駆逐艦「冬月」が実装する……らしい
愛媛県〇×県の事件から数日後
大本営
「全く忙しいというのに呼びつけておいて!」
国防大臣はイラつきながら大本営に向かっていた。これから忙しいという時に呼び出されたからである
どんな内容かと聞くと「国家機密関連だ。電話で話す内容ではない」と一点張りだ。しかし重要な報告があるというのだから行かなくてはならない
不機嫌な顔で会議室に入った国防大臣は、目に入る光景に驚いた。軍人だけでなく警察官僚や公安までいる。しかも、艦娘数人どころか提督までいるのだ
そして部屋の片隅には布で被った大きな物が置いてあった。布の中は何なのか見当もつかない
だが、それよりも気になる事がある
……大丈夫だ。
重苦しい空気で国防大臣は怯んだが、元帥が穏やかな声で席に座るよう言ってきた
「国防大臣、お待ちしておりました。お掛けになって下さい」
「こ、これは何だね?」
国防大臣は声を詰まらせながら言ったが、彼が入ってきたと同時に扉が閉まった。秘書官は締め出されたらしく、憲兵隊長が扉の鍵をかけると腕組みをしながら立っていた
仕方なく国防大臣は席を座ったが、会議というより裁判所の被告人になった気分だった
「元帥君、これは何の真似だね? 閣僚会議に召集されているから直ぐにでも生きたいんだ」
「重々分かっていますよ。しかし、これは重要な話なので。……貴方の直属の極秘部隊を全員逮捕しました」
「何の話だ? そんな部隊なんて聞いたことがないぞ」
国防大臣は何気なく言ったが、内心では焦っていた。心臓は早鐘を打っており、額から汗が噴き出し始めた
「そうですね。何しろ、正規軍ではなくて私設部隊ですから」
元帥は冷たく言った
「話が見えないな。何が言いたい?」
「偽札騒動で経済は崩壊寸前だ。その偽札は深海棲艦のせいだった、と簡単に片づけられたが」
「私は深海棲艦と繋がっていない」
国防大臣は鼻で笑ったが、皆の表情は硬かった
「そんな事は分かっていますよ。いや、寧ろ繋がっていたのなら有難がったが」
「え?」
元帥の皮肉とも言われる冷たい声で元帥は動揺した。本来なら官僚が上なのに、今では上下関係が逆になっている
「偽札を作るのには容易ではない。専門家でも見分けがつかないほどの偽札を、隠密かつ連続的に生産しないといけない。だが、それを可能としようとある副防衛大臣が企業と手を組み密かに企てていた」
「い……いや、何を言っている?」
「企業だけでなく元軍人にまで声をかけて練ろうとしていた。浦田重工業が崩壊し浦田残党が暗躍していた陰でコソコソと動き出していた。そして、国防大臣と昇格した事で規模は大きくなっていった」
「陰謀論ですか? 私も好きですよ」
防衛大臣は笑っていたが、目は笑っていなかった
「超兵器の登場により国内情勢は艦娘不要論と叫ぶようになり、一部デモまで起きた。確か貴方は『これが国民の声だ』と言いましたな」
「そ、そうだったかな?」
「深海棲艦を日本海から追い出す口実に満洲国建国をする気で?」
元帥は目を光らせていたが、国防大臣は固まった
……まさかバレた? その証拠に元帥が手に持っている書類に見覚えがある。それもそのはず。国防大臣自身が書いた計画書だ
「な、何を言って?」
「何々……日本を中核としてアジアと連携する大東亜連盟を創設する。そのために軍を派遣するための計画もある」
「い、良い出来ではないですか?」
「バカを言うな! やっている事は正史の第二次世界大戦と同じではないか!」
元帥は声を荒げだした
「深海棲艦が偽札製造機械を作り上げたのかと思ったが、実は深海棲艦があんたの部署から機械を盗みだしたようだな!」
「そ、それが何か?」
「その印刷機械……あんたの秘密機関が持っていたものらしいな。浦田結衣が東京襲撃した時に深海棲艦の姫級がどさくさに紛れて盗んだ! 深海棲艦が人質として貴方が連れてこられた時にな!」
元帥の凄みで国防大臣は縮こまった
「恐らく深海棲艦のリーダーは使えると思い悪用した! だから貴方は必死になって隠蔽しようとした。……貴様、中国進出するために戦力を確保しようとしていたな! 偽札も他国でハイパーインフレーションを引き起こすための手段だな! そんなに日中戦争を引き起こしたいのか*1!?」
「は、はは……そんなわけないじゃないですか」
国防大臣は笑っていたが、全身震えていた。彼が追い詰められているのは、誰が見ても明らかだ
「そ、そもそも深海棲艦はサル以下並みの知能しか持たなかったはず! 紙幣を作る能力なんて──」
「そのサル以下並みの知能の集団が海を支配しているというのに」
元帥はピシャリと言った。もう言い訳は沢山だと手で制した。そんな時、ずっと黙っていた提督が立ち上がり国防大臣の前に来ると写真を大臣の前に数枚置いた
「では、国防大臣。この写真は何ですか?」
写真を見た国防大臣は驚いた。そこには印刷機械が数枚あった
「製造番号や会社名などを調べて辿っていくと貴方の極秘部隊までたどり着いたのですよ。この計画は確か『杉工作*2』という秘匿名で呼ばれていましたね」
「そ、そんな事は出鱈目だ!」
国防大臣は吠えた
「何も知らないぞ! そんな杉工作とやらも!」
「悪あがきはみっともないですな、国防大臣」
提督は冷ややかに言った
「偽札が実は貴方の保有する偽札製造機械の存在が公になるのを恐れたため私に依頼したのですね?」
「そんな事はない!」
「この写真は艦娘達が必死の覚悟で撮ってきたものです。なぁ、時雨?」
時雨は立ち上がった。フードで被って隠れていたからだ。愛媛県の件で身を隠していたからだ
ある任務で帰った時雨達は早速撮ってきたカメラを調べた。カメラは壊れていたが、フィルムは問題無かったため現像することが出来た。そして、調べていくうちに偽札製造の機械の正体が分かったからだ
と言っても、これを大本営に伝えるのは容易ではない。国防大臣の息がかかっている者がいるかも知れない。影響力がどれほどなのか、見当がつかない。そのため杉田警部と密かに連絡して事情を説明した。驚くべき事に杉田警部も偽札の正体は分かっていたらしい
確固たる証拠を持ち込み元帥に直訴。元帥も呆れてしまったらしい
「僕は見たよ。深海棲艦が偽札を作っているのを。戦艦レ級が上陸してばら撒いたんだ」
「お、お前……拠点を攻撃しろと」
「攻撃はしたよ。でも、写真を撮ってはいけない、という指令は聞いていない」
国防大臣は驚きを隠していなかった。まさか本当に来ているとは思わなかった
「ついでに機械も持ち帰って来たよ」
時雨は部屋の片隅にあった物に近づくと布で取った。それは深海棲艦が保有していた紙幣製造機械だった。いや、正確には人類が作り上げた製造機械を深海棲艦が奪ったというべきか
「私の部下の中には機械弄りの工作艦と理系バカ2人が居ましてね。詳しく調べ貴方がやっている事にたどり着くまでに、さして時間はかかりませんでした」
「うーむ」
国防大臣は唸った。国防大臣は中年の男性だが、政治家だからだろうか? それとも開き直っているのか? 彼ももう挙動不審の事はせず、周りを睨みつけた
「松機関*3はどうした?」
「全員逮捕しました。明日の新聞には掲載されているでしょう」
国防大臣のぶっきらぼうな質問に杉田警部は朗らかに答えた。彼も居たらしい
「どうやらツボどころは押さえてあるようだな。提督も艦娘も中々やるようじゃないか」
「そうですね。艦娘不要論も結局は海外進出するための口実でしょ? 今度は軍隊だけでなく企業も進出するため」
時雨は冷たく言った。
簡単に説明すると……どうやら、今の国防大臣は深海棲艦との戦いには興味がなかった。興味あるのは国益と資源確保だけ。いくら艦娘が深海棲艦を倒しても大した金にもならない。何故なら、艦娘が確保した海域空域だけの往来の貿易は心細いものだったからだ。そんな時、軍は超兵器を開発した。浦田重工業の遺産とは言え、通常兵器でも特殊な施しをすれば深海棲艦を倒せる超兵器の開発には喜んだ。これさえあれば、艦娘の手を借りずとも、自力で航路空路を確保し人員を海外に送り込むチャンスと考えた。今度は欧米の邪魔なんて入らない
しかし、満州事変のようなことを起こすのは非現実的だし、無理難題である。まして、提督とその父親は未来の情報を日本政府に教えている。憲法も変えられたため、軍を自由に動かすことが出来ない。そのため私設部隊を設立した。正史のような満洲国建国や大東亜共栄圏は無理でも、経済協力という名の友好関係を結べることが出来る
この方針に軍だけでなく企業も賛同した。隠居生活している石原莞爾のアドバイスを元に計画されていた。ただ軍の一部では手放した満州鉄道奪還と喜んでいたが、彼らはそれしか頭が無いようなので放っておいた。バカではあるが、使えると判断したらしい
偽札も経済戦争を仕掛けるための下準備である。それが深海棲艦に奪われ悪用されたのだ
「……こちらは深海棲艦を駆逐し人類存続のために戦っているのに、貴様は裏で何をやっている? しかも一部の者は浦田残党を支援していたらしいな」
元帥は問い詰めていた。
「まさかと思うが、前国防大臣が暗殺されたのは浦田残党ではなく、貴s──」
「それはない。気に食わない先輩ではありましたが、殺そうとまでは思っていない」
国防大臣はきっぱりと言った
「それで、私にどうしろと? 言っておくが、このプランは実行されていないし、私は罪を犯していない。未遂に過ぎない。偽札の製造機械? 造幣局から奪われたものだ。それよりも、時雨。愛媛県での責任はどう取る?」
国防大臣は時雨を睨みつけた。恐らく、製造機械の写真を撮った事が気に食わないのだろう
「それは私の仕事だ。幸い、あそこでテロ事件が起こったためか一般人は既に避難したため、死傷者は居ませんでしたが」
「そんなことは分かっている!」
提督が答えたが、国防大臣は怒鳴った。戦闘による市街地での巻き添えの対応は既にあるからだ。そんな中、ある艦娘が質問した。加賀さんだ
「では、国防大臣。個人的な質問ですが、貴方の動機は何ですか? 『艦だった頃の世界』でシナ事変以降の事は知っているはずです。提督や私達が第二次世界大戦の歴史を教えたのですから。ですが、そうまでして大陸進出したい理由は何なのです? また、同じ過ちを繰り返すのですか?」
「愛国心だよ」
国防大臣は昂然と言った。シナ事変の事を知っている艦娘がいても彼は驚かないどころかあっさりと答えた
「深海棲艦との戦いが終われば、ロシアとの脅威が降りかかるのと、早急に国内経済を立て直す事が重要だったからだ。浦田重工業という日本経済を支える大企業を失ったのだからな。経済が成り立たなければ国は滅亡する」
「『艦だった頃の世界』で無謀なことをやってしまい、アメリカと戦争をし敗戦したのです」
加賀は冷静に答えた
「それは『軍艦だった頃の世界』の日本軍が無能だっただけの話だ。ハルノートの無理難題の突きつけも『最後通牒』と受け取ったバカだっただけの話だ」
「貴方はとても優秀なのですね」
「しっかりと分析しただけだ。まさか深海棲艦が経済戦争を仕掛けてくるとは思わなかったが」
国防大臣は答えたが、周りは呆れていた。この男は野望を持っていたらしい。しかも、軍内部だけでなく企業も手を組んでいた
浦田重工業の手先ではないものの、やっている事は浦田社長と同じことをしている
国益と称してとんでもないことをやらかそうとしていた!
加賀も何を言っても無駄という風にため息をついた
しかし、最後に提督が聞いてきた
「大臣の言いたいことは分かりましたが、賛同はしません。艦娘不要論も支持率を上げるためのサクラの集団という事も。艦娘不要デモ集団も結局は雇われた人達であるのは知っていますからね」
提督は数枚の紙を見せた。そこにはデモを行うための叫ぶ言葉遣いや必要な物が描かれていた
「ある人からちょっと説得して入手しました。こんな事をして『国民の声』ですか。呆れますね」
「そうでもしないと国民は動かないだけの話だ。軍縮で海外へ展開する戦力が確保するためにはそれしかなかった。それだけだ」
「それが愛国心ですか? 呆れますね。それとこれは私の父から聞いた話ですが、愛国心というのはならず者の最後のよりどころだという諺をお聞きになった事はありますか? イギリスのサムエル・ジェンソンという碩学が言った言葉です」
しかし、国防大臣は聞いていなかった
「それで私はどうなるんだ? 逮捕されるのか?」
「逮捕はしません。ですが、ある人物から話がしたいと言っています」
国防大臣は開き直りながら聞いて来たが、意外な事に元帥が答えた
それと同時に憲兵が電話を持ってきたのだ
受話器を外したままで
国防大臣は不機嫌な顔で受話器を受け取ったが、受話器を耳にした瞬間、国防大臣は顔面蒼白となった
受話器から怒鳴り声が聞こえたが、時々『この恥晒しが!』『よくも私の顔を泥に塗ったな!』『次の選挙で私が落選したらどうするつもりだ! 恩を仇で返す気か!?』など聞こえた
「そ、総理! 違います。これは──」
『誰が許可なしに海外へ進出しろ、と言った! 私が作り上げた政党を潰すどころか日本そのものを潰す気か!? それどころか偽札騒動を起こして経済を滅茶苦茶にしおって! 貴様、こんなことをしでかして只で済むと思うなよ。首を洗って待っていろ!』
相手は首相だったらしく、遠くに離れていても総理の怒鳴り声が受話器越しでも聞こえてきた
「あれ、どうするの?」
「どうにもならないよ」
会議が終わり、解散して皆が退散しても国防大臣は会議室で突っ立ったままだ。放心状態となっており、秘書官の呼びかけにも答えない。時雨は聞いたが、提督は肩をすくめただけだ
「寧ろ、浦田副社長の暗躍の影でコソコソと動き回っていたとはね。しかし、艦娘不要論か。大層な思想と思ったが、実際は資源確保や経済活動するための手段に過ぎなかっただけか。開拓ならまだしも軍民共に進出とはね」
提督は呆れ果てていた。人類の手で深海棲艦を倒すという思想は、いつの間にか自分たちの利益のためだけに戦っている歪な思想に成り果てていた
いや、国益優先は何処の国でも同じだ。ただ、国防大臣の行動は許されない事だ
「戦艦水鬼改はよく奪って経済戦争を仕掛けようと考えたね」
「あの偽札の製造機械の存在も集積地棲姫が奪ったものらしい。浦田残党にやられた事に根を持ったらしく、一泡吹かせたいために浦田結衣が暴れた隙を狙って探し持ち出したのだろう。経済戦争の資料も持っていったのだろう」
どうやら集積地棲姫がどさくさに紛れて紙幣製造機械を奪ったらしい。しかし、そうなると……
「深海棲艦は上陸して偵察していたことになりますね」
「でも、どうやって」
加賀の指摘に時雨は首をかしげた。深海棲艦は人の形をしているものの、人間社会に紛れることはできない
偽装はともかく、白い肌に頭に生えた角や赤目青目で直ぐに分かるからだ
「その点なら目星は着いているよ。恐らく戦艦レ級だろうな。子供のふりをして各地で偽札を使ったらしい。フードを被れば貧相な子供に見えるだろう」
杉田警部から聞かされた情報によるとフードを被った子供が鞄に大金を詰め込んだ姿を目撃されている。戦後の事もあって治安は悪く、金品を奪う泥棒にとっては絶好の標的だった。ただし、その子が持っているのは偽札だったが。泥棒が知らず内に偽札を使った事により御用されたが
「わざと襲われるふりをして鞄を捨てて逃げれば襲撃者は喜ぶだろう。まあ、それ以外にもやっているだろうが」
提督は考えるように言った。戦艦水鬼改は戦艦レ級が人間社会に溶け込める唯一の存在であると睨んでいた
実は朝潮は戦艦レ級らしき人物が街をウロウロと歩いているのを目撃していたらしい
そんな中、杉田警部と鶴川巡査部長がやって来た
「捜査のご協力ありがとうございます。愛媛県の〇×市の件は残念ですが、偽札騒動に関しては収束していく模様です」
「はい。……言ってはなんですが、深海棲艦が偽札を使った経済戦争を仕掛けて来なければ、国防大臣の陰謀を阻止できなかったです」
提督は正直に話した。実際に偽札騒動が無ければとんでもない歴史を歩んでいただろう
「でも、偽札が出回ったら中国は正史通りにブチギレますね」
「鶴川君、ちゃんと資料に目を通しましたか? 最後まで読みましょう*4」
鶴川巡査部長は何気なく言ったが、杉田警部は見逃さなかったらしい
「でも、何で国防大臣は軍民を海外に進出させたかったんだろう?」
時雨は不意に口走った。『艦だった頃の世界』では「満州は日本の生命線」と言われていた。国防大臣は過去に提督と艦娘達が教えた歴史を悪用した可能性がある。しかし、そこまでして満州に固執する必要性はあるのだろうか?
「それには幾つかの理由がある。日露戦争で手に入れたであろう満州鉄道利権を確固たるものにしたかったからだ。巨大な犠牲で手に入れたものを手放すのは惜しかったからだ」
提督は答えた。尤も満州事変は浦田重工業のせいで潰された
「第2に中国東北部の油田採掘*5と地下資源の入手だ。産業にとっては貴重な資源だ。それを手に入れるための事もある」
「遠征で細々と出来ないのかしら?」
加賀は呆れていたが、そう言う訳にもいかないのだろう
「第3に国防大臣が言っていた国内経済を立て直す事だよ」
「え? 海外に進出するのと関係あるの?」
「失職者たちを満州と内蒙古に送り出すためだよ。開拓という名の仕事を与える事が出来るから実行しようとしたんだ*6」
提督の説明に時雨は呆れていた。事情はどうあれ、こういう事実が周知されていないということは完全に独断専行である
「他にもロシアの仮想敵国として構える。農作物の生産を高めて国内の食料自給率を維持する、などといった事もある」
「中国はそのことを知っていたのですか?」
杉田警部は口を挟んだ。もし、これが実行するとなると歴史通りになってしまうと考えたからだ
しかし、提督からは意外な事を教えられた
「いや、中国は……新中国国民党からは治安維持を念頭に軍を派遣して欲しいと言ってきたんだ。内戦がひと段落したが、荒れに荒れてしまったらしい。蔣介石も毛沢東も浦田結衣に呆気なく殺されてしまったから国民党も共産党も消滅した事が大きかったのだろうが」
「あまり中国は介入したくない。史実のシナ事変が起こってしまうと?」
「親父……中将も元帥も反対の立場だ。海外進出した民間人を守るための戦力を送り込む力は無い。だが、金儲けに走る輩は納得しないだろうなぁ」
提督は頭をかきながら答え、杉田警部はため息をついた。どうやら、思っていたよりも頭が痛いものである。時雨も加賀もこれには何も言えなかった。確かに経済を立て直す事は大事だ。しかし、やり方がずさんであるのは見ての通りだ
浦田重工業という力が無くなったため国内経済が低下するのは分かるが、そのための過程として艦娘達も巻き添えを食らう羽目になってしまった。艦娘不要論は、海外進出するための軍備増強する口実に過ぎなかった
翌日、国防大臣は政界から引退した。総理の怒りを買ったとはいえ、逮捕されなかったのは奇跡に近かった。尤も、彼は今回の出来事で奥さんや息子にも見放され全てを失ったが
だが、提督の言った通り、国防大臣が立案した海外進出を全面的に中止した事で企業家達は大反発した
「何故中国に進出してはならんのだ!」
「中国に進出すればわが社は更に景気は上がるのに、政府は何故中止するんだ!」
企業家達は連日に渡ってそう叫び、マスコミも新聞に掲載して日本政府を批判した
お陰で政府は対応に追われたが、国防大臣の企みを知った中国側が激怒したことにより、企業家達もマスコミもぐうの音が出ず騒ぎは沈静化していった
「やっと収まってくれた」
「商売相手を怒らせたから黙っただけじゃが」
元帥も提督の父親である博士も呆れ果ててしまった。外交問題になってしまって金儲けが出来ないとなると企業も下手な動きは出来ない
また、一部のマスコミが艦娘不要論と唱えた者たちの本当の目的の事を報道したため、艦娘不要論を支持していた者はたちまち居なくなった。うん臭い専門家がテレビに出て艦娘を批判していたが、一緒に出ていたある芸能人からは「それは貴方の感想ですよね?」と突っ込まれてしまい反論出来なくなってしまった。政府の犬と嘲笑っていた人も操り人形だった、という皮肉を世間が知ることになった
そんな国内情勢に艦娘たちと提督は戦艦レ級を捕まえるため躍起になって探し回った
その頃には艦娘達のほとんどは完治して普段通り出撃が可能になったため、戦艦レ級を捕まえるのは容易だった
「さあ、観念しろ」
「食べ物の恨みを思い知って下さい」
「ア……アハハハ」
武蔵と赤城が鬼の形相で戦艦レ級を睨んでいた。偽札騒動で食料が高騰した事により満足な食事が出来なかった事に根を持っていたらしい。逃げる戦艦レ級に執拗に追いかけ回して捕まえたのだ
戦艦レ級は捕虜とし、戦艦水鬼改と交渉の切り札とした
停戦協定を再び締結するためだ。意外にも戦艦水鬼改は提督の要求を飲んだ
戦艦水鬼改は何を考えているのか分からない。ただ舌打ちをしていたとか
数日後……
「やっと落ち着ける」
「お疲れ様。時雨も頑張ったわね」
時雨は待機室の畳に横になり、扶桑はニコリとしながら時雨を見守っていた。色々あったが、ようやく落ち着ける
数人の艦娘がいるが、皆はおやつを食べたり、テレビを見たりしてにぎわっていた
「そうだよ。一か月休暇は欲しいよ!」
時雨は拳を上げた。何かあれば出撃するための部屋で時雨はその当番に当たっていたが、深海棲艦との停戦協定は結ばれているため大規模な戦闘はほとんどない
「全員とは言わないけど、みんなと何かしたいよ! ピクニックに行きたいよ! 佐世保へ行って慰安旅行とか!」
「時雨……はしたないから止めなさい」
「流石に無理があるっぽい」
時雨の叫びに村雨と夕立はため息をついた。いつ死ぬか分からない戦闘ばかりだとおかしくなってしまう!
尤も、時雨の場合は慣れてしまって感覚がマヒしているが
そんな時雨の叫びに提督の声が聞こえた
「ゆっくりしたいのは山々だけど、まだやることがある」
「まだあるの?」
時雨は提督が聞こえても顔の向きを変えただけだ。横にいた大淀が頭を抱えていたが、それは時雨の姿を見た反応だろう
「柳田親子の件だよ」
提督の指摘に時雨はあっ! と声を上げた。最近、柳田優子の姿はほとんど見ていない
「元の世界に帰っていないのですか? 簡易型のワームホールがあるのですから、直ぐに戻れるはずでは?」
扶桑は思い出しながら聞いたが、提督は首を振った
「そうなんだが、呉戦争で浦田結衣がこの鎮守府に向けてミサイルを乱射したせいで装置もろとも破壊された」
「え? それじゃあ、帰れない?」
時雨は起き上がった。柳田教授は兎も角、優子は元の世界に帰れない事になる
「だから、柳田親子は親父と共に元帥の所に行った。……ああ、心配するな。念のため陸奥も一緒に行かせたから柳田教授が暴走するようなことはしないさ」
提督は時雨だけでなく他の艦娘も不審そうな目で見られたため慌てて言った
柳田教授は確かに艦娘達の命を救ってくれた。しかし、彼の性格を考えると野放しにしておくのはよろしくなかった
「何のために?」
「それは後で知らせる。それよりもヨーロッパの情勢が分かったぞ」
時雨は質問したが、提督は答えなかった。何かあるのだろうか? が、ヨーロッパの情勢を聞いた海外の艦娘が反応し提督に詰め寄った
「教えてください! ブリテンは無事!?」
「フランスはまだ存在しています?」
「ドイツは東西に分割された?」
「ソビエト連邦が再び蘇ったのか!?」
ウォースパイトを初め海外の艦娘がこぞって聞いて来たが、無理もない話だった。戦争のお陰で情報が入ってこなかったのだから無理もなかった
「落ち着け。結論から言うとヨーロッパは無事だ。核も落とされていない。欧州もロシアも戦闘終結宣言をした」
「よ、良かった~」
プリンツオイゲンはほっとした。最悪の事態にはならなかったようだ
しかし、アイオワは違った
「アドミラル……それが事実ならヨーロッパは核搭載の爆撃機を全て撃墜した事になるけど、そんな事が可能なの?」
アイオワの指摘に騒々しかった部屋は嘘のように静まり返った
ロシアの凶行は既に皆は知っている。だが、ヨーロッパは核攻撃を防いだのか?
「そ、そうね」
ビスマルクも暗い表情になっていた。ベルリンやロンドンに核が落とされたら?
だが、提督は首を振った
「ああ、それはあるパイロットのお陰だ。正直言って俺も信じられなかったけど、ある人物が活躍したのを聞かされた時は納得したよ」
提督は笑いながら言った。皆が首をかしげていると、テレビの番組は変わりニュース速報が流れてきた。内容は何でも欧州の核攻撃を阻止した英雄を紹介する場面だった
「ニュースになるのは当たり前だな」
提督の呟きに皆は首をかしげた。時雨もだ。核搭載の爆撃機を阻止できる人間なんているのだろうか
ただ、ビスマルクの近くにいたグラーフ・ツェッペリンは違っていた。彼女は呟いていたが、その声は時雨の耳に届いていた
「まさか……魔王?」
提督「戦争だけでなく外交も国際社会も経済が必ず絡んでくる。別の視点から見れば、視野が広まるだろうし、認識も変わってくる」
時雨「だから、浦田社長は浦田重工業を立ち上げて経済王になったんだ」
提督「政治家なんて札束で殴れば意見は変わるからね」
村雨「戦争は悲劇しか生まないんですね」
提督「ガンダムなんて誕生してから40年も新たな作品が出る度に争いが起こる。それはなぜか分かるか?」
時雨「えーっと。流石にガンダムファンじゃないと分からない所もあるし、設定も作品ごとに――」
提督「簡単な事だ。理由は一つ。ガンダムのプラモを売り込むためだ」
時雨「……」
村雨「……」
時雨「身も蓋もない事を言ってはダメでしょ!」
提督「何言っているんだ?ガンダムだけでなくアニメ漫画の作品が出る度にフィギュアやグッズが出ているじゃないか。艦これだってフィギュアだけでなく企業とコラボしているのは企業戦略だからであって――」
村雨「メタ発言やめましょう、提督!これ以上はヤバいって!」
創作の世界だけでなく、現実の世界は経済ありきで争いは止めれないのが現状
現在、ウクライナ情勢は緊迫化していますが、中々解決しないものです(ドイツ海軍トップがやらかして辞任しましたが)
ちなみにガンダム作品は大好きです。「閃光のハサウェイ」も楽しめました