あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ? 作:うろ底のトースター
この人の性癖拗らせるの楽しい
首飾り博士が俺との面会を希望したらしい。博士が朝から機嫌最悪なあたり本当なのだろう。今まで水面下で活動していたのに、随分と急な心変わりである。
事前に首飾り博士の資料を貰った。件の人物、名はブライト博士といい、エリート揃いの財団の中でも特に優秀な人ではあるようだ。が、特筆すべき点はそこではなく、素行である。
本人の名誉のためあまり深くは掘らないが、ブライト博士のために禁止リストが作られるほど。何してるのこの人。
ともかく変人で変態な危険人物。それがあの人のレッテルだ。
聞いた限りの人柄はこれくらいか。
次は首飾りのこと。寧ろこっちが重要。というのも、この首飾り、なんとオブジェクトなのである。
SCPー963 不死の首飾り
オブジェクトクラスは、Euclid。
傷つけられないということ以外は普通の飾り付けた宝石。だがその真の異常性は、保有者が死亡した際に発現する。
保有者の死後、この宝石に触れたものは外見はそのままに”保有者”になる。乗っ取られると言ってもいい。実際、Dクラス職員を用いた実験では、一度宝石を持たせた後に取り上げると、一切の反応がなくなるから。
もう分かっただろう。ブライト博士は、少なくとも1回以上死んでいる。
自身の人格が保存されている宝石は壊れないし、素体はいくらでもあるのだからどんな無茶をしたっていい。この精神が、ブライト博士の変態性を支えているのだろうか。
『いいか朱里君、あのク、いや、クズが相手の際には、実力行使を許可する』
言い直せてないですね。
『何、相手は既に死人だ。加減は要らんよ』
悪どい笑みを浮かべる博士が目に浮かぶ。
さて、行くか。
指定された部屋に行くと、白衣を来た女の子がクローゼットの前をうろちょろしていた。身の丈に合っていないので、コスプレに見える。
肌は健康的な赤みのある白で、鮮やかな金髪かよく映える。思案中のお顔はあどけなくも美しく、軽い興奮を覚えているのか、ほんのりと紅潮していた。
信じ難いことにこの少女、ブライト博士である。
「うーむ、ここは王道のメイド、いや、日本人なら巫女服か?しかし彼はわざわざアメリカに渡ってきた。とすると、ハッ!バニーガールか!」
「何してんすか?」
「君を出迎えるためのおめかしに決まって・・・、何故いる?」
「面会を希望されたからですね」
「ふむ、面会時間はあと1時間先のはずだが。なるほど、奴の嫌がらせだな?」
どんだけ嫌いなんだあの人。
「ふむふむふむ、全く浅い思考だ。この程度で私を困らせることができるとでも?私にとってはこんなハプニングは丁度いいスパイスさ」
「あ、えぇと、外で待ってたほうがいいですか?」
「いや?構わないよ。むしろ私が着替えるのを見ているといい。そのほうが興奮する」
「失礼しましたー!」
あかん、変態さんや!と脳が警鐘を鳴らしだしたので、その場を逃げ出すことにした。
「なんだ、いらないのかい?全裸の女体の拝む機会などそんなにないぞ?おっと、君であれば違うか」
「余計なお世話ですねー」
「ふふ、ここに来て一年が経つというのにまだ初心とは。かわいい子だ」
「おっと背中に悪寒が」
「ところで君はどんな衣装が好きかな?メイド?巫女服?バニーガール?ナースもいいな。いや、チャイナドレスか?」
「俺に聞きます?」
「君のためのおめかしだぞ?当たり前だろう。あ〜あれか、さすがに露出が足りないか?であればスカートを短くして紐パンがチラッと見えるように」
「恥がないんですか?」
「自分の身体じゃないからな。で、何がいい?君が選んでくれなければ私は全裸で君と対峙することになるのだが」
「露出少なめの古き良きメイド服でお願いします」
「奥手だね」
扉越しに感じるいかにもやれやれ、的な言い回しにちょっとだけ腹が立った。
「さぁ、もう入ってもらって構わないよ」
本日2度目の入室。さすがに1度目のような緊張感はなかった。
代わりに、別種の驚きがあった。
「普通にすれば可愛いじゃないですか」
黒を基調とした古めかしいメイド服を、着られることなく着こなしている。先程のようなコスプレ調ではなく、正しくメイド姿の女性。
「素体がいいからね」
「素体がいいからで着こなせるものじゃないですよ、それ」
「ほう、やはり分かる口かね」
そう言って嬉しそうに口元を歪めるブライト博士。変態と呼ばれるだけはある。
「ちなみに」
「なんだね?」
「『露出少なめの服』って言ったら何着てました?」
「それはもちろん対魔に」
「ド変態じゃないですか」
「男ウケのいいエッッッどな衣装を着て何が悪い?」
「直視できなくなるでしょう?」
「ふむふむ、そっぽを向く赤面朱里君とは、なかなかクるものがあるな」
「度々出てくるその背筋が凍りそうな発言やめてくださいよ」
「安心したまえ、私は君に手を出さんよ」
「・・・そっすか」
だんだん疲れてきた。そろそろ本題に入らせてもらおう。
「で、なんで急に俺と面会なんて?」
「ああ、そうだったな」
博士は、部屋を見渡して言った。
「この面会が記録に残ることはなく、また誰かに見られることも聞かれることもない。いいね?」
すぅっと、目が細く鋭くなった。異様な緊張感が襲ってくる。今までの変態具合で忘れかけていたが、この人はエリート中のエリート。きっと何かしら大事な用事で来たに違いない。
「我々が確認している君の同居者は2人だ」
黑とアイのことだ。
「しかし、度々君がまるで別の者と話しているように見える」
ナイフを突き立てるかのような一言に、自然と険しい顔になる。
「単刀直入に聞く。
「・・・確信済みッスか」
息が詰まった。
「私の目算では3人だ。2人は君の認識の中に、そして1人は君の意識の中にいる。その先は考えないようにしているよ。身の安全のためにね」
これが、ブライト博士。どれだけ問題行動を起こしても重宝される、その頭脳。誤魔化しの効かない完璧な推理に、驚嘆するしかなかった。
「合ってます、全部」
「そうか」
すると、博士は途端に俯いてプルプルと震え始めた。
「えっと、その、報告しなかったこと怒ってます?」
「いや、別に、それはいいんだ。むしろ良い判断と言える」
肩を抱き、上目遣いになる博士に、何かしらの狂気を感じた。この人は、何を考えている?
「私はね」
嫌な汗が流れる。喉が渇いてしかたがない。
「
「はい・・・はい?」
「カプ厨なのだよ、カプ厨。私は君と他のオブジェクトとの関係を所謂”カップル”として楽しんでるんだ。本当ならこうやって君と会うこと自体避けたかったんだ。いやしかしこれで君とのカップルが一気に3人増えたことになる。これは想像が膨らむぞ。いや、危険性もあるからさすがに”意識の子”はやめておこう。態々観葉植物からカップルに割って入るクソオタクムーブをして良かった」
「あ、あの〜」
「ありがとう朱里君これで今夜も熟睡できる。ではさらばだ!」
「はい?」
「ではさらばだ!」
「え、その」
「ではさらばだ!」
「あ、はいさようならです」
外に放り出され、パタンガチャッと鍵を閉められる。
ふむ、一言言わせてほしい。
「マジなんなんだあの人」
神谷朱里
今回の被害者。
ブライト博士
超ド級の変態。この人ならどれだけ性格変態にしても怒られないと思ってる。なんでアベルとよりにもよって〇✕ゲーム仕掛けたんだろ。
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