やあ、僕だ。
とりあえず一言だけ言うとするならば……、
余裕で岩とか素手で叩き割れるし、
残像だけ遺して相手の背後に回ることもできる。
軽々しく人間の限界を遥かに超えたような、そんな動き実現する事ができたのだ。
さすがに核はまだ無理だけど、魔力は使えば使うほど成長していくようなので、間違いなくそのうち核だって何とかなる事だろう。
この世界には核なんて無いような気はするが、でも核クラスの威力をもった魔術はそれなりに存在するようだ。
かつてどこかの黄金騎士が魔界大帝との一騎撃ちで、大陸を割って海ができたとかいう伝説もあるし、妥協する事は許されない。
例えそれが神話の話に過ぎないとしても、僕の思い描く陰の実力者は例え相手が神そのものであろうが負ける事はないのだ。
よって、僕の目標は神話に勝る力を身につけることだ。
そのために日々効率のいい魔力の運用方法を追い求め、研究と修行を重ねた結果、最近は実験の日々が続いている。
あ、そうそう、僕の生まれは平凡な冒険者の家庭らしい。
今はこの村に定住しているが、僕が生まれる前は父親は剣神流の上級剣士で、母親も炎の上級魔術師なんて言う至って普通の冒険者パーティーで世界各地を旅していたらしい。
そんな家庭で、僕はごくごく平凡の冒険者になるべくすくすくと育っている。
陰の実力者は実力を見せる相手と場所を選ぶのだ。
そう、来るべきその瞬間まで……。
手を抜いているとは言え、冒険者見習いとしての修行はなかなか役に立っている。
この世界の魔力を使った戦い方を学ぶ事が出来るし、僕自身戦い方を見直すいい機会になった。
この世界には剣の流派が主に3つある。
1つ目は僕の父の流派である、剣神流だ。
剣の聖地という場所に本拠地を置く流派で、速度と攻撃力を重視した剣術で三大流派最強といわれているらしい。
言わば脳筋の剣で、相手より速く力強い一撃を放てば勝てるという事に重きを置いた流派だ。
2つ目は水神流という、この国の王都に本拠地を置く流派。
こちらは剣神流の真逆を行く流派で、防御からのカウンターを真髄としている。
で、最後の3つ目は北神流という流派。
剣術と言うよりも剣に限らない戦い方を詰め込んだもので、生き残る事、最後まで戦うことを真髄としているらしい。
堂々と人質の取り方を教えられる流派なので、よく卑怯な流派なんて言われているが、僕は非常に合理的だと思う。
さて、この世界の剣技について少し語ったが、それは僕が前世で学んだ戦いの技術が、正直に言ってこの世界では殆ど役に立たないからだ。
この世界には魔力というものがあり、魔族の中には心臓を貫かれても平然としているような種族もいる。
そんな相手に対して、人間にしか通用しない格闘技というものは意味をなさない。
例えば筋力。
魔力を使って身体を強化する闘気という技術があれば、少し力を込めるだけで片手で人を持ち上げられる。
そうなると寝技の常識がまず崩れる。
マウントとっても腹筋だけで軽く空を飛ぶ。
ガードポジションから片足の力だけで相手が吹っ飛ぶ。
うん、そんな中で寝技とかまず成立しない。
ダメージの概念なんかもこの世界ではかなり違う。
治癒魔術なんてものが平然とあるせいで腕や足を切り落とされても普通にくっつける事ができるし、あるレベルに達すると、もはや部位欠損ですら微かなダメージになってくる。
人には人の戦い方があって、化け物には化け物の戦い方がある、そういうことだ。
他にも踏み込みの速度が違う、ステップインの距離が違う、よって戦う間合いも違う。
と言うかこれが一番重要だ。
格闘技なんて結局は間合いゲーだ。
距離と角度、ポジショニングが基本にして究極だ。
某赤い機体の人が言っていたように、当たらなければどうということはないのだ。
最近ようやくその自分の距離が固まり、相手の間合いが分かるようになってきたところだ。
完全な位置取りができるようになれば、あとは魔力をどちらがより効率的に運用できるかに掛かっている。
100の魔力を使って10の威力しか発揮できないのであればそもそも話にならない。
100の魔力を使って100の威力を発揮してようやくスタートライン。
そこから魔術、剣術の組み合わせでようやく使用した100の魔力以上の力を発揮できるわけだ。
攻撃に魔力を使うのか?
防御に魔力を使うのか?
治癒に魔力を使うのか?
妨害に魔力を使うのか?
それら無数の選択肢の中から瞬時に最適な答えを導き出し、それを行使する。
戦いとはまるでチェスや将棋のようなボードゲームに似ている。
駒が揃っていなければ戦えないのはもちろんだし、駒が揃っているからと言って楽に勝てるわけでもない。
ただ違うのは相手の手番とこちらの手番が交互に繰り返されるというわけではないという事。
思考速度、判断速度、肉体の敏捷性によってこちらの手番はいくらでも増えるし、相手の手番もそれによって変化する。
ここ最近になってようやくこの世界の戦いに慣れてきたところだ。
いやほんと異世界という先入観と魔力という未知なもののおかげで随分と惑わされたけど、ようやくそれが形になってきた。
さて、そんな感じで僕は毎日の修行漬けの日々を過ごしている。
父からは剣術を、母からはこの世界の一般常識と魔術について学んでいるという感じ。
もうとっくに父や母の実力を超えているのだが、絶対に勝つわけにはいかない。
なぜなら陰の実力者になるために僕は平凡なモブAになりきらなければならないのだ。
僕がなりたいのはよくいる有名な実力者ではなく、世界の闇に潜むような陰の実力者。
だから僕は毎日『ふぇぇ、できないよぉ……』と言いながら両親からボコられているのだ。
そんな日々を過ごしている僕であるが、日中は勉強やらモブAになりきるための付き合いやらで自由な時間は少ない。
そんなわけで修行は自然と夜遅く皆が寝静まった後に行うことになる。
当然睡眠時間を削っているわけだが、僕は魔力による超回復と瞑想を組み合わせた独自の睡眠法により超ショートスリーパー化しているため快適である。
さて、本日も修行に励む。
今日はいつもの森で基礎トレーニングを軽く行った後、特別メニューだ。
最近、近くの廃村にならず者が住み着いたらしく、僕が調べたところそれなりの規模の盗賊団がいた。
うん、試し斬りにちょうどいい。
この世界には野盗とか、盗賊の類がそれなりにいるがこの規模の盗賊団は滅多に見かけることがない。
あったとしても年に一度くらいで、これは絶対に逃せない一大イベントだ。
僕は年中スパーリングパートナー不足だからこういう悪人は大歓迎だ。
ああ、もっと治安が悪くなりますように。
悪人は私刑、というのはこの世界の田舎では割とまかり通っている事だ。
裁く人なんて都会にしかいないしね。
だから僕が裁いてあげよう、というわけさ。
「ヒャッハーッ! てめぇら金目のモノを出しやがれ!!」
盗賊のモノは僕のモノ、こうして将来陰の実力者になるための資産が増えるのだ。
僕は世紀末のモヒカンのテンションでその盗賊団のアジトへと突っ込んだ。
不意打ちはしない、なんの練習にもならないからね。
相手がいくらか格下といえども、何かしらの新しい事を学べる可能性は少なからずあるのだ。
よって相手にやりたい事をやらせて、なおかつその上で叩きのめす。
これこそがまさに僕の思い描く陰の実力者だ。
「な、なんだぁ! てめぇっ!」
今の僕の格好は土魔術を使ってガチガチに固めて作った漆黒の鎧を身にまとった剣士だ。
この姿で盗賊狩りを初めてからしばらく経つが目撃者は確実に仕留めているので、誰も僕の事を知らないのは当然の事だ。
「さっさと金目のモノをだせぇ!」
そう言って目の前の男をぶん殴ると、ようやく状況を把握したのか盗賊団の団員達は武器を構え始めた。
「っち、てめぇら何をしてるんだ!
やっちまえ!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァッッ!」
なんか騒いでいる男の首を剣で切り落とす。
自分の土魔術で作っただけあって、この剣は伸縮自在の魔剣と化している。
まあ、魔剣(人力)なんだけどもね。
「ひ、ひぃっ!」
「てめえらの血はなに色だーッ! 」
近くに居るやつは剣で切り、
遠くにいるやつは適当な魔術で仕留める。
「血ィィ見せろや!!」
「ば、ばかぬゎぁぁぁっ!」
統率が取れていたらほんの一瞬はめんどかったかもしれないが、統率も取れない盗賊はただの有象無象にしかすぎない。
適当に無双しているとあっという間に盗賊は血溜まりと化した。
うん、盗賊団と言っても所詮はこんなものか。
いくらか斬り掛かられていたのだが、鎧にはせいぜいかすり傷があると言ったくらいで目立った傷一つ入っていない。
この程度の鎧に傷を付けれないようでは闘気でガチガチに身を固めている僕の体にはかすり傷一つとして付けることはできないだろう。
「ふふふーん♪」
最後の一人の息の根を止めて、もう残りの盗賊が居ないことを確認すると僕は戦利品を漁り始めた。
「お? 結構貯め込んでるな」
戦利品は高そうな壺や絵画、魔石や貴金属等様々だが、なかなかそういったものを捌く暇がない僕にとっては現金が一番良い。
現金はだいたい10万円程の価値があるこの国の金貨が80枚。
これが全て陰の実力者の活動資金となる。
もっと治安が悪くなって盗賊が蔓延る世界になればいいのにな。
ゲームみたいに道を歩いたらエンカウントするレベルになればいいのだ。
そうやってゴソゴソと金目のものを物色していると、ガタッという音が聞こえて僕は振り返った。
もしかして盗賊の生き残りがいたのかとも思ったけど、どうやら盗賊ではないようだ。
「ん? 檻か?」
その音は最後に物色しようと思っていた檻の中から聞こえて来ているようだ。
パッと見、割と大きくて頑丈そうな檻だ。
「奴隷かな? 捌けないからパスだけどさ」
でももしかしたら中にいいものが入っているかもしれないから、僕は念のため檻の覆いを剥ぎ取った。
「これは……予想外」
中に入っていたのは奴隷でも魔獣でもなかった。
かろうじて生きているのが分かるくらいの肉体が魔石化しているエルフの少女。
神級という最高位の魔術について調べている時に聞いたことがある。
魔石病という病で、全身が魔石になって死ぬ病気らしい。
確か、魔石病は神級の治癒魔術でしか治せないとされている病気で、胎児とその母親にしか感染しない非常に珍しい病気だった筈だ。
もう既に体の大部分が魔石に変わっているが、まだ何とか意識もあるようで、檻を覗き込む僕に体がピクリと震えた。
体が魔石になっているので売ればそれなりの値段にはなるのだろう。
当然、僕には捌けないから無意味だけど。
今楽にしてあげるからね。
そう思って、剣を振り下ろそうとした時に僕の脳内である考えが巡った。
これ、自分の魔術の腕前が神級に達しているかを確かめるいいチャンスじゃないか?
何が原因で魔石病に掛かったのかは分からないけど、成功するにせよ失敗するにせよ、間違いなく彼女を治療する事はいい経験になる筈だ。
仮にも最凶の病とされている病気で、感染数が非常に少ない魔石病だ。
そのメカニズムが分かれば、相手を魔石病にしてしまう呪いとかも作れるかもしれない。
神級の魔術でしか治癒できないのだから、もし仮にそんな魔術を作れれば非常に強力な武器になる事は間違いないだろう。
「これは……使えるな」
僕は彼女に手を伸ばし、その体へと魔力を流し込んだ。
七陰、第6席ゼータは?
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ツンデレ
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気弱系