陰の実力者になるために!   作:琴吹天音

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はじめてのおつかい

 

 時刻はもうそろそろ日が暮れようとしている頃。

 今にも沈もうとしている太陽の夕陽が窓から差し込み、部屋の中を照らす。

 凄まじく高価な品々で彩られた部屋に、二人の人間が居た。

 部屋の中にあるものはそのどれもが一級品。

 

 

 何気なく置いてあるペン、机、壁に掛けられた時計に名画。

 そのどれもこれもが莫大な価値を持つ、国宝級の代物だ。

 そんな部屋の中で、豪華な椅子に深く腰掛け、年代物のワインをグラスに注ぎゆっくりと口付ける。

 

 

 

 ______ああ、心が満たされる。

 

 

 もう日常のように行っている事だが、これからもどんどんこの部屋は豪華になっていくだろう事が手に取るように予測できるし、それら全てが僕が陰の実力者として積み上げてきたものの証になる。

 僕はこの為に生きていると言っても過言ではないね。

 

 

「と、言うわけで僕はロアに行く事になった」

「お使い? あなたが?」

「うん、家ではあくまでも普通の子供を演じているからね。

 そりゃこういう事もあるさ」

「それにしても、本当に無知って怖いわね」

「ああ、だからこそ知識が必要なわけさ」

 

 

 陰の実力者よモブであれ。

 という僕の信念に基づいて、僕は基本的には何の変哲もない子供として毎日を過ごしている。

 とは言っても最近は両親も外出や泊まりを許可してくれる事が多く、このアジトでアルファ達に稽古を付けている事が多い。

 

 

 今の所、剣士として一番強いのはデルタ、

 魔術ならイプシロン、

 なんでもありの戦いで最強なのは最古参のアルファといった感じだな。

 

 

 最近僕が教えている割合は魔術よりも剣術の方が多いので剣士と魔術師との間にはちょっとした差ができているんだよね。

 何故魔術の割合を少なくしているのかについてだが理由は2つある。

 

 

 実戦よりも魔術の知識を詰め込んだ方が手っ取り早く強くなれるからというのが一つ目。

 そしてもう一つが、この世界に限らず魔術戦というのは最終的に魔力量がものを言うからだ。

 

 

 しかも、その魔力量というのはある程度成長してからは簡単に伸ばせるものでは無い。

 魔力は子供の頃に使っていればいるほどに伸び、成長すればするほどその伸び代は減っていく。

 その為、生まれながらにして魔力量が決まっているなんて言う人もいる程だ。

 

 

 この世界ではどうやらその生まれながらにして魔力量が決まっているという誤った説が広まっているようだが、それは明らかに間違いだ。

 現に生まれた瞬間から毎日毎日魔力を枯渇し続けている僕の魔力量は、かなりの桁違いになっている。

 

 

 まあ、魔力量が少なくとも物凄い魔術を使う方法はもちろんある。

 だけど、その方法は教えてどうにかなるようなものではなく、日々の修練によって身に付けるしかない。

 原理は至って簡単で10の魔力を10の時間で出力するのでは無く、10の魔力を1の時間で出力するだけ。

 こうすればかなり魔力量の節約を行う事ができる上に、魔術の威力も、起動速度も段違いになってくる。

 

 

 魔力を節約して戦う。

 魔力をなるべく使わずに相手を倒す。

 この2点に重きを置くのならばより狭い範囲に、より短い時間で魔術を行使するべきだ。

 

 

 人を倒すのにプレス機でじわじわと押し潰す必要はまるで無い。

 拳銃で頭を撃ち抜くように、ピンポイントにエネルギーを集中させるだけでいいのだ。

 

 

 莫大な手札の組み合わせで相手の動きを封じ、極限まで研ぎ澄まされた必殺の一撃をもって相手を仕留める。

 これが僕の考え出したこの世界の魔術戦における最も効率のいい戦闘理論だ。

 その為に実戦をするのもいいんだけど、やっぱり魔術の知識を身に付けるのが一番早いんだよな。

 

 

 なんにせよ知識は力なりって事だ。

 

 

「で、ロアまで誰かと一緒に行こうと思ってるんだけど……」

「私が行くわ」

「ん、アルファが?」

「ええ、ちょうど今はやることも無いし、別に誰が行っても構わないのでしょう?」

 

 

 うーん、アルファか。

 いざと言う時の為に(主にデルタが暴れた時)アルファには残っていて欲しいんだけど、珍しい事に七陰全員とも一週間は遠出する予定が入っていないらしいので今回は連れて行ってもいいかな? 

 

 

 僕が頼まれているのはこの辺りでは手に入れる事が難しい薬品や調味料の買い出しだ。

 ここからロアまで馬車で行けばだいたい1日くらいだから、向こうで一泊か二泊して、ここまで戻ってくるとなれば3、4日といったところ。

 ここ最近は色々と忙しかったし、都会でお店を巡ったりするのはいい気晴らしになるだろう。

 

 

「よし、じゃあ久しぶりに二人で遊びに行こうか」

「え、ええ。

 楽しみにしているわ」

「それにしても、アルファと二人きりか……。

 かなり久しぶりだな」

 

 

 初めは何をするのもアルファと二人きりだった。

 このアジトを作るのも、

 遺跡を探索して意味深に『なるほど……』とかいうのも、

 敵を倒して意味深に嗤うのも、

 初めはアルファと二人で始めた事だ。

 

 

 それからすぐにベータが来て、ガンマが来て、デルタが来てとシャドウガーデンはあっという間に賑やかになっていった。

 今思えばアルファにはずっと何かをしてもらっていた気がするし、まともな休暇の機会なんてまるでなかったんじゃないだろうか? 

 

 

 んあ? 

 

 

 そういえば任務の無い日も僕と一緒に修行漬けの日々だったし、ガチで休暇という休暇なんてなかったんじゃないか? 

 …………これ、ひょっとすると超ブラックなんじゃないか? 

 

 

 危ない危ない。

 危うく影の組織では無く、黒の組織になる所だった。

 いや、黒の組織も名前的にはカッコいいから悪くは無いんだけど、働き詰めなのは本当にヤバい。

 このままだと将来になって今の働き方が間違っていると気付いた時、僕の株が暴落するのは目に見えているし何かしらの対策を今すぐ取った方がいいだろう。

 

 

 こんな事にすら気が付かないなんて陰の実力者としてはまだまだだ。

 忙しい頃ならともかく、シャドウガーデンもかなり安定してきたし、とりあえずさっさと完全週休二日制を導入しておくべきだろう。

 

 

「それで、出発はいつにするの?」

「明日の朝とかでどう? 

 速い馬車があればだけど、明日の朝行けばちょうど夜になる頃には着けるだろうし」

 

 

 別に今日これから行ってもいいんだけど、ロア行きの馬車は朝と昼にしか出ていないのでその場合には走っていく事になる。

 もちろん馬車に乗るよりも走った方がそりゃあ速いんだけど、せっかくの休日なのにロアまで走っていくのは本末転倒だと思う。

 将来仕事をしたくないが為に仕事をする様なものだ。

 

 

「という事は向こうで二泊するのかしら?」

「まあ、そうなるな」

「分かったわ。

 それじゃ、私は明日の為に準備をしてくるわね」

「ああ、ちょっと待った」

 

 

 危ない。

 つい流れで言い忘れるところだった。

 

 

「あら何かしら?」

「シャドウガーデンの働き方について少しな。

 もう人数も増えて来たし、組織も安定したんだから完全週休二日制を採用しようと思う」

「……完全週休二日制?」

「ふむ、知らないか……、

 ならば教えてやろう、最も効率よく人を使う陰の叡智の力を。

 休息を操り、周期的な生活を促す事で人を支配する術を……」

 

 

 ぶわっとコートをはためかせ、仮面に手を当てて僕は言った。

 別に完全週休二日制なんて前世では普通の知識だったのだけども、この世界ではそもそも一週間という概念がない。

 

 

 年に何年かの祝日はこの世界にもあるようだけど、曜日という概念はないんだよな。

 まずはそこから説明するべきだろう。

 とは言ってもこの世界にはキリスト教なんて存在しないので適当な科学的説明をでっち上げる。

 

 

 それから僕はそれっぽい如何にもな感じで、アルファに働き方についての知識を語る。

 なるべくカッコよく、地球でしか伝わらない言葉はこの世界のものに改変しながら昔教育番組で見た内容を語る。

 こう言うのを語る時には他の七陰も一緒に居る事が多いので、アルファと二人きりで彼女に何かを教えるというのは2年ぶりくらいかもしれない。

 

 

 僕はこの時間が好きだ。

 アルファも「すごい……」とか「なるほど……」とか言って歳相応に楽しそうに聞いてくれるし、僕もこうしてカッコよく語るのはそれなりに楽しい。

 

 

 それから、なんやかんやで株式会社の制度とか資本主義について色々と語ることになったけど、結果として完全週休二日制をしっかりと適応していくことに決まった。

 これでまた陰の実力者に一歩近付いたぜ。

 

 

 






滑り込めセーフ!


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これからも精進致しますm(*_ _)m


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