あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ? 作:うろ底のトースター
さて、今回はしばらく放置してたIFエンドルートです。
これを機に投稿ペース取り戻せたらいいなあ。
1日目
この記録が、いずれ誰かに届くことを願う。
俺は神谷朱里、日本人だ。両親に連れらた海外旅行の途中、乗っていた客船が何者かから砲撃を受けた。おそらく沈んだだろう。
陸からは途方もない距離があるし、砲撃と言った通り攻撃手段を持った何かが近くにいた。救助は困難、乗客のほとんどは、今頃魚の餌だろう。
けれど、目覚めると俺は屋内だった。少しの揺れを感じることから、まだ海上なんだろうと思われる。救助が間に合ったのかとも思ったが、にしてはこの空間には温かみがない。では海賊に攫われたかとも思ったが、静かすぎるのでそれもないだろう。
救助されたわけでも、海賊に攫われたわけでもない。なら、なんで俺は生きているんだろうか。
幸い、拘束はされていないので、この部屋を出て周辺を調べてみることにする。
日記を閉じ、カバンにしまう。不思議なことに身体も荷物も一切濡れておらず、日記帳の様子から乾いた、ということもない。
俺は海に落ちなかったのだろうか。
いや、今は何より探索だ。考えるのは後でいい。
ドアノブに手をかけると、夜の冷たさが一気に体を突き刺した。意を決して回せば、少しの抵抗とともに扉が開いた。
暗い。電気系統は生きているようで、明かりこそ灯っているものの、光そのものが弱く、少し先は真っ黒。スマホのライトを点灯し、壁に手をついて、ひとまず右方向へ進んでいく。
推定廊下に出てなお、人の気配はない。進めど進めど、どこまでも冷たい静けさが主張してくる。
隣の部屋であろう扉に到着した。左右を確認し、またドアノブを捻る。
中には、やはり誰もいなかった。客船にしろ海賊船にしろ、漁船にしろ救助船にしろ、こんなに質素な部屋はあるだろうか、というような寝室だ。2段ベッドが両端に置かれ、入口近くにトイレがある。
既視感がないでもない。昔、テレビでこのような部屋を見たことがある。ドキュメンタリーだっただろうか。
部屋にはめぼしいものはなかった。きっちりと整えられた寝具には、指で絵が描ける程度にほこりが厚く積もっていて、長らくここが使われていないのだと主張していた。
恐らく、この廊下にはズラリと寝室が並んでいるのだろう。
なら、階段を目指そう。階が変われば、何か変化があるかもしれない。また少しずつ船内を歩き始める。
ひたり、と。確かに音がした。足音だ。そして間違いなく、人間のものではない。
気付けば走り出していた。
何を叫んでいるかも分からない。息もままならない。脚だけが別の生き物のように動いている。
ただ必死に逃げて、逃げて、逃げて。
突き当たりの扉にぶつかった。
「そんな・・・」
開かない。何度ドアノブを捻っても、何度体当たりしても開かない。殴った蹴ったカバンを投げつけた。それでも開かない。
ひたり、と。また音がして。
記憶は、そこで途切れた。
2日目
気付けばまた部屋にいた。昨日探索に出たはいいものの、成果はあまりない。分かったのは、ここがかなり大きな船の中であることと、人ではない何かが徘徊していること。
そいつは、どうも俺に危害を加えるつもりはないらしい。けど、歩き回られるのは嫌なのか、見つかると追ってくる。
昨日見つかったことで警戒されているのか、たまにひたりひたりと湿った足音が外から聞こえてくる。
捕まったときに、首に管のようなものを巻かれたが、それでも縛り付ける気はないらしい。今日もまた、探索に出る。
扉を開くと、やはり静けさが出迎えた。
どうも徘徊しているあいつは、一定の周回ルートがあるようで、2時間ごとに扉の前を通って行った。
あいつが通って30分。そろそろ十分に離れただろう。
殺されないと分かっただけで、精神的な負担は和らいだ。尤も、あれが気まぐれの可能性もあるが。
昨日よりは足が軽い。ようやっと暗さに慣れた目を頼りに、昨日の続き、階段を目指───
「歩き回るな」
「ぐほっ」
首に衝撃。管を引っ張られたのだろう。気管が締められ呼吸が阻害される。
速すぎる。ありえない。一体どうして。
「っ!まさ、か、この管、が?」
「お前の居場所は常に把握できる。妙な日記を書いていることも、分かっている」
「っ、ぜぇ、ぜぇ、けほっ」
解放された。が、依然目の前にはあいつがいる。
潜水服だろうか、肌に張り付く衣服が起伏に富んだ肉体を主張する。顔は、今どきカートゥーンでしか見ないような頑丈な装備に覆われ、ガラスの奥は真っ暗だ。そして、ちょうど俺の首に巻かれているものを太くしたような管が、奥の暗がりへ伸びている。
「部屋に戻す、外は危険だ」
「んなっ!」
容姿を観察していたら、所詮お姫様抱っこの要領で持ち上げられ、来た道を遡り出した。
「お、下ろせ!」
「断る」
「このっ」
「暴れるな、また苦しむだけだ」
言って無駄ならと全身に力を込めるが、それより前に管を握られ、脅される。力の差は歴然だった。
「苦痛は、言うことを聞かせる最も簡単な方法と聞くが本当らしいな」
話が通じること、身を案じられたこと。これらの事実が、恐怖心を和らげる。とはいえ、目の前の存在は暴力でもって俺を支配しようとする非人間、警戒を解くことはできない。
が、話ができるなら、こいつから情報の収集もできそうだ。そう思い、いくつか問いかける。
「なあ、この船はなんなんだ?」
「お前が知る必要はない」
「どこかへ向かってるのか?」
「お前が知る必要はない」
「客船を攻撃したのはお前らか?」
「お前が知る必要はない」
会話が通じるだけで、こいつを情報収集に使うことはできない、ということが分かった。最悪だ。
「昼餉にしよう」
元の部屋に着いて、開口一番そう言った。何を言ってんだこいつはと思ったら、どこからかトレイを持った、もう一体の非人間が現れる。
トレイにはカレーライスが乗せられていて、昨日からまともに食事をとっていない腹が、それを寄越せと鳴き出した。
「食え」
「食えるか、怪しすぎるわ」
「食えんのなら食わせるが」
「分かった食うから管に手を伸ばすなスプーンを口に突っ込もうとするな」
俺は弱かった。
けど、カレーは美味かった。
10日目
下手に身動きが取れないまま、時間は経っていく。
幸い、奴らが食事を提供してくれるおかけで餓死はないし、頼めば船の揺れも抑えてくれるので、質のいい睡眠もとれる。
が、やはり自由はない。奴らとの邂逅から警戒されたらしく、常に部屋に一体は居座り、監視されている。
分かったことが一つある。奴らには曜日感覚、というものがあるらしい。昨日カレーが出た。先週金曜以来のカレーだ。
金曜にカレー、何か引っかかるような気がするが、どうも思い出せない。
ともあれ、隙がなくては動けない。大人しく救助を待つ。
日記を閉じる。と、同時に管を引かれた。
「ぐえっ」
見れば、顔も見えないのにあからさまに不機嫌そうな奴がいた。
「いい加減諦めろ」
「何をさ」
「逃走をだ」
「諦めてるよ」
「・・・ふん」
「ぐえっ」
奴らは、日記を書いているということはまだ逃走を諦めていないのだ、と認識しているらしく、日記をつけるたびにこうして首を絞められる。
なので、日記をつける頻度を減らすことにした。
「まぁ、いい」
「うわ」
ぐっと首を引かれて、奴の膝に倒れ込む。いわゆる膝枕の体勢だ。じっとりと湿っている感覚も今や慣れ、少しだけ心地いいとすら感じるようになった。
こいつが部屋に居座り始めてから、こういう無理矢理な接触が多くなった。大抵、奴が不機嫌になったら行われる。
「お前本当にこれが好きだな」
「ああ、お前の弱さを再認識できるからな」
言外に、いつでも殺せると言われているようで気味が悪い。あるいは、媚びを売って生きろという脅迫か。
「その日記、まだ書く気か」
「書くよ、スマホの充電がもうすぐ切れるし、ここはどういうわけか太陽が見えないからな。日付が分からなくなる」
「いいだろ、そんなもの」
「いや・・・健康に、関わる」
嘘だ。
「はぁ、やはり軟弱だな、人間という生き物は」
「ああ、だから
「断る」
「ぐえっ」
こんなやり取りも何回目か、いい加減に首輪みたいで嫌になるこれを、何度取り除けと頼んだか。その度に断られては、こうして管を引かれて苦しめられる。
「実際のところ、お前まだ自分が助かると思っているだろ。いつか日常に戻れると、その両足で陸上に立てると、そう思っているだろ」
ぐっと、距離を詰められる。伽藍堂のメットの奥に、こちらを見つめる瞳があった気がした。
きっとこの先、嘘は許されないんだろう。
「・・・ああ、そうだ」
「なぜだ」
「現実味がない」
「そうか」
それだけ言って、奴は消えた。相変わらず表情は見えないが、何故かガラスの奥で、ほくそ笑んでいたように思えた。
そして────。
30日目
今日で、この日記を終わろうと思う。
スマホの電源はもう落ちて、日付も時間も分からない。30日目と言っているけれど、これが正しいのかも分からない。
いい加減書く度に管を引かれるのも嫌だ。
元々、暇つぶしにしかならなかった物だ。怪物とはいえ話し相手のいる今、もうこれも必要ないだろう。
この日記が、いつか誰かに届くことを願う。
さて、あとはこいつをどう流すか。メッセージボトルよろしく瓶詰めにして海に投げれたらいいが、それは期待できない。
「それ、外へ放りたいのか?」
「え?」
「放りたいのだろう?」
「いやまぁ、そうだけど」
なんだ、この違和感。余裕?のようなものがある。嫌な予感がする。かつてないほどに落ち着かない。
いや、気のせいだ、きっと。
「やってやろうか?無駄だろうが」
「・・・お前今日、気持ち悪」
「ふん」
「ぐえっ」
変わってない、何も変わってない。いや、今のは俺が悪かったか?
「いいからよこせ、適当な入れ物に詰めて投げてやる」
「無駄だって言ってたろ」
「だがやらんとお前満足しないだろ」
「・・・多分?」
「絶対満足せんぞお前は」
ひょいっと手から日記を取り上げられ、扉を開けた別の奴に手渡した。既に入れ物は用意されていて、すぐに運ばれていった。
「代わりに、ついてこい」
「え?」
「ついてこい、と言っている」
「分かった、分かったから管を掴むな」
ペットの散歩みたいに、管を握られながら後を追う。
「ここは、陸地から最も遠い場所だ。大抵の船はまずここに到達できない」
歩きながら、奴は語る。
「そもそも、あんなものを流しても、届くことはない」
滔々と、事実を突きつける。
「そして来たとしても」
やがて、最奥の扉に辿り着き、ゆっくりと開かれる。
「我が沈める」
「───────────は?」
最初に感じたのは、臭い。腐臭であったり、血の臭いであったり、生臭さであったり。とにかく、死臭と呼べる全てを感じた。
次に、音。ぐちょり、ぐちょりと、執拗に潰し捏ねて弄ぶ音。血を、肉を、臓器を、脳を、人体を壊し
そして、最後にこの目に入り込んだのは、やはり死体。
両親の、亡骸。
「あ、あぁ?」
「沈めた船に乗る者は、全てこの船の材料であり、燃料だ。残骸の中で死のうが、命からがら海に飛び込もうが、探し捕え殺して使う」
厳しくも温かく、憧れだった父親は、無惨に内臓を投げ打って、腐った中身を晒して死んでいた。
優しく、美しかった母親は、顔の半分が潰されて、腰から下を引きちぎられて死んでいた。
「お前の家族もこの通りだ」
「っっっっ!」
耐えきれず、胃からせり上るそれを全て吐き出した。認めたくない、認めたくない。こんな
「現実味がない、と言っていたな」
未だ蹲る俺に、冷たい視線が降り注ぐ。
「これでもまだ、夢心地か」
何も、返すことができなかった。
この状態を落ち着いたと言っていいのかは分からないが、朱里が落ち着くまでに、1時間ほど経った。
廊下の壁にもたれかかるこいつは、今や絶望の淵。まだ夢の中、なんて言えないほどの
そして、この状態は都合がいい。
「お前の乗っていたあの船、生き残りはお前だけだ」
「・・・」
「他は全員、捕って殺した」
「・・・」
さらに追い込む。淵の淵、落ちる寸前まで。
「これからも、我はそうする」
そして、追い込んだその果てに、一筋希望を差し出した。
「だが、お前なら止められる」
「・・・ぁ?」
俯いたままの顔が、僅かに上がる。泣いていたのか、少し伸びた黒髪の影に、赤く腫れた目元が見えた。
「お前次第で、この蛮行をやめてもいい、と言っている」
「っ!」
完全に顔が上がる。
「なんで、俺が・・・?」
「お前が知る必要はない」
そうだ、お前はただ希望に縋るだけでいい。何も考えるな。我だけを見ろ。
「要求は一つだ」
そして、これをお前が断ることはない。
「沈め、我とともに」
「しず、む?」
「この1ヶ月と何も変わらない。日を見ず月を見ず、陸を見ず草木を見ず、深海で、この
「もう、帰れない・・・?」
「そうだ」
「もう、助からない・・・?」
「そうだ」
「俺が、沈めば、もう誰も、死なない?」
「ああ、そうだ」
ゆっくりと、ゆっくりと手が伸びる。そして、我の腰へ手を回し、腹に抱きついて、ただ泣いた。
「俺がが、沈むから、もう、誰も、殺さないで」
斯くして要求はまかり通り、この少年は人の世より姿を消す。
その命閉ざすその時まで、その命閉ざしたそのあとも。ずっとずっと、この
「ああ、朱里。本当に、お前が優しい人間でよかったよ」
IFエンドルート
沈みゆく、残骸へ
SCPー1264 Resurrected Wreckage
作者 LurkD様
http://scp-jp.wikidot.com/scp-1264
SCP_foundationはクリエイティブ・コモンズ表示-継承3.0ライセンス作品です(CC-BY-SA3.0)