あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ?   作:うろ底のトースター

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IFエンドルート

設定上絡ませずらいオブジェクトとの話を書くために作者が作ったエゴの塊。

基本重いと思ってくれたまえ。


IFエンドルート
───の声で


産まれたときから、俺は、呪われていたのかもしれない。

 

交通事故に巻き込まれ、家族の中で自分だけ生き残ったとき、ふとそう思った。

 

周りにお前のせいだと言われ続けたからか、それともこの世界に絶望したからか。

 

気付けば俺は、飛ぼ(死の)うとしていて。

 

「ダメだよそんなの。私が、認めない。」

 

初めて聴いた彼女の声は、悲しそうだった。

 

 

───────────────────────

 

 

小さい頃から弱気で、運動も勉強もそこそこ程度にしかできなかった俺は、すぐにいじめの対象になった。

 

優秀で人付き合いの良かった両親とも比べられて、親戚や両親の友人たちは、無口な俺を気味悪がった。

 

家の外では、俺は、ずっと否定されてきた。

 

でも、家の中では、両親だけは、俺を認めてくれた。

 

 

 

 

「こんばんは。」

 

それは、ある夏の夜のこと。

 

彼女は、俺をいじめていた女の声で語りかけてきた。

 

光のない黒い目に、血のように紅い短髪の彼女は、同じく血のように紅いボロボロのドレスを着て、

 

開けていた窓に脚を掛けて、にこやかに、笑っていた。

 

「いくら二階とは言え、夜に窓開けっ放しは危ないわよ?」

 

「・・・あんた誰?」

 

俺は、嫌悪と警戒を隠さずに誰か尋ねる。

 

「そうねぇ、うーん。」

 

彼女は、顎に手を当てて少し考え込むと、

 

「それじゃあ、アマタって呼んで?」

 

そう言った。

 

「じゃあアマタ、()()()、どうした?」

 

「あ、ごめんなさいね?嫌な声よね?でも、()()この声でしか話せないの。」

 

「・・・あっそ。」

 

一頻り聞きたいことが聞き終わり、そのことを察しただろうアマタが部屋に入ってくる。

 

「金はないぞ。」

 

「そんなもの要らないわ。欲しいのは、貴方。」

 

「なるほどねぇ・・・。」

 

なるほどなるほど、そう呟きながら、

 

「世迷言は終わったか、不審者?」

 

「えっ、ちょっ、待って!ちょっ────」

 

アマタを担ぎあげて、窓の外へ放り投げ、そのまま窓を閉める。身体が軽すぎるのを気にしつつも、とりあえず死んではいないだろうなと考え、その日は床に就いた。

 

 

 

 

翌日、あの声の元の持ち主は、学校に来なかった。

 

女と仲の良かった奴らが泣いているあたり、おそらく死んだんだろうと思った。

 

でも俺には関係ない。少しばかりいい気味だと思うだけだ。

 

だから、別に俺が殺したじゃない。

 

「お前が殺ったんだ!」

 

五月蝿い。

 

「動機はあった!」

 

黙れ。

 

「昨日の夜どこに居たんだ!?」

 

家に居たさ。

 

「嘘をつくな!」

 

嘘じゃない。

 

吐く言葉は最低限。心の中で罵詈雑言を吐き連ねつつ、極力大人しくいる。

 

大丈夫、いつも通りだ。ただちょっと、いつもより五月蝿いだけ。

 

「警察はもう捜査しだしてるからな!いつまでもシラを切ることができると思うなよ!」

 

どうぞご自由に、そもそもシラを切ってないからな。

 

 

 

 

『こんばんは。』

 

「・・・お前か。」

 

関係ないわけじゃなかった。思いっきり容疑者と昨日会話してた。

 

窓を閉めておいて良かった。アマタは今夜も来た。声も変わってる。今度はあの女の腰巾着だったまた別の女の声。

 

『開けてくれないかしら?』

 

「やだよ、殺人の容疑者を部屋に招き入れるわけにはいかないからな。」

 

『あー、そうよね。耳に入っちゃうわよね。』

 

今の発言完全に自白したようなもんだよな。これ通報すれば俺への疑い晴れるか?警察が俺を疑ってるか分かんないけど。

 

『とりあえず、貴方を傷つけたいわけじゃないから、入れて頂戴?』

 

「帰れ。」

 

カーテンを閉めて寝床に入る。

 

その日は、よく寝れなかった。

 

 

 

 

また翌日、件の女と、俺の近辺を捜査していた警察が軒並み殺されたと聴いた。頸動脈を噛みちぎられたことによる、失血死だそうだ。

 

犯人は、もちろん不明。そもそも殺し方が人間離れしていた。

 

俺は、容疑者リストから外れると同時に、居ないものとして扱われるようになった。

 

 

 

 

触らぬ神に祟りなし、とでも言えばいいのだろうか。あの日から、死者は出ていない。

 

それでも、アマタはずっと、俺の家に通い続けた。

 

部屋に入るのは諦めたようで、窓の外からずっと俺に話しかけてきて、

 

いつからか、会話に興じるようになった。

 

両親以外を相手にまともに話せたのは、久しぶりだった。

 

その日その日で声が変わっているけれど、あの優しげな笑顔は変わらなくて、あぁ、今日も人を殺してきたんだなぁってどこか他人事のように考えながら、それでも会話する。

 

部屋に招き入れるのは時間の問題で、

 

俺が彼女に依存するのも、時間の問題だった。

 

 

 

 

それは、冬の寒い日。

 

その日は、父親が急に温泉に行こうと言い出して、着いていったんだ。

 

思えば、止めるべきだったんだろう。

 

それなりに高い橋の上で、スリップ事故。ブレーキが効かなかったのであろう自動車に後ろから激突され、正面のトラックにさらに激突した。

 

運転席と助手席に座っていた両親は、そのまま板挟みにあい、やがて、死亡が確認された。

 

 

 

 

燃やされる両親の遺体を見て、空っぽになった俺は、涙を流すこともできず、

 

夜、濡れる体をそのままに、雨の中を歩き、規制線を越え、事故現場へ辿り着いて、橋の上。見下げて高さを確認する。

 

良かった、これならちゃんと死ねそうだ。

 

少しだけこの世の思い出に浸り、手摺に登ろうとして、

 

「ダメだよそんなの。私が、認めない。」

 

後ろから抱きつかれる。

 

「・・・また人を殺したのか?」

 

声が変わっていたから、ふとそう思って尋ねる。

 

「いいえ、違う。これは、私の声。」

 

「話せたんだな。」

 

「話せたわよ。」

 

抱き着く腕に力が籠る。

 

「飛ばせてくれ。」

 

「飛ばせない。」

 

「俺が死のうが生きようが勝手だろうが。」

 

「あなたの自殺を止めるのも私の勝手でしょう?」

 

「お前には関係ないだろ。」

 

「少なくとも私にとっては関係ある。」

 

「どうして!?」

 

「好きだからよ!!」

 

分からない、理解(わか)らない。

 

別に好かれているのが分からないわけじゃない。好かれていると分かって、死ぬのが嫌になっていくのが、分からなかった。

 

「死にたいんだよ・・・死なせてくれ・・・!」

 

「死にたいなんて言わないでよ。私を、一人にしないでよ・・・!」

 

視界が滲んで、脚から力が抜けて、二人揃って座り込み、日が昇るまで泣き続けて。

 

やがて、朝霧に溶けていく。

 

死にたいなんて、もう思わない。

 

だって彼女が、アマタが居てくれるから。

 

 

産まれたときから、俺は、呪われていたのかもしれない。

 

だからもう、ヒトの世界から消えよう。

 

化物(アマタ)と一緒に、生きていこう。

 

 




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アマタ(わたし)の声で


不死蓬莱さん
誤字報告ありがとうございました。


SCP_foundationはクリエイティブ・コモンズ表示-継承3.0ライセンス作品です(CC-BY-SA3.0)

SCPー939
作者 Adam Smascher様、 EchoFourDelta様
http://scp-jp.wikidot.com/scp-939

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