あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ? 作:うろ底のトースター
別にエペなんてやってないんだからねスカルピアサー気持ちよすぎだろ!!
今日も今日とてクロステスト。前回とは違って今回の相手は人ではない、との話を聞いて来たのだが───。
「えーっと、スマホ?」
「ああ、これを持って90時間過ごしてもらう」
アイや2000ーJPのような電子系のSCPなのかと思ったが、説明を聞いて理解した。
結論から言うと、どちらとも言えない。
SCPー1471 MalO ver1.0.0
オブジェクトクラスはEuclid。
無料アプリのオブジェクトで、容量は9.8MB。アプリ、といってもショートカットが生成されるわけでなく、3〜6時間ごとにメッセージと一緒に写真が送信されてくるだけらしい。
お、今来た。どこかわっかんねぇけど、奥のガラスに何かしらの獣の仮面を被った女の子が見える。
とまぁこんな風に、写真のどこかにSCPー1471ーA、あの女の子が見える。
『ベッドに寝転がりながら女の子とチャットかァ?ずいぶんと色付いてんなァ、えェ?』
「そんなに不機嫌になるなって。クロステストなんだから大目に、ね?」
『チッ』
周りの目はもちろん痛いが、仕方ないと割り切ることにする。
閑話休題、ここまでは序の口なわけで。このオブジェクトは時間が経つと少しずつその片鱗を見せてくる。
丸一日経って、送られてくる写真に変化が見えてくる。
「お、食堂の写真だ」
『ちかく?』
「うん、大分近いね」
このように、対象のよく行く場所の写真に変わる。少女はもちろん写ったまま。
これがまた3時間から6時間ごとに待って待って
「あ痛たたた。にしても、また増えそうだなぁ」
スマホの中の住人である、アイと2000ーJP。精神の中には
部屋は狭くないとはいえ、視界上少々窮屈に感じる程度には住み込んでいる。
「僕は慣れたけど、傍から見たらかなりのクズだよね」
言わんといてや。
心なし、写真に写る少女の視線も冷たく感じた。
次に変化が訪れたのは、まる二日後。正確に言えば、一日後に対象が最近行った場所の写真に変わるのだが、基本施設の外に出ないのでほぼ変わらなかった。ってことで割愛。
「・・・うわーお」
送られてきた写真は、
ちょうど、黑の奥の鏡から俺を見ていた。
目が、合った。
「っ」
なんというか、こう、真剣に咎めるような瞳って言うの?ちょっと覚悟を決めたみたいな雰囲気もあるし、完全に睨みつけてるし、眠っていた罪悪感が目を覚ました的な、キュッと胸が締め付けられるような感じがした。
確実に恋ではない、確実に。
そして、丸一日と少し後。
「ど、どーも」
「ええ、こんにちは。私は”マールゼロ”、”ゼロ”とお呼びください」
これまで写真に写っていた少女が、今は現実のそれとして目に映った。この前はガラスとかに映って見えてたんだけど、今は余計に威圧感がすごい。
「・・・私は」
マスクの下から、こもったような声が聞こえる。
「初めて写真越しにあなたを見たとき、誠実そうな人だなと思いました。それに優しげで、顔も好みでした」
耳触りのいい、柔らかな声。マスクを挟んでいるのによく聞こえる。
「でも違った」
「ヒエッ」
急に、地獄の底から這い出たような恐ろしい声音に変わった。
「毎日別な女の子の元にかよっていたり、部屋にも
みんなが見えてるあたり、やっぱり精神にいるだったみたい。
にしても大分毒舌だなぁ。真正面から言われるとこう、クるものがあるね。
「聞いてますか?」
「あ、はい」
「おっほん、そこでですね」
あ、なんかまずいこと言いそうな気がする。いらなく鍛えられた直感が全力で危険信号を放っている気がする。
「あの」
「
すぅーーーーーーーーーーーーー・・・。
「あ?僕を差し置いて何言ってんのかな勘違い女?」
「彼の優しさを愛情と勘違いしているのはナターシャ様でしょう?」
「産まれたての小娘が、会ったばかりでよくほざくね」
「愛に時間は関係ありませんので」
『それは違う。
「それは認めますが、
『む〜』
『随分と見苦しい争いだね』
「おや、いつもはふんぞり返って静観している
『気まぐれだよ』
「気まぐれですか。ではまた黙って見ていてください」
『私と戦うのは怖い?』
「いいえ、恋敵として認識していないだけですよ。一番に寄り添える立場にありながら関係性を発展させようとしない
『へぇ、よく言うね』
『でも
「ですからそれは────」
「───あれ?」
目が覚めた。ここは、医務室かな。
「起きたかね」
「博士?」
かなり疲れているみたいだ、隈が濃い。
「あの、俺はどうしてここに?」
「気絶だ」
「え?」
「精神的負担による気絶。精神疾患者によく見られる。診察結果を見るに君が精神病を患っているとは思えないが、おおよそ非現実に触れすぎて気付かない間に疲れていたんだろう。発狂しなかったのは幸いだな」
「あー」
言えない、多分俺の中にいるみんなのせいですなんて言えない・・・!
「後でSCPー682に礼を言いに行きたまえ。奴が倒れている君をここまで運んできたんだ。その際の修繕費と人的被害は見なかったことにする」
「それは」
「安心しろ、死人はいない。話は以上だ。私は寝る」
「その、お疲れ様です」
ぴしゃりと、自動ドアが閉じた。
「・・・弁明を聞こうか」
「すみませんでした」
『ごめんなさい』
『うん、今回ばかりは本当にごめん』
『ごめんね』
はぁ、反省してるなら許そうかな。
「もうこんなことはないようにね」
とはいえ、これはある種の知見だね。
今回のことは間違っても実験とは言えないけれど、それはそれとして、競合した認識災害同士が敵対すると、当人の精神的負担を抑えるために気絶する、ていう新事実が分かった。
分かってなんだって話だけど。とりあえずブライト博士には報告しとこうかな。
「それじゃ、お礼を言いに行こうかな」
──ちなみに、この後ルイにしがみつかれるのはまぁ、別の話だ。
神谷朱里
お察しの結末。
ゼロ
メタルなギアと関係はない。さすがにこれに懲りて今は大人しくしている。それはそれとして自分が嫁になると確信している。
名付けられるということは対等でないということ。対等でなければ結婚はできないでしょう、とは彼女の言葉である。
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