃないよ」

 

 時雨が笑顔で返した時、無線連絡が入った。提督かと思ったが、相手は何とターズだった

 

『やあ、時雨。今はシステムの中にいる。ロボットの奴隷になった気分は?』

 

「ロボットの奴隷って」

 

 ターズの通信内容に呆れていたが、どうやらターズ自身のユーモアらしい

 

「ターズは皮肉屋のお笑いロボットだったの?」

 

『そうです。ついでに遠隔操作するシステムもあります。艤装を操ってダンスしてもよろしいでしょうか』

 

「ダメだよ!」

 

 時雨は慌てた。こんなところで変な踊りをされたら笑われてしまう

 

『ジョークですから。それと大和にアクセスできました。荷電粒子砲は興味深いです』

 

『そ、そんなに気になります?』

 

「HAHAHA。YAMATOは恥ずかしがり屋ね」

 

 大和からの通信も拾ったが、大和は恥ずかしがっている。それをみたアイオワは盛大に笑っている。無線通信ではないため、武蔵は眉を吊り上げていた

 

『武蔵との通信手段は死んでいるためアクセス出来ないのが残念ですが』

 

「ターズ、遊ばないで」

 

『いいえ。遊んでいませんよ。新機能のテストをします。ディスプレイにある事を表記しますので指示に従ってください』

 

 時雨はターズが遊んでいると思っていた。艦娘達を和ませるためだと

 

 しかし、違った。ターズは見抜いていたのだ

 

 そして、イージスシステムを通じて伝えてきた。左目に半透明のガラスが現れテレビ画面のようなものが表示された。眼鏡のようなディスプレイであり、時雨は嬉々して見たが、表示された内容を見て固まった

 

『攻撃目標、戦艦長門。ホログラムで投影されている。偽物の可能性あり』

 

 これを見た時雨は無表情になり、横目で大和を見た。大和もメッセージを見たらしく大和も無表情だが、目とあった

 

 言葉は発せず仕草もしていないが、やる事は決まっていた

 

 大和も顔をこちらに向けてはいないが、大和はため息をついた

 

「どうした、大和?」

 

「武蔵……ごめんなさい!」

 

 大和は肩を貸している武蔵を突き飛ばした。咄嗟の行動に武蔵は対応出来ず、転倒してしまった

 

 回りが混乱する中、時雨と大和はレールガンを長門に叩きこんだ。大和の副砲と時雨のレールガンから放たれた砲弾は火薬砲よりも速い弾速を得る事が出来るため、威力までは防ぎきれなかった

 

「大和、時雨! 長門に何を──!?」

 

 武蔵は立ち上がり二人を 咤したが、レールガンを食らい長門の姿が変化した光景を見て武蔵の表情は驚愕に変わった

 

 長門の身体がテレビのノイズが走ったようなものが現れたと思いきや、別人が現れた

 

「チッ! トロイの木馬のようには行かなかったか!」

 

「まだ生きているなんて!」

 

 近くにいた長門は長門ではなかった。浦田結衣だ。ホログラムで長門に化け接近したのだろう。恐らく、荷電粒子ビームが命中する直前に艤装の一部をもぎ取って放棄したらしい。事実、宇宙にとばされたものは艤装の一部である輸送機と輸送機に載せた水爆だけだった。イージスシステムに入ったターズがいなければ気づくことは出来なかっただろう

 

 呉鎮守府に招き入れたらどうなっていたか想像が容易につく

 

 だが、浦田結衣の艤装はボロボロだ。幾度も荷電粒子ビームや極超音速対艦ミサイルを食らったため、自己修復が追いつかないのだろう

 

『敵出現! 戦える者は攻撃しろ!』

 

 提督からの無線指示は来たため、全員戦闘態勢を行った。武蔵は生き残った46cm主砲を撃とうとしたが、敵が素早く53cm砲を発射したため武蔵は再び爆発してしまった。撃沈されてはいないものの、大破しており、武装や電子機器は破壊されたため、撃てる武器が無い。後は自慢の腕だけだが、結衣が殴り飛ばしたため武蔵はノックアウトしてしまった

 

 F-35で空爆を行おうとしたが、レーザー光線で呆気なく撃ち落とされた

 

 だが、時雨がレールガンでレーザー砲を破壊すると力一杯叫んだ

 

「今なら倒せる! 全員で倒すんだ!」

 

 時雨は叫びながら打てる武器は全て撃っていた。他の艦娘も同様で魚雷を全弾発射したり、主砲を発射したりしてけん制した。空母組の艦載機はほとんどないが、僅かに残している者は空に上げた。ここで出し惜しみしても無駄だ。航巡もなけなしの水上機を上げ、水上戦闘機『強風』で機銃掃射しているくらいだ。しかし、敵の防御力は凄まじく艤装はボロボロだというのに、41cm主砲弾に耐えた。時雨は距離を置き通常の対艦ミサイルを発射したが、効果がほとんどない

 

 それどころか敵は何かを射出した。形状からしてドローンだ。ただ、前回の時と違ってイカのような姿をしている

 

 だが、このドローンはステルス無人機と違った攻撃を行った

 

 なんとミサイル攻撃も爆弾投下もせず、艦娘に急降下してそのまま体当たりしたのだ! 

 

「がぁ!」

 

 最上は自爆攻撃を食らったため大破してしまい、これを見た防空艦である摩耶も秋月達もフレッチャーもこれには驚いた。しかも、敵は次々とドローンを射出すると艦娘達に向かって自爆攻撃を仕掛けてくる! 

 

「What? カ、カミカゼ!?」

 

 サラトガは殺到する自爆攻撃に驚愕した。まさか、ドローンが自爆攻撃するとは思わなかったからだ。爆破の威力も高く、飛行甲板は滅茶苦茶だ

 

 時雨も持てる艦対空ミサイルを発射して味方を守ろうとしたが、相手はドローン。そのまま一直線で艦娘達に襲い掛かった

 

 そんな中、無線連絡が来た

 

『あれはカミカゼドローン……自爆型ドローンよ! 全部、撃ち落として!』

 

「そんなものまであるの!?」

 

『あるわ!』

 

 優子2尉の説明に時雨は驚愕した。無人機が正史の神風特攻隊を行っている? しかも、優子が知っているという事は結衣の独自兵器ではなくて、実在する兵器? 

 

『形からしてハロップよ! イスラエルが使った徘徊型兵器*1!』

 

「解説どうも!」

 

 時雨は怒鳴りながら単装速射砲で撃ち落としていた。スピードも速く、コンピュータ制御もあって、狙いが正確だ。日本の艦娘だけでなく米艦娘からしたら皮肉そのものだろう

 

 予想外の自爆攻撃に艦娘達は逃げ回る羽目になってしまった。イントレピッドは残り数機のFジェット機を上げ迎撃したが、直ぐに対空ミサイルもバルカン砲も尽きてしまい、それどころかイントレピッドに数機の自爆型ドローンが殺到して中破してしまい、補給による着艦が出来なくなってしまった

 

 その隙に結衣は大和の方へ向かっていた。明らかに大和を狙っている

 

「砲撃開始!」

 

 大和は46cm主砲弾を断続的に発射し、荷電粒子ビームを発射しようとした

 

 しかし──

 

「同じ手は食わん!」

 

 結衣は近くにいた叢雲と長波を捕え殴り気絶させると盾にした。人質を取られてしまい大和が躊躇している間、53cm主砲で砲撃を受けた。流石に大改装したため今の大和の装甲は強固だ。どういう構造や材料を使っているかは不明だが、53cm主砲弾は全て弾かれた

 

 が、敵の狙いは荷電粒子砲そのものだ。砲弾がチャージしている荷電粒子砲に直撃ため、大爆発を起こしてしまった。艤装の一部が破損したため、ダメージを受けてしまった

 

「大和さん!」

 

 時雨が膝をつき顔を歪ませている大和に駆け寄り躍り出ると大和を守るように立ちふさがった

 

「フン……仲間を守れるなら守ってみろ」

 

 結衣が近寄る。モデルがモンタナ級戦艦であるため、艤装がとても大きい。そして、長波と叢雲が人質に取られてしまって攻撃出来ない

 

「どうした? 撃ってみろ」

 

 結衣が近寄ったが、邪魔が入った。アイオワだ

 

「Fu〇k y〇u a〇〇ho〇e」

 

 アイオワはハープーンミサイルと16インチ砲で人質にとられた二人に当たらないようピンポイント攻撃したが、敵は叢雲を投げ飛ばした

 

 予想外のやり方にアイオワは攻撃よりも叢雲をキャッチし助けるのを優先したが、敵の53cm主砲でやられてしまった

 

 次に止めに行ったのは高速で移動する島風とタシュケントである。左右からの攻撃で仕掛けようとしている。魚雷を満載している事からヒットアンドウェイするつもりだろう

 

 だが、魚雷は易々とかわされるどころか砲撃と長波を投げ飛ばしたため呆気なく倒される始末だ

 

 そして、最後に立ちふさがったのは霧島だった

 

「私を覚えている?」

 

「ああ。覚えているぞ。屑鉄の霧島だな」

 

 相手の返しに霧島は斉射するつもりだが、敵はそれよりも早く接近して霧島に掴むと頭突きを食らわせた。しかも、激突音が響き、時雨の耳にも聞こえてきた

 

「ぐっ! ……艦隊の頭脳を舐めるな!」

 

 霧島は額から血を流しよろめいたが、直ぐに立ち直ると敵に頭突きを食らわせた

 

 敵も反撃を食らうとは思ってもおらずよろけたが、相手はニヤリとした

 

「やるな」

 

 結衣は再度、霧島に頭突きを食らわせた。今度は全力でやったらしく霧島は衝撃で倒れそのまま動かなくなってしまった

 

 今度こそ邪魔がなくなり結衣は時雨に向けて突進した

 

 時雨はレールガンで攻撃し敵もよろめいた。だが、結衣は無理やり航行したため接近を許してしまった。時雨は慌てて回避したが、殴り飛ばされてしまった

 

「まだ負けない!」

 

 時雨は攻撃をしたが、再び結衣に殴られてしまった。どうやら、敵は素手で時雨を倒すらしい。イージス艦は装甲を纏っていないため、この攻撃は痛い

 

『このままだとやられてしまいます。イージスシステムと射撃管制がやられ、ウェポンシステムがオフラインです』

 

「seaRAMとCIWSを発射!」

 

 ターズの警告に時雨は近接防御火力システムを稼働させた。敵にダメージを与える事は無理だがけん制することは可能だ

 

 結衣が近接防空ミサイルとバルカン砲で怯んだすきに後方から大和が体当たりをした。結衣がよろめいた隙に46cm主砲で攻撃した。着弾し爆発したが、爆炎が晴れても敵は倒れるどころか大和に襲い掛かる

 

 時雨は双方の肉弾戦に近寄れないが、何か攻撃手段を編み出そうとした

 

 至近距離からの砲撃と肉弾戦で大和は負けないと思いたいが、敵はしぶとい。そして、よくよく見ると結衣の艤装に何かが括り付けていた。三角錐のような形状だ

 

『あれはW88核弾頭です。敵は核自爆するつもりでしょう』

 

「核自爆じゃない! 遠距離による核攻撃がダメだったから至近距離での核攻撃に切り替えたんだ!」

 

 時雨は叫んだ。敵は海に潜れるため、呉鎮守府に乗り込み暴れ、混乱した隙に核爆弾をプレゼントして去るつもりだったのだろう

 

『早く起爆を解除して! パパによると核出力は約500キロトンよ!』

 

「いい加減にして!」

 

 時雨はヤケクソになって叫んだが、核爆弾を解除したことは無い

 

 そんな時、ターズが提案してきた

 

『イージスシステムは失いましたが、艤装の駆動が短時間で出来ます。許可を頂けたら、素早く解除できますが、実行しますか?』

 

「いいよ!」

 

 時雨はターズの提案を飲んだ。時限式なのか、それとも遠隔操作によるものなのか分からないからだ

 

 それなら、ターズの案を飲むのが賢明だ

 

 次の瞬間、時雨の身体が勝手に動いた。誰かに操られているかのようで、ぎこちない動きだ。ターズが艤装を通じて時雨を操っているのだろう

 

 それでも、無駄が無い動きであり、結衣の背後に回るとロープで固定していた核弾頭を無駄なく奪取した。時雨では到底できない離れ業だ

 

「返せ、泥棒猫!」

 

「貴方の相手は私です!」

 

 結衣は驚いたものの急いで時雨を追いかけたが、大和はボロボロになりながらも結衣に執拗に攻撃した。他の艦娘も敵が核自爆するのを通信内容などで把握したらしく必死になって結衣の妨害に走った

 

 特に扶桑山城は必死になって結衣を抑えたが、結衣の暴力には敵わなかった

 

 その隙に時雨は爆弾の解除をしたが、ターズは既に終わらせていた

 

『起爆装置を破壊。これで破壊は完了です』

 

「もう終わり?」

 

『通常の爆弾と違って核爆発は高度な技術が必要ですから*2。後方に注意』

 

 ターズは陽気の無い声で警告したが、時雨が動く前に時雨は全身に強烈な痛みを感じた

 

「やりあがったな、小娘!」

 

 時雨は砲撃を食らい、その衝撃で手に持っていた核弾頭は海に落としてしまった。結衣が怒りを露わにして53cm主砲を食らわせたからだ

 

 扶桑山城を初め阻止しようと奮闘した仲間は倒れていた。大和も力尽きて海面にうずくまっている。まだ戦える艦娘は少ないとはいえ、全滅に近い

 

「絶対に負けない!」

 

 時雨は自己修復している53cm主砲に単装速射砲で応戦した。砲弾は53cm主砲の砲身に入り、装填していた砲弾に命中。結衣の艤装である砲塔が火柱を立てながら爆破した

 

『艤装に障害が発生。遠隔操作は出来ません』

 

「しなくていいよ!」

 

 時雨は艤装から対潜爆雷を数個取り出すと突進した。結衣が爆炎で立ち往生している隙に接近した。結衣の艤装に破孔が見られている。自己修復能力で回復しているが、時雨は破孔が治る前に爆雷を投げ込んだ。こちらは時限式にセットしておいた

 

「き、貴様。よくも──」

 

 結衣は怒り狂っていたが、結衣の艤装は再び爆発した。150kgの対潜爆雷数個が内部で爆発したのだからたまったものではない

 

「や、やった?」

 

 時雨は荒い息を上げながら呟いた。近くにいた大和も艤装は大破されても煙と水しぶきを睨んでいた。一刻も早く終わらせたいと願うばかりだ

 

 

 

「や、やったっぽい?」

 

 近くで見ていた夕立は荒い息をしながら言っていた。皆はもう疲れと負傷で限界に近い。アイオワも艤装は徹底的に破壊されたため、もう攻撃手段なんてない

 

 だが、敵はとてもしぶとい

 

 ボスを倒すだけで終わるのに、多大な犠牲が出ているのだ

 

 煙と水しぶきで敵の姿は見えず、撃沈したと確信した。だが、水しぶきの中から赤い光線が時雨に襲った

 

「ハハハハハ! 私よりも強くなっているが、自己修復能力はないだろ! 焼け死ね!」

 

 敵の高出力レーザーが時雨を襲った。時雨と大和の艤装は確かに強い。しかし、結衣のような自己修復能力は持っていなかった。艦娘にもダメコン妖精が存在するものの、結衣の能力に比べれば劣る

 

「時雨―!」

 

 夕立は悲痛な叫びを出した。もうレーザーを吸収することは不可能だ

 

 艤装はレーザーで焼かれ、身体も切断され無惨な死体となっているだろう

 

 夕立は涙目になっていたが、次の瞬間、夕立は悲しみよりも目を見張るほど驚いた

 

 なんと時雨は高出力レーザーを受けてもびくともしない。それどころか立ち上がって耐えている

 

「時雨、大和さん?」

 

 時雨だけでなく、大和もレーザー光線をまともに受けている。だが、装甲は焼かれていない。それどころか、時雨は今まで無かった巨大な砲一門を敵に向けていた

 

 それは火薬砲ではなく、機械仕掛けのような大砲だった。しかも砲塔からパルスが発生して時雨の砲身に集まっている

 

「ま、まさか──」

 

 夕立が想像するよりも早く、時雨は行動していた。時雨は高出力レーザーに焼かれていない。最後の力を振り絞ってエネルギーを吸収していた。実は時雨が持っている巨大な砲は荷電粒子砲だった。大和は結衣をけん制しつつ、荷電粒子砲を修復作業に取り掛かっていた。だが、完全ではなかったため、時雨の艤装と直結させて運用することにしたのだ

 

「「行け―!」」

 

 時雨と大和の叫びで荷電粒子砲は発射された。青色である荷電粒子ビームはレーザー光線を伝っていき結衣に命中。盛大に大爆発が起きた。しかし、荷電粒子砲も限界だったのだろう

 

 時雨と大和の艤装は爆発してしまった

 

 時雨と大和の艤装の一部や破片が爆発飛び散って

 

『おい、時雨と大和も爆発しているけど無事か!?』

 

 呉鎮守府も見ていたのだろう。提督が無線で喚いていた

 

「時雨! 大和さん! 聞こえたら返事をして!」

 

 白露は大声で叫んだが、返事は無い。爆炎の中、人影が見えた

 

「まさか、しぐ──」

 

 夕立は目を輝かせて近寄ったが、その人影の正体を見て凍り付いた

 

「やってクレタナ……まだだ。まダ終わってイナイ」

 

「そんな……」

 

 夕立は凝視した。数か月前、杉田警部が持ってきたとある学校の写真で見たことがある。高校時代の浦田結衣の姿だった。ただ纏っている艤装に搭載されている武装は重巡の武器で、力強さは無い。敵はグロッキー状態だが、夕立の武器は破壊されたため反撃すらできない

 

「あの世へ行きな、時雨の妹」

 

 重巡リ級の砲塔らしく、その砲塔がこちらを向いたため、夕立は悲鳴を上げようとした時、水しぶきの中から勢いよく飛び出してくる者がいた。

 

 それは──

 

「夕立に手を出すなんて僕は許さない!」

 

 時雨だった。艤装はどういうわけか改二の姿だったが、健全だ。思わぬ事態に夕立どころか結衣も対応できなかった

 

 駆逐艦による主砲を受けながらも結衣はよろめいたが、何が起こったのか分かった

 

「ソウカ。お前はパワーを失ッタナ! 大和も元に戻ったのか? 駆逐艦風情が私に。勝てる──」

 

「勝てるさ!」

 

 

 

 時雨は突進して主砲を発射し、結衣は悲鳴を上げた。力を失った両者だが、時雨は大改装する前の姿……改二の姿であるため、弱体化した結衣に圧倒することが出来た

 

 恐らく、双方とも能力を限界までの戦いだったため、力を失い時が戻ったのだろう。浦田結衣の場合はまだ深海棲艦になったばかりの姿だ

 

 しかし、時雨は力を失っても従来の姿に戻っただけである。タイムスリップ作戦から今まで戦い抜いたため素早く反撃した

 

 だが、相手も手をこまねいている訳がない。腕を刀に変形させると時雨の首を目掛けて切りつけた。しかし、時雨は左手に装着している主砲で刃を防いだ

 

「地獄に帰れ!」

 

 時雨は酸素魚雷を全て抜き取ると結衣に投げつけた。魚雷は敵の艤装に刺さったりしたが、何も串刺しにするのが目的ではない

 

「よせ!」

 

 結衣が叫ぶよりも早く、時雨は主砲を発射した。時雨が放った砲弾が酸素魚雷に命中。散らばっていた酸素魚雷も誘爆し結衣は再び爆発した

 

 爆炎が収まったときにはもう人影が無かった。いや、人であったであろう姿が水に浮いていた

 

「はぁ……はぁ……終わっ……た……」

 

 時雨は死体確認する余裕は無かったが、敵を倒せたという実感はあった

 

 その安堵と疲れが時雨を襲って来たのだ。時雨はその場に倒れた。視界がぼやけ、身体が鉛のように重たかった

 

 瞼を閉じる直前、こちらに向かっている人影を見た。誰かは分からないが、敵ではないだろう

 

 なぜなら、抱えられているのを感じたからだ

 

 敵ならこんな事はしないはずだ

 

 時雨は意識を手放した

 

 

*1
イスラエルなどが保有する攻撃型の無人航空機 (UCAV) の一種。自爆する能力があり、一部の人から『カミカゼドローン』と呼ばれている

*2
核爆弾は通常爆弾と違って起爆させるのが難しい




勝利SS!
次話から新章開始です

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