あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ? 作:うろ底のトースター
ゼペット爺さん・・・。
『おはよう、朱里君』
「博士、まずは青筋浮かべながら爽やかに挨拶するのやめましょう。怖いです」
『問題ないとも。さて、今日は───』
「とりあえず何があったか聞いてもいいですか。ってか聞かせてください何があったんすか」
『・・・聞いてくれるか?』
「あ、はい」
『またやらかしてくれたんだよ、あの首輪付──いや首飾りがね』
まぁ、何となくそんな気がしてた。
どうもまたあの首飾り博士がオブジェクトに手を出したらしい。しかも手の出し方がちょっと俺に関係する。
SCPー085 手描きの"キャシー"
意志を持つ絵の女性。彼女のいる平面に絵を描けば、その絵が動物だったり人だったりしない限りはまるで本物のように扱える。また、平面から平面に移動することもできる。そんなオブジェクト。
財団は彼女を収容するにあたり、彼女の精神的負荷を考慮して、自身が絵であるということを隠していた。
うん、隠して
ある日、財団職員のミスによってそれがバレてしまい、彼女はいわゆるうつ病のような状態に。今は財団のメンタルケアもとい気晴らしのタスクを提供することによって少しずつ回復の兆しを見せているとのこと。
さて、そんな彼女だが、実は珍しい財団が産んだオブジェクトだ。
詳しい手順は省くが、自分の意思ではないけれどもめっちゃ上手く描けるペン(オブジェクト)で描かれた少女の絵を、なんか改造してくれる機械(もちろんオブジェクト)に入れてみたら産まれたらしい。
現在まで同様の手順で、彼女のように命を吹き込まれた存在は産まれていない。
これが、つい先日までの話。
2週間ほど前、あるそれはそれは見目麗しい首飾りを付けた財団職員が、気まぐれに件のペンを持ったらしい。
で、描かれたのが、俺だった。
何となく分かってきたと思う。
でだ、その首輪付、じゃなくて首飾りの職員は何を思ったのか、これならあの機械にぶち込めば動き出すんじゃね?的なノリでやったらしい。
結果、産まれちゃった。
そのバカな首輪付きは思いました。こいつなら彼女を救えるんじゃねぇか、と。テンションに任せて独断で実験開始。まあ、絵でも俺なのでしっかりとメンタルケアしたようですが。
ここまでならいろいろと問題はあれど、ええ話やなぁで済むのだが。
その〜ですね、絵のほうの俺君がやらかしたようでして。
今日の早朝にですね、職員の方が気が付いたようなんですよ。なーんかキャシーさんお腹を気にしてるな〜っと、なんかちょっといつもより大きくなってないかな〜っと。
ちょっとセンシティブな話題ということで、手の空いていた女性職員を呼んで質問させました。
そしたらこう答えたそうです。
新しい命を授かりました。
財団本部が端から端までひっくり返ったよね。
『情報規制はしたが、それで君の身が安全になるとは限らない。最悪、襲われる可能性もある』
確かに襲ってきそうな顔が一人二人三人・・・。
『そこでだ、君にはまた海外に出てもらうことにした。元々、クロステストの要請もあったしな』
「なるほど。また日本ですか?」
『日本もそうだが、先に行ってもらう国がある』
「どこですか?」
『中国だ』
「我已经到了!!」
『ご主人、なんて言ったの?』
『中国語でやってきたって意味だね』
『あなた、はしゃぐのはいいですが、本来の目的を忘れないようにして下さい』
『少しぐらいいいじゃない、ね、朱里くん』
『全く、帰る場所がこんなにアグレッシブだなんて、大変だわ』
以前に国を跨いだときよりすっごく賑やかになったなぁ。
『その感じ、また
まあね。
さて、ゼロも言ってたけど、本来の目的に向かおうかな。俺が呼ばれる理由なんてまあ一つしかないわけで。はい、クロステストですね〜。
SCPーCNー500 饕餮
オブジェクトクラスはKeter。
異常性は、伝承通りになんでも食べれること。本当になんでも食べれる。それこそ、認識だったり記憶だったり、果てには概念なんかもいただけてしまう。そして、食べたものは、まるで最初から存在していなかったかのように消滅する。
この性質に目を付けた古代中国の人々は、自分の消したいものを食べるように強要していたらしい。
・・・オブジェクトの家族の血肉から作った、拘束具を使って。
『朱里くん、それは無駄な怒りだよ』
「大丈夫、分かってる」
『ならいいよ。頑張ってね』
さて、行こうか。
場所は、まぁ、知らされていない。万が一にもオブジェクトの位置情報が、外部に漏れないようにしなければならないからだ。他にも理由はありそうだけど、最たる理由はそれだろう。
偽装された洞窟の入り口を通る。中は、まるで鍾乳洞のようだった。ただ、鍾乳石の並びが規則正しい。まるで何かを封じ込めるかのように、この円形の洞窟に分布している。
「なんだ」
そして、洞窟の中心に、彼女はいた。彼女は拘束具に包まれていた。弓なりに反った角。狼を彷彿とさせるピンと立った耳。酷く傷んだ、手入れのされていない長すぎる白髪。その白髪からかろうじて覗く、暗く鋭い瞳。
「彼らの目を盗んで来たか。何が望みだ」
「いや、財団の人間です」
「斯様な小僧がか」
「そうです」
彼女は、しばらく俺を睨みつけたあと、警戒を解いた。
「嘘ではないな。して、何が目的だ」
「世間話です」
「何」
「でもその前にとりあえずトリミングしましょう」
「なんだその道具共は」
「大丈夫です。鍾乳石を数えてれば終わりますから」
「待て、来るな、やめろーー!」
「ふぅっ」
「久しい感覚だ・・・これが・・・屈辱か・・・」
「何言ってるんですか」
「許さんぞ貴様・・・我を辱めおって・・・!」
「いや辱めたって、傷んで伸び放題の髪を整えて適当な長さに切ってブラッシングして、あと体の隅々まで洗っただけじゃないですか」
「最後だ!最後が屈辱なのだ!」
「え・・・、あぁ!」
そりゃ確かにそうだ。いい歳して若造に、しかも異性に身体を洗われるなんて生き恥だろう。周りに痴女が多すぎて感覚が麻痺していた。
「でもほら、鏡見てくださいよ」
「な・・・これは・・・」
肌の汚れは綺麗に洗い流され、伸びすぎて地面にまで垂れていた白髪はちょうどいい長さに(ロングが似合いそうだから長めに残した)。
何より、顔の大半を覆い隠していた前髪を切ったことで、フルのご尊顔が拝めている。
狼を彷彿とさせるような、シュッとした顔立ち。拘束具も相まってワイルドな印象を与える。うわぁ他の髪型も試したい。
「そうか、我は、このような顔つきだったのだな。忘れていた」
少しだけ笑みを浮かべる饕餮。
「ただ、そうだな」
が、すぐに微妙な顔になってしまう。
「あー」
何となく理由が分かった。
「衣服が欲しいな」
「衣服が要りますね」
良すぎる顔立ちに神秘的な白髪、背景も相まって一枚の画として完成しているが、実際は全裸に鎖や拘束具をつけられているプロポーション抜群の女性(ケモ耳角付き)である。
現実として立ち返って見るとなんともキツいものがあるのだろう、本人としては。
俺はって?目の保養。
「しかしまあ、これでは着れんな」
そう言って拘束具を悲しそうに眺める饕餮。
「着れなくても羽織るくらいはできますよ」
ってことで今着てるコートを被せてやる。あれ、なんかデジャブが・・・。ま、いっか。
ん〜、多少の?不自然さはあるけどかわいいのでヨシ!
「・・・久しく感じなかった。これは、温かいな」
「優しさか、何世紀ぶりだろうな。もう、与えられることなどないと思っていた」
今までに会ったことのない種の人間だ。不敬にして大胆、しかし不思議と憎めぬ。
・・・この小僧にも、裏があるのだろうか。我に喰わせんとする者だろうか。一度我が口を開き、奴の意に従わんとすれば、化けの皮がはがれてしまうのだろうか。
それは、嫌だな。
「貴様、名は」
「朱里です。神谷朱里」
「東の島国の者か」
「はい。日本って言います」
神谷、朱里。そうか、覚えておこう。もう会うことはないだろうからな。
「神谷」
「何ですか?」
「一つだけ、貴様の望むものを喰ってやる」
せめて今だけ、我の前でだけは、その皮を被ったままでいてくれ。そして願わくばもう、二度とここへは来ないで───
「え、いらないです」
「───何?」
「え、だって、何か食べさせる目的で来たらその拘束具の機能を使って脅せばいいですし。なんか自分で言ってて胸糞悪くなってきたな・・・」
それにほら、っと奴は加えた。
「最初に答えたじゃないですか、世間話をしに来たって」
「まさか、本気で・・・?」
「もちろん!」
頭を鈍器で殴られたような気がした。そうか、我はここで人に従ううちに、懐疑心を肥大化させてしまったのか。
この小僧は、本当に、どうしてここまで優しくなれる。
「───でですよ、初めて中国に来たからいっぱい写真撮っちゃったんですよ!あ、見ますか今の中国のって、どうかしました?」
「いや、なんでもない。ただ、貴様のような人間がいるのだなと、思っただけだ」
「?」
「どれ、その写真とやらを見せてみろ」
「分かりました!じゃあまずは北京から───」
今までに会ったことのない種の人間だ。不敬にして大胆、しかし不思議と憎めぬ。
昏い野望を持たず、悪しき欲を持たず、この饕餮にさえ優しい。
酷い話だ。家族を奪われ尊厳を奪われ自由を奪われ、ただ果てるだけと思ったこの生に、どうして小僧を引き合わせた。
生きたいと思ってしまったではないか。
──神谷朱里。食えん奴だ。悪くない気分だがな。
神谷朱里
この日のためにトリミング技術を習得。実は努力家だったりする。
実は汚れ放題伸び放題ってだけで髪の毛の手触りはナイロン質。
「奴の身、少しくらい味見してみるべきだったか」
虗さん
誤字報告ありがとうございました
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