心よりご冥福をお祈りします
並行世界の日本
ある取調室に2人の男がいた。その人は手錠され、更に監視もいる。だが、その男は何も発しない
抵抗することもなく、囚人服を着ており、ただ黙って座っているだけだった
しかし、もう1人は社会人なのかスーツ姿である。そして怯えながらも叫び続けていた
「令状も出さずに監禁するとか軍国主義の道に走りやがった! 釈放されたらタダでは済まさんぞ!」
もう1人の男はワメいていたが、手錠された男は鬱陶しそうに言った
「うるさい。ワメいてばかりで鼓膜がイカれそうだ」
その男は呆れながらも言った。どうもスーツ姿の人は、理由もなく逮捕されたらしい。ある会社に帰宅しているところを令状も無く一方的に捕らえられたということだ
実は手錠されているその男はF-14のパイロットだった。日本の領空侵犯し、大島を空爆した挙げ句、空自のF-15Jと交戦したパイロットである。ただ、空自のF-15には敵わず呆気なく撃墜されたが
しかし、この取調室は異常である。本当なら一人に対して一部屋のはずだ。だが、纏めて調べるのは尋常ではない。そして監視役もいない。いや、数分前までは居たが、連れてくると退室して鍵をかけてしまった
鏡がマジックミラーであるのは知っていたため、散々罵ったが、反応は無い
そんな中、一人の男が来た。スーツ姿を見た人は警察官でなかった。黒いスーツは着ているが、肩には階級章が付いており、左胸には防衛記念章がつけられていた
明らかに自衛官だが、片方は啞然としていた
だが、もう一人は違った
その人を知っているからだ
「航空自衛隊の幹部の方が何か御用ですか?」
「そうですね。まずは相方のパイロットを水死体で見つけました。その報告ですね」
田村1等空尉が答えると、パイロットは露骨に舌打ちした
だが、田村1尉は無視して書類を取り出すと読みだした
「名前は
「間抜けだから手錠を外し素手で殺したまでだ。殺すなら殺してもいい。そのための覚悟は出来ている」
清水は楽しそうに言った。実はこの男、病院で意識を回復したのはいいが、数日で逃亡。武術に長けているのか、この男を捕えるのに20名の警官が重軽傷。その内、拳銃を奪われ撃たれたのが5名。裁判の最中に手錠を外し弁護士と裁判官を頭から叩きつけられ頭蓋骨骨折。民間人にも被害があり、結局は厳重に牢屋にいれられている
「軍法会議*1ですらない裁判なんてどうでもいい。問題ないだろう。もうじきここにも援軍が来る。楽しみだ」
「……」
「何を言っているか、分からないようだな。理解出来ないのは当たり前だ。F-14も我々の手で手に入れたからだ。もし、あれが完成すればすぐにこの日本を乗っ取る」
清水は楽しそうに言ったが、田村1尉は表情を変えない。寧ろ、鼻で笑ったくらいだ
「F-14の残骸を回収しました。あのマーク、ある宗教団体が使っていたマークですね」
「よく分かったな」
「別世界だと浦田重工業の社印でしたね」
「ん?」
清水は初めて顔色を変えた。浦田重工業? なぜ、この男は知っている?
しかし、田村1尉は清水を無視して話を進める
「数年前に退役し解体業者に依頼したはずのF-4や74式戦車が消えたり、何処かの国の大使館全員が殺されたりといった不可解な事件が起きた」
「……」
「こう言ったらどうかな? 長田3等陸曹を知っているか? 貴重な戦闘ヘリを奪い、そちらの世界で随分と好き勝手に使ったらしいな」
隣にいた男性は分からない風だったが、これを聞いて清水は啞然とした
が、それは一瞬であった。清水は我に返るとニヤリとし、田村1尉を睨みつけた
「そうか、あんたが裏切り者か。あの時はよくもやってくれたな」
「自分の正義に従っただけだ。よくもまあ、私が作った戦略シミュレーションゲームを使って別世界で軍事作戦を使ったな」
「あんたが浦田重工業について軍事顧問として雇われていれば、再び立ち直れたはずだ。通常兵器が効かない深海棲艦を操って海を支配し、長田警備隊長の指揮の元で陸を制圧していた。だが、空の支援は無かった。あんたが居なかったせいで!」
清水は睨みながら言った。捕まっているのにも拘わらず、田村1尉に嚙みついてくる
「国のためであり世界のためだ。そのために戦っている。経済で屈服させ、応じなければ武力で従わせるだけだ」
「世の中にはやっていいことと悪いことがある」
「なら、私がやっている事はやっていいことだ」
清水はそう言ったが、田村1尉はそうですか、と独り言のようにいっただけで何も言わなかった
どうせ分からないだろう
国内どころか国際社会を強引に引っ掻き回すほどの力を持ちながら、やっている事は悪に近い
また、たちの悪い事に悪と断罪することが出来ないのだ
ナチスドイツを呼称し非難出来るのは、アイシュビッツ刑務所などの悪行があり、公になった事から出来る事だ。だが、こいつらにはそれが通用しない。やっている事は最低かも知れないが、自分たちの行いを正当化するだけだ
例えば、広島長崎に原爆を投下したアメリカは「ソ連をけん制するため」として非を認めていない。少なくとも公には
「時雨や艦娘達はどうした?」
「さあ? 今頃死んでいるかもな。生物兵器を使った。そのウイルスはエボラウイルスというものだ。幾ら艦娘でも所詮は生き物だ。あの世に行っているんじゃないか?」
清水は楽しそうに言い、田村1尉の反応を楽しみにしていた。生物化学兵器は非人道的兵器というのはこの世界でも通用するのを聞いたからだ
いや、自衛官だけでなく警察などでも分かるはずだ
しかし、田村1尉は表情を変えなかった。それどころか、隣にいる人に話しかけた
「もう一人は、木下さんですね。なぜ、逮捕されたのかも分からないのですか?」
「な!?」
いきなり話を振られたため面食らったが、慌てて非難しだした
「お、お前たち自衛隊は何の権限があって逮捕した! 国家権力乱用だぞ! こんなことをしてただじゃ済まんぞ!」
中年男性……木下は叫んだが、田村1尉は無視してカバンから別の書類を出した
「
「は、はぁ!? 何の権限であって逮捕したんだ! いや、これは拉致だ!」
「心配しなくてもあれは訓練ですよ。邦人保護と言う名の」
田村1尉のとんでもない発言に木下は激昂したが、彼は淡々と答えただけだ
「何のために拉致をしたかって? それは自衛隊に喧嘩を売ったからですよ」
そう言いながらICレコーダーを置き、再生ボタンを流した
『……私です。はい……今回の法案は否決に追い込みますよ。スパイ防止法もテロ対策改正法案も。邪魔な議員がいますが、始末するのでご安心下さい』
実は木下はスパイだった。どこの国かは不明だが、太いパイプと繋がっているらしい。金が入れば、陥れる報道をするのだ
そもそも政治においてマスコミは切っても切り離せないものである。レッテル貼りや印象操作も容易である
だが、彼は一切動じることなく、それどころかニヤリとした
「フッ。大方、盗聴したんだろう。確か、お前はサイバー担当だったな」
「電波を割り出せば簡単に盗聴は簡単に出来る。犯罪ではない*2。連絡するなら有線電話にするべきでしたね」
「そんな事は知っている。法の穴をくぐり抜けて良かったねぇ。それで? スパイだったとしても一体何の罪だ? 大体、そんな証拠幾らでももみ消せるんだから。私は何も悪くないぞ!」
木下はそう言ったが、彼は書類を叩きつけた
「これを見てそう言えますか!?」
田村1尉は机の上に書類を叩きつけた。それは数年前に海外派遣された基地が攻撃に遭い、殉職した自衛隊員28名。また、密告によって無実にも拘らず、拉致拷問によって死亡した日本人4名
どれも木下の密告したお陰である
「私が以前に狙撃されたのも貴方の密告だった」
「うるせぇ! 日本人がいくら死のうが知ったこっちゃねぇんだよ! お前もあの時に死ねばよかったんだ!」
木下は反省の弁が出るはずもなく、終始日本を愚弄するだけだった
「そうですか。もう時間なのでいいです」
「な、何をする気だ?」
木下は少し慌てたが、田村1尉は腕時計を見ながら言った。いや、腕時計ではなかった。袖で隠れていたせいで分からなかったが、彼が腕に付けているのはスマートウォッチだ。しかも、通話機能付きの奴だ
画面は一瞬だったが、通話画面になっている
「そういえば、なぜ取調室に2人いるか分かりますか? お二人の人生を最後まで仲良くするためです」
「はぁ?」
木下は首を間抜けな声を出したが、田村1尉は立ち上がった。もう用は無いという風に
木下は混乱したが、清水は違った。外からけたたましい足音が聞こえてきた
「残念でしたよ。貴方たちが二重スパイと二重工作員だったなんて」
田村1尉が言うと同時に複数の武装した5人が入ってきた。黒い軍服に腰には拳銃。顔は黒マスクを被っており、切れ目から目が出ているだけでは誰なのか分からない
が、肩には五光星が描かれた赤い国旗がある事から木下は見る見るうちに真っ青になった
「いやー、貴方が必死に密告していた国に二重スパイであるのを伝えると、激怒して殺し屋を送ってきましたよ。見せしめにしてやると。輸送機の手配に苦労しました。輸空隊に後でお礼を言わないと」
「ふ、ふざけるな! こ、この国にぐ、軍人を招き入れたのか! 武器までも……! 待て! 私は二重スパイなんかじゃない! お前ら! こいつに騙されるな! 私は本当にあなた方の国を愛しているんだ!」
木下は椅子から転がり落ちながら逃げようとしたが、取調室はそんなに広くない。壁に張り付きながら懇願した
一方、清水は目の前の殺し屋がいるのにも拘わらず笑っていた。
「殺してもいいぜ。別世界で最強の軍隊が来る。それまであんたは生き残れるか? 家族がどうなるか楽しみだな」
清水は笑っていたが、田村1尉は表情を変えなかった
「木下は別にいいが、あんたはこの世界の人間ではない。どっちの世界の法で裁かれたい? その選択で人生が変わるぞ?」
「どうでもいい。あっちには武田は頑張っている。私を殺しても変えることは出来ない」
「そうか……それなら俺も学んだよ。スパイや工作員に人権は要らないと。非情だが、やむを得ない。例え、俺の友人が死にかけたとなればな」
田村1尉はそう言いながら立ち去ったが、清水は狼狽した
(まるで俺たちの世界の事態を知っているような……)
浦田社長や長田警備隊長からこの世界について聞かされた。ここは平和だが、平和ボケで工作行為には甘いものだと。例え警察がやってきても人権を全面的に出せば引っ込むと
なのに、裏切り者である航空自衛官の表情は変わらなかった
「止めろ……止めてくれ! 大体、俺が二重スパイの証拠だって何一つないだろ?」
木下は隅の方で泣きながら懇願したが、5人の殺し屋は拳銃を構えた
が、その内の一人がマスクを脱いだ
殺し屋の顔が露わになったが、清水は冷水を浴びせられたように驚いた
知っている人だ。名前は知らないが、誰だか分かる
502部隊の曹長がなぜここにいるんだ!?
「その反応だと、俺を知っているな。よくもF-14や生物化学兵器で俺たちの基地に攻撃してきたな。安心しろ。時雨は田中湊と浦田結衣を地獄に送り返した。武田とお前は俺たちの手で地獄へ送ってやる」
「クソッタレー!」
清水が叫んだと同時に銃声が鳴り響いた。銃弾が清水と木下を貫通し絶命した。木下は最後の場面で事態が把握できていなかったが、そんな事は関係ないだろう
「偽装と暗殺お疲れさん。本当は引き渡したかったが」
「他国の軍人の真似はダメじゃなかったのか?」
「泣き寝入りする訳にもいかない。それに極秘で始末したいと要望があったからそれに応じただけの事。警察も検事もお手上げだったからな」
「なるほど。しかし、あの顔は傑作だった」
車の中で田村1尉と曹長が話していた。4名の部下も一緒だ。なぜ、別世界の住人である502部隊の人達が居るのか?
遡ること数日前
硫黄島の航空基地の滑走路に異様な霧が出現した。その霧は意志があるかのように基地を覆った。その霧は磁気を帯びているらしく、管制塔のレーダーに奇妙なエコーがあちこち映ったのだ。気象班に問い合わせても霧が発生することはないと言っていた
空自海自の幹部は首を捻った。この基地には数回足を運んだことがあるが、こんな奇妙な霧は初めてだ
やがてその霧は扉のようなものを形成したかと思うと、人が出現した。靄で見えないが、自衛官ではないのは確かだ
あまりの突然の出来事により慌てたが、直ちに海自は特別警備隊。空自は基地警備隊を出動させた
「硫黄島の合同演習の時期でよかった」
基地司令はそう呟いた。先日に所属不明機F-14が領空侵犯した事により、防衛を強化するため硫黄島で演習を行う予定だった。陸自の戦闘部隊はまだ到着していなかったが、テロ相手なら警備隊で十分であろうと判断した
軽装甲機動車を盾にして89式小銃や5.56mm機関銃MINIMIを向けていた
現れたのは数人の集団だ。旧日本海軍の軍人士官と思わせる軍服を着こんだ男性と奇妙な恰好をした兵士姿。そして女性だった。何やらおかしな武器を持っているが
「あ、あんた達は何者だ!?」
「僕達は敵じゃないよ! 聞いて!」
獣耳状の外ハネの髪型をした女子中学生のような人が必死に叫んでいたが、基地警備隊長である小泉3尉も含め警備隊の人達は驚いた
銃を向けられていても全く動じようとしない。テロリストなら過激な行動をとるか人質を取って交渉させようとするかのどちらかだ
活動家なら「人殺し」などといって妨害行為をしそうだが
だが、目の前の人達はどれも当てはまらない。ミリオタによるコスプレではないかと疑ったが、そうでもないようにも思えた
そんな中、飛行格納庫から誰かがやって来た。周りが止めようとしているが、足が速い
迷彩柄からして空自の人間で、しかも階級は1尉だ
「大丈夫だ! こいつらは怪しい奴等ではない!」
「え? 一体、何を──」
「良いんだ! 基地司令には伝えてあるから!」
小泉3尉は止めたが、幹部は警戒を解くよう言ったのだ。しかも空自の幹部が走っているのに、息はそんなに荒くない事から運動はやっているのだろう
それに確かこの幹部は……
そんな時、無線から連絡があった。驚くべき事に内容はほぼ変わらなかった
「……分かりました。今から案内させます。さあ、こちらに」
小泉3尉は正体不明の集団についてくるよう言ったが、女子中学生らしき人が駆け寄ってきた
「時雨……こんな形で再び会えるとは思わなかったぞ」
「こんなところにいるなんて驚いたよ!」
「合同演習に駆り出されたんだ。そんな事より、やって来たということは、あの件だな」
時雨は抱き着いて来た。会えたことに喜んでいるらしい
「……あの田村1尉? この人達は?」
「詳しい話は後でする。簡単に言うとF-14の後始末で来たようだ」
「では、あの噂は本当だったんですか! 領空侵犯した戦闘機は神隠しにあったのって!?」
「多少違うが、そういうところだ。SFのタイムスリップの逆バージョンだ」
田村1尉はそう答えたが、基地警備隊長である小泉3尉は混乱した。神隠しは都市伝説か何かだと思っていたが、本当だったのか?
その後の事は大変だった
これは田村1尉から聞いた話である
実はF-14の領空侵犯した数日後、田村1尉は幕僚幹部の前で過去の事件である宗教団体と浦田容疑者について話した。最初はバカにしているのかと怒られ正常ではない判断されたが、飛行機の模型を使って実践を行い、更には写真を見せた
そう。それは時雨が持ち込んだお土産だった。お土産の中に搭乗妖精も混じっていたのだ。本来は田村1尉を守るために派遣されたらしいが、どうやら彼も見えたようだ
妖精さんも彼がこちらに見えた事により困惑したが、今では仲良くやっているとの事だ
写真や妖精の存在に上層部は驚き、更に過去に行方不明となったAH-64Dアパッチや無人機などが突如現れ、整備士の証言は驚くべき内容だった。特に74式戦車には何らかの整備がされ稼働された痕跡があり、MQ-9リーパーは明らかに改造された跡があった。ガンカメラも内蔵されており、戦闘映像も回収された
また元教団で刑務所にいる者の中に「別世界へ行った」と証言した者も報告された
当初は精神錯乱したと判断されたが、今では重要な証人である。但し、彼らがやった事については戦争犯罪だが
逮捕された中には物理学者もいた。ワームホールを管理する人だったが、この人の証言は悩まされたらしい
「多次元宇宙の概念です。この宇宙は一つではない。事象の違う無数の世界が折り重なるようにして存在しているという説です。いえ、実在したのです」
勝手に喜んでいる物理学者の説明に上層部は聞き流した。内容が付いていけないからだ
取り敢えず、平行世界は空想の産物ではない事だけは理解したようだ
そして数ヶ月後、所属不明のF-14が領空侵犯した。パイロットは捕まったが、言動は兎も角、異世界からきたという証言の信憑性は増してきたのだ
そのため彼の証言は陸海空の上層部で共有された。流石に世間には公表できるものではなかったため、しばらくの間は機密扱いとなった。その間も上層部は別世界について報告するよう言ってきた。特に陸自は長田元3等陸曹の行方を知りたがっていた。何しろ、攻撃ヘリを奪った事に未だに根を持っているようだ
月日が過ぎ合同演習が行われようとしている中、時雨達が現れた。このファーストコンタクトにより、早速実行に移した
まずはF-14のパイロットの対応である。身柄は拘束されているが、残念ながら自衛隊には軍法会議は存在しない。しかも、捕らえたのは正規軍の空軍パイロットではないため扱いに困っていた
身柄を引き渡そうとしたが、田村1尉は違った
「この世界で処刑しましょう。何かあっては遅いです」
田村1尉は提案した。上層部は渋ったが、反省しない戦闘パイロットを裁く必要があるため一芝居をすることにした。同時にスパイを処分することにした
浦田社長と仲が良かった木下についてだ。マスコミ界で有名だが、密告している事は掴んでいた。何よりも海外派遣で亡くなった自衛官や民間人もいる
流石に自衛官だと何時かはバレるため、別世界から来た特殊部隊が某国の軍人に変装して始末することにした。武器も警察が暴力団などから押収した銃を使った。木下からは慕った国の殺し屋に殺されると思い込むだろう
勘のいい議員やマスコミが嗅ぎ付けても、その時には彼らは既にこの世界にはいない
「某国の工作員によって殺害された囚人はスパイだった、とニュースに出ても国際社会から非難されるんじゃないですかね?」
「抗議はするが、本気になって批判はしないだろう。そんな事をしたら、木下は某国が雇ったスパイであると自ら言うようなものだ。あれは我が国の工作員ではない! と言われることはあるが」
「でも、本当は個人的な恨みもありますよね?」
車の中で曹長は聞いたが、田村1尉は何も言わなかった。言わなくても分かっている事だからである
そして着いた先は入間基地だった
基地に入門してある場所に向かうと、そこでは歓迎会をしていた
時雨は楽しんでいた。艦娘の数人は来て、一部ではあるが、この世界の自衛官と交流を深めていた。流石に基地の外に出て観光は無理だったが、基地内でも楽しめていた
夕立と白露は田村1尉の奥さんに挨拶をし、鳥海と足柄は彼の上司である宮島3佐と話をしていた。天龍龍田は披露宴で自衛官達を驚かせ、隼鷹はなぜか酒の飲み比べをしていた。相手方も酒豪だったらしく、持ち込んできた酒の半分は無くなる勢いだ。そんな騒ぎの中、提督も幕僚長たちと話をした。提督の世界の歴史を伝えたが、彼らは複雑な思いだった
「太平洋戦争は起こらなかったが、深海棲艦という未知の敵と戦うのか」
「ええ。誰かさんが引っ搔き回したせいで未だに課題はありますが」
提督は輸送機からとはいえ、窓から海を見た。深海棲艦が居ない海は新鮮だ。だが、居なくなったため人類同士はいがみ合っている
「つまり、その……原爆投下も神風特攻隊も」
「起こっていません。ですが、別の形で行われました」
提督はそう言った。艦娘が浦田結衣と挑む際、ヤケクソになって自爆攻撃しようとした艦娘が数名いたのは事実である。また、原爆投下も史実とは違う形となって刻んだ
ただ、こちらの方は数発の核ミサイルを撃ち込まれたのをギリギリで迎撃した、だった。もし、これらが炸裂すると被害は広島長崎の原爆投下の比ではないだろう
「こちらが回収したF-14はお渡しします。ただ、1機は観賞用として保管しますが、それでよろしいですか?」
「分かりました。それで長田3等陸曹について……」
イランからは事の真相を公表するよう催促が来ている。事実を話すかどうかは上層部の判断だろう。尤も、真実を話してもイラン空軍は受け入れるかどうか……
提督は難しい話をしている中、田村1尉の妻と娘さんに挨拶をした。まだ幼稚園児であるため、この事について理解するのに時間はかかるだろう
「時雨ね。初めて聞いた時は、信じられなかったわ」
彼女はそう言ったのも無理は無かった。超常現象なんてオカルトなのだから
そんな時、田村1尉がやって来た。一緒に来た502部隊の曹長と一緒に何か重要な仕事をすると言っていたが、何なのだろうか? 提督も説明はされていなかったが、浦田社長に関わりある人との尋問に手伝ってほしいと言われただけと聞かされた
「仕事は終わったの?」
「終わったさ。さて、明後日には君たちは帰るらしいが、別世界とはいえ楽しんでいこう」
田村1尉は曹長に目をやりながら言うと、机の上に合ったグラスに酒を注ぎ入れた
(時雨、君はスパイや工作員について知らなくていい)
田村1尉は心の中で呟いた。この世界の日本はスパイを取り締まる法律が無い。特定秘密保護法はあるものの、処罰対象は公務員でありスパイ活動をした者を処罰できないのだ
法律に書かれていないのには実行できない。それはこの国の方針である
502部隊という特殊部隊は、後始末するよう実行した。機体は兎も角、逮捕したパイロットも元々は時雨が居た住人だ
その始末を異世界の住人がやるのは当然かも知れないが、同時に密告者も始末するよう上に掛け合った
スパイ行為をしたおかげで被害はあったのだ。やっている事は許されることではないが、かといって放置するのは別問題だ
法律は自由を縛るルールでもあるが、法律は国家と国民を重大な危険から守ってくれるものである。確かに自由や人権は守られるべきだが、スパイ活動を許す理由にはならないし、許される行為ではない
今回の事でスパイ防止法は制定されるだろう。浦田の後始末によって実現できなかった事が実現可能になるのは皮肉な話だ
憲法改正は流石に無理だが、自衛隊法は改正させるだろう
(ともあれ、無事で良かった。しかし、生物化学兵器をどうやって乗り切ったのだ? エボラウイルスと言っていたが)
清水は生物化学兵器を使ったと言っていた。しかし、艦娘である天龍や大和の話によると、腕が立つ大学教授に助けられたと言っていたが
だが、エボラウイルスは確か致死率が高いと聞いていたが……
(まあ、凄腕の科学者が居ても可笑しくは無いか)
彼はスマホでググるを止めて宴会に加わった。時雨達がいるのは明後日まで。それまで交流を楽しむのが先決である
没ネタ
田村1尉「質問があるが、ソ連のスパイであるゾルゲはどうなった?パソコンに資料を載せていたが」
提督「あー……聞いた話ですが、彼は正史よりも悲惨な末路に遭いました。浦田重工業を調査しようとソ連に命じられましたが、警備隊長と浦田結衣が全員捕まえた後、浦田結衣の拷問で苦しめられながら殺害されたようです。強気になっていたゾルゲも深海棲艦のパワーと残虐な性格の持ち主によって最終的に精神錯乱して死んだとか」
田村1尉「そんな奴に時雨は拷問されたのか?」
提督「他に数名いるんだ。ソ連が早くも崩壊したのも報復とか」
田村1尉(「世界の共産党万歳」と言わなかったどころか英雄になって映画化にもなって無さそうだな……)」
余談ですが、スパイ罪は海外では重罪である
アメリカ……連邦法典794条により死刑
イギリス……国家機密法1条により拘禁刑
フランス……刑法72条73条により無期懲役
スウェーデン……刑法6条により無期懲役
ロシア……刑法典64条死刑
中国……反革命処罰条例により死刑
etc
である