そして割とダイジェストです。
千空たちはあの日、イシガミ賞なるものを受賞した。それはこの世界に大いに貢献した者に贈られる、文明が復興した証と言ってもいいだろう。千空は名前をもじり『Dr.stone』と呼ばれるようになるし、ここでタイトル回収か!と胸が熱くなったのはまだ記憶に新しい。むしろ彼が新たな復活者たちにそう呼ばれるたびにヴッと胸を押さえているのが私でもある。最初こそ怪訝な顔をしていた千空だが、最近では慣れたようでまたかと言って笑うまでに進化した。
その顔の良さにまた胸を抑えることになるのだが、どうやらそれも千空にはツボらしい。
賞を取った翌年にはアラシャへ向かい大量のメデューサを入手し、それを分解し構造の調査を始めることにもなった。無論その旅路に強制的に連れて行かれた私であったが、言葉とおり山のように積み重なるメデューサを前に『死体の山だ』なんて言ってしまえばとてつもなく怒られたのである。思ってもいうなと。
でもまぁ、私とホワイマンは周りの皆様と違い仲良くないわけで。喧嘩を売ったようなもので。
『お前は仲間の遺体を前にそんなことを言えるのですか』
「勝手に自死しにきたのはそちらでは? 嫌だったら石化解く機能もつけときゃよかっただけでしょう。あー、これだから有能なパラサイト様は困ったものですねぇ」
「落ち着け、茉莉」
「チィッ」
とまぁこのようなやり取りは何度もあった。
ホワイマンに喧嘩を売るなと千空とゼノ、他のメンバーから言い聞かされた私であったが、未だにそれを止めることはない。一度何故恨み言ばかり言うのだとコハクに純粋に問われたが、ちゃんとみんなが恨まないからと答えておいた。
「千空とゼノはホワイマンの技術に惹かれているし、他の科学者も技術者もそうなんだと思う。だからといって、勝手に文明滅ぼしたやつを許しちゃ駄目なんだよ。アイツ、反省しないでまた良かれと思ってなんかしでかすよ? 石化のおかげでコハクちゃんたちと出会えたのは嬉しいけど、未来ちゃんのように病気が治った人達がいたのはいいことだけど、誰か一人でもちゃんと恨みを持って接しなきゃアイツは悪いことをしたって思わない。人類と共存するならそれは駄目でしょ。だからみんなが恨まないなら私が恨む。そういうの、私の担当では?」
そう言ってシャーとホワイマンに威嚇行為をしてみればいつも私に対して口うるさいホワイマンは何も喋らなくなった。もしかして思うところがあったのだろうか?
だがしかし、千空とゼノはにっこり笑って頭を撫でるのはやめて。子供扱いするなと反抗したところで生暖かい目で見てくるのだ。チクセウ。
まぁ、その言葉があったから喧嘩を売っても誰も止めなくなったし、ホワイマンからも喧嘩を売られるようになった。でも私に対してだけすぐ石化光線放とうとするのはおやめになって? それ、人類はモラハラというのよ?
その後は大量のメデューサをバラバラシタイにしつつ技術を取り込んでいき、千空たちは旧石神村に復活した科学者を集めてとある会議を行ったのである。そしてその計画を言い出した千空に流石の私も驚いたが、当たり前のようにやるしかないかと頷き同意した。何せ千空は元から人類をまるっと救う気でいたのだから、それがとてつもなく壮大なクラフト計画になっただけなのである。頷かないわけがない。
「──テメェはもうちぃと考えようとしねぇのか?」
「ん? 千空がやるっていってるのに? やらないの?」
「いや、やってやるわ」
「でしょ?」
「……君らを見てると親近感が湧くのは何故だろうね」
それはねきっと、ゼノがスタンリーと似たような行動をしているからだよ。
やれるかスタン、できんね。そのやりとりを何度見たことだろうか。大抵の人は私と千空、スタンリーとゼノは似たもの同士と分類しているという事実を知ったのは、つい先日のことである。
私、三人よりも平凡な人間なんですけど同類なんですかね?それはそれで嬉しくあるけれど、本当にそれでいいのか?
そんなことはさておき、壮大なクラフトの話に戻そう。
もちろんその計画が壮大すぎて中にはできやしないと声を上げる科学者もいたが、そこで出番となるのがホワイマンなのである。人工知能搭載済みの小型装置。それも石化機能付きなんてものが目の前に置かれてしまえばもう文句は言えない。言ったものなら正論で論破(千空とゼノを加えた三人で、だ)されてしまうのだから自尊心が破壊されてしまうだけ。
できない。そうですか。で諦めるような人だけだったのならば人類はここまで文明を復興できてはいなかった。諦めていたのならば、それこそタングステンは発見されておらずルリの肺炎は治らなかっただろうし、日本はアメリカの、ゼノの統治下にいずれはなっていただろう。そこら辺のことについて今更追求するつもりはないが、できないと言う奴らは黙ってついてきて欲しい。私たちはいつもそうしていたのだから、郷に入っては郷に従ってくれたまえ。できてねぇ奴らはできることをしてりゃあいいんだよ、それが千空パイセンの方針ですからね。
そんなことがあり壮大クラフト、もといタイムマシン開発プロジェクトチームが発足したのが今年の一月。
そして今はそれから三ヶ月経った四月である。人によっては薄着に衣替えしており、めでたい日を祝うにはもってこいの環境でもあろう。リンゴンと真新しい教会の鐘は鳴り響き、ウェディングロードを歩く彼女の姿に思わず私は胸を押さえた。
「ヴ、尊い。お布施しなきゃ」
「権利書を投げようとしてんじゃねェよ、いい加減にその癖やめろ」
「だって尊いからお布施しなきゃ?」
「言ってる意味変わってねぇぞ? 落ち着け茉莉」
男泣きしている大樹と、父親の手を離してそんな彼の元へ向かう杠の姿に歯を食いしばる。私はこの幸せを見るために生きてきたのだと、心底思えてしまうほどあのカップル。もとい夫婦が大好きなのだから仕方がない。
「かわいい、きれい、尊い、大好き、幸せになって」
「語彙力どこいった?」
「そこになければないですね」
私もそんな掛け合いも千空と出来るくらいの仲にはなったが、いまだに顔を直視することはできない。だってヴィジュがいいのだもの、致し方がない。
誓いのキスをみて胸を押さえ、そして"両手"で拍手をする。パチパチと他のみんなと大差なく機能する腕を作り上げてくれたのは、千空やゼノ、ブロディといった科学チームであった。なかでもブロディは石化前からそういった知識があったようで、知り合いを起こして開発の舵を取ってくれたと聞いた時には泣きそうになったものだ。まぁなんというか、半泣きになったら千空に隠されてしまったのが正解なのだけど。
詳しいことはわからないが残った二の腕部分を一度手術し、標的筋とやらを再生させ油圧式の義手をつけるとそれっぽく動く義手を作ってくれたのである。
手術も手術でそれなりの医者を叩き起こしたらしいし、ホワイマンさんに四度目の石化もさせられた。そんな最新技術いらないと一度は断ったのだが、プロトタイプだからと押し進められてしまえば文句など言えるわけもなく。
人っぽい義手、というよりかは厨二病が憧れる機械鎧風義手が今の私にはくっついているのである。それなりに訓練もしたからヌルヌルと動かせるようになったが、後世の役に立つのならちゃんと報告書も出し続けよう。なによりかっこいいしね。
そんなことはさておき、本当にさておき。
目の前で幸せそうに笑う二人に対して、私は本当におめでとうと叫びたい気持ちでいっぱいなのである。何せあの日、石化する直前まで二人の恋路を見守っていた人間でもあるのだ、嬉しくないわけがない。杠の両親が見つかった日の夜は千空に抱きついて号泣したし、結婚すると二人並んで赤らんだ顔で報告された際には失神した。それはもちろん嬉しくて、もう出来る限りのことをさせてくれと懇願し、二人が困惑するほどでもあった。ならば式の日に一緒に写真撮ろうね!と約束されてしまいグヌってしまったが、それが二人の結婚祝いとなるのならばと頷いたのは事実でもある。
だがしかし、そうだがしかし!
こんなことになるとは思ってやしなかったのだ!
「え、ちょ、えぇ? まって? いや、まって?」
「ごめんね茉莉ちゃん! 待たない!」
式が終わったその際にグイグイと新婦である杠に壁際へと追いやられ、捕まった挙句に連れてこられたのは教会の一室。そこに一着のドレスがトルソーにかけられていた。これは一体なんなんだと疑問に思っていれば、杠はこれまたいい笑顔で茉莉ちゃんのだよと理解しきれない言葉を投げかけてきたのだ。
「へ?」
「写真、取ってくれるんだよね? 一緒に」
「え、まぁ、ハイ」
「じゃあ着替えようか!」
「ん⁉︎」
ちょっと待って、なんて言わせる気のない笑顔で杠ちゃんの圧が強いこと。
もしかして念入りにアマリリスがメイク直しをしてきたのも、未来が髪を結い直したのも全部計画的犯行だったりします?
え、はい、そうですか。みんなご存知で……。
「でも安心して? 茉莉ちゃん写真好きじゃないでしょ? だから映るのは私たちと茉莉ちゃんたちの四人だけです! 現像も四枚だけ! 写真撮るのはプロの南ちゃんだけど……」
「それは、まぁ、仕方がないね……。撮らせろ撮らせろ五月蝿かったから、これで勘弁してもらお」
プリンセスラインのボリュームがあるドレスは、なんというかまぁあれで。これはまさかウェディングドレスではと問いかけてみればにっこりと頷かれてしまう。義手との境目を隠すようにパフスリーブの袖にはフリルがあしらわれ、黒のロンググローブまであるとは用意周到ものである。いつから用意していたのかとためしに聞いてみれば、杠達の結婚が決まった直後から千空に頼まれていたそうな。
「色もね、白じゃなくて黒がいいって千空くんの指定でね! 薔薇の刺繍とか手芸チームで頑張っちゃった!」
「……自分のドレスに手間かけた方がいいのでは?」
「なんと! みんな茉莉ちゃん達お祝いしたかったってニコニコ刺繍してくれました! 絶対式とかしなさそうだから、千空君に頼まれて張り切っちゃったの!」
にっこり笑う杠に、式をしないわけではなくて、する必要がないとはとてもじゃないけどいえなかった。
式ってのは杠と大樹のように籍を入れる予定のある人がするものであって、その予定が未定のままだった私には必要がなかっただけである。役所もそういった手続きももうあるけれど、プロポーズまがいのことも何回かされたけれど理由があってギャン拒否してますし。こんなことがなければドレスなんて着るつもりもなかった。
でもそれも多分、今日までだろうなとも思っているのだけれども。
「はい、出来た! 茉莉ちゃんは黒が似合うね!」
「ウン、アリガトウ」
「じゃあ行こうか! これ持って!」
「──ブーケ?」
「うん! 本当に千空君、茉莉ちゃんのこと大好きだよね!」
にぱっと笑う杠が渡してきたのは黒い花で作られた花束。いつぞやの造花を思い出すそれだが、これはちゃんとした生花である。
よく黒い花なんて見つけられたなと思っていれば、杠はさらに爆弾を落としていく。これもまた千空が用意していたものなのだと。
「私がいうのもあれだけど、千空君の愛って重いね……」
「それはそう」
黒い花、特に薔薇なんて見つけるのにどれだけの人員を導入したんですか?知りたくはないけれど。
クリスマスといい綿飴といいアイスといい、こういったイベントごとを嫌がらないよなと思いつつ部屋を出てみれば、そこには大樹とともに千空が待っていてくれていた。
それも千空は黒のスーツを着ているではないか。
「ヴッ」
「いつもの発作か。ククク、ほんとキリねぇな」
ヴィジュがいい。百億点。
胸を押さえて悶えていれば喉を鳴らした千空が手を伸ばして待っていてくれている。一度深呼吸をして心を落ち着かせ、その手を取った。
時は夕暮れ間近。
藍色の空と茜色の空が入り混じった空の下、私たち四人は並んで写真をとる。ハンカチを噛み締め悔しそうな顔をしている南は、これを機に写真に写りなさいと言ってくるが首を縦にすることはない。いくら今が平和でも、私は他の誰かの記憶に残りたくはないのだ。
少なくとも千空の隣にいる以上、注目を集めることにはなる。故に下手すれば歴史に名前が残るなんてたまったものじゃない。
「少しぐらいいいじゃない!」
「ヤダ!」
「もう! 千空から何か言ってよ!」
「俺の手元には残るしな、問題ねぇ」
「ちょっと⁉︎」
言い争いになる前に写真撮っちゃってよと、珍しく私が催促すればグヌグヌ言いながらも南はシャッターをきった。
「──茉莉」
「なぁに?」
不意に名前を呼ばれて千空へ視線を移すと、千空は私の左手をとる。そして当たり前かのようにそれを薬指に嵌め込んだ。
「──形見分け、な」
「へ?」
きらりと夕陽を反射したのは装飾のないシンプルな指輪で。
「これ持ってりゃいざという時復活液作れんだろ」
「ミ゜⁉︎」
百夜が千空のために集めた、プラチナで作ったリングでもあった。
なんでそんな貴重なものを使ったのだと問い詰めると復活液作るのにはプラチナがいるし、私もそれを作れるわけだから分担して持っていた方がいいとのこと。そんな問題じゃないんだけどな。
「──ククク、デカブツも籍入れたわけだし、これでもう拒否られる理由もねぇ」
「う、ぐ……」
「それはどういうことだ?」
「私たちが関係してるの?」
「テメェが結婚しねぇ限り籍も入れねぇって駄々こねてやがったんだよ、コイツ」
「ワォ!」
「だ、だって──」
大杠は公式カップルだぞ? それより先にとか、おかしいだろ普通に。
「ならこれで千空と茉莉も夫婦になるということか!」
「なんですって⁉︎ちょっと記事書かせなさい⁉︎」
「ヤ、ヤダー‼︎」
目立ちたくない、嫌だと南の要望には首を振ったが、大樹の言葉は否定しなかった。というか、出来なかった。
何故ならば今朝方、式に出席する前に届けは書かされていたので。
ドレスのせいで南から逃げられなかったが、そこは喉を鳴らした千空が一応庇ってくれた。記事を書かせるつもりも無ければ、写真を撮らせるつもりもないと。世間様に晒す気はないと言い切ってくれたゆえに、安堵の息を吐く。
「必要最低限の人間には知らせっから問題ねぇだろ。それによく考えてみろよ、そんなことしたらコイツぜってぇに逃げんぞ? 人目につかねぇよう雲隠れすっけどいいのか?」
「うっ──、わかったわよ!」
会えなくなるのは嫌だし。
悔しそうに言いながらも諦めてくれた南にも感謝である。
「茉莉! アンタちゃんと幸せになんのよ!」
「すでに幸せで吐きそう」
「吐かないのっ!」
幸せの過剰摂取で吐くのは今のところ私だけだと思うけど、そのうちわかってくれる人が増えてくと信じている。オタクは知らぬ間に増殖する生き物だから。
かくして、まん丸のお月様が見守るさなか、私は『石神』へと姓を変えることとなったのである。
「月が綺麗だね」
「──テメェと見るから、尚更な」
なんて、二人並んで夜空を眺める日々が続きますように。
以下補足。
黒のウェディングドレスの意味→あなた以外の色に染まりません。
黒の花束→永遠の愛。
黒の薔薇(刺繍)→あなたはあくまで私のもの。
重いねぇ。
月が綺麗ですね→あなたを愛しています。
あなたと見るから綺麗なのです→相手を特別視、一緒にいる時間が大切。という返し方。
といえず絵が書きたいので、今後の更新はちょっと時間があきますー!夢子のウェディング描くんだぁ!