あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ?   作:うろ底のトースター

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お前はいつだって遅いなトースター。今度はなんだ、何で遅れた?

別に、何も。

ただダラダラしてただけです本当にごめんなさい。



犬っぽいなにかと戯れる実験

口元を手で覆い隠し、収まってくれない荒い呼吸音をできるだけ隠す。震える身体を無理矢理抑えて、音が出ないようにと必死に耐える。

 

キィキィと開かれた檻の戸が不愉快に鳴き、死臭に似た嫌な匂いが不安を掻き立て、ペットショップに見えるこの空間を不気味に演出していた。

 

ひたひた、ひたひた、足音が迫る。彼女との距離が近付いていく。

 

そして───。

 

「あっ」

 

目が合った。

 

「ワンワンワン」

 

 


 

 

「クロステストだ」

 

「あ、はい」

 

何故でしょうか、日本支部の方々俺に辛辣じゃァない?気の所為?俺君らになんかしましたっけ?

 

いや確かに、彼女達が異常な存在ってことを除けば俺のしてることは片っ端から女の子を口説いてる罪な男なわけで。そりゃ日本人から見たら良いイメージは持たれないよね。

 

少しぐらいはその嫌悪隠してくれてもいいと思うけど!

 

さて、本日の俺のお相手はと言うと。

 

SCPー070ーJP わんわんらんどと犬ではないなにか

 

オブジェクトクラスはSafe。

 

メンテナンスハッチのオブジェクトで、多分『わんわんらんど』という廃墟のペットショップに繋がっていると思われる。中に入るだけなら目に見える異常はないが、そのまま居座り続けると、SCPー070ーJPー2が現れる。見た目は不明。

 

それは、犬に似ていて犬でなく、そして大きいらしい。

 

これらの情報は、かつて実験のために侵入し帰ってこなかった2人のDクラス職員により判明したもの。おそらくは、いぬではないなにかに襲われたのだろうが、その後、彼らは「ワンワンワン」としか言えなくなったらしい。

 

まるで見た目がポップなホラーゲームみたい。久しぶりにちゃんと怖い相手だ。

 

え、これまでも十分怖くて脅威?いい娘達だったので怖くないです。

 

「着きました」

 

『了解。では実験を行う。侵入してくれ』

 

「分かりました。入ります」

 

少し錆の目立つハッチを開けた。中からじとっとした空気が流れ出して、恐怖心を煽っている。

 

意を決して内部へ侵入、すぐさま周りを見渡した。まず目に入ったのは檻。動物を入れていたと思われるが、大概が壊れて扉が開きっぱなし。

 

檻、檻か。

 

かつて行われた2度の実験。そのどちらも、逃げようとしたものの出口が開かずに襲われている。一度見つかれば最後、逃げられないということ。

 

まるでこの空間そのものが、檻みたいだと思ったりして。このスケールの檻なら人間用かななんて思ったりして。

 

・・・やめよ、怖くなってきた。

 

そんなことを考えていたからか。

 

「あっ」

 

いる。何かいる。四肢を地面に付けて、じっとこちらを見つめる何か。確かにあれは犬のようで、けれども断言できる。あれは、犬なんかじゃない。

 

・・・人型だ。奇しくも人間用の檻が現実味を帯びてしまった。

 

「あー、えー、こんにちは?」

 

返事はない。これは、警戒されてる?Dクラスの2人にはすぐに襲いかかったっぽいのに?

 

そこで、一つ気付く。暗くてよく見えないけれど、それの背後で何かが揺れていることに。

 

あれって、まさか・・・。

 

「よし、来い!」

 

「ワン!」

 

「うお速っ」

 

待ってましたと言わんばかりの突進。どうにか片足を下げるだけで受け止めたものの、なかなかの速度で突っ込まれただけにすこし腰が痛い。

 

というか、何より大きい、身長が。

 

「本当に犬に似てるなぁ」

 

「ワンワンワン!」

 

さっき、俺を見つけてもじっとしていたのはいわゆる『待った』の状態。そして今は『待った』が解かれた『よし』の状態だ。

 

所作から犬らしいとは感服である。

 

「ワン!」

 

へっへっ、と息を荒らげ、舌が垂れている犬耳の美女。事案です。身長は目測で190ほど。黒いメッシュの入った長髪が綺麗だ。

 

さて、犬耳に尻尾付きとは言ったが、なんか変。というのも、プラスチックのような質感で、まるでおもちゃのようだ。

 

あと、一応のこと服は着ているが損傷が激しく、所々が赤黒く汚れている。見なかったことにしよう。

 

ところでお前さん、お目目据わってないか。こんな「私、無邪気です!」みたいなことしといてそんな目の奥そんな怖いのなんで。

 

「歌、か」

 

目の前の存在にしか意識が向いてなかったけど、耳を澄ませば、複数人の声からなる歌が聞こえてくる。

 

この声の中には、オブジェクトの被害にあった人たちもいるのだろう。

 

「なぁ君」

 

「ワンワンワン」

 

「俺より前に、2人くらいここに来たと思うんだけど」

 

ワンワンワン(僕たち一緒だ)ワンワンワン(ここにいる)

 

「あぁ、そう・・・」

 

取り込まれたと見たほうがいいかな。それよりも、なんか、伝わり方に違和感があった気が・・・ま、いいか。

 

ワンワンワン(遊ぼ)!」

 

「いいよ」

 

とはいえここは屋内、2階があるもののかなり狭いので、できる遊びは限られる。トランプでも持ってきたら良かったなぁと後悔。

 

ワンワンワン(じゃあ鬼ごっこ)!」

 

「正気かなぁ?」

 

某バイオなハザードのリッカーみたいな動きする君とこの狭い空間で?僕はあのエセ新人警官みたいなスタイリッシュさもエイム力もスタミナもないんですけど。

 

ワンワンワン(ダメ)?」

 

「分かったからそんな悲しそうな顔しないで」

 

目がうるうるして、尻尾もだらんと垂れて、耳もペタンとしているわんちゃんに我々は無力なのです。

 

「それじゃあ10秒数えてね」

 

「ワン!」

 

「いい返事だ」

 

さて、とはいえ狭い屋内だ。怪我しないように適当に逃げて適当に捕まるのがベストかな。ほどほどに拮抗させたら満足してくれるよね、多分。

 

・・・2m近くある目が見えるリッカー相手に適当に逃げる?無理じゃない?このゲームは今からかくれんぼです。

 

1階は隠れる場所が少なそうだし2階に行こうか。ちょうどいい感じの大きさの物陰にでも隠れてたら───。

 

 

 

 

 

 

「───うん、10秒。それじゃあ探すね、お兄ちゃん」

 

背筋が凍った。

 

「楽しみだなぁ、お兄ちゃんが僕たちと一緒になるの」

 

久しぶりの警鐘が煩く響いた。

 

「ね、お兄ちゃん」

 

これは、捕まったらヤバい。

 

5()()()()()捕まってね」

 

「犬なのに猫かぶり、ね・・・!」

 

5分という時間制限をつけることでゲームとしての体裁を整える。これで捕まっても時間切れって誤魔化せなくなった。加えて、退路を塞ぐのが上手いねぇ。

 

いや関心してる場合じゃないや。

 

念の為、財団から支給された携帯端末に5分のタイマーをセットする。

 

5分ね。惚れ惚れするくらいちょうどいい時間設定だ。獲物にそれくらいなら大丈夫か!なんて楽観視させる程度の制限。現に俺もそうなってるし。

 

詐欺師向いてんじゃないあの子。それとも取り込んだやつに詐欺師いた?

 

「お兄ちゃんどこかな〜?」

 

声的にまだ1階かな。というかまた雰囲気変わってない?なんかこう、背伸びした子供みたいな。人格が安定してないのかな?

 

「ううん、僕たちなら2階に行くよ」

 

まただ。また変わった。今はあのヤバい人格が出てる。取り込まれた人格がころころ変わってるんだ。

 

「猫かぶりどころか百面相じゃん」

 

階段を登る音。ひたひたと着実に音が近付いてくる。いやだな、ホラーに耐性ないんだよね俺。某タンスの住人とまでは言わないが、少し体が震えてきた。

 

「ここ!」

 

うおびっくりした!

 

驚いて跳ねなかったのが奇跡だ。どうやら隣の扉を勢いよく開けたらしい。ここ古いんだから大切にしようよ。

 

「違うな」

 

また新しい人格ぅ?今回はちょっと男の人っぽい感じがする。

 

「なら次だね」

 

次ってここかなぁ、ここだよなぁ。

 

「えい!」

 

なんで1つとばしたの!?

 

あの娘今俺がいる部屋を挟んで別の扉を開けに行ったっぽい。これ分かってるよね、俺がいる場所分かってるよね。場所も相まって気分は完全にホラーゲームの主人公なんですけど。

 

「ここでもないか」

 

「てことは〜」

 

「ここ、だよね?お兄ちゃん」

 

せめて勢いよく開けてもらってですね?ゆっくり開けたら建付け悪いせいでキィッて音が鳴ってさ、怖いのよ。

 

「時間は、だいたい2分ってところかな?」

 

「残り時間でじっくりここを探すから、怖くなったら降参してもいいよ?」

 

「あんまり焦らされると僕たち」

 

「優しくできないかもしれないから、ね」

 

・・・勝ち確なんだから、もっと嬉しそうにすればいいのに。

 

誰か教えてあげられなかったのかな。

 

 


 

 

目が合った。

 

やっぱりここだ、僕たちはあってた。

 

これで終わり、僕たちは一緒になる。

 

ご飯がなくても、寒くても、息ができなくても、もう負けない。

 

だって僕たち一緒だから。

 

だから、僕たちは、お兄ちゃんと───。

 

「よっ」

 

「え?」

 

軽い掛け声。急な熱。心地好い程度の圧迫感。ほんのりと香るいい匂い。

 

僕たちは今、何をされてる?

 

僕たちは抱きしめられてるんだ。

 

誰に?

 

お兄ちゃんに。

 

「!?!!!?!??」

 

なんで!?なんで急に!?嬉しいけど、今そんな場面じゃなくない!?

 

「鬼ごっこってさ、タッチしたら今度はされた側が鬼になるよね」

 

「な、なんの話?」

 

「それでさ、その鬼が前の鬼に触っても、鬼って替わるよね」

 

え?いやいや嘘嘘ウソうそ。そんなルール知らない。そんな逃げ道知らない。ズルだ卑怯だ屁理屈だ!

 

「こうして抱き締めてあげれば、もうどっちが鬼か分からないね」

 

「うあ」

 

だめ、だめだめだめだめだめ!満足したくない!こんなので満たされたくない!お兄ちゃんと一緒になるの!お兄ちゃんと、一緒に、ならないと!

 

「だから、鬼ごっこは不成立。よってこの勝負は無効試合です」

 

「そんなのずるいよぉ・・・」

 

 

 

 

「お兄ちゃんのバカ」

 

「ごめんって」

 

僕たちは今、お兄ちゃんを膝に乗せてお兄ちゃんの胸に頭をぐりぐりと押し付けている。くすぐったがってたし恥ずかしがってたけど、あんな卑怯のお返しと言ったら抵抗しなくなった。

 

「卑怯者」

 

「ごめんね」

 

ぐりぐり。

 

「屁理屈」

 

「ごめん」

 

ぐりぐり。

 

「大っ嫌い」

 

「ゔっ」

 

ぐりぐりぐりぐり。

 

「どうしたら許してくれる?」

 

「許さないもん」

 

許したらもう行っちゃうよね。だからやだ。もっとこうしてる。

 

でも、ずっとここに縛り付けるのもワガママだから。

 

「・・・寂しかった」

 

聞いてもらおう、かな。

 

「どれだけみんなと一緒になっても、満足できなかったの」

 

「うん」

 

ここに来る人はみんな、僕たちが一緒にした。でも、痛くて冷たくてお腹が空いて、何も何も変わらなかった。

 

「お兄ちゃんと会えた。そのときにね、分かったの」

 

「うん」

 

この人と一緒になれたなら、僕たちはみんな耐えられる。雨に打たれても溺れても足が折れてもご飯がなくても耐えられる。

 

「でも、不思議なの。こうしてるだけで、僕たちは満たされてる。どうして?これもお兄ちゃんの卑怯なの?」

 

「違うよ」

 

それは、なに?

 

「これはね、卑怯でも屁理屈でも、魔法でもなんでもないんだよ」

 

そっか、そうなんだ。

 

これの名前は────。

 

 


 

 

『おかえりなさい、色男』

 

「私、一度もあなたからあのような台詞を言われたことがありません。今度最高のシチュエーションと共に私に向けて私のための台詞を用意することを要求します」

 

「要らないよねそんな記憶、僕が変えちゃおうかな」

 

()()、怒ってる。むー』

 

大荒れだよ。よくハッチから生還するまで抑えてたねその嫉妬の嵐。

 

「よくもまああんな歯の浮く台詞が出てくるもんだよ君」

 

『今夜の夢は期待していいんだよね?』

 

お手柔らかにお願いします。

 

「それにしても、良かったのですか?また来るなんて約束をしてしまって。今度こそ取り込まれてしまいますよ」

 

大丈夫だよ。

 

「それはなぜ?」

 

だって、あの娘のほしいものはもうあげたから。

 

「そう、ですね」

 

きっとそれは、一緒になる以上に彼女にとって大切なもの。

 

ずっと欲してたんだよあの子は。

 

人から向けられる愛情をさ。

 

 

 

 

 

「それ僕にも向けてくれるよね?」

 

「私が先です」

 

『夢の中は私の独壇場だって忘れたの?』

 

『むー!むー!』

 

俺、泣きそうだよ。




神谷朱里

久しぶに肝が冷えた。


いぬではないなにか

今作ホラー担当。本当は怖いオブジェクトの代表格。取り込まれたいくつかの人格が出たり引っ込んだりを繰り返しているものの、情緒や目的意識などは安定しているので余計怖い。身長が大きいのは原作再現と作者の性癖です。

ここらは私の推測となってしまうのですが、彼女は虐待を受けたわんちゃんか子供が変化したものだと思われます。詳しくは記事の調査ログを最初から最後まで選択してみて。



誤字報告ありがとうございます。
色んな方に報告頂いて大変嬉しいのですが、ここに名前を挙げて感謝するには多すぎるため、今後は控えさせていただきます。



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