最近、僕は調子に乗っていた。
正直に言って、僕が最強なんじゃないかなんて風にも考えていた。
だってそうだ。
僕は赤竜の群れを片手で叩き潰せるし、
その気になれば街一つを吹き飛ばす事もできる。
さすがに素手じゃ無理だけど、シャドウガーデンのみんなを同時に相手にしても、余裕で勝つことができる。
そんな圧倒的とも言えるような力が今の僕には備わっている。
本来の目的だったあの核にも、今の僕なら勝つ事ができると思う。
核が頭上から降ってきても魔力の力で跳ね返せるし、全力で結界を展開すれば無傷で済む。
だから、僕はもう陰の実力者に相応しい実力を手に入れたんじゃないかなんて、正直心のどこかでそう思っていた。
…………甘かった。
城塞都市ロア、ここは王都でも他の国でもない少しだけ大きい町にしか過ぎない。
そんな少し都会に出ただけなのに、僕は二度の敗北を喫した。
一度ならばまだ分かる。
世の中は広いんだから、偶然そういう奴がいる可能性もある。
それに魔眼は運の要素が非常に強く、どこに持ち主がいるのかなんてさっぱり分からない。
だから、まだ自分の中で納得させることができた。
だけど、魔力。
これは違う。
確かに才能も大きく関係するものではある。
アルファとかもかなりの魔力を持ってるし、シャドウガーデンにはそういう人は以外に多い。
でも、僕はその全てを足しても勝るような膨大な魔力を持っている筈だった。
そりゃあ、生まれた瞬間から一度たりとも休まずに日々の練磨を重ねたあの魔力だ。
負ける筈が無い。
成長がほぼ止まるまで完全に魔力を使い続ける事ができた僕こそが頂点だ。
そう思っていた。
だけど、違う。
それは違った。
僕の思い込みでしかなかった。
「…………勝てない。
そう感じたのは初めてだな……」
あんな魔力量はありえてはならない。
存在してはならない。
正直に言って夢か何かだと思いたかった。
それ程の魔力。
魔力には伸びやすい年齢というのがあり、その年齢を超えればその成長はほぼ停止する。
つまり、僕の上限は今この瞬間に他ならない。
だから例え僕が何をしたって、あの魔術師の魔力量を超えることなんてできない。
外部に魔力パックのようなものを背負えば、何とか追いつける可能性があるかもしれないけどそれではあの魔術師に勝つ事なんて無理だ。
それに、
ここはフィットア領、そこまで人口が多い都会でもなければ、強者が集まる理由なんて何一つとして無い場所だ。
だから、あの魔術師でさえもきっと頂点じゃない。
あの魔術師でさえ神ではない。
この世界の天井は、僕が思っていたよりもずっとずっと高く遠い。
水聖級魔術師、ルーデウス・グレイラット。
それがあの魔術師の名前で、なんと年齢は見た目通りの9歳らしい。
という事はあの魔術師の魔力量はまだ上限に達していない。
もしかすると、いずれ彼はこの世界の頂点に立つようなそんな才能を持っているのかもしれない。
だけど、それは宝くじよりも低い確率だと思う。
偶然街中ですれ違った子供が世界最高峰の魔力を持っていたと考えるよりも、僕よりも魔力量の高いやつが何人もいてその中の一人とすれ違ったと考える方が納得がいく。
頂点は、遥かに遠い。
「世界って……、広いなぁ」
改めて分かった。
理解させられた。
僕の夢はそれ程までに遠い夢だってもう一度理解する事ができた。
もし、あのまま何も知らずに生きていれば、きっと僕はどこかで妥協していたと思う。
世界最強の陰の実力者にはなれなかったと思う。
「僕は……」
だから、ロアに来て良かった。
甘えかけていた自分をもう一度見つめ直すいい機会になった。
「陰の実力者になる」
改めて僕はその夢を口に出した。
遠い、遠い、頂点への夢。
僕は陰の実力者になりたい。
この世界には都合のいい事に誰が一番強いのか? というそんな疑問に答えてくれる夢のような石碑がある。
自動で世界中のあらゆる戦いを記録し、その戦いから強者のランキングを付けている石碑。
その石碑に刻まれた七人の猛者は七大列強なんて呼ばれているらしく、中でも上から4人は本当に凄まじい力を持つ。
世界を彷徨い、己を超える強者を探しているという圧倒的な技を持った存在。
『技神』
太古の神の時代に「龍の世界」を支配した太古の七神の一柱、正真正銘の神の血を引く者。
『龍神』
黄金の鎧を身に纏い、大陸を叩き割り神話にその名を残す程の猛者。
『闘神』
400年前、魔族を率いて人類と戦い大きな爪痕を残した史上最強の魔族。
『魔神』
七大列強クラスになると5位以降も『死神』、『剣神』、『北神』とみんな神の名を冠しているんだけどこの列強上位は本当にヤバい。
その実力はまさに神の名にふさわしく、正真正銘の神話クラスの実力者だ。
特に闘神より上の存在となると、もう訳の分からないくらいにヤバい。
大陸を叩き割る奴より強いって一体なんだよ……。
さて、とりあえずの僕の目的だが『技神』を超えようと思っている。
技神、この世界に現存するありとあらゆる全ての技という技を使えるという存在。
魔力、魔術で勝てないのならばただ圧倒的な技量で相手を制圧するくらいしか僕には思い付かない。
魔術で負けていれば、剣で勝つ。
デルタにアルファが勝つように、圧倒的なまでの総合力で相手を叩きのめす。
今まではただぼんやりと『陰の実力者』という虚像を追い求めているだけだった。
何となく最強になれたらいいなぁと思っていた。
だけど、ようやく今。
僕の目指す陰の実力者がしっかりと定まった。
世界最高の技量を持ち、
あらゆる魔術をレジストし、
魔眼が効かず、
毒や呪いなんてものも効かない。
それが、僕の目指す陰の実力者だ。
剣技や体術だ。
近接技が必要だったのだ。
誰にも負けない、そんな究極の技術が。
「ふむ、近接技か……」
そう言えばオリジナルの必殺技のようなものは作った事が無い。
魔術なら『アイ・アム・アトミック』といった対核攻撃用魔術があるんだけど、剣や体をそのまま使って放つ奥義みたいなのはまだ作った事がないんだよね。
僕が使える必殺技と言えば、
まず剣神流の光の太刀、
それを改良した速い剣と重い剣、
あとはデルタが作った謎の技、『アトミック・デルタ』くらいのもので、僕が作った剣技と呼べるものは一つも無い。
そもそもオリジナルとは言っても、できることは既に誰かが技として作っている事が多いんだよね。
目指してるものは一緒だし。
基本的にこの世界の剣技というのは闘気と呼ばれている微細な魔力が関係している。
この世界の戦士はこれを細胞の一つ一つに纏い、押し固める事で生身ではまずありえないような防御力を発揮したり、筋肉を強化して亜光速の剣なんてものを放ったりする事もできる。
これを剣に纏わせるように使って明らかに切れない硬さのものを斬ることもできるし、極めれば離れた所にあるものを斬る事もできる。
というかもう攻撃面は大抵のことはできるし、一先ずは十分な気がする。
……となると防御技とかだろうか?
今は徹底した間合い管理によって、そもそも攻撃を一撃も貰わないというスタイルを取っているけど、同格以上の相手と戦うことを視野に入れれば、当然常に相手の攻撃を避けれるというわけではない。
水神流の技もある程度は使えるけど、やはりここはオリジナルの何かを作っておいたほうがいいだろう。
「流さない防御方法となると……。
うん、衝撃でも吸収してみるか」
他にも弾くとか、投げるとか、相手よりも早く攻撃するとかいった防御方法もあるけど、やっぱり衝撃を吸収するというのが一番しっくりくる。
これならば敵の攻撃を全て無効化するというカッコイイ事ができる気がするのだ。
真正面から攻撃を受け止めているのにも関わらず、無傷。
陰の実力者には何をやっても無駄だと思い知らせ、圧倒的な絶望感を与える事ができるのではないだろうか?
そして何より実用性も非常に高く、応用の方も簡単で色々な所で活躍する技になりそうだ。
大切なのは敵に全てを出し切らせ、それを完全に無効化することだ。
そうすることで心の底から絶望と敗北感を与え、陰の実力者の圧倒的なまでの力を、見た者全ての心に深く刻むことができるはずだ。
「よし、これは面白そうだ」
目指すのは鋼の防御力などでは無い。
数十メートルから落とされた卵を無傷で受け止めるような、そんな緩衝材だ。
ただ硬いというだけなら、他にも様々な方法で再現できるけど、弾かず衝撃を吸収するなんて言うのは聞いたことが無い。
未知。
それはまさに、陰の実力者というものに相応しい力じゃないか!
塔拓浄様、グラス様、
高評価ありがとうございます!
裁縫箱様
誤字脱字報告、ありがとうございますm(*_ _)m
https://twitter.com/Kotobuki_Amane?s=09
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