シャドウ様は凄い。
非の打ち所がないくらいに凄い。
なんて言ったら彼を知っている人は何を当たり前なことを言っているんだと疑問に思うだろう。
それでも私はあえて言う。
私はシャドウ様は間違いなくこの世界で一番凄い存在だと思っている。
まずシャドウ様を見る時に一番最初に目がいくのはその圧倒的と言うべきな戦闘力だろう。
魔力、筋力、敏捷性、そのどれをとってもシャドウ様に勝てる存在なんて、かなりのエリートが集うシャドウガーデンにさえ一人もいない。
もちろんそれだけじゃない。
シャドウ様の一番凄いところはそんな肉体のスペックなんかじゃない。
一番凄いのはそれらを使う技量だ。
まずはその剣技。
シャドウ様の剣は誰よりも速く鋭く重いのに、誰よりも正確に振るわれている。
その精密さは宙を舞う髪の毛を縦に切り裂く程で、まさにシャドウ様にしかできない絶技だと言っていいだろう。
その絶技はアルファ様やデルタにさえも真似をする事ができなかった。
ということは他にそんな事ができる人なんて、この世界のどこにもいないんじゃないだろうか?
そんなシャドウ様は、剣での戦い方を私に教える時にこう言った。
『ベータ、戦いの神髄を教えてやろう。
まず第一に速さ、そして第二に技量。
耐久力がその次で、力はさらにその次だ』
そうシャドウ様は言って、高速で動き回るデルタを、ゆったりとした動きで押し潰すかのように制圧した。
技量だけで敵を制するその姿は、私の脳裏にしっかりと深く刻み込まれている。
そして魔術。
シャドウ様は魔術も何より精密に行使する。
より狭い範囲に、より大きな力を、より素早く込めるというのがシャドウ様の教えだけど、本来魔術というのは精密性を上げようとすればする程に無駄な魔力が発生してしまうものだ。
それをシャドウ様は息をするかのように、一切のロス無く魔術を使う。
それなのにシャドウ様曰く、『100の魔力を使って100の事を行えるようになってようやくスタートライン』なのだとか。
私には理解も納得もできたとしても、絶対に真似できない領域にあると言っていい。
その最低限に立っている魔術師はシャドウガーデンにたったの二人きり、アルファ様とイプシロンだけだ。
私も七陰として高位の魔術を無詠唱で使えるようにはなったけれど、それはとてもじゃないが100%の魔術と言う事はできないものでしかない。
ある程度までは100%で使えても、ある段階を超えると途端に使えなくなる欠陥品でしかない。
ずっとずっと幼い頃から、かの邪神ヒトガミと一人戦い続けているシャドウ様の戦闘能力は飛び抜けて高い。
それはそれはもう凄まじい強さで、たとえ七大列強の上位が襲ってきてもシャドウ様がいれば私は安心してその様子を伺う事ができるだろう。
それなのにシャドウ様は一切の慢心をせず、さらに強くなる努力を重ね続けている。
それも誰よりも多く、誰よりも濃くだ。
シャドウ様のその強さは決して才能なんかじゃない。
それは努力。
圧倒的なまでの努力の積み重ねによって、小さく小さく作り上げられた血と汗と涙の結晶だ。
シャドウ様が決して天才なんかじゃないなら、頑張ればいつか私も追いつけるはず。
だから、どうにかしてこんな私もシャドウ様の隣に立ちたかった。
私はなんだってやった。
シャドウ様のできる事をほんの少しでも吸収しようと、ありとあらゆる事を頑張った。
そのどれか一つでもいいからシャドウ様の横に立ちたかった。
だけど、私には才能なんてものがなかった。
剣ではアルファ様に負け、デルタに負け。
魔術でもアルファ様に負け、イプシロンに負けた。
なら知識で勝とうと頑張ったけれども、やっぱりアルファ様に負け、ガンマに負けた。
物作りでもアルファ様に負け、ゼータに負けた。
研究という面においてもアルファ様に負け、イータに負けた。
私には何をやってもそこそこ止まりで、それ以上をこなす事はできなかった。
他の七陰はアルファ様を何かで超えているのにも関わらず、私にはその得意分野なんてものが一つもない。
今の七陰というのはシャドウガーデンの最初期に参加した7人のメンバーを指す言葉。
だけど七陰というのは、シャドウガーデンで最も初期のメンバーではない筈だ。
そんな年功序列のようなシステムはただの足枷にしかならないから、このまま七陰の座に居座り続けるには何かしらの専門分野が必要だ。
このままだと本当にスタイルくらいでしか1番になれない。
仕事として書いている小説も、シャドウ様が語ってくれたものを真似したものばかりで私のオリジナルなんて何処にもない。
「はぁ……」
「あら? どうしたのベータ」
私が月を見ながら一人考えていると、後ろから声が掛けられた。
シャドウガーデンの制服を身にまとった金髪のエルフ、アルファ様だ。
「アルファ様、お疲れ様です。
少し考え事をしてまして」
「何? もし良ければ相談に乗るわよ?」
「実はその、斯々然々で」
「斯々然々って口で言われても分からないわよ」
私はアルファ様に悩んでいた事を話した。
隠していても仕方がない事だし、いつかはどうにかしなければいけない話だ。
「そういう事なら、あなたも私に勝っている事があるわよ?」
当然、肯定の言葉や慰めの言葉が帰ってくると思っていたけれどアルファ様が放ったのは全然違う言葉だった。
私がアルファ様に勝つ?
一体何で勝っているというのだろうか?
「教えて頂けますか?」
「そうね、一言で言うと万能力かしら?
悪く言えば器用貧乏だけど、それって一つのメリットじゃないかしら?」
「ですが、アルファ様は私より……」
「私にもできない事はあるけれど、あなたにはそんなものないんじゃない?」
「あっ」
確かにそうだ。
私にはどんなことでも人並み以上にはできるという力がある。
アルファ様にできないことでも、だ。
器用貧乏な私。
変わりはいくらでもいるような私。
でもそれは、逆に言えば私さえいれば大抵の事がどうにかなるという事ではないだろうか?
「アルファ様、ありがとうございます」
「ふふ、これで調子は戻ったかしら?」
「はい! これからはこの万能力をさらに極めようと思います」
私はこれまで、シャドウ様のできる事しか学んでいなかった。
だけど、これからは少し視点を変えて見ようと思う。
シャドウ様ができない事。
みんなができない事。
そういった事を率先してできるようになる。
きっとそれが器用貧乏な私の一番の活用法だ。
色々な事ができるのと、どんな事でもできるとの間にはかなりの差がある。
私が目指すのは本当の万能。
別に完璧を求めなくてもいい。
それが人並み以上であればいい。
仕事として存在する全ての事を、人並み以上にこなせる様になればいい。
そうなれば私は正々堂々、胸を張って七陰のベータを名乗る事ができるようになるだろう。
これからは暇を見つけて色々な事にチャレンジする事にしよう。
「それで、アルファ様はどうしてここに?」
「私? 書類の確認が終わった帰りにベータを見つけたから来ただけよ?」
「もしかしてこの時間までずっと仕事を?」
時刻はもう夜の3時。
既に日は変わっており、他のシャドウガーデンのメンバーも夜勤で警備の任務に就いているのを除けば全員が寝ていると言ってもいい時間だ。
「ガンマのミツゴシ商会も軌道に乗ったし、そろそろ本格的に銀行を作るのも良いと思ったから、その辺りの不備を確認していただけよ?」
「言ってくだされば私も手伝ったのですが」
「……? 別に良いわよ?
ただの息抜きだし、私が自分でしたくてやっていたのだから」
仕事の息抜きで仕事をする。
そんな事ができるのはアルファ様だからと言っていいだろう。
どう考えても普通は無理だ。
シャドウ様も時々、修行の息抜きに仕事をするなんて言っているし、この二人の考え方は一般人と比べたら異次元の領域にあると言っていいだろう。
さすがに真似できることではないので、二人が羨ましい限りだ。
「ベータはナツメとしての活動はどう?
上手くいっているのかしら?」
「まだまだですね。
まずは簡単に読める子供向けの絵本を販売していこうかと考えてます」
「少し思ったんだけど……」
アルファ様と二人で、夜空に輝く星と月を見ながら私達は夜が明けるまで色々な事を語り合った。
クェーサードラゴン様
高評価ありがとうございます!
裁縫箱様
いつもいつも誤字脱字報告本当に助かってます。
これからもどうかよろしくお願い致します。
m(*_ _)m
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作者Twitter
シャドウ様は転移
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をレジストする。
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によって単身転移する。
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で七陰の誰かと転移する。
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で七陰全員と転移する。
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する前にアルマンフィと出会う。