メインヒロイン面した謎の美少女ごっこがしたい!   作:バリ茶

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メインヒロイン面する

 

 

 

「父さん。ペンダントを改良してくれ」

 

 早朝。

 母さんの弁当を作っている途中の、猫さん柄エプロンを着た父親に対して、俺は朝一番に突飛な頼みごとをしていた。

 俺の父親は現在専業主夫で、朝は毎回こうして母親の弁当を作ってから、俺と母の三人で朝餉を囲むことが日課になっている。今は弁当の完成待ちの時間だ。

 極端に朝に弱い母が起きてくる前の、この二人きりの時間を使うことでしか、こんな頼み事はできない。

 

 父さんはフライパンでウィンナーを焼きながら、一瞬クイっと眼鏡をあげ、その鋭い眼光をこちらに向けた。

 

「何があった、アポロ。聞かせてみなさい」

「うん。実は──」

 

 

 回想タイムへゴー。

 

 実はレッカの家で昼食を作ることになったあの日から、既に一日が経過している。

 昨日、俺はこの上なく完璧な謎のヒロインムーブをかます事が出来たとホクホク顔で彼の家に向かったのだが、そこでまたしても失敗をしてしまったのだ。

 

『……なにしてるの?』

『料理してるの』

 

 コオリさんがいきなり突撃隣の昼ご飯してきちゃった。ポーカーフェイスは保ったけど、内心はもう冷や汗かきまくりでしたわ。

 なんとレッカは緊張のあまり、俺と出会ったことを誰にも報告していなかったらしい。

 ゆえにコオリがいつもの感覚で彼の自宅に押し掛け、偶然にも料理中だったこの俺と出くわしてしまったわけだ。

 しかし、問題はそこではない。コオリが乱入してくる程度なら、作る料理を増やせばいいだけだったから。

 

 俺がやってしまった失敗とは──時間の管理だ。

 

 改めて考えると、女に変身できる時間が一時間というのは、あまりにも短すぎる。

 ヒロインごっこを始める前までは「一時間もあれば十分っしょ(笑)」とか考えていた俺を殴りたい。

 変身を解いたあとの再変身までのインターバルも一時間必要という部分を加味すると、このタイムリミットはかなり辛いところがある。

 レッカとコオリの二人と応対しながら料理をしつつ食事をするに加えて大事な話をする──というのは、普通にめちゃめちゃ無理ゲーだった。

 

 途中、新しい怪物が近所に現れたことで、話をうやむやにしてそのまま消えることができたから助かったものの、あのままだったら女子制服を着た俺があの二人の目の前に出現するところだった。危ない。

 ちなみに怪物の能力で強めの地震が発生して、俺の作った料理はほとんど床に落ちてダメになってしまった。

 けど、作った本人の俺よりショックを受けて、怪物にガチギレしてたコオリを見るに、あの子も根っこは優しい子だという事も知ることができたのは、素直に良い収穫だったな。

 

 

 で、時間は現在に戻る。

 

「つまり少女フォームの変身持続時間を、もっと増やしたい……ということだな?」

「できるかな、父さん」

「ふーむ……」

 

 ささっと料理を弁当箱に詰め、朝食をテーブルに並べながら思案する父。

 

「……アポロ」

「なに?」

「お前は何のために少女になる。イタズラかい」

 

 優しい声音だが、はぐらかせるような雰囲気じゃない。これは俺の真意を問うているのだ。

 俺がやっていることを、父さんには全て話している。

 当たり前だ。研究者時代に制作した最高傑作の内のひとつを使わせてもらっているのだから、隠し事などできるわけがない。

 

 ──俺の行動がイタズラなのかどうか。

 

 答えはとっくに出ているさ。

 

「いいや。これは()()()()()だ」

「……っ!」

 

 父さんの目が見開かれた。

 俺もまた眦を決し、まっすぐに言葉をぶつけていく。

 

「研究者の頃に言ってたよな。それが世の役に立つかどうかではなく、真に追い求めると決めたものを最後まで研究し尽くすのが、研究者なんだって」

「あぁ、そうだ。その研究の最終地点が、見た目はおろか性別すらも完全に変質させることが可能な、アポロが持っているそのペンダントだ」

 

 父さんが追い求めた『変身』という魔法の到達点。

 少女の姿へのメタモルフォーゼという、普通だと世の中の役には立たなさそうな、もはや性癖でしかないソレを心血注いで『魔法』へと昇華させた、研究人生の結晶。

 

 それが──このペンダントなのだ。

 

「俺の研究テーマは”世界の変化”だよ。父さんが創造したコレを使うことで──いや」

 

 取り繕うことはない。俺たちは親子なのだから。

 

「ハーレム系バトル物語が、俺というイレギュラーが混ざる事でどんな化学反応を起こすのか……その果てに何があるのか──それを知りたいんだ」

 

 キッチリと言い切る。

 俺の中にある本気を、寸分違わぬ純度でそのまま伝えるために、まっすぐ瞳を見つめて告げた。

 

「……フッ」

 

 父さんは、小さく笑った。

 

「……さすがは私の息子だ」

「父さん……」

 

 椅子に座り、麦茶とコップを用意した伝説の研究者は、それを注いで俺に渡してくれた。

 乾杯の挨拶ということか。

 

「研究者というのは気狂いだ。己が性癖のために全てを費やす。……だが、それは誰よりも自由に生きているという事でもある」

 

 経験者は語る。

 その果てに彼はとある女性と出会い、命を次の世代へ繋げ、燃え尽きてしまった。

 ……燃え尽きなければ、きっと今頃は墓の中だった。

 

「縦横無尽に世界を駆けなさい、アポロ。全てを知りそれでもなお、お前を()()()()()()()()と出会う、その日まで」

「と、父さん……!」

「おいバカ旦那。息子に妙なこと吹き込んでんじゃねぇぞ」

「わっ」

 

 母さんが起きてきた。どうやら先ほど起床して、顔を洗ってスッキリしたらしい。いつもの鋭い目つきで父さんを睨みつけている。

 そのまま旦那の隣に座った母は、麦茶を飲んだあと一息ついて。

 

「アポロ。……本気なの?」

「っ!」

 

 この旦那にして、この女房あり。

 こういうのもなんだがこの二人、正直言ってチョロい方の人種だ。

 

「もちろん。これは誰に言われたわけでもく、俺自身が決めた事なんだ。このままだと永遠に続きそうな親友の戦いの物語を、俺が責任を持って最終章に移行させる。……これ以上あいつを戦わせないために」

 

 すごく重要そうに言うと、父と母はお互いに顔を向け、少し逡巡した後に深く頷いた。

 

「……さすがはアタシたちの息子ね」

「そうだろう。いずれ世界を救う器だ」

 

 この人たち、もしかしてかなり単純なのかな。

 いやまぁ、俺もウソついてるわけではないけども。

 

 ”楽しいからやめられない”って部分を言ってないだけで。

 

「分かったわ。それならこの家の地下にある研究室を譲ります。好きに使いなさい」

「父さんからは研究者時代の資料をプレゼントしよう。ペンダントの改良は資料を参考に自分でやるといい。研究というのは地道な一歩からだからな」

「二人とも……ありがとうっ!」

 

 というわけで俺は貴重なアイテム&すげぇ便利な施設をゲットしたのであった。

 

 ふっふっふ。……あぁ、いや、別に両親を騙してるワケじゃないから。

 俺が言ったことは、紛れもなく全部本心だ。停滞している物語を俺が動かすことで、レッカを闘いの日々から卒業させようって意思に、ウソはない。

 ただ一番肝心な部分である「楽しい」って事を伝えてないだけだ。情報を小出しにしてるだけ。

 

 ──くっ、胸が痛い。まさか俺は良心の呵責に苦しんでいるのか。なぜだ……これが黒幕の宿命とでもいうのか……。

 俺が心臓を押さえて苦しんでいると、不意に父さんが口を開いた。

 

「あ、そうだアポロ。ちなみに言うと母さんは海外赴任で明後日から居ないからな。父さんも付いていくことになったから、何年かは一人で頑張ってくれ」

 

 この父親、急にヤバイこと言ってる。頭おかしいのか。

 

「だいじょうぶ卒業式には出るから。ねっ母さん」

「えぇ、あなた」

「そういう問題じゃなくね?」

 

 

 そんなこんなでマッドサイエンティスト両親が唐突にも不在になり、この家はしばらく俺一人のアジトになることが決定した。ラブコメの主人公かな?

 

 ……だがコレで、どこでも心置きなくロリっ娘の練習が出来るようになったわけでもあるな。ひゃっほい。最高だ。

 さっそくれっちゃん呼んで夜通しゲームでもしようかな、なんて思いつつ朝食を済ませ、俺は家を出て学園へ向かうのであった。

 

 

 

 

 で、現在は一週間後。

 

 フリーダムになった俺は、自由と引き換えに一人暮らしの大変さに苦しみながらも、着々と謎のヒロインパワーを高めていた。

 両親から受け取った施設と資料を駆使した結果、俺は少女フォームへの変身タイムを、なんと三時間まで伸ばすことに成功したのだ。凄いでしょ、俺天才でしょ。

 さらに変身後のクールタイムも三十分までに短縮させ、俺は心置きなく少女姿で外に出ることができるようになってしまった。もはや怖いものなど何もない。

 

 ていうか、単純に美少女の姿で出歩くのが、最近かなり楽しい。

 多少は幼げな雰囲気があるものの、一見すると凄く可愛い女の子なのだ。道行く人々の視線を引きつけちゃうのクセになるわね。

 

 だからといって隠しヒロインムーブを怠っているワケではない。

 基本的にあの制服っぽい服以外は着ないし、正体がバレるような迂闊な行動も控えている。

 レッカたちとも距離を取ることで『結局大事な話が聞けず、お昼も一緒に食べられなかった少女』という、なんとも掴みどころのない不思議っ娘としての雰囲気を獲得できた。コレは良い調子だ。

 

 

 だが、流石にそろそろ距離を縮める時期だ。

 

 ずっと何も分からない立ち位置じゃ、向こうも不安になるだけだろう。

 隠しとはいえ”ヒロイン”としての仕事を果たさなければ、ただ周囲を振り回すだけの追加キャラになってしまう。

 

 というわけでここからは()の出番だ。

 コクと関係のある者として振る舞い、俺ことアポロ・キィも本編に参加させてもらおう。

 主人公の友人の関係者という事で、コクが味方側のキャラであることをアピールしつつ『アポロに聞いた』という理由付けで俺しか知らないレッカのあれこれを利用する。

 そして他のヒロインメンバーたちとは一線を画す存在だと主張するのだ。絶対たのしい。

 

 

「んっ。……あれ、怪人か……?」

 

 いろいろと作戦を考えながら、女の子状態で街中を闊歩していると、少し先の交差点であるものを見つけた。

 怪人だ。悪の組織が生み出した改造人間が、交差点で暴れている。

 特殊部隊や警察はおろか、あのレッカたちもまだ到着していないため、怪人はやりたい放題だ。

 仕方ない、俺が直接レッカに連絡しよう。

 

「って、なんで圏外なんだ」

 

 スマホはネットどころか通話機能すら使えない。

 ただの不調かと思ったが、周囲の人々も携帯が使えないことに対して狼狽している様子から察するに、あの怪人の仕業なのだろう。

 たぶん能力か何かで、ここら辺の電子機器を全てダウンさせている。

 それが理由で通報やら何やらが出来ず、助けを呼ぶことができていないのだ。

 

 つまり──孤立無援。

 

「……えぇ。いや待って、マジで」

 

 これ、もしかして俺が戦わないといけない感じ?

 

 ある程度の魔法なら誰でも使えるはずだけど、戦闘経験があるヤツなんて市民にはほとんどいないだろうし、ここは戦うことのできる人間が時間を稼ぐべきだ。

 それは分かってる……いや分かってるけど、ホントに俺がやんの? マジで他に誰もいない?

 

「うわ。うわうわ、あの怪人、子供襲おうとしてるじゃん。何で俺の前だとガキばっかピンチになんだよ」

 

 その光景を目にした途端に走り出した。もはや逡巡している暇など無かった。

 

 別に俺はヒーローじゃないし、自分の命を最優先に考えている普通の人間だ。英雄ならレッカがやってくれるから、俺は自分の事だけ考えてればいい。そういうスタンスが許される立場にあった。だってただの友人キャラなのだから。

 でも、さすがに幼いガキをここで見捨てたら人間として終わる。一応ヒロインとして関わってしまった以上、出くわした戦場から逃げるという選択肢は抹消されてしまったのだ。

 

 ──とか何とか、いろいろ理屈を捏ねる前に、足が勝手に動き出したのが本音だ。こういうのを馬鹿って呼ぶんだろうか。

 

「ばっかおまっ、やめとけッ!」

 

 風の魔法で加速し、横から怪人に蹴りを入れた。

 しかしほんのちょっとよろめいただけ。自分が非力すぎて嫌になっちゃいますね。

 

「……っ! おい、アレお前のお母さんか!?」

 

 遠くで周囲の人に止められながら、こっちに来ようとしている女性がいる。

 それを指さして少年に問うと、彼は涙ながらにコクコクと頷いた。

 

「緊急措置だからな、恨むなよ!」

「わっ、わぁっ!?」

 

 風の魔法を使用。

 そのまま少し強めの突風で少年を母親のところまで運んだ。

 よし、なんとか上手くいった。俺のさりげないパンチラとか高い場所からの着地の為に、風の魔法をたくさん練習しといて正解だったな。

 

「っ゛」

 

 はい、怪人に思いっきりブン殴られて、吹っ飛ばされました。

 近くの車に叩きつけられて、ベシャっと地面に叩きつけられたみたいです。

 もう痛みとかないよね。逆に痛すぎて。衝撃しか伝わってこねぇわ。これ内臓とか潰れてない?

 

『──』

 

 怪人が喋ってるけど、たぶんお前を殺すとかそういうセリフだと思う。ただ街中で暴れることしか能がない単純な怪人だから、高尚な思想とかはないでしょ、たぶん。

 いやぁ、困ったな。

 死ぬでしょこれ。

 急に悪い奴が出てきてピンチになるとか、もはやシリアス通り越してギャグだよ。うわ、この街って治安悪すぎ……?

 

「…………ぁー……」

 

 喋れんわ。

 こんなん交通事故に遭ったの一緒だろ。

 まさか少女姿のままボコられるとは。あの怪人もしかしてリョナ好きか? 相容れない存在だよお前は。

 

 

 

「うぅっ……」

 

 何とか立ち上がれた。

 

「……ぁれ」

 

 不意に腕時計を見てみる。

 さっき殴られてから──いつの間にか三十分が経過していた。

 どうやら少しの間、気を失っていたようだ。

 

「怪人……いないし……って、レッカか」

 

 遠くで爆発が起きた。そっちに目を向けると、レッカたちヒーロー部が爆炎をバックに決めポーズしてる。

 たぶんアレは怪人を倒した後だ。あぁいう悪役って死ぬとき爆発しがちなんだよな。なにが引火して爆散してるんだろう、不思議だ。

 

 てか今のうちに逃げとくか。事後処理とか面倒くさそうだし。

 

「──コクっ!!」

 

 うわ、後ろからレッカに声かけられた。

 早く男に戻って病院に行きたいから、話ならしないぞ。こちとら頭から血ぃ出てるし全身打撲してんだわ。

 後ろを振り向いてみると──彼だけじゃなく、ヒーロー部の少女たち五人も揃っていた。

 

 

 ……まって。

 いやいやいや待ってくれ。落ち着け俺。

 ちょっとこれ良いな。めちゃめちゃ良い。いま楽しくなっちゃってるわ。

 少し考えてみたら、この状況すげぇ良くね?

 

 

「……レッカ」

「すまない、きみはあの子供を助けて……僕たちの到着が遅かったばっかりに……!」

 

 今、コクという少女と、主役チームであるヒーロー部の全員が、真正面から対峙している。

 

「いま手当てを──」

「来ないで」

 

 こっちは一人。

 あっちは六人という状態で。

 

「……え?」

「助けは、いらない」

「な、なに言って……」

 

 数メートル離れた状態で会話していて、俺はボロボロな状態にもかかわらず、ヒーロー部は全員で戦ったせいかほぼ怪我は無い。

 

 

 軽傷で戦いを済ませ、頼れる仲間たちに囲まれてる、周囲に恵まれた少年。

 

 瀕死の重傷を負った、見て分かる通り仲間など一人もいない、孤独な少女。

 

 

 明らかに二人が対比されてる、今この瞬間の絵面──美しくね……?

 

「あなたには、やるべき事が、たくさん残っている」

 

 額から流れ出た血液が地面に落ち、僅かに脳がフラついたが、気合で耐える。

 他の少女たちは主人公の隣にいて、もはや攻略対象というよりは仲間。パーティメンバーだ。

 そして唯一、このコクという少女だけが、彼女らとは全く別の場所に立っている。

 レッカの隣ではなく、ただひとり、彼の前に立っている。

 

「私のことは、構わないでいい」

 

 もうこんなの俺がメインヒロインでしょ。

 だって女の子たち、誰も反駁してこないし。

 それに加えてこの場において、レッカに対して恋愛感情を抱いていないのは、このコクだけだ。

 あの主人公に攻略されていない存在は──傷ついた漆黒の少女だけなのだ。

 

「あなた達は市民のヒーロー部だと、そう聞いている。怪我をして泣いている人や、崩れた建物の中で、助けを待っている市民がいる。市民のヒーローを名乗るならば、やるべき事は分かっているはず」

「そ、それは……」

 

 口ごもるレッカ。ぶっちゃけ反論などいくらでも出来そうな暴論だが、怪我人の言う事だから頭ごなしに否定はできないのだろう。ふふふ、怪我してよかった。

 まぁ救助待ちの人がいるのは事実だし、さっさとそっち行きなさいよってのも本音な。俺は勝手に病院行ってるんで。

 

「……さよなら」

「コク! まっ──」

 

 風魔法を使って空中に浮遊し、そのまま遠くへ離れていく。

 フハハハー! どうだレッカ! 攻略できなくてもどかしいだろ! ヒロインってのは本来簡単には手に入らないモンなんだぜ! すぃーゆーまた明日!

 

 

 

 

 それっぽい別れをした、二十分後。

 

 体力が無さ過ぎて墜落した俺は、路地裏で座り込んで休んでいた──のだが。

 いつの間にか追いついていたライ会長によって、俺は救急箱で応急処置をされていた。この人追跡が上手すぎてこわい……。

 

「どうして、私を」

「ふふっ、愚問だね。キミだってわたし達が守るべき市民の一人じゃないか」

 

 すっごい年上オーラで諭されてしまった。

 かなり痛い思いをした後に優しくされたせいか、思わず癒されちゃう。

 

「部員のみんなには黙っておくから安心したまえ」

「……ありがとう」

 

 めっちゃ気ぃ使ってくれるじゃん。この人は何というか、盲目的にレッカに惚れているわけではなさそうな雰囲気を感じる。

 親友くんは恋人を選ぶなら、ぜひともこの人を選んでください。

 

「これくらいなんて事ないさ。……コク。自己犠牲は素晴らしいが、もう少し自分を大切にね」

「……うん」

 

 頭を撫でられちゃいました。

 まずい、童貞だから優しくされただけで好きになっちゃいそうだ。急にレッカが羨ましくなってきた。ゆるせねぇよハーレム野郎……。

 

「私、もう行く」

「そうか。……あ、前に聞きそびれた連絡先、教えてくれるかい」

「ツイッターのアカウントでいい?」

「そういうSNSやってたんだね……」

 

 スマホが一台しかないからさぁ! カバー付け替えたりとか別のアカウントを作ることぐらいでしか、連絡先の差別化ができないんですよねぇ! 不思議っ子のイメージこわれる。

 

「用事がある時は、ダイレクトメッセージで、よろしく」

「浮世離れした印象あったけど、概ね現代っ子で安心したよ、わたしは」

 

 そんなこんなで俺より何枚か上手な先輩と連絡先を交換しつつ、俺は家に帰ったあと男に戻り、病院へ赴いたのであった。そこでレッカと会ってかなり怪我を心配されたのは、また別の話。

 

 

 

 

「ねぇポッキー。コクって……もしかして二重人格なのかな」

「……???」

 

 あと、男口調で子供を助けたところを見られてたらしく、なんか余計な設定がひとつ増えてた。

 

 


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