あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ?   作:うろ底のトースター

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試験的にいろいろ試してたらこの文字数になりました。あと受験で遅くなりました。はい。

ハロウィンはないんだ、すまない。


腐食作用と戯れる実験

「・・・どうしよう」

 

暗い空間で、女は呟いた。

 

纏う衣服はボロボロで、褐色のその身体も腐敗が目立ち、黒い粘性の物質が付着していた。

 

しかし、そんな薄汚れた格好でありながらも、女は可憐であり、また淫靡であった。

 

どこか優しげな顔立ちに、絹のように柔らかな黒い長髪。街中で見たらしばらく忘れられないような、不思議な魅力を持ち合わせていた。

 

故に、それは彼女にとって好都合であった。

 

美しい顔は”獲物”を釣る餌。崩れた身体は”獲物”に恐怖を与える飾り。

 

ヒトを喰らう彼女には、その全てがただの道具であり、興味の対象にはなりえなかった。

 

SCPー106 オールドマン

 

オブジェクトクラス Keter

 

触れた全てを腐敗させる彼女にあらゆる障害は無意味であり、そのために現在も財団の頭を悩ませている超ド級の災厄である。

 

とはいえそこは流石のSCP財団。彼らの必死の抵抗(嫌がらせ)が功を奏し、オールドマンはこうして自分の隠れ家である異次元に閉じこもることになった。

 

さて、腹が減るまで一眠りでもしようかと考えていた彼女だが、ここで呼び止めたのが通信機──先日殺した財団職員の遺品──であった。

 

これは偶然かはたまた()()か。ザーザーという耳障りな音の中に、目を剥くような情報があった。どうやら今、施設内に美少年が住んでいるらしい。

 

自他ともに認めるショタコンたる彼女(ただし守備範囲は広い)はすぐに赴こうと決心して、すぐさま揺ぐことになる。

 

今外には、分厚い金属壁が何枚も行く手を塞いでおり、殺人的な光が照っているという財団お手製嫌がらせカーニバルの真っ只中である。

 

と、言うわけで。

 

「あぁー、どうしよー・・・」

 

彼女は近頃ろくに働かせていなかった頭脳を回転させているのである。

 

「いやまぁ、嫌がらせはどうにか抜けれるからいいんだけどさ、時間がかかるからその間に避難とかされるよねー」

 

うーんうーんと悩んで幾許。

 

「やーめた」

 

オールドマンは、考えるのを、やめた。

 

 

 

 

彼女が件の少年──神谷朱里に出会うのは、それからおよそ3ヶ月後のことである。

 

 


 

 

『不本意だ。本っ当に不本意だ』

 

今日も今日とて博士はストレスを抱えているらしい。やけに不機嫌な口振りを聞くに、また例の”首飾り博士”の仕業だろう。

 

『SCPー106用障壁のメンテナンスが必要な時期ではあったが、だからと言って()()()()()()()など狂っているのではないか!?』

 

ま、そういうことらしい。

 

『O5もO5だ、なぜ許可する!今や神谷朱里の存在は我々の切り札でありながら最大の弱点!万が一死亡でもしてしまえばそれこそ世界の終焉に繋がるのだぞ!?』

 

おー、お偉いさんにまで牙を剥くとはかなり頭に来ているご様子で。

 

『ハー、ハー、すまない、取り乱した』

 

「いえ、大丈夫です」

 

それでもスっと自制できる当たり、さすが財団職員だと思う。もっとも、これくらいできなければ職員にはなれないのだろうけど。

 

『朱里くん、今回の実験の危険度は過去最高だと思ってくれ。SCPー106の性質上、我々のバックアップは望めないからな』

 

事前に得ていた情報を見る限り、妥当な判断である。ついでに財団の闇に触れてしまったが、そこは犠牲者に黙祷を捧げつつ、目を伏せることにする。

 

クソランプ?知らない子ですね。

 

『───間もなくコンテナが開かれる。幸運を』

 

それだけ最後に残して、博士の通信は終了した。

 

にしてもオールドマン(老いた男)か。シャイガイ(恥ずかしがり屋の青年)に続いてまた意味不明なネーミングをされているもので。

 

写真を見せてもらったが、これまた随分な美人である。

 

所々目を背けたくなるような傷があるが、そんなアンバランスさも含めて妖艶美麗。しかも優しさまで感じる。

 

未亡人のシングルマザーみたいな、そんな雰囲気だ。

 

あとどこがとは言わないけど、大きめ。薄い普段着と粘性の液体とが相まって、凄く、うん。

 

さて、物思いに耽りすぎた。

 

爆音のサイレンが響き、1拍後に目の前のコンテナの口が開き始める。カバンに入れてある()()()()に意識を傾けつつ、俺は彼女を待った。

 

そして。

 

「こんにちは〜」

 

中から現れた彼女は、優しげな笑みを顔に貼り付けながら、瞳の奥に欲情の炎を滾らせていた。

 

 


 

 

待ってました待ってました待ってましたー!コンテナ越しに伝わるこの気配、正しくあの日財団が騒いでた件の美少年!

 

クー!諦めていたけど3ヶ月の時を超えて今叶うとは!神というものがいるのなら今すぐ降臨してください!感謝するので!最敬礼するので!

 

さて、少年はどんな私をお好みかな?どうやって食べるのが1番良く悲鳴をあげて(鳴いて)くれるかな?

 

楽しみすぎて昂奮が止まらない!

 

「この空きっ腹に美少年の血肉を取り込む・・・、ああ!なんて犯罪的で冒涜的なの!これは優勝間違いなしだわ!」

 

なんだかよく分からないことを喋っている気がする。

 

ともかく、私はゴアな妄想を脳内で繰り広げながら、開くコンテナの隙間から少年を垣間見て、

 

瞬間、()()()()()()()()()()()

 

「・・・あー、そういう感じ?じゃあ食えない」

 

一気に昂奮が冷めきって、また別の興奮が燻り出す。血塗れの妄想は消え去って、代わりに甘い想像が湧き上がる。

 

 

通常人間とは、私にとって豚や牛、鶏と同じ食料に当たる。でも、彼は違う。むしろ猫や、犬のようなものだ。

 

つまり何が言いたいかというと。

 

「めっっっっちゃ撫で回したい」

 

可愛くてしょうがなかった。なんなら撫でるだけじゃなくてその先まで、ベッドのお世話までしてしまいたいくらい可愛い。あんな子初めてなんだけど。

 

いやさ?極端に小さいとかではないのよ。だいたいー、170少しくらいかな。

 

でもこう、なんて言うのかな。纏う雰囲気が和める。ふわふわしてる。久々にこんな穏やかな気持ちになれたかもしれない。まるで凪いだ海のようだ。

 

思わず手がわきわきと前のめりに出てしまうが、いやいやとギリギリ自制する。私が肌から分泌する粘液は、強い腐食作用を持っている。それこそあらゆる物質を腐敗させるほど危険なやつ。

 

「くぅー、嘆かわしい!」

 

これじゃあ気になるあの子に触れられない!撫で回せない!と、結局私は、3ヶ月前と同様に頭を抱えるのであった。

 

そんな私を見兼ねてか、少年が声をかけてくれた。

 

「大丈夫ですか」

 

「あーうん、大丈───」

 

「お姉さん?」

 

「──夫じゃなくなっちゃったねたった今!」

 

お姉さん?お姉さんだと?

 

やめろよ照れるどころか理性がトんじまうだろうがい。

 

「私の危険性くらいは知ってるよね?」

 

努めて冷静に応える。

 

「腐食作用、でしたっけ?」

 

「そうそう〜、だから君に触りたくても触れなくてさ〜」

 

それだけ聞くと、少年は持ち込んだカバンを漁り始める。

 

「要は、その液体を防げればいいんですよね?」

 

「確かにそうだけど、それができないから困って」

 

「できますよ」

 

私の言葉を遮って、やけにキッパリと応えたその声には、喜色と、してやったりという高揚感が含まれていた。

 

「これを使えばね」

 

取り出したのは、透明なジャンバーのようなもの。

 

「それ、何?」

 

「特別な合羽、こちらで言うところのレインコートです」

 

「特別なって、まさかそれが腐食を防げるっていうの?」

 

「そうですね」

 

ま、論より証拠ですと言って、少年はレインコートを着ると、スタスタと近づいてきて腕を差し出した。

 

「どうぞ」

 

生唾を飲み込みながら、私は、恐る恐る彼の二の腕に触れた。

 

「え、すご」

 

するとどうだろう。あらゆるものを腐食するこの液体が、粘性を持ち合わせているにも関わらず、まるで弾かれるようにレインコートの表面を滑り、床に垂れていってしまった。

 

「なにこれ、どこで手に入れたの?」

 

「コーヒー自販機から出てきましてね」

 

「コーヒー自販機」

 

思わずオウム返しの応答をしてしまった。レインコートを売ってるコーヒー自販機なんてあるんだなー。しかも特別製。

 

「いやいやそんなわけ」

 

「あるんですよね」

 

「えぇー・・・」

 

少年も困ったように笑っているあたり、財団側も予想してなかったことなんだろうな。

 

聞けばそのコーヒー自販機、”液体”である限りはその容器付きでなんでも出してくれるらしい。

 

抽象的なものから固有のものまで幅広く購入できるため、私の液体に耐える物質の採集のために利用したところ、液体入り容器と一緒に出てきたのだとか。

 

ちなみにこの合羽と容器には未知の物質が含まれていたため、現在財団が調査中であるものの、状況は芳しくない、とのことである。

 

獲物を捕るためのものだから、正直対抗策にそれが用いられないかと冷や冷やしたが、安心した。

 

「───さってと」

 

なんて考えていると、不意に少年が手を叩いた。

 

「この話題はこれくらいにしておいて。自己紹介でもしましょう。幸い時間は沢山ありますから、ね?」

 

妙に手馴れた進行に、しかし私は喜んで頷くのだった。

 

 


 

 

「とは言え、私には名前がないのだけれどね」

 

やっぱりか、と予定調和の台詞をくらっていつものように頭を回す。近頃俺がネーミングしていいのかと悩むこともあったが、それでもないと不便でして。

 

さすがに、女性に向かってオールドマンなんて呼ぶわけにはいかないのである。

 

「ん?あー、もしかして名前、考えてくれてるの?」

 

「あ、はい。ないと不便ですし」

 

「ほんと?嬉しー」

 

なんて言いながら後ろから抱きつくのやめてほしい。大きな双丘が背中に当たって顔が赤くなりそうなのよ。ごめんやっぱ嘘やめないで。

 

努めて、冷静に。

 

ともかく今は名前を考えることに集中しなくては。これ以上女性の尊厳を損なうようなことがあってはならんのだ。

 

可愛らしくかつ大人な雰囲気の名前・・・。

 

「ルマン」

 

オー()()()で、ルマン。どことなくお菓子感があるけれど、そこはご愛嬌ということで。

 

「ルマンかー。うん、いいかも」

 

そう言うと、彼女はトントンッと跳ねるように少し離れてしまった。背中の熱が冷めていく感覚に、少しもの寂しさを覚えてしまうのは、男の性か。

 

「それじゃあ」

 

くるりと、こちらを向いて、言う。

 

()()()()()()。私はルマン。君の名前は?」

 

──ああ、そうか。普通の自己紹介って始めはこうなんだっけか。

 

「ええ、はじめまして。俺は神谷朱里です」

 

ニッコリと微笑むルマンの目を見て、俺は応える。瞳の奥の卑しい熱に、薄ら寒いものを覚えながら。

 

・・・俺の貞操大丈夫かな。




ルマン

逆リョナもいける変態。なおこの作品でそんなシーンはないのでご安心頂きたい。実は最初期から朱里を知っていた。っていうネタをやりたいがためにこの人の視点を用意したわけですはい。


コーヒー自動販売機

ベストファインプレー賞受賞。タッチパネルが付いていて、そこに打ち込めば液体ならなんでも出してくれる。朱里くんに甘い。狭い出口から平均男性が着れる合羽を吐き出すというなかなかすごいことしてる。

作者 Arcibi
http://scp-jp.wikidot.com/scp-294



綾禰さん
空きっ腹に蜂さん
誤字報告ありがとうございました。


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