陰の実力者になるために!   作:琴吹天音

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第二章
始まりの終わり。


 

 

 

 

「ん?」

 

 

 いつもと違い、家で畑仕事を手伝っているとふと不自然な魔力の流れを感じた。

 1.6キロに渡って水域を展開している僕だからこそ気が付けた異常。

 

 

 その異変に気が付いたのは、きっと僕が最初。

 この世界の誰よりも早かったと思う。

 

 

 魔力が、一点へと集まっていく。

 膨大な魔力が集まっていく。

 ロアの方向だ。

 

 

「誰かが神級の魔術でも使っているのか?」

 

 

 そう思ってロアの方向に目を向けると、案の定そこには召喚魔術を使った時のような光が渦巻き始めていた。

 初めはゆっくりだったのだが、それはどんどん激しくなっていく。

 

 

 この魔力で誰が何を召喚しようとしているのかはわからないけど、それがろくなものじゃない事だけは分かる。

 

 

 封印されている魔神か……、

 それとも、他の邪神か。

 なんにせよ神クラスの何かを召喚しようとしている事だけは間違いないはずだ。

 

 

 ふと頭の中にこんなフレーズが浮かぶ。

 

 

 _______世界の終焉。

 

 

 何が召喚されるにせよ、これだけの魔力を使って召喚される者。

 それは必ず混沌を引き起こす筈だ。

 

 

 ということは遂に来るのだ。

 僕の悲願、『陰の実力者』が活躍するべき物語が始まろうとしているのだ。

 こういう時に言う言葉は決まっている。

 

 

 アレだ。

 

 

 だがまだ早い。

 もう少し、

 

 

 今だ! 

 

 

「馬鹿な……、早すぎる」

 

 

 僕はアルファが来たタイミングで、少し大袈裟な様子でそう台詞を放った。

 アルファが僕に声を掛ける。

 

 

「シド! あれは何!?」

「あれは……、そう。

 言わば世界の鍵だ」

「世界の、鍵?」

「…………そうだ」

 

 

 僕の物語の始まりを告げる鐘にして、

 平穏に終止符を打つ者。

 

 

 僕が正真正銘の陰の実力者へとなる為の鍵のようなものだろう。

 いるかどうかは分からないけど今日ばかりは神、ヒトガミにでも感謝しよう。

 

 

「くくくっ……、ヒトガミよ。

 ようやく貴様に礼ができそうだ」

「っ!? ……そういう事ね」

「ああ……、影の叡智が僕に囁く……」

 

 

 何通りも、……いや嘘だな。

 何十とか、何百通りとか、何千、何万とかいう話じゃあない。

 既にそれは億を優に超える。

 

 

 幾度となく、何度も繰り返して頭の中へと描いた陰の実力者という夢が叶う。

 あんなものが召喚されるのだから、きっと主人公のような人も居るはずだ。

 そこへアルファと、いやシャドウガーデンと共に影から助けて勝利へと導く。

 

 

 それが僕の人生。

 それが僕の役目。

 その為だけに僕は生きてきた。

 その為だけに今も生きている。

 

 

 

 ■

 

 

 

 アルファは書いていた書類から手を止め、ロアの方に広がる空を見上げた。

 

 

「これは……何?」

 

 

 空に膨大な魔力が集い、あっという間にその魔力は空を覆い隠す。

 色とりどりの光が渦巻き、少し不気味にだけど不思議と綺麗に空を彩る。

 

 

 流石にこんな規模じゃなかったけど、似たような光は

 見た事がある。

 シドが見せてくれた召喚魔術の光に近い。

 でも完全に別物。

 

 

 彼が使ったような繊細な魔力操作によって行われる召喚等ではなく、これは魔力量にものを言わせる暴力的な魔術。

 こんな魔術を使えば、それはもう間違いなく甚大な被害が出る筈だ。

 

 

 とてもじゃないけどロアだけの犠牲で済むようには思えない。

 少なく見積もってフィットア領半壊。

 召喚されるものによってはこのアスラ王国そのものが滅びる可能性も十分にある。

 

 

 急がなければ。

 彼に何とかして貰わなければ。

 

 

 窓から飛び降り、すぐに畑を目指すと、彼も私と同じように空を見上げていた。

 

 

「馬鹿な……、早過ぎる……」

 

 

 早過ぎる? 

 まさか、シドはこの展開を予測していたとでも言うのだろうか? 

 いや、違う。

 

 

 この言い方は……、

 予測したんじゃなく、知っていた? 

 

 

「シド! あれは何!?」

「あれは……、そう。

 言わば世界の鍵だ」

「世界の、鍵?」

「…………そうだ」

 

 

 世界の鍵とは何か? 

 そう聞こうとした時に彼は私が知りたかったその先を答えた。

 

 

「くくくっ……、ヒトガミよ。

 ようやく貴様に礼ができそうだ」

「っ!? ……そういう事ね」

 

 

 ヒトガミ。

 それは私達シャドウガーデンの敵。

 無の世界からこちらの世界へと一方的に干渉し、人の人生を弄ぶ邪神。

 

 

 だけど、彼がなぜヒトガミを恨んでいるのかについては誰も知らなかった。

 私も、ベータも、他の七陰の誰もが彼に聞くことを躊躇してきた。

 

 

 その答えがこれなのだろう。

 

 

「ああ……、影の叡智が僕に囁く……」

 

 

 今その理由を確信した。

 彼は、シドは……。

()()()だ。

 

 

 彼の言っている影の叡智とは前世の記憶。

 彼がこれまで未来予知に等しい行動を取っていた謎もこれで解き明かされた。

 ラプラスの因子を持っていないのに莫大な魔力を持っている理由も、時折彼が見せるその虚しそうな顔も、全て。

 

 

「さあ、開闢(はじまり)終焉(おわり)を始めようか」

「シド、あなたは……」

 

 

 何度もこの時間を繰り返しているのね。

 そう言おうとした時、(そら)が唸った。

 

 

 ■

 

 

 余波に巻き込まれないように念の為、僕も全力で結界を展開すると、待ち望んでいたその召喚が遂に起こった。

 白い光が空を照らし、その一点に集った莫大な魔力が爆発する。

 

 

 超新星爆発、まるでスーパーノヴァのようなエフェクトと共に魔力が弾ける。

 

 

 さあ、何が召喚される? 

 

 

 絶対に見逃す訳にはいかない。

 次に来るであろう眩い光に耐えるため僕は眼に魔力を込めて、視力を限界まで強化する。

 神話の始まり、プロローグの終焉。

 

 

 長い間、待たせたね。

 僕の物語はここから始まる。

 

 

 一瞬でシャドウモードへと変身し、

 僕はカッコよく仮面に手を当て、

 そしてコートをはためかせ、そして召喚のタイミングで次の台詞を解き放つ。

 

 

「さあ、開闢(はじまり)終焉(おわり)を始めようか」

「シド、あなたは……」

 

 

 アルファが何か言おうとした時。

 白く染った空から一つの光が舞い降りた。

 

 

 いや、墜ちた。

 莫大な魔力。

 その召喚に使われた魔力のほんの一端。

 

 

 しかし、それは僕の総魔力量の倍に匹敵する途方もしれない莫大な魔力。

 

 

 __________ヤバい。

 

 

 ヤバいヤバいヤバい! 

 

 

 即座に僕は腕輪、どんな魔術でも一日一度だけ掻き消すことのできるファントム・イレイザーを起動するが残念ながらこれはただの余波。

 単なる溢れた魔力。

 消す事なんて叶わない。

 

 

 すぐ諦めて展開していた結界を強化する。

 全力で、天体規模の現象も無傷で防ぐような魔力を練り込む。

 

 

 草木が……、消える。

 

 

 あれ、死ぬ? 

 いやだ、死にたくない。

 

 

 森が、消える。

 

 

 ようやく願いが叶うんだ。

 こんな所で……、

 

 

 畑が……、

 村が……、

 消える。

 

 

 死んで、たまるかあああああッ! 

 

 

「ぐあアぁア"あぁあアァッ!!?」

 

 

 血管が切れ、目や鼻から血が垂れる。

 視界が、白く染まる。

 

 

「うぐっ……、あ」

 

 

 でも、耐えた。

 9割以上の魔力を一気に失った事で、少しクラクラするけど。

 何とか生き延びる事ができた。

 

 

「…………アルファ?」

 

 

 彼女の方を振り向いて、

 僕は気が付いた。

 

 

 僕がギリギリ耐えれるものを、アルファが耐えれるといつから錯覚していた? 

 そう言わんばかりに、僕の目の前には残酷な光景が広がっていた。

 

 

「あ、あれ?」

 

 

 草一つない平らな地面。

 どこまでも広がる地平線。

 アルファだけじゃなくて何も、

 何もかもが見当たらなかった。

 

 

 そうだ。

 僕が作ったのは1人分の結界。

 彼女の結界は用意してないし、できてない。

 それに魔力が全く足らなかっただろう。

 

 

 だから、生き残れた事を喜ぶべきだ。

 陰の実力者としてやっていける事を、今は素直に喜ぶべきだ。

 

 

 両親が死んだ? 

 これはいい。

 

 

 村の人が死んだ? 

 これもいい。

 

 

 フィットア領の大勢の人が死んだ? 

 どうでもいい。

 

 

 でも、アルファが。

 シャドウガーデンのみんなが……

 

 

 ……死んだ? 

 

 

「あはは……」

 

 

 そう考えると、さすがの僕もかわいた笑い声しか出てこない。

 

 

 

 

 

 その日、僕は全てを失った。

 シャドウとして積み上げてきた何もかもを。

 貯め込んだ財宝も。

 多種多様なマジックアイテムも。

 魔道具も、家も。

 

 

 その一瞬で僕はありとあらゆるものを失った。

 残ったものは、

 常に持ち歩いている金貨が100枚、

 魔力で修復されるこのコートと、

 認識阻害の付いたマジックアイテムの仮面。

 役に立たなかった腕輪が一つ。

 

 

 それを残して全てが消えた。

 陰の実力者になれるかもしれない? 

 でも今は、この瞬間だけは喜べなかった。

 

 

 フィットア領は消滅した。

 僕が作った基地も、

 シャドウガーデンも、

 アルファも、

 ベータも、

 ガンマも、

 デルタも、

 イプシロンも、

 ゼータも、

 イータも、

 

 

 フィットア領にあった全てが消えた。

 

 

 

 普通、生きていけばどんどん大切なものというものは増えていくものだ。

 でも僕は逆に削って、切って、削ぎ落としていったとおもうし、そうしたつもりだ。

 

 

 これも、あれも、それもいらないって。

 

 

 どんどんいろんなものを捨てていった。

 で、最後には絶対にこれだけは捨てられないってものだけが残ったんだ。

 僕はそのほんの僅かな、陰の実力者のためだけに生きている。

 

 

 だからそれ以外どうでもいい。

 でも感情はどうしても捨てられないから、

 その全てをどうでもいい好きな物と、どうでもいい嫌いなものに分類するだけ。

 

 

 そうやって生きてきたつもりだった。

 でも、

 

 

 でもそれって、

 

 

ねぇ、アルファはどっち? 

 

 

 そう考えて、

 僕は初めて自分が嫌になった。

 

 

「くだらないなぁ……、

 ガキかよ、僕は」

 

 

 理想しか見てなかった。

 夢しか見てなかった。

 

 

 現実が、リアルが。

 全く、これっぽっちも、

 

 

「まるで見えてないじゃんか……。

 これのどこが陰の実力者だよ……」

 

 

 ありがとう。

 …………そして、ごめん。

 

 

 アルファが居ないと気が付けなかった。

 アルファが居たからこそ目が覚めた。

 

 

「…………行くか」

 

 

 仇を打ちに、

 敵を殺しに。

 

 

 僕はロアを目指した。

 魔神? 

 邪神? 

 陰の実力者? 

 

 

 _______知ったことか。

 

 







ココカル様、湯気1324様、
高評価ありがとうございます。


https://twitter.com/Kotobuki_Amane?s=09

作者Twitter


これにて第一章、長かったプロローグが終了となります。
次回は言わなくてもね?


二章について

  • アトミックがみたい。
  • シド(全ギレ)がみたい。
  • 社長との戦いに期待。
  • その他(感想、Twitter等)
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