シャドウ様に水神流を教えるにはどうすればいいか?
一言で言うと、迷走しました。
それはアルファ、ベータ、デルタの三人を連れて王都アルスに来た夜の話。
偶然というのは稀に、奇跡的に何かと噛み合う事があるという事を僕は初めてこの身で体験してしまった。
「くくくっ、この全てを見通す我が
「へぇ、この距離からあたしに気付くかい」
ん?
それは何となく適当な物陰に入って、いつものようにそれっぽい台詞を発した時の事だった。
1人の老婆がそう言い僕の元へとやってきた。
どうやら僕の後を付けていたらしい。
……おかしい。
尾行には細心の注意を払っていたはず。
それにこの老婆、まるで波ひとつない水面のように気配がまるで存在しない。
や、やばい。
まさか本当に誰かが後を付けているなんて考えてもいなかった。
「……」
「……」
しばらくその老婆と見詰め合う。
き、気まずい。
そ、早急に陰の実力者、
陰の実力者を演じなければ。
「ふむ、当然お前が何者かは知っているが、
改めてその名を聞かせてもらおうか?」
「あたしはレイダ、
水神レイダ・リィアさね。
そう言うあんたは……。
いや、あんたがシャドウだね?」
「そうだ、我こそがシャドウ。
陰に潜み、陰を狩る者……」
……少し待って欲しい。
なんで僕は水神に後を付けられているんだ?
水神流には明日お邪魔しようと思っていたが、それは明日の話で僕はまだ何もしていない。
まあ、向こうから来てくれた方が助かるような気はするんだけどさ……。
水神流の最高指導者ともあろう人が、陰の実力者であるこの僕に一体なんの用なのだろうか?
うーん?
特に恨まれるような事をした覚えもなければ、そもそも水神レイダにあったことも無い。
「やっぱりそうかい。
どことなく不思議な感じがしたからそうじゃないかと思ったよ」
そう言って水神レイダはまさに明鏡止水という言葉が相応しいその状態のまま、僕の方へゆっくりと歩いてくる。
この感覚、不思議な感じだ。
明らかに自分と殺し合いを行えるような強者が間合いへと踏み入っているのにも関わらず、僕の体は戦闘への臨戦態勢に入る事がない。
ゆったりと、ゆったりと水に浸っていくような、そんなイメージ。
人が空気を警戒できないように、彼女はただそこにあるという領域に至っている。
戦えば魔力と肉体のスペックで間違いなく圧倒できるし、彼女の剣が僕のシャドウアーマーを貫くような威力をもって無いという事は分かる。
単純な戦闘能力という上では明らかに僕の方が上だと分かる。
だけど単純な技量の勝負ではどうなるか。
今の僕に彼女の真似ができるだろうか?
……分からない。
が、一方的に害意を向ける訳にもいかないので彼女の真似をして気配を静める。
明鏡止水、僕はただの陰だ。
ただの猿真似かもしれないが、そんなイメージを全身に纏う。
「それで、その水神が一体何の用だ?」
「へぇ、あたしの真似かい?
聞いた通り凄まじい才能だね」
「残念だが違う、けして天才などと言うくだらないものと一緒にしてもらっては困るな」
「あたしもそうだからね、よぉ〜く分かるよ。
天才ってのは努力の末になるものさね。
あたしが言ってる才能ってのも、その努力が実ったからこその才能って事さね」
一瞬、何を言っているのか分からなかったが、少し考えると彼女が言っている事が理解できた。
なるほど、確かにそうだ。
彼女の言っている事は恐らくこういう事だ。
知識を身に付ければ、その知識を別な事に応用する事でその別な事に対する才能を得ることができるという事だ。
例えば、剣に対する知識を存分に持っている人と、一切剣の知識を持っていない人を例にして考えてみよう。
この二人の人間が全く同じ剣の技術を身につけようとした時、どちらがより早くその技術を身に付けられるだろうか?
もちろん答えは簡単だ。
『どう考えても、剣の知識を持っている方が早く身に付ける』
至って当たり前のことだ。
技術でも、
経験でも、
知識でも、
それが確かに身に付いているならば、それを応用する事で才能は作り出すことができる。
それは間違いなく努力の末の結晶だ。
「流石は水神、いい事を言うな。
才能は努力で身に付けるものか」
「違うかい?」
「いいや、至極正しいとも」
「あたしが来たのはあんたんとこのゼータに、あたしの魔剣を打って欲しいからさね。
助けた代わりに、剣を打ってくれるらしいんだが、あんたの許可がいるそうでね」
助けた?
鍛冶師という非戦闘職ではあるが、ゼータもシャドウガーデン最高幹部の一人、七陰である。
つまり、僕が直々に鍛え上げているので神級や帝級には届いていないとしても、確実にその剣は王級に届いている筈だ。
そんなゼータを追い詰めれるような奴がやってきたのだろうか?
「…………ああ、そういう事か。
そのゼータを襲っていたのは『剣神』だな?」
当然、そんな奴は数が限られてくる。
僕のように陰に潜んでいるものを除いて、ゼータを襲う理由がある奴を挙げていればそのうち正確な答えが出てくる。
恐らく剣神が何処かでゼータの事を聞きつけ、強引に剣を作らせようとしたのだろう。
そして、それを拒否したゼータに剣神がキレて襲いかかったところ、水神に助けられた。
うん、ありそうな話だ。
「今の会話からよくそれが分かったね。
こりゃあ、あの子が言ってた陰の叡智ってやつもどうやら本当みたいだね」
「……ほう? どうやらゼータから相当情報を聞き出したようだな」
まさか水神にバレるとはなぁ。
普通なら問答無用で殺す所だけど、流石にゼータの恩人を殺すわけにはいかない。
それに水神流には興味があるし、僕の正体がシドであると言うことがバレている訳ではない。
幸いな事に彼女は口が硬そうだ。
せいぜい完全に未知の存在が、知る人ぞ知る存在へと変わっただけである。
さすがに誰にも知られていない陰の実力者なんて居ないし、まあ問題ないね。
そして何より、陰の実力者である僕の協力者として水神というのは相応しいだろう。
何せ、水神流の剣士というのはこのアスラ王国では、あの有名なある職業の割合を、ほぼ100%で占めているのだから。
その職業の名はそう……、
門番、門番A、それはモブの中のモブの職業。
これ以上にモブに相応しい職業なんて、この世界にあるだろうか?
いや、無い。
僕は陰の実力者としてモブである必要がある。
今はまだモブとして振る舞えていないが、もし仮に僕が門番として仕事に就く事ができたらどうだろうか?
それは陰の実力者として重大な第一歩を踏み出せるんじゃないだろうか?
そしてこのアスラ王国で門番と言えば確実に水神流を修めているものだ。
門番が水神流剣士であるその確率はなんと脅威のほぼ100%なのだ。
それは、この水神レイダが一声掛ければ門番になれるということに他ならない。
そして本来、門番になる為にはそこそこの身分が必要であるとされる。
それにある程度の実力は明かさなければ、門番になる事はできないだろう。
それを無視して門番にする力を持っている水神というのは僕にとって救世主のような存在だ。
幸いな事に向こうはゼータが打つ魔剣を欲しているし、最強の剣士である僕と協力関係になれるのは向こうも悪くない事だと思う。
よし、手を組もう。
「ならば水神レイダよ。
我らの目的を知っているだろう?
我らシャドウガーデンと手を組まないか?」
「それが至高の魔剣を作る条件ってわけかい。
水神流としてシャドウガーデンの傘下に入る事は当然できないけど、あたし個人としては手を組む事もやぶさかでは無いよ。
手を組むって事はそっちもいざって時に助けてくれるって事だろう?」
流石に水神流ごとまとめては必要ないし、そこまで大き過ぎるものは僕の手に余る。
シャドウガーデンも本来は少数でいいのに、ここに万人単位で人数が増えると物凄く困る。
水神レイダ本人の協力があれば十分だ。
「ああ、無論だ。
当然こちらからの頼みを幾つか聞いてもらう事になるが、こちらもそちらからの頼みはできるだけ叶えるように善処しよう。
それともう一点、我らシャドウガーデンはその目的から陰に潜む必要性がある。
例えどのような事があろうとも、決して我々の存在を
こちらの要求と言っても剣を教えて貰う事と、門番になるという僕の夢を叶えて貰うことくらいだけなんだけどね。
まあ、せっかくの協力関係だし七陰達からのお願いとかも聞いてもらう事になるかもしれないが。
「それだけかい?
なら決まりだね」
僕が説明を終えると、そう言ってレイダ・リィアはこちらに向かって手を差し出して来た。
僕はその手を受け取り、ここに陰の実力者と水神の同盟が結成された。
lazy3333様。
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作者Twitter
シャドウ様は転移
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をレジストする。
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によって単身転移する。
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で七陰の誰かと転移する。
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で七陰全員と転移する。
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する前にアルマンフィと出会う。