あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ?   作:うろ底のトースター

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お久しぶりです(半年ぶりn回目)
さて、今回はしばらく放置してたIFエンドルートです。
これを機に投稿ペース取り戻せたらいいなあ。



────残骸────

1日目

 

この記録が、いずれ誰かに届くことを願う。

俺は神谷朱里、日本人だ。両親に連れらた海外旅行の途中、乗っていた客船が何者かから砲撃を受けた。おそらく沈んだだろう。

陸からは途方もない距離があるし、砲撃と言った通り攻撃手段を持った何かが近くにいた。救助は困難、乗客のほとんどは、今頃魚の餌だろう。

けれど、目覚めると俺は屋内だった。少しの揺れを感じることから、まだ海上なんだろうと思われる。救助が間に合ったのかとも思ったが、にしてはこの空間には温かみがない。では海賊に攫われたかとも思ったが、静かすぎるのでそれもないだろう。

救助されたわけでも、海賊に攫われたわけでもない。なら、なんで俺は生きているんだろうか。

幸い、拘束はされていないので、この部屋を出て周辺を調べてみることにする。

 

 

 

 

 

 

日記を閉じ、カバンにしまう。不思議なことに身体も荷物も一切濡れておらず、日記帳の様子から乾いた、ということもない。

 

俺は海に落ちなかったのだろうか。

 

いや、今は何より探索だ。考えるのは後でいい。

 

ドアノブに手をかけると、夜の冷たさが一気に体を突き刺した。意を決して回せば、少しの抵抗とともに扉が開いた。

 

暗い。電気系統は生きているようで、明かりこそ灯っているものの、光そのものが弱く、少し先は真っ黒。スマホのライトを点灯し、壁に手をついて、ひとまず右方向へ進んでいく。

 

推定廊下に出てなお、人の気配はない。進めど進めど、どこまでも冷たい静けさが主張してくる。

 

隣の部屋であろう扉に到着した。左右を確認し、またドアノブを捻る。

 

中には、やはり誰もいなかった。客船にしろ海賊船にしろ、漁船にしろ救助船にしろ、こんなに質素な部屋はあるだろうか、というような寝室だ。2段ベッドが両端に置かれ、入口近くにトイレがある。

 

既視感がないでもない。昔、テレビでこのような部屋を見たことがある。ドキュメンタリーだっただろうか。

 

部屋にはめぼしいものはなかった。きっちりと整えられた寝具には、指で絵が描ける程度にほこりが厚く積もっていて、長らくここが使われていないのだと主張していた。

 

恐らく、この廊下にはズラリと寝室が並んでいるのだろう。

 

なら、階段を目指そう。階が変われば、何か変化があるかもしれない。また少しずつ船内を歩き始める。

 

ひたり、と。確かに音がした。足音だ。そして間違いなく、人間のものではない。

 

気付けば走り出していた。

 

何を叫んでいるかも分からない。息もままならない。脚だけが別の生き物のように動いている。

 

ただ必死に逃げて、逃げて、逃げて。

 

突き当たりの扉にぶつかった。

 

「そんな・・・」

 

開かない。何度ドアノブを捻っても、何度体当たりしても開かない。殴った蹴ったカバンを投げつけた。それでも開かない。

 

ひたり、と。また音がして。

 

記憶は、そこで途切れた。

 

 

 

 

 

 

2日目

気付けばまた部屋にいた。昨日探索に出たはいいものの、成果はあまりない。分かったのは、ここがかなり大きな船の中であることと、人ではない何かが徘徊していること。

そいつは、どうも俺に危害を加えるつもりはないらしい。けど、歩き回られるのは嫌なのか、見つかると追ってくる。

昨日見つかったことで警戒されているのか、たまにひたりひたりと湿った足音が外から聞こえてくる。

捕まったときに、首に管のようなものを巻かれたが、それでも縛り付ける気はないらしい。今日もまた、探索に出る。

 

 

 

 

 

 

扉を開くと、やはり静けさが出迎えた。

 

どうも徘徊しているあいつは、一定の周回ルートがあるようで、2時間ごとに扉の前を通って行った。

 

あいつが通って30分。そろそろ十分に離れただろう。

 

殺されないと分かっただけで、精神的な負担は和らいだ。尤も、あれが気まぐれの可能性もあるが。

 

昨日よりは足が軽い。ようやっと暗さに慣れた目を頼りに、昨日の続き、階段を目指───

 

「歩き回るな」

 

「ぐほっ」

 

首に衝撃。管を引っ張られたのだろう。気管が締められ呼吸が阻害される。

 

速すぎる。ありえない。一体どうして。

 

「っ!まさ、か、この管、が?」

 

「お前の居場所は常に把握できる。妙な日記を書いていることも、分かっている」

 

「っ、ぜぇ、ぜぇ、けほっ」

 

解放された。が、依然目の前にはあいつがいる。

 

潜水服だろうか、肌に張り付く衣服が起伏に富んだ肉体を主張する。顔は、今どきカートゥーンでしか見ないような頑丈な装備に覆われ、ガラスの奥は真っ暗だ。そして、ちょうど俺の首に巻かれているものを太くしたような管が、奥の暗がりへ伸びている。

 

「部屋に戻す、外は危険だ」

 

「んなっ!」

 

容姿を観察していたら、所詮お姫様抱っこの要領で持ち上げられ、来た道を遡り出した。

 

「お、下ろせ!」

 

「断る」

 

「このっ」

 

「暴れるな、また苦しむだけだ」

 

言って無駄ならと全身に力を込めるが、それより前に管を握られ、脅される。力の差は歴然だった。

 

「苦痛は、言うことを聞かせる最も簡単な方法と聞くが本当らしいな」

 

話が通じること、身を案じられたこと。これらの事実が、恐怖心を和らげる。とはいえ、目の前の存在は暴力でもって俺を支配しようとする非人間、警戒を解くことはできない。

 

が、話ができるなら、こいつから情報の収集もできそうだ。そう思い、いくつか問いかける。

 

「なあ、この船はなんなんだ?」

 

「お前が知る必要はない」

 

「どこかへ向かってるのか?」

 

「お前が知る必要はない」

 

「客船を攻撃したのはお前らか?」

 

「お前が知る必要はない」

 

会話が通じるだけで、こいつを情報収集に使うことはできない、ということが分かった。最悪だ。

 

「昼餉にしよう」

 

元の部屋に着いて、開口一番そう言った。何を言ってんだこいつはと思ったら、どこからかトレイを持った、もう一体の非人間が現れる。

 

トレイにはカレーライスが乗せられていて、昨日からまともに食事をとっていない腹が、それを寄越せと鳴き出した。

 

「食え」

 

「食えるか、怪しすぎるわ」

 

「食えんのなら食わせるが」

 

「分かった食うから管に手を伸ばすなスプーンを口に突っ込もうとするな」

 

俺は弱かった。

 

けど、カレーは美味かった。

 

 

 

 

 

 

10日目

下手に身動きが取れないまま、時間は経っていく。

幸い、奴らが食事を提供してくれるおかけで餓死はないし、頼めば船の揺れも抑えてくれるので、質のいい睡眠もとれる。

が、やはり自由はない。奴らとの邂逅から警戒されたらしく、常に部屋に一体は居座り、監視されている。

分かったことが一つある。奴らには曜日感覚、というものがあるらしい。昨日カレーが出た。先週金曜以来のカレーだ。

金曜にカレー、何か引っかかるような気がするが、どうも思い出せない。

ともあれ、隙がなくては動けない。大人しく救助を待つ。

 

 

 

 

 

 

日記を閉じる。と、同時に管を引かれた。

 

「ぐえっ」

 

見れば、顔も見えないのにあからさまに不機嫌そうな奴がいた。

 

「いい加減諦めろ」

 

「何をさ」

 

「逃走をだ」

 

「諦めてるよ」

 

「・・・ふん」

 

「ぐえっ」

 

奴らは、日記を書いているということはまだ逃走を諦めていないのだ、と認識しているらしく、日記をつけるたびにこうして首を絞められる。

 

なので、日記をつける頻度を減らすことにした。

 

「まぁ、いい」

 

「うわ」

 

ぐっと首を引かれて、奴の膝に倒れ込む。いわゆる膝枕の体勢だ。じっとりと湿っている感覚も今や慣れ、少しだけ心地いいとすら感じるようになった。

 

こいつが部屋に居座り始めてから、こういう無理矢理な接触が多くなった。大抵、奴が不機嫌になったら行われる。

 

「お前本当にこれが好きだな」

 

「ああ、お前の弱さを再認識できるからな」

 

言外に、いつでも殺せると言われているようで気味が悪い。あるいは、媚びを売って生きろという脅迫か。

 

「その日記、まだ書く気か」

 

「書くよ、スマホの充電がもうすぐ切れるし、ここはどういうわけか太陽が見えないからな。日付が分からなくなる」

 

「いいだろ、そんなもの」

 

「いや・・・健康に、関わる」

 

嘘だ。

 

「はぁ、やはり軟弱だな、人間という生き物は」

 

「ああ、だから(これ)はずせよ」

 

「断る」

 

「ぐえっ」

 

こんなやり取りも何回目か、いい加減に首輪みたいで嫌になるこれを、何度取り除けと頼んだか。その度に断られては、こうして管を引かれて苦しめられる。

 

「実際のところ、お前まだ自分が助かると思っているだろ。いつか日常に戻れると、その両足で陸上に立てると、そう思っているだろ」

 

ぐっと、距離を詰められる。伽藍堂のメットの奥に、こちらを見つめる瞳があった気がした。

 

きっとこの先、嘘は許されないんだろう。

 

「・・・ああ、そうだ」

 

「なぜだ」

 

「現実味がない」

 

「そうか」

 

それだけ言って、奴は消えた。相変わらず表情は見えないが、何故かガラスの奥で、ほくそ笑んでいたように思えた。

 

そして────。

 

 

 

 

 

 

30日目

今日で、この日記を終わろうと思う。

スマホの電源はもう落ちて、日付も時間も分からない。30日目と言っているけれど、これが正しいのかも分からない。

いい加減書く度に管を引かれるのも嫌だ。

元々、暇つぶしにしかならなかった物だ。怪物とはいえ話し相手のいる今、もうこれも必要ないだろう。

 

この日記が、いつか誰かに届くことを願う。

 

 

 

 

 

さて、あとはこいつをどう流すか。メッセージボトルよろしく瓶詰めにして海に投げれたらいいが、それは期待できない。

 

「それ、外へ放りたいのか?」

 

「え?」

 

「放りたいのだろう?」

 

「いやまぁ、そうだけど」

 

なんだ、この違和感。余裕?のようなものがある。嫌な予感がする。かつてないほどに落ち着かない。

 

いや、気のせいだ、きっと。

 

「やってやろうか?無駄だろうが」

 

「・・・お前今日、気持ち悪」

 

「ふん」

 

「ぐえっ」

 

変わってない、何も変わってない。いや、今のは俺が悪かったか?

 

「いいからよこせ、適当な入れ物に詰めて投げてやる」

 

「無駄だって言ってたろ」

 

「だがやらんとお前満足しないだろ」

 

「・・・多分?」

 

「絶対満足せんぞお前は」

 

ひょいっと手から日記を取り上げられ、扉を開けた別の奴に手渡した。既に入れ物は用意されていて、すぐに運ばれていった。

 

「代わりに、ついてこい」

 

「え?」

 

「ついてこい、と言っている」

 

「分かった、分かったから管を掴むな」

 

ペットの散歩みたいに、管を握られながら後を追う。

 

「ここは、陸地から最も遠い場所だ。大抵の船はまずここに到達できない」

 

歩きながら、奴は語る。

 

「そもそも、あんなものを流しても、届くことはない」

 

滔々と、事実を突きつける。

 

「そして来たとしても」

 

やがて、最奥の扉に辿り着き、ゆっくりと開かれる。

 

「我が沈める」

 

「───────────は?」

 

最初に感じたのは、臭い。腐臭であったり、血の臭いであったり、生臭さであったり。とにかく、死臭と呼べる全てを感じた。

 

次に、音。ぐちょり、ぐちょりと、執拗に潰し捏ねて弄ぶ音。血を、肉を、臓器を、脳を、人体を壊し使()()音。

 

そして、最後にこの目に入り込んだのは、やはり死体。

 

両親の、亡骸。

 

「あ、あぁ?」

 

「沈めた船に乗る者は、全てこの船の材料であり、燃料だ。残骸の中で死のうが、命からがら海に飛び込もうが、探し捕え殺して使う」

 

厳しくも温かく、憧れだった父親は、無惨に内臓を投げ打って、腐った中身を晒して死んでいた。

 

優しく、美しかった母親は、顔の半分が潰されて、腰から下を引きちぎられて死んでいた。

 

「お前の家族もこの通りだ」

 

「っっっっ!」

 

耐えきれず、胃からせり上るそれを全て吐き出した。認めたくない、認めたくない。こんな事実(もの)、認めたくない。

 

「現実味がない、と言っていたな」

 

未だ蹲る俺に、冷たい視線が降り注ぐ。

 

「これでもまだ、夢心地か」

 

何も、返すことができなかった。

 

 


 

 

この状態を落ち着いたと言っていいのかは分からないが、朱里が落ち着くまでに、1時間ほど経った。

 

廊下の壁にもたれかかるこいつは、今や絶望の淵。まだ夢の中、なんて言えないほどの現実味(リアル)を叩き込まれ、もう何も考えたくない、と言った有様だ。

 

そして、この状態は都合がいい。

 

「お前の乗っていたあの船、生き残りはお前だけだ」

 

「・・・」

 

「他は全員、捕って殺した」

 

「・・・」

 

さらに追い込む。淵の淵、落ちる寸前まで。

 

「これからも、我はそうする」

 

そして、追い込んだその果てに、一筋希望を差し出した。

 

「だが、お前なら止められる」

 

「・・・ぁ?」

 

俯いたままの顔が、僅かに上がる。泣いていたのか、少し伸びた黒髪の影に、赤く腫れた目元が見えた。

 

「お前次第で、この蛮行をやめてもいい、と言っている」

 

「っ!」

 

完全に顔が上がる。

 

「なんで、俺が・・・?」

 

「お前が知る必要はない」

 

そうだ、お前はただ希望に縋るだけでいい。何も考えるな。我だけを見ろ。

 

「要求は一つだ」

 

そして、これをお前が断ることはない。

 

「沈め、我とともに」

 

「しず、む?」

 

「この1ヶ月と何も変わらない。日を見ず月を見ず、陸を見ず草木を見ず、深海で、この残骸(ふね)で生きろ。それが、死体漁りを辞める条件だ」

 

「もう、帰れない・・・?」

 

「そうだ」

 

「もう、助からない・・・?」

 

「そうだ」

 

「俺が、沈めば、もう誰も、死なない?」

 

「ああ、そうだ」

 

ゆっくりと、ゆっくりと手が伸びる。そして、我の腰へ手を回し、腹に抱きついて、ただ泣いた。

 

「俺がが、沈むから、もう、誰も、殺さないで」

 

斯くして要求はまかり通り、この少年は人の世より姿を消す。

 

その命閉ざすその時まで、その命閉ざしたそのあとも。ずっとずっと、この残骸(ふね)とともに、沈み逝く。

 

「ああ、朱里。本当に、お前が優しい人間でよかったよ」

 

 





IFエンドルート

沈みゆく、残骸へ



SCPー1264 Resurrected Wreckage
作者 LurkD様
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1264

SCP_foundationはクリエイティブ・コモンズ表示-継承3.0ライセンス作品です(CC-BY-SA3.0)
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