僕が全力でロアまで走ると、そこには一人の人族の少女が居た。
制服を着た長い黒髪の少女。
どこからどう見ても女子高生。
それも日本人だろう。
まるで何が何だか分からない。
そう言った感じでウロウロとしている。
召喚主が誰かは分からないが、召喚の余波で吹き飛んだと見るべきか?
まあいい。
こいつが召喚されたからフィットア領は消滅したという事には間違いないはずだ。
「……」
『あ、あの』
僕が歩いていくと、彼女は僕に気が付いたようで声を掛けてくる。
どうやらチート持ちの転移者とかそういう感じでは無さそうだ。
言葉も日本語のまま。
虫程の魔力も無い。
ただの人間だ。
期待した僕が悪かった。
彼女は魔神でもなければ、勇者でもない。
何の変哲もない女子高生。
本当に、
くだらない。
『その、ここがどこか分かりますか?
あ、その……私、気が付いたらここにいて』
「こんな奴の為に、みんなが消えたのか……」
誰になんで召喚されたのかなんて知らない。
彼女が何をしたいのかなんて知らない。
『えと、通じない?
やっぱり日本じゃないの?』
彼女がこれまで何をして、
どう生きて、
何を為すのか。
そんなものにも興味はない。
復讐は何も生まない。
無意味な行為だなんていう奴もいる。
「だけど……、僕の為に」
土魔術を起動し、
剣を作り、
そして、彼女の首を。
__________刎ねる。
だけど剣を振るった瞬間、彼女の頭ではなく僕が飛び宙を舞った。
まるで漫画やアニメみたいにキリモミ回転をしながら吹き飛んだ。
「グッ!?」
風魔術で体勢を立て直し、
何があったのかを確認する。
殺意で水域が疎かになっていて気が付けなかったが、そこには一人の男がいた。
銀髪、黄金色の瞳。
酷い三白眼の男。
彼は特に防具を付けてはいないが、僕の眼は誤魔化せない。
その身にまとっている白いコートは僕が着ているコートと同種のもの、金貨数万枚でも買えない非常に高価なマジックアイテム。
それだけじゃない。
一番は彼が身に付けている剣。
多重に封印が施されているが、僕の腕輪を超えるありえないほどに希少な逸品だということが手に取るように分かる。
身にまとっている魔力も膨大。
僕と同格、いやそれ以上か?
…………もしやこいつが召喚主か?
「貴様、何者だ?」
睨み合っていると、根負けしたのか向こうから先に口を開いた。
何者、か。
シドと応えるべきか。
前世の名の影野ミノル、と応えるべきか。
いや、違う。
「我が名はシャドウ、
そいつを葬りに来た者だ」
「何? 貴様が召喚主ではないのか?」
この質問をするという事はこの男も違うか。
まさか本当にただの天災だとでも言うのか?
「当たり前だ。
僕はこんな不出来な召喚魔術は使わない」
「……シャドウ、記憶に無いな」
「こちらもだ。
お前にあったという記憶は無い」
何だろうか?
でもこの男は何かを知っている。
そういう気がする。
「ふむ、親の名は?」
「生憎と親には興味が無くてね。
僕は僕で、お前はお前。
そこに両親は関係ない」
「なるほど、確かにそうだ。
…………ん?」
僕がそう語った時、その男はもう一歩こちらに踏み込んで来た。
それに応じて、僕は一歩後ろに下がる。
男の態度は極めてフレンドリーだし、声色も地声が少し怖いが普通なのだろう。
が、こいつは意味不明な技で僕を吹っ飛ばしたという前科がある。
間合いに入れるわけには行かない。
「すまん、攻撃する意図はない。
先程のはこの少女を守る為だ」
「どうだか? 僕は初対面の相手を信用するなんてことはなくてね」
「つまり、恐怖は覚えていないのか?」
「恐怖?」
「…………ん? おかしい。
あれか? いや……違う。
お前のような奴と会った記憶は無い」
僕がそういうと、男は何かを考え始めた。
目をつぶって腕を組み、しきりに何かを考えているようだ。
僕とこいつは初対面。
だから会ったことなんて無いはず。
それに今の僕は仮面を付けている。
素の状態であっていたとしても気が付かれる事は無いと言っていいだろう。
「あ、いや……。
もしかしてお前、この言葉に聞き覚えがあるんじゃないか?」
「なんだ?」
「ヒトガミ」
「…………」
どう答えるべきか?
まさかその言葉が出てくるとは思わなかった。
それはアルファ達が考えた設定。
僕と一緒に考えた設定。
その筈だ。
偶然その単語だった?
たまたま同じ発音をした?
違う。
こいつが知っているのは。
「
お前は今、ヒトガミと言ったのか?」
「ああ、その様子だと知っているのか?」
恐らくアルファの知り合いじゃあない。
シャドウガーデンのメンバーでもない。
水神にもその名前は伝えてない。
だったら。
こいつ。
本物のヒトガミの使徒なんじゃないか?
昔からどこかすれ違っていると思っていた。
アルファ達はまるでヒトガミが実在するかのように振る舞い、僕のように演じているようには思えなかった。
ちょっと前までならみんな演技が上手いで済ませていた話なのかもしれない。
でも違う。
そうじゃない。
なんだ。
簡単な事じゃないか。
とても、とても簡単な話。
非常に単純な事だった。
ヒトガミは実在し、アルファ達はそれを知っていたのだろう。
そして僕の作った設定を改変したり、勝手に新しい設定を追加したりしていたのはアルファ達が陰の実力者に憧れていたわけじゃない。
彼女達は。
僕以外のシャドウガーデンのみんなは、間違いなく知っていたんだ。
そして、僕だけが作り話だと思っていた。
僕だけが遊んでいると思っていた。
彼女達は必死に生きていて、
ヒトガミを恨み、
ヒトガミを本気で殺そうとしていたのだろう。
アルファの言っていたヒトガミの使徒。
ヒトガミの助言に従い、
奴の有利になるように世界を掻き回す者。
アルファ達はもう居ない。
シャドウガーデンは消えてしまった。
でも、シャドウは居る。
僕だ。
彼女達が信じて、
彼女達が目標にして、
彼女達のトップに立っていたシャドウは間違いなくここにいる。
たとえ嘘から出た
ならば、ならばせめて、
シャドウガーデンの意思は僕が継ごう。
それがどれだけ困難な道程だとしても。
たとえどれだけ苦労するとしても。
アルファが、
ベータが、
ガンマが、
デルタが、
イプシロンが、
ゼータが、
イータが、
七陰全員、いやシャドウガーデン全員がそれを望むのならば。
僕がシャドウとして、その役目を継ごう。
陰の実力者に憧れていた。
でも僕はこれまで遊んでいるだけだった。
ごっこ遊びのようなもの。
それを少しだけ本格的にしただけ。
そんなものに彼女達を付き合わせてきた。
この世界でしっかりと生きる彼女達を。
でも、違う。
これからはそうじゃない。
僕が、僕がヒトガミを殺す。
ヒトガミの使徒を全て殺し、
ヒトガミ本人も殺す。
でも少し不思議な感じだな。
彼女達の夢、悲願。
それがこんなにも僕の理想に近かったなんて思いもしていなかった。
まるで本物の陰の実力者みたいじゃないか。
ここからはもう遊びじゃない。
陰に潜み、陰を狩る。
世界の誰にも知られずとも、
僕は神を、ヒトガミを殺そう。
まずは手始めに目の前の男だ。
ヒトガミの使徒の中で、初めて戦う相手。
アルファ達が戦って来たのよりも、もっとずっと強い相手だと思う。
それにこちらは魔力をかなり消耗しているのにも関わらず、向こうは完全な状態。
でも、どれだけ苦戦しようとも殺す。
初陣だ。
「そうか……、お前は、
ヒトガミの使徒なのか」
「何?」
僕が、陰の実力者になるために。
彼女達の弔いの為に、
誰だか知らないが、お前は死ね。
第二章の始まりです。
少し不安定なシド君を上手く書けてるか心配ですが、感想など頂けると喜びます。
P.S.ナナホシは生き残りました。
yamadakoutarou様、
友瀬夕様、
タカシちゃんちゃん様、
ポイジ様、
赤ダルマ様、
箱庭の観測者様、
ココカル様、
高評価ありがとうございます!
jorgeotex1234様。
最高評価、誠にありがとうございます!
これからも頑張っていきます!
https://twitter.com/Kotobuki_Amane?s=09
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二章について
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アトミックがみたい。
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シド(全ギレ)がみたい。
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社長との戦いに期待。
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その他(感想、Twitter等)