あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ? 作:うろ底のトースター
なお低浮上。
あの宗教団体襲撃から数時間後、俺がお礼参りに回っていたときのことだ。
「カインに1度、あって欲しいの」
アベルに、そんなことを言われた。
SCPー073 カイン
オブジェクトクラスはEuclid
植物性のものを腐らせ、自分と周辺の土地を不毛の地にしてしまうという異常性と、自分への損害が相手に返される異常性を持つ。
また、記憶力が並外れており、財団が紙、電子以外の媒体として利用している。
比較的財団に協力的で、暴力を好まず、また人類にも友好的。
「どうしてこのカインって人のこと知ってるの?」
「それは・・・ごめんなさい」
「あ〜、無理に話さなくて大丈夫。分かった、とりあえず博士に相談してみるわ」
結論から言うと、クロステストが行われることになった。ただ少し懸念がある。
『SCPー073は、君とのクロステストに乗り気ではない。万が一彼女が害意を持っていたら、即刻逃げたまえ』
ううむ、いや、これもアベルの為。
意を決して扉を開けた。
黒褐色の肌に艶やかな黒い長髪、そして青い瞳。どこかアベルを彷彿とさせるその美しい姿に、ある仮説が確信に変わった。
「・・・君には会いたくないと、博士に伝えたはずだが?」
ここで結構長く働いてるお陰か、俺は人の、特に異常達の感情の機敏が少しだけ分かるようになったんだ。
だから、アベルが会って欲しいと言った理由を、会って一目で理解した。
カインはきっと、
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私の妹を、アベルを殺してから数万年の月日が経ち、私は、私の罪悪を理解した。
幾度の戦争を見た。幾度の消滅を見た。
そして、幾度の悲しみを見た。
道徳心を得た私は、私を嫌悪するようになった。
それからまた幾年か流れ、SCP財団と呼ばれる組織を知った。アベルもそこに収容されているらしい。
久しく会っていなかった彼女は、酷く、荒れていた。
穏やかな口調はそのままに、人を殺し、創造物を破壊し、戦闘を楽しんでいた。
全て、私のせいだ。
私が彼女を殺したから、彼女は、発狂したのだ。
だから私は君に期待したんだよ、神谷朱里。アベルの寵愛を受け、心を癒せる君に。
故に私は孤独に耐える、いくら君が恋しくても。
故に私は君を拒む、いくら君が愛おしくとも。
それなのに、君はどうして私にも手を差し伸べる?
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───ってことがあってね、それで友達が」
「いやちょっと待ってくれるかな?」
「ん?」
「いや、会いたくないって言ったよね?」
「言ったね、うん」
「じゃあなんで居座って世間話をしてるんだい?」
いや、ね?あのまま帰るわけにも行かないし、なんかこう、知らないフリして話してればいいかな〜って。
あ、ダメっすか。
「いつも優しいって有名なあなたが初対面の相手を真っ向から拒絶するって、さすがに理由が知りたくなるじゃん?」
「いや、好奇の前に不快になったりしないのかい?」
「あー、まぁそうだね」
別に拒絶はいいんだよ、その大元にある嫌悪がカイン自身に向いてるから。いやむしろ良くねぇじゃん。
「それで、どうして?」
「・・・単純に君が嫌いだからさ」
嘘だよなぁ。というか、そう拒絶の言葉を吐く度に傷ついてるんだよな。そこまでして帰らせたい理由ってなんだ?
やっぱり、聖書が関わってるのか?
「ともかく帰るんだ、そして2度と来ないでくれ」
「それは───」
これはもしかしたら、カインを傷つけてしまうかもしれない。だからその後は、俺の拙い話術に掛かってるんだ。
「───アベルに申し訳ないから?」
「・・・なんのことだか」
「旧約聖書の中に最初の殺人について書かれた章がある」
「・・・」
「アダムとイブの間に生まれた兄弟の話だ」
「・・・くれ」
「兄は農業を、弟は畜産を行っていた」
「・・・やめて、くれ」
「神様へ供物を捧げる日に、事件は起きた」
「もうやめてくれ・・・」
「神様が弟の供物のみを喜んだことに嫉妬して、兄は、弟を」
「やめろ!」
悲鳴のような大声で遮られた。そして、独白が始まったんだ。
「もう、沢山だ・・・。そうだよ、君の言う通りだ、私は、アベルを殺した、私が原初の人殺しだ・・・」
「知っているか?アベルは元々、心優しい少女だった」
「対して私は暴力的で、意地が悪かった」
「だから、彼女を・・・」
「・・・できるなら、謝りたい」
「独りよがりでいいから、謝りたいんだ」
「けれどアベルは狂気に取り憑かれた」
「あの様では、到底私の話は聞いてくれなさそうだ」
「故に君と財団に期待した」
「あるいは、彼女を正気に戻せるかもしれない、そう思ってね」
「・・・もう分かっただろう、私は哀れで、醜く、赦される価値のない屑も同然、君と関わる資格なんてないんだ」
「もう、帰るといい」
「・・・アベルを、よろしく」
ん?ちょっと待って?
「いやなんで帰ることになってるの?」
「話聞いてた?」
そりゃもう綺麗な声してたから聞き入ったね、うん。
「要するに、自分が赦せないってことだよね?」
「まぁ、そういうことだね」
・・・姉妹なのに、ここまですれ違うことがあるんだな。妹の心姉知らずというかなんというか。
さすがにそれじゃあ、可哀想だよ。
「俺さ、ある人物のお願いでここにきたんだよ」
「ある、人物って、誰?」
「そこは俺の口からは言えないかなぁ」
「ただ、カインを赦せてないのは、もうカインだけだよ」
収容室を抜け出して廊下を駆け抜けていくカインを見届けて、俺は最後のアシストをする。
「博士、カインにアベルとの面会許可をお願いします」
『それはいいが、君は行かないのか?』
「姉妹水入らずってのもたまには必要でしょう?」
『・・・君ほど異常に寄り添える人間は他にいないだろう。君が財団にいてくれて、本当に助かるよ』
これで、依頼達成だね。
いや、アベルの目的は多分メンタルケアだったんだけど、部外者じゃケアできないからね。カイン自身の心の問題は、カイン自身が解決しなきゃならない。俺にできるのはその後押しだけ。
それじゃあ、俺は帰ろうかな。てか、もう夜じゃん、どうりで眠いわけだよ。
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「・・・私は彼に危害を加えるつもりはないから、少しだけ、中に入れてくれないかい?」
深夜、アベルと一頻り話し合った、その帰り。
泣いた跡をそのままに、彼に、神谷朱里に会いたくなった。
皮肉な話だと思う。会いたくないと距離をとったくせ、結局会いたくて部屋にまで訪れるなんて。
『ほんとに朱里を傷つけない?』
「君は、確か黑だったか。もちろん傷つけないとも。私も、恥ずかしながら彼に惚れてしまったからね」
ずっと、恋しかった、愛しかった。アベルと同じだ。隣にいたいし、あわよくば朱里と・・・。
「ふふっ」
『なんで笑ってるの?』
「あぁいや、なんでもないよ。ただ、自分に素直になろうと思っただけさ」
そう、素直に、ね。
朱里、私は貪欲だよ?何せ、ずっと我慢していたからね。
君は、私とアベルが貰うよ、絶対にね。
神谷朱里
そろそろSCPカウンセラーの称号が得られそう。
カイン
数万年前とは言えアベルを殺したやばい人。骨の一部がめちゃくちゃ硬い金属になってる。
財団の記録媒体としての役割から、朱里のことはアベルとほぼ同時期に知っていて今まで我慢してた。反動がやばいことになってる。
綾禰さん
誤字報告ありがとうございました。
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