あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ?   作:うろ底のトースター

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はっぴーえんど。



メアリー・スーの───

足音がする。

 

呼吸が速くなる。

 

足音が近づく。

 

鼓動が速くなる。

 

足音が、扉の前で止まった。

 

扉が、開かれる。

 

「やぁ、助けに来たよ」

 

彼女は、美しく笑った。

 

 

───────────────────────

 

 

普通。俺のこれまでの人生を一言で表すなら、普通だ。何事もなく、特別不幸でも特別幸福でもない生活をしてきた。

 

それがずっと続くんだと思ってた。

 

「おはよう、アカリ」

 

「あぁ、おはよう」

 

初めての彼女ができた。

 

名は、メアリー・スー。アメリカ人だ。

 

両親の仕事の関係で日本に来たらしい。

 

成績優秀スポーツ万能容姿端麗。普通には勿体ないように思えて仕方ないが、そんなことを言うと怒られるので、ちょっとした幸福だと思っておこう。

 

でも、少しだけ問題がある。

 

男子による嫉妬と虐めの対象が、専ら俺だということだ。

 

これに関しては、あまり積極的に友人関係を広めようとしなかった俺にも責任があるのだろうが、それでも、

 

「辛かったら言ってね?」

 

「別に平気。それよりほら、今日の弁当」

 

「うん、ありがとう」

 

そんなことを差し引いてお釣りの来る幸福を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよアカリ、私が守ってあげるから」

 

 

 

 

 

 

 

何日か経った。いつの間にか虐めはなくなり、嫉妬の目は消え、代わりに祝福するかのような暖かい目が向けられるようになった。

 

正直気持ち悪い。どうしてこんなに急に・・・。

 

まぁ、問題がなくなったと考えればいいことか。

 

「どうしたの?」

 

「なんでもない。ただちょっと生きやすくなっただけ」

 

「えー、何それ?」

 

「なんでもないって。ほら、帰るぞ」

 

少し変わった日常。それが、俺の人生に色をつけてくれているようで、とても、嬉しかった。

 

 

 

「朱里、ちょっと仕事の関係でな、みんなで引っ越すことになったんだ。だから、メアリーちゃんには悪いけど・・・」

 

 

 

嬉しかったのに・・・。

 

 

───────────────────────

 

 

今月末、アカリはヒッコシをするらしい。なんでも、離れ離れになってしまうんだと。だから、もう会うことは出来ないかもしれないと。

 

確かに、アカリに会えないのは悲しい。

 

でもそれ以上に、アカリを悲しませるナニカが、憎い、許せない。

 

「悪いのは、誰?」

 

悪いのは、ヒッコシをするアカリの家族。

 

「ならどうするの?」

 

悪役(ヴィラン)の結末は決まってるでしょ?

 

「そうだよ、ちょっと痛い目を見てもらおう」

 

そうすれば、悪いこと(ヒッコシ)なんてしないはず。

 

 

───────────────────────

 

 

父さんの重篤、その報を聞いた時、まるで足場が崩れ落ちるかのような絶望が襲ってきた。

 

持病なんてなかったはずなのにどうして・・・。

 

「アカリ、大丈夫?」

 

「あぁ、うん、大丈夫だと思う・・・」

 

「・・・アカリ、私は傍にいるからね」

 

「・・・ありがと」

 

引越しは、延期になった。

 

 

 

 

 

「良かった・・・」

 

 

 

 

父さんが退院し、また引越しの話がではじめた頃、今度は母さんが大怪我を負った。

 

もらい事故だった。

 

脊髄骨折。母さんは、二度と立って歩くことが出来なくなった。

 

勿論裁判は行われた。だが判決は、()()。過失なしと判断されたのだ。絶対にありえない。

 

不幸は、止まらない。

 

怒りに我を忘れた父さんが、無罪判決を受けた男を襲撃。殴り殺してしまった。

 

たった半年。

 

それだけで、人生のどん底に落とされた。

 

唯一の救いは、俺に人殺しの息子というレッテルが貼られなかったことか。むしろ一人になった俺を憐れむような声が多かった。

 

こんなこと、前にもあったな。

 

確かあの時は、メアリーと・・・。

 

まさか、な。

 

「アカリー?起きてるー?」

 

「あぁ、うん。起きてるよ」

 

「・・・やつれてるね」

 

「はは、お前がいなきゃ首括ってたかも」

 

「ちょっと怖いこと言わないでよ」

 

冗談めかして言ったが、なまじ嘘ではない。絵に書いたような転落人生。生きることに疲れたんだ。

 

メアリーがいてくれなければ、本当に死んでいたかもしれない。

 

「・・・ねぇ、アカリ」

 

そう、メアリーがいてくれなければ・・・。

 

()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「メア、リー?」

 

 

 

「今回は悪役(ヴィラン)が分からなくてね」

 

 

 

「誰にも罰が当たらないんだ」

 

 

 

「ねぇ、誰が、悪いの?」

 

 

 

「今までのは、全部、お前が・・・?」

 

「だって仕方ないでしょう?君を悲しませている人はみんな、罰が当たって当然なんだからさ」

 

「父さんの病気も・・・?」

 

「ヒッコシするって言って君を悲しませたからね」

 

「母さんの事故も・・・?」

 

「うん、同じ」

 

「今までの不幸も全部・・・?」

 

「不幸?何を言ってるの?全部君のため、君の幸せのために()()()こと。だから君が今悲しんでいる理由が分からないの」

 

 

 

「だから、ね?」

 

 

 

悪い人は、誰?

 

 

 

信じていた彼女は、俺の心を深く抉った。

 

 

───────────────────────

 

 

「───朱里くん、落ち着いたかい?」

 

「はい・・・。ごめんなさい、突然」

 

あの後、俺は親戚のおじさんの元に逃げ込んだ。もう何も信じられなかった。

 

「何があったか、話せる?」

 

「・・・信じていた人に、裏切られてました」

 

声は、まだ震えていた。

 

「・・・そっか、辛かったね。今、ご飯を用意するよ。食べられるようだったら食べてね?」

 

そう言って、おじさんは、部屋を出ていった。

 

孤独になって、ようやっと安心する。一人でいるというのが、ここまで心を鎮めくれるとは思わなかった。

 

できれば、ずっとこのまま・・・。

 

『お邪魔します』

 

「あ、え、?」

 

『勝手に入られては困るな、お嬢さん』

 

『勝手にアカリを連れてきたのはあなただ』

 

「違、う・・・、やめろ・・・」

 

『そうか、君が・・・。これは立派な犯罪だぞ』

 

『あぁ、その通り。立派な悪行だ』

 

「もう、やめてくれ・・・」

 

『分かっているなら『だから』?』

 

『あなたには、天罰が降るんだ』

 

『何を言って・・・ごぷッ!?』

 

誰かが、倒れる音がした。

 

「い、やだ、やめてよ・・・」

 

足音がする。

 

呼吸が速くなる。

 

足音が近づく。

 

鼓動が速くなる。

 

足音が、扉の前で止まった。

 

扉が、開かれる。

 

「やぁ、助けに来たよ」

 

 

 

俺は、希望を投げ出した。

 

 




「かくして囚われのヒロイン(アカリ)ヒーロー()に助けられ、悪人には天罰が降った・・・

ほら、ね?


────────IFエンドルート────────


メアリー・スーの幸福論(理想のハッピーエンド)でしょ」





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