あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ? 作:うろ底のトースター
先延ばしにした挙句、こんな、こんな形になってしまった!
許してお願い何でもしますから!
あと、なっがいので注意。
この街には、奇妙な噂がある。
街外れ、深い山奥に建つ洋館。そこに脚のない、磔の遺体が保管されているという。
第二次世界大戦中のドイツから贈られた、連合国の鹵獲物の1つと言われているが、真実は分からない。
ただ、何でもその遺体、深夜になると
まるで、その者の罪が、未だ赦されていないかのように。
「くっだらね」
誰が面白がるんだよこんなオカルト。
「あ!朱里くん酷い!私頑張って調べたのに!」
「知らねぇよ誰が気にして読むかこんな調査書!甘いのは名前だけにしとけこの甘ちゃんが!」
苦言を呈する我らが部長を、紙束を眼前に突き出して黙らせる。
ここは『オカルト研究部』。俺と部長、あともう1人しか部員がいない過疎状態で、今度の調査を成功させ、部員を増やさなければもれなく廃部となる。
普段ならこんな調査書でも面白がって記事にし、校内の掲示板に貼りつけて回るのだが、今回ばかりはこんなことは言ってられない。
「絶対誰かは読んでくれますー!そんなに言うなら朱里くんが調査書出してよ!」
なんてことを言う部長。名は、キャンディス。まぁ、外人だ。少しばかり火傷が目立つものの、綺麗な金髪と整った顔立ちが腹立し、いや、可愛らしい、うん。
男子衆が群がりそうだが、何故か誰も近づかない。
詳しいことはあまり分からない。出身地どころか、なんなら苗字も知らないからな。
「昨日、やっぱり身近なオカルトのほうがいいよね!って言って何枚も用意してきた俺の調査書パァにしたのはお前だろうが!」
「だってそう思ったんだもん仕方ないじゃん!」
「2人とも、うるさいよ」
「「クローヴィス!」」
部室の扉を開け、3人目の部員が、クローヴィスが入ってくる。もちろん外人だ。魔性って言葉の似合う色白の美人だ。こいつも出身と苗字が分からない。
何気にこの3人の中で1番部長に向いていたりする。
こいつもこいつで男子衆から狙われない。何故だ。
「ねぇ聞いてクローヴィス!朱里くんったら酷いのよ!私の調査書をくだらないって言ったの!」
「見てみろよクローヴィス!こんなの貼って部員来ると思うか!?思わないだろ!」
「だから2人ともうるさいって」
どうどうどう、とばかりに手をかざして俺たちを抑えるクローヴィス。何となく畜生扱いされてるみたいでイラつくが、言ってることは正しいので大人しく従う。イラつくが。
「うーん、端的で読みやすいし分かりやすいけど、確かに興味を惹かれるかって言えばそうでもないかな。これよりだったら、呪いとか黒魔術とかにしてみたら?まだその層には響くと思うよ」
「むぅ」
「今回は朱里が正しいね」
結果、勝訴。
「さて、3人集まったし、始めようか」
───────────────────────
とは言え活動に進展があるわけもなく、先程の調査書に尾びれをつけようとした
『身近なオカルトっていうのは私も賛成だから、明日までに探しておくこと。山の洋館は危ないからダメだけど、朱里の家の立ち入り禁止の蔵とかは探せるんじゃない?』
山の洋館、キャンディスの調査書にあった洋館のことだ。家の裏手の山に建ってる。元は国保有のものだったらしいが、何度も建て壊しが計画され、その度に
オカルトの話題にしていいほど、軽い話ではないのだ。
んで、蔵のほうだが、こちらは逆にオカルトから程遠い。
どうせ親父の仕事道具があるだけだと言ったが、もしかしたら何かあるかも、と返されてしまった。
いやまぁ、入らないけど。
てか、よくよく考えたらアイツらがオカルトだろ。なんで色々と不明なまま高校入れたんだよ。
キャンディスにクローヴィス、ねぇ。どっかで聞いたことある気がするけど、ま、いいか。
「ただいま」
おかえりー、と言う親父の声に応える。
母は俺が8歳くらいの頃に家を出ていったらしい。それ以来、仕事の忙しい親父に代わって料理は俺が担当してる。
さて、今日は何を作ろうか。
今晩の料理に頭を捻りながら、オカルトに悩みだす。
オカルト、オカルトかー。この街は特に神社や寺があるわけでもなく、墓場もなし。
・・・いやねぇよ。
こんなんでどうやってオカルト話を探せというのか、そう考えるとキャンディスはすごいのかもしれない。本人の前じゃ絶対に言わないが。
「また、オカ研の活動かい?」
皿をテーブルに並べていたら、声を掛けられた。
「ん?あぁ、そう」
悩んでいるのが顔に出たのだろう。親父が優し気な笑みを浮かべてこちらを見てくる。
いい人、なのだが、些か仕事に熱中しすぎる節がある。昔は仕事にカマかけて丸一日帰ってこない、なんてこともあった。そのせいで母に出ていかれたのだ。
てかマジでなんの仕事してるんだろ。家は、大名でも住んでるような大屋敷だし、家の裏手にある山を丸ごと保有している(例の洋館があるせいで安かったんだろうが)。その山で親父は仕事をしているんだが・・・。
まぁ、山の管理職にでも就いてるんだろ。不動産だから稼ぎ良さそうだし。
と、話がズレた。
「さ、オカルトは一時中断だ。冷める前にご飯を食べようか」
「ん、いただきます」
「はい、いただきます」
───────────────────────
夜中の12時、オカルト探しに熱中するも結果は得られず、そろそろ寝ようと思ったとき、携帯にメールが届いた。
ウィッカー:朱里、起きてる?
ウィッカー:蔵は見た?
ウィッカー:やっぱりか
ウィッカー:今からキャンディスと向かうから
ウィッカー:蔵、見るよ
今、世界一酷い顔をしている自信がある。
ダルそうな顔。オマケに眠気と胃痛でクッソ気持ち悪いから病人に見えなくもないだろう。
バレたら絶対叱られるなぁ。ま、親父は寝てるし音さえ立てなきゃ大丈夫か。
そう諦めて、眠気覚ましに顔を洗い、軍手を着けた。
「悪いな親父、これもオカ研のためだ」
親父の仕事場に忍び込み、鍵束をかっさらう。親父が蔵に入るとき、この鍵束を使っていた。確か3番目の鍵だ。
「はぁ」
玄関までの足取りが重い。どうせあいつらのことだ、きっともう待ってるに違いない。色々言われても面倒なので、気合いで足を動かし、前に進む。
ガラガラと音のなる玄関扉を、慎重に開く。
「あ、やっと来た」
「遅いよー朱里」
「うるせー」
気分はさながら死刑囚だ。挨拶代わりの軽口も、今は処刑を急かす言葉に聞こえる。
「──今更逃げる、なんてことはないよね?」
「・・・ねぇよ」
ダメ押しするクローヴィスに違和感を覚える。メールの件といい、今日のクローヴィスはやけに主張的だ。いつもはよく言い合いをする俺たちのストッパーなのに。
クローヴィスなりの焦りなのだろうか。
少し震える手で、蔵の南京錠に鍵を差し込む。
「ッ!?」
急に、ゾッと寒気がした。
まるで、鍵を開けるのを、この先を見るのを拒むように本能が警鐘を鳴らす。
「大丈夫だ、どうせ電動ノコギリとか斧とか猟銃とか、山で使う危険なものがしまってるだけだ。立ち入り禁止にしたのも、俺がケガをしないようにするためだ」
そう自分に言い聞かせながら、鍵を回し、取っ手に手を掛け、
思いっきり、押し開いた。
「う、、・・・あ?」
血の臭いと磔の白骨死体。
「・・・は、随分とリアルなマネキンだな」
そうだよ、本物なわけないんだ。この血の臭いもきっと制作過程で事故ったんだ。
は、親父も難儀な趣味してんな。マネキンにネックレスつけるなんて────
『お母さん!お誕生日おめでとう!』
『まぁ、プレゼント?』
『うん!
『ふふ、ありがとう、朱里』
───最低だ、最低だ、最低だ。
最悪だ、今思い出すなんて。
倒れ伏して、胃の中身を吐き出した。
───────────────────────
「朱里くんのお父さん、隠し屋っていう危ない仕事してたみたい」
「裏社会で殺された遺体をこの山に埋めてたそうよ」
血の付いたノコギリや、何かの化学薬品を弄りながら、2人は俺に言う。
「ここに来る前に山を調べたらちょっとおかしな土の盛り上がりがいくつもあったの」
「掘り返してみたら遺体があったわ」
立てかけられたスコップに目を向ける。真新しい土に混じって、濃い赤色が見えた。
「あなたの母親は、その仕事風景を見てしまった」
「そして、口封じのために」
「「殺された」」
「ッ!」
治まりかけた吐き気が盛り返した。胃の中身もなくなって、嘔吐くことしかできない。
「・・・全部、知ってたのか?」
血を吐くように言葉を垂らす。
「ええ、知っていたわ」
「そして、君が知らなければいけないと思ったの」
「そう、か・・・」
何故なんて、聞く余裕がなかった。次いだ言葉に、心を奪われたからだ。
「ねぇ朱里、復讐、したくない?」
顔を上げた先で、悪魔のようにクローヴィスが嗤っていた。
今俺は、世界一酷い顔をしている自信がある。
怨嗟を込めた、鬼のような顔だ。
「殺してやる」
───────────────────────
「親父、今日の夜は暇?」
冷えきった殺意に、いつもの自分を上塗りする。
「ああ、珍しく仕事はないね。それがどうかしたのかい?」
「ちょっとオカ研の状況が逼迫しててさ」
「山の調査がしたい、と」
「何もないと思うんだけどね、例の2人がさ」
「それなら仕方ないな」
全てカバーストーリー。山を登らせる、そのための大嘘だ。
「じゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ガラガラと音を立てて扉が閉まるのと同時に、スっと、表情が消えるのが分かった。
そこからは、ただ夜を待った。
色の抜けたモノクロの世界で日常を演じる。疑われぬように、悟られぬように。他愛もない話で笑い、今朝作った弁当を食べ、つまらない授業に欠伸をこぼす。
心に持ったナイフはそのまま、いつもの俺であり続けた。
そして、夜10時。
「あれ、2人は?」
「もう先に行ったらしい」
「なんだって!?熊にでも襲われたら大変だ、急いで追いかけよう!」
手に持ったスコップを振り上げ、
「・・・そうだな、急ごう」
男の後頭部に叩きつけた。
「よぉ、起きたかクソ野郎」
「・・・なんのつもりだ、朱里」
舞台は移して
男は部屋の一角に縛って転がした。どうやっても逃げれはしない。
「なんのつもりだって言われてもな。復讐、としか言えねぇぞ?」
「復讐だと?」
「ほら」
掘り起こした、まだ原型の残る遺体を1つ放る。
「隠し屋、だっけか?」
「ッ!」
スコップを床に叩きつける。金属同士が擦れ合う耳障りな音がした。
「依頼を受けて人間の死体をこの山に埋めてたんだろ」
「・・・」
カンッと、
「で、仕事中を母さんに見られた」
「・・・」
カンッと、
「その口封じのために殺したと」
「・・・」
カンッと、
「どうなんだ?」
「・・・」
カンッ・・・と。
「答えろよ!」
「ッ!」
ゴンッ!と、鈍い音が響く。思いのほか力が込もってしまっだ。ダメだな、予想以上に憎しみが抑えれない。
「・・・そうだ、俺が、殺した」
「あぁ、よかった」
これで、俺の復讐は正しかったって思える。
内心ホッとしながら、傍らに置いたポリタンクの中身を辺りに撒いた。
「焼くのか?」
「あぁ、焼く。でも火をつけるのは俺じゃない」
「何?」
空っぽのポリタンクを捨てて、手袋も脱いで灯油の海に放った。
「この洋館さ、ちょっと曰く付きなんだわ」
「・・・人体発火現象」
「なんだ、知ってたのか」
スコップに付いた血をハンカチで拭き取り、手袋と同じく捨てる。
「迷信だろう」
「だったらとっくにこの館はねぇよ」
携帯の時間を確認する。10時55分、あと5分か。
部屋を出る。
もう男の声は届かない。聞く必要もない。
「さようなら」
男の悲鳴が聞こえた。
「はは」
「はははっ」
「ははははははははははははははっ!!」
「あぁ、ありがとなクローヴィス、キャンディス」
「どういたしまして」
「朱里くん、満足した?」
満足?いいや、まだだ。
「アイツに隠しを依頼した奴らを、全員殺してやる」
「へぇ、どうやって?私もキャンディスも、もう手伝わないよ?」
「うん」
「いいや、手伝ってもらうさ」
「うん?」
「俺の魂をやるよ、なぁ、
惚けた2人の顔に、自然と笑みが浮かぶ。
ずっと違和感があった。みんながみんな、2人をまるでいないように振舞っている。
そりゃそうだ、見えてなかったんだからな。
「磔にされた脚のない白骨遺体と、キャンディスの脚に巻かれた包帯。ウチの事情に詳しすぎるクローヴィス。んで、2人の名前。俺だってオカ研の端くれ、これだけ揃えば分かる」
「あー、バレちゃったか」
「さっすがはエースだねぇ」
「茶化すな」
3人揃って山を降る。
「んで?俺の魂でどれくらい働いてくれる?」
「んー、魂だけじゃ働きたくないな」
「私もー」
「じゃあ何をあげればいいんだよ」
「「君」」
「はぁ?」
今度は俺が惚ける番だった。
「朱里くん鈍感だよね」
「ここまで気づかないとちょっとこっちも傷つくなぁ」
「え、何、
「「うん」」
「なん、だよそれ・・・」
スコップが手からこぼれ落ちた。
「そうでもなきゃ手伝ってないし」
「そもそも君の前に現れないよ」
「「それで、答えは?」」
魔女と悪魔の誘い、浮世離れの誘惑。
「・・・喜んで」
顔に熱を集めながら、俺は答えた。
───────────────────────
「あぁ、可哀想な朱里。
母が殺され、父も死なせて、たった1人。
それでもまだ復讐に身を焦がすなんて」
「でもね、朱里くん。
ありがとう。
私たちの思い通りに動いてくれて」
「母が殺されたのも、父が悪いのも本当」
「でも、一つだけ私たちは嘘をついた」
「「
「ごめんね」
「ええ、ごめんなさい」
「でも大丈夫」
「私たちがいるから」
「私たちが、ずっと愛してあげるから」
「「これから、3人で暮らそうね」」
IFエンドルート
ウィッカーウィッチは手に入れた
吾輩は猫である?さん
鬼灯 白哉さん
深夜さん
誤字報告ありがとうございました。
SCP_foundationはクリエイティブ・コモンズ表示-継承3.0ライセンス作品です(CC-BY-SA3.0)