「そうか……、お前は、
ヒトガミの使徒なのか」
「何?」
僕は剣をもう一本作る。
これで魔力でガチガチに固めた剣がニ本。
それをだらりと力を抜いて構える。
「ならば、死ね」
僕は全力で突撃する。
早く、速く、
極限までパワーを込めて。
「むッ!」
相手は水神流の構えを取るが、遅い。
それに僕の剣は水神流の技では流せない。
もう水神のレイダにすら流せないのだから。
「奥義、無影双光」
地面に影すら出来ない速さ。
加速もなく、
その剣は最初から最高速。
そんな極限まで研ぎ澄まされた剣撃。
光の速さに至る剣。
地面に一瞬の影ができることも無い剣。
そんな剣撃が二発同時に襲う。
たとえ受け流せても片方だけだ。
「は?」
でも、そんな僕の一撃は1センチ程を切っただけに終わった。
硬い。
いや、もはやそう言う次元じゃない。
人を切った感覚じゃあない。
鋼を切った感覚でもない。
もっともっとずっと硬い。
「ッ!?」
それを見て男は眼を見開くが、
眼を見開きたいのはこっちだ。
僕のシャドウアーマーよりも強い何らかの防御法を使っているとしか思えない。
一体どうやって?
さらに濃く水域を展開し、それに加えて眼に魔力を込めて相手を観察する。
「まさかこんな場所にこれ程の剣士がいるとは思いもしていなかったぞ。
今ならその技量に免じて俺に傷をつけた事を見逃してやるが、どうする?」
「……闘気を超高速で回転させているのか」
「む?」
僕の剣を防いだのも理解できる。
ここまで高速に闘気を回せば、大抵のものは弾き飛ばせる筈だ。
もしかしたら核を撃ち込んでも火傷くらいで済んでしまう可能性もある。
化け物。
まるで化け物だな。
どうやったらここまで精密に闘気を操作できるのだろうか?
長年に渡り修行を詰んできた僕にも、絶対に真似できないような絶技。
この男、それを呼吸するかのように行っているというまさに信じられない技量を持っている。
だが、もう理解した。
「見逃す?
何を言っている?
お前の墓場は、ここだ」
「……そうか、ならば死ね」
向こうもその気になったのか、治癒魔術で傷を癒してから僕の方へと突っ込んだ。
硬い奴を潰す方法はいくらかある。
それを試すだけ。
「剣は抜かないのか?
慢心もいい所だな」
繰り出されるは手刀。
物凄く速い、闘気のこもった手刀。
手刀のくせに並の剣士が放つ光の太刀よりも何倍も威力があるが、それだけ。
最初の時と完全に真逆。
今度吹き飛んだのはこの男の方だ。
相手の力を利用して投げる技はこの世界にも、地球にも山のようにある。
それを利用して上に飛ばす。
「硬い奴の倒し方、その一。
ピンポイントで突く」
面の攻撃よりも線、
線の攻撃よりも点。
ならば僕は一点に闘気を込めて貫く。
「ふんっ!」
「……当然避けるか」
だが、男は空気を弾くような独特な不思議な技で、くるっと体を捻り僕の剣を
まるで曲芸みたいな避け方だ。
だけど、避けたと言うことはこの方法でダメージが通るみたいだ。
これはいい情報だ。
「……今のは水神流の技か?」
「知らんな」
会話で戦闘を長引かせようとしているのか、技の事を聞いてきたが、僕は適当に答えて男に斬り掛かる。
その剣撃を不思議なステップで躱そうとするが、僕の剣を避けきれずにどんどん傷が増えていく。
そして、僕はその歩法を理解する。
闘気を使って地面を滑っているのだ。
こうすることでそのぬるりとした立ち回りを一瞬で真似することができる。
こいつが纏っている闘気と違って別にそこまで難しい技ではない。
「なるほど……こうか」
使ってみるとその有用性がよく分かる。
歩く歩数と移動する距離をいくらでも調整する事ができるので、相手の認識を誤魔化すことができるだろう。
なかなか攻撃が当たらなかった理由は間違いなくこの歩法にある。
「くっ!」
斬る。
突く、避けられる。
斬る、斬る。
突く、避けられる。
奥義を使わない限り斬撃では微かなダメージしか入らないが、それでも相手の体勢は崩せるし追い込める。
完全に崩れた避けられないところで突きを放てば確実に仕留めれる。
初手で剣を抜かなかったのが悪い。
僕を舐めてかかったのが悪い。
戦力を見抜けなかった目が悪い。
タイミングを見計らって剣を抜こうとしているのはよく分かる。
だからそんな時間は与えないし、
作らせる気は無い。
お前のターンは来ない。
一方的にやられて死ね。
「遅い」
技量では互角。
フィジカルでは向こうが上。
コンディションでも向こう。
武器の差でも向こうが上。
だけど初手で本気を出さなかった時点で、この男に勝機はない。
「軽い」
あとはその事実を突き付ける。
どんどんどんどん追い込んでいく。
ただ最善手を打つ。
それだけで殺せる。
体術で、
魔術で、
何とか反撃をしようとするが、
その全てを僕は水域で見切る。
「無駄だ」
通常時で半径1.6キロ。
その全てを収束させ、この男の何もかもを事前に察知する。
だから何をしようとも事前に手を打てる。
この世界には予知眼という未来を見るなんて魔眼があるらしいが、僕のこれはその予知眼を遥かに凌駕する先読み性能を誇る。
予知眼は多数の選択肢が生じた時にブレるらしいが、これはそんなノイズは存在しない。
レイダも、他の水神流の人も。
この水域の本当の恐ろしさを知らない。
これは何よりも凶悪な技。
本来の使い方はきっとこうだ。
水域とはよく言ったもの。
本当にこの技は水のよう。
重いものは水に沈む。
沈む。
とにかく沈む。
ただ水の中に沈む。
藻掻いても、
足掻いても、
苦しんでも、
水面には、浮かべない。
呼吸ができずに息が詰まる。
そんな感じに死が迫る。
「_____ッ!?」
「……ようやく気が付いたか」
男は僕が何をしているのかに気が付く。
全てが事前に対処される理由に気付いた。
だがその気付きは遅すぎる。
半分以上沈んでしまってはもう無理だ。
僕には喋る余裕すらある。
それなのにこいつには、とっくの昔にもうそんな余裕はなくなっている。
「グッ!」
ここに来て男がもがき始める。
必死になって腕を振るう。
が、その全てを流して逸らす。
慌てる必要は無い。
一秒に数十万、数百万とある手数。
読み合いと駆け引きはそれだけある。
だがその手数全てこちらは単純な最善手を打つだけでいいのだ。
考える事など必要ない。
対して向こうは選ばなければならない。
その選択は時間を奪う。
思考は手数を奪う。
その思考に使った時間が隙を作り、
その度にほんの微かに体勢が崩れる。
そのミスが一秒に二十数回ほど。
何とか距離を取ろうとしても無駄。
距離なんて取らせない。
仕切り直しはできない。
反撃しようとも無駄。
全てを的確に対応すればいい。
そうすればその分だけこいつは不利になる。
避けるか、防ぐか、流すか。
この3つ。
この三択を延々と繰り返し続ける。
そしてその全てで正解すればいい。
いや、僕もミスをする事を考えれば100万手で1回くらいのミスは許されるがせいぜいそのくらい。
それを戦闘を行いながら繰り返し続けるのだから、当然ミスはそれよりも遥かに多い。
むしろ1秒に20手と少ししかミスをしないこの男は異常だと言っていい。
圧倒的な強さを持っていると言える。
それだけの技量を持っていると言える。
そして、ミスをしたとしても最も少ない損失で終わるように調整がされている。
大きなミスが絶対に起こらないように。
けど、どんな小さなミスだとしても積み重なると当然大きくなる。
10秒、20秒、40秒、80秒。
時間の経つ度に不利になる。
僕が男を完全に崩すまでに掛かった時間は何と驚きの20分、1200秒間だ。
ああ、君は強かったよ。
でも慢心していた。
心が弱かった。
「ヒトガミに言え。
僕が貴様を殺すとな」
最後に告げて、僕は残りのほぼ全ての魔力を込めて次の一撃を繰り出す準備をする。
頭部を一撃で破壊する。
そうすれば神級の治癒魔術が使えても死ぬ。
「さあ、人生最後に刮目せよ!」
一度体勢が崩れてしまえば建て直す事などよっぽどの実力差がなければ不可能。
当然僕とこいつとの間にはそんな実力差は無い。
「アイ……」
魔力を練る。
一点に込める。
確実に男を殺せるように、
精密に、緻密に。
「アム……」
極限まで圧縮された魔力が、
今ここに嵐となって、解き放たれる。
核をも超える究極奥義。
死ね。
「アトミッ!?」
満を持して放とうとした大技。
しかし発動の瞬間、
ほんの小さな狂いが生じる。
小さな小さな衝撃が背中に走ったからだ。
それは全身全霊の、
魂の込められたタックルだった。
あむむ様、
第777代北斗神拳伝承者様、
高評価ありがとうございます!
大変励みになります。
P.S.奥義の名前は水神が考えたようです。
https://twitter.com/Kotobuki_Amane?s=09
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