あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ?   作:うろ底のトースター

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遅れた言い訳はせん。すまない。煮るなり焼くなり好きにしてください。魚を。


撮影者とお話する実験

写真。

 

世界の一部を切り取って焼き写し、たった一瞬を永遠のものにする文明の利器。

 

幼い子の成長を記録したり、愛しい人との時間を記録したり、あるいは神秘的な光景を記録したり。

 

写真に触れてこなかった人間はきっといない。

 

今回は、そんな写真に関わるオブジェクト、いや、()とのクロステスト。

 

SCPー105 ”アイリス”

 

オブジェクトクラスは、Safe。久々に十分安全である。

 

アイリス・トンプソンという名の女性とカメラのオブジェクト。

 

女性がそのカメラを用いて撮影した写真は、まるで監視カメラのようにリアルタイムの映像に切り替わり、また女性のみその写真の当該地点から手の届く範囲に物理的影響を与える、要するに、触れることができる。

 

ちなみに、写真に手を突っ込んでいる間、当該地点では目に見えない穴から手が伸びているらしい。軽くホラー映像だけどちょっと見てみたい。

 

そんな彼女だが、実はアベルと面識がある。話を聞くとどうやら、何らかの勝負で負けたらしい。苦い思い出らしいので詳しくは詮索しなかった。うん謝るからベッドに連れ込もうとするのやめて?

 

閑話休題。

 

今回のクロステストの目的は、人に対する俺の異常性の影響の調査である。

 

結論から言うと、

 

「でね、あいつら私の能力を使って暗殺させようとしたのよ!?信じられないでしょう!?」

 

「大変でしたね」

 

多少効きはするが、他ほどではない。親しい友達程度の好感度だった。

 

ほんっっっっっとにその程度で良かった。と言うのも彼女、実は収容される前に彼氏さんが殺害されている。というより、それが契機となって収容されている。それでこんな実験に付き合わされているわけで・・・。

 

つまるところ、彼氏に先に逝かれた女性にホスト吹っかけてるようなものである。これを許した財団職員の精神性にはさすがにドン引き案件。こんなんでほの字になられでもしたら彼氏さんが浮かばれないし、何より俺が自己嫌悪で閉じこもる。

 

さて、ここまで聞けば分かる通り、現在目の前にはアイリス・トンプソンさんがいらっしゃる。ブロンドの髪を一房にまとめた、青い瞳の女性。身長は俺より15cmほど小さく、可愛らしい印象を受ける。

 

が、今は頬に朱が差しているためか、妙に色っぽい。原因は酒である。

 

クロステストに際して限定的に容認された酒。理由を聞けば、ストレス発散に、だそうで。かれこれ1時間近く財団に対する愚痴を聞いている。

 

「あれ、君呑まないの?」

 

「いやまだ未成年です」

 

「え、やだ、うそ!」

 

余程予想外なのか、口元を抑えて目を見開くアイリスさん。

 

「若いとは思ってたけど、そっか未成年。大変ねぇ、ほら、セイシュンってやつ?送れてないでしょ?」

 

「そっすね」

 

嘘ですそこらの高校生より青春してる自信あります。まともでも健全でもないだろうけど。

 

「私もねー、あんなことがなければ今頃彼と・・・彼と・・・う゛え゛ぇ゛ぇ゛ん゛!!」

 

「そうですよね、辛いですよね」

 

泣くのこれで何回目だろう。呑み始めからことあるごとに亡くなったボーイフレンドのことを思い出しては、こうして吐き出すように泣いて、止んではまた思い出して、というのを繰り返している。

 

下手に突っ込めば地雷踏みそうで、背中を撫でて慰めるくらいしかできないのが歯痒い。まぁ、泣いたら落ち着く、なんてこともあるしストレス発散の観点では正しいのか。

 

「にしてもその人、少しだけ羨ましいなぁ」

 

「ぐずっ、んえ?なんで?」

 

あ、やば。思ってたことが口に出た。

 

「いやだって、死んだあともずっと想われるってとっても幸せなことじゃないですか」

 

遺された側からすると溜まったものじゃないだろうけど。死んでも思われるってことは、恋人冥利に尽きるんじゃないだろうか。それだけ愛されるって、幸せなことなんじゃないだろうか。

 

俺の死後を想像してみる。

 

・・・・・・・・・。

 

やめよう世界が終わる。

 

「少年、いい子だね君」

 

「あ、はい」

 

「名前は?」

 

「神谷朱里です」

 

「なるほど、カミヤくん」

 

「はい」

 

「なんかあったらここに来なさい。相談くらいなら乗ってあげるわ」

 

先程までの涙は何処へやら、優しげに微笑んでアイリスさんはそう言ってくれた。

 

うん、でもさ。

 

「さっきまで大泣きしてた人に相談はちょっと・・・」

 

「カッコつけさせてよぉぉぉぉ!!!」

 

 


 

 

正直に言おう。カミヤくんに対して、あまりいい印象を持っていなかった。

 

曰く、いつも女の子を侍らせている。

曰く、オブジェクトを虜にする女の敵(オブジェクト)

曰く、オブジェクトホスト。

 

色々と噂は流れているけど、総じてまぁ軽薄な感じ。そんなこんなで今日会うことになって、どうせ口説かれでもするんだろうと突っぱねる気満々で望んだ。

 

実際に会ってみて、実はいい子なんだなって思った。

 

気遣いはできるし、優しいし、私が過去に彼氏を亡くしているのを知ってか知らずか、下手に踏み込もうとしてこない。

 

人との間合いを測るのがとても上手いんだ。

 

「君が好かれる理由がよく分かったよ」

 

異常性とかが取っ掛りとしてはあるんだろうけど、彼が愛されているのは彼自身の人柄のためなんだろう。

 

「そう、ですか?」

 

当の本人は分かってないみたいだけど。彼に恋心を抱いている子は大変だろうなぁ。

 

でもまさか、この歳になってあんな少年に感銘するなんて。人間性は年齢じゃないみたいだ。

 

『死んだあともずっと想われるってとっても幸せなことじゃないですか』

 

・・・忘れたいなんて、思った時期もありはした。それでも忘れられないのは、私が弱いからだと思ってた。

 

備え付けの机、その3段目の引き出しの底から、一枚の写真を取り出した。

 

ずっと、ずっとしまっていた写真。きっともう、見ないだろうと思っていた写真。

 

彼との、最後のツーショット写真。

 

泣いてしまうだろうから見れなかったけれど、今は笑顔で見れるから。

 

最期まで想うという覚悟で、私は写真に微笑んだ





神谷朱里

生死観はまだ正常。


アイリス

あれからよく笑うようになった。あとお酒もよく飲むようになった。



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