Side of Delta.
「ふふふーん♪」
デルタの名前はデルタなのです。
デルタは皆の中で一番狩りが得意!
そしてボスの次に強いのです。
そんなデルタは今日も今日とてボスの為に獲物を狩るのです。
今日の獲物は悪い悪い盗賊。
近くに居るらしい。
それをアルファ様に狩ってこいって言われたのです。
本当ならデルタの方が強いのに、なぜかアルファ様には負けるのです。
ボスの命令以外は聞きたくないんだけど、アルファ様に負けたから仕方がないのです……。
だからボスの為にいっぱいいっぱい頑張って、デルタの方が凄いってボスに言ってもらう!!
そうすれば群れのナンバー2になれるのです。
「あ、いい事思い付いた!
凄い剣があればいい!!」
さっそくゼータの元に向かうのです!
Side of Zeta.
私はゼータ。
知っている人も多いけど、この国の鍛冶師として武具を作っている一人の職人だ。
だけど私には誰にも言えない裏の顔がある。
そう、シャドウガーデン七陰の一人としての顔だ。
私は日々、シャドウガーデンの為に様々な武具を作り続けている。
主に作っているのは皆の為の魔剣や盾、鎧だ。
だけど、将来はシャドウ様の為に立派な聖剣を作ってみたいという夢がある。
今日は珍しく、そんな私の所にデルタが来ていた。
シャドウガーデン最大戦力の一人にして、
シャドウガーデン最大の脳筋、デルタだ。
そんな彼女は私の元に来ると、開口一番にこう言った。
「デルタはバスッとザクッとできるすごい剣が欲しいのです!」
……何を言っているんだろうか?
「むぅ……、それだけじゃ分からない」
「うぅ〜〜!
こう、ズバッとカットしてバスっと切れる剣が欲しいのです」
「…………??」
私もシャドウガーデン最古参の一人としてデルタとの付き合いはかなり長い。
だけど、やっぱり彼女の言っている事は時々よく分からなかった。
「……カットして、切る?」
「そう!! カットして切る!」
……分からない。
カットと切るには一体どんな違いがあると言うのだろうか?
ただ言い方が違うだけでその意味は同じなのではないだろうか?
もしかして何か特別な意味がある?
……間違いなく、何も考えてないだけなのではないだろうか?
こういう時にはイータが欲しい。
イータさえいれば彼女の言っている事が理解できるのに……。
「…………ん、分かった。
とりあえず作ってみる」
だけど、こうして話していてもどうにもならない事は経験上明らかだ。
私はとりあえずデルタの言いたい事が分かった振りをして、剣の製作に入った。
「後は任せるのです!
それじゃデルタは狩りに行くのです」
そう言うだけ言って満足したデルタはそのままどこかに向かって走っていった。
バスッズバッとカットしてザクッと切れる凄い剣という謎ワードを残して。
「…………むぅ」
やっぱり私にはデルタが分からなかった。
Side of Ganma.
それは私がまだシャドウガーデンに入ってからまだ日が浅い頃のある日の話。
私達がいつものように鍛錬を行っていると、偉大なる我らが主様があるものを持ってきた。
どうやらそれは『将棋』と言うらしい。
9×9のマスに、自分の駒20枚と相手の駒20枚を置き、それを決められたルールに従って動かし、相手の王を取れば勝ちというゲーム。
チェスのようだがそれよりもさらに複雑で、取った相手の駒を手持ちに加えることができ、非常に頭を使うゲームらしい。
確かに主様が言ったように、この将棋というのをすればさらに賢くなれるかもしれない。
いや、影の叡智を持つこのお方が何かを間違えるわけがないだろう。
「と、言うわけで今日はみんなでこの将棋をしようと思う」
「あの主さま、その将棋で勝てば何か貰えたりしますか?」
「うむ、いい事を言ったなイプシロン。
この将棋で一番になった者には僕が直々に二つ名を考えてあげよう」
「その二つ名、と言うのはアルファ様の『完全』、ベータ様の『万能』、主様の『影神』のようなものでしょうか?」
「ああ、そうだ。
ガンマ、イプシロン、ゼータ、イータの4人で総当り戦を行い、最も勝率の高かった者にこの二つ名を授けよう」
主様にデルタが居ない理由を尋ねると、どうやらルールを覚えられないかららしい。
……納得だ。
「誰か最初に戦いたい者はいるか?」
「はいはい、1回戦目は私が出ますよぉ!」
「ふむ、イータか……」
「経験上、こういうのは絶対最初に行く方が楽なのですよぉ。
どうですかガンマ?
初見のもので私に挑む勇気はありますか?」
イータ、彼女は私と同じ知能派でありながら魔術の腕もかなり高く、私と違って剣も最低限扱う事ができる。
それに彼女は土魔術だけ限ればアルファ様やイプシロンを超える程の圧倒的な実力を持っている。
そんな彼女は私をよく目の敵にしている。
それはイータが私と同じような、天才的頭脳を持っているからだ。
そして私は他に取り柄がない。
つまり、彼女にこの知能でさえも負けてしまえば、私はもうどこも取り柄がない平凡的な存在になってしまう。
だから絶対に負ける訳にはいかない。
「分かりました。
その勝負受けて立ちましょう!」
「ならば1回戦目はイータVSガンマとする。
先手はイータ、後手はガンマだ」
「あははっ、捻り潰してあげますよぉ」
戦いの火蓋は切り落とされた。
私はまずルールをもう一度頭の中で確認する。
これを間違えたら即座に反則負け、主様が口頭でのみ言ったことをしっかりと理解できているかどうかが最も重要。
そして私はイータが指した一手に対して、最も有効な返しを選択する。
一手、二手、三手とどんどん局面は複雑になっていき、そして決着の場がやってくる。
私の陣地はほとんど崩れること無くその場に残っているのに対し、イータの場はもうボロボロになっていた。
「イータ、これで詰みです」
「……うぐっ、流石はガンマですねぇ」
そうして私は二つ名を手に入れた。
『最弱』、最弱のガンマ。
イータはこの二つ名を笑っていたけれど、私はこれで十分だと思う。
弱いからこそ知恵を学び、そしてその知恵をもって厳しい生存競争を勝ち抜いてきた人類にふさわしい二つ名だからだ。
私はガンマ、
最弱のガンマだ。
Side of Epsilon.
「うぅ……。
どうして私だけ貧乳なのよ」
いや、そもそも長耳族というのは貧乳が多い種族だから貧乳なのは当たり前の事だ。
その筈だ。
いや、そうじゃないとおかしい。
だけど、アルファ様やベータ様は同じエルフなのに十分に胸が成長している。
私のようにぺったんたんで何ひとつとして成長していないのはゼータくらいのもの。
シャドウガーデンは巨乳族が多いのだ。
「…………悩み事?」
「ああ、ゼータですか……。
その……少し、いえ正直言うとかなり胸の事で悩んでまして」
「胸?」
「はい、アルファ様やベータ様と違って、私の胸はどうして成長してくれないのかと」
あ、そう言えばゼータが胸の事で悩んでいるようには見えない。
もしかしてこれは余裕というやつで、何か大きくなる方法でも知っているのだろうか?
「むぅ……、イプシロン。
安心するといい」
「ま、まさか!」
し、知っているのか!
まさか、ゼータはアルファ様やベータ様の胸の秘密を知っているのか!
「貧乳は……ステータス!」
「( ˙-˙ )へ?」
だが、ゼータが放った言葉は私が予想していた言葉の斜め上の言葉だった。
もう全く予想もしていなかった言葉だった。
「……前、私もそれでシャドウ様に聞いた。
そしたら、シャドウ様は言った。
ま、まさか……。
そんな、そんな事が!?
「……そう、シャドウ様は、貧乳でもいける。
むしろ……貧乳が好き、かも?
だからイプシロンは、その事でもう悩む必要はないと思うよ?」
な、なんということだろうか。
この私が、いや前提そのものが間違っていたとでも言うのだろうか?
だけど、このゼータの自信。
どこからどう見ても嘘ではない。
心の底からそう思っているのだ。
「私はこのままでいいの?」
「……いい、今よりも大きくなったら。
むしろシャドウ様から嫌われるかもしれない」
それから私の価値観はガラリと変わった。
主さまの仰っていたのならばその言葉は絶対で、貧乳はステータスなのだ。
別に恥じる事でもなければ、たとえ貧乳でも何ら困る事はない。
むしろ、恥じるべきは巨乳の方。
あの忌々しく感じていた巨乳の方だったと言うことに気がついたのだ。
貧乳は罪では無いのだ。
私はこの言葉を世の中に広めるべきだと思う。
こんな閑話で大丈夫か?
-
大丈夫だ、問題ない。
-
問題ないかと。
-
……普通。
-
ダメなのです!
-
ダメダメですねぇ。