「はぁ……」
あれからそろそろ1ヶ月程になるだろうか?
僕はあの盗賊が使っていた廃村の家の中で静かにため息を吐いた。
どうしてこうなったのだろう。
魔石病の彼女を使った実験は途中までとても順調だった。
自分の身体じゃないから好き勝手できるぜ、と魔力をガンガン流し込み、ああでもないこうでもないと、実験に心躍らせる日々。
一言で言うと楽しかった。
魔力の神髄に近づき、己の実力が目に見えて高まっていくのを実感することは、僕にとって何よりの喜びだった。
また一つ、また一つと新たな困難を切り開き、己の技量が高まり、自分が望む陰の実力者に近付いて行くのだからそれはもう幸せな日々だった。
その事に夢中になっていると、いつの間にか彼女の魔石病は完治していたようで、僕の目の前には何一つおかしな所のない金髪エルフの少女がペタンと座っていたのだ。
「嘘……本当に元に戻った!?」
そうやって驚いている彼女に、君はもう自由だから故郷に帰りなって感じで、君の未来に幸あれってノリでさわやかに送り出そうとしたのに、何故か彼女はもう故郷に帰れない、助けて貰った恩は返すとか言い出していつまでもこの廃村に居座っている。
いや助けてない、ただの偶然の産物だから。
面倒だしいっその事逃げるかとも考えたけど、結局、彼女には陰の実力者の配下Aをやってもらうことにした。
裏切りそうにないし、頭良さそうだし、なんか無駄に有能そうな雰囲気があるし。
歳は僕と同じ10歳らしいのに、エルフの精神が早熟ってのは嘘じゃないみたいだ。
「……よし……決めた。今日から君の名は『アルファ』だ。
君には僕の配下となって共に働いて貰う」
A、α、どっちでもいいのだがカッコイイのでここはアルファとしておく。
陰の実力者の初めての配下がAとかかっこ悪い……笑える。
「わかったわ」
彼女はこくりと頷いた。
さて、仕事と言っても何にしようか?
彼女は金髪、青目、色白、美人と、よくマンガやアニメ、ラノベに出てくるような典型的エルフだ。
魔力も僕には当然及ばないながらもかなりの量があるし、鍛えればそれなりに強くなる事だろう。
「僕達の仕事は……」
僕は少し言葉を止めて考える。
ここはかなり重要だ。
彼女の仕事は陰の実力者の補佐、そこは確定でいいだろう。
ならばそもそも陰の実力者とは何なのか、陰の実力者の目的は何なのかといった、この世界で僕が目指す陰の実力者の設定の根幹に関わってくるのだ。
設定は大切だ。
世界を滅ぼそうとしている魔王が「どちらからも切れますと書かれているのに切れなかった」などという理由で世界を滅ぼそうとしていたらただのコメディーにしかならないように、この設定一つで何もかもが変わってくる。
しっかりとシリアスな雰囲気を醸し出す必要性があるのだ。
だがその点僕は抜かりない。
この世界に来る前も、この世界に来た後も、僕の考えた最高の陰の実力者を妄想し続けているのだから。
今まで考えた数千、数万パターンの陰の実力者設定を組み合わせ、僕は瞬時に最適解へと辿り着く。
あとはその言葉を彼女に伝えるだけだ。
気付かれないように微かに魔力を放ち、その場の空気を重くすると次の台詞を解き放った。
「太古の七神の最後の一柱、人神を倒す事だ」
「人神? それって確か神話の」
「そう、その人神だ。
はるか昔、この世界は人・魔・龍・獣・海・天の六つの世界とその中央の無の世界が存在していた。
だが、今は人の世界以外の世界は滅びさり、今は人の世界のみが存在しているという神話は知っているか?」
「知っているわ、でも神話の中の話でしょう?」
龍の世界に悪い龍神が誕生する。
凄まじい力を持った龍神は結界をぶち破り、
《五龍将》と呼ばれる配下を操って他の世界を滅ぼした。
滅ぼされた世界の生き残りは住む場所を追われ、
最後に残った人の世界へと逃げこんだ。
あと一つ、残りは人の世界を残すだけという所になって《五龍将》が龍神を裏切った。
《五龍将》筆頭である龍帝と四人の龍王は圧倒的な力を持つ龍神と戦った。
五対一の死闘。
結果は相打ちであった。
その戦いの余波により龍の世界は崩壊した。
そして人の世界だけが残った。
これが、この世界である。
まあ、この世界では少し物知りな人なら知っているというくらいのメジャーな神話だ。
最悪の場合1から伝える事になったが、知っているのならば話は早い、あとはこの神話を少しだけ改変してそれっぽく伝えるだけでいい。
「知っている人はもう殆どいないが、これは実際にあった話でね。
もっとも、事実は物語よりもずっと複雑なんだが……」
僕はそう言って、フッと苦笑した。
僕ぐらいになるとこの世界の伝説を組み込んだ陰の実力者設定を作り上げることなど簡単な事だ。
「実は世界を滅ぼそうとしたのは龍神じゃなくてね……。
人神こそが人界以外の5つの世界の神の伴侶や要人を殺害し、互いに争わせ間接的に4つの世界を滅ぼした存在なのさ」
「人神はどうしてそんな事をしたの?」
「世界を自分の好きなように支配するためだ。
人神にとって自分と同じような強大な力をもった神々の存在は邪魔でしかなかった。
長きに渡り、自分が世界を支配するために、ね」
まあ、嘘だけど。
「人神の目的は至って単純なものだ。
自分が支配するこの世界の維持。
だから、人神は自らの存在を脅かす可能性のある存在を積極的に排除しようとする。
君のようにね」
「え……」
「君が掛かっていた病は魔石病と呼ばれるもので、本来は胎児とその母体にしか感染しない病だ。
博識な君なら知っているかもしれないが、おかしいとは思わなかったか?」
「そんな……、まさか!?」
アルファは顔を歪めて言った。
もちろん僕の考え出したただの設定なんだけど、自分の運命がそんな存在に弄ばれていたらそれはショックだろう。
「人神は基本的にこの世界に現れる事はない。
もし自分の身に何かがあったら大変だからだ。
つまり人神には手先となって動く駒のような存在がいる」
「い、一体誰が!?」
「人神には敵が多いが、人神によって恩恵をもたらされるものもいるという事だ。
そんな奴らの私利私欲の為に、君は故郷も家族も失ったのだ。
奴らが憎くはないか?」
「憎いわ。憎くない筈がないでしょう」
「『ヒトガミ教団』それが僕らの敵だ。
彼らは表舞台には決して出て来ない。
だから僕らも陰に潜むんだ。
陰に潜み、陰を狩るんだ」
「人神の代わりに世界を支配しているとなると敵は権力者……。
真実を知らずに操られている人達も沢山いるはず……」
「ああ、そうだ」
僕は鷹揚に頷いた。
「どこにいるかも分からない人神を倒すのは非常に困難な道のりだろう。
だが、僕らが成し遂げなければならない。
協力してくれるね?」
「あなたがそれを望むなら、私はこの命を懸けましょう。
そして咎人には、死の制裁を……」
アルファは青い瞳で僕を見据え、不敵に笑った。
幼くも美しいその顔は、覚悟と決意に満ちている。
僕は心の中でガッツポーズした。
おっしゃ、このエルフちょろいわ!
ジンシン教団ならまだしも、読み方が違うヒトガミ教団なんて当然存在しないから、いくら探しても見つかるはずがない。
だから適当にその辺の盗賊とかにヒトガミ教団の疑いかけて殺して、後は主人公っぽい人達の戦いに姿を隠して乱入して『この世界は崩壊の危機に……』とか『魔界大帝の復活が近い』とか思わせぶりなことを言って立ち去ったりとか、他にも戦場に颯爽と現れて『愚かな……操られし者達よ……』とか言って一掃したり、ああ……夢が広がりんぐ。
そうだ、肝心の組織の名前は……。
「我等はシャドウガーデン……陰に潜み、陰を狩る者だ……」
「シャドウガーデン。
……いい名ね」
だろ? 我ながら自分のネーミングセンスに惚れ惚れする完成度だ。
今日この瞬間、シャドウガーデンが設立され、世界の敵ヒトガミ教団が誕生した。
僕は陰の実力者への道程をまた一歩進んだのだ。
「ま、とりあえず魔力制御鍛えつつ、戦闘の訓練でもしますか。
メイン戦闘は僕がやるけど、君も雑魚戦はやってもらうからそれなりに強くなってね?」
「わかってる。敵は強大、戦力の底上げは必須ね」
「そうそう、そんな感じ」
「他にも、人神に虐げられた人を探し出して保護する必要もあるわね」
「え、あぁ、まぁほどほどにね」
陰の実力者プレイは複数でやった方が組織的っぽくて設定に深みが出るからいいんだけど、そんな沢山はいらないんだよな。
ぶっちゃけアルファと2人でも何一つ問題はない。
「ま、ひとまずは強くなることに集中しようか」
僕は木剣を構え、最近まで素人だったとは思えないほど鋭いアルファの剣を受け止める。
センスもいいし、魔力は十分、そこそこ使えそうだな。
月光の下、僕はそんなことを思いながら剣を振った。
ストックないのでその場で生産中してるのですが、正直いってパクリというかすげ替えてるだけなので申し訳ない。
ようやく次からオリ展開に入れます。
m(_ _)m
七陰、第6席ゼータは?
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ツンデレ
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ヤンデレ
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無表情系
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気弱系