陰の実力者になるために!   作:琴吹天音

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完成された剣。

 

 

 

「少女よ、感謝する!」

 

 

 一瞬。

 ほんの一瞬。

 

 

 僕にダメージは皆無。

 むしろ向こうがダメージを負ったくらいだ。

 

 

 その女子高生はまるで、大型のトラックか何かにぶつかったかのように吹き飛ぶ。

 本来なら今ので殺せていたが、彼女は完全に意識の外だった。

 残念ながらまだ息がある。

 

 

 そして、彼女の作った一瞬はこの戦いにおいては大きな隙となる。

 剣を抜くには十分な時間だ。

 

 

 剣、いや刀か? 

 その中間のような剣。 

 男は彼女が使った隙でその剣を引き抜いた。

 

 

 空気が、変わる。

 魔力が(ほとばし)る。

 

 

 ピリピリと言うよりも、もはやバリバリ。

 空間そのものが軋んでいく。

 世界が歪む。

 

 

 __________強い。

 

 

 悪寒を感じる。

 寒気、まるでここが一瞬にして死地に変わったかのような絶望の味。

 そんなものが僕を貫いた。

 

 

「ガルルラァおァオああァッッッ!!」

 

 

 刹那、男が叫んだ。

 否、咆哮をあげた。

 

 

 たったそれだけで僕の水域が消し飛ぶ。

 

 

 声を使った魔術。

 獣族にのみ使える吠魔術。

 その何億倍にも研ぎ澄まされた究極系。

 

 

 身体が麻痺しないように魔力で肉体を強引に強化するが、そんな時間はない。

 

 

 その瞬間にキラリと一閃。

 もはや眼には移らない斬撃。

 咄嗟に身体を吹き飛ばす事で避けるが、すぐに追撃がやってくる。

 

 

 それに合わせて剣を振るう。

 でも、その上からねじ伏せられる。

 

 

「ッ!?」

 

 

 そして、僕が魔力を込めて作った剣がたった一撃にして粉砕された。

 速い、強い、そして何よりも上手い。

 

 

 バク転しながら次に来る斬撃を避け、

 顎を蹴り上げつつ、残った剣を投擲する。

 そして同時に剣の生成を開始する。

 

 

 当然、男はその一撃を綺麗に避ける。

 予定調和と言わんばかりだが、そこで一瞬だけ時間ができる。

 その間に剣を作れば立て直せる。

 

 

乱魔(ディスタブ・マジック)!」

「なっ!?」

 

 

 だが、僕が作ろうとした魔術は不思議な魔力で掻き消される。

 この魔力には覚えがある。

 僕も使える魔術の一つだからだ。

 

 

 だからこそその規格外さがよく分かる。

 

 

 こいつ、王級の結界魔術を、

 封魔結界ディスペルフィールドを魔法陣無しで使いやがった。

 

 

 これをされるならば僕は常にそれを前提として魔術を行使する必要がある。

 残りの魔力は約2%、奥義の不発でかなりの魔力をロスする事になった。

 

 

 なのにも関わらず、最高率な魔術を捨てさせられるのは非常に痛い。

 魔力の乱れを前提として使うなら、通常の倍の魔力は覚悟する必要がある。

 

 

 戦いに使える剣は作れてあと十三本。

 魔術を使うとなれば六本が限度。

 

 

「ぐぅ!」

「剣神流奥義、光の太刀!」

 

 

 だが、当然相手の手は止まらない。

 剣を作り、水神流の技で光の太刀を流す。

 ほんの少し間に合わず髪の毛が一部切れる。

 

 

「ほう、乱魔(ディスタブ・マジック)を無効化したか」

 

 

 ……あともう少しロスがあれば死んでいた。

 

 

「奥義、無影双光」

「その技は既に見たッ!」

 

 

 もう一本を作り出し、

 流れるように奥義を放つが弾かれる。

 読まれていた。

 いや、想定されていた。

 

 

 どうやら僕が取れるあらゆる選択肢を考慮しつつ僕の選択肢を削っているらしい。

 自分の選択肢を増やしつつ相手の手を奪う。

 

 

 僕がやったのとは少し違うが、それはもう似たようなものだ。

 手数を奪っても、選択肢を奪っても待っている結果だけは一緒なのだから。

 

 

 …………負ける? 

 

 

 僕も、そしてこの男も、もう既に答えが分かっている筈だ。

 あの少女が倒れている以上、さっきのようなイレギュラーはもう起こらない。

 周りにもう誰もいない事は確認済み。

 

 

「ふん!」

「……っち」

 

 

 剣が、折れる。

 どれだけ硬く作っても無駄だ。

 即興でこの戦闘に耐えうる剣、折れない剣を作り出す事なんて不可能だ。

 

 

「剥奪剣!」

「効かんな」

 

 

 どんな剣でも威力が足らない。

 有効な武器にはなりえない。

 この男を一撃で殺すには、僕の奥義アイ・アム・アトミックが必要だろう。

 だけどそのアトミックは撃てない。

 

 

 残り、十本分。

 

 

 その魔力が尽きた瞬間が僕の負け。

 そしてその敗北が僕の終わり。

 人生の最後。

 

 

 ヒトガミの使徒が僕を生かしはしないだろう。

 僕がヒトガミの使徒だったならば、こんな奴は徹底的に殺すはずだから。

 それで終焉。

 この人生の終わりだ。

 

 

 魔術を使い、距離を取ろうとする。

 

 

「無駄だ」

 

 

 一瞬でレジストされ、距離を詰められる。

 

 

 九。

 

 

 ああ、好き放題した人生だったよ。

 僕一人で空回っててさ。

 でもあの日々は嘘じゃなかった。

 

 

 七陰のみんなと、シャドウガーデンのみんなと過ごした日々が偽物であってたまるか。

 それだけは。

 それだけは本物だ。

 

 

 新たな剣を作り、攻撃を流す。

 すると剣が標的へと変わる。

 武器破壊を前提とした攻撃へと。

 

 

 八。

 

 

 イータ。

 君はどこまでも研究熱心で、

 ヒトガミの事を人一倍恨んでいた。

 

 

 そんな彼女が今の僕を見たらなんて言うかな? 

「あははっ」ってさ、いつも通りに笑ってくれるのだろうか? 

 いつも適当な事ばっかり言ってごめん。

 

 

 猿真似でさっきの吠魔術を使う。

 乱魔(ディスタブ・マジック)の亜種みたいな技で一気に音が乱される。

 

 

 七。

 

 

 ゼータ。

 僕の剣をずっと作りたがってたよね。

 ごめん、君の言う通りだった。

 

 

 強い剣は持っていて損は無いし、

 切り札という形でいくらでも使い用がある。

 それなのに、要らないなんて言ってごめん。

 

 

 体術主体の省エネに切り替えるが、

 目の前の男がやっていたようにはいかず、

 回避のために魔術を使ってしまう。

 

 

 六。

 

 

 イプシロン。

 君は僕と一緒で魔術が好きだったね。

 共に研鑽して、一緒に魔力効率について語り合ったりよくしたよね。

 

 

 そういえば一緒にオリジナルの魔術を作ろうって約束してたっけ? 

 ごめん、守れなかったよ。

 

 

 ダメ元で男の使っている闘気を再現する。

 土壇場で再現に成功するが、それでも練度は雲泥の差、僕の防御力が微かに上がった程度に終わる。

 ダメージを受けきれず咄嗟に剣を生成する。

 

 

 五。

 

 

 デルタ。

 脳筋で、バカで、アホで。

 なんというか頭の悪い君。

 でもどんなことでも常に一生懸命頑張れる君が僕は好きだった。

 

 

 君といる時はシャドウとしてじゃなく、シドとしている時が多かったのもどう演じればいいか分からなかったからだ。

 君には色々と言いたいことはいっぱいあるし、色々と弄ってきたけど別に嫌ってた訳じゃないんだよ。

 

 

 デルタは自分にできる範囲でしっかりと考えていたのはよく知ってるよ。

 どこまでも仲間思いで、どこまでも優しかった君をずっとバカにしてきてごめん。

 

 

 四。

 

 

 ガンマ。

 君は僕の事を賢いと思っているけど、実はそうじゃないんだ。

 前世で聞きかじった知識をそのまま言っているだけだったんだよ。

 

 

 陰の叡智なんてものは無いし、

 僕は君よりもずっと単純な馬鹿だ。

 何も考えてないのを隠しててごめん。

 

 

 三。

 

 

 ベータ。

 とにかくなんでも人並みにはできる君に無茶振りをよくしたっけ? 

 前世で見たものを教えて、

 聞きかじった知識だけ教えてやってみろなんてさ、よく考えたら無理だよね。

 今まで本当にごめん。

 

 

 二。

 

 

 アルファ。

 なんというかその。

 僕は君がいたからここまで来られた。

 だから、ありがとう。

 

 

 一。

 

 

 ごめん。

 君たちの期待に答えられなくて。

 ずっとカッコつけてて。

 

 

 僕だけがずっと子供のままだった。

 僕だけが何一つ成長してなかった。

 前世の17、この世界で13。

 合計三十年。

 君たちの誰よりも長く生きてたのにさ。

 僕が一番子供だったよ。

 

 

 剣が、剣が振り下ろされる。

 全ての防御手段を失い、

 魔力も無くなった僕に。

 

 

 これで死ぬ。

 この一刀で死ぬ。

 

 

 ……後悔ばっかりだ。

 陰の実力者にもなれなかった。

 ヒトガミの使徒1人さえ殺せなかった。

 

 

 でもこの人生、

 今まで生きてきて楽しかったよ。

 

 

 みんなでバカやってさ。

 背伸びしてカッコつけてさ。

 

 

 走馬灯のように時間の流れが遅くなり、一気に記憶がフラッシュバックする。

 長い、長い、人生の記録。

 魔力に巡り会えて、幸せだった僕の一生。

 

 

 そして、そんな人生の最後を綺麗に〆るかのように剣が振るわれる。

 

 

 速く、鋭く、美しい完成された剣。

 

 

 それは天才の剣じゃなくて、

 一歩ずつ歩んできた凡人の剣。

 

 

 僕が目指して、僕が辿り着きたかった剣。

 その、究極系。

 

 

 努力が報われるって、

 この世界は…………良いなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 振るわれたその剣は、

 静かに僕の意識を刈りとった。

 

 

 

 








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