あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ? 作:うろ底のトースター
子供の頃の宝物って、大人に近付いて行く度にほんの少しずつ忘れていくのだと、俺は思う。
俺の宝物は、ラムネの入った組み立て式のプラスチックの玩具。食玩だったかな?それの、暗闇で光るスケルトンの恐竜達だった。スーパーマーケットに行ったら必ずねだって買ってもらってたんだ。
けど、もうどんな色で光ってたかなんて覚えてない。その明るさも、どんな種類があったかも、付属のラムネの味も、忘れてしまった。
いつか、それが大切なものだったってことも、忘れてしまうのだろうか。そう考えると、なんだか悲しい気がした。
「朱里君、考え事かな?」
「あ、はい。記事を読んで少しだけ」
「宝物の、ことかな」
「・・・はい」
さて、今日も今日とてクロステストだ。
SCPー120ーJP 世界で一番の宝石
オブジェクトクラスはEuclid。
大きな貝殻のオブジェクト。と言っても、約15cmくらい。クモガイというのに似てるらしい。
このオブジェクト、と言うよりもその中の住人だと思うんだけど、これを高価なものとして捉える者がいない、もしくはその人に観察されていないと、中からヤドカリの特徴を持った女性が現れる。
現れたその人は高価なものを狙って破壊活動を行うようで、彼女を武力によって制圧もしくは撃退できたことはない。
もちろん説得に応じることもなく、例え彼女に気に入られてもそれは変わらない。
さて、そんな彼女だが、実は一人だけ言うことを聞く人間がいる。件の貝殻と一緒に発見、保護されたアイリと呼ばれる少女だ。
「こんにちは」
「うん、こんにちは。女たらしのお兄さん」
と、いうわけで、安全のためにアイリちゃんにも同行してもらうことに。
この子はある災害によって両親を失っている。以降財団によって保護され、ヤドカリさん(アイリちゃんがそう読んでいた)が外に出る度に駆り出されてきた。
強い女の子だと思う。
それはそれとして。
「女たらしって誰から教えられたのかな?」
「噂になってるのを聞いただけ。本当のことなの?」
「否定はできないね」
いくら世界のためとは言え、こうも女の子を口説いて歩いてるのだから。女たらしと罵倒されてもまあ仕方ないと思う。
・・・仕方ないのか?
「私も射程圏内・・・?」
「節操はあるよ?」
あるはず、多分。
「ははは、2人とも仲良くなれそうでよかったよ」
「うん、このお兄さんすごくおもしろい」
「おもちゃだと思われてる?」
にっこにこでこちらを見てくるアイリちゃんに、苦笑いを返す。なんかこの子、将来色んな人を振り回す大物になりそうだね。
「さて、そろそろ時間だね」
博士が、手をパンッと鳴らして空気を切り替えた。
「今回はSCP-120-JP-1の性格上、円滑なコミュニケーションと安全のため、SCP-120-JP-2、アイリちゃんを同行させることにする。彼女がいれば滅多なことにはならないとは思うが、なにかあったらすぐに逃げるんだよ、朱里君」
「了解です」
「分かりました」
一通りの説明を終えて、目の前の扉に手をかける。いつもの分厚い扉ではなく、回転するタイプのガラスの扉だ。
そう、ここは偽装博物館。オブジェクトが高価なものであると認識させるための場所。
「広ぉ・・・」
偽装とはいえ初めて来た博物館。展示物が高価だと思わせるための相応の広さと相応の高級感に、自然と背筋が伸びる。
「そう緊張しなくてもいいよ、お兄さん」
少し足を止めて雰囲気に圧倒されていた俺を後目に、スタスタと進んでいくアイリちゃん。
「アイリちゃんは、やっぱり慣れてるね」
「何回も来てるからね」
彼女の後ろを着いていきながら、俺は周囲を見渡した。高い天井にプロペラ機と思われる型の古い飛行機が吊るされていた。壁には、何らかのパーツとその説明文が飾られていて、ここがこの飛行機に関するブースであることが伺える。
先に進むと空気が一変し、海に関する展示物が並べられていた。少し暗く、青を基調とした空間の色合いが、ここが深海であると主張しているようだった。
そして、この深海のさらに先に、それはあった。
高い台座の上に、ガラスケースに包まれて、輝かしいスポットライトを浴びながら、一つの貝殻が鎮座していた。
「あれが・・・」
「うん」
深海の中、光の中にあるその貝殻は、どうしようもなく高価で、途方もなく貴重で、この世の何よりも崇高なものに思えた。
初めての博物館の雰囲気に酔ったのかもしれない。財団の意図した配置が効果的に働いただけなのかもしれない。
けれど確かに、それを世界で一番の宝石なんだと思った。
「おいで、ヤドカリさん」
アイリちゃんが、彼女を呼ぶ。それを合図に、ガラスケースが撤収された。
「・・・紹介するね、お兄さん」
貝殻の開口部から水、恐らくは海水が吐き出されていく。海水は、だいたい全長3m程の球体を生成し、突然に弾けた。水滴が光を反射し、幻想的な風景を作り出す。
そして、球体の中心から、長身の美女が現れた。
「ヤドカリさん、だよ」
「アイリ、何度も言うが私の名前は・・・む?」
視線が交錯する。
「確か、神谷朱里だったな」
「は、はい」
初めての感覚。命の危機に世界の危機、様々な緊張を味わってきて尚知らない緊張。王たる者を前にしたときの緊張なのだろうか。
「なるほど、お前が・・・」
彼女は小さく呟くと、優雅な足取りでアイリちゃんに近付いていき、頭に手を添えて撫で始めた。
「アイリ」
そうして、穏やかな笑顔を浮かべて、口を開いた。
「いい男を見つけたな、式はいつ挙げる?私も出席する」
「ヤドカリさん?」
「何言ってんだこの人」
とち狂った発言に、ついいつものようにツッコミが出てしまった。
「えっと、ヤドカリさん?」
「神谷朱里、私の名前は『深き海とそびえる山を統べる偉大な王』だ」
「ヤドカリさんだよ」
先程と一変した緩い雰囲気のまま、自己紹介が進んでいく。自らを『深き海とそびえる山を統べる偉大な王』を名乗ってはいるけど、それって称号とか地位とか、そういうのじゃないの?彼女がいいならいいか。
緊張状態で余りよく見ていなかったが、改めて美しい人だと思う。
暗所で映えるブロンドの長髪。伸びきって引きずってすらいるのに、どういうわけか痛みも汚れもしていない。
フランス人形に似た美麗な顔立ちに、無表情ながらもどこか憂いを感じるような表情を浮かべていて、目算2m近い身長も相まって、見ているとまるで夢の中にいるかのような錯覚を覚える。
尤も、その性格のために夢は砕け散ったけど。
「ふむ、アイリの男というわけでないなら・・・なるほど私のか」
「そうなのお兄さん」
「違うよ!?」
いや目的としては近いかもだけど。下手に認めたら後が怖い。
「案ずるな。不自由はさせない」
「そういうことじゃなくて」
「誘うくせに離れるか、難解な。だが余計愛おしいな」
「いやだから誘ってないですって」
なんだろうな、話が通じないっていうか、聞いた上で強引に意見を通しにくる。
「ヤドカリさん、お兄さん困ってるよ」
「そうか」
やっぱりアイリちゃんの言うことはちゃんと聞くんだよなぁ。
理由は・・・何となく
楽しそうに会話をしている彼女達を見ると、疎外感に似た寂しさと同時に、ほんのりと温かい感情が浮かんでくる。
宝物の、話をしたと思う。
きっと彼女の宝物は─────。
「アイリ、私は神谷朱里と話がある。少し、外してくれるか?」
2人きりになった。穏やかな騒がしさは消え去って、俺はヤドカリさんと向き合っていた。
潮騒のような音が聞こえる。
「──ひとつ、頼みがある」
潮騒が裂けて、声が聞こえる。
「アイリは、いずれ大人になる」
「うん」
「そして私の下を離れるだろう」
「うん」
「そのとき、私は彼女の1番ではなくなってしまうだろうから」
「あの日のように私を頼ることも、いつものように私を構うことも、きっとなくなる。そのとき、彼女を支えるのは、君であってほしい」
「頼めるだろうか」
「お断りします」
潮騒が、消えた。
「宝物は、いつか記憶から消えてしまう、或いは変わってしまう、そう思ってました」
「でも、2人を見ていたら、それは違うんだと思いました」
「───あなたはアイリちゃんの宝物であり、世界で一番大切な人です」
「彼女は世界で一番の宝物を、世界で一番大切な人を、きっと忘れることはありません。変わってしまうことも、きっとないです」
「だから───アイリちゃんの将来は、あなたが寄り添ってください。それは、俺にはできないことだから」
「きっとそれは、あなたにしかできないことだから」
潮騒が戻る。
「そう、か。私は、世界で一番か」
ずっと無表情だった彼女が、少しだけ笑った気がした。
「───そうよな、私は『深き海とそびえる山を統べる偉大な王』だものな」
「それは関係ないと思うんですけどね」
「ヤドカリさん、お兄さんとなんの話をしていたの?」
「大人の話だ」
「オトナのハナシ・・・?」
「待ってアイリちゃん多分捉え方がおかしい」
神谷朱里
ヤドカリさんのことは大切に思っているけど、飽くまでほかの娘と同程度故に思っていたために言うことは聞いてはくれない。
ヤドカリさん
世界で一番大切な宝石。綺麗な貝殻から出てきた綺麗なおもしろお姉さん。優先順位がアイリ>>自分>朱里くんといった感じであり、唯一朱里より大切なものを持ち合わせている。
アイリちゃん
かわいい、天然S、将来クラスの女王様になりそう。
SCP_foundationはクリエイティブ・コモンズ表示-継承3.0ライセンス作品です(CC-BY-SA3.0)