あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ?   作:うろ底のトースター

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リクエスト第1弾。



魔女っ子と戯れる実験

『あぁクソ、あの野郎やりやがった!』

 

博士の罵倒とサイレンで起こされる日は多分いいことがある。具体的に言えばクロステストだ。

 

『朱里くん、寝起きですまないがクロステストだ!』

 

「了解です」

 

博士の苦虫を噛み潰したような声を聞くに、相手は多分Keterクラス。

 

『クソ!君をこんな危険な現場に行かせることになるとは!なるべく早く来てくれ、もう彼女が目を覚ましてしまう!頼んだぞ!』

 

返答も聞かずに通話は切れてしまった。それほどまでに状況は逼迫してるんだろう。目が覚ましてしまうってことは、眠らせてたっことだろうし、相当なオブジェクトなんだろうな。

 

『目が覚める、あぁなるほどなァ。このタイプは初めてかもなァ、朱里は』

 

「知ってんの?」

 

『あァ、アレは現実改変能力を持ってる』

 

へ〜、現実改変能力。え、ヤバくね?

 

過程はどうあれ自分の思うように現実を書き換えれるわけだから、いや恐ろしいな。

 

 

───────────────────────

 

 

寝間着からさっさと着替えた俺は、収容室に向かいつつ博士から説明を受けた。

 

SCPー239 ちいさな魔女

 

オブジェクトクラスはKeter。

 

現実改変能力を持っていて、なんか極小量の放射線を放っているらしい。あと、ちいさいと言うだけあってロリ。身長が100センチくらいしかない。

 

財団はこの子に「君は魔女だ」と信じ込ませていて、財団の用意したデタラメな魔法()しか扱えないと思っているようだ。で、今まで寝かせていたらしいんだけど、何者かによって起床を促されたんだ。

 

よって財団が苦渋の決断として俺を派遣した、ということだ。

 

『朱里くん、いつも以上に注意してくれよ』

 

「了解です」

 

さて、行くか。

 

 

 

 

 

 

「やっと来たわね、かみやあかりさん!」

 

テーブルの上に乗り、腰に手を付け、見下してドヤ顔をする幼女。かみやあかりの言い方が舌足らずで可愛い。可愛い。

 

腰まで伸びた金髪に、クリッとした金色の瞳、そして、頭に被った魔女っ子(とんがり)帽子。正しく魔女、といった佇まいのこの子が、ちいさな魔女、なのだろう。

 

可愛い、のだが、

 

「テーブルに立つのはいただけないなぁ」

 

「え?あわわ!」

 

慌てて降りる魔女っ子。なるほど、純粋で人並みの善意は持ち合わせてるのか。

 

ほんと、なんでこんなちゃんとした子が現実改変なんて力を持っちゃうんだろうな。

 

「ところで、俺を待ってたみたいだけど、どうしたの?」

 

「それはね!綺麗な首飾りを付けたお姉さんが、優しいお兄さんが来てくれるって言ってたからよ!」

 

「そこで名前も?」

 

「そういうこと!」

 

綺麗な首飾り、か。一体何の目的でこんなことを・・・。いや、俺の考えることじゃないか。博士の悪態を聞くに知り合いみたいだし、あとはあちらに任せようか。

 

「それで、その優しいお兄さんに君は何をして欲しいんだい?」

 

内心おっかなびっくりで聞いてみる。もしかしたらとんでもない無茶振りしてくるかも・・・。

 

「一緒に遊びましょ!」

 

「あ、うん」

 

年相応で助かったぁ。

 

しかし遊ぶ、か。この部屋じゃ厳しいよなぁ。動き回るには狭すぎるし、おもちゃもない。あるのは点滴と心電図、あとはベッドくらい。

 

博士は犯人探しで忙しそうだし、かと言って許可なくこの子を連れ出す、なんてこともできない。

 

「ここじゃ遊べない、そう思ってるでしょ?」

 

「まぁ、そうだね」

 

「そんな時には私の魔法よ!」

 

魔法、財団のデタラメな魔法にそんなものがあるのだろうか。

 

「お姉さんから教わったの、魔法は自分で作ればいいって!」

 

「なるほど〜(思考停止)」

 

悲報、特別収容プロトコル崩壊。

 

お手軽現実改変を防ぐための手段が、詠唱と準備段階分の時間稼ぎとしてしか意味をなさなくなった。どうすんだこれ。

 

「うーんと、『詠唱破棄』!お部屋よ変われ〜!」

 

「は?」

 

一瞬の閃光。思わず目を閉じてしまう。

 

開くとそこは、ピンク色が目立つ壁紙に、天蓋付きの小さなベッド、童話の詰まった本棚に大きなおもちゃ箱。

 

あっという間にメルヘンチックなお部屋に早変わりした。

 

・・・いやいや待て待てちょっと待て。何詠唱破棄って?は?時間稼ぎもできないの?

 

胃が痛い。もう考えないようにしよう。

 

「あ、名前忘れてたわ!」

 

「あぁ、確かに」

 

俺の名前を知ってたからてっきり、ね。

 

「私の名前は、Sigurrós(シガーロス) Stefánsdóttir(ステファンズドッター)!」

 

「なんて?」

 

アイスランド語だった。

 

 

───────────────────────

 

 

 

お姉さんの言った通り、あかりさんはとっても優しかった。

 

 

そして、あかりさんと遊ぶ時間はとっても楽しかった。

 

 

にほん、というところの遊びも教えてもらった。

 

 

絵本もいっぱい読んでもらった。

 

 

ほんとは、ほんとはもっと遊びたい。

 

 

でも、でもね、あかりさん。

 

 

私は、魔女、なんだよ。

 

 

───────────────────────

 

 

遊び自体はごく普通で、子供らしかった。人形遊びとか、かくれんぼとか。

 

まぁ、喉が渇いたからと言ってジュースを出したり、お人形の衣服をサラッと変えたりしたのは危うく胃に穴が空いて喀血しかけたけども。

 

「そういえば、シガーちゃんはなんで俺と遊びたかったの?職員の人たちじゃだめだった?」

 

「あの人たちは、ダメ。()()()()()()()()・・・」

 

そう言うとこの子、シガーちゃんは俯いた。

 

・・・なるほど、いくら女の子とはいえ、相手は現実改変能力を持ち合わせた異常。全員が全員、俺みたいじゃないもんな。怖がるのだって無理はない。

 

「だからね、あかりさんが来てくれて嬉しかったんだ。私とちゃんと遊んでくれる人って、多分あかりさんだけだから」

 

精一杯の笑みを浮かべて顔を上げた彼女の、その悲しそうな目を見て、気がついた。

 

そっか、この子はこの楽しい時間を終わらせる気なんだ。

 

「さよなら、あかりさん。私は、また寝なくちゃいけないから」

 

──だって私は、魔女だもの。

 

「さよならじゃないよ。()()()、だ」

 

「・・・え?」

 

終わるなら、また繰り返せばいい。

 

「俺、また遊びに来るよ」

 

「で、でも!」

 

「だから、約束しよう。また遊ぶための約束」

 

「約、束?」

 

プロトコルが機能しないなら約束をすればいい。

 

この子は優しいから、きっと守ってくれる。

 

「人を傷つけないこと、人を困らせないこと。これらを守ってくれるなら、俺はまた、遊びに来れる」

 

「・・・私、悪い子になっちゃうかも」

 

「その時は叱りに来るさ」

 

「あかりさんに怪我させちゃうかも!」

 

「・・・そんなに言うなら、指きり、しよっか」

 

「指、きり・・・?」

 

「そう、日本のおまじないだよ。手、貸して」

 

恐る恐る差し伸べた手の小さな小指を、優しく、俺の小指と結んだ。

 

 

ゆびきりげんまん

うそついたらはりせんぼんのーます

ゆびきった

 

 

「・・・ふふ、針千本は飲みたくないなぁ」

 

「俺だって飲みたくないよ、だから、またね」

 

「うん、またね」

 

ぱっと花の咲くような、今日1番の綺麗な笑顔が見れた。




神谷朱里

ロリコンに見えなくもない。


シガーちゃん

名前がアイスランド語の子。例の博士によってプロトコルが崩壊した。
せっかく起きれた上、能力を自由に行使できるようになったのに、他人のためにまた寝ようとするような優しい子で、とても純粋。





因みに、これで朱里くんを朱里ちゃんにしたりあかりくんにしたりできるようになったわけで。

読者はおねショタとかTS百合とか、イケる口?



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