( ̄▽ ̄;)
鬱蒼とした森の中、僕とレイダは二人で向かい合っていた。
僕は素手のままいつも通りに立っているが、向こうは剣に軽く手を添えてゆったりとした構えを取っている。
剥奪剣という水神流の奥義の構えだ。
レイダが最も得意とする技の一つ。
前後左右上下、四方八方、360°、自分の周囲のありとあらゆる所を斬ることができるというシンプルに強力な技だ。
「準備はいいか?」
「何時でもいいさね」
彼女の返答を聞くと、僕は剣を作り出してその剣の結界の中へと飛び込んだ。
それに反応し、一瞬で剣激が飛んでくる。
……早いな。
僕はギリギリの間合いを見切って、その剣が届かない直前でピタッと止まる。
その結果剣は空振りしたが、もしここから1ミリでも進めば当たっていた事だろう。
「やはりその技、間合いが狭いのが欠点か」
「大口叩いてるだけあってやるじゃないか。
よく初見で間合いを見切ったね」
「目の前にいるのが誰だと思っている」
筋肉のマッスルパワーでデルタのように真っ向から迎え撃つことも不可能ではないし、シャドウアーマーを強化して弾きまくれば無傷で剥奪剣界を突破する事もできるだろう。
だが僕の目的はそこ、勝つ事ではでは無い。
剥奪剣界を攻略し、自分のものにする事だ。
まずは技の仕組みを考えろ。
どこでも瞬時に切れる剥奪剣はそんなに速い剣では無い。
だが速いんじゃなく、早い。
出から最高速度に至る過程が無い。
最初からほぼ最高速度。
加速なんて必要ないとも言いたげな剣だ。
光の太刀が溜めと解放から行われる速さの剣だとするならば、剥奪剣は溜めを一切作らず出から最高速度の早さの剣だ。
光の太刀程の速さも威力もないが、早いというのは確かな脅威だ。
なんせ技の後から避けられない。
素人ならば痛みを感じるまで斬られたと分かることもないだろう。
それが剥奪剣だ。
「なるほど、剥奪剣単体でもそれなりには厄介な剣だと言えるな」
「あたしのこの剥奪剣界は、その剥奪剣に範囲内の全てを知覚する水域を重ねて展開する技さね。
龍神ならあっさりと攻略したけれども、あんたに攻略できるかい?」
「ふむ……」
恐らく水域の感知範囲は剥奪剣の間合いよりも少しだけ広い。
だから僕が踏み込もうとしたタイミングで綺麗に剥奪剣を放つ事ができたのだろう。
自分の周囲を完全に把握する水域で動きを感知し、それを全方位を素早く斬れる剥奪剣で斬る。
当然、一歩でも踏み込めばその動作に反応して、全てを斬り捨てる事ができるという訳だ。
今は距離を取っているが、元から範囲内に居ればさらに面倒臭い技だった事だろう。
が、攻略する方法はもちろんある。
攻略する方法は3つ。
まず、彼女より早く斬る事。
次にこちらも剥奪剣界を展開する事。
3つ目は水域自体を誤魔化す事。
そして最後が、
「では行こうか!」
「かかって来な」
そう答え終わったのと同時に、僕はゆっくりとその剣界の中へと足を踏み込んだ。
レイダの体がブレる。
当然剥奪剣が飛んでくるが、
…………無駄だ。
剣と剣がぶつかり合い金属音と火花が飛ぶ。
「っ!?」
一撃、二撃、三撃、
一歩歩く度に、黄金の剣閃が飛ぶ。
だがその全ては僕の剣へと吸収される。
剥奪剣には威力が無い。
もし仮に剥奪剣が光の太刀の半分も威力があればこんな真似はできなかっただろう。
この世界風に言うならそう。
「影神流奥義、先置剣」
攻略さえしてしまえばあとは簡単だ。
一歩、また一歩と足を進めていけばいい。
キンッ!
という音と共に火花が舞う。
レイダの表情が険しい顔になっていく。
恐らくレイダは何をされて、どうやって防がれているのか分かっていないだろう。
だが、この技の名前にもある通りにやっていること自体は本当にシンプル。
相手の剣が来る軌道に、先に剣をスっと置いているだけなのだ。
それだけで基本完封できる。
早い、早いからこそ自分でも途中で止められないのは当たり前のこと。
途中で軌道を変えたりする器用な真似はどうやってもできないだろう。
ただその空間に剣を置くだけ。
威力はまるで要らない。
力む必要なんてない。
だからレイダの剣よりも早いし速い。
狙いも曖昧でいいし、そこには思考する時間すら生まれない。
本当に添えるだけ。
力を加えるのは剣が当たったその瞬間のみ。
火花が散る。
音が舞う。
距離が近くなればなるほどに彼女の剥奪剣は有効になる。
だが剣閃の数が増えても、僕の方が早いという事は裏返らない。
「なるほど、微かに魔力を散らしているのか?」
そして、僕は理解する。
彼女の理を、彼女の技を。
水域とは、薄く魔力を敷く技だ。
小さな泉をその場に作る技だ。
その領域内で動けばそりゃ当然、波一つない水面に石を投げ入れるようなもの。
波紋が広がるが如く、察知される。
莫大な魔力を放つなどして、一気に塗り潰せば感知を誤魔化せるかもしれないがかなりの魔力を消費するのでする必要が無い。
そもそも、ここまで堂々と近付けば剥奪剣単体を攻略するだけでいい。
この技は有用だ。
言わば水神流の魔力の流れを読む技の究極系でもあり、という事は当然他のことにも応用することができるはずだ。
それに、先置剣との相性もいい。
というか本来はこういう感知系の技があって初めて成立する技だからねこれ。
今は先読みの技術と反射神経のゴリ押しで成立させている技だけどかなり疲れるんだよね。
さっそく水域を展開してみるか。
うん、奥義だけあってかなり難しい。
とてつもない繊細な魔力操作が要求されるが、そんなものは日頃から練習を重ねている。
この技は間違いなく僕がこの場で使える技だ。
魔力を薄く広げるイメージでレイダの水域に僕の水域を重ね合わせる。
「なるほど、こうか?」
魔力が波紋を立て、
それと共に剣が飛んでくる。
それを事前に置いていた剣で弾く。
この波を感じたら即座に軌道に剣を置けばいいのだから、もうこれで読みの技術は必要ない。
「つくづく思うけど、あんた相当な化け物だね」
「くくくっ、だがこんなものは所詮、我が片鱗にしか過ぎない」
魔力の操作に関しては生まれる前から修行をしていただけあってかなりの自信がある。
このような難しい技だとしても、その正体が魔力だと言うのならば僕に盗めない理由はない。
「さて、そろそろいいだろう。
龍神の方が強い、だったか?」
ならばどこまでも相手の
技を盗み、知恵を盗み、奥義を盗む。
陰は陰らしく、盗人のように立ち回ろう。
僕は決して天才じゃない。
天はいつも僕に才能を与えてくれなかった。
「水神流……」
僕に才能を与えたのはいつも僕自身。
僕の経験が、
僕の知識が、
僕の技術が、
僕が小さく小さく、コツコツと積み重ねてきた全てが僕に才能を与えてくれたんだ。
昔は神様何て奴がいるならソイツは残酷な奴だと、ずっと思っていた。
だって地球には魔力がなかったから。
どれだけ探してもなかったから。
だけど今は感謝している。
あの時魔力を見つけてこの世界に来れたから。
初めからこの世界に生まれていたら、陰の実力者という夢をそうそうに諦めていたと思うから。
「奥義……」
昔、陰の実力者に成りたかった男がいた。
でも男には何も無かった。
力も、技も、知識も。
そんな男は初めにある事をした。
あるものを身に付けた。
それは……、奪う事、盗む事。
知識を、技術を、力を、盗む事。
その集大成が、今の僕だ。
さあ世界よ、ただ刮目しろ!
「剥奪剣界ッ!」
剥奪剣界と剥奪剣界のぶつかり合い。
同じ技と同じ技の応報ならば、単純に練度の勝負になる。
もちろんそれ以外にも肉体のスペックで上回ることもできるが、それはしない。
彼女よりも少ない力、小さい力で勝つ。
弾く。
弾く弾く。
弾く弾く弾く!
火花が飛ぶ、火花が散る。
剣と剣が舞い、光と光が綺麗に舞う。
最初は当然レイダが優勢だった。
力と技の二つで劣っているんだから、それはもう当たり前の話だ。
だけど、その形成はどんどん僕の方へと傾く。
一閃、ニ閃、三閃。
剥奪剣を放てば放つほど僕の剣が早くなり、タイムラグがどんどん消える。
そして、やがてその均衡は崩れ、全てが僕の方へと傾く時が来る。
「
僕が最後に放った剥奪剣は、体勢が完全に崩れたレイダへと当たり、その意識だけを綺麗に刈り取った。
僕は陰の実力者になる。
知識も、技量も、力も、速さも、
僕はその全てにおいて頂点に立つ。
それが、陰の実力者になるって事だ。
機械仕掛けのマキナ様、メンタリオ様、yaka様、川崎夜景様、
高評価ありがとうございます!
水神流の奥義、募集中です。
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